(平成28年3月3日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、不動産所得の金額の計算上、土地の新たな貸付けに当たり、当該土地の上に存する建物の解体及び当該土地の造成等に係る費用の額を必要経費に算入し、また、分離長期譲渡所得の金額の計算上、譲渡した建物について、1取得価額は、国税庁ホームページに掲載されている「建物の標準的な建築価額」を基に算定し、2改良費は、請求人がその全額を支払ったことから、改良費の全額を基に算定して所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、不動産所得の金額の計算については、これらの工事に係る費用は家事上の経費又は土地の取得費に算入されるべきであるからいずれも必要経費に算入することができないとして、分離長期譲渡所得の金額の計算については、1当該建物は請求人の母が居住用財産の買換えの特例を適用して取得した買換資産であるから、当該建物が引き継いだ取得価額を基に算定すべきであり、2当該改良費は、当該建物は共有であるから共有持分に応じた金額を基に算定すべきであるなどとして、所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、当該各処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

本審査請求(平成26年8月22日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 以下、請求人がした平成24年分の所得税の確定申告を「本件申告」といい、平成26年6月30日付でされた平成24年分の所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を、それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。

(3)関係法令等の要旨

関係法令等の要旨は、別紙2のとおりである。

(4)基礎事実

以下の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。

イ 請求人等について
 請求人は、P2(以下「母P2」という。)とP3(以下「父P3」という。)との間の子であり、平成○年10月○日から、K社の代表取締役である。
 K社は、昭和○年10月○日、各種自動車の修理及び販売等を目的として設立され、請求人の親族グループで発行済株式の総数の全てを有する同族会社(法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社をいう。)である。

ロ 不動産所得について

(イ)K社に対する貸付けの経緯について
 母P2は、生前、K社に対してd市f町○−○の土地(以下「本件土地A」という。)及び同土地上の工場建物(以下「本件f建物」という。)を貸し付けていたところ、母P2が平成○年○月○日に死亡したため、請求人は本件土地Aの持分2分の1及び本件f建物を相続により取得した。なお、本件土地Aの持分の残りの2分の1は父P3が取得した。次いで、父P3が平成○年○月○日に死亡したため、請求人が父P3の本件土地Aの共有持分2分の1を相続により取得した。請求人は、上記各相続により、K社に対する賃貸人の地位を引き継いだ。

(ロ)○○店舗用地としての貸付けに至る経緯について

A 請求人は、平成23年12月19日付で、L社と、事業用定期借地権設定契約のための覚書(以下「本件覚書」という。)を取り交わした。本件覚書の要旨は別紙3のとおりであり(なお、略称等は本文中の例による。)、請求人が、本件土地Aに隣接するd市f町○−○の土地(以下「本件土地B」といい、本件土地Aと併せて「本件f土地」という。)を購入することなどを条件に、本件f建物の解体及び本件f土地の造成をし、L社に店舗用地として貸し付けることを約するというものである。

B 請求人は、上記Aの解体及び造成に関し、平成23年12月19日、M社との間で、同社が、概要別表2の見積書(以下「本件見積書」という。)記載のとおりの本件f建物の解体工事(同表の順号1。以下「本件解体工事」という。)及び本件f土地に係る造成等工事(同表の順号2ないし5。以下「本件造成等工事」といい、本件解体工事と併せて「本件工事」という。)を代金18,100,000円で請け負う旨の請負契約を締結した。
 なお、当該請負契約に係る契約書において、工期は平成24年6月1日(予定)から同年8月1日(予定)までとされ、本件見積書の見積条件欄には、本件工事はL社の建築工事概要書(平成23年11月14日付)の「貸主計」欄の工事項目(別に雑工事を含む。)に基づくもので、請求人から金額の増減精算はできない旨が記載されていた。

C 請求人は、平成24年2月14日付で、本件土地Bの所有者であったN社との間で売買契約を締結し、同年5月8日、同社から本件土地Bを取得した。

D 請求人とL社は、平成24年5月28日、本件覚書記載の内容に基づき、公正証書により事業用定期借地権設定契約(以下「本件借地権設定契約」という。別紙3参照)を締結した。これにより、本件f土地の賃貸借期間は、平成24年6月1日から20年間とされた。

E 請求人は、平成24年6月1日、L社から、本件借地権設定契約で定められた賃料1か月分○○○○円、保証金16,900,000円、敷金3,000,000円及び礼金○○○○円のうち、既払の1,000,000円を除いた21,300,000円の支払を受けた。

F 請求人は、平成24年6月7日、本件工事の代金のうち、既払の1,000,000円を除いた残金17,100,000円をM社に支払った。なお、請求人の代理人であり、原処分調査において関与税理士であったP4税理士は、平成26年3月5日、原処分庁所属の調査担当職員に対し、本件工事が平成23年12月27日から平成24年6月7日まで行われ、本件工事の完了に伴い上記残金を支払った旨を申述している。

(ハ)本件申告における不動産所得の金額の計算について
 請求人は、本件申告において、不動産所得の金額の計算上、本件f土地の賃料等収入○○○○円(本件f土地の平成24年6月から同年12月までの賃料合計○○○○円及び礼金○○○○円)を総収入金額に算入する一方、租税公課○○○○円のほか本件工事に係る各費用の合計額18,100,000円を必要経費に算入した。

ハ 分離長期譲渡所得について

(イ)譲渡した土地及び建物について
 請求人及び請求人の妹であるP5(以下「妹P5」という。)は、平成23年12月12日付で、Q社との間で、同社に対し、別表3記載の各土地(以下「本件g土地」という。)及び建物(以下「本件g建物」といい、本件g土地と併せて「本件g土地建物」という。)を代金○○○○円とする約定で売買契約を締結し、同契約に基づき、平成24年5月8日、本件g土地建物を譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。

(ロ)本件g土地建物の取得について

A 本件g土地は、母P2が、昭和36年から昭和48年までの間に、数回に分けて取得したものであるところ、父P3は、平成○年○月○日、本件g土地を母P2からの相続により取得し、さらに、請求人及び妹P5は、平成○年○月○日、本件g土地の持分各2分の1を、父P3からの相続によりそれぞれ取得した。

B 本件g建物は、平成9年11月12日に父P3を所有者とする所有権保存登記がされ、父P3は、平成13年5月7日、本件g建物の持分100分の4を請求人に贈与し、さらに、請求人及び妹P5は、平成○年○月○日、本件g建物の持分各100分の48を、父P3からの相続によりそれぞれ取得した。
 よって、本件譲渡時において、請求人は本件g建物の持分100分の52(以下「本件建物持分」という。)を、妹P5は本件g建物の持分100分の48をそれぞれ所有していた。

(ハ)本件g建物の改修工事について
 R社は、本件g建物について、請求人を施主とする、1階玄関、台所、居間、応接間、寝室及び2階居間の改修工事(以下「本件g建物工事」という。)を、平成13年4月25日から同年6月10日にかけて行った。当該工事の工事費(以下「本件g建物改良費」という。)は12,810,000円であった。
 なお、本件g建物改良費は、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項に規定する改良費に該当する。

(ニ)本件申告における譲渡所得の金額の計算について
 請求人は、本件申告において、分離長期譲渡所得の金額の計算上控除する取得費について、1本件g建物の取得価額については「建物の標準的な建築価額」により算出した金額から所得税法第38条第2項第2号に規定する減価の額(以下「減価償却費」という。)を控除した額に本件建物持分の割合を乗じた金額により、また、2本件g建物改良費についてはその全額から減価償却費を控除した金額により、計算していた。

ニ 本件更正処分について
 原処分庁は、主に以下のとおりの理由により、本件更正処分を行った。

(イ)不動産所得の金額の計算上、本件解体工事に係る費用は家事上の経費に該当し、本件造成等工事に係る費用は土地の取得費に該当するから、いずれも必要経費に算入できない。

(ロ)分離長期譲渡所得の金額の計算上、1本件g建物の取得価額は、母P2が昭和62年分の所得税の確定申告において、租税特別措置法(昭和63年法律第4号による改正前のものをいい、以下「旧措置法」という。)第36条の2《居住用財産の買換えの場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用し本件g建物を同項に規定する買換資産(以下「買換資産」という。)として申告していることを理由に、旧措置法第36条の4《買換えに係る居住用財産の譲渡の場合の取得価額の計算等》第1項の規定により計算した当該建物が引き継いだ価額とすべきであり、2本件g建物改良費については、その全額ではなく、本件g建物改良費に本件建物持分を乗じた金額を基に計算すべきである。

ホ 原処分庁が本審査請求において主張する分離長期譲渡所得の金額について
 原処分庁は、本審査請求において、分離長期譲渡所得の金額を○○○○円と主張しており、これは、本件g建物の取得費のうちの登記費用の計算上、本件建物持分の割合(100分の52)を乗じていたものを、請求人と妹P5の相続分が同じであること(いずれも100分の48)を前提に、2分の1を乗じるなどと改めるなどしたためである。

ヘ 請求人が本審査請求において主張する所得の金額について
 請求人が本審査請求において主張する所得の金額は、別表1の「審査請求」欄のとおりであり、請求人は、上記ニの(イ)に係る不動産所得の金額並びに同(ロ)の1及び2に係る分離長期譲渡所得の金額についてのみ争っており、その他の部分については争っていない。

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2 争点

(1)本件工事に係る各費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきか否か(争点1)。

(2)母P2は、本件g建物を買換資産として本件特例の適用を受けていたか否か(争点2)。

(3)分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件g建物改良費(減価償却費を控除した後の金額)の全額を控除することができるか(争点3)。

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3 争点1(本件工事に係る各費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきか否か。)について

(1)主張

原処分庁 請求人
以下のとおり、本件工事に係る各費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。 以下のとおり、本件工事に係る各費用は、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

イ 本件解体工事に係る費用
 所得税法第37条《必要経費》第1項は、「不動産所得を生ずべき業務について生じた費用の額」を必要経費に算入する旨定めているところ、対価を伴わない使用貸借の場合、使用貸借の対象となった不動産は、不動産所得を生ずべき業務の用に供された資産とはいえないから、当該不動産に係る費用は不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に該当しない。
 そして、請求人は、平成21年12月から本件f建物を解体するまでの間、当該建物をK社に無償で貸しており、使用貸借の対象であったから、本件解体工事に係る費用は、不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に当たらず、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

ロ 本件造成等工事に係る費用
 本件造成等工事に係る費用は、所得税法第38条第1項に規定する「改良費」に該当し、本件f土地の取得費に算入すべきものであるから、請求人の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 なお、仮に、本件造成等工事に係る費用に本件f土地の改良費に該当しないものがあるとしても、それは、本件解体工事に伴う費用ないしこれに付随する費用であると認められるから、上記イと同じ理由により、不動産所得の必要経費に算入することはできない。

イ 請求人は、本件借地権設定契約に基づき、本件工事を行わなければ本件f土地を相手側に引き渡して不動産収入を得ることができなかったのであるから、本件工事に係る各費用は、費用収益対応の原則により、その全額が、所得税法第37条第1項に規定する不動産所得等の「総収入金額を得るため直接に要した費用の額」に該当する。

ロ 仮に、本件工事に係る各費用が、所得税法第37条第1項に規定する不動産所得等の「総収入金額を得るため直接に要した費用の額」に該当しないとしても、開業費の償却費として、同項に規定する「販売費、一般管理費その他これらの所得(不動産所得)を生ずべき業務について生じた費用の額」に該当する。
 すなわち、本件工事に係る各費用は、不動産所得を生ずべき業務に関し支出する費用でその支出の効果が1年以上に及ぶものであり、その業務を開始する前に特別に支出した費用であるから、所得税法施行令第7条《繰延資産の範囲》第1項第1号に規定する開業費に該当し、同施行令第137条《繰延資産の償却費の計算》第3項に規定するいわゆる任意償却を適用することにより、その全額を償却費として必要経費に算入することができる。

(2)判断

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ)本件f建物及び本件土地AのK社への貸付けの状況等について

A 母P2は、平成6年10月1日付で、同族会社であるK社との間で本件f建物及び本件土地Aに係る賃貸借契約を書面により締結したところ、請求人は、この契約上の地位を相続により承継した貸主である(上記1の(4)のロの(イ))一方、借主であるK社の代表取締役の地位にもあり(同イ)、平成9年以降の賃料の金額等の変更は書面によらずに行っていた。

B K社の法人税の各確定申告書及び会計帳簿書類等に記載された請求人及び父P3に対する本件f建物及び本件土地Aの地代家賃につき、平成18年9月ないし平成20年10月までは各月50万円、平成20年11月ないし平成21年11月までは各月25万円が費用計上されているが、平成21年12月以降の計上はない。一方、請求人及び父P3は、上記地代家賃につき平成21年11月分までは不動産所得として確定申告しているが、請求人の単独所有となった平成21年12月分以降の地代家賃の申告はない。
 これらの状況からすれば、平成21年12月以降、請求人とK社との間では賃料の授受がなかったものと認められる。

C 請求人は、上記BのとおりK社から地代家賃の支払がないにもかかわらず、賃料の授受がなくなった後も、同社が平成24年2月21日に本件f建物を立ち退くまでの間、従前のとおり本件f建物及び本件土地Aを引き続き使用収益させていた。

D 以上のAないしCの事実を併せれば、請求人とK社との間で、平成21年12月以降においては、賃貸借契約の継続を前提に単に賃料の支払が免除されていたのではなく、平成21年12月、賃貸借契約を解除するとともに、以後は本件f建物及び本件土地Aを無償でK社に使用収益させる旨の黙示の合意をしたこと、すなわち民法第593条《使用貸借》に規定する使用貸借契約が成立したことが認められる。

(ロ)本件工事について

上記1の(4)のロの(ロ)のBのL社の建築工事概要書及び本件見積書並びにM社に対する当審判所の調査の結果によれば、本件工事は、本件f建物の解体からL社店舗建築までの一連の工事のうち、次のAないしDの各工事であった。また、本件工事は、平成24年5月8日に本件土地BがN社から請求人に引き渡された(上記1の(4)のロの(ロ)のC)後、同年8月1日まで行われ、同年7月2日からは、本件工事と並行して、当該建築工事概要書においてL社が行うこととされている駐車場工事及び店舗建築工事が始まり、同年8月27日に店舗が完成し、同月○日にL社○○店が開店した。

A 本件解体工事(別表2の順号1)
 本件f建物を解体・撤去した工事である。

B 外構工事・造成工事(別表2の順号2及び3)

(A)本件f土地は自動車整備工場用地として使用されており、掘下式ピットのために土地が掘り下げられている部分が複数箇所あった。外構工事及び造成工事は、本件f土地についてL社の決めた高さを超える部分を切り取り、この切り取った部分の土(400m3)を残土として処分し、その後、新たに良質土を搬入し、ピットの掘下げ箇所の埋戻しを行った上、本件f土地全体について地盤面の凹凸を平らにし整地を行ったものである(以下、これらの工事を「本件外構造成工事」という。)。

(B)また、本件f土地に接道するh県道○号○線(以下「本件県道」という。)からみて奥側の隣接地との境界にあったコンクリートブロックについて、約20mにわたり最上段の古いものを撤去し、従前と同様のコンクリートブロックを積み直した(以下、この工事を「本件土留め工事」という。)。

C 乗入・側溝改修工事(別表2の順号4)
 本件f土地には、既に本件土地A及び本件土地Bに係る車両用出入口として本件県道の歩道に切下げ箇所があった。
 乗入・側溝改修工事は、請求人自らが所有する土地に係る工事ではなく本件県道の歩道部分に係る工事であり、具体的には、1歩道に車両用出入口を新設する工事(道路工事施工の承認申請を県等に行い、工事の承認を受けて自費で行う歩道の切下げ工事)、2上記1の出入口の新設に伴い本件土地Bに係る既存の切下げ部分を埋め戻し復旧する工事、3歩道の新設切下げ工事及び復旧工事に伴う街路樹移設工事、植栽帯移設工事及び大型交通標識移設工事である(以下、1から3の工事を併せて「本件乗入側溝改修工事」という。)。
 なお、本件乗入側溝改修工事は、本件造成等工事の最終段階に行われたものであり、本件外構造成工事の工事用車両の進入等のために行われたものではない。

D 雑工事(別表2の順号5)

(A)本件f建物及び隣地の工場建物が相互に越境していたところ、本件f建物の取壊しを機に隣地との境界線を明確にし、これを越えて建っていた隣地の工場建物の一部を減築し壁面を隣地側に移した上、当該工場建物の外壁の塗装や張替えを行った(以下、この工事を「本件境界等整備」という。)。

(B)また、自動車修理工場で使用していたバッテリー液、オイル及び廃油等の本件f土地の地中への染み出しの有無について土壌汚染調査をしたが(以下、この調査を「本件土壌汚染調査」といい、本件境界等整備と併せて「本件雑工事」という。)、土壌汚染はなかった。

ロ 本件解体工事に係る費用についての検討

(イ)法令解釈

A 所得税法第37条第1項は、その年分の不動産所得、事業所得又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定しているところ、同項に規定する「その年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用」とは、これらの所得を生ずべき業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものに限られると解される。そして、その判断は、単に当該業務を行う者の主観的判断によるのではなく、当該業務の内容等個別具体的な諸事情に即して社会通念に従って客観的に行われるべきである。

B 所得税法第26条《不動産所得》第1項に規定する不動産等の貸付けによる所得とは、当事者の一方が相手方から不動産等を使用収益させて、その対価を得ることを目的とする行為から生ずる所得をいうものと解されるから、所得税法における「不動産所得を生ずべき業務」とは、不動産等の貸付けによる所得を生ずべき業務、すなわち、対価を得ることを目的とする不動産の貸付けをいうものであり、対価を伴わない使用貸借は、「不動産所得を生ずべき業務」に該当しないと解するのが相当である。

(ロ)検討と当てはめ

A 建物賃貸業においては、建物の取得、賃借人の募集、賃借人への貸付け及び建物の取壊し・廃棄までが業務の一連の流れであって、建物の取壊し費用は、建物賃貸業を行う上で通常発生する費用であるといえることに加え、賃貸借期間中に業務用資産である建物の取壊し・廃棄を行うことは不可能であることからすると、当該建物が家事用に転用されたなどの事情がない限り、賃貸借契約終了後の建物の取壊し・廃棄は、いわば建物に係る貸付業務の残務処理的な行為であるというべきである。そうすると、賃貸借契約終了後、速やかに行われた賃貸用建物の取壊しは、当該建物に係る貸付業務の残務処理的な行為であり、その取壊し費用は、当該建物に係る貸付業務と直接関係し、かつ、当該業務の遂行上必要なものとして、必要経費に該当すると解するのが相当である。
 したがって、取り壊した建物が貸付業務に供されていた業務用資産である場合において、その取壊しが賃貸借契約終了後、速やかに行われ、当該建物に係る貸付業務の残務処理的な行為と認められる場合には、当該取壊し後の敷地の利用目的にかかわらず、当該取壊しに要した費用は必要経費に該当することになる。
 この点に関しては、賃貸等の業務の用に供しない建物についても、その取得から使用、取壊し・廃棄までが一連の流れであることに変わりはなく、これを業務用資産と異なるように解すべき理由は見当たらない。そうすると、当該建物の取壊しは、業務の用に供されていない資産を任意に処分する行為にすぎないから、当該取壊し後の敷地の利用目的にかかわらず、当該取壊しに要する費用は、非業務用資産の処分に要する費用すなわち所得税法第45条《家事関連費等の必要経費不算入等》第1項第1号に規定する家事上の経費(以下「家事費」という。)であって、これを必要経費に算入することはできないと解するのが相当である。

B これを本件についてみると、上記イの(イ)のとおり、本件f建物は、平成21年11月末までは賃貸の用に供されていたものの、同年12月以降は、使用貸借契約に基づき、K社が無償でこれを使用していたのであって、賃貸の用に供されていない。
 そうすると、平成21年12月以降における本件f建物は、不動産所得を生ずべき業務の用に供されていない非業務用資産に該当し、その取壊しは、業務の用に供されていない資産を任意に処分する行為にすぎないことになるから、当該取壊し後の敷地の利用目的にかかわらず、本件解体工事に係る費用は、非業務用資産の処分に要する費用すなわち家事費であって、これを不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。

ハ 本件造成等工事に係る費用についての検討

(イ)本件外構造成工事及び本件土留め工事に係る各費用

A 法令解釈
 所得税法第38条第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定し、所得税法施行令第181条《資本的支出》は、不動産所得を生ずべき業務の用に供する固定資産について支出する金額のうち、その支出により、当該資産の取得の時において当該資産につき通常の管理又は修理をするものとした場合に予測されるその支出の時における当該資産の価額を増加させる部分に対応する金額は、不動産所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。この場合において、当該資産が土地であれば、その価額を増加させる部分に対応する金額は改良費として土地の取得費に算入されるところ、所得税基本通達38−10《土地についてした防壁、石垣積み等の費用》は、土地の取得費に該当する費用として、埋立て、土盛り、地ならし、切土、防壁工事その他土地の造成又は改良のために要した費用を例示した上で、土地についてした防壁、石垣積み等であっても、その規模、構造等からみて土地と区分して構築物とすることが適当と認められるものの費用の額は、土地の取得費に算入しないで、構築物の取得費とすることができるとし、また、専ら建物、構築物等の建設のために行う地質調査、地盤強化、地盛り、特殊な切土等土地の改良のためのものでない工事に要した費用の額は、当該建物、構築物等の取得費に算入する旨定めており、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。

B 当てはめ
 これを本件についてみると、本件外構造成工事は、上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、本件f土地の掘削・切下げ、これに伴う残土の処分、埋戻し及び整地をしたものであり、これらは、本件f土地の形質を変更し改良する工事と認められるので、当該工事に要した費用は、土地の改良費(資本的支出)に該当し、本件f土地の取得費に算入されるべきものである。したがって、本件外構造成工事に係る費用を、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入することはできない。
 一方、本件土留め工事は、上記イの(ロ)のBの(B)のとおり、隣接地との境界のコンクリートブロックの一部の撤去及び積直しをしたものにすぎず、新たな土留めの設置や耐久性の高い資材への変更をしたものではなく、本件f土地を改良したり、その価額を増加させるための工事であるとは認められない。そして、本件f土地の貸付けに関しては、上記1の(4)のロの(ロ)のとおりの経緯を経て、平成24年6月1日から本件借地権設定契約に基づく賃貸借期間が開始して賃料が発生しており、また、本件借地権設定契約の内容をみると、同契約締結後に本件工事を行うことを予定しているものと解されること(第5条、別紙3の3)からすれば、請求人の不動産所得を生ずべき業務は同日から開始されたものと認められる。そうすると、本件工事が完了した平成24年8月1日には、請求人は既に不動産所得を生ずべき業務を行っていることから、本件土留め工事に要した費用は、請求人の不動産所得を生ずべき業務について生じた費用に該当し、通常の管理又は修理に係る修繕費等に係る費用として、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

(ロ)本件乗入側溝改修工事に係る費用

A 法令解釈
 所得税法施行令第7条第1項第3号は、自己が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用は繰延資産に該当する旨規定し、所得税基本通達2−24《公共的施設の設置又は改良のために支出する費用》の(1)は、その前段において、自己の必要に基づいて行う道路、堤防、護岸、その他の施設又は工作物の設置又は改良のために要する費用がこれに該当することを明らかにしており、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。

B 当てはめ
 これを本件についてみると、本件乗入側溝改修工事は、上記イの(ロ)のCのとおり、請求人自らが所有する土地に係る工事ではなく、本件県道の歩道部分に係る切下げ工事、復旧工事及びこれらに伴う街路樹等移設工事である。
 そして、本件乗入側溝改修工事は、本件借地権設定契約において、請求人が当該工事を行った上で本件f土地をL社に引き渡すこととされており(第5条、別紙3の3)、請求人は、本件乗入側溝改修工事を行うことにより本件借地権設定契約に基づき賃料を取得するという便益を受けることが認められ、その効果は、本件乗入側溝改修工事に係る費用の支出の日以後1年以上に及ぶものである。
 これらのことからすると、本件乗入側溝改修工事に係る費用は、請求人が不動産所得を生ずべき業務に関し支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものであり、請求人が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用に該当し、また、資産の取得に要した金額とされる費用又は前払費用に該当するものではないことから、繰延資産に該当する。
 なお、本件乗入側溝改修工事には、街路樹移設工事、植栽帯移設工事及び大型交通標識移設工事が含まれているものの、これは、歩道の切下げ工事等に伴って街路樹等を移設したものであるから、これを切り離して独立の工事としてみるべきではなく、歩道の切下げ工事等と一体のものとして繰延資産に該当すると解するのが相当である。
 以上によれば、本件乗入側溝改修工事に係る費用は繰延資産に該当し、その償却費は、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

(ハ)本件雑工事に係る費用について

A 本件境界等整備に係る費用
 本件境界等整備は、本件借地権設定契約に定められた、本件f土地の引渡しまでに隣地等の境界線を確認した上で請求人がL社にこれを明示し、境界等について苦情や紛争が起こった時は請求人が解決しなければならない(第14条、別紙3の9)との条項を踏まえて、上記イの(ロ)のDの(A)のとおり、請求人が、本件f建物の取壊しを機に隣地との境界線を明確にし、隣地の工場建物の一部の減築、外壁の塗装工事及び張替え工事を行ったものであると認められる。
 これらの工事等の内容からすると、本件境界等整備は、本件f土地を改良するものではないし、その価額を増加させるものでもないが、本件借地権設定契約を履行するために必要なものと認められる。
 そうすると、本件境界等整備に係る費用は、本件f土地の貸付けに係る業務と直接関係し、当該業務の遂行上必要なものと認められるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

B 本件土壌汚染調査に係る費用
 本件土壌汚染調査は、上記イの(ロ)のDの(B)のとおり、本件f土地のうちの本件土地Aにつき、長年にわたって自動車修理工場の敷地として使用されてきたことにより土壌に有毒な物質が含まれることが危惧されたことから、土壌汚染の有無を調査したものである。
 本件土壌汚染調査の結果、土壌汚染の事実はないことが確認されたものの、本件土壌汚染調査は、本件f土地を改良するものではないし、その価額を増加させるものでもない。
 そして、本件土壌汚染調査が本件f土地の貸付けに当たって行われたものであることからすると、本件土壌汚染調査に係る費用は、本件f土地の貸付けに係る業務と直接関係し、当該業務の遂行上必要なものと認められるから、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである。

ニ 小括
 上記ロ及びハのとおりであるから、本件工事に係る各費用のうち、本件土留め工事に係る費用、本件乗入側溝改修工事に係る費用で繰延資産の償却費とされるべき金額及び本件雑工事に係る費用については不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきであり、それ以外の部分(本件解体工事に係る費用、本件外構造成工事に係る費用及び本件乗入側溝改修工事に係る費用で繰延資産の償却費とされるべき金額を超える部分)の金額は必要経費に算入することはできない。そうすると、本件工事に係る各費用のうち平成24年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、次の(イ)及び(ロ)の合計額1,655,501円となる。

(イ)繰延資産の償却費
 繰延資産の償却費として不動産所得の金額の計算上必要経費に算入する金額は、所得税法施行令第137条第1項第2号により、その繰延資産の額をその繰延資産となる費用の支出の効果の及ぶ期間の月数で除し、これに同項第1号に規定する不動産所得を生ずべき業務を行っていた期間の月数を乗じて計算した金額となる。
 この支出の効果の及ぶ期間について、所得税基本通達50−3《繰延資産の償却期間》は、所得税法施行令第7条第1項第3号イに規定する「公共的施設の設置又は改良のために支出する費用」について、その施設又は工作物がその負担をした者に専ら使用されるものである場合は、その施設又は工作物の耐用年数の70%に相当する年数と定め、それ以外の場合は、その施設又は工作物の耐用年数の40%に相当する年数と定めているところ、この支出の効果の及ぶ期間に関する具体的な定めは、当該費用を負担した者がその施設又は工作物についての所有権を有していないこと、その施設又は工作物の使用頻度の可能性などを考慮しようとするものであり、この取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
 そこで、同通達の定めにより本件乗入側溝改修工事に係る費用の支出の効果の及ぶ期間を計算すると、1当該工事は、切下げ工事等の後アスファルト敷設工事が行われたものと認められるから、減価償却資産の耐用年数等に関する省令別表第一の「構築物」の「舗装道路及び舗装路面」の「アスファルト敷又は木れんが敷のもの」の10年を基礎とし、2上記切下げ工事に係る歩道が一般公衆に利用されるものであり専ら請求人が使用する場合には該当しないから、その40%に相当する年数である4年(48か月)となる。
 そして、本件乗入側溝改修工事は、平成24年8月中に完了し、実際にL社○○店が営業を開始した同月○日から一般の車両の乗り入れが始まったと認められるから、平成24年中の業務期間は5か月となる。
 したがって、平成24年分において繰延資産の償却費として不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別表5−1のとおり219,284円となる。

(ロ)本件土留め工事及び本件雑工事に係る各費用
 本件土留め工事及び本件雑工事に係る各費用については、1本件土留め工事に係る費用220,000円(税抜き)及び当該費用に0.05を乗じて算出した消費税等相当額11,000円、並びに、2本件雑工事に係る費用1,147,826円(税抜き)及び当該費用に0.05を乗じて1円未満の端数を切り捨てて算出した消費税等相当額57,391円の合計額1,436,217円が、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額となる。

ホ 原処分庁の主張について
 原処分庁は、本件造成等工事に係る費用は、土地の取得費に算入すべきもの(これに該当しない場合は本件解体工事に伴う費用ないしこれに付随する費用)であるから必要経費に算入することはできない旨主張する。
 しかしながら、平成24年分の不動産所得の金額の計算上、本件土留め工事に係る費用及び本件雑工事に係る費用は必要経費に算入し、本件乗入側溝改修工事に係る費用は繰延資産に該当しその償却費を必要経費に算入すべきであることは上記ニのとおりであるから、原処分庁のこの部分の主張については理由がない。

ヘ 請求人の主張について

(イ)請求人は、上記(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件借地権設定契約に基づき、本件工事を行わなければ本件f土地を相手側に引き渡して不動産収入を得ることができなかったのであるから、本件工事に係る各費用の額は、費用収益対応の原則により、その全額が、所得税法第37条第1項に規定する不動産所得等の「総収入金額を得るため直接に要した費用の額」に該当し必要経費に算入すべき旨主張する。
 しかしながら、本件解体工事は不動産所得を生ずべき業務の用に供していない資産を任意に処分する行為にすぎず、当該工事に係る費用が非業務用資産の処分に要する費用すなわち家事費であってこれを必要経費に算入することができないことは上記ロの(ロ)のBのとおりであり、また、本件造成等工事に係る費用のうち本件外構造成工事に係る費用及び本件乗入側溝改修工事に係る費用で繰延資産の償却費とされるべき金額を超える部分の金額について必要経費に算入できないことは上記ハの(イ)のB及び同(ロ)のBのとおりである。
 したがって、本件工事に係る各費用のうち、必要経費に算入される部分以外の部分に係る請求人の主張には理由がない。

(ロ)また、請求人は、上記(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件工事に係る各費用は、不動産所得を生ずべき業務(本件f土地の貸付業務)に関し支出する費用でその支出の効果が1年以上に及ぶものであり、その業務を開始する前に特別に支出した費用であるから、繰延資産とすべき開業費に該当する旨主張する。
 しかしながら、上記ロの(ロ)のB並びに上記ハの(イ)のB及び同(ロ)のBのとおり、本件解体工事に係る費用は家事費に、本件外構造成工事に係る費用は土地の取得費に、本件乗入側溝改修工事に係る費用は繰延資産にそれぞれ該当し、また、上記ハの(イ)のB及び同(ハ)のとおり、本件土留め工事及び本件雑工事に係る費用については、本件f土地の貸付けに係る不動産所得を生ずべき業務について生じた費用であって、開業準備のために特別に支出する費用には該当しないから、平成24年分の不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべきものである。したがって、本件工事に係る各費用は開業費に当たらず、請求人の主張には理由がない。

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4 争点2(母P2は、本件g建物を買換資産として本件特例の適用を受けていたか否か。)について

(1)主張

原処分庁 請求人

以下のとおり、母P2は、本件g建物を買換資産として本件特例の適用を受けていたと認められる。

イ 「取得価額引継整理票」は、本件特例等の税法に規定する譲渡所得の課税の繰延べに係る特例の適用を受け、譲渡資産の取得価額等が引き継がれた場合、その引き継がれた取得価額等を明らかにし、じ後における譲渡所得等の計算の資料とするために、納税者が提出した譲渡所得計算明細書等を基に、税務署の職員によって、譲渡所得の課税の繰延べに係る特例の規定の適用を受けた者について作成されるものである。

ロ 本件においては、特例適用者を母P2、特例適用条文を旧措置法第36条の2などと記載した取得価額引継整理票(以下「本件整理票」という。)が作成されている。
 本件整理票に譲渡資産の具体的な内容及び本件特例の適用条文が記載されていることは、母P2が、昭和62年分の譲渡所得の申告に当たって、原処分庁に対し、本件特例を適用する旨及び本件整理票に記載された譲渡資産を譲渡資産とし、本件g建物を買換資産とする旨を記載した譲渡所得計算明細書等を提出したこと、そして、それらの書類に基づき、原処分庁所属の職員が本件整理票を作成したことを強く推認させる。したがって、母P2は、昭和62年分の所得税の確定申告書を原処分庁に提出し、同年分の譲渡所得について本件特例の適用を受けたものと認められる。

ハ 「請求人」欄のハの(イ)ないし(リ)の主張については、以下のとおりであり、本件整理票そのものの信ぴょう性が欠如しているとは認められない。

(イ)「請求人」欄のハの(イ)の譲渡者(特例適用者)の氏名が請求人となっていることについては、所有者の異動事績を把握した場合、取得価額引継整理票にその旨を記載する必要があることから、相続による所有権の異動に伴い、譲渡者の氏名を請求人の氏名に訂正して記載したものである。
(ロ)「請求人」欄のハの(ロ)、(ハ)及び(ト)については、母P2が昭和62年分の確定申告書に添付した譲渡所得計算明細書等のとおりに記載されたものと認められる。
(ハ)「請求人」欄のハの(ニ)については、「63年7月2日」を「62年7月2日」と誤記したものと認められる。
(ニ)「請求人」欄のハの(ホ)については、本件整理票に記載されたとおり、昭和62年分の簿書であると認められる。
(ホ)「請求人」欄のハの(ヘ)については、本件整理票の「作成者」欄は、本件整理票を作成した原処分庁所属の職員が押印する欄であると認められるところ、当該職員が押印を失念したものと認められる。
(ヘ)「請求人」欄のハの(チ)については、譲渡資産の一部について本件特例の適用を受けた場合には、特例の対象となる譲渡価額はその一部となるので、金額が相違していたとしても、何ら矛盾するものとはいえない。
(ト)「請求人」欄のハの(リ)については、本件整理票として答弁しているものは、請求人が開示を請求した「取得価額引継整理票」を添付した台紙全体を示しており、本件整理票の余白には、答弁書のとおり、「H○.○.○ 相続、P3(g町○−○)」「家屋番号○−○」「居1F 310.12平方メートル 2F 123.65平方メートル」等の記載がある。

以下のとおり、母P2は、本件g建物を買換資産として本件特例の適用を受けていたかどうか確認することは不可能である。
 そのため、本件g建物は、本件特例の適用を受けて取得した買換資産ではないから、本件g建物の取得価額は、「建物の標準的な建築価額」により算出した取得価額を基礎として計算すべきである。

イ 旧措置法第36条の2第4項は、「第1項の規定は、同項の規定の適用を受けようとする者の譲渡資産の譲渡をした日の属する年分の確定申告書に、同項の規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、当該譲渡資産の譲渡価額、買換資産の取得価額又はその見積額に関する明細書その他大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限り、適用する」旨規定しており、こうした条文の規定等からすると、本件特例の適用を受けたか否かは、母P2の適用年分の所得税の確定申告書によってのみ確認することができることになる。
 しかしながら、昭和62年分の母P2の所得税の確定申告書については、請求人が原処分庁に対して、その閲覧を求めたところ、既に廃棄されている旨の回答があり、また、当該申告書の控えは、請求人において保管していないことから、調査時点において、昭和62年分の母P2の所得税の確定申告書は存在しないと判断せざるを得ない。したがって、母P2が昭和62年分の確定申告において、本件特例の適用を受けたかどうかを確認することは不可能である。

ロ 本件整理票は、買換資産に係る異動を的確に把握することが最大の目的であり、それによって、異動を把握したならば、本件特例の適用年分の確定申告書によりその適用内容を再度確認し、適正に課税関係を処理することの一助として活用するものであり、飽くまでも内部管理資料であると推察されるから、これを根拠に課税関係を律することはできない。

ハ 本件整理票は、以下のとおり、そのものの信ぴょう性が欠如していることから、本件整理票をもって課税関係を律することはできない。

(イ)譲渡者(特例適用者)の氏名が請求人となっているが、請求人は本件特例の適用を受けていない。
(ロ)「取得価額を引き継いだ資産」欄の数量(433.67平方メートル)が本件g建物の不動産登記記録上の面積(433.77平方メートル)と相違している。
(ハ)引き継いだ取得時期及び譲渡年月日がそれぞれ昭和62年5月30日となっているが、契約書の提示がないため確認することができない。
(ニ)整理票作成年月日は、昭和62年分の確定申告書の法定申告期限前の昭和62年7月2日となっている。
(ホ)作成の基となった簿書名が特定されていない。
(ヘ)「作成者」欄が未記入であり、作成者が不明である。
(ト)原処分庁の答弁書によれば、昭和61年3月29日付の「土地売買契約書」(以下「本件61年売買契約書」という。)に100,000円の収入印紙が貼付されているとされているが、「引き継いだ取得価額の計算根拠」には、当該金額の記入がなく、譲渡費用の有無が確認できない。
(チ)譲渡価額が10X,XXX,XXX円となっているが、答弁書によれば、本件61年売買契約書に記載されている金額は14X,XXX,XXX円であり、金額が相違している。
(リ)請求人の請求により開示された「取得価額引継整理票」には、答弁書において余白部分に記載があるとする事項の記載はない。

(2)判断

イ 本件特例の概要

(イ)本件特例は、個人が、その年の1月1日における所有期間が10年を超える居住用財産を譲渡し、かつ、その年の前年1月1日から原則としてその年の12月31日までに買換資産を取得してこれを居住の用に供した場合には、譲渡資産の譲渡による収入金額が買換資産の取得価額以下であるときには当該譲渡資産の譲渡がなかったものとし、当該収入金額が当該取得価額を超えるときには当該譲渡資産のうちその超える金額に相当する部分の譲渡があったものとして、譲渡所得の金額の計算をすることとし、一方、当該譲渡資産の譲渡がなかったものとされる部分に係る当該譲渡資産の取得価額等を買換資産に引き継がせることにより、その後、当該買換資産を譲渡したときに当該譲渡資産の譲渡に係る譲渡益を含めて譲渡所得の清算を行おうとする、譲渡所得の課税を繰り延べる特例である(別紙2の2の(5)のイ参照)。

(ロ)本件特例の適用を受けるか否かは納税者の選択によるところ、本件特例の適用を受けるためには、譲渡資産の譲渡をした日の属する年分の確定申告書に本件特例の適用を受ける旨を記載し、かつ、計算明細書(譲渡資産の譲渡価額、買換資産の取得価額又はその見積額に関する明細書)、譲渡資産に関する登記簿の謄本等、譲渡資産の所在地を管轄する市町村長等から交付を受けた当該譲渡をした者の住民票の写し、買換資産に関する登記簿の謄本等その他買換資産を取得した旨を証する書類及び買換資産の所在地を管轄する市町村長等から交付を受けた当該取得をした者の住民票の写しを添付しなければならない(別紙2の2の(5)のロ及び同(8)参照)。

ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

(イ)別表4記載の各土地の譲渡について
 本件61年売買契約書及び同契約書に記載されている各土地(以下「本件旧譲渡土地」という。別表4参照)に係る登記記録によれば、母P2とR社は、昭和61年3月29日付で、本件旧譲渡土地につき、売主を母P2、買主をR社とする売買契約を締結したが、母P2からR社への当該売買契約に基づく所有権移転登記手続は省略され、本件旧譲渡土地については、分筆又は合筆を経て、母P2からR社以外の複数の者に対し、売買を原因とする所有権移転登記手続がなされた。

(ロ)本件g建物の取得について
 建築基準法(平成10年法律第100号による改正前のものをいう。)第6条《建築物の建築等に関する申請及び確認》第3項の規定による「確認通知書(建築物)」(確認年月日昭和61年6月25日)には、「建築主住所氏名」欄に「d市e町○−○ P2」、建築敷地の「地名地番」欄に「d市g町○−○、○−○、○−○、○−○、△−△、○−○、○−○」との各記載があることや、本件g建物に係る閉鎖登記簿の謄本の表題部の「原因及びその日付」欄には「昭和62年2月3日新築」、「登記の日付」欄には「昭和62年9月17日」、「所有者」欄には「e町○−○ P2」との各記載があり、「所有者」欄の記載は縦線で抹消されていることからすれば、本件g建物は、昭和62年に新築され、母P2がこれを取得したが、所有権に関する登記手続はされず、平成○年○月○日、母P2から相続により取得した父P3が、平成9年11月12日受付の所有権保存登記手続をした(上記1の(4)のハの(ロ)のB)。

(ハ)母P2の昭和62年分の所得税の確定申告書等について

A 原処分庁は、母P2の昭和62年分の所得税の確定申告書及びその添付書類を保存していない。

B P4税理士から当審判所に対して提出のあった、平成○年○月○日に死亡した母P2の相続に係る相続税の申告書の控え(以下「本件相続税申告書控え」という。)及びその添付書類(以下「本件相続税添付書類」という。)のうち、本件相続税添付書類には、母P2の「62年分の所得税の確定申告書(資産所得合算 合算対象世帯員用)第2表一面」の控えの写し(以下「本件62年分申告書控え」という。)及び「土地、建物(居住用)譲渡代金の使途について」と題する書面(以下「譲渡代金の使途に係る書面」という。)が含まれていた。
 なお、本件相続税申告書控えの作成税理士欄にはP6税理士の署名、押印及び事務所所在地の記載があり、本件相続税申告書控え及び本件相続税添付書類は、母P2の顧問税理士であったP6税理士が作成し、保管していたものを、P4税理士が引き継ぎ、保管していたものである。

C 本件62年分申告書控えには、昭和63年3月14日付のJ税務署の文書収受印が押印されており、住所欄には「d市g町△−△」の記載があり、作成税理士欄には「P7」の署名と押印があるほか、要旨次表のとおり記載されている。
 なお、「62年分の所得税の確定申告書(資産所得合算 合算対象世帯員用)第2表一面」には、特例適用条文を記載する欄は設けられていない。

項目 金額
分離課税の所得金額 長期譲渡 13 ○○○○円
課税される所得金額 13に対する金額 35 ○○○○円
税額 上の35に対する税額 42 ○○○○円

D 譲渡代金の使途に係る書面には、要旨次のとおり記載されており、右端付近に「(措36条)」との記載がある。

(A)母P2は、昭和61年春、居住していた家屋約40坪と敷地約220坪(d市g町△−△)を、R社に、その譲渡代金内で居住用家屋(同△−△所在)140坪を建築することを条件に譲渡した。

(B)譲渡代金は約10X,XXX,XXX円、建築費用は約9X,XXX,XXX円。

(C)本件62年分申告書控えは、P6税理士の事務所に保管されていたものであるが、これは、P6税理士が昭和63年分の確定申告に当たり必要が生じたのでR社の顧問税理士に請求してFAXで送付されてきたものを保管していたものである(譲渡内容の計算書は送付されなかった。)。

(ニ)取得価額引継整理票に係る資産税事務提要の定めについて
 昭和56年10月23日付直資秘4−9ほか6課共同国税庁長官通達「資産税事務提要の全部改正について」(以下「本件資産税事務提要」という。)には、要旨次のように定められていた。

A 取得価額引継整理票の作成等について
 譲渡所得に関する課税の特例の適用を受けているもので取得価額の引継ぎが行われる買換資産、代替資産、交換取得資産又は低額譲渡資産(以下「買換資産等」という。)があるものについては、取得価額引継整理票を作成する。

(A)取得価額引継整理票は、買換資産等が減価償却資産以外の資産、建物又は構築物であるものは、当該買換資産等の所在地番順に整理して保管することとし、買換資産等が上記以外の資産であるものは、取得価額引継整理票つづりに編てつして保管する。

(B)調査において課税繰延べの特例に係る買換資産等の取得又はその使用の事実を確認し、当該特例の適用を認めた事案については、取得価額引継整理票を作成する。

B 取得価額引継整理票の様式、その使用目的及び記載要領等について

(A)取得価額引継整理票の様式は、別紙4のとおりとする。

(B)取得価額引継整理票は、租税特別措置法又は所得税法に規定する課税繰延べの特例の規定の適用を受け譲渡資産の取得価額を引き継いだ事案について、その取得価額の引継事績を明らかにし、じ後における譲渡所得等の計算の資料とするために使用するものである。

(C)「買換資産等の実際の取得価額等」欄には、買換資産等の実際の取得価額を記載する。

(D)「引き継いだ取得時期」欄には、譲渡資産の取得時期を記載する。ただし、租税特別措置法第36条の2等の適用を受けて取得した買換資産又は交換取得資産については、実際の取得時期を記載する。

(E)「引き継いだ取得価額」欄には、買換資産等の取得費又は減価償却費の計算の基礎となる金額として、当該買換資産等に付すべき取得価額を記載する。

(F)「引き継いだ取得価額の計算根拠」欄には、上記(E)により記載すべき金額の計算根拠を記載する。

(G)「特例適用条文」欄には、この整理票の作成の基因となった租税特別措置法又は所得税法の課税の特例に関する条項を記載する。

(H)「作成の基となった簿書名」欄には、この整理票の作成の基となった簿書の年分区分、名称及び簿書の編てつ番号を記載する。

(ホ)本件整理票について
 本件整理票(別紙5)は、母P2について作成されたものであり、その後、平成○年○月○日の母P2の相続及び平成○年○月○日の父P3の相続により、本件整理票の「取得価額を引き継いだ資産(買換資産等)」欄記載の資産を請求人が取得したとして、本件整理票の「譲渡者(特例適用者)」欄の母P2の住所及び氏名の記載を二重線で消し、その上部に請求人の住所及び氏名を記載する等の補正を行い、本件更正処分時にJ税務署において管理されていたものと認められる。
 そして、本件整理票の「整理票作成年月日」欄には「62・7・2」と記載されているが、「取得価額が引き継がれた資産(譲渡資産)」欄の「譲渡年月日」欄には「62年5月30日」と記載されており、また、「作成の基となった簿書名」欄には「62年分」と記載されていることからすると、本来、「63・7・2」と記載すべきところを誤って記載したものと認められる。
 これらのことからすると、本件整理票は、その「作成者」欄は空欄であるものの、J税務署において保管され、さらに、相続による異動の事実を補正して管理されていたことから、昭和63年7月2日に当時の原処分庁所属の担当職員により作成されたものと認められる。

ハ 検討

(イ)母P2の昭和62年分の譲渡所得における本件特例の適用について

A 上記ロの(ハ)のDの(A)の譲渡代金の使途に係る書面に記載された内容からは、母P2が、新居の完成に併せて、それまで居住していた建物(以下「本件旧居住用建物」という。)とその敷地をR社に譲渡したことがうかがわれるところ、この点に、上記ロの(イ)及び(ロ)の各事実のほか、請求人の当審判所に対する答述を併せれば、母P2は、昭和62年に本件旧居住用建物及び本件旧譲渡土地をR社に譲渡し、本件g建物を取得したものと認められる。

B 本件整理票が作成された当時の資産税事務の実施手続等を定めた本件資産税事務提要には、上記ロの(ニ)のとおり、取得価額引継整理票は、譲渡所得に係る課税の繰延べの特例の適用を受けて取得した買換資産等の取得価額の引継事績を明らかにし、じ後における譲渡所得等の計算の資料として使用するために、別紙4の様式を使用して作成するものであることなどが定められているところ、本件においては、本件整理票が存在する。本件整理票には、別紙5のとおり記載されており、上記ロの(ホ)のとおり、本件整理票は、昭和63年7月2日に原処分庁所属の担当職員が母P2の譲渡所得に関して作成したものと認められ、公務員が職務上、把握した事項について作成した本件整理票は信用性が高いといえる。他方で、原処分庁所属の担当職員が故意に虚偽の取得価額引継整理票を作成したというような事情は見当たらない。
 そして、本件整理票(別紙5)の譲渡資産の所在地番及び数量、買換資産の所在地番及び数量に係る記載は、以下の(A)ないし(C)のとおり、本件61年売買契約書や登記事項証明書等の記載内容と一致又はほぼ一致していることからすれば、本件整理票は、原処分庁所属の担当職員が、本件特例の適用を受けようとする者(母P2)から提出された上記イの(ロ)記載の買換資産を取得した旨を証する書類等を確認し、当該書類等に基づいて作成したものと認めるのが相当である。

(A)「取得価額が引き継がれた資産(譲渡資産)」の「所在地番」欄に記載されている「○−○」の地番は、本件61年売買契約書に記載された各土地のうちの一筆の地番(別表4の一番上に記載されている地番)と一致し、同「数量」欄に記載されている860.87平方メートルは、同契約書記載の地積合計860.89平方メートル(別表4)とほぼ一致している。

(B)「取得価額を引き継いだ資産(買換資産等)」の「所在地番」欄に記載されている「d市g町△−△」は、本件g建物の所在であるd市g町○−○、同○−○と一致しない(別表3)ものの、1上記ロの(ロ)の「確認通知書(建築物)」に記載されている敷地の地名地番には、d市g町△−△が含まれていること、2本件62年分申告書控えに記載された住所(d市g町△−△)と一致していること(上記ロの(ハ)のC)から、本件g建物の所在を表したものと認められる。

(C)「取得価額を引き継いだ資産(買換資産等)」の「数量」欄に記載されている433.67平方メートルは、本件g建物の床面積の合計433.77平方メートル(別表3)とほぼ一致している。

C さらに、本件62年分申告書控え及び譲渡代金の使途に係る書面から、以下のとおり、母P2は、昭和62年分の確定申告において、本件特例の適用を受けようとする旨の申告をしていたと推認される。

(A)母P2の昭和62年分の所得税の確定申告書は、原処分庁に保存がない(上記ロの(ハ)のA)が、本件62年分申告書控えには、昭和63年3月14日付のJ税務署の文書収受印が押印されていること(同C)及び当該控えは、P6税理士が昭和63年分の確定申告のために昭和62年分の確定申告書を提出したR社の顧問税理士から入手した写しであること(同B及びDの(C))からすると、母P2は本件62年分申告書控えと同内容の昭和62年分の確定申告書をJ税務署に提出していたものと認められる。

(B)そして、本件62年分申告書控えには、上記ロの(ハ)のCのとおり、特例適用条文を記載する欄が設けられておらず、分離長期譲渡所得の金額及びその税額しか明らかでないため、本件特例の適用を受けたか否かは直接的には明らかでないが、次のことから、母P2の昭和62年分の所得税の確定申告書には、本件特例の適用を受けようとする旨の記載があったものと推認し得る。

a 本件整理票(別紙5)に記載されている譲渡価額(10X,XXX,XXX円)、買換資産等の実際の取得価額等(9X,XXX,XXX円)、譲渡資産の取得費の額(5,XXX,XXX円)を基に、本件特例を適用した場合の譲渡所得の金額を計算すると、以下のとおり、その金額は○○○○円となり、本件62年分申告書控えに記載されている分離長期譲渡所得の金額○○○○円(上記ロの(ハ)のC)とほぼ一致している。

 収入金額 10X,XXX,XXX円−9X,XXX,XXX円=○○○○円(a
 必要経費 5,XXX,XXX円×a/10X,XXX,XXX円=○○○○円(b
 分離長期譲渡所得の金額(ab)=○○○○円(c

b また、上記aの計算の基礎とした本件整理票に記載されている譲渡価額及び買換資産等の実際の取得価額等は、P6税理士がR社の顧問税理士に確認した内容である譲渡代金(約10X,XXX,XXX円)と建築費用(約9X,XXX,XXX円)(上記ロの(ハ)のDの(B))ともほぼ一致している。
 なお、以上によれば、本件61年売買契約書に記載されている金額が14X,XXX,XXX円であったとしても、母P2の昭和62年分の申告における譲渡所得の収入金額は10X,XXX,XXX円であったと認められる。付言するに、上記aの計算において、売買代金10X,XXX,XXX円の売買契約書に貼付すべき収入印紙の金額60,000円を加えて計算すると、上記bの金額は○○○○円、上記cの譲渡所得の金額は○○○○円となり、本件62年分申告書控えに記載されている分離長期譲渡所得の金額と同額となり、この点も上記認定に資するものといえる。

c 上記ロの(ハ)のDのとおり、P6税理士が作成した譲渡代金の使途に係る書面の右端付近には、「(措36条)」という記載があるが、当該書面は、本件旧居住用建物及び本件旧譲渡土地の譲渡に係る譲渡所得の金額及びその税額は確認できたものの、これだけでは当該譲渡に係る収入金額などが不明であったため、確定申告に関与したR社の顧問税理士に確認した内容を記載したものと考えられる。
 そして、当該書面に記載されている「措」は、租税特別措置法を示すものと認められ、同法の条文で「36」と付くものは、旧措置法第36条《譲渡所得の特別控除額の特例等》、同法第36条の2(本件特例)、同法第36条の3《居住用財産の買換えの場合の更正の請求、修正申告等》、同法第36条の4、同法第36条の5《居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例》であるが、旧措置法第36条は、譲渡所得に係る特別控除額の限度額を定めた規定であり、居住用財産に関する特例を定めたものではない。また、旧措置法第36条の2ないし第36条の4は、居住用財産の買換えの場合に関する特例を定めた規定であり、同法第36条の5は居住用財産を交換した場合の特例を定めた規定であるが、同法第36条の3は本件特例を受けた後の更正の請求等を定めたものであり、同法第36条の4(別紙2の2の(6))は、買換資産の取得価額の計算等を定めたものである。
 そうすると、「措36条」は、旧措置法第36条の2、つまり、本件特例の条文を意味するものと認められる。

D 以上のことから、本件整理票は、母P2が、本件g建物を買換資産として本件特例の適用を受けようとする旨の確定申告をするとともに、当該適用を受けるために必要とされる書類を提出したことを受けて、原処分庁所属の担当職員が本件資産税事務提要に定められた事務処理手続に従って適正に作成したものと認められる。
 したがって、母P2は、昭和62年分の所得税に係る譲渡所得について、本件g建物を買換資産として、本件特例の適用を受けたものと認められる。

(ロ)請求人の主張について

A 請求人は、上記(1)の「請求人」欄のイ及びロのとおり、母P2が本件特例の適用を受けたといえない根拠として、1母P2の昭和62年分の確定申告書が存在しない点、2本件整理票は飽くまでも内部管理資料である点を挙げる(なお、請求人は、本件62年分申告書控えが当審判所に提出された後も、上記1に係る主張を維持するとした。)。
 しかしながら、本件整理票は、原処分庁所属の担当職員により、母P2が本件g建物を買換資産として本件特例の適用を受けようとする旨の確定申告をしたことを受けて作成されたものと認められ、ゆえに母P2が本件特例の適用を受けたと認められることは上記(イ)のDのとおりである。請求人の上記主張は、事実認定に関する独自の見解であり、採用の限りでない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

B 請求人は、上記(1)の「請求人」欄のハのとおり、本件整理票そのものの信ぴょう性が欠如している点を主張するが、この点につき、請求人が指摘する本件整理票に係る各事項が上記認定に影響を及ぼすものではないことは、上記ロの(ホ)、ハの(イ)のBの(C)、同Cの(B)のbのとおりである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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5 争点3(分離長期譲渡所得の金額の計算上、本件g建物改良費(減価償却費を控除した後の金額)の全額を控除することができるか。)について

(1)主張

原処分庁 請求人

イ 本件g建物改良費は、本件g建物の全体に係る改良費に該当するものと認められる。
 したがって、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の額については、本件g建物改良費(減価償却費を控除した後の金額)の額に本件建物持分の割合(100分の52)を乗じた金額により計算すべきであるから、当該改良費の全額を控除することはできない。

ロ なお、共有物については、各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負うものであり、自己の負担分を超えて費用を負担した場合には、民法第253条《共有物に関する負担》により他の共有者に対して償還請求をすることができるのであるから、本件g建物改良費の全額を請求人が負担したことは、単に、請求人が父P3に利益を与えたにすぎない。

イ 譲渡所得の金額の計算上、共有者として、他の共有者の合意を得て、共有者の一人が共有建物全体に係る取得費の全額を支出した場合には、その全額について当該取得費を支出した共有者に係る取得費として計算すべきである。

ロ 請求人は、父P3から本件g建物の100分の4の持分の贈与を受けて、本件g建物の所有者となった後、共有者である父P3の合意(民法第251条《共有物の変更》)の下、本件g建物改良費の全額を支出しているのであるから、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の額について、本件g建物改良費(減価償却費を控除した後の金額)の全額により計算すべきである。

(2)判断

イ 譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、所得税法第38条第1項において、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額である旨規定されており、また、同条第2項第2号において、当該資産が非業務用の家屋である場合には、同条第1項に規定する合計額に相当する金額から、その取得の日から譲渡の日までの期間に係る減価の額の合計額を控除した金額とする旨規定されている。
 そして、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項は、居住者が贈与又は相続(限定承認に係るものを除く。)により取得した譲渡所得の基因となる資産を譲渡した場合における譲渡所得の金額の計算については、その者が引き続きこれを所有していたものとみなす旨規定している。
 そうすると、上記1の(4)のハの(ロ)のBのとおり、譲渡資産は、本件建物持分(100分の52)であると認められるから、請求人の譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の額は、本件建物持分に係る取得に要した金額及び改良費の合計額から減価償却費の合計額を控除した金額となる(なお、100分の48については、父P3から相続により取得したものであることから、所得税法第60条第1項の規定により、請求人は父P3の取得費及び取得時期を引き継ぐこととなる。)。
 したがって、本件g建物改良費(減価償却費を控除した後の金額)の全額を控除することはできない。

ロ 請求人の主張について
 請求人は、父P3から本件g建物の100分の4の持分の贈与を受けて、本件g建物の所有者となった後、共有者である父P3の合意の下、本件g建物改良費の全額を支出しているのであるから、譲渡所得の金額の計算上控除する取得費の額について、本件g建物改良費(減価償却費を控除した後の金額)の全額により計算すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人が、父P3の合意を得て本件g建物工事を行い、本件g建物改良費の全額を支出していることをもって、所有関係に変動は生じておらず、これらの事情は、本件建物持分(100分の52)を基礎に計算した額の限度で控除されるべきである旨の上記イの判断を左右しない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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6 本件更正処分について

(1)不動産所得の金額

上記3の(2)のニのとおり、本件工事に係る各費用のうち、不動産所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は1,655,501円であり、これに基づいて、請求人の不動産所得の金額を計算すると、別表5−2のとおり、○○○○円となる。

(2)分離長期譲渡所得の金額

イ 上記4の(2)のハの(イ)のDのとおり、本件g建物は、母P2が本件特例の適用を受けて取得した買換資産に該当するから、本件g建物に係る分離長期譲渡所得の金額を計算するときの取得価額は、旧措置法第36条の4及び租税特別措置法施行令(平成19年政令第92号による改正前のもの)第24条の3《買換えに係る居住用財産の譲渡の場合の取得価額の計算等》第3項及び第4項の各規定により計算することとなる(別紙2の2の(6)及び(7)参照)。
 そして、これらの規定により本件g建物の取得価額を計算すると、別表6のとおり、4,921,360円となる。
 また、上記5の(2)のイのとおり、本件建物持分の取得費から減価償却費を控除することとなり(別紙2の2の(2)参照)、請求人は、所得税法第60条第1項の規定により、母P2及び父P3からその取得時期及び取得費を引き継ぐこととなる(同(3)参照)から、これらに従い本件建物持分の取得費の額を計算すると、別表7のとおり、5,433,449円となる。

ロ 上記イにより、分離長期譲渡所得の金額を計算すると、別表8のとおり○○○○円となり、原処分庁主張額(上記1の(4)のホ)と同額となる。

(3)上記(1)及び(2)を基に請求人の納付すべき税額を計算すると、別表9のとおり、○○○○円となる。

そうすると、請求人の本審査請求は、納付すべき税額○○○○円を超える部分の取消しを求める範囲で理由があるので、本件更正処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

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7 本件賦課決定処分について

本件更正処分は、上記6の(3)のとおり、その一部が取り消されるべきであるから、これに伴い過少申告加算税の基礎となる税額は○○○○円となるところ、この税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて過少申告加算税の額を計算すると○○○○円となる。
 そうすると、請求人の本審査請求は、過少申告加算税の額○○○○円を超える部分の取り消しを求める範囲で理由があるので、本件賦課決定処分は、その一部を別紙1の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

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8 その他

原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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