(平成31年4月23日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、鉄骨工事業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき所得税等の修正申告及び消費税等の期限後申告をしたところ、原処分庁が、内容虚偽のメモに基づいて収支内訳書及び確定申告書を作成して提出したことは隠蔽又は仮装の事実に該当するなどとして重加算税の賦課決定処分をしたのに対し、請求人が、隠蔽又は仮装の事実はなかったとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 国税通則法(平成29年1月1日前に法定申告期限が到来した国税については、平成28年法律第15号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。
  • ロ 通則法第68条第2項は、同法第66条《無申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、平成23年から鉄骨工事業を営む個人事業主である(以下、請求人が営む当該事業を「本件事業」という。)。
     本件事業は、複数の受注先から工事を受注し、指定された建築現場において、鉄骨材などの建築資材の提供を受けて鉄骨を組み上げる工事を行うものである。
  • ロ 受注する工事の多くは、複数の職人による作業を要するものであり、請求人は、自ら作業に従事するほか、必要に応じ他の職人に作業を委託し、その対価を支払っていた(以下、平成23年の本件事業開始から請求人の委託により作業を行った者を「本件各外注先」といい、本件各外注先に支払った対価を「本件外注費」という。)。
  • ハ 請求人は、本件事業において、日々の工事について、その日付、受注先及び建築現場の略称、作業に従事した者の氏名又は略称、人工の数、請求人が本件各外注先に対して支払う対価の額(外注先別の各月の合計額)などを大学ノートに記載していた(以下、当該大学ノートを「本件出面帳」という。)。
  • ニ 請求人は、本件出面帳を基に、作業に従事した日数(人工の数)と1日当たりの単価から受注先に対する各月の請求金額(消費税及び地方消費税に相当する額を記載し上乗せ)を計算して、受注先に対し請求書を発行し、請求人名義のG金庫○○支店の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件口座」という。)への振込みの方法により、その支払を受けていた。
     なお、請求人が本件事業において使用する預金口座は、本件口座のみであり、請求人は、本件口座の預金通帳を自ら管理し、月に一回程度、その通帳に記帳をしていた。
  • ホ H社(以下「本件受注先」という。)は、本件事業における主要な受注先であり、請求人の収入金額(修正申告後のもの。)の約○割を占める。その他、本件事業においては数社の受注先がある。
  • へ 請求人は、本件各外注先から、それぞれ作業に従事した日数と1日当たりの単価に基づき作成された各月の請求書を受領し、当該各請求書に基づき、本件各外注先に各月の対価を支払っていた。
  • ト 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査(以下「本件調査」という。)の際、本件調査担当職員に対し、本件口座の預金通帳(平成26年11月27日から平成29年6月12日までのもの)、受注先に対する請求書の控え(平成26年6月から平成27年6月まで及び平成28年2月から同年12月までのもの)、本件外注費に係る領収証(平成26年、平成27年及び平成28年のもの)のほか、確定申告前に必要経費等を集計したとする平成26年分に係るメモ3枚、平成27年分に係るメモ1枚及び平成28年分に係るメモ4枚(以下、順次「平成26年メモ」、「平成27年メモ」及び「平成28年メモ」といい、これらを併せて「本件各メモ」という。)を提示した(以下、当該提示した各書類を「本件各提示書類」という。)。また、平成25年分以前の必要経費の領収証を紙の手提袋に入れて提示した。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成23年分及び平成24年分の所得税並びに平成25年分、平成26年分、平成27年分及び平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下、平成25年分ないし平成28年分を併せて「本件各年分」といい、所得税及び復興特別所得税を併せて「所得税等」という。)について、確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに原処分庁に提出して、確定申告した。
     なお、請求人が平成23年分ないし平成28年分の事業所得に係る各収支内訳書に記載した収入金額及び本件外注費の額は、それぞれ別表2の各「確定申告」欄の「1収入金額」欄記載の各金額及び「3本件外注費の額」欄記載の各金額であった。
  • ロ 請求人は、本件調査の結果に基づき、平成29年11月16日に、平成24年分の所得税及び本件各年分の所得税等について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載して修正申告(以下「本件各修正申告」という。)するとともに、平成25年1月1日から平成25年12月31日までの課税期間(以下「平成25年課税期間」といい、他の課税期間についても同様に表記する。)、平成26年課税期間、平成27年課税期間及び平成28年課税期間(以下、これらの各課税期間を併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、確定申告書に別表3の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限後に申告した(以下、これらの各期限後申告を併せて「本件各期限後申告」という。)。
     なお、本件各修正申告における収入金額及び本件外注費の額は、それぞれ別表2の各「修正申告」欄の「1収入金額」欄記載の各金額及び「3本件外注費の額」欄記載の各金額である。
  • ハ 原処分庁は、本件各修正申告及び本件各期限後申告に対し、平成29年12月21日付で、別表1及び別表3の各「賦課決定処分」欄記載のとおり、所得税、所得税等及び消費税等に係る重加算税(平成27年分の所得税等については、これに加え過少申告加算税)の各賦課決定処分をした。
  • ニ 請求人は、平成30年1月28日に、上記ハの各処分のうち、平成24年分の所得税及び本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分並びに本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を不服として再調査の請求をした。
  • ホ また、平成30年1月28日付で、平成24年分の所得税及び本件各年分の所得税等について、いずれも必要経費に算入すべき金額に誤りがあったとして、別表1の「更正の請求」欄のとおり記載して、各更正の請求をした。
  • へ 再調査審理庁は、平成30年4月24日付で、平成24年分の所得税及び本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分について、別表1の「再調査決定」欄のとおり、平成24年分はその一部を取り消し、本件各年分はいずれも棄却の再調査決定をした。また、本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分については、別表3の「再調査決定」欄のとおり、いずれもその一部を取り消す再調査決定をした。
  • ト 請求人は、再調査決定を経た後の本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分及び本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分に不服があるとして、平成30年5月16日に審査請求をした。
  • チ 原処分庁は、平成30年6月28日付で、上記ホの各更正の請求に対し、別表1の「更正処分及び変更決定処分」欄のとおり、いずれもその一部を認め、平成24年分の所得税及び本件各年分の所得税等について減額の更正処分をするとともに、平成24年分の過少申告加算税及び本件各年分の重加算税の各変更決定処分をした。

2 争点

請求人に、通則法第68条第1項又は第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があったか否か。

3 争点についての主張

原処分庁 請求人
(1) 請求人には、以下のとおり、本件各年分の所得税等について、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実があった。 (1) 請求人には、以下のとおり、本件各年分の所得税等について、通則法第68条第1項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」た事実はなかった。
イ 請求人は、平成23年の本件事業の開業以降、本件事業に係る帳簿を作成せず、本件各提示書類以外の必要経費の領収証等を散逸するに任せていた。 イ 請求人は、直近の受注先に係る請求書控え、直近3年分の本件各外注先に係る請求書及び領収証並びに経費の領収証について、ほとんど全てを保管しており散逸させていない
ロ 請求人は、毎月末に、受注先ごとの請求書を作成・交付しており、当該請求書に係る請求金額は、本件口座に振り込まれていたから、本件事業に係る自己の収入金額を正しく認識していたと認められる。
 また、請求人は、本件各外注先の出面を本件出面帳に記載し、これに基づき本件外注費を毎月支払っていたから、本件外注費の額についても正しく認識していたと認められる。
ロ 請求人は、本件事業に係る収入及び支出について、日々の取引実績を継続的に記録した帳簿を作成しておらず、本件各年分の実際の収入金額及び本件外注費の額を認識できる状況にはなかった。
 なお、請求人は、本件各外注先が外注先であるという認識がなく、本件各外注先が最終的に受け取るべき金額は請求人の収入金額を構成しないと考えていたが、本件出面帳に基づき請求書を作成したのは、請求人が本件各外注先の代表として本件各外注先に代わり、請求人の分も含めた人工賃を請求すると考えていたからである。
ハ 請求人は、平成23年分の所得税を正しく計算したところ、税額が大きくなってしまったため、平成24年分以降の確定申告については、何とかして納税額が少なくならないかと考えた。そこで、平成24年分以降の申告に当たっては、請求人の子に作成させたメモの必要経費の額から外注費の額を除いたメモを請求人自身が改めて作成した上、申告相談会場に赴き、請求人が作成したメモに基づき収支内訳書及び確定申告書を作成・提出していた。
 なお、請求人は、本件出面帳に基づき請求書を作成しており、受注先に請求する人工単価が本件各外注先に支払う人工単価を上回っていることを認識していたのであるから、本件各外注先が最終的に受け取るべき金額が請求人の収入金額を構成しないと考えていたとは認められない。
ハ 一般に、ある年分の所得税が高額になった場合に、その翌年分以降について、法令の規定に従ってできるだけ税額が少なくなるよう節税対策を行うことは通常である。
 請求人が請求人の子に作成させたメモの必要経費の額から外注費の額を除いたメモを作成したのは、請求人は、本件外注費は本件各外注先が受注先から受け取るべきもので、請求人の必要経費ではないと考えていたからであり、当該メモを改めて作成したことは、原処分庁が主張する特段の行動に該当しない。
 なお、請求人は、本件各外注先が最終的に受け取るべき金額を収入金額に計上せず、請求人が受け取るべき金額のみを計上するという税務処理を行うことは、適法な節税対策であると考えていた。
 また、請求人は、本件調査に当たり、本件調査担当職員の質問に何ら事実を秘匿せず、その記憶に基づき素直に回答しており、税務調査に対する非協力、虚偽の答弁及び虚偽資料の提出を行った事実はない。
ニ 請求人は、上記イからハまでのとおり、本件事業に係る帳簿を作成せず必要経費の領収証等を散逸するに任せていたところ、実際の収入金額及び本件外注費の額を認識していながら、過少申告することを意図し、請求人の子に作成させたメモの必要経費の額から外注費の額を除いたメモを請求人自身が改めて作成した上、平成25年分については収入金額を、平成26年分、平成27年分及び平成28年分については、収入金額及び本件外注費の額を、それぞれ収支内訳書に過少に記載し、本件各年分について約340万円から約780万円もの多額の所得を過少に申告していたのであり、これは、当初から過少申告を意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合に該当する。 ニ 請求人は、上記ロのとおり、本件各年分の実際の収入金額及び外注費の額を認識していないことから、過少申告の意図を有していなかった。
 仮に請求人が収入金額及び必要経費の額を正確に把握しており、それとは異なる金額を収支内訳書に記載して申告したとしても、それとは別に隠蔽又は仮装と評価すべき行為の存在が必要であるところ、上記イ及びハのとおり、当該行為は存在しない。
(2) 消費税等については、国税庁長官発遣の「消費税及び地方消費税の更正等及び加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(平成12年7月3日付課消2−17ほか)第2W2《所得税等に不正事実がある場合》は、所得税等につき通則法第68条第1項又は第2項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装していたこと(以下「不正事実」という。)があり、所得税等について重加算税を賦課する場合には、当該不正事実が影響する消費税等の不正事実に係る増差税額については重加算税を課する旨定めているところ、上記(1)のとおり、請求人の本件各年分の所得税等につき不正事実が認められ、重加算税を賦課することとなるから、請求人の本件各課税期間の消費税等については、重加算税を賦課することとなる。 (2) 消費税等についても、上記(1)のとおり、請求人には所得税等につき不正事実がなく、また、原処分庁が主張する請求人の行為をもって過少申告の意図を「外部からもうかがい得る特段の行動」と評価することはできない。

4 当審判所の判断

(1) 法令解釈

重加算税の制度は、納税者が過少申告をするにつき、又は法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことにつき隠蔽又は仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税又は無申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を課すためには、納税者のした過少申告行為又は法定申告期限までに納税申告書を提出しなかったことそのものが隠蔽、仮装に当たるというだけでは足りず、それらとは別に、隠蔽、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたこと、又は法定申告期限までに納税申告書が提出されなかったことを要するものである。
 しかし、上記の重加算税制度の趣旨に鑑みれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告すること、又は法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をし、又は法定申告期限までに申告をしなかったような場合には、上記重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。

(2) 本件各メモの記載の要旨

  • イ 平成26年メモ
    • (イ) 平成26年メモのうち1枚には、1月から12月までの各月の右部に「1,156,000」から「3,187,000」までの各金額が、その下部に「計 22,410,000-」が、それぞれ記載され、さらにその下部には「12067164」と記載されている。
    • (ロ) また、平成26年メモのうち1枚には、「接待代」、「工具代」、「ガソリン代」、「飲食」、「駐車場代」及び「ETC代」と記載の上、それぞれ金額が記載され、さらに上記各金額の合計額を矢印で示して「¥1905,618」(メモに記載のとおり)と記載されている。その下部には「支払い合計 ¥(11,173,300)」と記載され、その左部には「11,173,300」にその8%相当額を加えた金額である「¥12,067,164 税込」と記載された後に抹消された痕跡がある。そして、上記「¥1905,618」及び「支払い合計 ¥(11,173,300)」がプラス記号により合算され、その結果が矢印の先に「¥13,078,918」と記載されている。
  • ロ 平成27年メモ
    • (イ) 「年間のきゅうりょう ○○○○」と記載されている。
    • (ロ) 「飲食代」、「燃料代」、「接待代」、「ETC代」及び「道具代」と記載の上、それぞれ金額が記載されている。
  • ハ 平成28年メモ
    • (イ) 平成28年メモのうち1枚には、「合 ○○○○」と記載されている。
    • (ロ) 平成28年メモのうち2枚には、「飲食代」、「駐車・タクシー」、「ガソリン代」、「接待代」、「工具、部品代」、「J(水)」などと記載の上、それぞれ金額が記載されている。

(3) 認定事実

請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、本件各年分の所得税等の確定申告に当たり、自ら又は請求人の子に指示して、申告の準備として収入金額や必要経費に関するメモを作成していた。
     請求人は、本件各メモのうちその年分のメモを持参して、K税務署が開設した申告相談会場へ赴き、当該メモに記載された金額を収支内訳書のどの科目に記載するかなどを申告相談会場の担当職員に相談しながら、収支内訳書を作成して確定申告した。
     上記(2)の本件各メモに記載された各支出に係るメモの金額(同イ(ロ)、ロ(ロ)及びハ(ロ)の各金額)は、平成26年分ないし平成28年分の各収支内訳書の「経費」欄の各科目にそれぞれ振り分けて記載されている。
     また、上記(2)ロ(イ)及びハ(イ)の金額(平成27年分は、千円未満の端数切捨て)は、平成27年分及び平成28年分の各収支内訳書の「売上(収入)金額」欄にそれぞれ記載されている。
  • ロ 平成25年分の本件受注先に係る収入金額は、○○○○円であった。
     また、平成26年分における請求人の収入金額のうち、本件受注先からの各月の入金額の状況は、別表4の「入金額」欄のとおりであり、その他同年中に本件受注先以外の複数の受注先からの約○○○○円の収入金額があった。

(4) 検討

  • イ 所得税等について
    • (イ) 平成26年分、平成27年分及び平成28年分について
      • A 請求人は、平成26年分、平成27年分及び平成28年分の3年分にわたり、収入金額について、別表2の「2割合」欄のとおり、修正申告に係る収入金額の約22.2%から約35.3%までしか申告せず、また、収入金額から本件外注費の額を差し引いた金額(同表「4差引金額」欄)をみた場合であっても、同表の「5割合」欄のとおり、修正申告に係る差引金額の約43.6%から約66.6%までの申告にとどまるものであり、多額の所得を継続的に過少に申告していたことが認められる。
         このことは、次に述べる本件各メモの記載の状況とあいまって、当初から所得を過少に申告する意図があったと認められるものである。
      • B すなわち、請求人は、上記1(3)ニのとおり、自ら本件出面帳を基に受注先に対する各月の請求金額を計算して請求書を発行し、また、収入金額が振り込まれる唯一の口座である本件口座の預金通帳を自ら管理し、かつ、月に一回程度はその通帳に記帳をしていたこと、他方、上記1(3)ハ及びヘのとおり、請求人は、本件出面帳に、作業に従事した者の氏名又は略称、人工の数、請求人が本件各外注先に対して支払う対価の額(外注先別の各月の合計額)などを記載するとともに、本件各外注先から受領した請求書に基づいて本件外注費を支払っていたことが認められ、これらの事実からすると、請求人は、本件事業に係る収入金額及び本件外注費のおおよその金額を認識していたものと認められる。
         そして、平成26年メモの記載事項をみると、上記(2)イ(イ)の月ごとに記載された金額(別表4の「平成26年メモ」欄)が、本件受注先からの各月の入金額(別表4の「入金額」欄)とほぼ合致しているから、平成26年メモに記載された各月の金額及びその下部に記載された金額は、複数ある受注先のうち、本件受注先からの各月の入金額及び集計金額を記載したものと認められる。また、上記(2)イ(ロ)のとおり、平成26年メモに「支払い合計 ¥(11,173,300)」として記載されている金額は、上記(3)イのとおり、これが平成26年分の必要経費として申告された各科目とともにその合計額が記載され、また、平成26年分の本件外注費の額(11,657,800円)に近似していることからすれば、請求人が当該メモの作成当時において、同年分の本件外注費の額として算出していた金額であると認められる。請求人は、申告の準備段階において、上記のような集計金額及び算出金額を記載したメモを作成しつつ、平成26年分の収支内訳書の「売上(収入)金額」欄には、修正申告に係る収入金額である○○○○円を大幅に下回る「○○○○円」と記載し(上記1(4)イ、ロ、別表2の「平成26年分」の「1収入金額」欄の「確定申告」欄及び「修正申告」欄)、「経費」の各欄に本件外注費を含まない必要経費の額を記載して、所得金額を少なく偽った当該収支内訳書を作成した上、それに基づく確定申告をしたことが認められる。
      • C さらに、請求人は、上記Bのとおり、本件事業に係る収入金額及び本件外注費の額を認識しつつも、その後の平成27年分及び平成28年分の申告の準備段階において、本件外注費以外の各支出の額及び修正申告に係る収入金額とは全く異なる「年間のきゅうりょう ○○○○」及び「合 ○○○○」を申告すべき収入金額であるとして平成27年メモ及び平成28年メモに記載した上(上記(2)ロ(イ)及びハ(イ))、これらのメモに基づいて平成27年分及び平成28年分の各収支内訳書の「売上(収入)金額」及び「経費」の各欄にそれぞれ金額を記載し(上記(3)イ)、所得金額を大幅に少なく偽った収支内訳書を作成して、各確定申告をしたことが認められる。
      • D 以上のとおり、請求人は、正当に申告すべき収入金額及び本件外注費の額を認識した上で、少なくとも3年間にわたり、真実の所得金額よりも大幅に少なく偽った所得金額を申告する目的で、そのためのメモを作成した上で申告相談会場に赴き、そのメモに基づいて所得金額を大幅に偽った収支内訳書を作成して過少申告行為を継続的に行っていたものである。これらの一連の行為は、請求人が、当初から所得を過少に申告する意図を有し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動と評価することができる。
    • (ロ) 平成25年分について
       請求人は、上記(3)イのとおり、平成25年分の確定申告に当たり、申告のために収入金額や必要経費に関するメモを作成していたと認められるものの、当該メモが把握されていないためその記載内容は明らかでない。そして、別表2のとおり、平成25年分において確定申告された収入金額(○○○○円)をみると、上記(3)ロのとおり、その金額が本件受注先からの収入金額(○○○○円)に近似するものの、それであるとは明らかでなく、また、修正申告に係る収入金額と申告金額との差額も平成26年分ないし平成28年分に比べると大きいとはいえない。また、本件外注費の額については、平成26年分ないし平成28年分と異なり、平成25年分の収支内訳書の「給料賃金」欄に記載されていることからすると、その過少申告の形態がそれ以後の年分と同様であったとまではいえない。
       そうすると、平成25年分は、請求人が、過少申告する意図を有し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとまで認めることはできない。
       また、その他に、請求人に重加算税の賦課要件を満たす隠蔽又は仮装の行為と評価される行為があったとは認められない(なお、原処分庁は、本件各提示書類以外の必要経費の領収証等を散逸するに任せていた旨を隠蔽又は仮装の事実として主張しているが、上記1(3)トのとおり、請求人は、本件調査において平成25年分以前の必要経費に関する資料を提示しているから、散逸するに任せていたとはいえない。)。
    • (ハ) 小括
       以上のとおり、請求人の平成26年分、平成27年分及び平成28年分の所得税等について、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たし、平成25年分の所得税等については、これを満たさないというべきである。
  • ロ 消費税等について
     請求人は、平成26年課税期間、平成27年課税期間及び平成28年課税期間の各課税期間の期限後申告による消費税等の額のうち、平成26年分、平成27年分及び平成28年分の所得税等の各確定申告における収入金額及び必要経費の額に基づき計算した消費税等の額を超える部分については、上記イ(イ)のとおり、正当に申告すべき収入金額及び本件外注費の額を認識した上で、連年にわたり真実の所得金額を過少に申告し、申告の準備段階においてそのためのメモを作成していることから、当初から法定申告期限までに申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づき法定申告期限までに申告しなかったといえるから、当該部分については、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たしているというべきである。
     一方、平成25年課税期間については、上記イ(ロ)のとおり、作成されたメモの記載内容は明らかではないところ、当初から法定申告期限までに申告しないことの意図を外部からもうかがい得る特段の行動があったとまで認めることはできず、その他に、請求人に重加算税の賦課要件を満たす隠蔽又は仮装の行為と評価される行為があったとは認められないことから、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
  • ハ 請求人の主張について
    請求人は、本件各外注先が外注先であるという認識がなく、本件外注費の額に相当する金額が請求人の収入金額を構成しないと考えていたのであるから、「隠蔽し、又は仮装し」た事実はない旨主張する。
     しかしながら、請求人は、上記(2)イ(ロ)のとおり、平成26年メモにおいて、外注費の額として算出した「11,173,300」とその他の必要経費の額として算出した「1905,618」とを合算して「¥13,078,918」と記載しているところ、本件外注費の額に相当する金額が自己の収入金額を構成しないとする請求人の主張に立てば、このように、平成26年分の必要経費について本件外注費の額を含む総額を認識した上で請求人の収入金額を構成することを前提とする計算は不要であり、逆に、当該メモの記載内容からすると、請求人は本件外注費の額に相当する収入金額及び本件外注費を自己の収入金額及び必要経費と認識していたものと解される。したがって、請求人の主張には理由がない。
     なお、請求人の平成26年分ないし平成28年分の各申告をみると、請求人の上記主張のとおり本件外注費の額に相当する金額が請求人の収入金額を構成しないと考えたとしても別表2の各「修正申告」欄の「4差引金額」欄の金額を収入金額として申告するはずであるところ、請求人は、各年分とも、当該各金額を大幅に下回る金額を収入金額として申告していることに加え、そのうち平成26年分については、平成26年メモのうち1枚において、上記(3)ロのとおり、本件受注先以外の複数の受注先からの約○○○○円の収入金額があるにもかかわらず、これを含めずに本件受注先からの入金額のみを集計した金額を記載した上で、別表2の平成26年分の「確定申告」欄の「1収入金額」欄のとおり、当該金額とも異なる金額を収支内訳書に記載している。これらのことからすると、本件外注費の額に相当する金額が自己の収入金額を構成するか否かにかかわらず、過少申告の意図を有し、その意図に基づき本件各メモ及び各収支内訳書を作成したものといえる。

(5) 原処分の適法性について

  • イ 平成25年分の所得税等に係る重加算税の賦課決定処分(上記1(4)チの変更決定処分後のもの)
     上記(4)イ(ロ)のとおり、平成25年分の所得税等については、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
     他方、標記の賦課決定処分は、通則法第65条第1項所定の要件を充足するところ、同年分の修正申告に基づき納付すべき税額(上記1(4)チの更正処分後のもの)の計算の基礎となった事実が、修正申告前の税額の基礎とされなかったことについて、同条第4項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     そして、平成25年分の所得税等に係る過少申告加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において同年分の所得税等に係る過少申告加算税の額を計算すると、○○○○円となる。
     したがって、標記の賦課決定処分のうち過少申告加算税相当額○○○○円を超える部分は違法である。
  • ロ 平成26年分、平成27年分及び平成28年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分(いずれも上記1(4)チの変更決定処分後のもの)
     上記(4)イ(イ)のとおり、標記の各年分の所得税等については、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。
     そして、標記の各年分の所得税等に係る重加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において標記の各年分の重加算税の額を計算すると、標記の各賦課決定処分の額といずれも同額であると認められる。
     したがって、標記の各賦課決定処分は、いずれも適法である。
  • ハ 平成25年課税期間の消費税等に係る重加算税の賦課決定処分(上記1(4)ヘの再調査決定後のもの)
     上記(4)ロのとおり、平成25年課税期間の消費税等については、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たさない。
     他方、標記の賦課決定処分は、通則法第66条第1項所定の要件を充足するところ、期限内申告書の提出がなかったことについて、同項に規定する「正当な理由」があるとは認められない。
     そして、平成25年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において平成25年課税期間の消費税等に係る無申告加算税の額を計算すると、○○○○円となる。
     したがって、標記の賦課決定処分のうち無申告加算税相当額○○○○円を超える部分は違法である。
  • ニ 平成26年課税期間、平成27年課税期間及び平成28年課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分(いずれも上記1(4)への再調査決定後のもの)
     上記(4)ロのとおり、標記の各課税期間の消費税等については、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たす。
     そして、標記の各課税期間の消費税等に係る重加算税の額については、その計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争わず、当審判所において標記の各課税期間の重加算税の額を計算すると、標記の各賦課決定処分の額といずれも同額であると認められる。
     したがって、標記の各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(6) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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