(令和元年6月24日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、運送業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対してした調査に基づき、更正処分等をしたところ、請求人が、1請求人の事業所得の金額は、実額計算の方法ではなく推計の方法により算定すべきである、2請求人の妻に係る事業専従者控除の額を、請求人の事業所得の金額の計算上差し引くべきである、3請求人が帳簿を作成及び保存していなくても、領収証等を保存しているのだから、仕入税額控除を認めるべきである、4請求人に、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実はない、5請求人に、「偽りその他不正の行為」に該当する事実はない、6請求人の従業員に対して支払った給与に係る源泉所得税等の金額の算定に当たり、源泉徴収税額表の甲欄を適用すべきであるなどとして、原処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

関係法令は、別紙3のとおりである。
 なお、別紙3で定義した略語については、以下、本文及び別表においても使用する。

(3) 基礎事実及び審査請求に至る経緯

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人の事業の概要等
    • (イ) 請求人は、運送業(以下「本件事業」という。)を営む個人事業主である。
    • (ロ) 請求人は、平成26年3月以前はJ社、同年4月以降はK社(以下、J社及びK社を併せて「本件各取引先」という。)を介して売上代金を受け取っていた。ただし、請求人は、運送業務自体は本件各取引先の元請先であるL社から直接受注しており、請求人の実質的な取引先は同社であった。
    • (ハ) 請求人は、平成21年から平成29年までの間、Mを従業員(以下「本件従業員」という。)として雇用し、本件事業に従事させていた。
  • ロ 請求人の確定申告の状況等
    • (イ) 請求人は、平成24年分の所得税並びに平成25年分ないし平成28年分の所得税及び復興特別所得税(以下「所得税等」という。)について、各確定申告書(以下「本件各所得税等申告書」という。)に、別表1の「確定申告」欄のとおり記載し、それぞれ収支内訳書(一般用)(以下「本件各収支内訳書」という。)を添付して、いずれも法定申告期限までに申告した(以下、平成24年分から平成28年分までの各年分を「本件各年分」という。)。
       なお、請求人は、本件各所得税等申告書に、請求人の妻であるN(以下「本件妻」という。)について、所得税法第83条《配偶者控除》に規定する配偶者控除の適用を受ける旨を記載したが、同法第57条第3項に規定する事業専従者控除(以下「専従者控除」という。)の適用を受ける旨は記載しなかった。
    • (ロ) 請求人は、平成24年1月1日から同年12月31日まで、平成25年1月1日から同年12月31日まで、平成26年1月1日から同年12月31日まで、平成27年1月1日から同年12月31日まで及び平成28年1月1日から同年12月31日までの各課税期間(以下、順次「平成24年課税期間」、「平成25年課税期間」、「平成26年課税期間」、「平成27年課税期間」及び「平成28年課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、いずれも法定申告期限までに確定申告をしていなかった。
    • (ハ) 請求人は、本件従業員に対して支払った給与(以下「本件給与」という。)について、本件各年分を通じて源泉徴収に係る所得税及び復興特別所得税(以下「源泉所得税等」という。)の徴収をしておらず、法定納期限までに原処分庁に納付しなかった。
  • ハ 原処分庁による調査の状況等
    • (イ) 請求人は、平成29年10月20日に、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)から、通則法第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項に規定する「実地の調査」として請求人の自宅に同年11月1日に臨場する旨、電話連絡を受けた。
    • (ロ) 請求人から税務代理を委任されたP税理士(以下「本件税理士」という。)は、平成29年10月31日に、Q税務署を訪れ、本件調査担当職員に対して、請求人は、売上金額を半分程度しか申告していない旨、また、請求人は消費税の課税事業者に該当するところ、帳簿を作成していないが、仕入税額控除を認めて欲しい旨及び請求人と本件従業員の合計2名で本件事業に従事している旨それぞれを説明した。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、平成29年11月1日に、請求人の本件各年分の所得税等及び本件各課税期間の消費税等並びに平成25年4月から平成29年9月までの各月分(以下「本件各月分」という。)の源泉所得税等の調査(以下「本件調査」という。)を開始した。
    • (ニ) 請求人は、消費税の納税義務者に該当すること(消費税法第5条《納税義務者》第1項、同法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項参照)を前提に、平成30年2月1日に、本件各課税期間の消費税等について、別表2の「期限後申告」欄のとおりとする各確定申告書を原処分庁に提出した。
       なお、上記の各確定申告書の「控除対象仕入税額」欄には、課税標準額に対する消費税額の約50%に相当する金額が記載されている。
    • (ホ) 請求人は、本件調査担当職員から、本件従業員の扶養控除等申告書を提出するよう求められた際、本件従業員から、扶養控除等申告書を受理していなかったため、提出することができなかった。
    • (へ) 請求人は、平成30年1月11日及び同年2月5日に、本件各月分の本件従業員の源泉所得税等について、別表3の「自主納付分」欄のとおり、原処分庁に納付した。
       なお、請求人が原処分庁に納付した本件各月分の本件従業員の源泉所得税等の金額のうち、平成25年分ないし平成28年分の金額は、年末調整後の年税額を計算し、当該各年税額を各年12月分として納付した金額であり、平成29年1月から同年9月までの各月分の金額は、各月分の給与支払額に対応した源泉徴収税額表の甲欄(扶養親族等の数0人)を適用して算出した金額であった。
  • ニ 原処分
    • (イ) 原処分庁は、請求人の本件各課税期間の消費税等の期限後申告(上記ハの(ニ))に対し、平成30年4月26日付で、別表2の「1賦課決定処分」欄のとおりの重加算税の各賦課決定処分をした。
    • (ロ) 原処分庁は、請求人の本件各年分の所得税等について、平成30年4月27日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり各更正処分及び重加算税の各賦課決定処分をし、また、本件各課税期間の消費税等について、同日付で、別表2の「2更正処分等」欄のとおり各更正処分並びに無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。さらに、原処分庁は、請求人の本件各月分の源泉所得税等について、同日付で、別表3の「納税告知処分」欄及び「賦課決定処分」欄のとおり各納税告知処分及び不納付加算税の各賦課決定処分をした。
       なお、原処分庁が、請求人に対して納税告知処分をした源泉所得税等の金額は、源泉徴収税額表の乙欄を適用して算出した金額であり、上記ハの(へ)で請求人が納付した源泉所得税等の金額との差額(不足額)である。
  • ホ 再調査の請求
     請求人は、上記ニの各処分に不服があるとして、平成30年5月11日付で再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、平成30年7月6日付で再調査の請求をいずれも棄却する旨の決定をした。
  • ヘ 審査請求
     請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成30年8月3日に審査請求をした。

2 争点

(1) 請求人の事業所得の金額は、推計の方法により算定すべきか否か(争点1)。

(2) 本件妻に係る専従者控除の額は、請求人の事業所得の金額の計算上差し引くことができるか否か(争点2)。

(3) 本件各課税期間において、仕入税額控除が適用されるか否か(争点3)。

(4) 請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か(争点4)。

(5) 請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か(争点5)。

(6) 本件給与に係る源泉所得税等の金額の算定に当たり、源泉徴収税額表の甲欄又は乙欄のいずれを適用すべきか(争点6)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(請求人の事業所得の金額は、推計の方法により算定すべきか否か。)について

請求人 原処分庁
原処分庁が主張する実額計算の方法は、飽くまで、本件事業に係る経費のうち、領収証等の保存があるものを必要経費の金額に算入したにすぎない。
 請求人には、領収証等の保存がない必要経費の金額が相当額あり、原処分庁が主張する実額計算による方法では、適切な所得金額を算定したとはいえないので、必要経費の金額を合理的な方法により推計計算して、事業所得の金額を算定すべきである。
請求人は、本件調査担当職員に本件事業に係る経費の領収証等を提示しており、実額計算の方法により所得金額を算定することができるから、推計の方法により算定するべきではない。
 また、所得税法第156条は、税務署長が各種所得の金額又は損失の金額を推計することができる旨規定しているが、当該規定は、納税者からの求めに応じて推計をしなければならないものではない。

(2) 争点2(本件妻に係る専従者控除の額は、請求人の事業所得の金額の計算上差し引くことができるか否か。)について

請求人 原処分庁
請求人が、本件各所得税等申告書において、生計を一にする本件妻につき、配偶者控除を選択したのは、税に関する無知がゆえであり、所得税法第57条第6項が規定する「やむを得ない事情」が認められるから、本件事業の従事内容からしても専従者控除への変更を認めるべきである。
 現に、所得税法第2条第1項第33号には、専従者控除から配偶者控除への付け替えができない旨の規定はあるが、その逆の規定はないから、配偶者控除から専従者控除への付け替えは可能である。
 したがって、本件妻に係る専従者控除の額は、請求人の事業所得の金額の計算上差し引くことができる。
請求人は、本件各所得税等申告書において、生計を一にする本件妻につき、配偶者控除を適用する旨記載して申告していたものであって、専従者控除の適用を受ける旨の記載はなく、本件各収支内訳書にも、「専従者控除」欄に記載はないので、請求人の本件各年分に係る事業所得の金額の計算上専従者控除の額を差し引くことはできない。
 なお、請求人の税の知識が乏しいという主観的な事情は、専従者控除を適用すべきとする「やむを得ない事情」があったものとは認められない。
 また、専従者控除は所得税法第57条第3項に、配偶者控除は同法第83条に、それぞれ規定されており、いずれの控除を適用するかは、これらの各規定に基づき判断するのであって、控除対象配偶者に関する規定である同法第2条第1項第33号のみに基づき判断するものではない。
 したがって、本件妻に係る専従者控除の額は、請求人の事業所得の金額の計算上差し引くことはできない。

(3) 争点3(本件各課税期間において、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

原処分庁 請求人
請求人は、本件各課税期間において、消費税法第30条第7項に規定する課税仕入れの税額の控除に係る帳簿を作成しておらず、これを保存していなかったものと認められるから、当該保存のない課税仕入れの税額については、仕入税額控除は適用されない。 請求人は、本件事業の必要経費の領収証等を保存しており、それによって、1課税仕入れの相手方の氏名又は名称、2課税仕入れを行った年月日、3課税仕入れに係る資産又は役務の内容、4課税仕入れに係る支払対価の額が明らかとなるのであるから、これらを消費税法第30条第8項第1号に規定する「帳簿」とみなし、仕入税額控除は適用される。

(4) 争点4(請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
 イ 隠蔽、仮装があることについて
以下の事情に照らせば、請求人には、所得税等及び消費税等について「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったといえる。
請求人は、本件事業に係る毎月の売上金額を把握しつつ、税金を免れるために、以下の行為をした。
  • (イ) 請求人は、本件従業員の運送分(以下「本件従業員分」という。)の売上げを本件各年分の売上げの集計から除外し、売上金額が1,000万円を超えないように調整した過少な売上金額を算定するためのメモ(以下「本件売上メモ」という。)を本件妻に作成させた。
  • (ロ) 請求人は、本件売上メモに基づいて算定した過少な売上金額を、本件各収支内訳書に記載した。
  • (ハ) 請求人は、本件各年分の所得税等を申告した後に、本件売上メモを廃棄した。
  • (ニ) 請求人が本件各収支内訳書において記載した「売上(収入)金額」は、本件事業に係る売上金額の半分以下の金額であった。
  • (ホ) 請求人は、本件給与など、本件従業員分の経費が毎年合計600万円以上ありながら、これらを本件各収支内訳書に必要経費の金額として計上しなかった。
 イ 隠蔽、仮装があるとは認められないことについて
以下の事情に照らせば、請求人には、「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとはいえない。
  • (イ) 本件妻は、本件売上メモを作成していない。 本件妻は、本件各収支内訳書を作成するに当たって、本件各取引先から送付される請求人の運送分(以下「請求人分」という。)と本件従業員分の支払明細のうち、請求人分のみの支払明細の「支払合計」欄の金額を1年間分合計した後、作業服代や接待交際等の、領収書等の保存がない本件事業に係る経費を概算で差し引いた適当な金額を算定した上、当該金額を本件各収支内訳書の「売上(収入)金額」欄に記載したものであり、その計算は容易であるから、原処分庁の主張する本件売上メモなどの書類を別途作成する必要はなかった。
  • (ロ) 本件事業に係る売上金額について、売上げに係る資料及び売上金額が入金される預金通帳を全て保存していること、売上先が常に一社であることから極めて容易に売上げを把握できる状況であり、請求人や本件妻は、これらに関して何らの仮装・隠蔽もしていない。
  • (ハ) 本件妻は、本件従業員分の経費であることが明らかである分を除いた領収書等の証拠がある費用を、本件各収支内訳書に必要経費の金額として記載したにすぎず、経費の架空計上をしたわけではない。
  • (ニ) 請求人は、本件調査の過程においても、極めて協力的に調査を受けてきたほか、調査着手前に売上金額を過少に申告していることを本件調査担当職員に誠実に伝えた。
ロ 所得税等及び消費税等について特段の行動があったといえることについて
 上記イでみた各事情に照らせば、請求人は、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたものといえる。
ロ 所得税等及び消費税等について特段の行動があったとはいえないことについて
 上記イでみた各事情に照らせば、請求人は、当初から所得を過少に申告することを意図していたといえるものの、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたとまではいえない。

(5) 争点5(請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

原処分庁 請求人
上記(4)の「原処分庁」欄に記載した事情に照らせば、請求人には、「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったといえる。 上記(4)の「請求人」欄に記載した事情に照らせば、請求人には、「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとはいえない。

(6) 争点6(本件給与に係る源泉所得税等の金額の算定に当たり、源泉徴収税額表の甲欄又は乙欄のいずれを適用すべきか。)について

原処分庁 請求人
請求人は、本件調査担当職員から、本件従業員の扶養控除等申告書を提出するよう求められた際、扶養控除等申告書の作成をしていない旨回答し、当該扶養控除等申告書を提出しなかった。
 したがって、本件給与に係る源泉所得税等の金額の算定に当たっては、源泉徴収税額表の乙欄を適用すべきである。
本件従業員は、他に給与の支払を受けていないのであるから、単に扶養控除等申告書を提出していない事実のみをもって、形式的に乙欄を適用した納税告知をすべきでない。
 したがって、本件給与に係る源泉所得税等の金額の算定に当たっては、源泉徴収税額表の甲欄を適用すべきである。
 なお、平成25年分ないし平成28年分の源泉徴収税額の計算については、甲欄を用いて年末調整した上で年税額を納税告知すべきである。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(請求人の事業所得の金額は、推計の方法により算定すべきか否か。)について

  • イ 法令解釈
     所得税法第156条は、税務署長は、青色申告の承認を受けた者の事業所得等の金額を除き、納税者の各年分の各種所得の金額を推計によって更正することができる旨規定しているが、この推計課税の規定は、課税庁が納税者の各種所得の金額の計算に当たり、当該納税者の収入金額、必要経費等の実額を把握することが不可能若しくは著しく困難な場合等、いわゆる実額課税によって各種所得の金額を計算できない場合に、飽くまでも実額課税を補完するものとして設けられているものであり、当該納税者の保存、提示した帳簿書類等によって当該納税者の収入金額、必要経費等の実額を把握することが可能な場合には当然に推計課税によることなく、把握した収入金額、必要経費等の実額により各種所得の金額を計算することとなる。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、前記1の(3)のイの(ロ)のとおり、実質的な取引先がL社1社のみであり、かつ、本件各取引先との取引に関する支払明細、請求書(控)及び入金先である請求人名義の預金通帳を保存していた。本件調査担当職員は、これに基づき別表4の「更正処分額」欄のとおり、本件各年分の本件事業に係る売上金額を実額により把握した。
    • (ロ) 請求人は、本件各年分の本件事業に係る帳簿を作成していなかった。しかし、請求人は、売上金額に係る支払明細、請求書(控)及び預金通帳並びに費用に係る領収証等を保存しており、本件調査の際、これらの資料を本件調査担当職員に提示した。
    • (ハ) 本件調査担当職員は、上記(ロ)で把握した費用に係る領収証等のうち、本件事業の遂行上必要と認められるものについて、請求人の必要経費の金額に算入した上で、本件各年分の事業所得の金額を算定した。
  • ハ 当てはめ
     上記ロのとおり、請求人は、本件事業に係る帳簿こそ作成していなかったものの、売上金額の計算の基礎となる支払明細、請求書(控)及び入金先である請求人名義の預金通帳や必要経費の金額の計算の基礎となる領収証等を保存し、本件調査の際には、これらの書類を本件調査担当職員に提示していたものと認められるほか、請求人の売上先が本件各年分にわたり実質的に1社のみであったという事情をも考慮すると、本件調査において、請求人の所得金額を実額で把握することが不可能若しくは著しく困難であったとは認められず、請求人の事業所得の金額を推計により算定する必要があったとは認められない。
     したがって、請求人の事業所得の金額については、これを推計の方法により算定すべきものとは認められない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(1)の「請求人」欄のとおり、領収証等の保存がない必要経費の金額が相当額あるところ、実額計算の方法では、適切な所得金額を算定できず、合理的な方法により推計計算をして事業所得の金額を算定すべきである旨主張する。
     しかしながら、請求人の本件各年分の事業所得の金額につき、これを推計の方法により算定する必要があると認められないことは上記ハのとおりである。
     したがって、請求人の主張を採用することはできない。
     なお、請求人の事業所得の金額の計算上、まだ算入されていないと請求人が主張する必要経費の存在については、当審判所の調査及び審理の結果によっても、その事実を確認することができない。
     したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(本件妻に係る専従者控除の額は、請求人の事業所得の金額の計算上差し引くことができるか否か。)について

  • イ 検討
     居住者が、所得税法第57条第3項所定の専従者控除の適用を受けるためには、その手続的要件として、確定申告書に同項の規定の適用を受ける旨及び同項の規定により必要経費とみなされる金額に関する事項をそれぞれ記載しなければならないとされている(同条第5項)。
     これを本件についてみると、請求人が提出した本件各所得税等申告書には、前記1の(3)のロの(イ)のとおり、いずれも所得税法第57条第3項の規定の適用を受ける旨の記載はなく、また、同項の規定により必要経費とみなされる金額に関する事項の記載もない。したがって、請求人の本件各年分の事業所得の金額の計算上、本件妻に係る専従者控除の額を差し引くことができないというべきである。
  • ロ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、前記3の(2)の「請求人」欄のとおり、専従者控除に関する規定を知らなかったこ とは、所得税法第57条第6項に規定する「やむを得ない事情」に該当する旨主張する。
       しかしながら、所得税法第57条第6項に規定する「やむを得ない事情」とは、納税者の責めに帰すことができない客観的な事情をいい、税の不知や事実の誤認などの納税者の主観的な事情は、「やむを得ない事情」に当たらないと解するのが相当である。そうすると、請求人が専従者控除の規定を知らなかったため、本件各所得税等申告書に本件妻に係る専従者控除の適用を受ける旨を記載していなかったとしても、そのことは請求人の主観的な事情にすぎないから、当該事情は「やむを得ない事情」には当たらない。
    • (ロ) また、請求人は、所得税法第2条第1項第33号には、専従者控除から配偶者控除への付け替えができない旨の規定はあるが、その逆の規定はないから、配偶者控除から専従者控除への付け替えは可能であると主張する。
       しかしながら、所得税法第2条第1項第33号は、その規定上、「居住者の配偶者でその居住者と生計を一にするもの」から、青色事業専従者給与の支払を受けるもの(同法第57条第1項)及び事業専従者に該当するもの(同条第3項)を除くとしているにすぎず、専従者控除から配偶者控除への付け替えの可否を定めた規定ではない。そして、専従者控除の規定の適用を受けるには、所定の手続的要件が具備していることを要するところ、本件において当該手続的要件が充足しないことは上記イのとおりである。したがって、本件妻に係る配偶者控除の適用に代えて専従者控除を適用することはできない。
    • (ハ) したがって、請求人の主張にはいずれも理由がない。

(3) 争点3(本件各課税期間において、仕入税額控除が適用されるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     消費税法第30条第7項によれば、事業者が帳簿及び請求書等を保存していない場合には、仕入税額控除が適用されないことになるが、このような法的不利益が特に定められたのは、資産の譲渡等が連鎖的に行われる中で、広く、かつ、薄く資産の譲渡等に課税するという消費税により適正な税収を確保するには、帳簿及び請求書等という確実な資料を保存させることが必要不可欠であると判断されたためであると考えられる。
     以上によれば、事業者が、消費税法施行令第50条《課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿等の保存期間等》第1項に規定するとおり、消費税法第30条第7項に規定する仕入税額控除に係る帳簿及び請求書等を整理し、これらを所定の期間及び場所において、通則法第74条の2《当該職員の所得税等に関する調査に係る質問検査権》第1項第3号に基づく税務職員による検査に当たって適時にこれを提示することが可能なように態勢を整えて保存していなかった場合は、消費税法第30条第7項にいう「事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合」に当たり、事業者が災害その他やむを得ない事情により当該保存ができなかったことを証明しない限り(同項ただし書)、同条1項の規定は適用されないものというべきである。
  • ロ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件調査担当職員は、平成29年11月1日に、請求人の自宅へ臨場した際、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等の提示を求めたところ、請求人は、本件各課税期間に係る帳簿は作成しておらず、本件各収支内訳書に記載した「経費」科目の金額は、本件事業に係る必要経費の領収証等を集計したものである旨申述し、当該領収証等を提示した。
    • (ロ) 本件調査担当職員は、平成29年12月13日に、本件税理士から電話連絡を受けた際、消費税等の仕入税額控除のために必要な帳簿等(消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等)の作成及び保存の有無を再度確認した。
       これに対して、本件税理士からは、本件各課税期間に係る帳簿は作成しておらず、本件調査担当職員に対して提示した領収証等が全てである旨の申立てがあった。
  • ハ 当てはめ
     上記ロのとおり、本件調査担当職員は、本件調査を通じて、請求人及び本件税理士に対して、消費税法第30条第7項に規定する帳簿及び請求書等の提示を求めたところ、そもそも請求人において、本件各課税期間に係る帳簿の作成がされていないことが認められる。このことからすれば、請求人は、消費税法第30条第7項に規定する事業者が当該課税期間の課税仕入れの税額の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合に該当する。
     そして、当審判所の調査の結果によれば、請求人において、課税仕入れの税額の控除に係る帳簿を保存することができなかったことについて、消費税法第30条第7項ただし書に規定する「災害その他やむを得ない事情」も認められない。
     したがって、本件各課税期間の仕入税額控除は適用されない。
  • ニ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(3)の「請求人」欄のとおり、領収証等の保存があるから、当該領収証等を消費税法第30条第8項第1号に規定する「帳簿」とみなし、領収証等の保存がある部分については、本件各課税期間の仕入税額控除が適用される旨主張する。
     しかしながら、消費税法第30条第1項の仕入税額控除の規定は、上記イのとおり、事業者が当該課税期間の課税仕入れ等の控除に係る帳簿及び請求書等を保存しない場合には適用されないのであり(同条第7項)、また、同条第1項の規定の適用上、領収証等を帳簿(同条第8項第1号)とみなすことができるとした法令上の根拠もない。
     したがって、請求人の上記の主張は請求人独自の見解に基づくものであり、採用できない。

(4) 争点4(請求人に、通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
    • (イ) 通則法第68条第1項は、過少申告をした納税者が、その国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。
       「この重加算税の制度は、納税者が過少申告をするについて隠ぺい、仮装という不正手段を用いていた場合に、過少申告加算税よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって申告納税制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
       したがって、重加算税を課するためには、納税者のした過少申告行為そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するものである。しかし、右記の重加算税制度の趣旨にかんがみれば、架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまで必要であると解するのは相当でなく、納税者が、当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づく過少申告をしたような場合には、右重加算税の賦課要件が満たされるものと解すべきである。」(最高裁平成7年4月28日第二小法廷判決・民集49巻4号1193頁参照)
    • (ロ) また、通則法第68条第2項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠蔽し、又は仮装し、その隠蔽し、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、その納税者に対して重加算税を課する旨規定している。このような場合に重加算税を課する制度の趣旨は、上記(イ)の同条第1項の趣旨と同様であると解されるから、重加算税を課するためには、上記(イ)と同様に、必ずしも架空名義の利用や資料の隠匿等の積極的な行為が存在したことまでは必要ではなく、納税者が、当初から課税標準等及び税額等を申告しないことを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をした上、その意図に基づいて法定申告期限までに申告しなかったような場合には、重加算税の賦課要件が満たされるものと解するのが相当である。
  • ロ 請求人、本件妻及び本件調査担当職員の申述等
    • (イ) 請求人は、本件調査担当職員に対し、所得税等の申告の経緯について、要旨以下のとおり申述した。
      • A 平成28年分の取引先から送付される請求人分と本件従業員分の支払明細を合計した金額と、請求人の申告した事業所得の売上金額に差額がある理由は、事業経営が困難で、税金の負担を少なくし、少しでも支出を抑えたかったので、売上げを少なく申告したからである。
      • B 本件従業員分の売上げを申告していなかったことから、本件従業員分の経費についても申告しなかった。
      • C 所得税等の確定申告の時期になると、本件妻が請求人分に対応する支払明細と、本件各取引先から振り込まれる預金通帳及び本件各取引先の元請先から振り出された手形を取り立てする預金通帳を確認しながら、本件事業に係る売上金額を年間集計してそれをメモに記載し、その記載された金額を本件各収支内訳書に記載した。そのメモは、ただ売上金額を集計したメモ書であったため、確定申告が終了した後、必要がなくなり捨てた。
      • D 本件各取引先から送付される支払明細は、請求人分と本件従業員分の2通に分けて作成されていたところ、請求人分に対応する支払明細に記載された諸経費を相殺した後の金額を合計し、当該合計額が1,000万円を超えていたことから、請求人が本件妻に指示をして、1,000万円を超えないように適当な金額を本件各収支内訳書に記載させた。
    • (ロ) 請求人は、当審判所に対し、所得税等の申告の経緯について、要旨以下のとおり答述した。
      • A 請求書の作成や確定申告などの事務的なことは全て本件妻に任せていたので、具体的な指示をしたりしたことはない。
      • B 請求人及び本件従業員が使用するトラック2台分に係る費用を払っていたときは本当に経費の支払が困難で、手形が完全に回っていなかったこともあり、少しでも手元に資金を残しておきたいと考えていた。
    • (ハ) 本件妻は、当審判所に対し、所得税等の申告の経緯について、要旨以下のとおり答述した。
      • A 本件各所得税等申告書及び本件各収支内訳書を作成したのは本件妻である。
      • B 確定申告をするために、広告の裏紙などに一旦請求人分に対応する支払明細に記載された金額を合計した数字を記載した記憶があるが、飽くまで電卓で計算した結果を記載した程度のものである。
      • C 請求人分の経費に相当するもののうち、領収証等の資料があるものについて集計し、合計額を本件各収支内訳書に記載していた。
      • D 消費税等を支払わないようにするために1,000万円を超えないような金額で申告をするという考えはなかった。消費税に関する知識がなく、本件従業員を雇用する前に請求人が一人で事業を行っていたときと大体同じ程度の金額を記載すればよいと考えていた。
      • E 売上金額については、請求人分に対応する支払明細のみを1年分合計していたが、その際、知識がなく、当該支払明細に記載されている、諸経費を控除した後の金額を合計し、その合計額をそのまま本件各収支内訳書に記載したこともあれば、従前の申告額を参考に金額を変更したこともあった。そのような操作をした理由は、領収証等の資料はなくとも、経費がかかったことは事実であるので、その分を経費に計上するのではなく、売上げを下げる形で反映させればよいと考えたからである。このような操作といっても、細かい計算をしたわけではなく、大雑把に金額を減らしたかも知れないし、毎年行っていたわけでもない。本件従業員分の売上げについては、資金繰りが厳しく、税金が支払えないと思ったため計上しなかった。
      • F 最終的に税金が支払える程度の金額になればよいと考えたが、パソコンも持っていないし、複雑な税金の計算もできないので、税額から逆算して売上げや経費を求めるなどという難しいことはできず、前年度分と同じくらいになればいいという程度の考えで金額を決めていた。
    • (ニ) 本件調査担当職員は、当審判所に対し、本件調査の際の状況について、要旨以下のとおり答述した。
      • A 本件売上メモについて、請求人及び本件妻の回答は調査段階から曖昧であり、本件売上メモの作成を月ごとにしたかどうか、経費も記載したのか等については記憶にないというので、平成29年11月1日に録取した質問応答記録書(以下「本件質問応答記録書」という。)にはメモとしか書けなかった。本件売上メモをいつからいつまで作成していたかどうかは確認しておらず、本件売上メモから本件各収支内訳書に転記する際のやり方については、売上げを減らして写したという程度の回答であった。
      • B 本件質問応答記録書には、本件各収支内訳書に「適当な金額」を書いていた旨記載したが、その趣旨は、何らかの計算式のようなもので算出されたという関係性は見出せない、本当に適当だという意味である。
      • C 当初、本件各収支内訳書の記載については、本件妻から話を聞いていたが、途中で請求人が「これは全部私の指示です」と言って話に入ってきた。請求人が本件妻をかばおうとしている様子だと感じた。こういった経緯もあり、本件質問応答記録書は、売上げを計上する過程など、全て請求人本人がやったような体裁になっている。
  • ハ 認定事実
     原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果(以下「本件全証拠等」という。)によれば、以下の事実が認められる。
    • (イ) 本件事業に係る売上金額
      • A 請求人は、本件各取引先(平成26年3月以前はJ社、同年4月以降はK社)を介して本件事業に係る売上代金を得ていたところ(前記1の(3)のイの(ロ))、各月分の売上代金の支払を本件各取引先に請求する際、請求書を請求人分と本件従業員分とに分けて作成し、これを本件各取引先に交付していた。請求人が当該請求書を分けて作成した理由は、本件従業員分の売上金額に基づいて歩合計算した額を、毎月、給与(本件給与)として本件従業員に支払うためであった。
      • B 本件各取引先は、請求人から交付を受けた上記Aの請求書に応じ、各月分の支払明細を請求人分と本件従業員分とに分けて作成し、これをいずれも請求人に交付していた。本件従業員分の支払明細には、請求人の氏名の下に括弧書で本件従業員の氏名が記載されていた(以下、これら支払明細を併せて「本件各支払明細書」という。)。
         なお、本件各支払明細書には、各月分の1売上金額、2売上金額から相殺される諸経費、3手形による支払額、4振込みによる支払額及び5支払金額(売上金額から諸経費を控除した後の金額)などが記載されていた。
      • C 本件各支払明細書に記載された各月分の支払金額のうち、約半分の金額がR信用金庫○○支店の請求人名義の普通預金口座に振り込まれ、その残額が本件各取引先の元請先であるL社から振り出された手形により支払われていた。請求人は、当該手形をS銀行(現、T銀行)○○支店の請求人名義の普通預金口座にて取り立てをしていた(以下、これら各金融機関の各預金通帳を併せて「本件各預金通帳」という。)。
    • (ロ) 本件事業に係る必要経費
       請求人は、本件事業に関し、本件従業員に対する給与(本件給与)のほか、ガソリン代、修理代及び自動車保険料等の費用を支払っていた。
    • (ハ) 本件各収支内訳書の作成
      • A 請求人は、上記(1)のロの(ロ)のとおり、本件各年分において、本件事業に係る帳簿を作成していなかった。このため、所得税の各確定申告時期に本件事業に係る売上金額や必要経費の金額をそれぞれ1年間分まとめて集計し、その集計額を本件各収支内訳書の各欄に記載するという方法を採っていた。
         なお、請求人は、確定申告関係の書類の作成を本件妻に任せており、上記の集計作業や本件各収支内訳書の作成等は本件妻が行っていた。
      • B 本件妻は、本件事業に係る年間の売上げを集計する際、請求人分の売上げ(請求人分の本件各支払明細書の支払金額)のみを集計し、本件従業員分の売上げについてはその集計計算に含めていなかった。そして、請求人分の売上げの集計額からさらに領収証の保存のない分の金額を適宜差し引くなどし、あるいは従前に申告した売上金額を参考にするなどした適当な金額を本件各収支内訳書の「収入(売上)金額」の欄に記載していた。本件妻が、本件従業員分の売上げを売上金額の集計計算に含めなかった理由は、税金が支払えないと考えたからであった。
         なお、本件妻は、本件各年分の売上金額の集計作業の過程で、広告の裏紙などを利用し、そこに電卓で集計した金額を記載することもあったが、当該メモは申告が終了した後に廃棄していた。
      • C また、本件妻は、本件事業に係る必要経費の金額についても、保存のあった領収証やカードの支払明細書等を基に、科目ごとに分類した費用の額を1年間分まとめて集計し、これを本件各収支内訳書の必要経費の各欄に記載していたが、本件従業員に支払った本件給与の額やガソリン代等の本件従業員分の費用の金額については、上記の集計計算から除いていた。これは、本件従業員分の売上げを本件各収支内訳書に計上していないためであった。
      • D 本件各収支内訳書に記載された売上金額は、それぞれ別表4の「当初申告額」欄に記載のとおりであり(上記(1)のロの(イ))、当該各金額は、いずれの年分においても実際の売上金額の5割に満たないものであった。
         また、本件各収支内訳書に記載された必要経費の金額は、それぞれ別表5の「当初申告額」欄に記載のとおりであるが、その後、平成30年4月27日付でされた本件各年分の所得税等の各更正処分により、本件給与の額などの費用が本件事業に係る必要経費として追加認容された(上記(1)のロの(ハ)及び別表5の「更正処分額」欄参照)。
    • (ニ) 本件各所得税等申告書の作成とその提出
       本件妻は、本件各収支内訳書の記載に基づいて本件各所得税等申告書を作成した。そして、請求人は、前記1の(3)のロの(イ)のとおり、本件各所得税等申告書に本件各収支内訳書を添付した上、これらをいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
    • (ホ) 本件事業に係る申告関係書類の保存状況等
       請求人は、上記(1)のロの(ロ)のとおり、本件各年分に係る本件各支払明細書の全て(本件従業員分のものを含む。)を保存していたほか、本件各預金通帳や必要経費に係る領収証等(本件従業員分のものを含む。)を保存していた。
       なお、請求人は、本件調査の際、その当初から売上金額を過少に計上した事実を、本件税理士を通じて認めた上(前記1の(3)のハの(ロ))、本件各支払明細書や領収証等の書類を本件調査担当職員に提示していた。
  • ニ 検討
    • (イ) 過少申告の意図について
       上記ハの認定事実によれば、請求人の本件各年分の所得税等の申告がいずれも過少となった主な要因は、本件従業員分の売上げが事業所得の金額の計算上売上金額に算入されなかったことにあると認められる。
       そして、請求人が、税負担を抑えるという動機から本件従業員分の売上げを本件各収支内訳書に計上しなかったことは、請求人又は本件妻の申述等によっても明らかであり、請求人は、当初から所得を過少に申告するという意図を有していたものと認められる。
    • (ロ) 隠蔽又は仮装行為の有無について
       上記ロの請求人又は本件妻の申述等並びに上記ハの認定事実によれば、請求人は、本件従業員分の売上げやその費用の額が本件事業に係る事業所得の金額の計算上売上金額又は必要経費の金額に算入されるべきことを認識しつつ、これらをあえてその集計計算から除くなどして本件各年分の売上金額及び必要経費の金額を算出し、その算出したところに基づいて本件各収支内訳書を作成の上、これに基づく本件各所得税等申告書を提出することで過少申告行為に及んだものと認められる。
       しかしその一方で、本件全証拠等によっても、上記の各過少申告に至る過程で、請求人が架空名義の請求書を作成し、架空名義の本件各支払明細書を作成させ、あるいは、他人名義の預金口座に売上代金を入金させたというような事実は認められず、本件各支払明細書や領収証等の取引に関する書類を改ざんし、あるいは本件売上メモを作成し、又はこれらの書類を意図的に破棄・隠匿したなどの事実も認められない。
       そして、本件妻が、本件各支払明細書や領収証等の書類の一部(本件従業員に係るもの)を売上金額及び必要経費の金額の集計計算の基礎から作為的に除いていたという行為自体についても、上記ハの(ホ)の認定事実のとおり、請求人が本件各支払明細書や本件各預金通帳の全てを保存し、本件調査の際には、当初から売上金額の過少計上の事実を認めつつ、これらの書類を本件調査担当職員に提示していたという事情に鑑みると、当該行為をもって真実の所得解明に困難が伴う状況を作出するための隠蔽又は仮装の行為と評価することは困難である。
       これらのことからすると、上記の各過少申告に至る過程で、請求人に隠蔽又は仮装と評価すべき行為があったということはできない。
    • (ハ) 原処分庁の主張について
      • A 原処分庁は、請求人が、本件事業に係る毎月の売上金額を把握しつつ税金の負担を免れるために、本件従業員分の売上げを除外し、売上金額が1,000万円を超えないように調整した過少な売上金額を算定するための本件売上メモを本件妻に作成させ、本件売上メモに基づいて算定した過少な売上金額を本件各収支内訳書に記載した上、各申告後に本件売上メモを廃棄していたとし、これらの行為が隠蔽又は仮装の行為に該当する旨主張する(前記3の(4)の「原処分庁」欄のイの(イ)ないし(ハ))。
         しかしながら、原処分庁が主張する本件売上メモについては、各申告後に現存していないことは当事者間に争いがなく、本件全証拠等によっても、本件売上メモが存在したという事実自体明らかではなく、そこに原処分庁が主張する趣旨の内容が記載されていたとも認められない。仮に、原処分庁の主張する本件売上メモが、本件妻が売上金額の集計作業の過程で広告の裏紙などを利用して作成していたとする何らかのメモを意味するものであったとしても、請求人の申述又は本件妻の答述に照らすと、当該メモは、飽くまで集計過程の金額を備忘的かつ一時的に記載した単なる手控えにすぎないと認めるのが相当であるから、そのようなメモを請求人又は本件妻が申告後に廃棄していたとしても、これを隠蔽行為と評価することは困難である。
      • B また、原処分庁は、請求人が本件各収支内訳書に記載した売上金額が本件事業に係る売上金額の半分以下であったこと、また、請求人が本件従業員分の経費が毎年600万円以上ありながらこれらを本件各収支内訳書に必要経費として計上しなかったことをもって、隠蔽又は仮装行為に該当する旨主張する(前記3の(4)の「原処分庁」欄のイの(ニ)及び(ホ))。
         確かに、本件各収支内訳書に記載された売上金額は、いずれの年分においても原処分庁が本件各年分の所得税等の各更正処分によって認定した売上金額の5割に満たない金額であり、また、本件各収支内訳書に記載された必要経費の合計額に本件給与の額など本件従業員分の費用の額が計上されていなかったことから、上記の各更正処分において必要経費の金額がそれぞれ追加認容されたものと認められる(上記ハの(ハ)のD)。
         しかし、通則法第68条第1項に規定する重加算税を課すためには、上記イのとおり、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたことを要するから、本件において、請求人が本件従業員分の売上げや費用の存在を認識しつつこれらを本件各収支内訳書に計上せず、申告対象から除外したというだけでは、重加算税の賦課要件が満たされるものではないというべきである。
      • C さらに原処分庁は、請求人は当初から所得を過少に申告することを意図し、その意図を外部からもうかがい得る特段の行動をしたといえる旨主張する(上記3の(4)の「原処分庁」欄のロ)。
         しかし、原処分庁が主張する「特段の行動」とは、結局のところ、請求人が、1本件売上メモを本件妻に作成させ、2本件売上メモに基づいて算定した過少な売上金額を本件各収支内訳書に記載し、3本件各年分の所得税等の申告後に本件売上メモを廃棄したこと及び4本件各収支内訳書に記載した売上金額が本件事業に係る売上金額の半分以下の金額であり、また、本件各収支内訳書に本件従業員分の経費を必要経費として計上しなかったことをいうものであるところ、本件売上メモが作成されていたと認められないことは上記Aのとおりであり、また、本件収支内訳書に過少の売上金額や必要経費の金額を記載したというだけでは、隠蔽又は仮装の行為があったということができないことは上記Bのとおりである。
         したがって、本件において、過少申告行為そのものとは別に、隠蔽又は仮装の行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたものと評価し得るような「特段の行動」が請求人にあったとは認められない。
    • (ニ) 結論
       以上のとおりであるから、本件において、請求人に通則法第68条第1項及び第2項に規定する「隠蔽し、又は仮装し」に該当する事実があったとは認められない。
       したがって、請求人の本件各年分の所得税等の過少申告行為については、同条第1項に規定する重加算税を課すべき場合には該当せず、また、請求人の本件各課税期間の消費税等の無申告行為についても、同条第2項に規定する重加算税を課すべき場合には該当しないというべきである。

(5) 争点5(請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったか否か。)について

  • イ 法令解釈
     通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいうものと解すべきである。そうすると、単なる不申告行為はこれに含まれないものの、納税者が真実の課税標準を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意思の下に、課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出することにより、納付すべき税額を過少にして、本来納付すべき税額との差額を免れようとするような態様の過少申告行為も、単なる不申告に止まらず、偽りの工作的不正行為ということができるから、上記の「偽りその他不正の行為」に該当するというべきである。
  • ロ 当てはめ
     上記(4)のニの(ロ)のとおり、本件で認定できる請求人の行為をみても、請求人において、税額を免れる意図の下に、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為を行っているとはいえず、また、納税者が真実の課税標準を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意図の下に、課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出したともいえない。
     したがって、所得税等及び消費税等の申告について、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する事実があったとは認められない。
  • ハ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、前記3の(5)の「原処分庁」欄のとおり主張する。
     しかしながら、本件売上メモが作成された事実が認められないのは、上記(4)のニの(ハ)のAのとおりであるから、本件売上メモの存在を前提とした原処分庁の主張は、いずれもその前提を欠く。また、当審判所の調査及び審理の結果によっても、申告行為そのものである本件各収支内訳書の提出以外に、所得税等の過少申告又は消費税等の無申告に向けた何らかの積極的な行為があったとは認められない以上、税の賦課徴収を不能又は著しく困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正の行為があったとは認められないし、納税者が真実の課税標準を秘匿し、それが課税の対象となることを回避する意思の下に、課税標準を殊更に過少にした内容虚偽の確定申告書を提出したと評価する根拠もない。
     したがって、原処分庁の主張には理由がない。

(6) 争点6(本件給与に係る源泉所得税等の金額の算定に当たり、源泉徴収税額表の甲欄又は乙欄のいずれを適用すべきか。)について

  • イ 検討
     前記1の(3)のロの(ハ)のとおり、請求人は源泉所得税等を徴収しておらず、また前記1の(3)のハの(ホ)のとおり、本件調査担当職員が、請求人に対して、平成25年分ないし平成29年分の本件従業員の扶養控除等申告書を提出するよう求めた際、請求人は、扶養控除等申告書を受理していない旨申述し、当該扶養控除等申告書を提出しなかったのであるから、請求人は当該扶養控除等申告書を受理していなかったと認められる。そうすると、本件において、扶養控除等申告書の提出を前提とする所得税法第185条第1項第1号イの規定(甲欄)を適用することはできない。
      したがって、本件給与は、支払期が毎月と定められていることから、当該給与に係る源泉所得税等の金額の算定においては、所得税法第185条第1項第2号イの規定(乙欄)が適用され、源泉徴収税額表の乙欄に基づき、税額を算定することとなる。
  • ロ 請求人の主張について
     請求人は、前記3の(6)の「請求人」欄のとおりそれぞれ主張するが、いずれも所得税法第185条及び同法第190条《年末調整》の規定に反する主張であるから採用できない。

(7) 本件各年分の所得税等に係る各更正処分の適法性について

  • イ 平成24年分の所得税に係る更正処分の適法性について
    上記(5)のロのとおり、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する行為があるとは認められない。そうすると、請求人の平成24年分の所得税の更正処分は、同号が掲げる更正決定等には当たらないから、同条第1項第1号が定める期限から7年を経過する日まですることができる場合には該当しない。
     したがって、平成24年分の所得税に係る更正処分は、同条第1項柱書に規定する更正の期間制限を超えてされた違法なものであり、その全部を取り消すべきである。
  • ロ 平成25年分ないし平成28年分の所得税等に係る各更正処分の適法性について
     上記(1)のハのとおり、請求人の本件各年分の事業所得の金額の算定について、所得税法第156条に規定する推計の方法によるべきとは認められず、また上記(2)のイのとおり、本件妻に係る専従者控除の額は本件各年分に係る事業所得の金額の計算上差し引くことができない。
     これに基づき、請求人の平成25年分ないし平成28年分の総所得金額及び納付すべき税額を計算すると、いずれも平成25年分ないし平成28年分の所得税等に係る各更正処分の金額と同額となる。
     また、平成25年分ないし平成28年分の所得税等に係る各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、平成25年分ないし平成28年分の所得税等に係る各更正処分は、いずれも適法である。

(8) 本件各年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について

  • イ 平成24年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分の適法性について
     上記(7)のイのとおり、平成24年分の所得税に係る更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに起因する平成24年分の重加算税の賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
  • ロ 平成25年分ないし平成28年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分の適法性について
     上記(4)のニの(ニ)のとおり、請求人の本件各年分の所得税等の過少申告行為について、通則法第68条第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていないところ、平成25年分ないし平成28年分の所得税等の各更正処分に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、当該各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項第1号(平成28年法律第15号による改正前については同法第65条第4項)に規定する正当な理由があるとは認められず、他に計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争っていないから、平成25年分ないし平成28年分の所得税等に係る重加算税の各賦課決定処分のうち、過少申告加算税相当額を超える部分の金額については、いずれも別紙2−1ないし2−4の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(9) 本件各課税期間の消費税等に係る各更正処分の適法性について

  • イ 平成24年課税期間の消費税等に係る更正処分の適法性について
     上記(5)のロのとおり、請求人に、通則法第70条第4項第1号に規定する「偽りその他不正の行為」に該当する行為があるとは認められない。そうすると、請求人の平成24年課税期間の消費税等の更正処分は、同号が掲げる更正決定等には当たらないから、同条第1項第1号が定める期限から7年を経過する日まですることができる場合には該当しない。
     したがって、平成24年課税期間の消費税等の更正処分は、同条第1項柱書に規定する更正の期間制限を超えてされた違法なものであり、その全部を取り消すべきである。
  • ロ 平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の消費税等に係る各更正処分の適法性について
     上記(3)のハのとおり、請求人は、本件各課税期間において、課税仕入れの税額の控除に係る帳簿を保存していなかったとするのが相当であるから、本件各課税期間の仕入税額控除は適用できない。
    これに基づき、平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の請求人の消費税の課税標準額及び納付すべき税額並びに地方消費税の納付すべき税額を計算すると、いずれも平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の消費税等に係る各更正処分の金額と同額となる。
     また、平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の消費税等に係る各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     したがって、平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の消費税等に係る各更正処分は、いずれも適法である。

(10) 本件各課税期間の消費税等に係る無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分の適法性について

  • イ 平成24年課税期間の消費税等に係る無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分の適法性について
     上記(9)のイのとおり平成24年課税期間の消費税等に係る更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに起因する平成24年課税期間の消費税等に係る無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分についても、その全部を取り消すべきである。
  • ロ 平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の消費税等に係る無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分の適法性について
     上記(4)のニの(ニ)のとおり、請求人の本件各課税期間の消費税等の無申告行為について、通則法第68条第2項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていないところ、平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の消費税等の期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められず、他に計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争っていないから、同条第1項及び第2項並びに地方税法附則第9条の4《譲渡割の賦課徴収の特例等》及び第9条の9《譲渡割に係る延滞税等の計算の特例》第1項の規定に基づいてされた平成25年課税期間ないし平成28年課税期間の消費税等に係る無申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分のうち無申告加算税相当額を超える部分の金額については、いずれも別紙2−5ないし2−8の「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(11) 本件各月分の源泉所得税等に係る各納税告知処分の適法性について

 上記(6)のイのとおり、本件従業員について源泉徴収税額表の乙欄が適用されるところ、本件給与の源泉所得税等の金額を計算すると、本件各月分の源泉所得税等の各納税告知処分の額と同額となる。
 なお、本件各月分の源泉所得税等の各納税告知処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各月分の源泉所得税等の各納税告知処分はいずれも適法である。

(12) 本件各月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分の適法性について

上記(11)のとおり、本件各月分の源泉所得税等に係る各納税告知処分は、適法であり、本件各月分の源泉所得税等に係る各納税告知処分の源泉所得税等の額を法定納期限までに納付しなかったことについて、通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められず、他に計算の基礎となる金額及び計算方法につき請求人は争っていないから、同項の規定に基づき行われた本件各月分の源泉所得税等に係る不納付加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。

(13) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すこととする。

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