(平成31年4月19日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成27年11月○日に死亡したG1(以下「本件被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告の必要はないとして、原処分庁へ「相続についてのお尋ね」の回答書のみを提出していたところ、原処分庁が、本件被相続人名義の預貯金等は本件相続に係る相続財産と認められるなどとして、相続税の決定処分等をしたのに対し、請求人が、当該預貯金等の一部は請求人の固有の財産であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 相続税法第19条《相続開始前3年以内に贈与があった場合の相続税額》第1項は、相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続の開始前3年以内に当該相続に係る被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合においては、その者については、当該贈与により取得した財産の価額を相続税の課税価格に加算した価額を相続税の課税価格とみなし、同法第15条《遺産に係る基礎控除》から第18条《相続税額の加算》までの規定を適用して算出した金額をもって、その納付すべき相続税額とする旨規定している。
  • ロ 国税通則法(平成28年法律第15号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項第1号は、通則法第25条《決定》の規定による決定があった場合には、当該納税者に対し、当該決定に基づき通則法第35条《申告納税方式による国税等の納付》第2項の規定により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定し、通則法第66条第2項は、納付すべき税額が50万円を超えるときは、同条第1項の無申告加算税の額は、同項の規定により計算した金額に、その超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
     また、通則法第66条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は、無申告加算税を課さない旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 本件相続に係る相続人について
     本件相続に係る相続人は、本件被相続人の子である請求人並びにG2(平成24年6月○日死亡)を代襲した、本件被相続人の孫に当たるG3、G4及びG5の4名である。
  • ロ 本件相続に係る遺言について
     本件相続に関して、平成27年10月27日付の自筆証書遺言(以下「本件遺言書」という。)が存在するところ、その要旨は、次のとおりである。
     なお、本件遺言書は、平成28年4月18日にH家庭裁判所J支部において検認された。
    • (イ) 老齢の本件被相続人に献身的に尽くし、最期まで面倒を見てくれる請求人に以下の相続財産を含む全部を相続させる。
      • A d市e町○−○の土地
      • B d市e町○−○の土地の上に存する建物
      • C 本件被相続人名義の預金通帳
    • (ロ) 本件被相続人の面倒を見ることなく、無断で家を出て行ったG6(G2の配偶者)及び孫3名には一切相続させない。
  • ハ 「相続についてのお尋ね」について
     請求人は、原処分庁から「相続税の申告等についてのご案内」と題する書面が送付されたことから、当該案内に従い、同封の「相続についてのお尋ね」と題する書類(以下「お尋ね書」という。)に本件被相続人に帰属したとする財産等を記載して、原処分庁へ提出した(以下、請求人が回答を記載し提出したお尋ね書を「本件お尋ね回答書」という。)。
     なお、本件お尋ね回答書に記載された相続財産等は別表1のとおりである。
  • ニ 本件被相続人名義の財産について
     本件相続の時において、別表2のとおり、本件被相続人名義の預貯金が存在し、その口座ごとの残高は同表の「金額」欄のとおりであった。
     また、別表2以外の本件被相続人名義の財産の本件相続の時における価額は、別表3のとおりであった。
     以下、本件相続の時における残高が別表2の順号1から順号16までのとおりである本件被相続人名義の各預貯金を「本件各預貯金」といい、本件各預貯金に係る預貯金口座を「本件各預貯金口座」という。
  • ホ 本件被相続人名義及び請求人名義の預貯金の入出金について
     平成27年10月13日から本件相続の開始日である同年11月○日までの間に、別表4の「名義」欄が請求人である各預貯金口座(以下「本件請求人名義各預貯金口座」という。)に別表4の「入金」欄のとおりの入金があり、その最終入金日である同月20日以前に、別表2の順号1、順号2及び順号10から順号12までの各預貯金口座から別表4の「出金」欄のとおりの出金があった。
     なお、別表4の本件請求人名義各預貯金口座へ入金された現金の原資は、別表2の順号1、順号2及び順号10から順号12までの各預貯金口座から出金された現金であり、請求人がこれらの入出金の手続を行った。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 原処分庁所属の調査担当者は、平成29年8月3日、本件相続に係る相続税について、請求人に対する調査を開始した。
  • ロ 原処分庁は、上記イの調査に基づき、平成30年3月19日付で、別表2及び別表3については、全てが本件被相続人の相続財産であるとして、また、別表4の順号21以外の入金額と順号21の入金額のうち2,660,000円の合計額29,340,000円(以下、入金された現金を「本件入金」という。)については、本件相続の開始前3年以内に本件被相続人から贈与された財産の価額として相続税の課税価格に加算されるとした上で、本件相続に係る相続税の課税価格の合計額が基礎控除額を超えているとして、別表5の「決定処分等」欄のとおり、請求人に対して本件相続に係る相続税の決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
     以下、本件各預貯金と本件入金を併せて「本件各預貯金等」という。
  • ハ 請求人は、平成30年5月7日、本件決定処分、本件賦課決定処分及び延滞税に不服があるとして、審査請求をした。

2 争点

(1) 本件各預貯金等は、本件相続に係る相続税の課税価格に算入されるか否か(争点1)。

(2) 期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件各預貯金等は、本件相続に係る相続税の課税価格に算入されるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件各預貯金等は、次のとおり、本件相続に係る相続税の課税価格に算入される。 本件各預貯金等は、次のとおり、本件相続に係る相続税の課税価格に算入されない。
イ 本件各預貯金について イ 本件各預貯金について
(イ) 預貯金については、被相続人の死亡の時、被相続人名義であったことが認められる場合には、反証がない限り、名義人のものであると推定すべきであるから、本件各預貯金を含む別表2記載の預貯金全部が名義人である本件被相続人に帰属している。 (イ) 請求人は、本件被相続人に対し、平成7年以降、E2名義のK銀行○○出張所の普通預金口座から複数回にわたり引き出した現金を預けており、その合計額は7,000万円に上る(以下、請求人が本件被相続人に預けたとする金員を「本件金員」という。)。
 そして、本件各預貯金は本件金員を原資として運用し形成されたものである。
(ロ) 請求人の配偶者であるE2名義の預貯金口座から出金した現金を本件被相続人に預けたという請求人の主張には裏付けとなる証拠資料がなく、その具体的な時期や金額も明らかでないから、預けたとする金員の存在自体認められない。
 また、本件遺言書に「預金通帳」として「G1名義の一切のものをE1に相続させる。」と記載され、預けたとする金員についての記載がないのは、本件各預貯金が本件被相続人に帰属し、かつ当該預けたとする金員が存在しないことを示すものである。
(ロ) このことは、1本件被相続人の年金及びその配偶者の恩給の合計額は年間200万円程度にすぎず、1億円を超える本件被相続人名義の金融資産は本件金員なくして形成できないこと、2本件金員の原資は、上記(イ)のE2名義のK銀行○○出張所の普通預金口座から出金した現金であり、現に、本件各預貯金口座には、本件金員が原資とみられる高額の入金が複数回認められること、3本件遺言書には、本件被相続人名義の預貯金全部を請求人に相続させる旨記載され、本件金員の存在を前提とした内容となっていることからも明らかである。
(ハ) また、請求人は、本件被相続人から、本件金員を原資とした預金通帳を適宜見せてもらい、確認していた。
ロ 本件入金について
 本件入金の原資は、本件各預貯金口座から出金した現金であるから、相続税法第9条に基づき本件被相続人から請求人が贈与により取得したものとみなされ、同法第19条の規定が適用される。
ロ 本件入金について
 本件入金は、請求人が請求人の固有の財産である本件各預貯金口座から出金した現金を本件請求人名義各預貯金口座へ預け入れたものにすぎない。

(2) 争点2(期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

請求人 原処分庁
請求人は、本件相続に係る相続財産が相続税の基礎控除額以下であったことから、お尋ね書に本件被相続人の相続財産等、相続税に係る申告書の記載事項を正確に記載し、法定申告期限内の平成28年9月○日に、F税務署へ持参し提出した。
 その際、請求人は、F税務署の受付担当者に対して、本件被相続人の相続財産が基礎控除額以下である場合には本件お尋ね回答書が相続税の申告書に代わるものである旨を確認しているから、本件お尋ね回答書の提出をもって相続税の申告手続が完了したと認識した。
 これに対し、原処分庁は、請求人に対して、本件お尋ね回答書の提出日から原処分に係る調査の開始まで、本件お尋ね回答書の提出が相続税の申告に当たらない旨の連絡を一切しなかった。
 したがって、請求人には、無申告加算税を課せられるような非はなく、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」がある。
お尋ね書は、一般に、課税庁において、ある相続が申告を要するものであるか否かの判断材料を得ることを主な目的として納税者に対して任意に回答を求める書類であり、その末尾に相続税の納税申告書ではない旨も記載されている。
 請求人が本件相続に係る相続税の申告書を法定申告期限内に提出しなかったのは、請求人が本件お尋ね回答書は相続税の納税申告書に当たると考え、本件お尋ね回答書のみを提出したことが原因であって、このことは請求人の税法の不知又は誤解によるといわざるを得ない。
 したがって、請求人には、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」はない。

4 当審判所の判断

(1) 争点1(本件各預貯金等は、本件相続に係る相続税の課税価格に算入されるか否か。)について

  • イ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 本件各預貯金の管理等について
      • A 本件各預貯金口座の開設等
         本件被相続人は、昭和43年頃から平成27年6月17日までの間に、本件被相続人名義の本件各預貯金口座を開設した。
         なお、別表2の順号1から順号9まで及び順号12から順号15までの各預貯金は、それぞれ総合口座で管理されている。
      • B 本件各預貯金の届出印
        • (A) M銀行○○支店及びN農業協同組合○○支所
           別表2の順号10及び順号11の各預貯金の届出印は、本件被相続人が昭和55年11月から昭和60年4月までの間において、P証券○○支店(現、Q証券○○支店。以下同じ。)で取引する際に使用していた印鑑といずれも同一である。
        • (B) R銀行○○出張所
           別表2の順号1から順号9までの各預金の届出印は、上記(A)の印鑑とは異なるが、いずれも同一の印鑑である。
        • (C) T銀行
           別表2の順号12から順号16までの各貯金の届出印は、上記(A)及び(B)の印鑑とは異なるが、いずれも同一の印鑑である。
      • C 本件各預貯金の取引等
        • (A) 口座振替による支払状況
           別表2の順号1のR銀行○○出張所の普通預金口座からは、平成24年度第1期までの本件被相続人が所有する不動産に係る固定資産税が口座振替により支払われており、また、別表2の順号10のM銀行○○支店の普通預金口座からは、平成19年6月以前からの本件被相続人に係る互助会の会費、平成25年5月以降の本件被相続人に係る介護施設の利用料並びに本件被相続人が所有する不動産に係る平成27年度第2期及び第3期の固定資産税が口座振替により支払われている。
        • (B) 本件各預貯金の取引
           当審判所が確認したところでは、本件各預貯金の金融機関の窓口における各取引は、本件被相続人が行っている。
      • D 本件各預貯金口座の変更届
         本件被相続人は、随時、本件各預貯金口座に係る住所変更及び改印の各手続を行った。
    • (ロ) 本件各預貯金の原資について
      • A R銀行○○出張所
        • (A) 別表2の順号1の普通預金口座には、本件被相続人がR銀行において買付した投資信託に係る分配金が複数回振り込まれているほか、平成24年7月17日に投資信託の解約金が振り込まれ、さらに、平成26年2月以降、本件被相続人を受給者とする公的年金が振り込まれている。
           また、上記の普通預金口座には、平成27年11月18日、R銀行○○出張所の本件被相続人名義の定期預金(26,500,000円)が解約され、振替入金されている。
        • (B) 上記(A)の解約された本件被相続人名義の定期預金は、平成20年以前から預け入れられたR銀行○○出張所の本件被相続人名義の定期預金並びに平成21年12月9日から平成22年11月5日までの間に、上記(A)の普通預金、本件被相続人が契約者であったL保険の解約金及びN農業協同組合○○支所の本件被相続人名義の普通貯金を原資として預け入れられたR銀行○○出張所の本件被相続人名義の定期預金により形成されたものである。
        • (C) 別表2の順号2の貯蓄預金口座には、上記(A)の普通預金を原資として平成25年11月18日に2,000,000円が入金されている。
        • (D) 別表2の順号5及び順号6の各定期預金は、上記(A)の普通預金を原資として、平成23年3月22日に各2,300,000円が預け入れられ、その後、満期日に当該各定期預金を継続又は預け替えたことにより形成されたものである。
      • B M銀行○○支店
        • (A) 別表2の順号10の普通預金口座には、平成21年6月以降、本件被相続人を受給者とする公的年金が振り込まれ、さらに、本件被相続人の所有する上場株式に係る配当金、P証券○○支店の本件被相続人の口座から引き出された金員が複数回振り込まれている。
           また、上記の普通預金口座には、平成27年11月12日、M銀行○○支店の本件被相続人名義の定期預金(27,000,000円)が解約され、振替入金されている。
        • (B) 上記(A)の解約された本件被相続人名義の定期預金は、平成20年11月以前から預け入れられたM銀行○○支店の本件被相続人名義の定期預金及び平成20年11月5日から平成25年12月16日までの間に、上記(A)の普通預金及びN農業協同組合○○支所の本件被相続人名義の普通貯金を原資として預け入れられたM銀行○○支店の本件被相続人名義の定期預金により形成されたものである。
      • C N農業協同組合○○支所
         別表2の順号11の普通貯金口座には、少なくとも平成19年8月から平成25年12月までの間、本件被相続人を受給者とする公的年金が振り込まれ、また、本件被相続人を契約者とする共済契約に係る満期共済金が複数回振り込まれている。
      • D T銀行
        • (A) 別表2の順号12の○○口座には、少なくとも平成19年8月から平成21年4月までの間、本件被相続人を受給者とする公的年金が振替されている。
        • (B) 別表2の順号14の○○は、上記(A)の○○を原資として、平成24年9月6日に1,700,000円が預け入れられたものであり、また、同表の順号15の○○は、上記(A)の○○を原資として、平成27年6月17日に5,000,000円が預け入れられたものである。
        • (C) 別表2の順号16の○○は、上記(A)の○○を原資として、平成27年6月17日に3,000,000円が預け入れられたものである。
  • ロ 検討
    • (イ) 財産の帰属の認定方法について
       一般に預貯金の帰属を認定するに当たっては、その名義が重要な要素となることはもちろんであるが、他人名義で預貯金することは、特に親族間においてはまれではないことから、預貯金の帰属については、単に名義人が誰であるかという形式的事実のみにより判断するのではなく、管理運用の状況及びその原資となった金員の出捐者等を総合的に勘案して判断するのが相当である。
    • (ロ) 本件各預貯金について
      • A R銀行○○出張所、M銀行○○支店の各普通預金及びN農業協同組合○○支所の普通貯金並びにT銀行の○○(別表2の順号1及び順号10から順号12まで)について
         別表2の順号1及び順号10から順号12までの各普通預金、普通貯金及び○○については、そもそも、当該各普通預金口座、普通貯金口座及び○○口座は、本件被相続人名義であることに加え、1上記イの(イ)のAのとおり、本件被相続人が当該各普通預金口座、普通貯金口座及び○○口座を開設していること、2上記イの(イ)のDのとおり、本件被相続人が住所変更及び改印の手続を行っていること、3本件被相続人が1及び2の各手続を行っていることからすれば、当該各普通預金、普通貯金及び○○に使用している印鑑は、本件被相続人が管理していたと認められること、4上記イの(イ)のCの(A)のとおり、R銀行○○出張所及びM銀行○○支店の各普通預金口座からは、本件被相続人に係る固定資産税、互助会の会費及び介護施設の利用料が口座振替により支払われていること、5上記イの(イ)のCの(B)のとおり、当該各普通預金、普通貯金及び○○の金融機関の窓口における取引は、当審判所が確認したところでは本件被相続人により行われていたことを考え併せれば、本件被相続人がこれらの預貯金の管理運用を行っていたと認められる。
         また、6上記イの(ロ)のAの(A)、Bの(A)、C及びDの(A)のとおり、当該各普通預金、普通貯金及び○○には、本件被相続人を受給者とする公的年金、本件被相続人を契約者とする満期共済金、本件被相続人が所有する株式の配当金、投資信託の分配金が振り込まれ、また、本件被相続人名義で運用されていた定期預金が振替入金されており、これらの預貯金の原資は、本件被相続人の固有の財産と認められる。
         したがって、これらの事実を総合的に勘案すると、上記の各普通預金、普通貯金及び○○は、本件被相続人に帰属する。
      • B R銀行○○出張所の貯蓄預金及び定期預金(別表2の順号2から順号9まで)について
         別表2の順号2から順号9までの貯蓄預金口座及び各定期預金口座については、そもそも、当該貯蓄預金口座及び各定期預金口座が本件被相続人名義であることに加え、1上記イの(イ)のAのとおり、総合口座として同表の順号1の普通預金口座と一括で管理されていること、2上記イの(イ)のCの(B)のとおり、当該貯蓄預金及び各定期預金のR銀行○○出張所の窓口における取引は、当審判所が確認したところでは本件被相続人により行われていたことからすれば、本件被相続人が当該貯蓄預金及び各定期預金の管理運用を行っていたと認められること、3上記イの(ロ)のAの(C)及び(D)のとおり、本件被相続人に帰属する普通預金を原資として預け入れられた貯蓄預金及び定期預金があることを考え併せれば、当該貯蓄預金及び各定期預金は、本件被相続人に帰属する。
      • C T銀行の各○○及び○○(別表2の順号13から順号16まで)について
         別表2の順号13から順号16までの各○○及び○○については、そもそも、当該各○○及び○○口座が本件被相続人名義であることに加え、1上記イの(イ)のBの(C)のとおり、同一の印鑑により預け入れられていること、また、同表の順号13から順号15までの○○又は○○口座は、同表の順号12の○○口座と同一の○○で管理されていること、2上記イの(イ)のCの(B)のとおり、当該各○○及び○○のT銀行の窓口における取引は、当審判所が確認したところでは本件被相続人により行われていたことからすれば、本件被相続人が別表2の順号13から順号16までの各○○及び○○の管理運用を行っていると認められること、3上記イの(ロ)のDの(B)及び(C)のとおり、本件被相続人に帰属する○○を原資として預け入れられた○○があることを考え併せれば、当該各○○及び○○は、本件被相続人に帰属する。
      • D 小括
         したがって、本件各預貯金は、本件被相続人に帰属する相続財産である。
    • (ハ) 本件入金について
       本件入金の原資は、上記1の(3)のホのとおり、別表2の順号1、順号2及び順号10から順号12までの各預貯金口座から出金された現金であるところ、上記(ロ)のDのとおり、本件各預貯金は本件被相続人に帰属する相続財産であるから、本件入金は、本件被相続人に帰属する本件各預貯金口座から出金された現金が請求人に帰属する本件請求人名義各預貯金口座に入金されたものということになる。
       そして、一般に、妻子等自己と極めて親密な身分関係にある者に対し財産的利益を付与した場合、それは、後にその利益と同等の価値が現実に返還されるか又は将来返還されることが極めて確実であるなど特別の事情が存在しない限り、贈与であると認めるのが相当であるから、そのような特別の事情が認められない本件においては、本件入金は、請求人が本件被相続人より贈与を受けたものと認めるのが相当であり、本件入金は、相続税法第19条第1項の規定により本件相続に係る相続税の課税価格に加算される。
    • (ニ) 総括
       したがって、本件各預貯金等は、本件相続に係る相続税の課税価格に算入される。
  • ハ 請求人の主張について
    • (イ) 請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のイのとおり、本件各預貯金は、本件金員を原資として運用し形成されたものであり、その根拠として、1本件被相続人の年金及び本件被相続人の配偶者の恩給の収入金額の合計額は年間200万円程度である旨、2本件各預貯金口座には本件金員が原資とみられる高額な入金がある旨、3本件遺言書の内容は本件金員の存在を前提として預貯金の全部を請求人に相続させる内容となっている旨、4請求人は、本件被相続人から本件金員を原資とする本件各預貯金の通帳を適宜確認していたから、本件各預貯金は、本件相続に係る相続税の課税価格に算入されない旨主張する。
       しかしながら、1一般に金融資産は、その人の事業活動、労務の提供や資産の貸付け等の対価として得た収入のほか、他者からの相続や、株式等による資産運用、資産の処分等によって形成されるものであり、本件被相続人が受給要件を満たす年齢に達した後に受け取った年金等による収入のみで形成されるものではないのであり、現に、例えば、上記ロの(ロ)のとおり、本件各預貯金の中には、本件被相続人の固有の財産などである公的年金等を原資としているものがあること、2当審判所の調査によっても、E2名義の預金口座から出金された本件金員が本件各預貯金口座へ入金された事実は認められないこと、3本件遺言書の内容は、本件被相続人が、本件被相続人名義の各財産を自己の財産であると認識した上で、これを最期まで自己の面倒を見てくれる請求人に相続させるものと解するのが相当であり、本件金員の存在を前提としたものとは判断できないこと、4仮に、請求人が本件被相続人から本件各預貯金の通帳を適宜確認していたとしても、そのことをもって、本件各預貯金が請求人に帰属する財産であると認めることはできない。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
    • (ロ) また、請求人は、上記3の(1)の「請求人」欄のロのとおり、本件入金は、請求人固有の財産である本件各預貯金口座から出金した現金を本件請求人名義各預貯金口座に預けたものにすぎない旨主張する。
       しかしながら、上記ロの(ロ)のDのとおり、本件各預貯金は、本件被相続人に帰属する相続財産であるから、請求人の主張はその前提を欠く。
       したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     無申告加算税は、申告書の提出が期限内にされなかった場合に課されるものであり、これによって当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的な不公平の実質的な是正を図るとともに、無申告による納税義務の違反の発生を防止し、適正な申告納税の実現を図り、もって納税上の実を挙げようとする行政上の措置である。
     他方、通則法第66条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合は無申告加算税を課さない旨を定めているところ、無申告加算税が課される上記の趣旨に照らせば、この「正当な理由」があると認められる場合とは、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり、上記のような無申告加算税の趣旨に照らしてもなお、納税者に無申告加算税を課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当であり、単に法律の規定を知らなかったり、誤解していたりした場合は、この場合には当たらないというべきである。
  • ロ 検討
    • (イ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、本件相続に係る相続財産が基礎控除額以下であったことから、本件お尋ね回答書をF税務署へ持参し提出しており、その際、同署の受付担当者に、相続財産が基礎控除額以下である場合には本件お尋ね回答書が相続税の申告書に代わるものである旨を確認しているから、申告手続が完了したと認識した旨主張する。
       しかしながら、お尋ね書は、実務上、課税庁において、一定の基準に基づき、相続税の申告が必要と認められる者に対して、相続税の申告についての案内文書と共に送付されるものであり、送付を受けた者が相続税の納税義務を負わないと判断した場合には、回答を記載したお尋ね書のみを提出することとなるところ、相続税の納税義務を負わない場合には、回答を記載したお尋ね書のみを提出すればよいのであるから、仮にF税務署の受付担当者の回答によって、請求人が主張のとおり認識したとしても、このことは、請求人が本件相続に係る相続財産が基礎控除額以下であるから相続税の納税義務はなく、本件お尋ね回答書の提出をもって申告手続が終了したと誤解したものと見るのが相当であるから、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認められない。
    • (ロ) 請求人は、上記3の(2)の「請求人」欄のとおり、原処分庁が、請求人に対して、本件お尋ね回答書の提出日から平成29年8月3日の原処分に係る調査の開始まで、本件お尋ね回答書の提出が相続税の申告に当たらない旨の連絡を一切しなかった旨主張する。
       しかしながら、相続税法は申告納税制度を採用しており、この制度の下では、納税者は、自己の判断と責任において、課税標準及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められており、また、申告書の提出がない者に原処分庁がその旨を連絡しなければならないという法令の規定はないことからすれば、請求人には、原処分庁からの連絡の有無にかかわらず、法定申告期限内に相続税の申告をする義務があるから、真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があるとは認められない。
    • (ハ) したがって、請求人には、通則法第66条第1項ただし書に規定する「正当な理由」があるとは認められない。

(3) 本件決定処分の適法性について

  • イ 上記(1)のとおり、本件各預貯金等は、本件相続に係る相続税の課税価格に算入される。
     一方、当審判所の調査によれば、本件被相続人には、本件相続の時において、本件被相続人が所有する不動産の未納となっている固定資産税額○○○○円が存在し、これは、相続税法第13条《債務控除》第1項第1号に規定する相続財産の価額から控除される本件被相続人の債務に該当すると認められるところ、原処分庁は、本件決定処分において、これを控除していない。
  • ロ この点、原処分庁は、当審判所の求釈明に対し、上記イの未納の固定資産税額○○○○円の存在を認める一方で、本件決定処分で相続財産に加算していない財産が存在し、これを相続税の課税価格に加算して相続税額を計算すると本件決定処分の額を上回るから、本件決定処分は適法である旨回答するが、当審判所の調査によっても、本件相続の時に本件被相続人が原処分庁の主張する財産を所持していたことを認めるに足りる証拠はないから、当該財産が、本件被相続人の財産であったと認めることはできない。
  • ハ なお、原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
     以上を基に、当審判所において、本件相続に係る相続税の納付すべき税額を計算すると、別紙「取消額等計算書」の「3 課税標準等及び税額等の計算」の「裁決後の額」欄の23欄のとおり、本件決定処分の額を下回る。
     したがって、本件決定処分については、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(4) 本件賦課決定処分の適法性について

上記(2)のとおり、請求人には、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項に規定する正当な理由があるとは認められないが、本件決定処分は、上記(3)のとおり、その一部を取り消すこととなる。
 以上を基に、当審判所において、本件相続に係る相続税の無申告加算税の額を計算すると、別紙「取消額等計算書」の「加算税の額の計算」の「無申告加算税」欄の「裁決後の額」欄の3欄のとおり、本件賦課決定処分の額を下回る。
 したがって、本件賦課決定処分については、その一部を別紙「取消額等計算書」のとおり取り消すべきである。

(5) 延滞税に対する審査請求について

延滞税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項の規定及び通則法第60条《延滞税》第1項各号の規定により所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものであって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではない。
 したがって、延滞税に対する審査請求は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分が存在しないにもかかわらずなされたものであって、不適法なものである。

(6) 結論

よって、原処分に係る審査請求には理由があるから、原処分の一部を取り消すが、延滞税に対する審査請求は不適法であるからこれを却下することとする。

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