(令和元年6月27日裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

本件は、原処分庁が、審査請求人(以下「請求人」という。)の父の預金口座から出金され請求人の預金口座へ入金された金銭について、請求人が請求人の父からの贈与によって取得したものと認められるとして、贈与税の決定処分等をしたのに対し、請求人が、贈与の事実はなかったとして、原処分の全部の取消しを求めた事案である。

(2) 関係法令

  • イ 民法第549条《贈与》は、贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずると規定している。
  • ロ 相続税法(平成25年法律第5号による改正前のもの。以下同じ。)第1条の4《贈与税の納税義務者》第1号は、贈与により財産を取得した個人で当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有する者は、贈与税を納める義務がある旨規定している。
  • ハ 相続税法第9条は、対価を支払わないで利益を受けた場合においては、当該利益を受けた時において、当該利益を受けた者が、当該利益を受けた時における当該利益の価額に相当する金額を当該利益を受けさせた者から贈与により取得したものとみなす旨規定している。

(3) 基礎事実

当審判所の調査及び審理の結果によれば、以下の事実が認められる。

  • イ 請求人は、D信用金庫○○支店に請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件請求人口座」という。)を有し、請求人の父であるEは、同信用金庫○○部に父E名義の普通預金口座(口座番号○○○○。以下「本件父E口座」という。)を有していた。
  • ロ 平成23年4月6日に本件父E口座から〇〇〇〇円が出金され、そのうちの〇〇〇〇円が本件請求人口座に入金された(以下、当該資金移動を「本件平成23年資金移動」という。)。
  • ハ 平成24年10月19日に本件父E口座から〇〇〇〇円が出金され、本件請求人口座に入金された(以下、当該資金移動を「本件平成24年資金移動」といい、本件平成23年資金移動と併せて「本件各資金移動」という。)。
  • ニ 請求人は、平成26年12月○日に父Eが死亡するまで、父Eが営む「F医院」の青色事業専従者であった。

(4) 審査請求に至る経緯

  • イ 請求人は、平成23年12月22日に、父Eからの贈与により現金〇〇〇〇円を取得した。
  • ロ 請求人は、平成24年12月31日に、父Eからの贈与により現金〇〇〇〇円を取得した。
     なお、請求人は、当該贈与について、課税価格を〇〇〇〇円及び納付すべき税額を〇〇〇〇円と記載した平成24年分の贈与税の申告書を法定申告期限までにG税務署長に提出して申告した。
  • ハ 原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成30年1月25日に、請求人に対する平成23年分及び平成24年分の贈与税に係る実地の調査(以下「本件贈与税調査」という。)を開始した。
  • ニ G税務署長は、本件贈与税調査の結果に基づき、平成30年3月9日付で、平成23年分の贈与税について、別表の「決定処分等」欄のとおりの決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「平成23年分決定処分等」という。)をし、また、平成24年分の贈与税について、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「平成24年分更正処分等」という。)をした。
  • ホ 請求人は、平成23年分決定処分等及び平成24年分更正処分等に不服があるとして、平成30年6月9日にそれぞれ再調査の請求をしたところ、再調査審理庁は、平成30年9月4日付でいずれも棄却の再調査決定をした。
  • へ 請求人は、再調査決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成30年10月6日に審査請求をした。

2 争点

(1) 本件贈与税調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か(争点1)。

(2) 請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したといえるか否か(争点2)。

3 争点についての主張

(1) 争点1(本件贈与税調査の手続に原処分を取り消すべき違法があるか否か。)について

原処分庁 請求人
平成30年1月25日の本件調査担当職員から請求人への本件贈与税調査を実施する旨の通知は、国税通則法(平成30年法律第16号による改正前のものをいい、以下「通則法」という。)第74条の9《納税義務者に対する調査の事前通知等》第1項の規定に基づくものと認められる。
 また、本件調査担当職員が税理士法人Hに所属するJ税理士及び税理士法人Kに所属するL税理士に対して行った本件贈与税調査の結果の内容の説明、平成23年分の期限後申告及び平成24年分の修正申告の勧奨並びに書面の交付は、通則法第74条の11《調査の終了の際の手続》第2項、第3項及び第5項の規定に基づくものと認められる。
 以上のとおり、原処分は、通則法第74条の9第1項の規定に基づく通知並びに同法第74条の11第2項、第3項及び第5項の規定に基づく説明、勧奨及び交付を経て行われているから、本件贈与税調査の手続に原処分を取り消すべき違法はない。
原処分は、本件各資金移動の実態を確認するための調査を経ることなく行われた。
 また、請求人が本件調査担当職員から本件各資金移動についての本件贈与税調査の結果の内容の説明とこれによる平成23年分の期限後申告及び平成24年分の修正申告の勧奨を受けた際、そのような勧奨は受け入れ難い旨返答したところ、本件調査担当職員から、「修正申告に応じず争いになった場合、マスコミなどに取り上げられて好奇の目で見られる」旨の脅すような発言や、「顧問税理士に対して損害賠償の請求ができる」旨の税理士法人H及び税理士法人Kとの信頼関係をこじらせようと画策するような発言もあった。
 以上のとおり、本件贈与税調査の手続には、原処分を取り消すべき違法がある。

(2) 争点2(請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したといえるか否か。)について

原処分庁 請求人
本件各資金移動について、請求人と父Eとの間で金銭消費貸借契約が締結された事実及び請求人の主張する立て替えた費用の精算や前渡しの事実は認められない。
 したがって、請求人と父Eの間には、民法第549条に規定する贈与契約の要件事実について黙示の合意があったと認めるのが相当であるから、請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したといえる。
本件各資金移動の実態は、医療関係者との交渉や接待、会議への出席等本来父Eが従事すべき医療業務に請求人が父Eの代理人として従事した際に立て替えて支払った費用の精算と、今後同様に父Eの代理人として従事することにより立て替えて支払うこととなる費用の前渡しである。
 本件各資金移動は、父Eが請求人に対し贈与する意思をもって行われたものではなく、また、請求人が父Eから受贈する意思をもって行われたものでもない。
 以上のとおり、請求人と父Eとの間で、民法第549条に規定する贈与はなかったのであるから、請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したとはいえない。

4 当審判所の判断

本件審査請求については、主要な争点である争点2から判断する。

(1) 争点2(請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したといえるか否か。)について

  • イ 法令解釈
     相続税法第1条の4第1号は、上記1の(2)のロのとおり規定しているところ、相続税法上の贈与を明確に定義する規定はなく、相続税法上の贈与は、民法第549条に規定する贈与をいうものと解される。
     また、相続税法第9条は、上記1の(2)のハのとおり規定しているところ、法律的には贈与により取得した財産でなくても、その取得した事実によって実質的に贈与と同様の経済的利益を生ずる場合においては、税負担の公平の見地から、その取得した財産について、当該利益を受けさせた者からの贈与により取得したものとみなして贈与税を課税することとしたものと解される。
  • ロ 認定事実
     請求人提出資料、原処分関係資料並びに当審判所の調査及び審理の結果によれば、次の事実が認められる。
    • (イ) 請求人は、上記1の(4)のイ及びロの贈与により取得した現金を、本件請求人口座に入金することなく費消した。
    • (ロ) 父Eは、D信用金庫○○支店の窓口において、本件平成23年資金移動に係る出金及び入金の各手続を同時に行い、請求人の母であるMは、同信用金庫○○部の窓口において、本件平成24年資金移動に係る出金及び入金の各手続を同時に行った。
    • (ハ) 請求人は、自己名義のクレジットカード(以下「本件請求人カード」という。)を保有し、N社やP社への支払や、ホテル利用料金・飲食代金・ネット購入代金などの支払に使用しており、その決済金の支払口座を本件請求人口座としている。
    • (ニ) 請求人は、平成29年6月27日に、本件調査担当職員に対し、請求人は、父Eの指示により月1回から2回程度の頻度で開催される医療専門団体の会議に出席しており、その交通費や私的な費用の支払に本件請求人カードを使用している旨申述している。
  • ハ 当てはめ
     相続税法第9条は、上記イのとおり、法律的には贈与により取得した財産でなくても、その取得した事実によって実質的に贈与と同様の経済的利益を生ずる場合においては、税負担の公平の見地から、その取得した財産について、当該利益を受けさせた者からの贈与により取得したものとみなして贈与税を課税することとしたものと解されるから、請求人に、本件各資金移動によって実質的に贈与と同様の経済的利益が生ずる場合には、贈与税が課税されることとなる。
     これを本件についてみると、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、上記1の(4)のイ及びロの贈与により取得した現金を本件請求人口座に入金することなく費消していたことが認められるところ、これら父Eからの贈与のうち、贈与税の基礎控除を超える贈与を父Eから受けた際には、上記1の(4)のロのとおり贈与税の申告書を法定申告期限までにG税務署長に提出している。
     一方、本件各資金移動は、上記1の(3)のロ及びハのとおり、本件父E口座から出金された金銭が本件請求人口座に入金されたものであることが認められる。また、上記ロの(ロ)のとおり、父E及びMは、D信用金庫○○部又は同信用金庫○○支店の窓口において、本件各資金移動に係る出金及び入金の各手続を同時に行っていることが認められる。さらに、請求人は、上記ロの(ハ)のとおり、本件請求人カードによりN社やP社等への支払を行い、その決済金の支払口座を本件請求人口座としていることが認められる。
     以上の各事実に加え、上記ロの(ニ)のとおり、請求人が、本件調査担当職員に対し、父Eの指示により月1回から2回程度の頻度で開催される医療専門団体の会議に出席していた旨申述していることを併せ考慮すれば、父Eは、同人の指示に基づいて請求人が医療専門団体の会議に出席した際の交通費等を支弁する目的で本件各資金移動をしていたとみるのが自然である。
     そうすると、請求人に、本件各資金移動によって実質的に贈与と同様の経済的利益が生じていたと認めることはできない。
     したがって、請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したと認めることはできない。
  • ニ 原処分庁の主張について
     原処分庁は、上記3の(2)の「原処分庁」欄のとおり、本件各資金移動について、請求人と父Eとの間で金銭消費貸借契約が締結されていた事実及び請求人の主張する立て替えた費用の精算や前渡しの事実は認められないから、請求人と父Eとの間に贈与についての黙示の合意があったと認めるのが相当であり、請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したといえる旨主張する。
     確かに、当審判所の調査の結果によっても、本件各資金移動について、請求人と父Eとの間で金銭消費貸借契約が締結されていた事実は認められない。
     しかしながら、本件各資金移動について、請求人と父Eとの間で金銭消費貸借契約が締結されていなかった事実のみをもって、請求人と父Eとの間に贈与についての黙示の合意があったと認めることはできない。
     そして、父Eは、同人の指示に基づいて請求人が医療専門団体の会議に出席した際の交通費等を支弁する目的で本件各資金移動をしていたと認められることは上記ハのとおりであるから、原処分庁の上記主張には理由がない。

(2) 原処分の適法性について

上記(1)のハのとおり、請求人は、本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したと認めることはできない。
 したがって、争点1について判断するまでもなく、請求人が本件各資金移動により、父Eからの贈与により財産を取得したことを前提とする平成23年分決定処分等及び平成24年分更正処分等は、いずれも違法であり、その全部を取り消すべきである。

(3) 結論

よって、審査請求には理由があるから、原処分の全部を取り消すこととする。

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