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(平4.6.1、裁決事例集No.43 390頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、不動産賃貸業等を営む傍ら競走馬を有する馬主であるが、昭和64年1月1日から平成元年12月31日までの課税期間の消費税について、消費税法(平成3年法律第73号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》の規定を適用した確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人は、平成3年4月1日に次表の「更正の請求」欄のとおり記載した更正の請求をしたところ、原処分庁はこれに対して同年7月8日付で更正をしないことの通知をした。

(単位:円)
区分 課税標準額 納付すべき税額
確定申告 117,003,000 702,000
更正の請求 102,991,000 617,900

 

 請求人は、この処分を不服として平成3年7月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年10月9日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、この異議決定を経た後の原処分に対し、なお不服があるとして、平成3年10月15日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次に述べるとおり、競走馬の賞金に係る消費税法第28条《課税標準》第1項に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」の解釈を誤っているから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人(馬主)と調教師との間で取り交わした「競走馬預託契約書」には、競馬主催者から競走馬の入賞により分配される賞金(以下「競走馬賞金」という。)について、調教師に対しては20パーセントを進上金として配分し、80パーセントを馬主の賞金額とする旨の確約があるので、請求人(馬主)が取得する競走馬賞金は80パーセントであり、20パーセントの進上金は、請求人(馬主)が調教師に対して支払う報償金ではない。
ロ 仮に、進上金が競走馬の入賞したことに対する調教師への報償金としても、これは競馬業界の慣習として、競馬主催者による競走馬賞金の調教師に対する分配金である。
ハ また、競走馬賞金の80パーセントを馬主が取得することは、競馬法施行以来、永年にわたり持続している社会通例の慣習として認容されていることからも明らかである。
ニ 更に、馬主の収得した賞金額が競走馬賞金の80パーセントに相当する金額であることは、昭和46年に馬主と国税当局間において、「賞金の80パーセントに相当する金額から預託料60万円を差し引き、その残額に対して10パーセントの源泉所得税を納付する。」旨及び「競走馬を5頭以上所有する馬主の賞金については事業所得とする。」旨の合意事項からみても明らかである。
ホ しかも、進上金に対して、請求人(馬主)に消費税が課税されるとなると、これを受領した調教師も別途消費税を納付しており、これは二重課税である。
ヘ 以上のとおり、競走馬の賞金に係る消費税の課税標準は進上金を差し引いた後の賞金額であるから、更正の請求に対し、更正をしないこととした原処分は違法である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次に述べるとおり適法である。
イ 請求人は、調教師との間で交わした預託契約書の中で、20パーセント相当額を進上金とする旨契約した上、各競馬主催者から受領する当該進上金については、調教師、騎手会会長又は馬主会会長へその受領権限を委任し、その旨を各競馬主催者に連絡している。
 この委任を受け、各競馬主催者は調教師へ進上金を配分していることから、各競馬主催者より交付される競走馬賞金は、いったん請求人に帰属し、当該賞金から調教師に配分される進上金は、本来、請求人が支払うべき入賞したことに対する調教師への成功報酬と認められる。
ロ したがって、請求人に対して各競馬主催者から交付される進上金を差し引く前の競走馬賞金の額が、消費税法第28条第1項に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」に相当する。
ハ 請求人は、進上金について、請求人に消費税が課税されるとなると、これを受領した調教師も別途消費税を納付しており、これは二重課税である旨主張するが、調教師へ配分される競走馬賞金の20パーセント相当額については、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項に規定する仕入控除税額となるものであり、二重課税には当たらない。
ニ 以上のとおり、消費税法第28条第1項に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」は、進上金を差し引く前の賞金額であるから、請求人が行った更正の請求に対し、更正をしないこととしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、消費税法第28条に規定する課税標準の計算に当たり、同法第1項に規定する「課税資産の譲渡等の対価の額」が、競走馬賞金の額から進上金を差し引く前の金額なのか、差し引いた後の金額なのかにあるので、以下この点について審理する。

(1) 競走馬賞金の額及び進上金の額並びに調教師が競走馬賞金の20パーセントの進上金を受領していることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

(2) 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。

イ 請求人は、自己が所有する競走馬を調教師へ預託(以下、預託された競走馬を「預託馬」という。)する際、当事者間で競走馬預託契約(以下「預託契約」といい、当該契約に基づき作成された契約書を以下「預託契約書」という。)を締結しているが、当該預託契約書には、次の要旨が記載されていること。
(イ) 調教師は、善良なる管理者の注意をもって預託馬を飼養管理し、かつ、調教しなければならない。
(ロ) 調教師は、次の事項について、請求人から委任を受けて競馬に関する業務の代理を行うものとする。
 1馬の登録、2出走の申込み、3馬検査の立会い、4出走投票、5賞金、諸手当の受領
(ハ) 調教師は、預託馬1頭ごとの収支につき次に掲げる分類に従って明細書を作成し、請求人に提出しなければならない。
 1賞金諸手当、2進上金、3出走申込手数料、4その他の経費
 ただし、進上金については、あらかじめ請求人、調教師双方において協議の上、定めるものとする。
ロ 競馬主催者であるA競馬会は、預託契約の当事者ではないことを理由に、請求人から提出された預託契約書(写し)の提出に代えて、一般的に馬主が使用している契約書(写し)を提出してきたが、当該契約書(写し)の第6条には、預託馬が競走に出走して賞金及びこれに準ずる金員を取得したときは、馬主が調教師に進上金を支払う旨記載されていること。
ハ 請求人は、預託契約をした調教師を請求人の代理人と定めた旨記載した「委任状」を作成し、これを請求人所有馬が出走するすべての競馬主催者に提出しているが、当該委任状には、調教師に対し、次の事項に関する一切の行為を委任する旨記載されていること。
(イ) 出走申込み及び出走投票に関する事項
(ロ) 競馬主催者から受ける賞金の20パーセント(進上金)及び出走馬輸送奨励金の受領に関する事項
(ハ) 競馬主催者から受ける賞品の受領に関する事項
ニ 請求人は、預託馬が出走したことに対する賞金等について、その受領方法を各競馬主催者に届け出て(A競馬会へは「賞金等受領依頼書」により、A競馬会以外の各競馬主催者へは「賞金・奨励金等口座振込依頼書」等によっている。)いるが、当該届出の内容によると、支払われる賞金等から、税金及び進上金を差し引いた残額を請求人へ支払うよう依頼していること。
ホ 請求人が平成元年分所得税の確定申告書に添付したA競馬会○○県××市競馬組合及び△△市長(以下これらを併せて「A競馬会等」という。)の「平成元年分報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」(以下「賞金等の支払調書」という。)の「賞金等」の「支払金額」欄には、進上金を差し引く前の賞金額が記載されていること。
ヘ A競馬馬主協会連合会及び□□競馬馬主連合会(以下両者を併せて「馬主協会連合会」という。)が連名で発行している「平成元年分競走馬:税の手引き」(以下「税の手引」という。)によると、進上金については、馬主が調教師、騎手及び廐務員に対する謝礼金として、調教師に一括して支払う必要経費である旨解説していること。

(3) 以上の各事実を基として判断すると、次のとおりである。

イ 請求人は、預託契約書で確約したとおり、競走馬賞金の80パーセントが請求人の賞金額であり、調教師へ配分される競走馬賞金の20パーセントは馬主から調教師へ支払う報償金ではない旨主張する。
 しかしながら、前記(2)のイの事実のとおり、進上金は請求人と調教師との相対契約に基づき、依頼者である請求人が調教等をした調教師に対して支払う何らかの対価と解され、また、この対価は、前記(2)のロのA競馬会から提出された預託契約書(写し)の第6条の記載内容あるいは、前記(2)のヘの事実からみると、預託馬が入賞したことによる請求人からの調教師に対する報償金と認めるのが相当である。
 したがって、請求人の主張を採用することはできない。
ロ また、請求人は、仮に、進上金が預託馬の入賞したことに対する調教師への報償金としても、これは競馬業界の慣習として、競馬主催者による競走馬賞金の調教師に対する分配金である旨主張する。
 しかしながら、請求人が主張するように、進上金は競馬業界の慣習として当然に競馬主催者から調教師に支払われるものとすると、上記(2)のハ及びニのとおり請求人が進上金の受領を調教師へ委任したり、競馬主催者に対し、進上金等を差し引いた残額を請求人に支払うよう依頼する必要性はなく、更に、前記(2)のホのとおり、A競馬会等競馬主催者が請求人へ支払う賞金額は進上金を差し引く前の賞金額であり、進上金が預託馬の入賞したことによる競馬主催者からの調教師に対する分配金とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ つぎに、請求人は、競走馬賞金の80パーセントに相当する金額が馬主の取得する賞金額であることは、競馬法施行以来、永年にわたり持続している社会通例の慣習として認容されていることからも明らかである旨主張する。
 しかしながら、前記(2)のホの事実のとおり、そもそもA競馬会等競馬主催者が請求人へ支払う賞金額は、進上金を差し引く前の賞金額そのものと認められるから、社会通例の慣習として認容されていることについて検討し判断するまでもなく、請求人の主張は採用できない。
ニ 請求人は、馬主の収得した賞金額が入賞したことによる賞金の80パーセントに相当する金額であることは、昭和46年に馬主と国税当局間において、「賞金の80パーセントに相当する金額から預託料60万円を差し引き、その残額に対して10パーセントの源泉所得税を納付する。」との合意事項からみても明らかである旨主張する。
 確かに、所得税法第204条《源泉徴収義務》及び所得税法施行令第320条《報酬、料金、契約金又は賞金に係る源泉徴収》の規定を要約すると、馬主が受ける競馬の賞金については、賞金の額の20パーセントに相当する金額と60万円との合計額を控除した残額を課税標準として源泉所得税を計算するとされている。
 この規定は、昭和42年の税制改正において、プロレスラー、ホステス及び職業拳闘家の収入あるいは馬主が受領する競馬の賞金について、これらの報酬が固定的に発生するものではなく、確定申告の際に一時に納税するよりは、収入があった都度一定の所得税を天引き(源泉徴収)し、確定申告において確定した際の納税を容易にするという点を考慮して定められたものであって、それぞれの納税者の収入すべき金額を規定したものではない。
 したがって、この規定をもって請求人(馬主)が収得すべき賞金が、賞金の80パーセントに相当する金額であるとする請求人の主張には理由がない。
ホ 更に、請求人は、馬主の収得した賞金額が入賞したことによる賞金の80パーセントに相当する金額であることは、昭和46年に馬主と国税当局間において、「競走馬を5頭以上所有する馬主の賞金については、事業所得とする。」との合意事項からみても明らかである旨主張する。
 しかしながら、競走馬を5頭以上所有する馬主の賞金について事業所得として課税することとされたのは、所得税法上、競走馬を有する馬主については、その実態に即した課税をするための所得区分を示したものと解され、馬主の収入すべき金額を示したものではないので、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ また、請求人は、進上金に対して、馬主に消費税が課税されるとなると、これを受領した調教師も別途消費税を納付しており、これは二重課税である旨主張する。
 消費税法における納付すべき税額の計算は、消費税法第28条及び同法第29条《税率》の規定により、課税期間中の課税標準額に対する消費税額から、同法第30条に規定する同期間中の課税仕入に係る消費税を控除して算出される。
 したがって、本件進上金は、消費税法第30条第1項に規定する仕入れに係る消費税額の控除の対象となるべきところ、請求人は、消費税法第37条の規定を適用して申告しており、請求人の主張には理由がない。
ト 以上審理したとおり、請求人の各主張にはいずれも理由がなく、原処分庁が行った原処分は相当である。

(4) 原処分のその余の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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