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(平5.10.29、裁決事例集No.46 124頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、出版業を営む同族会社であるが、平成元年2月1日から平成2年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に所得金額を零円、課税留保金額を零円、納付すべき税額を零円と記載して法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、所得金額を9,740,099円、課税留保金額を零円、納付すべき税額を3,045,100円と記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成2年11月30日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成2年12月25日付で所得金額を18,066,268円、課税留保金額を2,451,000円及び納付すべき税額を6,787,100円とする更正処分並びにこれに係る過少申告加算税の額を561,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成3年2月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分の手続について
(イ)原処分に係る通知書(以下「本件通知書」という。)には、「更正」の文字の記載がなく空欄となっており、国税通則法第28条《更正又は決定の手続》第1項に規定する更正手続上、重大な瑕疵がある。
(ロ)原処分庁が本件事業年度において売上計上漏れと認定した書籍・雑誌類(以下「本件商品」という。)の取引について、請求人と取次店は、当初から委託販売と認識しており、企業会計原則注解注6(1)及び法人税基本通達2ー1ー3《委託販売による収益の帰属の時期》に準拠して、売上計算書の到着をもって継続的に売上を計上している。
 本件通知書には、請求人の売上取引が委託取引となるものではないと記載されているのみでその理由が附記されていないこと、留保金課税される理由の記載がないこと及び棚卸商品計上誤りとなる理由の記載がないことから、本件通知書の更正理由の記載は不備である。
ロ 帳簿代用書類及び推計課税について
(イ)請求人が保存しているA販売株式会社(以下「A販売」という。)の計算書及びB販売株式会社(以下「B販売」という。)の仕入支払計算書(平成元年3月25日締切分以前のものについては計算書。以下、A販売の計算書と併せて「本件計算書等」という。)は、法人税法施行規則第59条《帳簿書類の整理保存》第3項に規定する帳簿代用書類に該当するものであり、同規則別表20《青色申告書の提出の承認を受けようとする法人の帳簿の記載事項》の(11)に該当する売上帳である。
(ロ)仮に、本件商品について出荷の日で売上を計上するとした場合でも、本件通知書別紙に記載されているA販売及びB販売に対する売掛金残高は、請求人の帳簿に基づくものではなく推計課税であり、無効である。
ハ 本件商品の売上計上基準について
(イ)請求人は、本件商品の取引について、当初から委託販売として継続的に会計処理をしており、原処分庁が認定している買戻し条件付売買による売上計上基準は採用していない。
 したがって、当然、委託販売による計算書未着分は、売上げに計上する必要がない。
 請求人は、取次店との委託契約により、取次店に本件商品を積送後に取次店から売上計算書を受け取っており、その到着日と入金日のズレは一週間以内であるところから、事務の簡便性のために入金日に売上げを計上しているのである。
 また、株式会社C書店(以下「C書店」という。)及び株式会社D書店(以下「D書店」という。)については、請求人の資金繰りの都合上、一刻も早く売上金額と入金日を知りたいため、お互いに電話により確認をしている。
 このように請求人と取次店は、上記の方法により委託販売の取引を、何ら支障なく長年にわたりスムーズに行ってきたのである。
(ロ)出版業に関する法令で定められた会計規定はない。
 したがって、その出版社と取次店との取引の実態に則して、企業会計原則で認められている複数の会計処理のうち、当事者が選択した会計処理を、課税上弊害がない限り継続的に採用できるものである。
(ハ)なお、本件事業年度末の棚卸高として計上すべきであった委託販売先の取次店へ積送した本件商品の期末在庫分を、本件修正申告書で所得金額に加算したものである。
ニ 所得金額について
 仮に、請求人と取次店との間における本件商品の取引が、原処分庁が認定したように買戻し条件付売買であるとした場合であっても、次の誤りがある。
(イ)本件事業年度末におけるC書店に対する売掛金の額は5,592,354円であり、原処分庁が認定した金額と一致しない。
(ロ)本件事業年度の売上金額を認定する場合、本件事業年度中の入金額に本件事業年度末の売掛金の額を加算した金額から昭和63年2月1日から平成元年1月31日までの事業年度(以下「前事業年度」という。)末の売掛金の額を控除すべきであるが、原処分は、この控除を行っていない。
ホ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり、いずれも適法である。
イ 更正処分の手続について
(イ)本件通知書に「更正」という文字が欠落していたとしても、本件通知書の「記」の「申告又は更正前の額」欄及び「更正又は決定の金額」欄並びに「更正の理由」の固定文字にある「所得金額等に加算、減算して更正しました」との記載から、一般人がこれをみて更正通知書であることは十分了知し得るものである。
 したがって、本件通知書に「更正」の文字が欠落していたとしても、これをもって本件更正処分の効力に影響を及ぼすものではない。
(ロ)本件通知書には、更正理由として、本件事業年度の売上げとして所得金額に加算すべきものとした金額が請求人の帳簿書類の売上げに計上されていない旨の記載に加え、売上金額の算定の基とした資料及び金額並びに「この取引は委託取引となるものではありませんので出荷の日が売上の計上日となります」と本件事業年度の売上げとして所得金額に加算した理由が記載されている等請求人がいかなる理由によって更正を受けたか十分に理解できる程度の具体性を具備しているから、更正理由の記載に不備はない。
ロ 帳簿代用書類及び推計課税について
(イ)請求人は、A販売及びB販売に対する売上帳を作成しておらず、両社に対する売上高は、両社から送付されてくる本件計算書等の記載金額に基づき支払われた金額により計上していることが認められる。
(ロ)このため、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、A販売及びB販売を調査した結果に基づき、両社が作成した本件計算書等及び両社の帳簿書類の記録を基に、両社に対する請求人の本件事業年度末における売掛金残高を算定し、本件事業年度の売上げに計上されるべき金額を認定したのであって、推計課税となるものではない。
ハ 本件商品の売上計上基準について
(イ)調査担当職員が、請求人備付けの帳簿書類及び本件売上先(A販売、B販売、C書店、D書店及びE株式会社(以下「E社」という。)の5社をいう。以下同じ。)を調査したところ、次の事実が認められた。
A 原処分庁が把握した本件事業年度末における売掛金額は次表のとおり23,860,748円であり、いずれも請求人が本件売上先に対し、本件事業年度末までに納品した本件商品の売上金額で本件事業年度末の売掛金となる金額であると認められるところ、請求人の本件事業年度の決算書には、当該売掛金の金額及びこれに係る売上げが計上されていないこと。

(単位:円)
取引先 金額
C書店 5,803,229
D書店 3,307,120
A販売 14,214,891
B販売 381,008
E社 154,500
合計 23,860,748

 

B 請求人が主張するごとく、委託販売による経理とするならば、上記Aに掲げた部分の原価相当額は、本件事業年度の期末棚卸高に計上されるべきところ、本件確定申告書に添付された決算書には、それに該当する期末棚卸高の計上がされていないこと。
C 請求人は、売上代金の入金時を売上げの計上日として経理しており、決算修正の手続においても、売上げの計上基準を委託販売に係る経理処理とする修正処理を行っていた事実は認められないこと。
D 仮に、本件商品の売上げに係る取引が委託販売であるとするなら、請求人は受託者から委託品の販売について、その売上日、数量、金額及び委託手数料の金額等を売上計算書により報告を受けているべきところ、その事実は認められず、本件売上先においても委託販売に係る経理処理及び委託品の売上計算書を作成していた事実は認められないこと。
(ロ)なお、調査担当職員が請求人に対し、前記(イ)の事実を指摘したところ請求人は、本件商品の期末売掛金の原価に相当する額である15,534,579円を棚卸商品計上漏れとして本件事業年度の所得金額に加算し、併せて、その他の修正事項に係る金額を加算、減算した本件修正申告書を平成2年11月30日に原処分庁に提出した。
(ハ)ところで、委託販売とは、商品の販売を自ら行わないで他の商人に委託して販売を行うことをいい、受託者がなした行為は法律上は委託者自身の行為としての効果を有し、委託品の所有権は移転することなく依然として委託者にあり、受託者はいつにても委託者の求めに応じて委託品の販売状況を報告する義務を有し、受託者はあらかじめ定められた手数料のみを取得するものであると解される。
(ニ)これを請求人と本件売上先との本件商品に係る取引についてみると、当該取引には、委託の要素が全くないものであって、その本質は、売れ残り商品を無条件で買い戻す特約の付された売買であることから、本件商品に係る取引は、買戻し条件付の売買というべきものである。
(ホ)以上のとおり、請求人の本件商品の売買に係る取引は、委託販売に該当するものではない。
ニ 所得金額について
(イ)C書店に対する本件事業年度末の売掛金の額を5,803,229円としたことについては、請求人備付けの売上げに関する明細書及び納品伝票控等に基づき算定したものであって、原処分庁の調査によれば、C書店から平成2年2月1日から平成3年1月31日までの事業年度(以下「翌事業年度」という。)に返品あるいは入金された売掛金の合計額は、本件事業年度末の売掛金の額と同額となるからC書店に対する本件事業年度末の売掛金の額を5,592,354円とする請求人の主張は誤りである。
(ロ)前記ハの(ニ)のとおり本件商品に係る取引は、委託販売に係る取引ではなく、買戻し条件付きの売買取引と認められるから、本件商品の売上げは、当該商品の出荷の日をもって計上すべきこととなる。
 そして、原処分庁が認定した23,860,748円の売上計上漏れに係る本件商品は、原処分庁が請求人及び本件売上先を調査した結果、本件事業年度末までに本件売上先に納品されていることが認められるから、本件事業年度の売上げに計上すべきものとなるところ、請求人の帳簿書類によると当該売上金額が本件事業年度の売上げに計上されていないから、これを本件事業年度の所得金額に加算したものである。
(ハ)そうすると、請求人の本件事業年度における所得金額は、次のAの金額にBの金額を加算し、Cの金額を減算した額18,066,268円となり、本件更正処分に係る所得金額と同額である。
A 申告に係る所得金額 9,740,099円
 請求人の本件修正申告書に記載の金額である。
B 売上計上漏れの金額 23,860,748円
 前記ニの(ロ)のとおり、本件商品の本件事業年度における売上計上漏れ金額である。
C 棚卸商品計上誤りの金額 15,534,579円
 前記ニの(ロ)のとおり、本件事業年度末までに本件売上先に納品され本件事業年度の売上げとなるべき本件商品について、その原価を請求人が、本件修正申告書で棚卸商品計上漏れとして誤り計上した金額である。
(ニ)課税留保金額については、前記(イ)のB及びCの金額は、その金額が留保金額の増加又は減少する金額となるので、これらの金額を本件修正申告書に記載の留保金額に加算、減算し、法人税法第67条《同族会社の特別税率》第2項の規定に基づき、本件事業年度の課税留保金額を計算すると2,451,000円となり、本件更正処分の課税留保金額と同額である。
ホ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 本件賦課決定処分については、請求人の場合、本件更正処分により納付すべきこととなった法人税額の計算の基礎となった事実について、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき当期の過少申告加算税を賦課決定したものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、更正処分に係る手続の違法性の存否並びに帳簿代用書類の適否、売上計上基準の適否及び所得金額の多寡にあるので、以下審理する。

(1) 更正処分の手続について

イ 請求人は、本件通知書には、「更正」の文字の記載がなく、このことは、国税通則法第28条第1項に規定する更正手続上重大な瑕疵であるから、本件更正処分は、違法であると主張する。
(イ)当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
A 原処分庁から、請求人に送付された本件通知書の「法人税額等の「更正」通知書及び加算税の賦課決定通知書」及び「事業年度分の法人税について下記のとおり法人税額等の「更正」及び加算税の賦課決定をしたから通知します」の文章に、それぞれ「更正」の文字の記載がないこと。
B また、本件通知書の「記」の「申告又は更正前の金額」欄及び「更正又は決定の金額」欄の該当する部分にそれぞれ所要の数字が記入されており、「更正の理由」欄の固定文字に「所得金額等に加算、減算して更正しました」と記載されていること。
(ロ)上記(イ)のAのとおり、本件通知書は、一部に「更正」の文字の欠落があるものの、上記(イ)のBの記載があるので、請求人において更正通知書と了知するに足りる事項が記載されていたものと認められるから、本件通知書の一部に「更正」の文字が欠落していることの瑕疵をもって、本件更正処分全体を違法とする請求人の主張は採用できない。
ロ 請求人は、本件通知書には、請求人の売上取引が委託取引となるものではないと記載されているのみでその理由の附記がないこと等から、本件更正処分は違法であると主張する。
 しかしながら、青色申告書に係る更正処分を行う場合において、更正の理由附記が必要とされる趣旨は、原処分庁に対し、慎重かつ妥当な判断により処分を行うことを担保させるとともに、処分を受けた法人にその理由を理解させ、不服申立てに便宜を与えるものと解されるところ、本件通知書には、否認の対象、原処分庁の判断の根拠が明確に示されており、請求人は原処分の理由を具体的に知ることができるものと認められるから、原処分に瑕疵があり、これを違法とする請求人の主張には理由がない。

(2) 帳簿代用書類及び推計課税について

 請求人は、請求人が保存しているA販売及びB販売から送付された本件計算書等が請求人における帳簿代用書類としての売上帳である旨主張するとともに、原処分庁が請求人の帳簿によらずに両社に対する売掛金残高を算定したことは推計課税であり、本件更正処分は無効である旨主張するので審理する。
イ 帳簿代用書類の認定
(イ)帳簿代用書類については、法人税法施行規則第59条第3項に「取引に関する書類のうち、別表20に定める記載事項の全部又は一部の帳簿への記載に代えて当該記載事項が記載されている書類を整理し、その整理されたものを保存している場合における当該書類をいう」と規定されている。
(ロ)法人税法施行規則別表20の(11)において、帳簿代用書類の売上げに関する事項に係る記載事項は、1取引の年月日、2売上先、3品名その他給付の内容、4数量、5単価及び金額並びに6日々の売上総額と定められている。
(ハ)当審判所が、請求人から証拠資料として提出された本件計算書等を調査したところ、本件計算書等には、上記(ロ)に列記された記載事項のうち2売上先は記載されているが、1取引の年月日、3品名その他給付の内容、4数量、5単価及び金額並びに6日々の売上総額が記載されていないことが認められる。
(ニ)したがって、本件計算書等は、請求人の法人税法施行規則第59条第3項に規定する帳簿代用書類に該当せず、これらの証拠資料のみをもって、本件計算書等が請求人の売上帳であるとする請求人の主張は採用できない。
ロ 推計課税の有無
(イ)当審判所が、請求人から提出された証拠資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人はA販売及びB販売との取引については、売上帳を作成せず、専ら、両社から送付されてくる本件計算書等に基づいて経理処理を行っていること。
B このため、調査担当職員は、A販売及びB販売の両社について調査を行い、それぞれの帳簿書類の記録を基に請求人の売掛金残高を把握したこと。
(ロ)以上のことから判断すると、調査担当職員は、請求人がA販売及びB販売に対する売上帳を作成していないために、やむを得ず、両社に対する帳簿書類の調査を行い、請求人との実際の取引に基づいて売掛金残高を把握したものであると認めるのが相当である。
(ハ)したがって、このように取引実績額を基礎として売掛金残高を把握したことは、課税標準あるいはそれを構成する要件事実を直接の証拠によらず、間接事実から推測して認定する方法である推計課税に当たらないから、請求人の主張は失当である。

(3) 本件商品の売上計上基準について

 請求人は、本件売上先に対する売上げに関して、当初から委託販売として継続的に会計処理を行っており、買戻し条件付売買による売上計上基準は採用していないので、当然に委託販売による計算書未着分は売上げに計上する必要がないと主張するので審理する。
イ 当審判所の調査によれば、出版業において、通常、委託取引と呼ばれる取引は、出版社が取次店に対して見込み数量による出版物を送付し、取次店は自己の都合により、何割かの代金を支払い、その後、逐次売却した代金の支払いとともに売れ残り品を返品することにより、それに相当する金額を買掛金(出版社の売掛金)から差引くという特約のある売買取引であり、出版物という商品の特殊性から返品の条件がついているものの、その本質は、一般の棚卸資産の販売と異なるところはないと認められる。
 すなわち、売主からみれば買戻し条件付きの売買、買主からみれば返本特約付きの売買であるといえる。
ロ 当審判所の調査によれば、請求人がA販売と締結した取引約定書及びB販売と締結した約定書(以下、これらを総称して「本件約定書等」という。)は、それぞれA販売及びB販売所定の書式に請求人の本社所在地又は住所、商号等を加筆して作成されたもので、本件約定書等には、それぞれ返品についての特約は明記されているが、委託販売に関する項目は記載されていない。
 また、請求人とA販売及びB販売以外の本件売上先との間で作成された約定書等はないが、請求人とこれら売上先との取引は、出版業において、通常、委託取引と呼ばれる取引と異なるところは認められない。
ハ A販売の仕入管理課員○○及びB販売の書籍仕入課長××は、当審判所に対して、請求人との取引は、返本特約付きの売買である旨申述している。
ニ 以上のとおり、A販売及びB販売が、請求人との取引を返本特約付きの売買(請求人からみれば買戻し条件付きの売買)であると認識していること、また、両社以外の本件売上先との取引も、出版業界において、通常、委託取引と呼ばれている取引と異なるところは認められないことから、請求人と本件売上先との間における本件商品に係る取引は、買戻し条件付きの売買とみるのが相当である。
 したがって、請求人の本件商品に係る売買取引を、買戻し条件付きの売買であると認定し、本件商品の売上げを本件商品の引渡しのあった日の属する事業年度の益金の額に算入することとした原処分の判断に誤りはない。
ホ また、請求人は、請求人の委託販売による経理処理に誤りはない旨主張するが、当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、売上代金の入金時を売上げの計上日として経理していること。
(ロ)本件確定申告書及びこれに添付された決算書では、本件事業年度中に本件売上先に納品され、代金未回収の本件商品に係る原価相当額が本件事業年度の期末棚卸高に計上されていないこと。
(ハ)調査担当職員が上記(ロ)の事実を指摘したところ、請求人は、棚卸商品の計上を失念していたとして原処分庁が認定した期末売掛金の原価に相当する額を棚卸資産計上漏れとして本件事業年度の所得金額に加算し、併せて、その他の修正事項に係る金額を加算、減算した本件修正申告書を原処分庁に提出したこと。
 以上のとおり、委託販売に基づく経理であるならば、本件確定申告書及びこれに添付された決算書に原処分庁が認定した期末売掛金の原価に相当する期末棚卸高の計上がなされてしかるべきところ、これがないこと、同様に、委託販売に基づく経理であるならば、受託者が販売をした日又は受託者からの計算書が到達した時点で収益を計上すべきところ、請求人は、売上代金が入金された時点をもって収益を計上していること等から、請求人と本件取引先との取引が、委託販売による経理処理によっていたとは認められない。
したがって、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

(4) 所得金額について

イ 本件事業年度末の売掛金の額
 原処分庁が、認定した本件事業年度末の本件売上先に対する売掛金の額の多寡について争いがあるところ、当審判所が、原処分関係資料及び請求人から提出された証拠資料等を調査した結果は、以下のとおりである。
(イ)C書店に対する売掛金の額
 請求人が主張する本件事業年度末におけるC書店に対する売掛金の額5,592,354円には、本件事業年度末までに納品され翌事業年度において、C書店から返品されている額419,030円が含まれていない。
 これを修正すれば、本件事業年度末におけるC書店に対する売掛金の額は6,011,384円となる。
 したがって、C書店に対する本件事業年度末における売掛金の額は、6,011,384円とすることが相当であると認められる。
(ロ)また、原処分庁は、本件事業年度末におけるD書店に対する売掛金の額を3,307,120円と認定しているが、次表のとおり6,877,134円とすることが相当である。

(単位:円)
区分 金額
委託分(新刊口雑誌「□□□□」) 6,165,057
注文分 712,077
合計 6,877,134

 

(ハ)なお、原処分庁は、本件事業年度末における、A販売、B販売及びE社に対する売掛金について、次表のとおりそれぞれ認定しているところ、当審判所の調査によってもこれらの金額は相当と認められる。

(単位:円)
取引先 金額
A販売 14,214,891
B販売 381,008
E社 154,500

 

(ニ)そうすると、本件事業年度末の本件売上先に対する売掛金の額は、次表のとおり総額27,638,917円となる。

(単位:円)
取引先 金額
C書店 6,011,384
D書店 6,877,134
A販売 14,214,891
B販売 381,008
E社 154,500
合計 27,638,917

 

ロ 前事業年度末の売掛金の額
 本件事業年度の売上金額を認定する場合、本件事業年度中の入金額に本件事業年度末の売掛金の額を加算した金額から前事業年度末の売掛金の額を控除すべきであるが、当審判所が、本件売上先を調査したところ、前事業年度末の本件売上先に対する売掛金の額は、次表のとおり総額25,155,850円であると認められる。

(単位:円)
取引先 金額
C書店 5,592,354
D書店 8,935,366
A販売 10,431,912
B販売 196,218
合計 25,155,850

 

ハ 繰越欠損金
 当審判所が、原処分関係資料を調査したところ、法人税法第57条《青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し》に規定する本件事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度において生じた欠損金額は7,396,978円であること及び本件修正申告書に係る所得金額は、当該欠損金の全額に相当する金額を本件事業年度の所得の計算上、損金の額に算入して算出された金額であることが認められる。
ニ 所得金額
(イ)当審判所の調査によれば、本件修正申告書に係る売上金額には、前事業年度末における売掛金の額で本件事業年度に入金された金額と、本件事業年度末までに本件売上先に納入された本件商品の売上金額で本件事業年度に入金された金額とが本件事業年度の売上金額に含まれており、本件事業年度末までに本件売上先に納入された本件商品の売上金額のうち、同日までに本件売上先から入金されていない金額が本件事業年度の売上金額に含まれていない。
(ロ)請求人が、本件修正申告書で所得金額に加算した期末棚卸高15,534,579円は、原処分庁の認定のとおり、本件事業年度の所得金額に加算しないことが相当である。
(ハ)そうすると、請求人の本件事業年度における所得金額は、本件修正申告書に係る所得金額に本件事業年度末における売掛金の額(前記イの(ニ)の表の金額27,638,917円)を加算し、前事業年度末における売掛金の額(前記ロの表の金額25,155,850円)及び上記(ロ)の金額を減算し、更に前記ハの繰越欠損金に関する調整を行った結果、次表のとおりとなる。

(単位:円)
区分 金額
本件修正申告書に係る 所得金額 1 9,740,099
繰越欠損金控除額 2 7,396,978
繰越欠損金控除前の額
12
3 17,137,077
加算 本件事業年度末の売掛金の額 4 27,638,917
減算 棚卸商品計上額 5 15,534,579
前事業年度末の売掛金の額 6 25,155,850
計(56 7 40,690,429
繰越欠損金控除前の額(347 8 4,085,565
本件事業年度開始の日前5年以内に開始した事業年度の繰越欠損金控除額 9 7,396,978
繰越欠損金控除額(89のうち少ない金額) 10 4,085,565
所得金額(810))   0

 

(ニ)以上のとおり、本件事業年度における請求人の所得金額は零円となり、本件修正申告に係る所得金額に満たないから、本件更正処分はその全部を取り消すべきである。

(5) 過少申告加算税の賦課決定処分について

 更正処分の全部の取消しに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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