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(平5.8.24、裁決事例集No.46 177頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、印刷業を営む同族会社であるが、原処分庁は、平成3年12月27日付で、同年2月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)について、給与所得の金額を14,529,350円、源泉所得税の額を3,786,238円とする納税告知処分及び不納付加算税の額を378,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、平成4年2月18日、これらの処分を不服として異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月13日付で原処分のうち、源泉所得税の額について3,785,709円、不納付加算税の額について378,000円を超える部分を取り消す旨の異議決定(以下、それぞれ異議決定により一部取り消された後の納税告知処分を「本件納税告知処分」、不納付加算税の賦課決定処分を「本件不納付加算税の賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、平成4年6月12日、異議決定を経た後の原処分について不服があるとして、審査請求をした。

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2 主張

(1) 請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件納税告知処分について
 請求人は、平成3年2月25日、請求人の役員及び使用人(以下「従業員」という。)の福利厚生及び退職慰労金の財源確保を目的に、A生命保険相互会社(以下「A生命」という。)との間において、いわゆる養老保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した。
 請求人は、本件保険契約が、請求人を契約者、別表1に記載の従業員を被保険者、満期保険金の受取人を請求人、死亡保険金の受取人を被保険者の遺族等とする保険契約であることから、その保険料の税務上の取扱いについて、法人税基本通達9ー3ー4《養老保険に係る保険料》の(3)及び所得税基本通達36ー31《使用者契約の養老保険に係る経済的利益》の(3)(以下「本件通達」といい、法人税基本通達9ー3ー4と併せて「本件両通達」という。)の本文に従って、その支払った保険料29,054,780円(以下「本件保険料」という。)のうちの2分の1に相当する金額14,527,390円は資産に計上し、残額は損金の額に算入し、本件通達のただし書の適用はないものと判断していた。
 ところが、原処分庁は、本件保険契約に係る被保険者が請求人の役員と使用人のうちの役付者のみであり従事員全員でないことから、請求人の保険加入目的である従事員の福利厚生等に即応しておらず、本件保険料の支払が、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人のみを被保険者としている場合に該当するとして、本件納税告知処分を行った。
 しかしながら、本件納税告知処分は、次の理由により違法である。
(イ)本件両通達のただし書の適用について
A 原処分庁は、従事員の福利厚生が前提である以上、全従事員が保険加入の対象となるべきであるにもかかわらず、請求人が本件保険契約の被保険者を従事員のうちの役付者のみに限定しているとして原処分を行っている。
 しかしながら、養老保険自体、必ずしも一挙に全従事員を被保険者にしなければ加入できないものではなく、税務関係法令、通達においても、全従事員が被保険者でなければならない、あるいは、全従事員の何パーセント以上の人員を被保険者にすべきであるとは定められておらず、また、役付者のみが被保険者の場合には、本件両通達のただし書にいう特定の使用人として取り扱う旨の明示はない。
B 本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人とは、役付者の中の何人かの高位置にある役員又は部課長という意味であり、特定の使用人とは、使用者の同族関係者並びに使用者が恣意的に限定した者と解釈すべきである。
 また、本件通達に係る注書の2の(2)において、「役員又は使用人の全部又は大部分が同族関係者である法人については、たとえその役員又は使用人の全部を対象として保険に加入する場合であっても、その同族関係者である役員又は使用人については、ただし書を適用する。」としていることからすると、本件通達のただし書は、同族会社の同族関係者を対象とした行為に適用することを意図したものである。
C 本件通達に係る注書の2の(1)において、「保険加入の対象とする役員又は使用人について、加入資格の有無、保険金額等に格差が設けられている場合であっても、それが職種、年齢、勤続年数等に応ずる合理的な基準により、普遍的に設けられた格差であると認めるときは、ただし書を適用しない。」とされている。
 この注書は、本件通達のただし書を適用しない一般的な例示にすぎない。
 請求人は、1勤続年数15年以上、2年齢40歳以上、3定年60歳までの定着度の各要件を勘案し、総合的に検討して別表2記載のとおり、役員3人、次長・所長3人、課長5人、主任14人及びその他の社員1人の計26人を第1回保険加入の対象者としたものである。
 企業における従事員の定着性は、年齢や勤続年数に正比例しないばかりか、転職者の中途採用や退職者が少なくない現下の雇用情勢をかんがみれば、年齢や勤続年数のいずれかによる基準は、普遍的基準ではあるが合理的基準とはいい得ず、むしろ重きを置くべき基準は定着度であり、定着度を推定することこそ合理的基準である。
 したがって、たとえば主任以上という基準も、上記注書にいう合理的な基準である。
 なお、請求人において、主任は、いわゆる管理者ではなく課長の統率指揮の下で業務を推進する経験豊かな職種技能を有する者であり、定着意欲が高いと見られる者である。
D したがって、本件保険契約に係る被保険者は、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人に該当しない。
(ロ)本件保険契約と請求人の保険加入目的との関係について
 原処分庁は、本件保険契約が請求人の保険加入目的に即応するものでないとしているが、本件保険契約は、以下に述べるとおり、従事員の福利厚生あるいは退職慰労金の財源確保という目的に即応したものである。
A 全従事員を一度に被保険者とするには相当多額の保険料を必要とすること、従事員の中には勤続定着性のない者も多数存在する等の理由から、請求人にとって、最初から全従事員を被保険者とすることは不可能である。
B そこで、請求人は、経営状態を勘案して計画的に被保険者拡大を図る方針で、初年度に役員及び主任以上の役付者全員を被保険者とし、次年度以降に勤続15年以上の従事員、次に勤続10年以上の従事員を被保険者として養老保険に加入する計画を立て、現実に平成4年2月には被保険者を増加させている。
C したがって、原処分庁が、平成3年2月の保険加入状況のみをもって、本件保険契約が福利厚生あるいは退職慰労金の財源確保等の目的に即応してなされていないと決めつけるのは不当である。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件納税告知処分は違法であるから、本件不納付加算税の賦課決定処分も違法である。

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(2) 原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件納税告知処分について
 本件納税告知処分は、次のとおり適法である。
(イ)本件両通達のただし書の適用について
A 本件通達は、その本文において、使用者が自己を契約者とし、その従事員を被保険者、死亡保険金の受取人を被保険者の遺族等とするいわゆる養老保険契約をなし、被保険者が死亡保険金に係る保険料相当額の経済的利益を享受している場合であっても、被保険者が死亡して初めてその遺族等が保険金を受け取るものであり、保険料の掛け込み段階で一律に給与として課税するのは実情に即さないため、いわば一種の福利厚生費として被保険者が受ける経済的利益はないものとする旨明らかにするとともに、そのただし書において、当該保険契約の被保険者が役員又は特定の使用人のみである場合には、使用者が支払った保険料の2分の1に相当する金額を被保険者が享受する経済的利益として給与として課税することを明らかにしているところである。
 このように、従事員の福利厚生を前提に経済的利益がないものとして取り扱う以上、原則として全従事員を保険加入の対象とすべきである。
 しかしながら、全従事員を保険加入の対象としていない場合でも、それが職種、年齢、勤続年数等に応ずる合理的な基準により、普遍的に設けられた格差であると認められるときは、上記の本件通達が定められた趣旨から、そのただし書を適用しないことになる。
 したがって、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人を、単に役員又は部課長等役付者全員の中の何人かの高位置にある者に限られるものと解すべきではない。
B 請求人は、本件保険契約に係る被保険者について、1勤続年数15年以上の者、2年齢40歳以上の者、3定年までの定着度の各要件を総合勘案して、各職種より選定した旨主張する。
 しかしながら、本件保険契約の被保険者には、別表2に記載のとおり請求人における勤続年数が15年以上で、かつ、年齢が40歳以上という請求人がいう要件に該当しない者が9人含まれており、むしろ、請求人は、実質的に主任以上の役付者を被保険者の対象としたものと認められる。また、請求人において、主任以上の役付者への昇格は、年齢や勤続年数に直接的に関連するものではない。
 したがって、本件保険契約に係る被保険者は、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人に該当する。
(ロ)本件保険契約と請求人の保険加入目的との関係について
 請求人は、本件保険契約を従事員の福利厚生及び退職慰労金の財源確保を目的に締結した旨主張しているが、上記(イ)のBのとおり実質的に主任以上の従事員を保険加入の対象にしたものと認められ、従事員のうち役付者でない者をその対象としていないことから、本件保険契約は請求人が主張する保険加入目的に即応するものとは認められない。
(ハ)したがって、本件保険契約に係る被保険者は、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人に該当するから、原処分庁は別表1の「原処分庁主張額」の「支給金額」欄に記載した死亡保険金に係る保険料相当額を所得税法第28条《給与所得》第1項にいう給与等の収入金額として課税対象額に含め、所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》第1項第1号により、本件納税告知処分に係る源泉所得税額を算定した。
ロ 不納付加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件納税告知処分は適法であり、かつ、請求人が当該告知処分に係る税額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないことから、本件不納付加算税の賦課決定処分は適法になされている。

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3 判断

(1) 本件納税告知処分について

 本件審査請求の争点は、請求人が支払った本件保険料について本件両通達のただし書による取扱いをすべきであるか否か、すなわち、本件保険契約の被保険者が、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人に該当するか否かにあるので、以下審理する。
イ 請求人提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成3年2月25日、A生命との間において本件保険契約を締結していること。
(ロ)本件保険契約は、満期保険金の受取人を請求人、死亡保険金の受取人を被保険者の遺族等とするいわゆる養老保険であり、主契約以外に特約は付されていないこと。
(ハ)請求人は、平成3年2月25日、A生命に対し本件保険料に充当するため、29,058,700円を支払い、A生命は、同月28日に成立保険料との差額3,920円を請求人に返戻した結果、本件保険料の金額は、29,054,780円であること。
(ニ)本件保険契約に係る被保険者の氏名、職制上の地位、年齢、保険期間、満期保険金の額及び保険料の金額は、別表1の「本件保険契約」欄の各欄に記載のとおりであること。
(ホ)請求人は、本件保険料に係る支払及び返戻について、平成3年2月25日及び28日付の振替伝票により14,527,390円を保険積立金勘定に繰り入れ、結果として14,527,390円を保険料勘定に繰り入れる経理処理をしていること。
(ヘ)上記(ホ)の保険料勘定に繰り入れた14,527,390円は、請求人が平成3年2月分の源泉徴収の対象とした給与等の収入金額には含まれていないこと。
(ト)本件保険契約に係る保険加入に関して、平成3年2月1日に取締役会が開催され、同月付で生命保険加入規程が作成されており、その議事内容及び規程内容のうち、保険加入の目的及び被保険者の選定に係る事項の概要は、それぞれ次のとおりであること。
A 取締役会議事録
(A)保険加入の趣旨は、定年退職者の退職金の財源を積み立てることを第一義とし、併せて従事員の安定定着性の向上を図る。
(B)被保険者とする従事員は、定着度を重視して年齢、勤続年数、職種、職能を合理的に検討の上選定する。
(C)次年度、次々年度と段階的に被保険者を増加していく方針とする。
B 生命保険加入規程
(A)被保険者の範囲は、主任以上の全役付者を対象とし、次年度の被保険者については勤続10年以上の従業員を対象とする。
(B)保険金額は、加入資格のある従事員は1,000万円とし、管理職者は2,000万円とする。
(チ)請求人の就業規則には、第12条(役職の任免)において、「会社は、業務運営上の必要に応じ、役職に任命し、またはこれを解任することがある。」とされていること。
(リ)請求人の職制規程には、その第3条(役職者の設置)において、請求人の「社員の役職名はこれを次のとおりとする。(1)部長、(2)工場長、(3)課長、(4)主任」とされていること。
(ヌ)請求人の人員構成、保険加入の状況、請求人の主張する基準等に該当する者の状況は、それぞれ別表2のとおりであること。
(ル)本件保険契約の被保険者であるBは、年齢が47歳、勤続年数が1年であるが、いわゆるヘッドハンティングにより獲得した人材で、実質的に主任とみることのできる者であること。
(ヲ)本件保険契約時において、主任以上の従業員で本件保険契約の被保険者となっていないのは、営業課課長のCのみであるが、同人はA生命が被保険者として契約するための取扱基準に該当しない者であること。
(ワ)本件保険料の計算に係る「第一回保険料充当金領収証(No.060083)に対する被保険者毎明細書」には、当初、Cの氏名が被保険者欄に記載されていたが、Bに訂正され、領収金額欄も訂正されていること。
ロ 本件両通達が定められた趣旨について
(イ)所得税法第36条《収入金額》第1項は、「その年分の各種所得の金額の計算上収入金額とすべき金額又は総収入金額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする。」と定めており、同項のかっこ書において、その収入すべき金額には経済的利益の金額が含まれる旨を明らかにしている。
 すなわち、所得税法において、経済的利益の金額は、課税の対象であることが本則とされるものである。
(ロ)いわゆる養老保険は、被保険者に死亡の保険事故が生じた場合に死亡保険金が支払われるほか、保険期間の満了時に被保険者が生存している場合にも生存保険金が支払われる生命保険であって、その保険料は死亡保険金を支払う財源となる危険保険料、生存保険金を支払う財源となる積立保険料及び主として事業費を賄う付加保険料から成っている。
 当該生命保険契約における保険金受取人は、保険契約者が別段の意思表示をしない限り、契約者が指定したときに保険金請求権を自己固有の権利として原始的に取得するものと解すべきところ、本件保険契約は、被保険者である請求人の従事員に保険事故が生じた場合、被保険者の遺族が死亡保険金を取得することとされているので、請求人が負担した保険料の金額のうち当該部分に係る保険料すなわち危険保険料については、被保険者である請求人の従事員が利益を享受することになり、請求人の従事員に対する経済的利益の金額となる。
(ハ)ところで、本件両通達は、その本文において、本件保険契約のような場合、被保険者が受ける経済的利益はないものとするとともに、法人については、その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は資産に計上し、残額は期間に応じて損金の額に算入する旨定める一方、ただし書において、役員又は(部課長その他)特定の使用人のみを被保険者としている場合には、その支払った保険料の額のうち、その2分の1に相当する金額は、当該役員又は使用人に対する給与等とする旨定めている。
 更に、本件通達の注書の2には、「(1)保険加入の対象とする役員又は使用人について、加入資格の有無、保険金額等に格差が設けられている場合であっても、それが種職、年齢、勤続年数等に応ずる合理的な基準により、普遍的に設けられた格差であると認められるときは、ただし書を適用しない。(2)役員又は使用人の全部又は大部分が同族関係者である法人については、たとえその役員又は使用人の全部を対象として保険に加入する場合であっても、その同族関係者である役員又は使用人については、ただし書を適用する。」と定められている。
(ニ)この本件両通達の趣旨は、使用人(法人)が支払った保険料のうち、死亡保険金に係る部分については、受取人が被保険者の遺族等となっていることからみて、資産計上することを強制することは適当でなく、また、被保険者が死亡した場合に初めてその遺族等が保険金を受け取るものであることからすれば、保険料の掛け込み段階で直ちに被保険者に対する給与として課税するのも実情に即さないことから、これを一種の福利厚生費と同視することとしたものである。
 このような趣旨からすると、本件両通達の本文は、福利厚生費が従事員全体の福利のために使用されることを要するのと同様、原則的には従事員の全部を対象として保険に加入する場合を想定しているものと解するのが相当であり、このことは、特定の者のみが対象とされる場合には、その者が受ける経済的利益に対し給与として課税するというただし書の定めからも明らかである。
 ただ、注書は、全従事員を保険に加入させない場合であっても、保険料を一種の福利厚生費と同視する以上、少なくとも全従事員がその恩恵に浴する機会が与えられていることを要することから、それが「合理的な基準により普遍的に設けられた格差」であると認められるときには、本件通達の本文の適用を認めるものの、逆に全従事員を保険に加入させた場合であっても、その全従事員が同族関係者であるような法人には、本件通達の本文の適用を認めない旨を明らかにしたものと認められる。
 当審判所においても、これらの通達の定める取扱いは相当なものとして是認できる。
ハ 前記イの各認定事実に基づき上記ロに照らし、請求人の主張について検討したところ、次のとおりである。
(イ)本件両通達のただし書の適用について
A 請求人は、本件保険契約に係る被保険者が本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人に当たらないと主張し、その理由として、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人に当たらないというためには全従事員を被保険者としなければならない旨あるいは一定以上の割合の従事員を被保険者とすべき旨を定めた法令、通達はない旨主張する。
 確かに請求人が主張するとおり、本件両通達の本文の適用に関して、全従事員が被保険者でなければならない旨あるいは被保険者とすべき従事員の割合を明確に定めた法令、通達はない。
 しかしながら、上記ロに記載の本件両通達の趣旨に照らせば、少なくとも、全従事員がその恩恵に浴する機会を与えられていることを要すると解すべきである。
 したがって、本件両通達のただし書を、請求人が主張するように限定的に解釈するのは相当でない。
B また、請求人は、本件通達に係るただし書の注書2の(2)において、役員又は使用人の全部又は大部分が同族関係者である法人についての取扱いを示していることをもって、本件両通達のただし書は同族関係者を対象とした行為に適用することが意図されている旨主張するが、当該注書は全従事員を対象として保険に加入する場合であってもただし書が適用される例外的な場合の説明であることが明らかであるから、請求人のこの点に関する主張は採用できない。
C 請求人は、本件通達の注書の2の(1)は、本件通達のただし書を適用しない一般的な例示にすぎず、請求人における主任以上という基準も同注書にいう合理的な基準である旨主張する。
 確かに、前記イのとおり、1名のやむを得ない例外を除いては、主任以上の全従事員が本件保険契約の被保険者となっており、上記除外者に代わって被保険者になった者も実質的には主任とみることのできる者であることからすれば、請求人は、保険加入の対象者として暗黙のうちに主任以上の者という基準を設けていたことが推認される。
 ところで、前記イの(チ)及び(リ)のとおり、請求人においては、主任とは役職名の一つであって、役職の任免は請求人の業務運営上の必要に応じて行われるものとされているのであるから、必ずしもすべての従事員が主任以上の役付者になれるとは限らない。そうすると、主任以上という基準は、一種の福利厚生費として、原則的には全従事員にその恩恵に浴する機会を与えられていることを予定している本件両通達の趣旨に合致するものでないことは明らかである。
D そこで、請求人が本件保険契約に係る保険加入者の選定に用いた基準について検討したところ、前記イの(ト)のA及びBの事実から、請求人は、被保険者とする従事員について、定着度を重視し、年齢、勤続年数、職種、職能を合理的に検討したとしても、その結果として主任以上の全役付者を本件保険契約の被保険者選定基準としたことが認められるところであり、また、前記イの事実から、請求人は、主任以上の全役付者を被保険者として保険加入の申込みをしたが、CはA生命が被保険者として契約するための取扱基準に該当しないことから、同人に代えてBを被保険者として本件保険契約を締結したものと認められるところである。
 次に、主任以上の全役付者という基準により設けられた格差に普遍性が認められるか否かについて検討したところ、前記イの(チ)及び(リ)の各事実から、請求人においては、主任とは役職名の一つであって、役職の任免は請求人の業務運営上の必要に応じて行われるもので、現に別表2に記載のとおり、課長又は主任に任命されていない者で、勤続15年以上かつ年齢40歳以上の者が3人認められるほか勤続15年以上年齢40歳未満の者が1人、勤続15年未満年齢40歳以上の者が5人認められるところである。
 したがって、請求人が採用した主任以上の全役付者という基準により設けられた格差に普遍性があるとは認められない。
E 前記イの(ト)によれば、請求人は順次被保険者の範囲を拡大していく方針であったことが認められ、その結果、次年度以降には格差に普遍性のある基準により被保険者が決定されることがあるとしても、本件保険契約に限っては被保険者は、本件両通達のただし書にいう役員又は特定の使用人に該当する。
(ロ)本件保険契約と請求人の保険加入目的との関係について
 請求人は、本件保険契約は請求人の保険加入目的に即応したものであるから本件保険料について本件通達のただし書を適用すべきでない旨主張する。
 本件保険契約が前記イの(ト)のAに記載の請求人の保険加入目的にどの程度即応したものであるかはともかく、本件両通達のただし書の適用があるか否かは、保険加入資格の有無及び保険金額に設けられた格差が、合理的な基準により普遍的に設けられた格差である場合のように経済的利益が普遍的に享受されているか否かにあるので、この点に関する請求人の主張が、本件納税告知処分の取消しを求める理由となるものではない。
ニ 次に、本件納税告知処分に係る税額計算について検討する。
 請求人提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成3年2月分の給与所得の源泉所得税額の計算を、所得税法第189条《主たる給与等に係る徴収税額の特例》第1項の規定に基づいて行っていること。
(ロ)原処分庁は、本件納税告知処分に係る源泉所得税額の計算を、所得税法第185条第1項第1号を適用して行っていること。
(ハ)原処分庁は、本件保険契約の被保険者Dに係る源泉所得税額の計算において、控除対象配偶者及び扶養親族の人数を零人として計算しているが、その人数は1人であること。
(ニ)原処分庁は、本件保険契約の被保険者Eに係る源泉所得税額の計算において、控除対象配偶者及び扶養親族の人数を1人として計算しているが、その人数は2人であること。
ホ ところで、原処分庁は、上記ニの(ロ)のとおり所得税法第185条第1項第1号の規定に基づき本件保険契約の各被保険者から徴収すべき税額の算定を行っているが、請求人は、上記ニの(イ)のとおり所得税法第189条第1項の規定により源泉徴収すべき税額の計算を行っており、請求人が行っている計算方法を否定する理由は認められず、また、原処分には上記ニの(ハ)及び(ニ)のとおりD及びEに係る源泉所得税額の計算において控除対象配偶者及び扶養親族等の数に誤りが認められ、これらを補正すると別表1の「審判所認定」欄に記載のとおりとなる。
 したがって、徴収すべき源泉所得税の額が、本件納税告知処分の額を下回ることとなるので、その一部を取り消すべきである。

(2) 不納付加算税の賦課決定処分について

 請求人は、平成3年2月分の源泉徴収事務において、源泉徴収すべき税額の計算をするに当たり、本件納税告知処分により納付すべき税額のうち上記(1)のホにより減額される部分以外の税額について、その計算の基礎とすべき事実があるのに、これを計算の基礎としていないことが明らかであり、かつ、このことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由がある場合に該当しないことから、本件不納付加算税の賦課決定処分は、同条項の規定に基づき適法になされていると認められる。
 そうすると、本件不納付加算税の賦課決定処分は、その計算の基礎となる税額の一部が取り消されることとなるので、これに伴い、その一部の取消しを免れない。

(3) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず当審判所に提出された資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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