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(平7.1.27裁決、裁決事例集No.49 224頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成3年分所得税の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、平成4年6月16日に次表の「修正申告」欄のとおり記載して、修正申告書を提出したところ、原処分庁は、平成4年6月30日付で過少申告加算税の額を388,500円とする賦課決定処分をした。
 さらに、原処分庁は、平成4年12月28日付で次表の「更正処分等」欄のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「原処分」という。)をした。

(単位 円)
項目\年分確定申告修正申告更正処分等
給与所得の金額1,011,0001,011,0001,011,000
分離短期譲渡所得の金額617,679617,979
分離長期譲渡所得の金額3,942,50018,712,500200,119,135
納付すべき税額1,014,1003,968,10037,452,500
過少申告加算税の額388,5005,022,000

 請求人は、原処分を不服として、平成5年2月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月24日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年6月24日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、その両親の共同相続人であるA、B、C、D及びE(以下これら5名を「他の相続人」といい、請求人と併せて「本件相続人」という。)から、P市R町3丁目19番1所在の土地(登記地積129.61平方メートル、以下「本件遺産土地」という。)の6分の5の持分を取得するために200,547,943円の金員(以下「本件金員」という。)を支払ったから、本件遺産土地の一部(全体の100,000分の84,342の持分、以下「本件土地」という。)の譲渡収入金額(以下「本件譲渡代金」という。)から本件金員を取得費として控除して申告したところ、原処分庁は、本件土地に係る譲渡所得の金額の計算上、本件金員については本件譲渡代金から控除できないとして更正処分をした。
 しかしながら、次のとおり、本件金員は、本件譲渡代金から控除されるべきである。
(イ)本件土地の譲渡に至る経緯は次のとおりである。
A 本件相続人及びその母Fは、本件相続人の父G(以下「本件被相続人」という。)が昭和48年2月15日に死亡したことに伴い、本件遺産土地を法定相続分により相続した。
B 本件相続人は、その母Fが昭和52年6月5日に死亡したことに伴い、本件遺産土地に係るFの共有持分(3分の1)をそれぞれの法定相続分で相続し、その結果本件相続人の本件遺産土地の共有持分は、各6分の1となった。
C 他の相続人のうちA、B及びC(以下、3名を総称して「Aら」という。)は、昭和61年5月20日にD、E及び請求人(以下、3名を総称して「請求人ら」という。)を相手方として、S家庭裁判所に本件被相続人の遺産分割(以下「本件遺産分割」という。)の家事調停(以下「本件調停」という。)を申し立てた。
D 本件調停において、Aらは、請求人らが本件遺産土地上に存している建物(登記簿上、木造ルーフィング平家造、床面積29.75平方メートル、以下「本件建物」という。)に居住していたにもかかわらず、本件遺産土地を更地として売却し、その売却代金を法定相続分により分割するいわゆる換価分割を主張した。
E また、Aらは、昭和62年10月8日に本件調停の資料として、本件相続人と建設会社との間で本件遺産土地上にマンションを建て、そのマンションの一部と本件遺産土地の一部との交換により対価を精算するいわゆる等価交換契約を締結し、当該マンションが完成した後、本件相続人が所有することとなるマンションの持分をその建設会社に買い取らせる内容を記載した計画書を提出した。
F Aらは、調停手続中であるにもかかわらず、昭和62年11月25日に本件遺産土地及び本件建物について、法定相続分による相続登記を申請し、更に本件調停に係る代理人を通じて、本件調停が早期に解決しない場合には、Aらによる相続財産共有持分の一方的譲渡もあり得る旨通告し、請求人らを脅迫した。
G 昭和62年末から昭和63年初めころ、請求人は、本件調停において、請求人が単独でマンション建設業者と等価交換契約を締結し、自らの居住部分及び営業部分を確保した上で、他の相続人の持分を当該マンション建設業者に買い取ってもらい、その代金を他の相続人の持分に応じて支払う旨の提案をした。
H 他の相続人は、請求人の前記Gの提案が、基本的には換価分割と同様の金銭の配分になることから、これに同意したので、請求人は他の相続人に支払われる金員の額について調整に入ったところ、Aらは、昭和63年5月18日に、同月13日付の買付証明書を本件調停の資料として提出し、本件土地について支払われるべき金額は、1坪当たり8,000,000円を基準にすべきである旨主張した。
I 請求人は、本件調停の進行上マンション業者を探すこととしたところ、本件調停に係る請求人の代理人である弁護士H(以下「H」という。)を介して株式会社L(以下「L社」という。)から株式会社Mの代表者であるI(以下「I」という。)を紹介されたので、同人と折衝を重ね、同人から示された条件とAらの要求を調整しながら調停を進行させた。
 なお、Iは、この時、本件遺産土地上に建設する建物の設計、国土法に係る届出手続及び建築確認の申請の準備を進めた。
J 昭和63年11月21日の調停期日において、請求人が本件遺産土地及び本件建物を単独で相続するとともに、Aらに対して各39,000,000円、D及びEに対して各41,500,000円の合計200,000,000円(以下「本件代償金」という。)を支払うことで、本件相続人間の調停が終了し、調停が成立することとなった。
 しかし、他の相続人は、請求人に本件代償金を支払う資力がないこと及びその支払手段としては等価交換の方法で取得する建物の売却代金が充てられる予定であることを承知していた。
K 本件相続人は、昭和63年11月30日に、S家庭裁判所において、上記Jの条件に基づき、請求人が本件代償金を昭和64年1月31日までに他の相続人に支払うことで合意して、本件調停に係る調書(以下「本件調停調書」という。)が作成されたことに伴い本件調停が成立した。
 本件調停調書においては、本件遺産土地の分割が、形式的には代償分割の方法で行われているが、実質的には本件遺産土地の時価を基準として、請求人が他の相続人の持分を買取るものであったことから、本件代償金の支払が遅延したときには、年1割の遅延損害金の支払が要求されており、かつ他の相続人の持分権を担保するため、本件遺産土地及び本件建物に他の相続人を権利者とする抵当権の設定登記手続が行われる内容になっている。これは、その後、本件遺産土地につき等価交換契約を締結するため、その所有権を請求人名義に一本化する必要があったためであり、これらのことは、他の相続人全員が認識していた。
L 昭和63年11月30日に請求人とIとは本件遺産土地上に等価交換方式により店舗付共同住宅を建設する合意が成立し、その覚書を交わした。
 なお、当該覚書には、Iが交換差金として200,000,000円を本件調停の成立後2か月以内に請求人に支払う旨記載されている。
M 上記Lの覚書については、平成元年1月にIから自らの都合により履行できないので解約したい旨の申入れを受けた。
 そこで、請求人は、Hを通じてL社にIの立場を引き継ぐことを依頼し、平成元年2月10日に、本件遺産土地に係る等価交換契約が成立するまでの間、本件代償金の支払のため、200,550,000円(以下「本件借入金」という。)を無利息で借用し、当該等価交換契約の成立時に、L社が支払う交換差金を本件借入金に充当する旨の合意をして、本件借入金を借り受けた。
N 平成元年2月10日、請求人は、他の相続人に対して本件代償金及び本件代償金の支払遅延による遅延損害金547,943円(以下「本件損害金」という。)を支払った。
O 請求人は、平成元年12月12日にL社との間で、請求人が本件土地をL社に譲渡し、L社から本件遺産土地上にL社が建設する建物の一部(以下「本件取得建物」という。)及び交換差金201,783,300円(以下「本件交換差金」という。)を取得する内容の等価交換契約(以下「本件交換契約」という。)を締結し、それと同時に本件借入金を本件交換差金で返済する処理をした。
P 請求人は、平成3年3月31日に本件交換契約に係る建物が完成したことから、本件土地をL社に譲渡し、本件取得建物を取得した。
(ロ)上記(イ)の経緯のとおり、本件代償金は、Aらからなされた本件遺産土地の換価分割要求に起因して支払われたものであり、本件調停において他の相続人は、請求人に本件代償金を支払う資力がないこと、請求人が本件遺産土地上に等価交換の方法で建設した建物のうち、請求人が使用する以外の部分を売却してその売却代金を本件代償金の支払いに充てること及び請求人が本件調停の成立後、直ちにL社と本件交換契約を結ぶため、本件遺産土地の所有者の名義を請求人一人にする必要があることについて全員が認識していたことから、本件遺産土地を換価分割することと同様の効果を生じる交換差金の分配を代償金にするという形で本件調停が成立したものである。
 したがって、本件調停による分割は、調停条項の文言にかかわらず、既に等価交換という形で処分が決まっていた本件遺産土地の対価を、換価分割を希望する他の相続人に対し分割する主旨でなされた実質上の換価分割と解するのが相当であるから、本件代償金の実質は、本件遺産土地を換価分割して、他の相続人の相続分に応じて支払われる対価となるものである。
(ハ)前記(ロ)の本件代償金を支払うに至った経緯から判断できる本件代償金の実質及び次の事実を所得税法第12条《実質所得者課税の原則》の規定に照らせば、本件金員は、譲渡所得の金額の計算上、取得費として本件譲渡代金から控除されるべきであり、他の相続人が現実に得ている本件土地の譲渡利益に対する課税を請求人だけに負担させるべきではない。
 また、本件調停の家事審判官も、請求人一人に本件土地の譲渡益が課税されるような不平等な結果が招来することを予想したならば、本件調停調書の調停条項は全く異なったものとなっていたと思われる。
A 前記(イ)の経緯のとおり、他の相続人の本件遺産土地に係る相続分は、当初から等価交換の交換差金により他の相続人に支払われることとなっていたこと。
B 仮に、将来請求人が本件取得建物を譲渡した場合には、その譲渡により納付すべき税額と本件更正処分により納付すべき税額との合計額は、本件取得建物の価額を超えること、すなわち、請求人が本件遺産分割により取得する財産の額より多くなることが予測されるものであること。
C 他の相続人は、本件代償金の分配により、換価分割と同様に、ほぼ法定相続分に近い割合の金銭の配分を受けていること。
D 原処分庁は、本件金員を代償分割に係る代償金であると認定する際、他の相続人の申述をその一要素としているが、他の相続人が自分に譲渡所得の課税を招くような申述を進んですることはないこと。
(ニ)原処分庁は、所得税法基本通達38ー7《代償分割に係る資産の取得》(昭和52年11月22日直資3ー14、直所3ー22追加、以下「本件通達」という。)の(1)に基づき譲渡所得の金額の計算上、譲渡代金から控除できる必要経費は、取得費及び譲渡費用に限られるところ、遺産を代償分割の方法により分割したことに伴い負担することとなった代償金は、取得費、譲渡費用のいずれにも該当せず、これを譲渡代金から控除することはできない旨主張するが、代償分割の意義や現状及び裁判所における実務の状況からすれば、代償分割における代償金についても、譲渡所得の金額の計算上控除が認められるべきであるから、当該通達は変更されるべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件相続人は、昭和61年に本件遺産分割をめぐって紛争状態となり、AらがS家庭裁判所に本件調停を申し立てていたところ、昭和63年11月30日に本件調停が成立し、同日に本件調停調書が作成されたこと。
B 本件調停調書に記載されている要旨は、次のとおりであること。
(A)本件遺産土地、本件建物及び電話加入権一口(以下、これらを一括して「本件遺産」という。)は、本件被相続人の遺産であることを確認し、これを次のとおり分割する。
a 本件遺産は、請求人が単独取得する。
b 他の相続人は、請求人に対し、本件遺産土地及び本件建物に係るそれぞれの共有持分各6分の1につき、本日(昭和63年11月30日)付遺産分割を原因とする各共有持分移転登記手続をする。
(B)請求人は、前記(A)のaの単独取得の代償として、次表の金額について他の相続人に対する支払義務があることを認め、昭和64年1月31日限り、これを支払う。

(単位 円)
氏名本件代償金
A39,000,000
B39,000,000
C39,000,000
D41,500,000
E41,500,000
合計200,000,000

(C)請求人は、前記(B)の支払を遅滞したときは、それぞれの遅滞額につき、昭和64年2月1日より支払済に至るまで年1割の割合による遅延損害金を付加し他の相続人に支払う。
(D)本件相続人は、本件調停の条項をもって本件被相続人の遺産についての分割がすべて完了したものとし、今後、名義のいかんを問わず金銭その他何らの給付請求もしないことを相互に確認する。
C 他の相続人は、原処分庁の調査担当職員に対し、本件金員は、本件遺産土地及び本件建物を請求人が単独相続したことに伴う代償として請求人から受領したものであり、本件遺産土地及び本件建物に係る他の相続人の持分を請求人に譲渡したことによる対価ではない旨申し述べていること。
D 請求人は、本件損害金を他の相続人に支払っていること。
(ロ)前記(イ)の事実を総合して判断すると、次のとおりである。
A 前記(イ)に記載した事実によれば、本件金員の支払いは、請求人が他の相続人から本件遺産土地及び本件建物の持分を購入したことに伴い支払ったものではなく、本件相続人が本件遺産を代償分割の方法により分割したことに伴い請求人が負担することとなった代償金の支払いであると認められる。
B 譲渡所得の金額の計算上、譲渡収入金額から控除できる費用は、取得費及び譲渡費用に限られるところ、本件金員は、上記Aで述べたとおり、本件被相続人の遺産を代償分割の方法により分割したことに伴い負担することとなった代償金の支払いであり、取得費、譲渡費用のいずれにも該当しないので、これを本件譲渡代金から控除することはできない。
(ハ)また、請求人は、本件更正処分が担税力の面から不当な処分である旨主張するが、本件金員が譲渡所得の金額の計算上本件譲渡代金から控除できるか否かと、請求人に担税力があるか否かとは、まったく関係がないことである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき本件賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件遺産分割の実態からみて、これが代償分割であるか換価分割であるか及び本件金員が本件土地に係る譲渡所得の金額の計算上取得費として控除できるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 当審判所が、請求人から提出された資料及び原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)本件遺産土地は、登記簿上129.61平方メートル、実測では135.789平方メートルであり、本件遺産は、本件被相続人の遺産として本件相続人が各6分の1の持分を有していたこと。
(ロ)請求人は、本件遺産土地上に存していた本件建物に居住し、かつ美容院の経営を行っていたこと。
(ハ)本件調停は、本件遺産分割についての家事調停であるところ、本件相続人は、昭和63年11月30日に本件調停調書に記載されている条項に合意し、本件調停調書が作成されたことにより、本件調停が成立したこと。
(ニ)本件調停調書に記載されている調停条項の内容は、次のとおりであること。
A 請求人は、本件遺産を単独で取得する。
B 他の相続人は、請求人に対し、本件遺産土地及び本件建物に係るそれぞれの共有持分各6分の1について昭和63年11月30日付遺産分割を原因とする各共有持分移転登記手続をする。
C 請求人は、本件遺産を単独で取得する代償として、他の相続人に次表のとおりの本件代償金を昭和64年1月31日までに支払う。

(単位 円)
氏名本件代償金
A39,000,000
B39,000,000
C39,000,000
D41,500,000
E41,500,000
合計200,000,000

D 請求人が前記Cの金員について支払を遅滞したときは、それぞれに遅滞額につき昭和64年2月1日より支払済に至るまで年1割の割合による遅延損害金を付加して他の相続人に支払う。
E 本件相続人は、本件調停調書に記載された条項をもって本件被相続人の遺産についての分割がすべて完了したものとし、今後、名義のいかんを問わず金銭その他何らの給付請求もしないことを相互に確認する。
(ホ)昭和62年10月ころから昭和63年5月ころ当時、本件遺産土地については、313,600,000円から391,104,000円程度の買付け予定価格が付されていたこと。
(ヘ)本件遺産土地及び本件建物に係る他の相続人の持分については、平成元年1月9日の受付で昭和63年11月30日の遺産分割を登記原因として、請求人に移転する登記がなされていること。
(ト)請求人は、他の相続人に対して平成元年2月10日に次表のとおり、本件金員として、前記Cの本件代償金及び前記Dの本件損害金を支払っていること。

(単位 円)
氏名\区分 本件代償金 本件損害金 合計(本件金員)
 A39,000,000106,84939,106,849
 B39,000,000106,84939,106,849
 C39,000,000106,84939,106,849
 D41,500,000113,69841,613,698
 E41,500,000113,69841,613,698
合計200,000,000547,943200,547,943

(チ)平成元年12月12日付の本件交換契約に係る契約書には、次の内容が記載されていること。
A 本件交換契約は、請求人とL社との間で締結する。
B 請求人は、本件遺産土地のうち15.658パーセントを自己の所有として残し、84.342パーセントをL社に譲渡する。また、L社は、請求人に対し、本件遺産土地上に建設する建物の一部(本件取得建物)を譲渡するとともに、本件交換差金を支払う。
C 本件取得建物の1坪当たりの価格は、3,320,000円とする。
D 平成元年12月12日に、請求人はL社に本件借入金を返済し、L社は請求人に本件交換差金を支払う。
(リ)平成元年12月12日、請求人は、L社に対し、本件交換差金を受け取ったとして200,933,000円及び850,000円の金額の領収証を発行し、L社は、請求人に対し、本件借入金の返済を受けたとして200,933,000円の受領証を発行していること。
(ヌ)請求人は、本件交換契約に係る建物が完成したことに伴い、平成3年3月31日に、本件土地をL社に譲渡し、本件取得建物を取得していること。
 なお、本件取得建物は、鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付き7階建のうち地下1階部分の一部(登記床面積3.51平方メートル)、1階部分の一部(登記床面積39.34平方メートル)及び7階部分(登記床面積24.65平方メートル)の合計67.5平方メートルであること。
(ル)本件土地については、平成3年8月23日の受付で、平成3年3月31日の交換を登記原因として、L社に所有権を移転する登記がなされていること。
(ヲ)本件取得建物については、平成3年10月1日の受付で、平成3年3月31日の新築を登記原因として、請求人を権利者とする所有権保存登記がなされていること。
ロ ところで、遺産分割の一態様である代償分割とは、遺産分割において、共同相続人が遺産を現物でもって分割する方法に代えて、共同相続人のうちの一人又は数人に遺産を現物で取得させ、その代償として、現物で遺産を取得した相続人が他の共同相続人に対して債務(代償金)を負担する分割の方法であるとされている。
 そうすると、代償分割は、遺産を直接分割の対象としているものであり、その結果負担することとなる代償金債務は、当該遺産分割において共同相続人間の公平を図るため、共同相続人間の取得財産を調整する目的で遺産を現物で相続する相続人がそれ以外の相続人に対して負担するものである。
 したがって、代償金を支払った相続人にとっては、取得した相続財産の価額から代償金に相当する価格を控除し、一方代償金を受け取った相続人にとっては、取得した相続財産の価額に代償金に相当する価額が加算されることになるのであるから、代償分割に伴って相続課税に変動を来すことがあっても所得課税の要件は生じないこととなる。
 これに対し換価分割とは、共同相続した遺産を直接分割の対象とせず、当該遺産を未分割の状態で換価し、その対価として得られた金銭を共同相続人間で分割する方法であるとされている。
 そうすると、換価分割の場合には、遺産を未分割のまま共同相続することで相続を完結させ、その相続した遺産を共同相続人が処分することにより生じる金銭を分配することで相続の効果を現実のものとしているのであるから、その譲渡による所得は、相続人全員に帰属し、当該所得に対する所得税は相続人全員が負担すべきことになる。
ハ 次に、所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項の規定によれば、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額であるとしている。
 この規定は、譲渡時における資産の増加益を算出するときに、譲渡収入金額から控除する取得費について定めているものであるが、譲渡した資産が相続(限定承認に係るものを除く。)により取得した資産にあっては、所得税法第60条《贈与等により取得した資産の取得費等》第1項第1号の規定により、相続した者が引き続きこれを所有していたものとみなすとしている。
 すなわち、相続による資産の移転については、相続時点では譲渡所得を課税しないで、相続人が当該資産を譲渡した場合に譲渡所得の課税をすることとし、その場合の譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、被相続人がその資産を取得した時の取得に要した金額とされるものである。
ニ 前記イの事実を前記ロ及びハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)本件遺産分割
A 本件調停は、前記イの(ハ)のとおり、共同相続人である本件相続人が本件調停調書に記載されている内容について合意し、本件調停調書が作成されたことによって成立したところ、本件調停調書には、前記イの(ニ)のとおり、請求人が本件遺産を単独取得する代償として、本件代償金を支払う旨記載されていること並びに実際にも、前記イの(ヘ)及び(ト)のとおり、請求人は、本件金員を他の相続人に支払い、本件遺産を取得していることからみて、本件金員は、請求人が本件遺産を取得し、その代償として他の相続人に支払ったものと認められる。
 また、前記イの(チ)及び(リ)のとおり、本件交換契約の当事者は、請求人とL社であり、請求人が本件交換契約を本件相続人の代表として結んだ事実は認められず、さらに、前記イの(ヌ)ないし(ヌ)のとおり、請求人が本件土地をL社に譲渡している事実は認められるが、他の相続人が当該譲渡に関与した事実は認められない。
 以上のことから、本件遺産は本件調停の成立により分割され、分割が済んだ本件遺産の一部である本件土地を請求人が単独で譲渡したと認められる。
 したがって、本件遺産分割は、前記ロで述べた代償分割に該当することとなる。
B 請求人は、本件調停の経緯からみて、本件調停による分割は、実質上の換価分割であり、本件代償金は、他の相続人の相続分に応じて支払われる対価である旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ロ)のとおり、請求人が本件建物に居住し、かつ事業を営んでいたことからすれば、本件遺産の分割において、本件遺産土地及び本件建物に係る請求人の利用の便を図る必要があるため、これらの遺産を現物分割または換価分割の方法で分割することが妥当でないとの事情が存していたと認められること、前記イの(ヌ)のとおり、請求人は、代償分割の方法で分割が成立したことにより、自己の希望通りに本件遺産土地上に建築された本件取得建物を取得していること、前記イの(ホ)の買付け予定価格からすれば、本件遺産土地に係る本件相続人一人当たりの相続分に対応する取得予定金額は、5,230万円から6,520万円程度になるものと認められるにもかかわらず、他の相続人の本件代償金の額は、3,900万円から4,150万円と取得予定金額に比べて少ない額で取り決められており、各相続人の持分に応じた換価分割の結果によるものとは認めがたいこと、前記の(イ)及び(チ)のBのとおり、本件遺産土地に係る請求人の持分(6分の1=約16.666パーセント)とその売却後の所有持分(15.658パーセント)にはほとんど差がなく、本件遺産土地に係る請求人の持分相当部分は取得していると認められるにもかかわらず、前記イの(チ)のC及び(ヌ)のとおり、更に6,790万円(67.5平方メートル÷3.3×332万円)程度の建物を取得しており、他の相続人の取得価額と比較すれば、到底換価分割の結果により取得したものとは認めがたいこと及び前記イの(ト)のとおり、各相続人がそれぞれの持分に相当する遺産を売却する通常の換価分割では発生しないと認められる本件損害金の支払があることなどから、本件調停による分割は、換価分割によるものではなく、実質的にも代償分割によるものと認められる。
 そして、本件交換差金の受領を定めた本件交換契約は、他の相続人に対する代償金の支払の資金を捻出するための方法として実行されたものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ)本件土地の取得費
A 前記ハで述べたとおり、相続により取得した資産を譲渡した場合の譲渡所得の金額の計算上控除する取得費は、被相続人がその資産を取得した時の取得に要した金額に限られるところ、本件金員は、前記(イ)で述べたとおり、本件遺産分割(代償分割)により支払った代償金と本件代償金の支払いが遅延したことにより支払った遅延損害金であると認められるから、本件金員を本件土地の取得費として本件譲渡代金から控除することはできない。
B ところで、請求人は、所得税法第12条の実質所得者課税の原則からすれば、本件金員については、譲渡所得の金額の計算上、取得費として本件譲渡代金から控除されるべきであり、他の相続人の所得に対する課税まで請求人に負担させるべきでない旨及び代償分割に伴い支払った代償金についても譲渡所得の金額の計算上取得費として控除されるべきであるから、本件通達は変更されるべきである旨主張する。
 しかしながら、前記(イ)で述べたとおり、本件遺産分割は代償分割であり、他の相続人には譲渡所得が発生しないから、請求人が本件金員を現実に支払ったことをもって実質所得者課税の問題が生じることはない。
 また、現行所得税法上、前記ハで述べたとおり相続による資産の移転については相続時点では譲渡所得の課税をしないで、相続人が相続財産を譲渡した場合に譲渡所得の課税をすることとしているところ、前記ニの(イ)で述べたとおり、本件金員は、遺産分割の一つの方法である代償分割をしたことに伴って支払われたものであって、本件被相続人が本件遺産土地を取得した時の取得に要した金額とは性格を異にするものである。
 そうすると、本件金員は、前記ロで述べたとおり、請求人にとっては相続税の課税価格の計算上控除すべきものであり、遺産分割後の譲渡の際の所得金額の計算上控除すべきものではないと解すべきであるから、その代償金を譲渡所得の金額の計算上取得費に算入しないとする本件通達の取扱いは相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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