ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.49 >> (平7.3.30裁決、裁決事例集No.49 606頁)

(平7.3.30裁決、裁決事例集No.49 606頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、昭和63年7月13日に調停により離婚をするまでAの妻であった者であるが、原処分庁は、請求人に対し、平成5年1月14日付で、次表に記載するAの滞納国税(以下、この滞納国税を「本件滞納国税」といい、Aを「滞納者」という。)について、113,005,210円を限度とする第二次納税義務の納付通知書による告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。

 請求人は、本件告知処分を不服として、平成5年3月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月21日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年6月24日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 原処分庁は、請求人が滞納者から、滞納者との離婚に伴う財産分与として、譲り受けた(a)P市R町3番14の宅地188.70平方メートル及び同所3番15の宅地175.35平方メートル(以下、これらの土地を併せて「本件土地」という。)、(b)P市R町3番15所在の家屋番号3番15の木造鉄筋コンクリート造瓦葺3階建居宅・車庫延床面積395.37平方メートル(以下「本件建物」という。)並びに(c)本件建物内の家庭用動産等(以下、「本件動産等」といい、本件土地、本件建物及び本件動産等を併せて「本件不動産等」という。)、並びに、離婚による慰謝料として受領した金員60,000,000円(以下「本件金員」という。)は不相当に過大であるとして、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定を適用して、本件告知処分をした。
 しかしながら、本件不動産等の譲受け及び本件金員の受領は、次に記すとおり財産分与及び慰謝料として相当であり、国税徴収法第39条に規定する無償の譲受けには当たらないから、請求人には第二次納税義務を負うべき理由はない。
イ 滞納者は、離婚の調停後、財産分与と同時期に本件金員の支払をしているのであるから、本件不動産等以外に現金、預金等の資産を有しており、全部で300,000,000円以上の資産を有していたはずである。
ロ また、財産分与は、夫婦間の財産関係の清算であり、実質的共有財産の分割の性質を有するものであるから、婚姻中に形成した財産に対する請求人の清算割合は2分の1である。
 したがって、請求人が滞納者から137,107,815円相当の本件不動産等を譲り受けたことは、財産分与として相当である。
ハ 本件金員は、実質的には養育費である。調停離婚の際、請求人は、滞納者との離婚及び財産分与に加えて、(a)子の親権者を請求人にすること、(b)子の養育費として一人当たり毎月100,000円支払うこと及び(c)相当額の慰謝料を支払うことを申し立てたところ、滞納者は、慰謝料の支払をする気はないが、子の親権者を滞納者にすることを条件に、子の進学、進級、結婚に必要な費用を含めた養育費及び心臓の悪い請求人の離婚後の生活を有責配偶者として保障する扶養料として、一人当たり100,000円で毎月500,000円として未成年の子が全員成人するまでの10年分に相当する60,000,000円を一度に支払うことに応じるとしたのであり、この金額は養育費として相当である。
 結果的に、養育費ではなく慰謝料という名目になったのは、損害賠償金であれば、非課税になることを知っていた弁護士の裁量によるものである。
ニ また、滞納者が本件不動産等及び本件金員を請求人に供与することについては、請求人及び滞納者が勝手に決めたのではなく、家庭裁判所の調停という手続を経て決定したものであるから、第三者である原処分庁が不相当に過大であると判断すべきではない。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法である。
イ 原処分庁所属職員が調査したところ、調停による離婚の当時、本件不動産等以外に滞納者名義の財産は認められず、本件不動産等の当時の評価額は合計137,107,815円であるから、滞納者が300,000,000円以上の資産を有していたという請求人の主張は、相当でない。
 なお、本件金員の原資は、第三者名義の不動産の売却代金であり、滞納者の財産を構成するものではない。
ロ 財産分与の清算割合については、滞納者の財産の総額、婚姻期間及び婚姻期間中の財産形成における請求人の寄与度等を総合勘案したところ、3分の1が相当であると認められる。
 したがって、本件不動産等の評価額137,107,815円の3分の1である45,702,605円を超える部分は、財産分与として不相当に過大である。
ハ 本件金員について、仮に、請求人が主張するとおり、実質的に子の養育費の前払であったとしても、その金額は、Q県の大学及び短期大学の平均進学率、養育費の通例から検討すると、未成年の子4人がそれぞれ成年に達するまでの期間について毎月100,000円の28,400,000円が相当と認められる。
 また、請求人に対する慰謝料に相当する部分については、過去の統計及び裁判例を基に判断すると、滞納者の不貞等の事情を考慮しても、10,000,000円が相当と認められる。
 したがって、本件金員60,000,000円のうち養育費28,400,000円と慰謝料10,000,000円の合計38,400,000円を超える部分は、不相当に過大である。
 なお、請求人は心臓が悪いことも含めて本件金員を受け取った旨主張するが、同人は現在月1回の通院程度にまで回復しており、考慮の必要はない。
ニ 調停は、家事審判法第21条の規定により、確定判決又は確定した審判と同一の効力を有するものであるが、民事訴訟法第201条によると、既判力の主観的範囲は原則として当事者又はその承継人に限定され、第三者は拘束されない。
ホ そうすると、請求人は財産分与として滞納者から譲り受けた本件不動産等の評価額137,107,815円の3分の1である45,702,605円を超える部分91,405,210円と慰謝料として滞納者から受領したた本件金員60,000,000円のうち38,400,000円を超える部分21,600,000円の合計113,005,210円を、滞納者から不相当に過大に譲り受けたことになる。
 したがって、原処分庁が、国税徴収法第39条の規定を適用して、請求人の負うべき第二次納税義務の限度額を113,005,210円として本件告知処分をしたことは相当である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、離婚に伴い滞納者が請求人に対し本件不動産等の譲渡及び本件金員の支払をしたことが国税徴収法第39条に規定する無償の譲渡に該当するか否かであるので、審理したところ、次のとおりである。

(1)当審判所が原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。

イ 請求人と滞納者は、昭和45年5月25日付で婚姻の届出をし、子4人をもうけたが、昭和55年10月6日に協議離婚をしたこと。
 その際、子4人については請求人が親権者となり、監護したが、財産分与ないし慰謝料の支払はなく、監護費用等の支払もなかったこと。
ロ 請求人と滞納者は、昭和60年秋ころ復縁し、昭和62年1月29日付で婚姻の届出をしたこと。
ハ 滞納者は、昭和61年10月27日付で本件土地についてJ社と売買契約を締結したこと。
ニ 本件建物は、昭和63年5月ころ完成し、同年6月10日に請求人と子4人は、入居していること。
ホ 本件動産等は、本件建物内に存在する動産であって調停成立前に請求人及び子の生活の用に供されていたもの並びに本件土地に定着した庭木及び本件建物の火災保険契約に係る権利(付保期間10年。以下同じ。)であること。
ヘ 昭和63年6月、請求人は、滞納者との離婚等を求めて調停をQ家庭裁判所に申し立て、同年7月13日の第1回期日において同日付で調停(以下「本件調停」という。)が成立したこと。なお、当該期日において、滞納者は出頭したが、請求人は出頭せず、同人の代理人として弁護士Kが出頭していること。
 調停条項(以下「本件調停条項」という。)は次のとおりであること。なお、扶養料又は養育費ないし監護費用に関する記載はないこと。
(イ)請求人と滞納者は、昭和63年7月13日調停離婚する。
(ロ)子4人の各親権者を滞納者、各監護権者を請求人と定める。
(ハ)滞納者は、請求人に対し、夫婦共同財産の清算的財産分与として、本件不動産等を譲渡し、滞納者は、本件土地につき、直ちに、所有権移転登記手続をする。
(ニ)滞納者は、本件土地に付けられた根抵当権設定登記を昭和63年7月30日までに抹消登記手続をする。
(ホ)滞納者は請求人に対し、離婚に伴う慰謝料として金員60,000,000円の支払義務のあることを認め、これを昭和63年7月末日限り、請求人の代理人である弁護士Kの事務所に持参又は送金して支払う。
(ヘ)当事者双方は、離婚に関し、今後互いに名義のいかんを問わず、金銭その他一切の請求をしない。
ト 昭和63年7月26日付で、本件土地及び本件建物について、同月13日の財産分与を原因として所有権移転登記がされたこと。
チ 昭和63年7月22日に、滞納者が請求人の代理人である弁護士K名義の預金口座に金員60,000,000円を振り込んだこと。
リ 昭和63年7月28日に、上記金員60,000,000円から弁護士報酬4,000,000円を控除した56,000,000円が弁護士によって請求人名義の預金口座に振り込まれたこと。
ヌ 請求人と滞納者との調停による離婚の届出が、昭和63年8月9日にされたこと。
ル 滞納者は、所得税法違反の嫌疑で昭和63年3月22日以降Q国税局職員の査察調査を受けていたこと。
ヲ 滞納者が出資し代表者となっていたM社は、本件調停当時事実上休業状態となっており、同人が同社からその後所得を得る可能性は極めて低かったこと。また、滞納者は、平成元年9月5日、Q地方裁判所において、所得税法違反により懲役10月及び罰金30,000,000円の判決を受け、同判決は確定したところ、滞納者は、この罰金を完納することができなかったため、服役後労役場に留置されたこと。なお、滞納者の出所後の所在は不明であること。
ワ 請求人と滞納者の離婚原因が滞納者の家庭生活の放棄にも等しい行為であるのではないと認めるに足る証拠資料はないこと。
カ 請求人は、昭和63年7月15日にQ市市民病院で心臓の手術を受けていること。また、本件調停の当日も、同病院に入院していたこと。
ヨ 本件告知処分をした時点において、本件滞納国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められること。
タ 本件不動産等の請求人への権利の移転及び本件金員の請求人への支払の時期は、本件滞納国税の法定納期限(昭和61年分にあっては昭和62年3月16日、昭和62年分にあっては昭和63年3月15日)の1年前の日以後であること。

トップに戻る

(2)ところで、国税徴収法第39条は、滞納者の国税につき滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足すると認められる場合において、その不足すると認められることが、当該国税の法定納期限の1年前の日以後に、滞納者がその財産を無償又は著しく低い額の対価による譲渡、債務の免除その他第三者に利益を与える処分(以下「無償譲渡等処分」という。)をしたことに基因すると認められるときは、これらの処分により利益を受けた者は、その受けた利益が現に存する限度(特殊関係者にあっては、これらの処分により受けた利益の限度)において、その滞納に係る国税の第二次納税義務を負う旨規定しており、

 これは、滞納者が純粋な経済的動機からは考えられない実体的に必要かつ合理的な理由のない財産の処分行為をしたことによって、国税の徴収が実行不可能となる結果がもたらされた場合、当該処分行為によって利益を受けている第三者に、一定の限度で滞納者に係る国税につき納税義務を負担させる趣旨によるものであると解されている。
 また、無償譲渡等処分については、贈与、売買、債務免除等のいずれの行為類型に属するかにかかわらず、また、これらの私法上の行為として適法であっても、上記の要件を満たす処分行為であれば、該当するものであると解されている。

(3)また、財産分与、慰謝料及び養育費については、次のとおりである。

イ 民法第768条の規定による財産分与については、(a)婚姻期間中に形成された共通の財産の清算、(b)離婚を惹起した有責配偶者の離婚そのものに基因する相手方配偶者への損害賠償及び(c)相手方配偶者の離婚後の生活についての扶養の三の目的による給付を包含するものであると解するのを相当とする。
 そして、離婚の場合における慰謝料とは、上記(b)の部分の給付をいうものであり、本来的には財産分与に含まれるものであるが、実際の離婚に当たって、特に協議離婚又は調停による離婚に当たっては、財産分与のみの名目での請求、支払がされることもあり、また、財産分与と慰謝料の名目による請求、支払がされることもあるところであり、これらの場合における協議又は調停に際しては、財産分与の名目による給付と慰謝料の名目による給付の金額等の決定は、実際上一体としてなされており、厳格に両者を分離して判断されているものではないことは、公知の事実である。
 また、裁判所における手続においても、財産分与は家庭裁判所の審判事項であり、民法第709条による慰謝料の請求は地方裁判所の判決事項であるところ、両者の請求の期間制限の相違等から、地方裁判所に慰謝料請求の訴訟が提起された場合においても、慰謝料算定に当たっては、協議、調停又は審判による財産分与の額が勘案されているところである。
ロ 離婚に伴う財産分与ないし慰謝料の支払については、本来的には、実体上の必要性及び合理的な理由が存するのであるから、無償譲渡等処分に該当するものでないことは当然であるが、上記イの財産分与(慰謝料を含む。)の目的を逸脱し、財産分与ないし慰謝料の名目で金銭その他の財産を正当な事由なく無償で給付した場合においては、贈与として無償譲渡等処分に該当すると解される。また、同一の給付のうちに本来的な財産分与ないし慰謝料の給付が含まれていたとしても、上記イの財産分与(慰謝料を含む。)の趣旨に照らし、不相当に過大な給付である場合には、不相当に過大な部分は、同様に贈与として無償譲渡等処分に該当するというべきである。
 また、財産分与及び慰謝料につき上記イに記したところから、上記の不相当に過大であるか否かについては、少なくとも協議離婚又は調停による離婚の場合には、財産分与及び慰謝料を一体として把握し、判断されるべきである。
ハ 請求人の主張する養育費及び扶養料については、次のとおりである。
(イ)相手方配偶者である請求人本人に係る扶養料は、上記イの(c)の目的による給付(以下「離婚後扶養料」という。)として、本来的に財産分与の一部というべきである。
(ロ)子に係る養育費は民法第766条の「監護について必要な事項」の一環として定められる監護費用ないし民法第877条の規定による扶養義務に基づく給付であるというべきところ、これらは、財産分与とは別個の給付であるが、監護費用については、その負担を離婚の際定めることが適当であり、監護費用又はその補償相当額若しくは分担額が財産分与ないし慰謝料とともに、離婚に際して監護者に支払われることはあり得るところである。
(ハ)監護費用又はその補償相当額若しくは分担額の支払についても、その名目で金銭その他の財産を正当な事由なく無償で給付した場合に、贈与として無償譲渡等処分に該当すること、また、不相当に過大な給付である場合に、当該部分が贈与として無償譲渡等処分に該当することは、上記ロに記したところと同様である。
 この場合において、監護費用は、当事者間の負担能力を勘案して負担されるべきものであるから、監護費用又はその補償相当額若しくは分担額として不相当に過大な給付であるか否かは、上記の負担能力に相当程度影響する場合には財産分与ないし慰謝料の給付を勘案して判断されるべきである。
 なお、監護費用は、日々の監護に要する費用であるから、本来的には定期的に支払われるべきものであり、実際上離婚の際の心理的要因等から一括支払となることが相当みられるとしても、これは期限の利益の放棄の効果をもつものであるので、支払金額自体が全体として不相当に過大な給付として贈与とみられない場合であっても、当事者の資力の状況いかんによっては、国税徴収法第39条の規定の適用に関する限り、上記(2)の立法趣旨にかんがみ、一時の支払金額として不相当に過大と認められ、無償譲渡等処分に該当することもあり得ると解される。また、一時の支払金額として不相当に過大であるか否かは、当事者の資力の状況いかんによるのであるから、その状況によっては、財産分与ないし慰謝料の給付額と総合的に判断することとなるというべきである。

トップに戻る

(4)請求人は、前記2の(1)のニのとおり主張するが、調停は、家事審判法第21条の規定により、確定判決又は確定した審判と同一の効力を有するものではあるものの、判決又は審判の既判力等は、第三者には及ばないと解されており、また、本件不動産等の譲渡又は本件金員の支払をもって、国税徴収法第39条の無償譲渡等処分と認定したとしても、これは、調停に基づく当事者間の債権、債務に何らの影響を及ぼすものではないから、請求人のこの点に関する主張は相当ではない。

(5)本件調停当時における滞納者の財産の総額について、請求人は、前記2の(1)のイのとおり主張し、原処分庁は前記2の(2)のイのとおり主張するので、当審判所が原処分関係資料に基づき調査したところ、本件調停の成立した日における滞納者の財産の総額は、土地93,005,080円、建物85,297,800円、動産等(庭木及び火災保険契約に係る権利を含む。)16,029,115円、貸付金2,000,000円及び預金5,126,158円の合計201,458,153円(墓地使用権及び仏壇等を除く。以下同じ。)と認められ(ただし、建物及び動産等については、取得価格により、一応の金額として算出した価額である。以下同じ。)、他にこれを覆すべき資料はない。なお、土地の価額については、本件土地は昭和61年10月27日付のJ社との間の売買契約の価額33,018,000円により、下記第三者名義の土地は下記売却価額によることが相当である。この点につき、原処分庁は、本件土地の価額を38,000,000円と主張するが、これは、M社の帳簿上、昭和63年6月1日に本件土地の同社の持分2分の1を滞納者に譲渡したとされているところの売買価格を基礎としているが、その取引は同族会社とその代表者との間の取引であり、しかも登記の移転は、真正な登記名義の回復を原因として申請されているのであるから、この価格を通常の取引価格として採用することはできず、昭和61年の上記契約時と本件調停時につき近傍の公示価格等をみても、本件土地の価額が33,018,000円を相当程度上回ると認定するに至らない。また、本件金員の原資となった第三者(D社)名義の土地の売却代金59,987,080円については、(a)D社の代表者は滞納者であること、(b)滞納者は個人の取引をD社名義で行っていること、及び、(c)D社は実際には活動していないことから、D社の名義というのは借名であり、実際の当該土地の所有者は滞納者と認められるので、本件調停の成立した日には土地として所有していたものをその後譲渡し昭和63年7月19日に売却代金を受け取ったものであるから、上記各時点において同額の価値を有する土地又は現金等として滞納者の財産を構成するものとみるのが相当と認められる。

 よって、この点に関しては、請求人の主張、原処分庁の主張とも採用することはできない。
 また、離婚に伴い給付された本件不動産等の価額は、本件土地33,018,000円、本件建物85,297,800円及び本件動産等(庭木及び火災保険契約に係る権利を含む。)16,029,115円の合計134,344,915円と認定される(ただし、本件建物及び本件動産等については、取得価格により、一応の金額として算出した価額である。以下同じ。)。なお、庭木及び火災保険契約に係る権利については、本件調停条項に記載されていないが、庭木は本件土地に定着しているものであるから、本件土地の給付に伴い同時に給付されたものと認められ、火災保険契約に係る権利は本件建物の火災保険契約に係るものであるから、本件建物と同時に給付されたものと認められる。

トップに戻る

(6)以上の認定事実及び法令の規定等に基づき、以下、具体的に検討する。

イ 請求人は、本件金員につき前記2の(1)のハのとおり主張するが、請求人主張のうちの本人分の扶養料については、上記(3)のハの(イ)のとおり、離婚後扶養料として財産分与の一部としてとらえるべきである。
 また、子に係る養育費については、上記(1)のヘのとおり、本件調停条項に記載がないが、(a)本件調停条項において子の監護者を請求人と定めていること(上記(1)のヘの(ロ))、(b)特別の定めがない場合には、監護費用は監護者が直接的には負担すると合意されたとみることが相当であること、及び、(c)その場合、他方の親から直接的な監護費用の負担者に相応の金銭その他の財産が給付されることは自然であることから、監護費用相当額又は同分担額の支払とみるべきである。
 なお、民法第877条の規定による扶養の給付については、同条による扶養の請求権者は被扶養者であるところ、扶養義務者である父母の間の合意により、一方の親から他方の親に扶養の給付をすることは相当でないから、上記養育費を扶養の給付とみることはできない。
ロ 本件不動産等及び本件金員の給付について、請求人及び原処分庁は本件不動産等を財産分与として、また、請求人は本件金員を離婚後扶養料及び子の養育費として、原処分庁は本件金員を慰謝料、子の養育費及び離婚後扶養料(ただし、認めていない。)としてとらえた上で、それぞれ主張している。なお、請求人及び原処分庁の主張からみて、両当事者は、いずれも、上記(3)のイの(a)の婚姻期間中に形成された共通の財産の清算のための給付に限って財産分与と認識し、これに基づきそれぞれの主張をしているものと判断される。
 しかし、本件において問題となっている離婚は、調停による離婚であるから、上記(3)のロのとおり、慰謝料を含む財産分与は、一体として把握して、不相当に過大な給付であるか否かを判断すべきであり、更に離婚後扶養料は財産分与の一部を構成するものであることは上記イのとおりである。
ハ 請求人の主張する子の養育費については、上記イのとおり監護費用相当額又は同分担額の支払と認められるところ、(a)滞納者は、上記(5)のとおり本件調停の当時において土地、建物、動産等を含め201,458,153円の財産を有し、本件調停により本件不動産等及び本件金員を請求人に給付することになったことから、残余の財産は少額であること、(b)上記(1)のルから、本件調停当時、滞納者は多額の課税処分を受けることを予知し得る状況にあったと認められること、(c)上記(1)のヲのとおり、滞納者は、本件調停条項の履行後、実質的に資力を有さず、このことは本件調停の当時予想し得る範囲内にあったと認められることから、本件不動産等及び本件金員の給付は、滞納者及び請求人の間の負担能力に相当程度影響すると認められるので、監護費用相当額又は同分担額の支払が不相当に過大な給付であるか否かは、財産分与(慰謝料を含む。)の給付を勘案して判断されるべきであり、また、上記のような資力の状況の下では、一時の支払金額として不相当に過大であるか否かを財産分与(同上)の給付額と総合的に判断すべき場合に該当すると認められる。
 なお、本件については、上記(1)のヘのとおり、第1回調停期日において直ちに調停が成立しているのであるから、請求人及び原処分庁の主張するように、財産分与(慰謝料及び離婚後扶養料を除く。)、慰謝料、離婚後扶養料及び子の養育費につき個別・具体的に協議の上合意されたものとみることは、不自然であり、そのように認定することはできない。
ニ 以上のとおりであるから、当審判所としては、本件不動産等及び本件金員の給付が財産分与(慰謝料を含む。)及び監護費用相当額又は同分担額の一時の支払として不相当に過大であるか否かについて、総合的に判断する。
 なお、その前提となる離婚の原因については、上記(1)のワのとおりであるから、当審判所としては、本件審査請求の審査においては、滞納者が有責であるものとして、以下判断せざるを得ない。
ホ 本件不動産等について、まず、判断する。
 本件不動産等については、(a)本件不動産等は、上記(1)のニ及びホのとおり請求人と子の生活の用に本件調停の成立前から供されていたものであり、その内容及び面積等は通常人の生活にとって特に不相当なものとは認められないこと、(b)上記(1)のイ及びロのとおり請求人は滞納者と通算13年以上(復縁後の内縁期間を含む。)にわたり結婚生活をしており、その間、少なくとも内助の功において欠けるところがあったと認めるべき事由は見当たらないこと、(c)請求人は、上記(1)のカのとおり、本件調停の当時心臓に欠陥があって病身であり、また、上記(1)のヘの(ロ)のとおり子4人の監護者となり、請求人本人及び子のため安定した生活の本拠である住居を確保する必要があったこと、並びに、(d)上記ニのとおり滞納者は離婚につき有責と認められることから、滞納者から請求人への離婚に伴う本件不動産等の給付は、その価額につき精査するまでもなく、不相当に過大ということはできない。
ヘ 次いで、本件金員について判断する。
(イ)離婚後扶養料については、(a)上記ホの(b)の事情が認められること、(b)請求人は、本件調停当時、45才に達しており、また、上記ホの(c)のとおりの病身であったこと及び(c)上記ホの(d)の事情が認められることから、請求人は、上記ホのとおり本件不動産等の給付を受けても、これに加えて相当の金銭の給付を受けて不相当とはいえない立場にあったと認められる。
 なお、前記2の(2)のハのなお書の原処分庁の主張は、本件調停の当時の事情に基づくものではなく、さらに、月1回の通院という事情を無視したものであるから、離婚後扶養料についての理解を誤ったものというべきであり、採用することはできない。
(ロ)その金額については、本件の全事情を勘案すれば、請求人主張の10年間の期間は、その理由はともかく、結果的に相当と認められ、また、月100,000円の額も、下記(ハ)のBに記すところと同様、不相当とは認められないから、請求人主張どおり12,000,000円の金額としても、不相当に過大とはいえない。
(ハ)監護費用相当額又は同分担額については、次のとおりである。
A 監護費用は、子が成年に達するまでの間要するものであるから、同相当額又は同分担額につき一律10年分とすることはできない。
B 監護費用の額自体については、請求人及び原処分庁とも、子1人につき月100,000円と主張するものと認められるが、一般職の職員の給与等に関する法律に基づく扶養手当の支給要件等に照らし、当審判所としても当該金額は監護費用自体の額としては不相当とは認められない。
C そうすると、監護費用自体の額としては、未成年の子4人がそれぞれ成年に達するまでの期間について毎月100,000円としての累計額28,400,000円は、少なくとも不相当に過大とは認められない。
D しかしながら、監護費用は、本来、父母がその負担能力に応じて負担すべきものであり、離婚についての有責又は無責とはかかわりのないところである。
 ところで、滞納者については、上記ハの(a)、(b)及び(c)の事情が認められるのであるから、本件においては監護費用は父母である滞納者と請求人が折半して実質的に負担すべきであり、上記Cに対応すれば、監護費用分担額として給付を受ける金額として不相当に過大とは認められない金額は、上記Cの累計額28,400,000円の2分の1の14,200,000円となる。
(ニ)上記(ロ)及び(ハ)で認定した金額については、当該金額は不相当に過大といえないとしたものであって、これを超える金額が直ちに不相当に過大であると認定しているものではなく、離婚に伴う給付として不相当に過大とする金額、また監護費用分担額の一時の支払額については、下記(ホ)において、上記ニのとおり、財産分与(慰謝料及び離婚後扶養料を含む。)及び監護費用分担額の一時の支払として、総合的に判断する。
 ただし、監護費用分担額の一時の支払については、滞納者の生活が安定を取り戻すのに要すると通常人の場合において予測される期間を勘案し、また、子4人のうち2人が5年内に成年に達することを考慮すると、本件においては、上記(ハ)の計算による当初の60月分に相当する10,600,000円は、少なくとも不相当に過大とは認められない。
(ホ)本件金員について、財産分与(慰謝料及び離婚後扶養料を含む。)及び監護費用分担額の一時の支払として、不相当に過大と認められる金額につき総合的に判断する。
請求人及び滞納者について上記ホの(b)、(c)及び(d)の事情並びに上記ヘの(イ)の(b)の事情に基づき、他方、滞納者の資力について上記ハの(a)、(b)及び(c)の事情を考慮し、上記ホのとおり不相当に過大と認められないところの、しかしながら、本件調停当時の滞納者の総財産の価額の過半(上記(5)の計算によれば66パーセント)に達する本件不動産等の給付がされていること、並びに、上記(ロ)、(ハ)及び(ニ)で認定した金額を踏まえて判断すると、本件金員に関しては、滞納者が本件不動産等を請求人に給付した上で保有し得た財産の総額67,113,238円の2分の1に相当する33,556,619円までの金額については、不相当に過大とまで認めることはできず、他方、これを超える部分については、本件不動産等を給付した上での財産分与(慰謝料及び離婚後扶養料を含む。)及び監護費用分担額の一時の支払として、不相当に過大と認めることができる。
ト そうすると、離婚に伴い滞納者から請求人に給付された本件不動産等及び本件金員に関し、本件不動産等の譲渡については不相当に過大と認められないから無償譲渡等処分に該当せず、本件金員の支払については、そのうち26,443,381円は、不相当に過大なものとして無償譲渡等処分に該当すると認められる。
(イ)ところで、財産分与として相当な割合につき、請求人は2分の1と主張し、原処分庁は3分の1と主張するが、これらは、いずれも根拠を有するものではなく、採用することはできない。
(ロ)また、原処分庁は、慰謝料について10,000,000円を相当と主張するが、世に多くある離婚例においては、当事者ないし親族の財産、社会的地位、所得稼得能力等によって、また、当事者間の事情によって、財産分与ないし慰謝料の額は大幅に異なるものであり、さらに、原処分庁の引用する統計等に表れているのは、離婚例のうちの一部である裁判所の関与する事例に過ぎないのであって、裁判所の関与する事例の統計及び裁判例とは相違した相当多額な給付もかなりみられることは公知の事実であるところ、原処分庁の当該主張は部分的な、また、社会的にかなり偏った集団に基づく統計及び事例を前提としての主張というべきで、採用することはできない。

(7)以上のとおりであるから、本件金員の支払のうち26,443,381円は無償譲渡等処分と認められ、当該金額の支払につき、支払後本件告知処分の時点までに利益が消滅し又は減少したとは認められないから、請求人が国税徴収法第39条に規定する特殊関係者に該当するか否か判断するまでもないところ、上記(1)のヨのとおり、滞納者は、本件告知処分がされた日現在において、滞納処分を執行してもなお徴収すべき額に不足する状況にあり、これは本件滞納国税の法定納期限の1年前の日以後に本件不動産等及び本件金員を請求人に給付した(上記(1)のタ)ことに基因すると認められるから、請求人は、国税徴収法第39条の規定により、上記の26,443,381円の限度において、本件滞納国税の第二次納税義務を負うことになると認められる。

(8)以上の結果、請求人の第二次納税義務の限度額は26,443,381円となり、この額は原処分の金額を下回るから、本件告知処分は、その超える部分を取り消すべきである。

(9)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る