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(平9.1.24裁決、裁決事例集No.53 220頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)更正の請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成2年4月26日にP市R町4丁目49番地3の建物(種類、店舗付住宅)延床面積71.05平方メートル(以下「本件建物」という。)並びにその敷地に供されている同所4丁目49番3の宅地57.12平方メートル(以下「本件甲土地」という。)及び同所4丁目43番9の宅地16.56平方メートル(以下「本件乙土地」という。)を株式会社Gに総額460,000,000円で譲渡(以下「本件譲渡」という。)した。
 そして、請求人は、本件譲渡に係る所得のうち本件建物並びに本件甲土地及び本件乙土地の居住用部分に係る所得について、租税特別措置法(平成3年法律第16号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》第1項の規定を適用し、平成2年分の確定申告書(分離課税用)(以下「本件確定申告」という。)に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、別表の「修正申告等」欄のとおりとする修正申告書を平成3年10月15日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成3年11月19日付で当該修正申告により納付すべき本税に対する過少申告加算税について、別表の「修正申告等」の「過少申告加算税の額」欄のとおりとする賦課決定処分をした。
 その後、請求人は、本件確定申告において一時所得の金額12,250,000円が申告漏れとなっていたが、本件建物に係る減価償却費の計算誤りにより本件譲渡に係る所得金額が減少すること及び本件譲渡に係る所得のうち、本件建物及び本件甲土地の居住用部分(以下「本件居住用部分」という。)に係る税額の計算に当たり措置法第31条の4《居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項(以下「本件法規定」という。)の規定の適用を受けられるべきであるから、これらを含めて再計算した結果、一時所得の申告漏れにより増加する税額があるものの、本件確定申告により納付すべき税額を下回るとして、平成3年12月6日に別表の「更正の請求」欄に記載のとおりとすべき旨の更正の請求をした。

(2)審査請求に至る経緯

 原処分庁は、上記の更正の請求に対し、平成6年7月29日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の変更決定処分(以下「本件変更決定処分」という。)をした。
 請求人は、本件更正処分を不服として平成6年9月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成6年12月9日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、本件変更決定処分及び異議決定を経た後の本件更正処分に不服があるとして、平成7年1月9日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分については、争わない。
イ 本件更正処分について
 本件居住用部分の所有期間は、以下に述べるとおり平成2年1月1日において、10年を超えているから、本件居住用部分に係る分離長期譲渡所得の税額の計算に当たっては、本件法規定を適用すべきである。
(イ)本件建物は、昭和54年8月に請求人が本件甲土地とともに取得した建物(以下「旧建物」という。)を取り壊した後新築した注文建築物であり、和和54年末には、当時営んでいた料理店の営業再開の必要性から、請負代金が一部未払の状態ではあったが、既に入居可能な状態にまで建築工事が進行し、外構の一部など微細な施工を残して本件建物が全面使用可能となったので、昭和54年12月25日に仮住居から本件建物に転居したのである。
 このことは、日記にも当時の移転の模様を記録しており、第三者の証言も得られるし、また、昭和54年12月25日に転居した旨の届出書を市役所に提出している。
 したがって、請求人は、本件建物に入居した昭和54年12月25日に本件建物の事実上の引渡しを受けたのである。
(ロ)原処分庁は、本件建物が登記原因を「昭和55年1月31日新築」として表示登記されていることを一つの理由として、本件建物の取得日が昭和54年中でない旨主張するが、登記には公信力がなく、また、実質課税の考えからも登記の日付は絶対的でないから、本件建物の取得の日は、事実上の引渡しを受けた日である昭和54年12月25日である。
ロ 本件変更決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分はその一部を取り消すべきであり、その結果、請求人の納付すべき税額は、本件確定申告により納付すべき税額を下回ることから、これに伴い本件変更決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、上記(1)のとおり、本件居住用部分の平成2年分の分離長期譲渡所得に係る税額の計算に当たって、本件法規定を適用すべきである旨主張するが、次のとおり、請求人の主張には理由がない。
(イ)原処分庁が調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和55年2月14日に株式会社H(以下「H社」という。)と「請負工事契約書(念書)」(以下「本件念書」という。)を取り交わしており、本件念書には次の事項が記載されていること。
(A)H社は、本件建物の建築工事を昭和55年2月17日までに完成の上、請求人に引き渡す。
(B)請求人及びH社は、本件建物の請負代金が総額13,000,000円であり、請求人はH社に対し、既に12,000,000円を支払っていることを相互に確認する。
(C)残金1,000,000円は、本年(昭和55年)2月末日限り支払う。
 ただし、前記(A)の建築工事を完了したことを条件とする。
(D)H社は、請求人に対し、本件建物の所有者を請求人とする保存登記に必要な手続を本日(昭和55年2月14日)中に了する。
B 建物登記簿の登記事項によると、本件建物は、登記原因を「昭和55年1月31日新築」として、請求人を所有者とする保存登記を昭和55年2月26日にされていること。
(ロ)ところで、他に請け負わせて建築した資産の取得の日は、当該資産の引渡しを受けた日であると解され(所得税基本通達33―9《資産の取得の日》の(3))、本件において請求人は、昭和54年12月25日に本件建物に転居しているから、当該転居日に実質的な引渡しを受けている旨主張している。しかしながら、以下のとおり請求人が、昭和54年中に建物の引渡しを受けたものとは認められない。
A 請求人は、上記(イ)のAによれば、請求人とH社との間で本件念書が取り交わされた昭和55年2月14日現在において、本件建物の請負工事は完了しておらず、また、請負代金の授受及び本件建物の保存登記に必要な手続も未了であり、かつ、本件建物は、登記原因を「昭和55年1月31日新築」として保存登記されていることから、請求人が本件建物の引渡しを受けた日は、本件念書が取り交わされた昭和55年2月14日以降であることが認められる。
 仮に、請求人が昭和54年12月25日に本件建物に入居した事実があったとしても、これによる請求人の本件建物の占有は、所有の意思のない占有(他主占有)にすぎないものであって、前記(イ)のAのとおり本件念書に基づき建築工事完了後にH社から本件建物の引渡しを受けることによって初めて本件建物の所有権を取得したというべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がないと言わざるを得ない。
B 確かに、請求人の住民票除票(以下「本件住民票除票」という。)には、請求人が昭和54年12月25日に本件建物が所在する住所地に異動したことが記載されているが、住民票記載の異動年月日は、あくまで請求人が市役所に届け出た事項を記載しているのであるから、本件住民票除票は、請求人が本件建物に入居した日を裏付けるものではなく、また、私文書である日記等そのものは証拠能力に乏しいことから、本件住民票除票及び日記等をもって請求人が昭和54年12月末までに本件建物に入居したと認めることはできない。
 以上のとおり、請求人は昭和54年12月末までに本件建物の引渡しを受けたものとは認められず、本件建物の所有期間は、平成2年1月1日において10年を超えていないことから、本件法規定の適用がないとした原処分は適法である。
ロ 本件変更決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づく本件変更決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件変更決定処分について

 請求人は、本件変更決定処分について、その全部の取消しを求めているが、本件変更決定処分は、修正申告に対する平成3年11月19日付の過少申告加算税の賦課決定処分の減額処分であり不利益処分ではないから、請求の利益を欠くこと及び本件変更決定処分部分については、異議前置を経ていないことから、不適法なものとして却下されるべきである。

(2)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例の適用が受けられるか否かにあるので、以下審理する。
イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によると、次の事実が認められる。
(イ)本件建物、本件甲土地及び本件乙土地の所在地は、平成元年2月13日の行政区画及び住居表示変更登記により、また、本件建物及び本件甲土地の地番等は、本件建物の平成元年3月1日の番地等変更登記及び本件甲土地の平成元年2月20日の地番変更登記により、次のとおり変更されていること。
A 本件建物
(A)変更前所在地 P市S町6丁目49番地
(B)変更後所在地 P市R町4丁目49番地3
B 本件甲土地
(A)変更前所在地 P市S町6丁目49番
(B)変更後所在地 P市R町4丁目49番3
C 本件乙土地
(A)変更前所在地 P市S町6丁目43番9
(B)変更後所在地 P市R町4丁目43番9
(ロ)請求人は、本件甲土地及び旧建物を昭和54年5月26日の売買契約によりJより総額45,789,350円で取得し、請求人を所有者とする所有権移転登記を昭和54年7月16日にしていること。
(ハ)請求人は、H社との間で本件甲土地上に本件建物を建築する旨の建築工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、工事請負契約書(以下「本件請負契約書」という。)を作成しており、本件請負契約書には、次の事項が記載されていること。
A 発注者  ○○
B 請負者  H社
C 工事名  ○○邸新築工事
D 工事場所 P市S町6丁目45番地
E 工期
(A)着手 契約の日から10日以内、昭和54年8月18日
(B)完成 昭和54年12月20日
F 引渡しの時期 完成の日から10日以内
G 請負代金の額 12,000,000円
H 請負代金の支払
(A)前払        契約成立の時に3,000,000円
(B)部分払       上棟時    4,000,000円
(C)完成引渡しの時に  残金     5,000,000円
I 契約年月日 記載なし
(ニ)上記(ハ)のAの○○は、請求人の通称名であること。
(ホ)請求人は、昭和55年2月14日に、H社との間で本件建物に係る本件念書を取り交わしており、本件念書には次の事項が記載されていること。
A 本件念書作成年月日 昭和55年2月14日
B H社は請求人に対し、本件建物の建築工事を昭和55年2月17日までに完成の上、請求人に引き渡す。
C 請求人及びH社は、本件建物の請負代金が総額13,000,000円であることを相互に確認し、請求人はH社に対し既に金12,000,000円を支払済である。
D 残金1,000,000円については、昭和55年2月末日限り支払う。ただし、前記Bの建築工事を了したことを条件とする。
E H社は請求人に対し本件建物につき、所有者を請求人とする保存登記に必要な手続を本日(昭和55年2月14日)中に了する。
(ヘ)請求人は、上記(ホ)のCの請負代金総額13,000,000円のうち、9,000,000円を昭和54年中に、また、4,000,000円を昭和55年中にそれぞれ支払っていること。
(ト)本件建物の不動産登記簿の登記事項によると、本件建物は、登記原因を「昭和55年1月31日新築」として所有者を請求人とする表示登記を昭和55年2月16日に、また、請求人を所有者とする所有権保存登記を昭和55年2月26日にそれぞれ行っていること。
(チ)本件住民票除票によれば、請求人は、昭和54年12月25日に住所地を本件建物が所在する住所地に異動した旨を昭和55年1月21日に市役所に届け出ていること。
(リ)請求人の提出した日記(以下「本件日記」という。)の内容は、次のとおりであること。
A 本件日記は、昭和50年4月3日から昭和54年12月31日までの出来事が鉛筆により記録されている。
B 昭和54年12月25日には、請求人が仮住居から本件建物に転居した旨の記録はない。
C 昭和54年12月31日には、「S町へ引越。△△、□□手伝いに来てくれる 運送屋Kより82,000、祝10,000」との記録がある。
D 本件日記の最終ページの昭和54年12月31日の次には、昭和55年1月1日の出来事が記録された形跡はあるが、消しゴムで消した跡に「家かたづけ」等に書き換えられているように読み取れる。
E 本件日記は、表紙1枚、裏表紙1枚、中表紙1枚及びノート部分59枚で構成されている。
(ヌ)原処分関係資料には、請求人の長女の昭和54年12月頃の家計簿の写し(以下「本件家計簿の写し」という。)が添付されているが、本件家計簿の写しには、次の事項が記載されていること。
A 昭和54年12月25日 母宅引越(T町→W町)と記載した後に棒線で抹消されている。
B 昭和54年12月31日 母宅引越(T町→W町)。
 なお、同日の支出の明細と思われる欄には、母宅引越交通費合計1,700円と記載されている。
(ル)請求人のX銀行a支店の預金通帳には、次の事項が記載されていること。
 なお、かっこ書は、当該通帳に加筆されている事項である。
A 昭和54年8月11日 振替出金 3,000,000円 相手科目、別段(Y工務)
B 昭和54年10月3日 現金出金 4,135,000円(Y工務店払 棟上げ祝)
C 昭和54年12月27日 振替出金 2,000,000円 相手科目、別段(工務店払)
D 昭和55年2月14日 振替出金 3,000,000円 相手科目、別段(工務店)
(ヲ)上記(ル)から、請求人は、H社に対して、本件請負契約に係る請負代金総額13,000,000円を、次のとおり支払っていると認められること。
昭和54年8月11日  3,000,000円
昭和54年10月3日  4,000,000円
昭和54年12月27日  2,000,000円
昭和55年2月14日  3,000,000円
合計          12,000,000円
 なお、残金1,000,000円については、支払年月日の分かる書類等がないことから、その支払の事実及び支払年月日等は不明である。
(ワ)前記イの(ハ)の本件請負契約書、(ホ)の本件念書、(ト)の本件住民票除票、(リ)の本件日記及び(ヌ)の本件家計簿の写し以外には、本件建物の建築工事の状況、請求人が本件建物に入居した日及び本件建物の引渡し又は所有権の帰属等を明らかにする書類等はないこと。
ロ ところで、本件法規定によれば、個人が、その有する土地等又は建物等でその年1月1日において当該土地等又は建物等の所有期間が10年を超えるもののうち居住用財産に該当するものを譲渡した場合には、措置法第31条の4第1項の規定を適用することとされており、ここにいう居住用財産とは、当該個人がその居住の用に供している家屋及び当該家屋の敷地の用に供されている土地等をいい、また、所有期間とは、当該個人がその譲渡をした土地等又は建物等を取得した日の翌日から引き続き所有していた期間をいうこととされている。
ハ また、建物の建築を目的とした請負契約の場合、請負人は、仕事の目的物たる建物を完成し、完成した建物を注文者に引き渡す義務を負い、建物を引き渡すまでは、これに関する滅失・き損等の危険は請負人の負担に属し、これに対し、注文者は特約がない限り、請負人に対して建物の引渡しと同時に報酬を支払う義務を負い、引渡しによって初めてその危険負担は注文者に帰すこととなり、また、請負の目的物件たる建物の所有権は、特約等がない限り、原則として引渡しによって請負人から注文者に移転するものである。
 しかし、注文者が工事完成前あるいは請負人が未完成のまま工事を中止した場合の請負代金あるいは未完成建物の工事代金を完済している時には、工事完成と同時あるいは工事中止と同時に、その目的物件たる建物の所有権は注文者に帰属すべき暗黙の合意があったと解するのが相当であり、建築中の建物自体については、注文者は何らの権利(物権)を有しないと解するのが相当である。
ニ 前記イの事実を前記ロ及びハの法令の規定に照らし判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人が、本件甲土地及び本件建物を取得したのが昭和55年1月1日前であるときは、本件法規定の適用があり、それ以降であるときは適用されないこととなるので、本件建物の取得がいつであるかを検討する。
A 前記イの(リ)のB及び(ヌ)のAのとおり、昭和54年12月25日の本件日記及び本件家計簿の写しには、請求人が仮住居から本件建物に転居した旨は記載されていないが、前記ロの(リ)のCのとおり、請求人が昭和54年12月31日に前住所地から本件建物に転居した時の状況が記載されている。
 ところで、日記とは、日々の出来事や感想など私的・個人的な事柄を記録した私文書であることから、事実のみを正確に記録されている性質のものではなく、また、後日、自己の都合に合わせて、既に記録されている事柄を書き直したり、新たに追加することも可能である。
 前記イの(リ)のA、C、D及びEのとおり、(a)本件日記は、昭和50年4月3日から昭和54年12月31日までの期間について鉛筆により記載されていること、(b)本件日記の最終ページに昭和55年1月1日の出来事を記載した後に消した跡があること、(c)そして、消した跡からT町の「家かたづけ」と記録された跡が読み取れること、(d)本件日記は、表紙、裏表紙、中表紙及びノート部59枚で構成されていること及び(e)請求人の昭和55年1月1日以降分の日記の提出がないことから、本件日記だけでは、同日に記録されている事柄が真実であるか否かを確認することはできない。
B 前記イの(チ)のとおり、本件住民票除票には、請求人が、昭和54年12月25日に本件建物に転居した旨の届出書を昭和55年1月21日に市役所に提出していることが記載されている。
 しかしながら、住民基本台帳法第23条《転居届》は、転居をした者は、転居をした日から14日以内に転居をした日等同条に掲げる事項を市町村長に届けなければならない旨は規定しているが、転居をした年月日等を具体的に証する書類等の添付を要することにはなっておらず、住民票除票記載の転居をした日は、あくまで転居をした者が同条に基づいて市町村長に届け出た事項を記載しているに止まり、市町村長が届出書記載の各事項が真実であることを確認した上で同事項を住民票除票に記載しているのではないから、本件住民票除票に記載があることを理由に転居した日を証明したことにはならない。
C 前記イの(ホ)のとおり、(a)本件念書は昭和55年2月14日に作成され、請求人及びH社との間で取り交わされていること、(b)本件建物の建築工事を昭和55年2月17日までに完成のうえ請求人に引き渡す旨記載していること及び(c)前記イの(ヘ)及び(チ)のとおり、請求人は、昭和55年1月1日において、本件請負工事代金のうち4,000,000円を未払であったことからすると、本件請負契約では昭和54年12月20日の引渡しになっていたものの、工事が遅延したことにより、請求人とH社の間で昭和55年2月14日に本件念書を取り交わし、本件建物の引渡しを昭和55年2月14日ないし昭和55年2月17日の間に行うことで合意したものというべきである。
(ロ)上記AないしCの事項を総合すると、上記A及びBのとおり、本件日記及び本件住民票除票からは、本件建物の取得年月日を確認することができないこと及び本件念書が昭和55年2月14日に請求人とH社の間で取り交わされ、本件建物の引渡しを昭和55年2月17日までに行うことを約して、その日に本件請負工事代金の残金の一部である3,000,000円が請求人からH社に支払われている事実からすると、少なくとも本件建物の引渡しが行われたのは、昭和55年2月14日以降にならざるを得ないというべきである。
 そうすると、本件建物の表示登記を昭和55年2月16日に、また、請求人を所有者とする所有権保存登記を昭和55年2月26日にそれぞれ行ったのは相当と認められる。
 したがって、本件建物の引渡しを受けたのは昭和54年12月25日である旨の請求人の主張は採用することはできない。
ホ 以上のとおり、請求人が、昭和54年12月31日までに本件建物の所有権を取得したとは認められないから、請求人の本件居住用部分に係る分離長期譲渡所得の税額の計算に当たり、措置法第31条の4第1項の規定は適用できないとした原処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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