ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.53 >> (平9.4.2裁決、裁決事例集No.53 283頁)

(平9.4.2裁決、裁決事例集No.53 283頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成6年分の所得税について、確定申告書(給与所得者の還付申告用のものをいい、以下「本件確定申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成7年3月15日に申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成8年1月31日付で次表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分
項目
給与所得の金額3,537,0003,537,000
住宅取得等特別控除の額54,20052,000
還付金の額に相当する税額43,34041,580

 請求人は、この処分を不服として、平成8年3月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月25日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成8年7月25日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

トップに戻る

(1)請求人の主張

 請求人は、P市R町45番2号所在の宅地(以下「本件宅地」という。)及び本件宅地上の家屋番号278番地178の家屋(木造瓦葺2階建床面積116.6平方メートル、以下「本件家屋」といい、本件宅地と併せて「本件家屋等」という。)を、不動産仲介手数料として2,781,000円を、不動産売買契約書に係る印紙代として60,000円及び不動産登記費用として1,439,600円(以下、これらの支出を併せて「本件仲介手数料等」という。)を含む92,280,600円で請求人の夫G(以下、請求人と併せて「請求人ら」という。)と共有で取得し、本件家屋を平成6年11月27日から居住の用に供した。
 そこで、請求人は、本件家屋等の取得に伴うH銀行○○支店からの借入金15,000,000円を有していたため、租税特別措置法(平成7年法律第55号改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第41条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する所得税の特別控除(以下「住宅取得等特別控除」という。)を適用して、平成6年12月31日における本件家屋の取得の対価の額の部分の借入金残高の1.5パーセントに相当する金額54,200円を平成6年分の請求人の所得税額から控除し、同年分の還付金の額に相当する税額を43,340円として申告した。
 これに対し、原処分庁は、家屋の取得の対価の額(租税特別措置法施行規則(以下「措置法施行規則」という。)第18条の21《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除の適用を受ける場合の添付書類等》に規定するものをいう。以下同じ。)には、本件仲介手数料等を含めることはできないと認定して、住宅取得等特別控除の額を一部否認する本件更正処分を行った。
 しかしながら、次に述べるとおり、家屋の取得の対価の額には、本件仲介手数料等が含まれるべきであるから、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
イ 租税特別措置法通達(以下「措置法通達」という。)41―17《家屋の取得対価の額の範囲》は、家屋の取得の対価に含まれるものを確認的に例示しているにすぎず、家屋の取得の対価に含まれるものについて、この通達に書かれていることのみに限定するものではない旨の請求人の主張に対する異議決定の理由附記が、法が求める程度を満たしていない。
ロ 本件仲介手数料等は、家屋の取得に伴う経済的負担を構成する以上、本件仲介手数料等を家屋の取得の対価の額に含めることは措置法第41条の立法の趣旨に沿うというべきであり、社会通念上も是認し得る。
 また、措置法施行規則第18条の21第11項の規定が「取得価額」とせず、「取得対価」としているのは、本件仲介手数料等のような少額のものを立法の趣旨、社会通念に反してまで排除することを予定しているものではない。
 したがって、本件仲介手数料等を家屋の取得の対価の額の計算上、その対象に含めることはできないとした本件更正処分には、法解釈に誤りがある。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人が、審査請求において争われるのは、異議決定を経た後の原処分であるから、審査請求の理由として異議決定の違法を主張することは許されないのであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、原処分庁は、異議決定書には本件更正処分を適法とする理由を記載したものであり、請求人に対する異議決定は適法に行われている。
ロ 措置法第41条の規定によれば、住宅取得等特別控除の対象となる債務は、居住者が、国内において、住宅の用に供する家屋の新築工事の請負代金若しくは住宅の取得の対価の額又は所有している家屋の増改築等の費用に充てられたものとされている。
 ところで、家屋の取得の対価の額とは、家屋の請負代金又は購入代金そのものをいい、特例として、家屋と一体として取得した当該家屋の電気設備、給排水設備、衛生設備及びガス設備等の付属設備の取得の対価等の額並びにその家屋の取得の日以後居住の用に供する日前に行った当該家屋に係る修繕に要した額等は、その家屋の取得の対価の額に含めることができるよう取り扱われている。
 また、措置法通達41―17(1)において「その家屋と一体として取得した当該家屋の電気設備、給排水設備、衛生設備及びガス設備等の付属設備の取得の対価の額」が家屋の取得の対価の額に含むものとされているのは、当該設備等は本来家屋の取得の対価の額とはいえないものであるが、家屋と一体として取得するものについては、実務的にその区分計算が困難であることを考慮したものであり、また、措置法通達41―18《家屋の取得対価の額の特例》において「門、塀等の構築物、電気器具、家具セット等の器具、備品又は車庫等の建物(以下、併せて「構築物等」という。)を家屋と併せて同一の者から取得等をしている場合で、当該構築物等の取得等の対価の額がきん少と認められるときは、措置法通達41―17にかかわらず、当該構築物等の取得等の対価の額を家屋の取得の対価の額に含めて差し支えない」とされているのは、構築物等の取得の対価の額は、家屋の取得の対価の額に含まれないのであるが、家屋と併せて同一の者から取得するものについては実務的にその区分計算が困難であることや、それを厳密に区分することは取引の実情に沿わないこととなる場合も想定されることを考慮したためであり、この取扱いを理由として、設備等及び構築物等と支払先や支払要因の異なる本件仲介手数料等についても家屋の取得の対価等の額に含まれるべきであると解することはできない。
 したがって、本件仲介手数料等が家屋の取得の対価の額に含まれるべきであるとする請求人の主張には、理由がない。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件仲介手数料等が家屋の取得の対価の額に含まれるか否かであるので、以下審理する。
(1)請求人が当審判所に提出した証拠書類及び原処分関係資料等によれば、次の事実が認められる。
イ 本件家屋は、その登記簿謄本によれば、(a)種類は居宅、(b)構造は木造瓦葺弐階建て、(c)床面積は壱階部分が63.81平方メートル、弐階部分52.79平方メートル、総床面積116.6平方メートル、(d)新築された年月日は昭和58年4月27日と記載されていること。
ロ 平成6年9月23日付で、請求人らは、K及びLと本件家屋等の売買契約(以下「本件契約」という。)を締結したこと。
ハ 本件契約に係る不動産売買契約書(以下「本件契約書」という。)には、売主をK及びL、買主を請求人ら、本件家屋の売買代金(以下「本件価格」という。)が88,000,000円と記載されていること。
ニ 請求人らは、本件契約書に60,000円の収入印紙を貼付し、当該収入印紙に消印をしたこと。
ホ 請求人らは、本件契約に基づく不動産仲介手数料として、平成6年9月23日に1,390,000円及び平成6年10月28日に1,391,000円の合計2,781,000円をM株式会社(以下「M社」という。)へ支払ったこと。
ヘ 本件家屋の登記簿謄本によれば、本件家屋は、平成6年10月28日付で、売買を原因として、請求人らの共有名義で登記されていること。
ト 請求人らは、本件家屋等の不動産登記費用として、平成6年10月28日に1,439,600円を司法書士Nに支払ったこと。
チ 請求人らは、本件家屋に居住する以前に、本件家屋を修繕し、当該修繕代金として、平成6年11月21日に2,370,000円を有限会社Tへ及び同日401,700円を株式会社WへそれぞれX銀行○○支店から振り込んでいること。
リ H銀行○○支店が発行した請求人に係る「住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書」によれば、平成6年12月31日における請求人の住宅借入金の残高は14,951,355円であること。
ヌ 請求人は、本件確定申告書に、本件家屋の居住開始日を平成6年11月27日と記載していること。
ル 請求人は、本件確定申告書に添付した「住宅取得等特別控除額の計算の基礎となる住宅借入金等の年末残高の計算明細書」において、「家屋の取得の対価の額」を算出するに当たり、本件価格88,000,000円と本件仲介手数料等4,280,600円とを合計した92,280,600円に措置法施行規則第18条の21第10項に規定された100分の20を乗じた18,456,120円に上記チの修繕費の額2,771,700円を加えた額21,227,820円を家屋の取得の対価の額とし、さらに、本件確定申告書において、請求人の持分が88分の15であることから、この21,227,820円に88分の15を乗じて計算した3,618,378円に相当する上記リの住宅取得資金に係る借入金残高に1.5パーセントを乗じて計算した54,200円(100円未満を切り捨てた後の金額)を住宅取得等特別控除の額として、確定申告をしていること。
ヲ 原処分庁は、本件仲介手数料等は家屋の取得の対価の額には含まれないとして、本件価格88,000,000円に措置法施行規則第18条の21第10項に規定された100分の20を乗じた17,600,000円に上記チの修繕費の額2,771,700円を加えた額20,371,700円を本件家屋の取得の対価の額とし、さらに、請求人の持分が88分の15であることから、この20,371,700円に88分の15を乗じて計算した3,472,448円に相当する上記リの住宅取得資金に係る借入金残高に1.5パーセントを乗じて計算した52,000円(100円未満を切り捨てた後の金額)を住宅取得等特別控除の額として、本件更正処分を行っていること。
(2)措置法第41条第1項は、居住者が租税特別措置法施行令第26条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》に定める住宅の用に供する家屋(以下「居住用家屋」という。)を取得した場合、その取得に係る資金を措置法に規定する一定の金融機関等から借り入れた場合には借入金の年末残高(以下「借入金の年末残高」という。)の1.5パーセントの金額を所得税額から控除できる旨規定している。
 そして、この住宅取得等特別控除の対象となる借入金の年末残高について、措置法施行規則第18条の21第11項は「居住用家屋の取得に係る請負代金若しくは取得の対価の額」を超える場合には「居住用家屋の取得に係る請負代金若しくは取得の対価の額」に達するまでの部分の金額と規定されている。
 ところで、課税庁においては、この「居住用家屋の取得に係る請負代金若しくは取得の対価の額」に含まれるものとして、(a)その家屋と一対として取得した当該家屋の電気設備、給排水設備、衛生設備及びガス設備等の附属設備の取得等の対価の額、(b)その家屋の取得の日以後居住の用に供する日前にした当該家屋に係る修繕に要した額及び(c)その家屋が区分所有に係るものである場合には、当該家屋に係る廊下、階段その他その共用に供されるべき部分のうち、その者の持分に係る部分の取得の対価の額とされている。
 さらに、門、塀等の構築物、電気器具、家具セット等の器具、備品又は車庫等の建物などの構築物等を家屋と併せて同一の者から取得等をしている場合で、当該構築物等の取得等の対価の額がきん少と認められる場合には上記の取扱いにかかわらず、当該構築物等の対価の額を家屋の取得対価の額に含めて差し支えないと取り扱われているところ、当審判所においても、家屋と併せて同一の者から取得する構築物等については実務的にその区分計算が困難であることや、それを厳密に区分することは取引の実情に沿わないこととなる場合も想定されるという理由から、この取扱いは相当と認められる。
(3)そこで、上記(1)の事実を上記(2)の各規定等に照らして判断すると、本件仲介手数料等のうち、(a)仲介手数料の2,781,000円については、本件家屋等の取得に当たり、便宜を図ったための報酬(役務の対価)としてM社に支払われたものであること、(b)収入印紙代60,000円については、本件契約締結のための費用として支払われたものであること、また、(c)不動産登記費用1,439,600円については、本件家屋等の所有権を第三者に対抗するための費用として支払われたものとするのが相当と認められる。
 ところで、上記(2)の規定等を通観すると、ある支出が「居住用の家屋の取得等に係る請負代金若しくは取得等の対価の額」とするためには、当該支出が居住用に係る構築物等の取得の対価に充てられることが一つの要件と解されるところ、上記のとおり、本件仲介手数料等は「本件家屋と併せて同一の者から取得」した本件家屋を含む構築物等の取得の対価には充てられていないこと、また、本件家屋と本件仲介手数料等とは「実務的に区分計算が困難」であるとも認められないから、本件仲介手数料等は本件家屋の取得等に係る請負代金若しくは取得等の対価の額に含めることができないと解するのが相当である。
(4)請求人は、措置法通達41―17は、家屋の取得の対価に含まれるものを確認的に例示しているにすぎず、家屋の取得の対価に含まれるものについて、限定するものではない旨の請求人の主張に対する異議決定の理由附記が、法が求める程度を満たしていないから違法である旨主張する。
 しかしながら、国税通則法第84条《決定の手続等》第5項によれば、異議決定書にはその処分を正当とする理由が明らかにされていなければならないとされているところ、当審判所の調査によれば、上記(2)のとおり、原処分庁における住宅取得等特別控除の取扱いをも含め、「支払先や支払要因の異なる本件仲介手数料等についても居住用家屋の取得の対価等に含まれるべきであると解することはできない」と記載されており、本件の異議決定書には、処分を正当とする理由が明らかにされていると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(5)請求人は、措置法施行規則第18条の21第11項の規定が「取得価額」とせず、「取得対価」としているのは、本件仲介手数料等のような少額のものを立法の趣旨、社会通念に反してまで排除することを予定しているものではないこと及び本件仲介手数料等は、家屋の取得に伴う経済的負担を構成する以上、これを家屋の取得の対価の額に含めることは措置法第41条の立法の趣旨に沿うというべきであり、社会通念上も是認し得ることから、本件仲介手数料等を家屋の取得の対価の額の計算上、その対象に含めることはできないとした本件更正処分には、法解釈に誤りがある旨主張する。
 しかしながら、上記(3)で述べたとおり、居住用家屋を購入した場合の取得の対価の額には、本件仲介手数料等のように構築物等の取得の対価に充てられない費用は含まれないと解するのが相当であり、請求人の本件仲介手数料等が家屋の取得に伴う経済的負担を構成すること、あるいは、本件仲介手数料等の金額が少額であることを理由として本件仲介手数料等が家屋の取得の対価の額に含まれるという請求人の主張は、請求人が法律を独自に解釈したものであり、採用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(6)以上のことから、本件仲介手数料等は家屋の取得の対価の額に含めることはできないから、本件仲介手数料等を家屋の取得の対価の額に含めることはできないとして行った本件更正処分は適法である。
(7)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る