ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.54 >> (平9.12.5裁決、裁決事例集No.54 493頁)

(平9.12.5裁決、裁決事例集No.54 493頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、歯科技工所(以下「本件事業」という。)を営む同族会社であるが、平成3年10月1日から平成4年9月30日までの課税期間、平成4年10月1日から平成5年9月30日までの課税期間及び平成5年10月1日から平成6年9月30日までの課税期間(以下、それぞれ「平成4年9月課税期間」、「平成5年9月課税期間」及び「平成6年9月課税期間」といい、これらを併せて「各課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これをいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年6月20日付で次表の「原処分」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
課税期間区分確定申告原処分
平成4年9月課税標準の額62,974,00062,974,000
 納付すべき税額566,700755,600
 過少申告加算税の額18,000
平成5年9月課税標準の額64,955,00064,955,000
 納付すべき税額584,500779,400
 過少申告加算税の額19,000
平成6年9月課税標準の額62,066,00062,066,000
 納付すべき税額558,500744,700
 過少申告加算税の額18,000

 請求人は、上記各処分を不服として平成7年8月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年11月15日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年12月13日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、請求人の営む本件事業が、消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》(以下「簡易課税制度」という。)の適用上、各課税期間について、同法施行令(平成8年政令第86号による改正前のもの。以下「施行令」という。)第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第3号に規定する第三種事業のうちの製造業に該当することから、各課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除することができる各課税期間における課税仕入れに係る消費税額を、各課税期間における課税売上げに係る消費税額(各課税期間の課税標準額に対する消費税額から各課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額をいう。以下同じ。)の100分の70に相当する額として申告した。
 これに対し、原処分庁は、請求人の営む本件事業は製造業に該当せず、施行令第57条第5項第4号に規定する第四種事業に該当するとして、各課税期間における仕入れに係る消費税額を、各課税期間における課税売上げに係る消費税額の100分の60に相当する額として更正処分をした。
 しかしながら、請求人の営む本件事業は、次のとおり、製造業に該当する。
(イ)本件事業の事業形態には、受注先から原材料等の支給を受けて、歯科補てつ物の製作を行うものと、自己の責任と計算において原材料等を購入して、歯科補てつ物の製作を行うものとがあり、前者の場合は第四種事業に該当するのであって、後者は第三種事業に該当する。
 請求人は、原材料、中間材料、機械設備などをすべて自ら調達し、原材料等に物理的、化学的、機械的変化を施した歯科補てつ物を患者固有の口腔内に適合し、機能できるように製作して受注先へ納入していることから上記でいう後者に該当し、したがって請求人の営む事業は紛れもなく製造業である。
(ロ)原処分庁が、請求人の営む本件事業を第三種事業に該当しないと認定した根拠は、日本標準産業分類(以下「産業分類」という。)において、本件事業が製造業ではなくサービス業に分類されていることによるものと解される。
 しかしながら、産業分類において、本件事業がサービス業として分類されたのは、産業分類が設定された昭和24年当時であるところ、その後において、上記(イ)のとおり、本件事業の事業形態には変化が生じており、かつ、産業分類も幾度かの改訂が図られたにもかかわらず、本件事業についての分類は改訂されないまま現在に至っている。
 したがって、本件事業について産業分類は現在の事業形態と合致した分類をしていないのであるから、単に本件事業が産業分類においてサービス業に分類されていることのみをとらえて、請求人の営む本件事業を第四種事業に該当すると解すべきではなく、個々の実態を考慮した上で事業区分の判定をすべきである。
(ハ)原処分の調査を担当した職員は、請求人の営む本件事業は製造業に該当する旨述べている。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
 請求人の営む本件事業の事業区分は、次に述べるとおり、第三種事業には該当せず、第四種事業に該当する。
 したがって、各課税期間における課税仕入れに係る消費税は、各課税期間における課税売上げに係る消費税額の100分の60に相当する額であるから、各課税期間の更正処分をしたものである。
(イ)施行令第57条第5項第3号において、第三種事業とは、農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造小売業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業の各事業をいい、同項第1号に規定する第一種事業及び同項第2号に規定する第二種事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く旨規定している。
(ロ)調査したところ、次の事実が認められる。
A 歯科技工法(以下「歯技法」という。)第2条《用語の定義》第1項において歯科技工とは、特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物、充てん物又は矯正装置(以下「補てつ物等」という。)を作成し、修理し、又は加工することをいう旨規定していること。
B 平成5年10月改訂の日本標準産業分類において、歯科医師又は歯科技工士が業として特定人に対する歯科医療の用に供する補てつ物等の作成、修理又は加工を行う事業については、大分類L−サービス業、中分類88−医療業、小分類886−歯科技工所、細分類8861−歯科技工所に分類されていること。
C 請求人は、歯科医師などから技工伝票及び石こうの歯形を受けて、歯科医療の用に供する補てつ物等の作成等を行っていること。
 なお、請求人が所有する技工伝票は、歯技法施行規則第12条《指示書》第1項に規定する指示書の記載事項のうち、同項第1号ないし第4号の記載事項は具備されているが、同項第5号の記載事項である発行した歯科医師の住所の記載を欠いているものであること。
(ハ)消費税法上第三種事業については、上記(イ)のとおり規定されているところ、製造業の意義・範囲については直接規定されていない。
 ところで、産業分類は、日本の産業に関する統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用度の向上を図るために、統計調査の産業表章の基準の一つとして設定されたものであり、一方、施行令第57条第5項における事業分類は、いわゆるみなし仕入率を適用するための事業分類であって、両者は別個の概念ではあるが、同項第3号で列挙されている事業は、産業分類の大分類の産業と一致していることから、事業者が営む事業がいずれの産業に該当するかを産業分類に基づいて検討した結果は、その事業が同号に規定する産業に該当するかの判断の参考となり得るものである。
 請求人は、請求人の営む本件事業が製造業であること及び請求人の営む本件事業の事業区分については、産業分類によらずに事業の実態を考慮した上で判定すべきである旨主張するが、上記(ロ)のCのとおり、請求人は本件事業を営んでおり、その事業は産業分類において、大分類ではサービス業に分類されており製造業には分類されていないこと及び請求人の事業実態において製造業に分類しなければならない特殊事情もないことから、請求人の事業は第三種事業には該当せず、また、第一種事業及び第二種事業にも該当しないので、第四種事業に該当する。
(ニ)請求人は、原処分の調査を担当した職員が請求人の営む本件事業は製造業に該当する旨を述べていると主張するが、請求人が主張する事実は認められない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各課税期間の更正処分は適法であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、各課税期間の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)更正処分について

 本件審査請求の争点は、請求人の営む本件事業が簡易課税制度を適用するに当たり、第三種事業か第四種事業のいずれに該当するかにあるので、以下審理する。
イ 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、消費税法第37条第1項の規定の適用を受ける旨を記載した届出書を、平成元年9月22日に提出しており、また、各課税期間ともその基準期間における課税売上高が4億円以下であること。
(ロ)請求人は、受注先から技巧伝票及び石こうの歯形を受けて指定された条件に従って歯科補てつ物等の作成等を行っていること。
(ハ)請求人は、歯科補てつ物等の作成等に必要な、原材料、中間材料、機械設備などを、自己の計算のもとで調達していること。
(ニ)上記(ロ)の歯科補てつ物等の作成等に係る課税資産の譲渡等の額の合計額は、各課税期間とも請求人が国内において行った課税資産の譲渡等の対価の額のほとんどを占めていること。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)歯技法第17条《禁止行為》第1項では、歯科医師又は歯科技工士でなければ、業として歯科技工を行ってはならない旨規定されていること。
(ロ)請求人の代表取締役Fは、歯技法第3条《免許》に規定する歯科技工士の免許を持っていること。
ハ ところで、消費税法第37条においては、各課税期間における課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額は、各課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の60に相当する金額(卸売業等政令で定める事業にあっては、それぞれ政令で定める率を乗じて計算した金額)を消費税額とみなして控除することができる旨規定されている。
 そして、簡易課税制度を適用するうえでの事業区分は、(1)施行令第57条第5項第1号で第一種事業は卸売業、(2)同項第2号で第二種事業は小売業、(3)同項第3号で第三種事業は農業、林業、漁業、鉱業、建設業、製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業のうち第一種事業及び第二種事業に該当するもの並びに加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除くものを、また、(4)同項第4号で第四種事業は前三号に掲げる以外の事業をいう旨規定されている。
 なお、第一種事業及び第二種事業については、施行令第57条第6項でその範囲を規定しているものの、第三種事業については業種を列挙しているのみで、ある事業がどの業種に属するかの範囲が規定されておらず、この範囲は、普遍性を有する合理的な基準にゆだねられているものと解される。
ニ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、請求人の営む本件事業は、原材料、中間材料、機械設備等をすべて自ら調達し、原材料等に物理的、化学的、機械的変化を施した歯科補てつ物等を患者固有の口腔内に適合、機能できるように製作して納入していることから、第三種事業の製造業に該当する旨主張する。
 しかしながら、請求人の事業をみるに、上記イの(ロ)のとおり、もっぱら歯科医師等の受注先から歯科補てつ物等を作成するうえでの具体的指示事項が記載されている技巧伝票及び石こうの歯形の提供を受けて歯科補てつ物等を作成して納入しているものであり、同物を何の制約等を受けることなく自由に作成できるものではない。歯科医師が指示する形状、サイズ、材質等に従って作成しなければならないのであり、歯科医師の指示によらずに作成する歯科材料製造業等とは全く異なっている。
 さらに、請求人の事業は誰でも自由に行い得るものではなく、高度な専門知識、技能及び経験を必要とすることから、上記ロの(イ)のとおり、歯科医師ないし歯科技工士としての国家資格が認められた者でなければ行い得ないものであって、歯科医師は歯科医師及び歯科技工士以外の誰にも事業としての歯科補てつ物等の作成を依頼することはできない。
 なお、これらのことは、本件事業のうち、請求人とは異なる事業形態である、受注先から原材料の支給を受けて歯科補てつ物等の製作を行う事業形態の場合も同様である。
 このように、請求人の主張する事業形態の差異にかかわらず、本件事業は、歯科医師の指示に基づいて歯科医療に係る知識若しくは技能、技術を提供するものであり、歯科補てつ物等の作成も歯科医療行為の一環として行っているものと解するのが相当である。
 そうすると、本件事業は、歯科補てつ物等を製作する製造業としてよりも、歯科補てつ物等の製造、納入による歯科医療行為に付随するサービス提供事業である点にその本質があるものと解される。
 したがって、原材料等を自ら調達して歯科補てつ物等を作成しているとの点をとらえて、第三種事業でいう製造そのものであるとの請求人の主張は、直ちに採用することはできない。
(ロ)また、請求人は、産業分類の分類にとらわれず、本件事業の実態を考慮した上での事業区分をすべきであると主張する。
 しかしながら、上記のとおり、本件事業の実態は、「歯科医療行為の一環として行われている」ことから、第三種事業でいう製造業とは異なると解される。
 平成5年10月改訂の日本標準産業分類によれば、歯科技工所は、請求人が主張するような事業形態の違いにより異なる取扱いをすることなく、「大分類L―サービス業、中分類88―医療業」に分類され、「中分類88―医療業」の「総説」では、「この中分類には医師又は歯科医師等が患者に対して医業又は医業類似行為を行う事業所及びこれに直接関連するサービスを提供する事業所が分類される。」と解説されている。これは産業分類においても本件事業の実態を上記(イ)と同様に解釈しているものと考えられる。
 ところで、産業分類は、日本の産業に関する統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較と利用度の向上を図るために、統計調査の産業表章の基準の一つとして設定されたものであるから、そこでいう事業と、一方、課税政策に基づいて規定された施行令第57条第5項に列挙される事業とは概念を異にするものであるところから、事業者が営む事業が、施行令第57条に規定する事業のいずれに該当するかの判定にはこれが直接影響を及ぼすものではない。
 しかしながら、ある事業がどの事業に当たるかの判断に当たって、簡易課税制度の公平性を重視する観点から、産業分類を基礎とすることは、他に普遍性を有する合理的な基準が見当たらない以上、合理的と認められるのが相当であり、原処分庁が産業分類を参考として上記と同様の判断で請求人の営む事業が第四種事業に該当すると判断したことは相当と解される。
(ハ)請求人は、原処分の調査を担当した職員が請求人の営む本件事業は製造業に該当する旨を述べていると主張するが、当審判所の調査によっても請求人が主張する事実は認められない。
ホ 課税標準額等
 原処分庁は、各課税期間の課税標準額等を平成4年9月課税期間62,974,000円、平成5年9月課税期間64,955,000円及び平成6年9月課税期間62,066,000円と算定しているが、原処分関係資料等を当審判所が調査したところによれば、各課税期間とも相当であることが認められる。
ヘ 納付すべき税額
 上記ニのとおり、請求人の営む事業は第四種事業に該当することから、各課税期間における仕入れに係る消費税額は、各課税期間における売上げに係る消費税額の100分の60に相当する額になり、上記ホの課税標準額等を基に各課税期間の納付すべき税額を算定すると、平成4年9月課税期間755,600円、平成5年9月課税期間779,400円及び平成6年9月課税期間744,700円となる。
ト 以上審理したところによれば、各課税期間の納付すぺき税額は、更正処分の額と一致するから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、各課税期間の更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る