ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.55 >> (平10.6.10裁決、裁決事例集No.55 615頁)

(平10.6.10裁決、裁決事例集No.55 615頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求人(以下「請求人」という。)及び同人の母であるF(以下「F」という。)は、平成4年2月11日に死亡した請求人の父であるG(以下「G」という。)の共同相続人であるが、この相続開始に係る相続税の申告書に課税価格及び納付すべき税額を下表のとおり記載して、決定申告期限内にX税務署長へ提出した。

(単位 円)
区分課税価格納付すべき税額
F296,453,0000
請求人227,062,00068,601,200
合計額584,901,00086,814,900

(注)「合計額」欄の数値が一致しないのは、他にも相続人がいることによる。以下同じ。
(2)その後、Fも、平成5年10月20日に死亡したので、同人の次男である請求人は、他の相続人と共同してFの国税の納税義務を承継した。
(3)X税務署長は、上記(1)の申告に対し、原処分庁所属の職員の調査に基づき平成6年7月29日付で、下表のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件更正処分等」という。)をした。

(4)請求人は、平成6年8月29日に本件更正処分等により増加する税額について、物納に充てようとする財産を株式会社Y(平成6年8月17日に有限会社から株式会社に組織変更。以下「Y社」という。)の株式40株(以下「本件物納申請株式」という。)と記載した相続税物納申請書をX税務署長に提出することにより、物納の許可の申請(以下「本件物納申請」という。)をした。
 なお、原処分庁は、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により、平成6年11月18日付でX税務署長から本件物納申請に係る相続税につき徴収の引継ぎを受けた。
(5)これに対し、原処分庁は、平成8年12月4日付で相続税物納財産変更要求通知処分(以下「本件物納財産変更要求処分」という。)をした。
(6)なお、本件物納財産変更要求処分に対して所定の期限までに、請求人から他の財産による相続税物納申請書の提出がなかったため、原処分庁は、請求人に対し、相続税法第42条第4項の規定により、平成9年1月8日付で「物納申請みなす取下げ通知書」を送達した。
(7)請求人は、本件物納財産変更要求処分を不服として、平成9年2月4日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件物納申請株式は、相続税法第41条《物納》第2項第3号に規定する物納に充てることができる財産に該当すること。
ロ 相続により取得した財産のほとんどが株式であり、かつ、その株式以外に物納に充てるべき財産がないと認められるときは、許可されるべきであり、請求人においては、当該株式が物納に充てるべき唯一の財産であること。
ハ 本件更正処分等による増加税額の大部分は、Y社の株式の評価額の増加に起因するものであり、X税務署長が当該株式に担税力のある財産として課税しながら、物納財産として認めないことは、不当であること。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 相続税法第41条第2項第3号の規定によると、納税義務者の課税価格の基礎となった財産でこの法律の施行地にある株式については、物納することができる旨定められているが、株式を物納する場合には、同項第1号及び第2号に掲げる財産で物納申請の際に現に有するもののうちに適当な価額のものがない場合に限るとされている。
ロ そこで、本件物納申請に係る株式及び相続財産について調査したところ、次の事実が認められた。
(イ)請求人は、課税価格計算の基礎となった財産の中に、優先して物納すべきこととされている不動産をかなり所有していたこと。
(ロ)上記不動産には、相続税法第41条第3項に該当する特別の事情も存在しないこと。
(ハ)本件物納申請株式については、株主が相続人のみの同族法人であることなどから、市場流通性がなく、取引相場のない株式に該当し、管理又は処分するのに不適当な財産であること。
ハ 本件物納財産変更要求処分は、相続税法第42条の規定に基づいて適法に行われている。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件物納申請株式の物納申請財産としての適否であるので、以下審理する。
(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ Fは、平成4年2月11日にGが死亡したことに伴い、同年12月15日付遺産分割により、Y社の出資99,990口を取得したこと。
ロ 請求人は、平成5年10月20日にFが死亡したことに伴い、平成6年10月5日付遺産分割により、Y社の株式99,990株を取得したこと。
ハ Y社の役員構成は、H(請求人の妻)を代表取締役、請求人及びJ(請求人の長男)を取締役並びにK(請求人の長女)を監査役としており、いわゆる同族会社であること。
ニ Y社の平成5年11月1日から平成6年10月31日までの事業年度の法人税の確定申告書には、資本金100,000,000円のうち99,990,000円をFが出資している旨記載されていること。
ホ Y社の株式には、取引相場がないこと。
ヘ 請求人は、平成4年12月15日付及び平成6年10月5日付各遺産分割により、本件物納申請株式以外に、(1)P市Q町19番6の土地(持分10分の2)、(2)同所26番21の土地、(3)P市R町2丁目236番の土地、(4)P市S町2丁目6番の土地、(5)P市T町3丁目367番2の土地、(6)L市W町6丁目148番の土地及び(7)P市Q町19番6所在の家屋(家屋番号19番6の4、持分10分の2)等を取得したこと。
ト Y社の株式については、平成8年○月○○日裁決(○裁(○)平○第○○号)において、平成4年2月11日に死亡したGの相続に係る相続財産のうち、株式会社に組織変更する前の有限会社Yに対する出資が、これを資産として運用し収益を得る目的で保有するために行われたものではなく、当該出資の1口当たりの純資産価額を算定するに当たり法人税等相当額を控除することとしている財産評価基本通達(昭和39年4月25日直資56ほか国税庁長官通達、平成6年6月27日付課評2―8ほかによる改正前のもの。)185《純資産価額》及び186―2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》に定められた方法を利用し、平成2年7月10日にGがN銀行P支店から借り入れた15億円と当該出資の差額に相当する課税価格を圧縮することによって、相続税の負担の軽減を図るという目的で行われたものであることが容易に推認されるものである旨認定されていること。
(2)ところで、国税の納付方法については、国税通則法第34条《納付の手続》の規定によって金銭による納付が原則とされているところ、相続財産の物納による納付は、相続税法第41条第1項の規定に基づき、相続税を金銭で納付することを困難とする事由がある場合に、その納付を困難とする金額を限度として許可されたときに限り、例外的な納付方法として認められているにすぎない。
 これらの規定からすると、相続税の物納制度は、国税を金銭で納付するという原則に対して、相続税が財産課税であるという特殊性を考慮して設けられた特例的な制度であるということができ、物納申請財産を国に帰属させることは真の目的ではなく、相続税の納付の単なる手段であり、国がこれを換価し、その代金をもって財政収入に充てることが真の目的であると解される。
 そこで、物納財産は、その収納が金銭納付に代わるものである以上、国が、物納された財産の管理・処分を通じて、金銭の納付があった場合と同等の経済的利益を確保し得るものでなければならないと解するのが相当である。
 また、相続税法第41条第2項は、物納に充てることができる財産の納税義務者の課税価格計算の基礎となった財産のうち国債及び地方債(第1号)、不動産及び船舶(第2号)、社債及び株式並びに証券投資信託又は貸付信託の受益証券(第3号)、動産(第4号)と規定しているところ、同条第3項は、株式を物納に充てることができるのは、国債及び地方債並びに不動産及び船舶で物納申請の際現に有するもののうちに適当な価額のものがない場合に限る旨規定している。
 さらに、相続税法第42条第2項は、税務署長が納物申請に係る物納財産が管理又は処分をするのに不適当であると認める場合においては、その変更を求めた上で、その申請の許可又は却下をすることができる旨規定している。
 この場合、どのような財産が「管理又は処分をするのに不適当」なものに該当するかについて、相続税法に明文の規定はないが、上記物納制度の趣旨を考慮すれば、(1)質権、抵当権その他の担保権の目的となっている財産、(2)所有権の帰属等について係争中の財産、(3)共有財産及び(4)法令又は定款に譲渡に関し特別の定めのある財産等が該当するものと解され、また、有価証券については、(1)収納時において利払い期の到来していない利札が切り取られている国債、地方債又は社債、(2)譲渡に関して定款に制限がある株式又は出資証券及び(3)売却できる見込みのない有価証券等が該当するものと解される。
 そこで、取引相場のない株式について考慮すると、これは通常売却できる見込みがない場合が多いので、たとえ相続により取得した財産のほとんどが当該株式であり、かつ、当該株式以外に物納に充てるべき財産がないと認められるときであっても、上記のとおり、物納制度の趣旨が相続税の納付の単なる手段であり、国がこれを換価し、その代金をもって財政収入に充てることにある以上、売却できる見込みがない株式については、相続税法第42条第2項に規定する「管理又は処分をするのに不適当であると認める場合」に該当し、具体的に買受希望者が見込まれる場合など一定の条件を満たすものについてのみ例外的に物納が許可されると解するのが相当である。
(3)請求人は、本件物納申請株式について相続税法第41条第2項第3号に規定する財産に該当することから、物納財産として認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(2)で述べた規定及び物納制度の趣旨からすれば、株式による物納は、相続税法第41条第2項第3号に規定する財産に該当するか否かだけではなく、物納申請財産の順位に係る同条第3項の規定により納税義務者の課税価格計算の基礎となったもので、物納申請の際に現に有する国債、地方債及び不動産、船舶のうちに適当な価額のものがない場合に該当するか否か及び管理又は処分をするのに適当な財産か否かを審査して、初めて物納財産としての適否を判断することとなるものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(4)請求人は、相続により取得した財産のほとんどが株式であり、かつ、その株式以外に物納に充てるべき財産がないと認められるときは、許可されるべきであり、請求人においては、当該株式が物納に充てるべき唯一の財産である旨主張する。
 しかしながら、上記(1)のへのとおり、請求人は相続により本件物納申請株式以外に不動産を取得しており、また、仮に当該不動産が物納申請財産として適さず、その結果、本件物納申請株式が物納に充てるべきほとんど唯一の財産であるとしても、上記(2)のとおり、物納制度は相続税の納付の単なる手段であり、同制度の目的は国が物納財産を換価し、その代金をもって財政収入に充てることにある。
 ところで、上記(1)のトのとおり、Y社の株式については、平成8年○月○○日裁決において、Gの相続に係る相続財産のうち、株式会社に組織変更する前の有限会社Yに対する出資が、資産として運用し収益を得る目的で保有するために行われたものではなく、相続税の負担の軽減を図るという目的で行われたものであることが容易に推認される旨認定されている。このような事情からして、Y社の株式は、売却できる見込みがないと認められるため、同株式すなわち本件物納申請株式は、相続税法第42条第2項に規定する「管理又は処分をするのに不適当であると認める場合」に該当するものであることが明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)請求人は、本件物納申請株式について担税力がある財産として課税しながら、物納財産として認めないことは、不当である旨主張する。
 しかしながら、相続税の課税は、相続による財産の取得という事実についてその財産的価値に担税力を認めて行われるものであり、一方、物納財産の管理又は処分の適否は、上記(2)で述べたとおり、国が当該財産の管理又は処分により、金銭による納付があった場合と同等の経済的利益を将来現実に確保することができるか否かという観点から判断されるのであって、ある相続財産について、それが課税価格計算の基礎となった財産であっても、そのことから直ちに当該財産が物納財産として管理又は処分に適するということにはならず、管理又は処分をするのに不適当であるとされることもあり得るというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(6)以上のとおりであるから、本件物納申請株式について、相続税法第41条第3項及び第42条第2項により、物納申請財産の変更を求めた本件物納財産変更要求処分は適法である。
(7)原処分その他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る