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(平10.4.13裁決、裁決事例集No.55 787頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 原処分庁は、審査請求人(以下「請求人」という。)の次表記載の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、平成8年6月26日付でP市X町4丁目803番地2に所在する家屋番号803番地2の10の建物(居宅、木造スレート葺2階建、床面積1階27.32平方メートル、2階27.32平方メートル)のうち請求人の持分4分の3(以下「本件建物」という。)に対して差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。

 請求人は、この処分を不服として平成8年11月5日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成9年2月28日付で棄却の異議決定をし、異議決定書の謄本を送付したところ請求人が不在のため異議審理庁に返送されたことから、異議審理庁は、再度発送し、同年4月22日に送達した。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年5月21日に審査請求をした。

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 請求人は、Q市Y町2099番地60に住んでいたとき、請求人の友人であるE(以下「E」という。)に請求人所有のR市D町335番8の土地(以下「本件土地」という。)の土地登記済権利証書(以下「権利証書」という。)を貸したところ、Eに本件土地を譲渡されてしまった。
ロ その後、昭和52年から昭和54年までの間にY町を管轄するQ税務署長(平成×年×月×日、J税務署の新設に伴う税務署の管轄区域の変更により、Y町の管轄は、Q税務署からJ税務署となった。)から昭和49年分所得税の決定処分及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件課税処分」という。)を受け、本件課税処分に係る次表の滞納国税(以下「昭和49年分所得税等」という。)について督促があったので、請求人は、Q税務署所属の職員に、上記イの経過と本件土地の譲渡代金が一切請求人に入っていないことから請求人には納税の義務がない旨を説明した。

ハ また、請求人が、昭和58年8月にQ市Y町からP市X町2丁目42番18号□□荘105に転居し、それから平成6年12月に同市X町4丁目37番8号(以下「現住所地」という。)に転居するまでの10年以上の間、原処分庁から昭和49年分所得税等を納付するようにとの連絡は、請求人に対して一度もなかった。
ニ さらに、請求人が平成6年12月に現住所地に転居する際、Q市Y町で使用していた電話に係る請求人所有の電話加入権(以下「本件電話加入権」という。)をQ税務署により差し押さえられていたことを初めて知った。
ホ 原処分庁所属の徴収担当職員(以下「徴収担当職員」という。)が、平成8年6月18日に、差押予告の書類を請求人の妻に渡しているが、請求人は同月20日過ぎまで出張中であり、出張から帰って書類を見ると原処分庁への出署指定日である6月20日はとうに過ぎていた。そして、その後何の連絡もなく、同年9月3日に自宅の郵便受けに本件建物に係る差押書が届いていた。
ヘ 以上のとおり、本件差押処分は請求人の知る間もなく行われており、また、昭和49年分所得税等は上記ロのとおり請求人には納税義務がなく、さらに、昭和49年分所得税等の徴収権は上記ハ及びニのとおり時効が成立しているから、本件差押処分は違法でありその取消しを求める。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 国税徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号の規定によると、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、差押えをしなければならないこととされており、本件差押処分を行った平成8年6月26日現在、請求人の本件滞納国税が完納されていなかったことから本件差押処分を行ったもので、何ら違法、不当なことはない。
ロ 請求人は、本件差押処分を行うに当たり、同人に事前に通知しなかったことに不服がある旨主張しているが、差押えは、行政庁が行う処分であり請求人の同意を得る必要はない。
ハ さらに、昭和49年分所得税等の徴収権は、10年間も連絡がなければ時効が完成しているので、本件差押処分は無効であると主張するが、次のとおり時効が完成しているとの主張には理由がない。
(イ)国税の徴収を目的とする国の権利は、国税通則法第72条《国税の徴収権の消滅時効》の規定により、5年間行使しないことによって、時効により消滅することとされている。
 しかしながら、国税通則法第73条《時効の中断及び停止》第1項各号の規定に該当する場合には、その処分の効力が生じた時に時効が中断し、当該各号に掲げる期間を経過したときから更に進行することとされている。
(ロ)これを本件についてみると次のとおりである。
A 昭和49年分所得税等は、昭和55年3月12日に決定処分(納期限は同年4月12日)が行われたことにより時効が中断し、納期限の翌日から時効が進行したこと。
B 昭和49年分所得税等が納期限までに納付されなかったことから、昭和55年5月26日に国税通則法第37条《督促》の規定により督促状を発したことにより時効が中断し、その発した日から起算して10日を経過した日の翌日から時効が進行したこと。
C 昭和59年11月30日に国税徴収法第73条《電話加入権等の差押の手続及び効力発生時期》の規定に基づき本件電話加入権を差し押さえたことにより、国税通則法第72条第3項の規定において準用する民法第147条の規定が働き本件電話加入権を公売した平成7年2月8日まで時効が中断し、その後同法第157条の規定により時効が進行したこと。
D 本件差押処分は、上記Cにおける時効中断後、時効進行中に行った差押処分であること。
(ハ)そうすると、昭和49年分所得税等は、本件差押処分を行った平成8年6月26日現在、時効による消滅はしていない。
 なお、本件建物に対する本件差押処分は国税徴収法第54条《差押調書》及び同法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》の規定に基づいて、本件建物を差し押さえたものであり、何ら、違法、不当なものではなく適法に行われている。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件差押処分が違法であるか否かであるので、以下審理する。

(1)事実関係について

 原処分関係資料及び当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 請求人に対する本件課税処分は、昭和55年3月12日に、分離長期譲渡所得の金額6,457,500円、納付すべき税額1,110,400円及び無申告加算税の額110,000円として行われていること。
 また、本件課税処分の決定等決議書のこの処分の理由欄には、次のとおり記載されていること。
1 譲渡月日 昭和49年3月10日
2 譲渡物件 R市D町335―8番地の宅地(185.12平方メートル)
3 譲渡価額 7,850,000円
4 譲受者 S市C町1―10―7 F
ロ 請求人は、本件課税処分について異議申立てをしていないこと。
ハ 請求人の戸籍謄本の改製原附票には、昭和42年11月4日以降の請求人の住所について次のとおり記載されていること。

住所住所を定めた年月日
1T市A町2丁目6番15号 ※※方昭和42年11月4日
2Q市Y町2099番地60昭和48年10月22日
3Q市K町1丁目乙163番地10 ○○荘昭和57年7月10日
4W市B町1丁目24番17号 △△荘昭和60年6月5日
5P市X町2丁目42番18号 □□荘105号昭和61年12月14日
6P市X町4丁目37番8号平成6年12月13日

 なお、原処分庁は、平成4年9月1日に、J税務署から請求人の転入引受けを行っていること。
ニ また、請求人の戸籍謄本には、請求人と請求人の妻Gとの婚姻関係について、昭和43年8月5日に婚姻、昭和58年6月1日には協議離婚(離婚によりHと改姓)、その後平成3年2月20日に再び婚姻(Gに改姓)した旨記載されていること。
ホ Q税務署長は、昭和55年5月26日に、請求人に対して督促状を郵送していること。
ヘ Q税務署長は、昭和59年11月30日に、Q市L町1丁目70番1号所在のK町電報電話局(昭和60年4月以降、日本電信電話公社から日本電信電話株式会社に民営化されるとともに、K町電報電話局は、K町電話局に改称されたが、平成3年*月*日同電話局を閉鎖、その後L町営業所扱い。)に対し滞納者を請求人、差押財産を本件電話加入権とする差押通知書を郵送していること。
 これを受けて、K町電報電話局は、昭和59年12月5日に電話加入原簿に差押えの登録をしていること。
 なお、K町電報電話局の電話加入原簿には、本件電話加入権の加入者を請求人とし、また、住所として「Q市M町4―4―13◎◎方」が記載されており、同所には、当時H及び請求人の子供2人(当時15歳と14歳)が居住していたこと。
ト Q税務署長は、請求人が住民登録上の住所地である上記ハの表中3の住所から転居したが、その転居先が不明のため、昭和59年11月30日に、本件電話加入権の差押えに係る差押調書謄本を電話加入原簿に記載された請求人の住所に普通郵便で発送していること。また、当該差押調書謄本については、その後原処分庁に返戻されていないこと。
チ 原処分庁は、平成7年2月8日に、本件電話加入権を37,389円で公売し、また、同日収納した後、昭和49年分所得税等に充当したこと。
リ 徴収担当職員は、平成8年6月18日に、請求人の自宅を訪れたが、請求人が不在のため、本件滞納国税の納付について来署指定日を同月20日とし、来署がない場合は差押えの手続をする旨の請求人あての書面を請求人の妻Gに手交していること。
ヌ 原処分庁は、平成8年6月26日に、本件建物につき本件差押処分を行ったこと。
ル 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述していること。
(イ)請求人は、Eから、「すぐ返すから」と言われ本件土地の権利証書と紙に実印を押して渡したことから本件土地を譲渡されてしまったことについて、警察に告訴したことはないこと。
(ロ)請求人は、10年ほど前にEの居場所を捜し出し、同人との話合いの結果、本件土地を譲渡したことについての代償を総額5,000,000円とし、月々50,000円を請求人に支払うことを決め、その後初回の返済金50,000円を同人から受け取ったこと。
(ハ)請求人は、本件電話加入権について、原処分庁に対し公売するよう申し出たこと。

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(2)本件課税処分の違法性の有無について

 請求人は、Eに本件土地の権利証書を貸したところ同人により本件土地を詐取されたものであり、譲渡代金は請求人に一銭も入っていないから税金を支払う義務はなく、したがって本件課税処分は違法であり、これに基づきなされた本件差押処分は取り消すべきである旨主張する。
イ ところで、差押処分は、課税処分を前提としてこれに後行する行政処分であるところ、課税処分は、国税の納税義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする行政処分であるのに対し、差押処分は、その具体化し確定した納税義務の強制的な実現を目的とする行政処分であって、両者はそれぞれ別個の法律的効果を有する独立した行政処分であることから、課税処分に重大かつ明白な瑕疵があり当然に無効であるか又は課税処分が取り消されない以上、課税処分の違法を理由として差押処分の取消しを求めることはできないと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、請求人がEに本件土地を詐取されたのであれば、その現状回復を求めるのが自然と思われるところ、請求人の答述によれば、上記(1)のルのとおり、請求人は現状回復の努力をしておらず、かえって本件土地の譲渡に関してEから初回金を受領しており、少なくとも請求人は、Eが本件土地を譲渡したことを事後において容認していたものと認められる。
 そうすると、本件課税処分に重大かつ明白な瑕疵があるとは認められず、また、他に課税要件の根幹についての内容上の過誤があるなど本件課税処分を無効とすべき特段の事情も認められない。
 また、上記(1)のロのとおり、請求人は本件課税処分に対する異議申立てをしておらず、本件課税処分が取り消された事実は存しないから、本件課税処分の違法を理由として本件差押処分の取消しを求めることはできないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)本件差押処分の手続について

 請求人は、本件差押処分は、請求人に対して事前連絡もなく勝手に行われており、仮に事前連絡があったとしても、請求人が知る間もなく行われたものであるから、違法である旨主張する。
イ ところで、国税徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、上記(1)のとおり、Q税務署長は、請求人に対して督促状を発送し、その後請求人が滞納国税を納付しなかったため、原処分庁は本件建物について本件差押処分を行ったものであり、本件差押処分は適法である。
 また、国税徴収法その他の関係法令には、差押処分をするに際して請求人に事前にその旨連絡しなければならないとの規定はないことから、仮に請求人が主張するような事情があったとしても、本件差押処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(4)昭和49年分所得税等の消滅時効について

 請求人は、本件課税処分に係る国税の徴収権は、請求人がQ市Y町から転居した後、現住所地に転居するまでの間、原処分庁から何の連絡もなかったので、時効により消滅しており、本件差押処分は違法である旨主張する。
イ ところで、国税通則法第72条第1項は、国税の徴収権は5年間行使しないことによって時効により消滅する旨規定しているが、同条第3項は国税の徴収権の時効につき同法に別段の定めのあるものを除き民法の規定を準用する旨規定しており、国税通則法第73条は更正又は決定処分、督促処分等の効力が生じた時に時効が中断する旨規定し、また、民法第147条第2号は、時効は差押えによって中断する旨規定している。
 そして、国税徴収法第73条は、電話加入権の差押えは第三債務者に対する差押通知書の送達により行う旨規定し、また、同法第54条は、徴収職員が滞納者の財産を差し押さえたときは、差押調書を作成し、その財産が電話加入権の場合にはその謄本を滞納者に交付しなければならない旨規定している。
ロ これを本件についてみると、請求人の昭和49年分所得税等について上記(1)のホのとおり昭和55年5月26日に請求人に対して督促状を発したことにより時効が中断したところ、上記(1)のへのとおり本件電話加入権の差押えが行われたことにより、昭和49年分所得税等の徴収権は、差押通知書がK町電報電話局に送達された時から上記(1)のチの平成7年2月8日に本件電話加入権が公売されるまでの間時効が中断していると認められる。
 請求人は、本件電話加入権が差し押さえられたことを知らなかった旨主張するが、本件電話加入権の差押えの効力は、上記イのとおり第三債務者であるK町電報電話局長に差押通知書が送達された時に生じており、また、電話加入権に対する差押えについては、その差押調書謄本の滞納者に対する交付は、その電話の電話加入原簿に権利者として記載された住所氏名にあてて送達すれば足りると解されるところ、上記(1)のトのとおり、Q税務署長は差押調書謄本をK町電報電話局の電話加入原簿に記載されている請求人の住所に普通郵便で発送しており、◇◇県内においては、普通郵便が当時通常2、3日以内に名あて人に到達することは周知の事実であるから、当該差押調書謄本は、特別の事情がない限り、Q税務署長が発送した昭和59年11月30日から2、3日以内に到達したものと推認され、その後Q税務署へ当該差押調書謄本が返戻された事実がないことから、当該差押調書謄本は電話加入原簿に記載された請求人の住所に適法に送達されていると認められる。
 以上によれば、本件差押処分がなされた平成8年6月26日現在、昭和49年分所得税等の徴収権は時効により消滅していないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)原処分庁のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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