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(平10.7.9裁決、裁決事例集No.56 156頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成7年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に下表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、平成7年分の所得税について、下表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書を平成8年6月21日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、同年7月23日付で過少申告加算税の額を6,000円とする賦課決定処分をした。
 その後、請求人は、平成8年6月26日に総所得金額及び分離長期譲渡所得の金額並びに納付すべき税額を、下表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成8年9月25日付で、下表の「更正」欄のとおりとする減額の更正処分(以下「本件更正処分」という。)をし、併せて過少申告加算税の額を零円とする変更決定処分をした。

 請求人は、本件更正処分を不服として、平成8年11月14日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成9年2月13日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成9年3月11日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件更正の請求の額を超える部分の金額の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)請求人は、請求人が代表取締役であるF株式会社(以下「F社」という。)のJ株式会社(以下「J社」という。)、株式会社K(以下「K社」という。)及びM信用金庫R支店(以下「M信用金庫」といい、J社及びK社と併せて「本件各債権者」という。)に対する各債務について、それぞれ債務保証をしていたところ、F社が本件各債権者から債務の返済を求められたことから、これらの保証債務を履行するために、請求人が所有するR市S町50―1の宅地1,690.04平方メートル、同51―1の宅地381.68平方メートル及び同52―1の宅地316.72平方メートルの合計宅地2,388.44平方メートル(以下「本件土地」という。)について、平成7年1月24日に、株式会社H(P市Q町三丁目3番3号、以下「H社」という。)に売買代金を259,000,000円(以下「本件譲渡代金」という。)で譲渡(以下「本件譲渡」という。)する不動産売買契約(以下「本件売買契約」という。)を締結し、請求人は、同日、本件譲渡代金を受領した。
 本件譲渡は、請求人がその保証債務を履行するために資産を譲渡したものであるから、所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項の規定による「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合の課税の特例」(以下「本件特例」という。)に該当する。
(ロ)原処分庁は、請求人が弁済した個々の債務について、請求人が債務を保証した事実はない旨主張するが、請求人は、平成7年1月24日に、本件譲渡代金から、次のとおり、本件各債権者に対し、総額257,797,679円を支払っており、請求人が弁済した個々の債務の全体を通じてみれば、F社の債務を請求人が保証し、その保証債務を弁済するために本件土地を譲渡したものであるから、実質的に本件特例に該当するものである。
A F社のJ社に対する債務
(A)仮受金、買掛金及び未払金119,305,186円
 当該金額は、F社がJ社に支払うべき仮受金104,131,481円、買掛金13,721,676円及び未払金1,452,029円(以下、併せて「仮受金等」という。)の合計額である。
(B)株式会社L銀行からの借入金69,332,493円
 当該金額は、F社に借入れ能力がなかったことから、債権者を株式会社L銀行R支店(以下「L銀行」という。)、債務者をJ社、保証人を請求人として借入れし、F社がJ社から迂回融資を受けたものの借入金残高である。
(C)M信用金庫からの借入金49,160,000円
 当該金額は、F社に借入れ能力がなかったことから、債権者をM信用金庫、債務者をJ社、保証人を請求人、F社及びJ社の取締役であったG(以下「G」という。)の3名として借入れ、F社がJ社から迂回融資を受けたものの借入金残高である。
 これらは、請求人が、平成6年10月6日付でJ社から支払請求を受けたことから支払ったものであるが、これは、請求人が、J社の株主総会において、F社のJ社に対する債務は、請求人が所有する財産を処分して支払う旨約していたことによるものである。
B F社のK社に対する債務10,000,000円
 当該金額は、F社が自社振出しの小切手を担保としてK社から借入れした際に、F社に返済能力がなかったため、請求人が所有する土地に、債権者をK社、債務者を請求人とする抵当権を設定していたことによるものである。
C F社のM信用金庫に対する債務10,000,000円
 当該金額は、F社がM信用金庫から手形借入れした際に、請求人及びF社の株主であったW(以下「W」という。)の2名が共同で保証人となっていたことによるものである。
ロ 本件特例に関する原処分庁の指導
(イ)請求人は、本件譲渡に先立ち、原処分庁の担当職員(以下「担当職員」という。)に、以下のとおりの事実関係を説明し、本件土地を譲渡した場合の税務上の取扱いについて、数回にわたり相談した。
 その際、担当職員から、「F社が解散すればともかく、同社が現存しているので、本件特例を受けられるかどうかとなると弱い」と言われたので、請求人は、F社を解散すれば本件特例の適用が認められるものと理解した。
 なお、本件特例という用語は、請求人が言い出したものではなく、担当職員に相談して初めて分かったことである。
A 請求人は、J社から、内容証明郵便によって、仮受金等について弁済を求められていること。
B F社が銀行から融資を受けられないため、J社を債務者として迂回融資を受け、この債務については請求人が保証していること。
C K社からの借入金は、F社の小切手を振出して借入れたものであるが、F社に返済能力がないことから、担保として、請求人が所有する土地に抵当権を設定していること。
D F社のM信用金庫からの手形借入金は、F社が債務者、請求人とWが保証人となっていること。
(ロ)請求人は、平成7年分の所得税の確定申告の直前に、担当職員に上記(イ)の事実に関連する資料を持参して相談したところ、担当職員から、「これらの事実関係からだけでは本件特例に該当するかどうか判断できない」として、本件特例の取扱いに関する参考書の写しを渡された。
(ハ)請求人は、平成7年分の所得税の確定申告のために原処分庁に出向いた際、担当職員から、「本件特例に該当するかどうか時間的に詳しく検討できないので、とりあえず、譲渡所得の申告をし、後日、更正の請求をするように」と言われ、更正の請求の用紙を交付された。
 以上のとおり、請求人は、本件譲渡に先立ち、担当職員に本件譲渡に係る税務上の取扱いに関する相談を行い、その後の平成7年分の所得税の確定申告及び更正の請求も担当職員の指導の下に行ったものである。
 したがって、本件更正の請求が認められないことは、担当職員の指導に問題があったからであり、この点からみても本件更正処分は取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成7年1月24日にH社から受領した本件譲渡代金から、それぞれ次のとおり支払っていること。

(単位 円)
項目支払先支払金額
(1)仮受金等J社119,305,186
(2)借入金J社69,332,493
(3)借入金J社49,160,000
(4)借入金K社10,000,000
(5)借入金M信用金庫10,000,000
(6)譲渡費用等司法書士等1,202,321
合計259,000,000

 なお、請求人は、本件更正の請求に係る譲渡所得の金額の計算において、上記表の(1)から(5)までの支払金額の合計257,797,679円について、本件特例を適用していること。
(ロ)F社とJ社との取引により生じた、上記(イ)の表の(1)の仮受金等については、請求人が保証人となっていた事実は認められないこと。
(ハ)上記(イ)の表の(2)及び(3)の借入金は、J社が、それぞれ、L銀行及びM信用金庫から借入れた次表の借入金を原資として、F社が迂回融資を受けたものであること。

(単位 円)
借入先借入年月日種類借入金保証人
L銀行平成4年6月30日手形借入20,000,000請求人
 平成4年12月21日証書借入30,000,000請求人
 平成6年5月11日手形借入28,000,000請求人
M信用金庫平成2年7月20日証書借入50,000,000請求人、F社、G

 なお、F社がJ社から当該迂回融資を受けるに際し、請求人がその保証人となった事実は認められないこと。
(ニ)上記(イ)の表の(4)の借入金は、平成5年3月22日にF社が自己の振出した小切手を担保としてK社から借入れたもので、その際、F社には返済能力がないことを理由に、請求人が所有する土地に、債権者をK社、債務者を請求人とする抵当権を設定していること。
(ホ)上記(イ)の表の(5)の借入金は、平成3年12月24日にF社がM信用金庫から借入れたもので、当該借入れに際し、請求人及びWがその保証人となっていること。
ロ ところで、所得税法第64条第2項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった部分の金額は、譲渡所得の金額の計算上なかったものとみなす旨規定している。
 すなわち、本件特例の適用を受けるためには、まず、保証債務が存在することが要件とされており、たとえ、第三者の債務を肩代わりして返済するために資産の譲渡をしたとしても、そこに保証債務が存在しない場合には、当該特例の適用はないものである。
ハ これを、上記イの各事実に照らすと、次のとおりである。
(イ)請求人がJ社に対して支払った仮受金等119,305,186円については、上記イの(ロ)のとおり、仮受金等の発生に係るF社とJ社との取引において、請求人が保証人となっていた事実は認められず、保証債務は存在しないから、本件特例の適用はない。
(ロ)上記イの(イ)の表の(2)の借入金69,332,493円及び(3)の借入金49,160,000円については、上記イの(ハ)のとおり、J社が金融機関から借入れするに際し、請求人等がこれらを保証した事実は認められるが、F社のこれらの借入金について、請求人が保証人となっていた事実は認められず、保証債務は存在しないから、本件特例の適用はない。
(ハ)上記イの(イ)の表の(4)の借入金10,000,000円については、上記イの(ニ)のとおり、F社がK社から借入れするに際し、請求人所有の土地に請求人自身を債務者として抵当権を設定している事実から、債権者K社との関係において、請求人は債務者にほかならないから、当該借入金の返済について、本件特例の適用はない。
(ニ)上記イの(イ)の表の(5)の借入金10,000,000円については、上記イの(ホ)のとおり、請求人は、Wとともに共同で保証していることから、Wが負担すべき5,000,000円については、これを請求人が返済したとしても、本件特例の適用はない。
ニ また、請求人は、担当職員に本件譲渡に係る税務上の取扱いに関する相談を事前に行い、その後の確定申告及び本件更正の請求も担当職員の指導の下に行ったものであるから、本件更正の請求が認められないことは、その指導に問題があったことによる旨主張する。
 しかしながら、本件においては、本件特例の適用を求めて行った請求人の更正の請求に基づき、その事実関係の調査を行った結果、一部を除いて本件特例には該当しないことが明らかになったことにより、本件更正処分を行ったものである。
ホ 以上のとおり、F社の債務に関して、請求人が本件譲渡代金から支払った上記イの(イ)の表の(5)の借入金10,000,000円のうち、5,000,000円については本件特例の適用を認め、それ以外については同特例の適用がないとして行った本件更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算において、本件特例が適用できるか否かにあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、F社の代表取締役であったが、同社は、平成8年3月3日に解散しており、請求人は、同社の清算人であること。
(ロ)請求人は、J社の代表取締役であったが、平成6年8月10日開催の同社の臨時株主総会において、代表取締役を辞任していること。
(ハ)請求人は、平成7年1月24日に、本件土地をH社に売買代金259,000,000円で譲渡する旨の本件売買契約を締結し、同日に受領した譲渡代金から、それぞれ次のとおり支払っていること。

(単位 円)
項目支払先支払年月日支払金額
(1)仮受金等J社平成7年1月24日119,305,186
(2)借入金J社平成7年1月24日69,332,493
(3)借入金J社平成7年1月24日49,160,000
(4)借入金K社平成7年1月24日10,000,000
(5)借入金M信用金庫平成7年1月24日10,000,000
小計257,797,679
((1)+(2)+(3)+(4)+(5))
(6)譲渡費用等司法書士等平成7年1月24日1,202,321
合計259,000,000

(ニ)請求人は、本件更正の請求に係る譲渡所得の金額の計算において、上表の(1)から(5)までの支払金額の合計257,797,679円について、本件特例を適用していること。
ロ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)J社の監査役であるTは、平成6年2月5日付の臨時株主総会招集請求と題する書面において、「代表取締役の関係会社F社とJ社との間の資金流用とこれに伴う経理処理に適法性に欠ける部分がある」旨の指摘を行い、その事態の打開を諮ることを目的として、早急に臨時株主総会を招集することを請求していること。
(ロ)本件土地には、原因を平成6年2月24日売買予約、受付日を平成6年3月1日として、請求人からJ社への所有権移転請求権仮登記がされ、その後、本件土地は、平成7年1月24日の売買を原因として、請求人からH社へ所有権が移転されていること。
 なお、当該所有権移転請求権仮登記は、同日付で抹消されていること。
(ハ)請求人は、平成6年6月29日に開催されたJ社の第37期定時株主総会において、F社に対する長期未決済の売掛金及び未収金並びに会社の帳簿に記載がない借入金4件について、取締役会の承認を経ない会社の資金の持ち出しであることを指摘した監査役報告を認め、これらについて代物弁済をする旨を申し出ていること。
(ニ)J社は、F社に対し、上記(ハ)の第37期定時株主総会の審議結果に基づき、F社に対する仮払金等について、平成6年10月6日付内容証明郵便をもって、即刻返済を求める旨の「仮払金、未収金、売掛金、借入金請求通知書」(以下「本件請求通知書」という。)と題する書面を送付していること。
 なお、仮払金等の内訳は、J社の平成6年5月1日から平成7年4月30日までの事業年度に係る総勘定元帳の各勘定に記載された、次表の金額であること。

(単位 円)
勘定科目現在日金額
仮払金平成7年1月6日104,131,481
売掛金平成7年1月10日10,338,949
売掛金平成6年11月18日3,382,727
未収金平成6年12月31日1,452,029
合計119,305,186

(ホ)上記イの(ハ)の表の(1)の仮受金等の金額119,305,186円は、F社がJ社との取引により生じた仮受金、未払金及び買掛金のそれぞれの残高の合計額であるが、F社の当該仮受金等について、請求人が保証人となっていた事実は認められないこと。
(ヘ)上記イの(ハ)の表の(2)の借入金69,332,493円は、F社に借入れ能力がなかったことから、債権者をL銀行、債務者をJ社、保証人を請求人として借入れた次表の借入金を原資として、F社がJ社から迂回融資を受けたものの借入金残高であること。

(単位 円)
借入先借入年月日種類借入金保証人
L銀行平成4年6月30日手形借入20,000,000請求人
 平成4年2月21日証書借入30,000,000請求人
 平成6年5月11日手形借入28,000,000請求人

(ト)上記イの(ハ)の表の(3)の借入金49,160,000円は、F社に借入れ能力がなかったことから、債権者をM信用金庫、債務者をJ社、保証人を請求人、F社及びGの3名として借入れた次表の借入金を原資として、F社がJ社から迂回融資を受けたものの借入金残高であること。

(単位 円)
借入先借入年月日種類借入金保証人
M信用金庫平成2年7月20日証書借入50,000,000請求人、F社、G

(チ)請求人が、平成7年1月24日付でH社代表取締役Eに宛てた、本件譲渡代金259,000,000円の精算方法についての依頼文書には、次のとおり記載されていること。
A 譲渡代金のうち、237,797,679円をJ社に直接支払っていただきたい。当該金額は、J社がF社に有する債権の金額である。
B 譲渡代金のうち、621,124円をJ社に直接支払っていただきたい。当該金額は、J社が請求人に有する債権の金額である。
C 譲渡代金259,000,000円から上記A及びBの金額を合計した金額238,418,903円を差引いた金額20,581,197円は、請求人に支払っていただきたい。
 なお、上記Aの237,797,679円については、上記イの(ハ)の表の(1)ないし(3)までの支払金額の合計額と一致すること。
(リ)J社が、平成7年1月24日付でF社及び請求人に宛てた「最終精算金額内訳」と題する書面には、F社がJ社に支払うべき金額として、次のとおり記載されていること。

A F社
(A)仮払金(L銀行)104,131,481円
(B)売掛金(F社)13,721,676円
(C)未収金(利息未精算)1,452,029円
 小計119,305,186円
簿外借入金
 L銀行(短期)27,000,000円
 〃20,000,000円
 〃(長期)22,332,493円
 M信用金庫49,160,000円
 小計118,492,493円
 合計237,797,679円
B 請求人
 売掛金(灯油ガス器具代)621,124円
 総合計238,418,803円

 なお、上記AのF社の合計金額は、上記イの(ハ)の表(1)ないし(3)の合計金額と一致すること。
 また、当該書面には、請求人が加筆したと認められる、その他の支払先として、(担保内入)K社10,000,000円及び(担保内入)M信用金庫10,000,000円等がメモ書きされていること。
(ヌ)J社は、上記(チ)のとおり、請求人から本件譲渡代金の精算方法について依頼を受けたH社から、平成7年1月24日に238,418,803円の金額を受領し、F社に対する仮払金、売掛金及び未収金の合計金額119,302,186円を受入れるとともに、F社に迂回融資をしたL銀行及びM信用金庫の借入金を、次表のとおり返済をしていること。

 なお、J社の平成7年2月22日付の取締役会の議事録には、「平成7年1月24日に請求人から238,418,803円の金額の入金があり、全て精算となった」旨記載されていること。
(ル)請求人から提出されたF社に係る平成元年9月1日から平成7年8月31日までの各事業年度に係る仮受金勘定の補助簿には、次の旨記載されている。
A J社からの仮受金残高は、平成6年12月31日現在で88,501,074円であり、この金額は、平成7年2月12日に零円となっていること。
B 株式会社V(K社の商号変更前の名称である)からの仮受金残高は、平成4年1月20日現在で79,600,000円であるが、同日以降の金額の変動については不明であること。
(ヲ)上記イの(ハ)の表の(4)の借入金10,000,000円は、平成5年3月22日にF社が自己の振出した小切手を担保としてK社から借入れたものであるが、F社に返済能力がないことから、当該借入れに際して、請求人が所有する土地及び建物に、債務者を請求人、抵当権者をK社とする抵当権を設定していること。
(ワ)平成5年3月22日付の抵当権設定金銭消費貸借契約書には、K社を債権者、請求人を債務者兼抵当権設定者として、債権額を74,600,000円、弁済期限を平成5年10月31日とする旨記載されていること。
 また、K社は、この債権を保全するため、請求人が所有する本件土地を含む土地及び建物に、当該契約に基づく抵当権を設定していること。
 なお、上記抵当権は、本件譲渡に伴い、平成7年1月24日に本件土地部分が解除されており、請求人が10,000,000円の内入れをした後のK社の当該債権残高は、29,600,000円であり、これについては、F社振出しの手形及び小切手が差入れられていること。
(カ)上記イの(ハ)の表の(5)の借入金10,000,000円は、平成3年12月24日にF社がM信用金庫から借入れたもので、請求人及びWがその保証人となり、Wは、同人が所有する不動産を担保として提供していること。
(ヨ)M信用金庫は、平成3年12月24日に債務者をF社、保証人を請求人及びWとする17,950,000円の手形貸付を行っており、Wから、同人が所有する不動産を担保として提供されていること。
 その後、この手形貸付は一部が返済され、平成5年4月1日の書替え後の手形貸付金は10,000,000円であるが、M信用金庫は、請求人からの依頼によって、当該手形をその返済期日である平成6年4月1日に手形交換に出さず、平成7年1月24日付の融資取引明細表(兼複合伝票)において、手形貸付金10,000,000円の回収と併せて平成6年4月1日から平成7年1月24日までの期間に係る遅延損害金を計算していること。
(タ)Wが所有する資産は、次表のとおりであること。

(単位 平方メートル、円)
区分物件の所在地番地目等面積固定資産税評価額
 1R市○○町21―1土地(宅地)275.7839,851,864
 2R市△△町1―118土地(宅地)166.613,048,963
 3R市※※町8―1建物(居宅)315.103,842,117
 4R市※※町8―1―1建物(簡易付属)19.8058,483

 上表の1ないし4の資産については、次の事実が認められる。
A 1の土地(宅地)及び3の建物(居宅)については、債務者をF社、根抵当権者をL銀行及びM信用金庫等とする根抵当権が設定されており、当該資産は平成8年12月9日にL銀行を申立人として競売開始決定を原因とする差押登記がされていること。
B 2の土地(宅地)については、債務者をN、抵当権者をL銀行として、金銭消費貸借契約に基づく債権8,000,000円を担保する抵当権が設定されていること。
 なお、同土地の相続税評価額は3,498,810円(平成7年分)であること。
C 4の建物(簡易付属)については、担保が付されていないこと。
(レ)Wは、同人の夫N(以下「N」という。)が原処分庁に提出した平成7年分の所得税の確定申告書において、配偶者控除の対象となっていること。
(ソ)請求人が、本件譲渡前に来署して、本件土地を譲渡した場合の税務上の取扱いについて相談した事実については、原処分庁には記録されたものがなく、確認ができないこと。
ハ 請求人は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)J社に対する、上記ロの(ニ)の本件請求通知書に基づく上記イの(ハ)の表の(1)ないし(3)までの仮受金等の支払いは、J社の前代表取締役としての立場上、責任を取らざるを得なかったことから行ったものである。
(ロ)平成3年12月24日のM信用金庫からの上記ロの(カ)の手形借入れは、当時、F社が、同社のテナントであったC株式会社に対し、保証金を返還するために行ったものである。
(ハ)F社は、以前より、K社から融資を受けていたが、K社は、F社に貸付けするわけにはいかなくなったことから、K社と請求人との間で平成5年3月22日付で金銭消費貸借契約を締結したものである。
 なお、平成7年1月24日のK社に対する10,000,000円の返済は、担保の一部を解除してもらうために、内払いをしたものである。
(ニ)本件譲渡に係る税務上の取扱いについて、担当職員に相談した際の内容を記録したものはない。
(ホ)平成7年分の所得税の確定申告書の提出前に、原処分庁からハガキで呼出しを受けていたので、原処分庁に出向き、担当職員から、とりあえず譲渡所得の申告をし、後日、更正の請求をするように言われ、更正の請求の用紙を渡された。
 そこで、譲渡所得の計算の方法を教えてもらって譲渡所得の金額を下書きし、その後、下書きした譲渡所得の金額と他の所得金額を併せて自分で確定申告書を作成し、原処分庁に提出した。
ニ K社の財務部付部長X(以下「X」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)K社と請求人との間で平成5年3月22日付で締結した抵当権設定金銭消費貸借契約に基づく債務の弁済期は、同年10月31日であったが、請求人から期限までに弁済が不可能である旨の申立てがあったので、同日付で、弁済期限を平成9年12月31日とする覚書を取り交わした。
(ロ)この間に何回か弁済され、平成9年9月30日現在の請求人に対する債権額は、29,600,000円である。
ホ 請求人の納税相談を担当したR税務署の上席国税調査官Z(以下「Z」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)請求人が、以前から、株式や土地を譲渡することについて相談するため、来署していたことは前任者から聞いていたが、請求人が相談した内容について記録されたものはない。
(ロ)請求人は、平成7年分の所得税の確定申告期間中に来署し、請求人から、F社の債務を弁済するために本件譲渡を行ったこと及び譲渡物件、譲渡先、受領した譲渡代金の使途等に関する資料を提示され、本件特例の適用を受けたい旨の相談を受けたので、本件特例の適用上の要件を説明した上で、請求人の説明内容や持参した資料だけでは、本件特例が適用できるかどうかの判断はできない旨を説明し、とりあえず、確定申告ができるように譲渡所得の計算方法を指導し、そして、本件譲渡について、本件特例が適用できる場合には、後日、更正の請求を行うよう指導した。
ヘ 確定申告期間終了後に請求人の相談を担当した前R税務署のY(以下「Y」という。)は、当審判所に対し、次のとおり答述している。
(イ)請求人は、平成7年分の所得税の確定申告期の直後に来署し、請求人から、F社を解散したので、先に申告した譲渡所得について、本件特例の適用を受けたい旨の相談を受けたが、事実関係を証する書類が不備であったことから、本件特例の適用ができるかどうかの判断はできないので、書類を取揃えた上で、後日相談するように説明した。
(ロ)請求人は、その後も何回か来署し、請求人から、本件特例の適用を受けたい旨の相談を受けたが、請求人の説明内容及び持参した書類を見た限りでは、本件特例を適用できないと判断されたのでその旨を説明したが納得せず、更正の請求をしたいということだったので、更正の請求の用紙を渡した。
 更正の請求の用紙を渡した時期は、平成8年6月ごろと記憶している。
ト 請求人は、請求人が弁済した個々の債務の全体を通じてみれば、F社の債務について請求人が保証し、その債務を弁済するために本件譲渡をしたものであるから、実質的に本件特例に該当する旨主張するので、以下検討する。
(イ)ところで、所得税法第64条第2項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額に対応する譲渡所得の金額はなかったものとみなす旨規定している。
 本来、資産の譲渡による所得を保証債務の履行に充てるか否かは所得処分の問題であり、所得金額の計算上考慮すべきことではないが、本件特例は、資産の譲渡が保証債務を履行するためになされた場合に、資産の譲渡者が実質的にその譲渡による所得を享受していないことなどを考慮して、例外的に租税の減免を定めたものである。
 そして、本件特例を適用するに当たっては、(1)資産の譲渡をしようとする者が他人の債務の保証人となっていること、(2)資産の譲渡前に保証債務の履行義務が具体的に確定しており、その履行をしなければならない状況にあったこと、(3)その保証債務を履行するために必要な資金の捻出を主たる目的としてその資産を譲渡したものであること、及び(4)その譲渡代金をもって保証債務を履行し、主たる債務を消減させたことなどの要件を充足し、通常、資産を譲渡することと保証債務を履行することとが直接的なつながりがある場合をいうものと解される。
(ロ)そこで、上記の事実及び答述に基づいて判断すると、次のとおりである。
A F社のJ社に対する債務について
 請求人は、F社のJ社に対する仮受金等、F社がJ社から迂回融資を受けたL銀行及びM信用金庫からの借入金については、J社の株主総会において、請求人が所有する財産を処分して支払う旨を約し、J社から本件請求通知書を受けたことから支払ったものであり、実質的に本件特例に該当する旨主張する。
(A)ところで、請求人は、上記イの(イ)及び(ロ)のとおり、F社及びJ社の両社の代表取締役としての職にあった間に、J社の監査役であるTは、上記ロの(イ)のとおり、平成6年2月5日付の同社の臨時株主総会招集請求と題する書面において、「代表取締役の関係会社F社とJ社との間の資金流用とこれに伴う経理処理に適法性に欠ける部分がある」旨の指摘を行い、その事態の打開を諮ることを目的として臨時株主総会の招集を請求し、J社は、本件土地について、同(ロ)のとおり、原因を平成6年2月24日の売買予約、受付日を平成6年3月1日として、請求人からJ社への所有権移転請求権仮登記を行ったことが認められる。
 そして、請求人は、上記ロの(ハ)のとおり、平成6年6月29日に開催されたJ社の第37期定時株主総会において、長期未決済の売掛金、未収金及び会社の帳簿に記載がない借入金4件について、取締役会の承認を経ない会社の資金の持ち出しであることを指摘した監査役報告を認め、これらについて代物弁済をする旨を申し出たところ、J社は、同(ニ)のとおり、F社に対し、平成6年10月6日付内容証明郵便をもって、上述の株主総会において指摘した同社のJ社に対する債務について、即刻返済を求める旨の本件請求通知書を送付したことが認められる。
(B)つまり、請求人は、上述のとおり、J社の取締役会の承認を経ない同社の資金を持ち出したことを認め、上記ハの(イ)の答述のとおり、請求人がF社のJ社に対する債務について、J社の前代表取締役として、これらの資金流用等について責任をとらざるを得なかったことから、本件譲渡を行い、同ロの(チ)のとおり、H社に対し、本件譲渡代金の精算方法について依頼し、同社は、請求人の本件譲渡代金の精算方法の依頼に基づいて、J社に対し、237,797,679円を支払い、J社は、上記ロの(ヌ)のとおり、上記(ハ)の表の(1)の仮受金等の119,305,186円を受け入れるとともに、F社に迂回融資した、L銀行からの同(ハ)の表の(2)の借入金69,332,493円及びM信用金庫からの同(ハ)の表の(3)の借入金49,160,000円を返済したことが認められる。
(C)そこで、請求人が支払ったF社のJ社に対する各債務について、本件特例が適用できるか否かについて、以下検討する。
a 仮受金等について
 請求人が、本件譲渡代金からJ社に支払った上記(1)の仮受金等の119,305,186円については、上記ロの(ホ)のとおり、F社がJ社との取引において発生した、仮受金、未払金及び買掛金のそれぞれの残高の合計金額であるが、請求人は、F社のこれらの債務について保証人となっていた事実は認められず、また、F社のJ社からの仮受金残高は、上記ロの(ル)のAのとおり、平成6年12月31日現在で88,501,074円であったものが、平成7年2月12日現在では零円となっている事実から、F社のJ社に対する債務が消滅していることが認められる。
 そうすると、請求人は、上述のとおり、当該仮受金等の保証人になっていた事実は認められず、当該仮受金等の返済は、請求人が、F社の債務を肩代わりをしたものであり、単にF社に対して、同社の債務整理のために資金を提供したに過ぎないと認められ、保証債務を履行したものとは認められないことから、本件特例の適用はできないと判断するのが相当である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
b L銀行からの借入金について
 請求人が、本件譲渡代金からJ社に支払った上記(2)の借入金69,332,493円については、上記ロの(ヘ)のとおり、F社に借入れ能力がなかったことから、債権者をL銀行、債務者をJ社、保証人を請求人として借入れした借入金を原資として、F社がJ社から迂回融資を受けたものの借入金残高であるが、J社がL銀行から借入れするに際し、請求人がこれを保証した事実は認められるものの、F社がJ社から借入れするに際し、請求人が保証人となっていた事実は認められない。
 そうすると、請求人は、上述のとおり、J社がL銀行から借入れするに際し、請求人がこれを保証した事実は認められるものの、F社がJ社から借入れするに際し、保証人になっていた事実は認められず、当該借入金の返済は、上記aと同様に、請求人が、F社の債務を肩代わりをしたものであり、F社の債務整理のために資金を提供したに過ぎないと認められ、保証債務を履行したものとは認められないことから、本件特例の適用はできないと判断するが相当である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
c M信用金庫からの借入金について
 請求人が、本件譲渡代金からJ社に支払った上記(3)の借入金49,160,000円については、上記ロの(ト)のとおり、F社に借入れ能力がなかったことから、債権者をM信用金庫、債務者をJ社、保証人を請求人、F社及びGの3名として借入れした借入金を原資として、F社がJ社から迂回融資を受けたものの借入金残高であるが、J社がM信用金庫から借入れするに際し、請求人がこれを保証した事実は認められるものの、F社がJ社から借入れするに際し、請求人が保証人となっていた事実は認められない。
 そうすると、請求人は、上述のとおり、J社がM信用金庫から借入れするに際し、請求人がこれを保証した事実は認められるものの、F社がJ社から借入れするに際し、請求人が保証人となっていた事実は認められず、当該借入金の返済は、上記aと同様に、請求人が、F社の債務を肩代わりをしたものであり、F社の債務整理のために資金を提供したに過ぎないと認められ、保証債務を履行したものとは認められないことから、本件特例の適用はできないと判断するのが相当である。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
B F社のK社に対する債務について
 請求人は、F社が自社振出しの小切手を担保としてK社から借入れするに際し、F社に返済能力がなかったため、請求人が所有する土地に、債権者K社、債務者を請求人とする抵当権を設定していたことから、支払ったものであり、この支払いは、実質的に本件特例に該当する旨主張する。
(A)ところで、F社は、上記ロの(ル)のB及び(ヲ)の事実及び上記ハの(ハ)の請求人の答述のとおり、以前から、手形及び小切手をK社に差入れて融資を受けていたところ、平成5年3月22日のK社からの借入れに際し、F社が自己の振出した小切手を担保として差入れたものの、K社は、F社の小切手を担保とする同社への融資には応じられないとの状況になったものと推認される。
 このため、請求人は、F社の債務を担保することを目的として、K社との間で、上記ロの(ワ)のとおり、K社を債権者、請求人を債務者兼抵当権設定者とする平成5年3月22日付の抵当権設定金銭消費貸借契約を締結したものと認められ、K社は、この債権を保全するために、請求人が所有する本件土地を含む土地及び建物に、当該契約に基づく抵当権を設定したことが認められる。
 このことは、K社が、F社振出しの小切手を担保とする融資について、代表取締役である請求人に保証を求め、請求人は、この要請に応じて請求人所有の土地建物に抵当権を設定し、F社の債務について物上保証をしたものと認められる。
(B)そうすると、F社のK社に対する債務は、(1)請求人が請求人所有の土地建物に抵当権を設定して物上保証をしていること、(2)本件譲渡前に保証債務の履行義務が具体的に確定しており、その履行をしなければならない状況にあったこと、(3)保証債務を履行するために必要な資金の捻出を目的として本件譲渡をしたものであること及び(4)本件譲渡代金をもって当該保証債務を履行して債務を消滅させたことが認められることから、請求人が、本件譲渡代金からK社に支払った借入金10,000,000円については、本件特例が適用できると判断するのが相当である。
 したがって、請求人がK社に弁済したF社の債務10,000,000円については、本件特例の適用を認めるべきである。
C F社のM信用金庫に対する債務について
 請求人は、F社がM信用金庫から手形借入れをした際に、請求人及びWの2名が共同保証人となっていたことから、請求人が支払ったものであり、この支払いは、本件特例に該当する旨主張する。
(A)ところで、本件譲渡代金からM信用金庫に支払った上記イの(ハ)の表の(5)の借入金10,000,000円については、上記ロの(カ)の事実及びハの(ロ)の請求人の答述のとおり、F社が、同社のテナントであったC株式会社の保証金を返還するために、平成3年12月24日にM信用金庫から借入れたもので、請求人及びWがその保証人となっている事実が認められる。
 また、M信用金庫は、上記ロの(カ)及び(ヨ)のとおり、債務者をF社、保証人を請求人及びWとする17,950,000円の手形貸付けを行い、Wから、同人が所有する不動産を担保として提供されており、その後、この手形貸付は一部が返済され、平成5年4月1日の書替え後の手形貸付金は10,000,000円であるが、同金庫は、請求人からの依頼によって、当該手形をその返済期日である平成6年4月1日に手形交換に出さず、平成7年1月24日に請求人によって弁済が行われるまでの間、これを保管し、また、同日の手形貸付金の回収と併せて、平成6年4月1日から平成7年1月24日までの期間に係る遅延損害金を計算している事実から、同金庫は、当該手形貸付金について、手形交換に出さなかった平成6年4月1日に、債務者であるF社並びに保証人である請求人及びWに対して催告をしたものと認められる。
 そして、請求人は、上述のとおり、M信用金庫から当該保証債務の催告を受け、その保証債務を履行するために本件譲渡を行い、本件譲渡代金をもって、当該保証債務を履行していることが認められる。
(B)そうすると、F社のM信用金庫に対する債務は、上記Bの(B)と同様に、本件特例を適用するための各要件を満たすこととなるから、請求人が、本件譲渡代金からM信用金庫に支払った上記の借入金10,000,000円については、本件特例が適用できると判断するのが相当である。
(C)他方、F社のM信用金庫に対する債務については、上述のとおり、債務者をF社、保証人を請求人及びWとして17,950,000円の手形借入をするに際し、Wは、同人が所有する不動産を担保として提供していることから、本件譲渡代金をもって当該保証債務を履行した請求人には、同社の当該債務に係る共同保証人であるWに対する求償権が存在する。
 しかしながら、Wが所有する不動産には、上記ロの(タ)のとおり、1の土地(宅地)及び3の建物(居宅)については、債務者をF社とする根抵当権が設定され、競売開始決定に基づく差押がされている状況にあること及び2の土地(宅地)についても、相続税評価額3,498,810円を大幅に上回る8,000,000円の抵当権が設定されている状況にあること並びに、上記ロの(レ)のとおり、Wは、Nの所得税の確定申告書において配偶者控除の対象となっていることから、Wは債務超過の状態が著しいものと認められ、請求人の同人に対する求償権については、その行使が不可能であると認めるのが相当である。
 したがって、請求人が、本件譲渡代金からM信用金庫に支払った上記の借入金10,000,000円については、その全額について本件特例の適用を認めるべきである。
 以上のとおり、F社の債務に関して、請求人が本件譲渡代金から支払った上記イの(ハ)の表の(4)のF社がK社から借入れた10,000,000円及び(5)のF社がM信用金庫から借入れた10,000,000円については、本件特例の適用を認めるのが相当であるから、原処分庁が、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算に当たり、上記イの(ハ)の表の(5)のF社がM信用金庫から借入れた10,000,000円のうち、5,000,000円について本件特例の適用を認め、それ以外については同特例の適用ができないとして行った本件更正処分は、その一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の指導

 請求人は、本件譲渡に先立ち、担当職員に本件譲渡に係る税務上の取扱いに関する相談を行い、その後の平成7年分の所得税の確定申告及び本件更正の請求も担当職員の指導の下に行ったものであるが、本件更正の請求が認められないのは、担当職員の指導に問題があったからであり、本件更正処分は取り消すべきである旨主張するので、以下検討する。
イ ところで、申告納税制度の下では、税法に適合する納税義務の実現は、原則として納税者自らの責任において行うべきであるとされており、指導の有無又はその適否が、納税者の納税義務に影響を及ぼすものではないと解されており、また、納税者からの相談に対しては、その申述内容や提示資料を前提として回答するものであるから、その回答の内容も、おのずから仮定的、一般的なものとならざるを得ないものである。
ロ そこで、本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、「本件譲渡に先立ち、担当職員に事実関係を説明し、本件土地を譲渡した場合の税務上の取扱いについて数回にわたり相談した結果、F社が解散すれば本件特例が適用できるものと理解した」旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、原処分庁には、上記(1)のロの(ソ)のとおり、請求人が、本件譲渡前に来署して、本件土地を譲渡した場合の税務上の取扱いについて相談した事実について記録されたものがなく、確認ができないこと、また、請求人は、上記(1)のハの(ニ)のとおり、担当職員に相談した際の内容を記録したものはない旨答述していること、さらに、Zは、上記(1)のホの(イ)のとおり、請求人は以前から、株式や土地を譲渡することについて、来署して相談していたが、請求人が相談した内容について記録したものはない旨答述していることからすると、請求人が、本件譲渡前に来署して、本件土地を譲渡した場合の税務上の取扱いについて相談したとする指導の事実を確認することができない。
 そうすると、請求人が主張するとおり、仮に、本件譲渡に係る税務上の取扱いについての事前相談の結果、請求人が、担当職員の説明を受け、F社を解散すれば本件特例が適用できるものと理解したとしても、担当職員は、請求人からの相談に対して、その相談の内容や提示された資料等を前提として回答するものである以上、担当職員の回答は、おのずから仮定的、一般的なものとならざるを得ないものであるから、請求人の相談内容や提示資料といった限定された条件の中で、担当職員が請求人に説明した結果、請求人が、F社を解散すれば本件特例が適用できるものと受け取ったとしても、担当職員の指導に特に問題があったものとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、平成7年分の所得税の確定申告のために原処分庁に出向いた際、担当職員から、「本件特例に該当するかどうか時間的に詳しく検討できないので、とりあえず、譲渡所得の申告をし、後日、更正の請求をするように」と言われて更正の請求の用紙を交付され、この指導に基づいて更正の請求を行ったものであるから、本件更正の請求は認められるべきである旨主張する。
 たしかに、請求人は、上記(1)のホの(ロ)のZの答述のとおり、平成7年分の所得税の確定申告期間中に来署し、F社の債務を弁済するために本件譲渡をしたこと及び譲渡物件、譲渡先、受領した譲渡代金の使途等に関する資料を提示し、本件特例の適用を受けたい旨を相談したことが認められる。
 しかしながら、Zは、これに対し、上記(1)のホの(ロ)のとおり、本件特例の適用上の要件を説明した上で、請求人の説明内容や持参した資料からだけでは、本件特例が適用できるかどうかの判断はできない旨を説明し、とりあえず、確定申告ができるように譲渡所得の計算方法を指導し、そして、本件譲渡について、本件特例が適用できる場合には、後日、更正の請求を行うよう指導したことが認められる。
 そうすると、Zは、請求人の本件譲渡に至った経緯等の説明内容や提示された資料等からは、本件譲渡について、本件特例が適用できるか否かを詳しく検討できないと判断して、請求人に対し、とりあえず、確定申告ができるように、譲渡所得の計算方法を指導し、その際、関係資料等を取揃えて詳細に検討し、本件譲渡について、本件特例が適用できるものであれば、後日、更正の請求をするように指導した事実は認められるものの、同職員の指導に特に問題があったものとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(ハ)なお、請求人は、Yの上記への答述のとおり、確定申告書を提出した後も何回か来署し、本件譲渡について、本件特例の適用を受けたい旨を相談した事実が認められ、同職員は、請求人の説明内容や持参した関係書類を検討したが、本件特例を適用できないと判断し、請求人に対し、その旨を説明したが納得しなかったので、後日、関係資料等を取揃えて詳細に検討し、本件特例が適用できるものであれば、更正の請求の手続きを取るように指導し、更正の請求の用紙を交付したことが認められる。
 そうすると、請求人が、平成7年分の所得税の確定申告をした後に至っても、担当職員に対し、本件譲渡に至った経緯等の説明内容及び提示した資料は、本件特例の適用の可否を判断する上で十分ではなかったものと認められることから、このような状況の下で、Yが請求人に対し、関係書類等が不備であることを指摘し、後日、関係資料等を取揃えて詳細に検討し、本件譲渡について本件特例が適用できるものであれば、更正の請求の手続きを取るように指導し、更正の請求に係る用紙を交付することは、通常行われていることであり、同職員の指導に特に問題があったものとは認められない。
 以上のとおり、平成7年分の所得税の確定申告及び本件更正の請求も担当職員の指導の下に行ったものであるから、本件更正の請求が認められないのは、担当職員の指導に問題があったからであり、本件更正処分は取り消すべきである旨の請求人の主張には、いずれも理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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