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(平11.3.11裁決、裁決事例集No.57 206頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、学習教材販売業を営む同族会社であるが、原処分庁は、平成9年12月22日付で、請求人が、所得税法第204条《源泉徴収義務》第1項第4号に規定する外交員(以下「外交員」という。)に支給する報酬(以下「外交員報酬」という。)について所得税を徴収し納付していないとして、別表1のとおり、平成6年2月から平成9年7月までの各月分(以下「各月分」という。)の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)及び不納付加算税の各賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 なお、原処分庁が本件納税告知処分をするに当たって認定した、各人(以下「代理店」という。)に対する支払金額及び源泉所得税の額の内訳は、別表2の1から別表2の4までのとおりである。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成10年2月17日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月26日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成10年6月23日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 調査手続について
 原処分の調査を担当した職員及びその上司である統括国税調査官(両者を併せて、以下「調査担当職員等」という。)は、本件納税告知処分を行うに当たり、その具体的な内容を説明しなかった。
 このことは、国税庁が定める税務運営方針の趣旨に反する。
ロ 本件納税告知処分について
(イ)原処分庁は、請求人を委託者、代理店を受託者とする販売委託契約書(以下「本件販売委託契約書」といい、これに基づく契約を「本件販売委託契約」という。)の実質的な内容を確認することなく、単に表面的な部分をとらえて、代理店が外交員に当たると判断し、請求人に対して一方的に本件納税告知処分を行った。
 しかしながら、外交員の定義については所得税法に規定はなく、また、租税は納税者の財産権を強制的に侵すものであるから、課税に当たっては、租税法律主義にのっとり、厳密に法律の解釈がなされ、適用されなければならないところ、代理店は、次の理由から、外交員に該当しない。
 したがって、請求人には、代理店に対して支払う販売手数料の額について所得税の源泉徴収義務はない。
A 所得税基本通達(以下「基本通達」という。)204―22の2は、卸売業者等がその特約店等に専属するセールスマン等に対して支払う金員について規定しているものであり、卸売業者等がその特約店等に対して支払う金員については規定していない。このことから、基本通達は、特約店とセールスマンを区別して所得税法を適用することを考えていると判断される。代理店はこの特約店に位置するものであるから、代理店は外交員に当たらないと解すべきである。
B 外交員とは、会社又は商店などに所属し、その管理下にあって、外部を訪問して勧誘又は交渉などを行うものをいい、独立した営業者は外交員に当たらないと解すべきである。
 ところで、〔1〕代理店は自己の責任で顧客との契約を行っていること、〔2〕代理店は自己が負担すべき車代、本代及びアルバイト代等(以下「本件経費相当額」という。)を負担していること及び〔3〕一定の期間において継続して請求人の扱う商品の販売活動を行っている代理店はほとんどないことから判断しても、代理店が独立した営業者であることは明らかである。
 なお、代理店のHは「hセミナー」の名刺を、Jは「株式会社j」の名刺をそれぞれ所有、使用して、請求人とは無関係の業務を行っており、また、K(H及びJと併せて、以下「Hら」という。)は、自宅で教材販売を行っていることから、Hらは、まさしく独立した営業者である。
 したがって、代理店は外交員に該当しない。
(ロ)原処分庁は、外交員とは、事業主の委託を受け、継続的に事業主の商品等の購入の勧誘を行い、購入者と事業主との間の売買契約の締結を媒介する役務を自己の計算において事業主に提供し、その報酬が商品等の販売高に応じて定められている者をいうとしているが、請求人は、代理店に、請求人と購入者との間の売買契約の締結を媒介する役務の提供を委託しているのではなく、販売そのものを委託しているのであるから、原処分庁の外交員の定義から判断しても、代理店が外交員に当たらないことは明白である。
ハ 本件賦課決定処分について
 上記イ及びロのとおり、本件納税告知処分はその全部を取り消すべきであるから、それに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 調査手続について
 調査担当職員等は、請求人の代表者であるM(以下「M」という。)に対して、本件納税告知処分の内容を説明している。
 なお、納税告知処分を行うに当たり、事前にその理由及び根拠を説明しなければならない旨を定めた法令の規定はない。
ロ 本件納税告知処分について
(イ)上記(1)のロの(イ)のA及びBの請求人の主張は、請求人独自の見解である。
(ロ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A 顧客との売買契約書に相当するクレジット申込書(以下「本件クレジット申込書」という。)の販売店名欄には、いずれも請求人の別称である「(株)m」との記載があり、住所及び電話番号欄には、いずれも請求人の所在地及び電話番号の記載があること。
B 請求人と代理店は、本件販売委託契約を締結し、代理店は、本件販売委託契約に基づいて請求人の商品の販売を行っていること。
C 本件販売委託契約書には、次の記載があること。
(A)代理店は、委託販売による販売品目、販売価格、販売資料その他基本的な事項については、請求人の販売要領に従うものとする。
(B)請求人が代理店に対して支払う委託販売手数料(以下「本件委託販売手数料」という。)は、毎月末日締切りとし、翌月20日に清算する。
 委託販売品目及び手数料率は、別途定める覚書(以下「本件覚書」という。)による。
D 顧客との売買契約が書面で無条件に解約(以下「クーリングオフ」という。)された場合は、請求人が、代理店を経由して顧客に申込金を返還することとなっていること。
(ハ)所得税法第204条第1項は、居住者に対して国内において同項第4号に規定する外交員報酬の支払を行う者は、その支払の際、その報酬について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを納付しなければならない旨規定している。
 そして、所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員とは、事業主の委託を受け、継続的に事業主の商品等の購入の勧誘を行い、購入者と事業主との間の売買契約の締結を媒介する役務を自己の計算において事業主に提供し、その報酬が商品等の販売高に応じて定められている者と解される。
(ニ)上記(ロ)の事実を上記(ハ)に照らして判断すると、代理店は、本件販売委託契約に基づき、請求人から請求人と顧客との間の売買契約の勧誘の業務の委託を受け、本件経費相当額を自己負担して、請求人と顧客との間の売買契約の締結を媒介する役務を提供しており、その役務の提供に対する対価の額は、委託販売品目ごとに本件覚書に定められた手数料率に基づいて、売上金額に応じて支払われていると認められるから、代理店は外交員に該当し、本件委託販売手数料が外交員報酬に該当するから、請求人には、所得税法第204条第1項に規定する所得税の源泉徴収義務があると認められる。
 したがって、本件納税告知処分は適法である。
ハ 本件賦課決定処分について
 上記イ及びロのとおり、本件納税告知処分は適法であり、かつ、源泉所得税が不納付であったことについて、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、本件賦課決定処分は、適法である。

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3 判断

(1)調査手続について

 原処分の調査手続に請求人の主張する違法があったか否かについて、以下審理する。
 請求人は、調査担当職員等が、本件納税告知処分を行うに当たり、その具体的な内容を説明しなかったことは、税務運営方針の趣旨に反しており、違法である旨主張する。
 しかしながら、納税告知処分を行うに当たり、その具体的な内容を納税者に説明しなければならない旨を定めた法令上の規定はなく、調査担当職員等が本件納税告知処分を行うに当たりその具体的な内容を説明しなかったとしても、違法はない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)本件納税告知処分について

 請求人は、代理店が基本通達204―22の2に規定する特約店等に該当し、また、〔1〕代理店は自己の責任で顧客との契約を行っていること、〔2〕代理店は本件経費相当額を負担していること、〔3〕一定の期間において継続して請求人の扱う商品の販売活動を行っている代理店はほとんどないこと及び〔4〕Hらは請求人と無関係の業務を行っていることから、代理店は請求人から独立した営業者に該当するので、代理店は外交員に該当せず、本件委託販売手数料について所得税の源泉徴収義務はない旨主張するので審理したところ、次のとおりである。
イ 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)請求人は、各代理店とそれぞれ本件販売委託契約を締結していること。
(ロ)本件販売委託契約書には、大要、次のことが記載されていること。
A 請求人と代理店は、請求人の扱う商品に関し、販売委託契約を締結する。
B 代理店と顧客との契約は、請求人の指定する信販会社を利用する。
C 代理店は、委託販売による販売品目、販売価格、販売資料その他基本的な事項については、請求人の販売要領に従うものとする。
D 代理店が委託販売に関し請求人又は第三者に損害を与えた場合は、代理店は自己の責任においてこれを処理し、賠償の責めに任ずるものとする。
E 本件委託販売手数料は、毎月末日締切りとし、翌月20日に精算する。
 委託販売品目及び手数料率は、本件覚書による。
F 本契約の有効期間は、平成 年月日から平成 年月日までとする。
 ただし、本契約期間満了1月前に請求人又は代理店から特段の意思表示がない場合、次の1年これを有効とし、以後この例による。
(ハ)本件経費相当額については、代理店が負担していること。
ロ 原処分関係書類及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、W株式会社(以下「W社」という。)と、W社の教育機材商品を販売する契約を締結しており、それに係る契約書(以下「本件販売契約書」という。)には、顧客に納入された商品が、顧客のクーリングオフにより解約された場合には、請求人は顧客に申込金を返還する等責任をもってその処置に当たる旨の記載があること。
(ロ)W社との取引が、請求人の仕入れの大部分を占めること。
(ハ)本件クレジット申込書によれば、販売店名欄には「(株)m」と記載され、住所欄には請求人の所在地が記載されていること。
 なお、「(株)m」の名称は、請求人の別称であること。
(ニ)請求人が本件委託販売手数料の計算のため代理店ごとに作成した手数料計算書によると、本件委託販売手数料は、本件覚書により代理店ごとにあらかじめ定められた手数料率によって、売上金額に応じて算定されていること。
(ホ)Mは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
A 顧客との売買契約がクーリングオフされた場合には、請求人が電話で顧客と代理店との取次ぎを行っている。
B 代理店に対して、請求人が販売契約を締結しているW社等のメーカーと独自に取引をしない旨を伝えてあり、メーカーに対しても、代理店と直接取引をしないよう申し入れてある。
C 本件販売委託契約書は、すべて代理店の個人名で契約している。
ハ ところで、所得税法第204条第1項は、居住者に対し国内において同項第4号に掲げる外交員報酬の支払を行う者は、その支払の際、その報酬について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定している。
 また、所得税法第204条第1項第4号に規定する外交員とは、事業主の委託を受け、継続的に事業主の商品等の購入の勧誘を行い、購入者と事業主との間の売買契約の締結を媒介する役務を自己の計算において事業主に提供し、その報酬が商品等の販売高に応じて定められている者と解されている。
ニ そこで、上記イ及びロの事実を上記ハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)上記イの(イ)のとおり、請求人と代理店との間で同(ロ)のとおりの内容の本件販売委託契約が締結されていること、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、請求人の仕入れの大部分を占めるW社との本件販売契約書において、顧客との取引がクーリングオフされた場合は、請求人が責任をもってその処置に当たることとされていること、及び上記ロの(ハ)のとおり、本件クレジット申込書の販売店欄に請求人の別称の記載がなされていることからすれば、本件販売契約書に定めるところのW社の教育機材商品の顧客に対する販売について、売買契約の当事者(売主)となるのは、代理店ではなく請求人であり、代理店を媒介として請求人自身が顧客との間で売買契約を締結しているものと認められる。
(ロ)一方、上記イの(ロ)の本件販売委託契約書の内容に照らせば、代理店は、本件販売委託契約に基づき、請求人から、請求人の扱う商品について、請求人と顧客との間の売買契約の申込みの勧誘及び媒介業務の委託を受け、請求人と顧客との間の売買契約の締結を媒介する役務を請求人に提供しているものと認められる。
(ハ)また、上記イの(ロ)のE及び上記ロの(ニ)のとおり、代理店が請求人から受領する本件委託販売手数料は、代理店が販売した商品ごとにあらかじめ定められた手数料率に基づき、売上金額に応じて算定されていることが認められる。
(ニ)おって、上記イの(ロ)のFのとおり、本件販売委託契約書には契約期間の定めがあることから、代理店は、請求人とその契約期間内において継続的な関係を有していると認められる。
(ホ)そうすると、代理店は、請求人との本件販売委託契約書に基づき、請求人の指定する商品について請求人と顧客との間の売買契約の申込みの勧誘及び媒介業務の委託を受け、本件経費相当額を負担して継続的に請求人と顧客との商品の売買契約を媒介する役務の提供を行っているものであり、その役務の提供に対する対価の額は、販売した商品ごとに請求人があらかじめ定めた手数料率に基づき、売上金額に応じて支払われていることが認められるから、これらの事実によれば、代理店は外交員に該当し、本件委託販売手数料は外交員報酬に該当するものと認められ、請求人には、所得税法第204条第1項に規定する所得税の源泉徴収義務があると解するのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ヘ)請求人は、代理店に対して顧客との取引の媒介ではなく販売そのものを委託していることから、代理店は外交員に当たらない旨主張する。
 しかしながら、上記(ホ)のとおり、代理店は、顧客との間の売買契約の当事者となるものではなく、請求人と顧客との間の売買契約の締結を媒介する役務を請求人に提供しているものと認められるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 次に、当審判所において、各月分の源泉所得税の額について審理したところ、外交員であるSに対する平成6年12月分の源泉所得税の額及びTに対する平成8年3月分の源泉所得税の額にそれぞれ誤りが認められたものの、その他の外交員に対する各月分の源泉所得税の額については誤りは認められなかった。
 そこで、当審判所で平成6年12月分及び平成8年3月分の源泉所得税の額について再計算したところ、別表3の1のとおり、Sに対する平成6年12月分の源泉所得税の額は29,095円となるため、平成6年12月分の源泉所得税の額は541,311円となり、この金額は平成6年12月分の納税告知処分の金額を上回るから、平成6年12月分の納税告知処分は適法である。
 一方、別表3の2のとおり、Tに対する平成8年3月分の源泉所得税の額は21,176円となり、平成8年3月分の源泉所得税の額は220,352円となるが、この金額は平成8年3月分の納税告知処分の金額に満たないから、別紙のとおり、平成8年3月分の納税告知処分はその一部を取り消すべきである。
 そして、平成6年12月分及び平成8年3月分以外の各月分の源泉所得税の額は、いずれも納税告知処分の金額と同額となるから、平成6年12月分及び平成8年3月分以外の各月分の本件納税告知処分は、いずれも適法である。

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(3)本件賦課決定処分について

イ 平成8年3月分の不納付加算税の賦課決定処分について
上記(2)のとおり、平成8年3月分の納税告知処分の一部が取り消されるが、不納付加算税の計算の基礎となる税額は、納税告知処分における税額と同額となり、かつ、納税告知処分に係る源泉所得税の額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項本文の規定に基づいてされた平成8年3月分の不納付加算税の賦課決定処分は適法である。
ロ 平成8年3月分以外の各月分の本件賦課決定処分について
上記(2)のとおり、平成8年3月分以外の各月分の本件納税告知処分は適法であり、かつ、平成8年3月分以外の各月分の本件納税告知処分に係る源泉所得税の額を法定納期限までに納付しなかったことについて、国税通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項本文の規定に基づいてされた平成8年3月分以外の各月分の不納付加算税の賦課決定処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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