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(平11.5.24裁決、裁決事例集No.57 278頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成8年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成10年2月10日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成10年2月24日に異議申立てをしたところ、3月を経過しても異議決定がされなかったため、異議決定を経ないで同年6月18日に審査請求をした。

(2)原処分の概要

 請求人は、平成3年8月27日に死亡したFの相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税の申告書を法定申告期限である平成4年2月27日に提出し、また、同日に、その相続税額の全額について、請求人が当該相続により取得した別表2記載の土地(以下「本件土地」という。)及び建物(以下「本件建物」といい、本件土地と併せて「本件不動産」という。)を物納財産とする物納申請(以下「本件物納申請」という。)をした。
 請求人は、本件物納申請が許可され、平成8年10月15日に本件不動産が収納されて、その物納によって還付金が生じたので、当該還付金(以下「本件還付金」という。)を平成8年分の譲渡所得の収入金額とし、譲渡所得の金額の計算上租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第39条《相続財産に係る譲渡所得の課税の特例》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用して、確定申告をした。
 原処分庁は、これに対し、本件還付金の取得に係る譲渡(以下「本件譲渡」という。)は相続税の申告書の提出期限(以下「相続税の申告期限」という。)の翌日以後2年を経過した日の後にされたものであるから本件特例の適用はできないとして、本件更正処分等をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法・不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について次の理由により、本件譲渡につき譲渡所得の金額の計算上、本件特例の適用は認められるべきであり、本件特例が適用できないとした本件更正処分は不当である。
(イ)G国税局長は、本件譲渡が相続税の申告期限の2年を経過する日までに行われない場合には本件特例が適用されないことを知っていたにもかかわらず、本件物納申請に対して初めて請求人に連絡をしたのはその日を経過した後であり、さらに、物納の許可及び収納をしたのが相続税の申告期限から4年8月後である。
 したがって、本件譲渡が相続税の申告期限から2年を経過する日までにできなかったのは、請求人の落ち度ではなく、G国税局の事務処理の遅延によるものであるから、本件特例の適用を受けられないとすることは、納税者の権利を侵害し、ないがしろにするもので、不当である。
(ロ)原処分庁は、請求人が本件特例の適用を受けようとするなら、物納申請が許可されるまでに本件物納申請を取り下げ、本件不動産を他に譲渡することで本件特例を適用できたにもかかわらず、物納申請をしていることを理由に本件特例の適用を受けるための他の手段・方法を何ら講じていないと主張する。
 しかしながら、相続税の申告後の公示価格によると、本件不動産が所在する地区の隣りの地区であるP市R町の土地の時価の下落率は当時全国一であり、本件不動産を売却して納税できる状況にはなく、請求人にとって物納以外に選択の余地はなかった。
(ハ)仮に、譲渡までの経緯に関係なく、相続税の申告期限から2年を経過する日までの譲渡のみに本件特例が適用されるものとすると、本件特例が納税者の税負担を軽減する目的で作られた法律であるにもかかわらず、前記(イ)のように、物納申請を許可するG国税局の事務処理に落ち度があった場合にも、その適用を受けることができないこととなり、本件特例を規定した法律に不備があることとなる。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は不当であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 本件更正処分について
 請求人は、本件譲渡につき本件特例の適用ができなくなった理由は、物納申請に係る許可庁であるG国税局の事務処理の遅延にある旨主張する。
 しかしながら、本件譲渡につき本件特例の適用要件を満たしているか否かの判断と、本件不動産につき物納の対象物となり得るか否かの判断とは全く別異の事象である。
 また、本件譲渡について本件特例の適用を受けるか否かは請求人の判断に委ねられているものであり、本件物納申請が許可され収納される以前において、請求人の任意により物納申請を取り下げ、本件不動産を譲渡して本件特例の適用を受けることができたにもかかわらず、請求人は、本件不動産を平成8年4月30日まで使用収益しており、本件物納申請をしていることを理由に本件特例の適用を受けるための他の手段・方法を何ら講じていないから、請求人の主張には理由がない。
 よって、本件不動産が平成8年10月15日に収納されたことによる本件譲渡は、本件相続開始に係る相続税の申告期限である平成4年2月27日から2年を経過した後のものであるから、本件特例を適用することはできない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡につき譲渡所得の金額の計算上、本件特例を適用すべきか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によると、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件不動産の価額440,855,867円で請求人の相続税額440,810,100円の全額を納付する旨の相続税物納申請書を、法定申告期限である平成4年2月27日にH税務署長に提出した。
(ロ)本件物納申請に係る事務は平成4年9月25日にH税務署長からG国税局長に引き継がれ、そして、平成6年4月12日にJ財務局K財務事務所の職員及びG国税局の本件物納申請に係る事務を担当した職員は、請求人の立会いの下、本件不動産について現地調査を行った。
 その後、請求人は、共同住宅として利用していた本件建物を平成8年4月末日までに空家とした。
(ハ)G国税局長は、本件不動産が物納財産として適当である旨のJ財務局長からの平成8年10月2日付の回答を受けて、同年10月9日付で、物納財産の価額を自用地として評価し直し別表2記載のとおり548,589,369円として、また、物納許可額を平成7年5月17日付及び平成8年7月24日付の相続税の減額更正処分を経た後の請求人の相続税額429,477,700円とし、当該物納財産の価額と当該物納許可額との差額119,111,669円を過誤納額とする相続税の物納を許可し、平成8年10月15日に本件不動産を収納するとともに、同月30日に当該過誤納額を請求人に還付した。
ロ 措置法第39条第1項は、相続又は遺贈による財産の取得をした個人で当該相続又は遺贈につき相続税法の規定による相続税額があるものが、当該相続の開始があった日の翌日から当該相続税の申告期限の翌日以後2年を経過する日までの間に当該相続税額に係る課税価格の計算の基礎に算入された資産を譲渡した場合における譲渡所得に係る所得税法第33条《譲渡所得》第3項の規定の適用については、同項に規定する取得費を、当該取得費に相当する金額に当該相続税額のうちその資産に対応する部分として政令で定めるところにより計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
 そして、相続税法(平成4年法律第16号による改正前のもの。以下同じ。)第27条《相続税の申告書》第1項は、相続税についての納税義務のある者は、その相続の開始があったことを知った日の翌日から6月以内に相続税の申告書を納税地の所轄税務署長に提出しなければならない旨規定している。
 また、相続税法第41条《物納》第1項は、税務署長は、納税義務者について納付すべき相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができる旨を規定し、同法第42条第2項は、税務署長は、物納申請について、同法第41条に規定する物納の要件に該当するか否かを調査し、その調査に基づき、当該申請を許可し又は却下する旨規定している。
ハ これを本件についてみると、本件相続の開始があったのは平成3年8月27日であり、請求人は、同日、本件相続の開始があったことを知ったと認められるから、本件相続に係る相続税の申告期限は平成4年2月27日となる。そうすると、本件特例を適用することができる譲渡は、平成3年8月28日から平成6年2月27日までの間(以下「本件特例適用期間」という。)に行われたものでなければならないところ、前記イの(ハ)とおり、本件不動産が国に収納され本件還付金が生じて本件譲渡となったのが平成8年10月15日で本件特例適用期間経過後のことであるから、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例は適用できないこととなる。
ニ ところで、請求人は、本件特例の適用期間内に本件物納申請に対する許可及び本件不動産の収納が行われなかったのはG国税局の事務処理の遅延によるものであって、請求人の落ち度ではないから、本件特例は認められるべきである旨主張する。
 しかし、措置法第39条第1項は、本来課されるべき税額を政策的見地から特に軽減するものであるから、租税負担公平の原則に照らし、その解釈は厳格にされるべきところ、同項が本件特例の適用期間を相続税の申告期限の翌日から2年以内と明確に限定しており、その期間の徒過について格別の救済措置を設けていないから、上記適用期間について例外を認めることは、法が予定していないところであると解される。
 また、物納申請に対する判断が行われたのが、本件特例の適用期間を経過した後であることについても、物納申請について定めた相続税法第41条ないし第43条と本件特例を規定した措置法第39条とは別個独立の規定、制度であり、両規定が互いに連携しながら納税者に物納する権利又は本件特例の適用を受ける権利を付与しているということができないから、前者の可否を決するまで後者の適用の可否を待つべきことが、法律上当然に予定されていると解することはできない。
 したがって、本件譲渡が本件特例の適用期間を経過した後にされたものである以上、本件特例の適用は認められないといわざるを得ず、請求人のこの主張は採用できない。
ホ また、請求人は、地価が急激に下落し本件不動産を譲渡して納税できる状況ではなかったことから、本件物納申請を取り下げて本件特例適用期間内に本件不動産を他に譲渡することはできず、請求人としては、物納以外に選択の余地はなかったものであるから、本件譲渡が本件特例の適用期間後となった理由がG国税局の事務処理の遅延にある以上、本件特例の適用を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、地価の情勢等から本件不動産の譲渡が難しかったとしても、物納申請は許可又は却下があるまではいつでも取り下げることができ、物納するか否かは納税者の選択に委ねられているところ、請求人は物納を選択したのであり、しかも、その物納により生じた本件譲渡について、前記ニのとおり、本件特例の適用が認められないのであるから、この点に関する請求人の主張にも理由がない。
ヘ さらに、請求人は、仮に、譲渡までの経緯に関係なく相続税の申告期限の翌日以後2年を経過する日までの譲渡のみに本件特例が適用される規定であるとすれば、本件のように物納申請を許可する国税局等の事務処理手続が起因となりその期間を徒過した場合にも、適用できないこととなり、本件特例を規定した法令そのものに不備があることとなると主張する。
 しかしながら、当審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当なものであるか否かを判断する機関であって、その処分の基となった法令自体の適否の判断は、当審判所の権限外のことであり、この点については審理の限りでない。
ト 以上により、本件譲渡所得の金額の計算上、本件特例が適用できないとした本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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