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(平11.7.8裁決、裁決事例集No.58 149頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、幼稚園等の私立学校を経営するほか不動産貸付業を営む学校法人であるが、平成7年4月1日から平成8年3月31日まで及び平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度(以下、順次「平成8年3月期」及び「平成9年3月期」といい、これらを併せて「本件事業年度」という。)の法人税についての審査請求(平成10年9月29日請求)に至る経緯及びその内容は、別表1に記載のとおりである。

(2)原処分の概要

 請求人は、別表2に記載した土地賃貸借契約(以下「本件契約」という。)に基づき、同表の「賃貸借土地」欄に記載した土地(以下「本件土地」という。)を社会福祉法人D会(以下「D会」という。)が営む特別養護老人ホームE館(以下「E館」という。)、F保育園、G保育園及びH保育園の事業用地としてD会に賃貸していたが、原処分庁は、請求人が収益計上しなかった別表3の1に記載した未収賃料(以下「本件賃料」という。)は本件事業年度の益金の額に算入すべきであるとして、また、本件賃料の額を法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第4項に規定する寄附金(以下「みなし寄附金」という。)の額であるとして、別表1の「更正処分等」欄に記載のとおり、更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件賃料は、賃貸料債権として明確ではあるが、次のとおり、請求人の債権として法的に確定しているとは言えないから、実際に本件賃料を収受するまで課税すべき根拠はない。
(イ)D会は、本件賃料に係る請求人の請求に対して、平成10年1月30日付文書「土地賃借料の請求について(回答)」でその支払を拒否した。
(ロ)請求人を所管するJ県○○部私学課は、D会を所管するJ県福祉部福祉指導課(以下「J県福祉部」という。)と協議しなければ、本件賃料の支払について解決しない旨明言しており、現在、J県福祉部がD会を事実上経営、運営しているのであるから、D会は、本件賃料の支払について当事者能力がない。
(ハ)請求人は、平成10年9月28日付文書(通知書)で本件契約を解除する旨D会に対して通知した。
 なお、近日中に本件賃料の請求に関してJ地方裁判所に提訴する予定である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であるから、それに伴う本件賦課決定処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人とD会との間には、本件契約が存在し、その賃料を別表3の2に記載したとおり授受していた。
(ロ)請求人は、D会が本件賃料を支払わなくなった後も、これを再三請求し、かつ、本件事業年度の総勘定元帳上に雑収入(未収入金)として計上しているのであるから、本件賃料を債権として認識している。
(ハ)請求人とD会との間に係争があるとしても、この係争は本件賃料の額の増減に関するものであるから、合理的に見積もった金額を収益計上すべきであり、本件賃料を収益計上しない理由はない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、期限後申告書の提出があった後の本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第2項において準用される同法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められないから、同法第66条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件賃料は本件事業年度の益金の額に算入すべきか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人とD会は、昭和47年7月1日、同年10月1日及び昭和57年5月10日付で、それぞれG保育園、F保育園及びE館の事業用地に係る年間賃料の額をいずれも240,000円とする各土地賃貸借契約書を作成した。
(ロ)平成6年5月31日付のD会理事会議事録には、D会は、上記の各事業用地に係る適正な賃料の年額をそれぞれ5,050,000円、6,100,000円及び7,250,000円であること並びにこれを平成5年度分及び平成6年度分の賃料として支払うことを承認した旨が記載されている。
 なお、上記賃料の額は、おおむね、各事業用地の地積に同用地の固定資産税評価額の3パーセントを乗じて算出した金額である。
(ハ)請求人は、D会が支払った賃料を別表3の2に記載したとおり収益計上している。
(ニ)D会は、本件賃料に係る請求人の請求に対して、平成10年1月30日付文書で要旨次の理由により請求額どおりの支払を拒否するとともに、行政の指導を受け、適正な賃料について改めて請求人と協議する旨回答した。
A 社会福祉施設の敷地は、自己所有又は無償貸与を原則としているが、D会の場合には、これに代えて上記(イ)のとおり極めて低額な賃料で賃借する条件により施設認可を受けたものであり、このことは、請求人も承知の上、協力したものである。
B 本件契約による契約書(以下「本件契約書」という。)は、平成7年度のJ県及び平成8年度のL県による監査時の指導に基づき作成されたものであるが、D会理事会の議決を経ていないこと及びその賃料の額は社会福祉法人として通常あり得ない金額であることから、本件契約の締結は、理事長及び理事による背任行為である。
 また、支払済の賃料については、不正な経理操作により支払われた疑いがある。
(ホ)異議審理庁の調査の際に、D会の理事であるMは、本件契約による賃料の額は、世間相場に近い金額であるが、上記(ニ)のAのとおりの事情であるから、急に世間相場並みの本件賃料を支払うことはできない旨申述した。
(へ)請求人の総務部長であるNは、当審判所に対して、本件契約書は平成6年9月頃のD会に対するJ県福祉部の監査時の指導により作成されたものであり、その賃料の額は会計士に依頼して算定したものであること及び本件賃料が支払われない理由はD会の資金不足である旨答述した。
ロ ところで、学校法人は、法人税法第2条《定義》第6号に規定する公益法人等に該当し、その公益法人等の納税義務については、法人税法第4条《納税義務者》第1項において、当該公益法人が収益事業を営む場合に限る旨規定し、また、その収益事業については、同法第2条第13号が販売業、製造業その他の政令で定める事業で、継続して事業場を設けて営まれるものと規定しているところ、同法施行令第5条《収益事業の範囲》第5号において不動産貸付業がこれに該当する旨規定している。
 使用料等に係る収益の計上については、法人税基本通達2―1―29《賃貸借契約に基づく使用料等の帰属の時期》が資産の賃貸借契約に基づいて支払を受ける使用料等の額は、前受けに係る額を除き、当該契約又は慣習によりその支払を受けるべき日の属する事業年度の益金の額に算入する旨定めており、その注書には、使用料等の額の増減に関して係争がある場合には本文の取扱いによるのであるが、この場合には、契約の内容、相手方が供託をした金額等を勘案してその使用料等の額を合理的に見積るものとする旨定めている。
 また、法人税法第37条第4項は、内国法人である公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその収益事業以外の事業のために支出した金額を、その収益事業に係るみなし寄附金の額とする旨規定し、同法同条第2項及び同法施行令第73条《寄附金の損金算入限度額》第1項第3号イにおいて、学校法人の場合には、当該法人が各事業年度において支出した寄附金の合計額のうち、当該事業年度の所得の金額の100分の50(当該金額が年2百万円に満たない場合には、年2百万円)を超える部分の金額は、当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
 なお、法人税法施行令第6条《収益事業を営む法人の経理区分》は、公益法人等は、収益事業から生ずる所得に関する経理と収益事業以外の事業から生ずる所得に関する経理とを区分して行わなければならない旨規定している。
ハ これを本件についてみると、前記各認定事実によれば、請求人とD会は、両者間でE館、G保育園、F保育園及びH保育園の事業用地の賃料を改定し又は新たに取り決めるなどして本件契約書を作成したこと、D会理事会は本件賃料の支払を承認したこと、両者は、別表3の2に記載のとおりその賃料を授受していたことが認められるから、本件契約は、両者間の合意に基づき有効な賃貸借契約として成立したと認められる。本件契約書の作成について、D会がJ県社会福祉部の指導を受けたことは、本件契約の成立に何ら影響を及ぼすものとは解されないし、本件賃料の支払についてのD会理事会の承認の存在を疑わせるような事情を認めるに足りる資料は存しない。そして、本件契約に基づき、D会が本件土地を保育園等の事業用地として実際に使用していること及び請求人が本件賃料を請求しているのであるから、本件賃料は本件事業年度の益金の額に算入すべきである。
 なお、請求人は、D会が本件賃料の請求に対して、前記イの(ニ)のとおり、その支払を拒否する旨回答したことから、賃料債権が法的に確定していないと主張するが、上記認定のとおり、本件契約は有効に成立しており、かつ、D会が本件土地を実際に使用しているのであるから、請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、納税義務を負う独立した公益法人として、成立、存在しているのであるから、当事者能力がないとの主張は理由がない。
 さらに、仮に、D会の回答文書が本件契約による賃料の額の減額を請求しているものであるとしても、その減額請求の意思表示は、平成10年1月30日にされたのであるから本件賃料の額に影響を及ぼすものではない上、D会が当該賃料の額を世間相場に近い額であることを自認しているのであるから、これを不相当とすることにはならない。
 ところで、請求人は、本件事業年度の収益事業に係る確定決算において、本件賃料の額を収益事業以外の事業に属するものとして区分経理をしていなかったのであるから、原処分庁が本件賃料の額をみなし寄附金の額として、法人税法第37条第2項の規定を適用して所得金額を計算したのは誤りである。
 そこで、当審判所において、本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、別表1の「審判所認定額」欄に記載のとおり、平成8年3月期の所得金額及び納付すべき税額は、10,156,855円及び2,742,100円となり、平成9年3月期の所得金額及び納付すべき税額は、18,791,195円及び5,073,500円となり、いずれも本件更正処分の額を上回ることとなることから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、期限後申告書の提出があった後の本件更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第66条第2項において準用される同法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められないから、同法第66条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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