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(平11.12.22裁決、裁決事例集No.58 180頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、G漁業協同組合が財団法人H灘漁業振興協会(以下「振興協会」という。)に支出した出捐金が法人税法(平成10年法律第107号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第25号に規定する繰延資産に該当する(G漁業協同組合の主張)か否か、法人税法(平成10年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《寄付金の損金不算入》第6項に規定する寄付金に該当する(原処分庁の主張)か否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯等

 G漁業協同組合の審査請求に至る経緯等は、別表のとおりである。
 その後、G漁業協同組合は、平成11年9月1日にJ漁業協同組合及びK漁業協同組合と合併し、新たにL漁業協同組合を設立したので、L漁業協同組合はG漁業協同組合の審査請求人としての地位を承継したものである(以下、G漁業協同組合を「消滅法人」といい、L漁業協同組合を「請求人」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 振興協会は、昭和62年9月19日に、消滅法人を含むH灘海域の24の漁業協同組合(以下、これらを併せて「請求人ら」という。)によって設立された財団法人である。
ロ 振興協会は、その寄附行為において、漁業の発展と漁業者の生活安定に寄与することを目的として、H灘地区において、次の事業を行う旨定めている。
(イ)水産動物の保護及び育成
(ロ)遊漁者に対する指導
(ハ)漁業者に対する経営指導及び経営対策の助成
(ニ)漁業に関する教育及び情報提供
(ホ)公害対策に関する事業
(ヘ)その他必要な事業
ハ 消滅法人は、平成8年5月16日に、振興協会に8,438,235円(以下「本件出捐金」という。)をきょ出し当該金額を仮勘定とした後、平成8年12月30日に雑費用として経理した。
ニ 消滅法人は、平成8年1月1日から同年12月31日までの事業年度の申告所得金額の計算において、申告調整で本件出捐金を繰延資産として当期利益の額に加算するとともに、当該繰延資産の償却期間は5年であるとして算出した償却費の額を減算した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件出捐金は、出資金でなく、損益計算書上の費用の一科目である寄付金のようであるが、次のことから、将来にわたって自己が便益を受けるために支出した費用であり、法人税法施行令第14条《繰延資産の範囲》第1項第9号のホに該当することから、法人税法第37条第6項に規定する寄付金に該当せず、繰延資産となる。
イ ところで、繰延資産とは、法人税法第2条第25号において、法人が〔1〕支出する費用のうち、〔2〕支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいうと規定され、法人税法施行令第14条第1項第9号のホにおいて、自己が便益を受けるために支出する費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものと規定されている。
ロ 本件出捐金の支出先である振興協会の事業内容等は、下記のとおりであるから、本件出捐金は自己が便益を受けるために支出する費用で、その支出の効果が支出の日以後1年以上に及ぶものである。
(イ)請求人らが便益を受けるために出捐金を支出して設立した財団法人であること。
(ロ)振興協会の事業のすべてが請求人らが便益を受ける事業であり、振興協会が存続する限り、その事業から、請求人らは便益を受けるものであること。
ハ なお、法人税基本通達8―1―11(同業者団体等の加入金)では、同業者団体等の加入金は、自己が便益を受けるために支出する費用であることから、繰延資産に該当する旨定められている。
 そして、当該同業者団体の運営は、加入金の収益によりその費用を支出し、やむを得ない時は加入金を取崩し費用にあて運営しているが、振興協会の運営も同様に運用財産(基本財産の収益)をもって支弁すると規定し、基本財産の収益から支出しており、やむを得ない理由があれば理事の同意等により基本財産の一部を取崩して支出することができるとされている。
 したがって、振興協会に対する本件出捐金の目的、その効果及び便益の寄与等は、当該同業者団体等の加入金と同じである。

(2)原処分庁の主張

 本件出捐金は、次のことから、法人税法第37条第6項に規定する寄付金に該当する。
イ 法人が事業関連先の財団法人にきょ出する金銭で、当該財団法人の基本財産として留保され、そのきょ出された金銭が返還されないことが明らかな場合は、その支出が純然たる出捐であることから寄付金に該当するものと解されている。
ロ 本件出捐金は、〔1〕振興協会が「基本財産とすることを指定して」寄付を受けたとしていること及び〔2〕振興協会の決算において基本財産として受入処理がされていることから、振興協会の基本財産に充てられるものとしてきょ出されたことは明らかである。
ハ 振興協会はその寄附行為において基本財産として留保されたものを、きょ出者に対し返還しないことを明らかにしている。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 認定事実
 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)消滅法人の代表理事組合長Mは、当審判所に対し、本件出捐金を支出した経緯について、「漁場を同じくする漁業者によって、資源の維持増大、漁場環境の整備、漁業秩序の確立、教育情報活動等を積極的に推進し、H灘漁業者の生活向上を図るという振興協会設立の趣旨にのっとって、将来にわたって振興協会の事業を行うために本件出捐金をきょ出することを、平成8年6月20日の臨時総会の決議を経て決定した」旨答述している。
(ロ)振興協会は、平成8年5月16日に、消滅法人から基本財産とすることを指定してきょ出された本件出捐金を仮受金として受け入れ、平成9年3月31日に基本財産に組み入れている。
(ハ)振興協会の寄附行為には、次のことが定められている。
A 基本財産は、これを処分し、又は担保に供することができないこと。ただし、やむを得ない理由があるときは、理事会において理事の4分の3以上の同意を得、かつ、S県知事の承認を得て、その一部を処分し、又はその全部若しくは一部を担保に供することができること。
B 解散時の残余財産は、理事会において理事の4分の3以上の同意を得、かつ、S県知事の許可を得て、振興協会と類似の目的を有する公益法人又はS県に寄付すること。
C 振興協会の経費は、運用財産をもって支弁すること。
ロ ところで、法人税法第37条第6項において寄付金は、寄付金、きょ出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人がした金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与であると規定されており、当該寄付金に該当する場合にはその支出に対価性が認められないことから法人税法第2条第25号に規定する繰延資産には当たらないと解されている。
ハ これを本件についてみると、前記イの認定事実から、本件出捐金は、消滅法人の臨時総会の決議を経て任意にきょ出されたものであること、一定の公益目的のために提供される財産である公益法人の基本財産とすることを指定してきょ出され、基本財産として組み入れられていることが認められる。
 さらに、振興協会の基本財産は、原則として処分し、又は担保に供することができず、解散時においても請求人に返還されないこと、振興協会の行う事業は、基本財産以外の財産である運用資産によって運営されることが認められる。
 また、請求人が本件出捐金のきょ出によって振興協会から特別の利益を受けるとも認められない。
 したがって、本件出捐金のきょ出は、振興協会に対してなされた金銭の贈与に当たり、本件出捐金は法人税法第37条第6項に規定する寄付金となり、繰延資産に該当しない.
ニ 以上のことから、本件出捐金が法人税法第37条第6項に規定する寄付金に当たるとした更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、更正処分は適法であり、また、この処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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