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(平13.12.21裁決、裁決事例集No.62 173頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の取得した家屋(以下「本件家屋」という。)が、租税特別措置法(平成12年法律第13号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する所得税額の特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)の適用要件に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、平成12年2月7日に申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成12年11月28日付で次表の「更正処分」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。

ロ 請求人は、本件更正処分を不服として、平成13年1月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が、同年4月20日付で棄却の異議決定をしたので、同年5月7日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件家屋に係る不動産登記簿謄本の記載によれば、本件家屋は、Q市R町六丁目8602番地4に所在(家屋番号8602番4)し、鉄筋コンクリート造・木造亜鉛メッキ鋼板葺3階建として、昭和43年11月10日新築を原因として登記されている。
ロ 本件家屋は、Aを注文者とし、B株式会社を請負者とする昭和51年2月6日付の工事請負契約により増改築(以下「本件増改築」という。)工事が行われ、その床面積は124.59平方メートルから194.26平方メートルに増床され、昭和51年8月11日増築を原因として平成11年7月14日に登記されている。
ハ 本件家屋は、租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第26条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第2項第3号に規定する耐火建築物に該当する。
ニ 請求人は、平成11年10月29日に本件家屋をA及びCから売買により取得し、同年12月1日からこれを居住の用に供している。

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2 主張

(1)請求人

 次の理由により、原処分の全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、措置法第41条第1項及び措置法施行令第26条第2項(以下、両規定を併せて「本件措置法規定等」という。)における建築の意義には、増改築が含まれない旨主張する。
 しかしながら、建築基準法第2条《用語の定義》第1項第13号によれば、建築とは、建築物を新築し、増築し、改築し、又は移転することをいうと規定されているから、本件措置法規定等における建築の意義には、増改築も含まれると解すべきである。
ロ したがって、本件家屋は、本件増改築をした昭和51年から起算すると、請求人の取得の日以前25年以内に建築されたものであり、措置法施行令第26条第2項第3号の要件を満たすから、住宅借入金等特別控除の適用が認められるべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件措置法規定等は、建築の定義について特に規定していないが、当該法令の趣旨及び規定振りからすると、建築基準法上の規定とは異なり、建築には増改築が含まれないものと解される。
ロ 本件家屋は、本件家屋の登記簿の全部事項証明書、本件増改築の工事請負契約書の記載内容及び本件増改築の工事の実態から判断すると、昭和43年11月10日に建築され、その後、昭和51年に増改築されたものであるから、請求人の取得の日以前25年以内に建築された家屋には該当しない。
ハ したがって、本件家屋について、住宅借入金等特別控除の適用はないとした本件更正処分は適法である。

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3 判断

(1)法令の規定・解釈について

イ 措置法第41条第1項は、居住者が、〔1〕居住用家屋の新築、〔2〕居住用家屋で建築後使用されたことのないものの取得、〔3〕居住用家屋で建築後使用されたことのある家屋で政令で定めるものの取得、〔4〕その者の居住の用に供している家屋で政令で定めるものの増改築等をし、これらの家屋をその者の居住の用に供した場合において、一定の要件の下に、住宅借入金等特別控除の適用する旨規定している。
ロ 上記イの〔3〕の政令で定めるものは、措置法施行令第26条第2項第3号の規定によれば、当該家屋が耐火建築物である場合には、その取得の日以前25年以内に建築されたものであるとされている。
ハ 上記イの〔4〕の「増改築等」とは、措置法第41条第4項において、当該居住者が所有している家屋につき行う増築、改築その他の政令で定める工事で当該工事に要した費用の額が百万円を超えるものであることその他の政令で定める要件を満たすものである旨規定している。
ニ 措置法第41条第1項の規定から判断すると、上記イの〔1〕は、居住者自らが建築主となって新築した建物について規定し、〔2〕及び〔3〕は、居住者以外の者が建築した建物で居住者が承継取得したものについてそれぞれ規定したものであって、建物の建築後、居住の用に供されたことのない建物は〔2〕に、居住の用に供されたことのある建物は〔3〕に該当し、また、現に居住している者がその建物に増改築等をした場合が〔4〕に該当することになる。
ホ また、住宅借入金等特別控除は、住宅政策の一環として、個人の持家取得の促進及び居住水準の向上を図ることなどを目的として設けられた制度であり、上記イの〔3〕の既存住宅の取得については、その良質性を確保する趣旨から、上記ロのとおり、建築後の経過年数に一定の制限が加えられている。
ヘ ところで、建築基準法第1条《目的》は、同法は国民の生命、健康及び財産の保護を図るため、建築物の敷地、構造、設備及び用途に関して守られるべき最低の基準を定めた法律である旨規定しており、その趣旨目的は、上記ニの住宅借入金等特別控除のそれとは異にしているから、本件措置法規定等の適用については必ずしも建築基準法における用語の意義をそのまま引用しなければならないものではない。
ト 上記ロからヘまでに述べたことから判断すると、本件措置法規定等に規定する建築には増改築は含まれないと解するのが相当である。

(2)本件更正処分について

イ 請求人は、建築基準法における建築には増改築が含まれるから、本件措置法規定等に規定する建築にも増改築が含まれると解すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件措置法規定等に規定する建築には、上記(1)のとおり、増改築は含まれず、建築基準法における建築の意義とは別意に解するのが相当であり、請求人の主張は採用できない。
ロ なお、本件増改築工事の内容等について検討したところ、本件増改築の請負業者であるB株式会社の代表取締役であったDは、当審判所に対して、〔1〕本件増改築工事の主な内容は、既存の本体部分は取壊しを行わない状態で、本件家屋の裏手の崖地を削り取り、2階及び3階にそれぞれ増築工事を行った上、既存部分の内装工事を行ったものであり、〔2〕本件増改築工事の注文者であるAは、本件増改築工事の期間中においても引き続き本件家屋に居住していた旨を答述しており、これらの答述からすると、本件増改築は、その実質面からみても、本件措置法規定等に規定する建築には該当しないと判断するのが相当である。
ハ そうすると、本件家屋の建築日は、上記1の(3)のロの本件増改築を行った昭和51年8月11日ではなく、上記1の(3)のイの昭和43年11月10日であるから、本件家屋は、請求人の取得の日以前25年以内に建築されたものではなく、上記(1)のロの措置法施行令第26条第2項第3号の要件に該当しないことから、請求人の主張には理由がなく、住宅借入金等特別控除の適用はないとした本件更正処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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