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(平13.11.6裁決、裁決事例集No.62 284頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、租税特別措置法(平成9年法律第22号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第42条の4《試験研究費の額が増加した場合等の法人税額の特別控除》第3項に規定する法人税額の特別控除(以下「本件特別控除」という。)の額について、修正申告による増額の可否を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、電子機器製造販売業を営む同族会社であるが、平成9年2月1日から平成10年1月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、平成10年5月29日に、本件事業年度の法人税について、別表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成12年9月27日付で別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、平成12年10月13日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 措置法第42条の4第10項に規定する「確定申告書等」(以下「本件確定申告書等」という。)の意義について
 原処分庁は、本件特別控除の額は、本件確定申告書等に記載された事項を基礎として計算される正当額に限られ、本件確定申告書等には、期限後申告書は含むが修正申告書は含まないので、本件修正申告書により本件特別控除の額を増額することはできない旨主張する。
 しかしながら、本件確定申告書等については、特に期限内申告書に限るとか修正申告書を除くとか限定していないことから、本件確定申告書等に修正申告書を含む場合もあり得ると解される。
 すなわち、自主的に提出した本件修正申告書は、更正等を受けた者がその後再更正等を受けるまでの間に提出する修正申告書及び調査があったことにより更正があるべきことを予知して提出する修正申告書とはその性格を異にし、期限後申告書と何ら変わるものではないことから、本件修正申告書は、本件確定申告書等に含まれると解するのが相当である。
ロ 租税特別措置法関係通達(法人税編)(平成11年12月1日課法2−9による改正前のもの。以下同じ。)42の4−18《申告に係るその控除を受けるべき金額》(以下「本件通達」という。)について
 本件通達は、所得金額の更正により法人税の額が増加することとなっても、措置法第42条の4第10項に規定する「控除を受けることができる金額」は、本件確定申告書等に記載された事項を基礎として計算される正当額に限られる旨定めているが、この更正には自主的に提出した本件修正申告書は含まないと解すべきである。
 また、原処分庁は、本件更正処分の理由書において、本件通達の「当該申告書に記載された事項」には、法人税額を含むこととしている。そうすると、減額更正により法人税額が減少した場合でも、減少前の法人税額を基礎として当該正当額を計算せざるを得なくなり、論理矛盾が生じることとなる。
 すなわち、本件特別控除の額の計算の基礎とする「当該申告書に記載された事項」は、正しく記載された事項を前提としており、誤っている法人税額は当該事項には含まれないのである。そして、本件通達で定めている「当該申告書に記載された事項」としての法人税額とは、当初申告書に記載された法人税額の絶対額をいうのではなく、法人税法の規定に基づく計算により必然的に導き出されたところの概念的な法人税額のことと解すべきであるから、本件の場合には、本件修正申告書による正しい法人税額を基礎として計算された本件特別控除の額を正当額とすべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件確定申告書等の意義について
 請求人は、本件確定申告書等には本件修正申告書が含まれると解するのが相当である旨主張する。
 しかしながら、措置法第2条《用語の意義》第2項第11号及び法人税法第2条《定義》第31号の規定から、本件確定申告書等に本件修正申告書が含まれないことは明らかであるから、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件通達について
(イ)請求人は、自主的に提出した本件修正申告書と税務調査に基づく修正申告書とを区別し、本件修正申告書によって再計算した本件特別控除の額を、本件通達に定める正当額として認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イのとおり、本件確定申告書等に本件修正申告書が含まれないことは明らかであり、また、本件通達は、本件確定申告書等に記載された「当該申告に係るその控除を受けるべき金額」の内容を明らかにしたものであり、請求人の主張には理由がない。
(ロ)請求人は、「当該申告書に記載された事項」としての法人税額とは、当初申告書に記載された法人税額の絶対額をいうものではない旨主張し、また、「当該申告書に記載された事項」に法人税額を含めるとする原処分庁の解釈では、減額更正の場合、論理矛盾が生じる旨主張する。
 しかしながら、本件通達は、「確定申告書等に記載された事項」を基礎として本件特別控除の額の正当額を計算する旨定めているのであるから、確定申告書等に記載されていない本件修正申告書の法人税額を基礎として本件特別控除の額を計算することはできない。また、所得金額の更正により法人税の額が増加又は減少することとなっても、控除を受けることができる金額は、当該正当額に限られるのであるから、請求人の主張する論理矛盾は生じない。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 関係法令について
(イ)措置法第42条の4第3項は、中小企業者等の所得の金額の計算上損金の額に算入される試験研究費の額がある場合には、当該中小企業者等の所得に対する法人税の額から、当該試験研究費の額の100分の6に相当する金額を控除する旨、ただし、当該控除する金額が、当該中小企業者等の所得に対する法人税の額の100分の15に相当する金額を超えるときは、当該控除する金額は、当該100分の15に相当する金額を限度とする旨規定している。
 また、同条第10項において、同条第3項の規定は、確定申告書等に、この規定による控除を受ける金額の申告の記載があり、かつ、当該金額の計算に関する明細書の添付がある場合に限り、適用する旨、この場合において、この規定により控除される金額は、当該申告に係るその控除を受けるべき金額に限るものとする旨規定している。
 そして、本件確定申告書等の意義は、同法第2条第2項第11号において、法人税法第2条第30号に規定する中間申告書及び同条第31号に規定する確定申告書(当該申告書に係る期限後申告書を含む。)をいう旨規定している。
(ロ)措置法第42条の4第10項に規定する「当該申告に係るその控除を受けるべき金額」について、本件通達は、申告書に記載された控除税額そのものをいうのではなく、当該申告書に記載された事項を基礎として計算する場合に控除を受けることができる正当額をいう旨、さらに、所得金額の更正により法人税の額が増加することとなっても、控除を受けることができる金額は、当該正当額に限られる旨定めている。
 すなわち、控除を受けることができる金額は、確定申告書等に記載された事項を計算の基礎とするのであり、その計算に基づく正当額であることから、その正当額が、その確定申告書等に控除を受ける金額として記載された金額を超える場合には、その超える部分の金額は控除を受けることができると解される。
 そして、所得金額の更正により法人税の額が増加する場合は、その増加税額は確定申告書等に記載があることにはならず、確定申告書等に記載された事項を基礎に計算した場合の法人税の額は変わらないことから、その増加税額に対応する部分の金額は、控除税額の限度とすることはできないと解される。
ロ 請求人の主張について
(イ)本件確定申告書等に本件修正申告書が含まれるか否かについて
 請求人は、修正申告書をその性格により3種類に区分し、自主的に提出した本件修正申告書は、期限後申告書と何ら変わらないことから、本件確定申告書等に含まれる旨主張する。
 しかしながら、本件確定申告書等の意義については、上記イの(イ)のとおりであり、修正申告書が含まれる旨規定されていないので、請求人の主張を採用することはできない。
(ロ)申告に係るその控除を受けるべき金額について
 請求人は、自主的に提出した本件修正申告書は本件通達の更正に含まれず、当該修正申告書に基づき計算された本件特別控除の額が、当該申告に係るその控除を受けるべき金額である旨主張する。
 しかしながら、措置法第42条の4第10項に規定する「当該申告に係るその控除を受けるべき金額」について、本件通達は、上記イの(ロ)のとおり定めており、本件確定申告書等に記載された事項を基礎として計算する場合に控除を受けることができる正当額が控除税額とされ、本件修正申告書に記載された事項は、本件確定申告書等に記載された事項ではないことから、当該事項を基礎として計算することはできない。
 また、本件修正申告書は、損金の額に算入した道府県民税及び市町村民税17,639,800円並びに道府県民税利子割83,210円を所得金額に加算した結果、法人税額が増加し、本件特別控除の額も増加するとして提出されたものであるが、その法人税の増加額は、上記イの(ロ)のとおり、本件確定申告書等に記載された事項ということはできないから、その増加した部分の金額については控除を受けることはできない。
 したがって、請求人の主張を採用することはできない。
(ハ)減額更正があった場合の論理矛盾について
 請求人は、原処分庁の主張では、減額更正があった場合には、減額前の法人税額を基礎として正当額を計算することとなり、論理矛盾が生じる旨主張する。
 しかしながら、措置法第42条の4第3項ただし書は、本件特別控除の額は、当該事業年度の所得に対する法人税の額の100分の15に相当する金額を限度とする旨規定しているのであり、減額更正があった場合には、確定申告書等に記載された法人税の額を控除を受けるべき金額の計算の基礎とするものではなく、減額更正後の所得に対する法人税の額を基礎として控除を受けるべき金額を計算することとなるのであるから、何ら矛盾は生じないので、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件更正処分の適法性について
 本件更正処分について、上記ロのとおり請求人の主張には、いずれも理由がなく、そうすると、本件事業年度の所得金額は○○○○○円、納付すべき税額は173,500,800円となり、これらの金額は、本件更正処分の金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

以上のとおり、本件更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないので、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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