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(平13.9.13裁決、裁決事例集No.62 329頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税法第21条の6《贈与税の配偶者控除》に規定する居住用不動産の特例(以下「本件特例」という。)の適用に当たり、〔1〕審査請求人(以下「請求人」という。)が夫から持分の贈与を受けた土地の範囲いかん、〔2〕土地の持分の贈与に対する本件特例の適用に当たり、店舗兼住宅等の持分の贈与に関する相続税法基本通達21の6−3のただし書きと同様の取扱いをすべきか否かということが争点となった事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成10年10月26日に夫であるF(以下「F」という。)から持分の贈与を受け、同年12月3日に所有権移転登記を経由した不動産のすべてが本件特例に該当するとして、平成11年2月26日に平成10年分贈与税の申告をしたところ、原処分庁から、利用状況の違う2棟の建物の敷地となっている土地について本件特例を適用しようとする場合には、居住用部分と居住用以外の部分に区分しなければならず、この区分に応じて土地を分筆した上で居住用部分を贈与すれば、そのすべてが本件特例の対象となる旨の指導を受けたことから、分筆手続はしなかったものの、居住用部分の面積を実測した上で、同年3月12日に別表1の「申告」欄のとおり訂正申告をした。
 その後、請求人は、平成11年8月12日にFが死亡したため、相続財産の現況調査をしたところ、贈与を受けた土地の利用区分ごとの面積に誤りがあったとして、同年10月19日に別表1の「修正申告」欄のとおり自発的に修正申告をした。
 しかし、請求人は、訂正申告及び修正申告はしたものの、居住用以外の部分も持分の贈与の対象となっていることを前提とする原処分庁の指導には承服できないとして、平成12年3月10日に別表1の「更正の請求」欄のとおり更正の請求をしたところ、原処分庁は、同年6月8日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成12年8月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月6日付で修正申告の一部を取り消すとする異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年12月7日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 別紙1記載のQ市R町22番1の宅地1,185.15平方メートル(以下「本件土地」という。)及び本件土地上の家屋(以下「本件家屋」といい、本件土地と併せて「本件資産」という。)の各不動産登記簿(以下「本件登記簿謄本」という。)には、各9分の1の持分が平成10年10月26日にFから請求人に贈与された旨の記載がある。
ロ 本件土地は、居住用家屋の敷地部分690.85平方メートル、貸物置の敷地部分32.00平方メートル及び賃貸アパートの敷地部分462.30平方メートルから構成されている一筆の土地である。
ハ Fは、平成10年10月26日に請求人に対して、別紙2のとおり、「土地については次図のとおり居住用家屋の敷地の部分とする。」旨の文言が記載された不動産贈与証書(以下「本件贈与証書」という。)を差し入れた。
ニ ところが、本件土地が一筆の土地であるため、その一部についての贈与であるかのような限定文言がある本件贈与証書によっては所有権移転登記ができなかったことから、Fは、本件贈与証書のうち上記の限定文言を削除した同一日付の不動産贈与証書(以下「本件原因証書」という。)を新たに作成して差し入れ、これを原因証書として上記イの所有権移転登記がなされた。
ホ 本件家屋は、別紙3のとおりP県Q市長が発行した平成10年度の固定資産評価証明書に記載された次の家屋である。
(イ)所在地番がQ市R町22、家屋番号が149、床面積は1階が219.71平方メートル、2階が36.05平方メートル
(ロ)所在地番がQ市R町22、家屋番号が149の002、床面積は1階14.08平方メートル

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分(異議決定により一部取り消された後のものをいう。以下同じ。)は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、請求人が本件土地に関してFから贈与を受けた財産(以下「本件受贈財産」という。)は、本件土地の持分9分の1であるところ、本件土地には居住用以外の土地が含まれているとして本件通知処分を行ったが、本件受贈財産たる本件土地の持分9分の1は、本件贈与証書の「なお、」以下に明示されているとおり、本件土地の全部にまたがるのではなく、居住用家屋の敷地内にのみ存在するのであって、本件受贈財産には居住用以外の土地が含まれていないことが明らかであるから、その全部について配偶者控除の適用がある。
ロ 仮に、本件受贈財産が本件土地の全部にまたがる9分の1の持分であると解されるとしても、配偶者控除の適用に当たっては、相続税法基本通達21の6−3が、店舗兼住宅等の持分の贈与があった場合の居住用部分の判定につき、贈与を受けた持分の割合が居住用部分の割合以下である場合において、その贈与を受けた持分の割合に対応する当該店舗兼住宅等の部分を居住用不動産に該当するものとして申告があったときは、これを認めるものとすると規定している趣旨を十分に汲むべきである。
 本件土地に係る所有権の移転登記の内容と本件贈与証書の記載内容とが異なっているのは、分筆による登記手続に高額な費用負担が必要であること及び隣接所有者との関係から分筆することが困難であったことによるものであり、その真意は居住用部分のみを贈与することにあったのであるから、店舗兼住宅等の持分の贈与の場合と同様に、実質課税の原則により、本件受贈財産のすべてについて配偶者控除の適用を認めるべきである。
 また、登記には公信力がないから、分筆をしてまで居住用家屋の敷地であることの特定をしなければ、配偶者控除の適用が受けられないことになると、配偶者控除の設けられた趣旨にも反し、上記のような事情のない者との間において不公平が生ずることとなる。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件特例は、婚姻期間が20年以上である配偶者から、専ら自己の居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利又は家屋の贈与を受けた場合に、受贈者が贈与税の申告書に、〔1〕戸籍の謄本又は抄本及び戸籍の附票の写し、〔2〕居住用財産の贈与を受けた者が取得した居住用不動産に関する登記簿謄本又は抄本並びに〔3〕住民票の写しを添付した場合に限り、適用を受けることができる旨規定している。
ロ ところで、本件土地上には、居住用家屋のほか貸物置及び賃貸アパ−ト(以下「賃貸アパート等」という。)の3棟がそれぞれ独立して存在している。本件土地のどの部分が贈与されたかを判断するに当たっては、当事者の主観的な意思によるのではなく、実際になされた登記の内容に則して客観的に判断すべきであるところ、本件登記簿謄本によれば、本件土地に係る持分9分の1の所有権が贈与によりFから請求人に移転しているのであって、当該持分には賃貸アパート等の敷地が含まれていることが明らかであり、当該敷地部分については、本件特例の適用対象となる居住の用に供している土地とはいえないから、配偶者控除の適用はない。

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3 判断

(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 本件資産の明細は別表2のとおりであり、原処分庁が異議決定によって、本件土地の利用区分ごとの面積及び評価額を是正したのは、〔1〕請求人が本件土地を利用状況ごとに実測しており、この実測面積を採用したこと、〔2〕請求人が居住用家屋の敷地部分を不整型地として評価していたものを、土地の実測に応じた形状を基に奥行等補正率を適用して再計算したこと及び〔3〕貸物置の敷地部分については、借地、借家権の割合に誤りがあったため訂正したことによるものである。
ロ 請求人は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件受贈財産は、本件宅地の9分の1に相当する部分であって、別紙4のとおり、太線で図示した範囲内に存在している。その位置を具体的に特定することはできないが、贈与財産の特定は、契約当事者の主観的な意思で決められるものである。なお、建物については、自宅の持分9分の1である。
(ロ)本件家屋の評価額は、固定資産税評価証明書に記載のとおりである。
(2)ところで、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項は、納税申告書を提出した者は、法定申告期限から1年以内に限り、当該申告書に記載した課税標準等又は税額等の計算が法律の規定に従っていなかったこと等により納付すべき税額が過大であるときは、更正をすべき旨の請求をすることができると規定し、同条第3項には、当該請求をするに至った事情の詳細その他参考となるべき事項を記載した更正請求書を税務署長に提出しなければならないとしている。これは、自ら記載した申告内容が真実に反する場合については、更正の請求をする者が、このことを書面で主張、立証すべきである旨を定めたものであると解される。
(3)これを本件について見ると、請求人は、居住用家屋の敷地及び賃貸アパート等の敷地のそれぞれ9分の1の贈与を受けたので、賃貸アパート等の敷地については本件特例の適用はできないとして、居住用以外の敷地の贈与に対応する部分について修正申告したが、その後、本件受贈財産は居住用家屋の敷地内にのみ存在するのであるから、そのすべてに配偶者控除の適用があるとして更正の請求をし、その際、本件受贈財産のすべてが本件居住用家屋の敷地内にあることを立証する書類として、本件登記簿謄本及び本件贈与証書を当審判所に提出したので、以下、検討したところ、次のとおりである。
イ 相続税法第21条の6第1項は、贈与により、婚姻期間が20年以上の配偶者から、専ら自己の居住の用に供する土地若しくは土地の上に存する権利又は家屋を取得した者は、課税価格から20,000,000円を控除する旨規定し、同条第3項は、上記の規定は、贈与税の申告書に大蔵省令(現財務省令)で定める書類(戸籍の謄本又は抄本及び戸籍の附票の写し並びに居住用不動産に関する登記簿の謄本又は抄本など)の添付がある場合に限り、適用する旨規定している。
ロ 本件贈与証書には、請求人が主張するように、本件受贈財産の所在を限定するかのような記載があるが、他方で、本件登記簿謄本には、前記1の(3)のイのとおり、本件土地の持分の9分の1の所有権が平成10年10月26日に贈与を原因としてFから請求人に移転したことが記載されており、その登記申請に当たっては、前述の限定文言を削除した本件原因証書がFにより新たに差し入れられて、登記の原因証書とされていることにかんがみると、請求人が実際に贈与を受けた本件受贈財産は、居住用家屋の敷地部分及び賃貸アパ−ト等の敷地部分を併せた本件土地の全体に係る持分9分の1であると見るのが相当であって、居住用家屋の敷地部分のみに限られていたものとは認められない。
ハ なお、本件受贈財産が何であるかを判断するに当たっては、上記のように、本件贈与証書、本件原因証書及び登記の記載内容を実質的かつ客観的に考察すべきものであるから、専ら契約当事者による主観的判断によるべきものとする請求人の主張は採用できない。
ニ そうすると、本件受贈財産のすべてが本件居住用家屋の敷地内にあることが証明されたこととはならず、通則法第23条に基づく更正の請求には理由がないから、請求人の更正の請求は認められないこととなる。
(4)また、請求人は、相続税法基本通達上、店舗兼住宅等の持分の贈与があった場合には、前記2の(1)のロのとおり、一定の範囲で本件特例の適用が認められているのであるから、土地の持分の贈与についても同様の取扱いをすべきであり、分筆をしてまで居住用家屋の敷地であることを特定しなければ、本件特例が受けられないということになると、配偶者控除の設けられた趣旨にも反し、他の者との間において不公平が生ずることとなると主張する。
 しかしながら、相続税法基本通達21の6−3のただし書きは、店舗兼住宅等について配偶者が持分の贈与を受けた場合には、区分所有権の対象となり得る場合を除いて、法律上も実際の利用上も明確な分割ないし分離が困難な家屋について、その居住用部分のみを贈与し、あるいはその全部を使用させるというのが贈与当事者間の通常の意思と解されるため、立法趣旨にかんがみ例外的に認められた取扱いである。これに対し、本件のように、一筆の敷地に利用区分の違う3棟がそれぞれ独立して存在しているような場合は、法律上も実際の利用上も明確な分割ないし分離が可能であるから、店舗兼住宅等の場合とは事情が異なるというべきであり、この通達の趣旨を直ちに及ぼすことはできない。
 また、贈与税における配偶者控除の制度は、生存配偶者の老後の生活安定に配慮する趣旨から、婚姻期間が20年以上である等一定の要件を充たす夫婦間の居住用不動産の贈与について、一生に一回限り、その取得した居住用不動産の課税価格から20,000,000円を限度として控除することを登記簿の謄本又は抄本並びに住民票等の提出を要件として認める措置であるから、租税負担公平の原則に照らし、その解釈は厳格にされるべきである。
 そうすると、この点についても、請求人の主張は採用できない。
(5)以上のとおり、本件特例は、本件受贈財産のすべてについて適用をすることはできず、原処分庁が更正の請求には理由がないとして行った本件通知処分は適法である。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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