ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.62 >> (平13.12.19裁決、裁決事例集No.62 513頁)

(平13.12.19裁決、裁決事例集No.62 513頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対して行われた差押処分について、差押調書に記載された滞納税額に誤りがあった場合の効力等が争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人が有するA相互会社との生命保険契約に基づく生命保険金、満期返戻金、解約返戻金、積立金及び剰余金の支払請求権について、平成12年12月6日付の第三債務者であるA相互会社あての債権差押通知書を同月8日に送達し、これを差し押えた(以下、この処分を「本件差押処分」という。)。
ロ 請求人は、本件差押処分を不服として、平成13年1月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年3月28日付でこれを棄却する異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年4月24日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 原処分庁は、本件差押処分に係る滞納国税等を別表1のとおり記載した差押調書(以下「本件差押調書」という。)を作成し、その謄本を請求人に交付した。
ロ 請求人は、平成11年2月1日納期限の消費税及び地方消費税(以下「平成11年2月1日納期限の消費税等」という。)の本税について、平成12年11月30日に100,000円を納付していることから、本件差押処分時における平成11年2月1日納期限の消費税等の本税の滞納額は、1,765,600円である。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により無効、違法であるから、その取消しを求める。
イ 平成8年1月31日納期限の消費税の本税は、平成9年11月30日に全額を納付していることから、本件差押調書に記載された平成8年1月31日納期限の消費税の本税の金額は、零円が正当な金額であり、また、平成11年2月1日納期限の消費税等の本税の金額は、上記1の(3)のロのとおり、1,865,600円ではなく、1,765,600円が正当な金額であるから、本件差押調書に記載された滞納税額に誤りがある。
 したがって、本件差押調書には瑕疵があり、本件差押調書は、国税徴収法(以下「徴収法」という。)第54条《差押調書》及び国税徴収法施行令第21条《差押調書の記載事項》の規定に違反しているから、瑕疵ある本件差押調書に基づいて行われた本件差押処分は、無効である。
ロ 請求人は、差押処分を避けるために原処分庁と連絡をとりながら納税してきたにもかかわらず、原処分庁は、請求人に何の予告もなく本件差押処分を行った。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人が平成12年11月30日に100,000円を納付した事実については、原処分庁において、本件差押処分時に確認できなかったものである。
 しかしながら、差押処分は、差押調書に記載された滞納国税の金額の範囲内で有効であると取り扱われているところ、本件差押処分は、本件差押調書に記載された滞納国税の金額の範囲内であるから、無効となるものではない。
 なお、平成8年1月31日納期限の消費税の本税の滞納額313,600円は、本件差押処分の時点において、完納されていない。
ロ 徴収法には、差押処分を行う前にその予告を行わなければならない旨を定めた法令の規定はない。

トップに戻る

3 判断

 本件差押処分が違法であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
(1)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ 平成7年7月31日納期限の消費税に係る滞納処分票によると、平成7年7月31日納期限の延滞税は、請求人が納付した平成11年1月6日の300,000円のうち23,654円、同年3月12日の100,000円、平成12年2月7日の189,946円の合計額313,600円が収納処理された結果、本件差押処分時において、滞納額が37,800円となったが、平成12年12月19日に上記合計額313,600円が科目更正処理された結果、滞納額が351,400円となったこと。
ロ 平成8年1月31日納期限の消費税に係る滞納処分票によると、平成8年1月31日納期限の消費税の本税は、本件差押処分時において、滞納額が313,600円となっていたが、平成12年12月19日に上記合計額313,600円が科目更正による収納処理された結果、滞納額が零円となったこと。
ハ 別表1に係る滞納国税については、いずれも別表2のとおり、督促状が発せられていること。
(2)原処分庁所属の徴収担当職員は、当審判所に対して、次のとおり答述している。
イ 納税者が日本銀行の歳入代理店で国税を納付した場合、領収済通知書が原処分庁に回付されるのは通常1週間程度の日数を要するため、本件差押処分時において、請求人が平成12年11月30日に100,000円を納付した事実を確認できなかった。
ロ 平成7年7月31日納期限の延滞税に収納処理されていた313,600円については、請求人からの要請に基づき、平成12年12月19日付で平成8年1月31日納期限の消費税の本税に科目更正した。
(3)請求人は、本件差押調書に記載された滞納税額に誤りがあり、本件差押調書は瑕疵があるので、瑕疵ある本件差押調書に基づいてなされた本件差押処分は、無効、違法である旨主張するので、以下審理する。
イ 本件差押処分時の滞納国税について
(イ)上記1の(3)のロの事実から、本件差押処分時における平成11年2月1日納期限の消費税等の本税の滞納額は、1,765,600円であることが認められる。
(ロ)請求人は、平成8年1月31日納期限の消費税の本税については、平成9年11月30日に納付済である旨主張するが、上記(1)のイ及びロの事実並びに(2)のロの答述によれば、平成8年1月31日納期限の消費税の本税は、平成12年12月19日に科目更正により全額が納付されたものと認められ、また、請求人は、平成9年11月30日に納付した事実を証する証拠を何ら提出しないことから、平成8年1月31日納期限の消費税の本税は、本件差押処分時において、完納されていなかったと認められる。
(ハ)以上のことから、本件差押調書は、平成11年2月1日納期限の消費税等の本税の金額を1,765,600円とすべきところを1,865,600円と記載した、滞納税額の誤りがあると認められる。
ロ 請求人は、本件差押調書に瑕疵があり、瑕疵ある本件差押調書に基づいて行われた本件差押処分は、無効、違法である旨主張する。
 ところで、一般に、行政処分が無効であるというためには、処分に重大かつ明白な瑕疵がなければならないと解されるところ、処分の瑕疵が明白であるというためには、処分の外形上客観的に処分庁の誤認が一見看取し得る程度のものでなければならないと解するのが相当である。
 そして、数個の租税債権を滞納国税として行われた差押処分は、各租税債権ごとに数個の差押処分が競合するものではなく、差押処分は1個であり、したがって、原因となった租税債権の一部に数額の誤りがあっても、そのことによって直ちに差押処分の効力が左右されるものではないと解される。
 ただし、差押調書の記載の誤りが大きく、正当な滞納税額に比して差押物件の価格が著しく高額で、もし差押調書に記載された滞納税額に誤りのあることがわかっていれば、当該物件を差し押えることなく、他の適当な物件を差し押さえたであろうことが明らかであるというような特段の事情がある場合は、当該差押処分は無効であると解されている。
 これを本件についてみると、本件差押調書に記載された滞納税額の合計額は、上記1の(3)のイのとおり、5,329,400円(確定していない延滞税の金額を除く。)であるが、真実の滞納税額の合計額は、上記イのとおり、5,229,400円(確定していない延滞税の金額を除く。)であって、その誤りが特に大きいとはいえず、また、当審判所の調査によっても、本件差押調書に記載された滞納税額に誤りがなければ、本件差押物件を差し押えなかったであろう特段の事情があるとは認められないことからすれば、本件差押調書の滞納税額の記載の一部に誤りがあったというだけで、本件差押処分が無効であるということはできない。
 また、上記のとおり、本件差押調書に記載された滞納税額の誤りがわずかな金額であること、徴収法第63条《差し押える債権の範囲》は、徴収職員は、債権を差し押えるときは、その全額を差し押えなければならない旨規定し、本件差押処分も差押債権の全額を差し押えたもので、本件差押調書における滞納税額の記載に誤りがあるとしても、差し押えられた債権の範囲に影響しないことからすると、本件差押調書の滞納税額の記載誤りは軽微なものであって、本件差押処分を取り消しうべき瑕疵には当たらないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は理由がない。
(4)また、請求人は、差押処分を避けるために原処分庁と連絡をとりながら納税してきたにもかかわらず、請求人に何の予告もなく本件差押処分を行ったから違法である旨主張する。
 しかしながら、徴収法第47条《差押の要件》に規定する差押えは、同条の要件に該当する場合に差押えしなければならない旨規定されており、請求人に差押えの予告をしなければならない旨を規定した法令上の規定はないから、原処分庁が請求人に対して差押えの予告をしなかったとしても、本件差押処分が違法となるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(5)以上のことから、請求人の主張にはいずれも理由がなく、徴収法第47条第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税を、その督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定しているところ、上記(1)のハのとおり、別表1に記載した滞納国税については、別表2の督促年月日にそれぞれ督促状が発せられ、請求人がその日から起算して10日を経過した日までにその督促に係る国税を完納しなかったことから、原処分庁は、本件差押処分をしたことが認められるので、本件差押処分は適法な手続に基づいて行われたことが認められる。
 したがって、本件差押処分は適法である。
(6)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る