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(平13.8.8裁決、裁決事例集No.62 521頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の滞納国税に係る差押処分に当たり、滞納国税を相当額上回る価額の財産を差し押さえたことが国税徴収法第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第1項に規定する超過差押えに該当するか否かを主たる争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、請求人の平成4年分の所得税に係る平成4年度分の滞納国税について、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定に基づき、平成7年12月15日付でA税務署長から徴収の引継ぎを受けた。
ロ 原処分庁は、平成12年2月16日付で請求人の別表1の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)を徴収するため、請求人の所有する別表2の差押財産目録の不動産(以下「本件不動産」という。)の差押処分(以下「本件差押処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件差押処分を不服として、平成12年4月11日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月7日付で棄却の異議決定をし、その異議決定書謄本を請求人に対し、同年7月10日に送達した。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年8月10日に審査請求を行った。

(3)基礎事実

 本件不動産には、別表3の順位1ないし3のとおり根抵当権が設定されていたところ、平成9年12月3日付で同表の順位2及び3の根抵当権はいずれも抹消されたが、順位1の債務者をB株式会社とする極度額6,000万円の根抵当権(以下「本件優先債権」という。)は抹消されず現在も設定されていることについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 本件差押処分
 原処分庁は、本件滞納国税を相当額上回る価額の本件不動産を差し押さえたのであり、このことは、国税徴収法第48条第1項に規定する超過差押えに当たる。
ロ 異議審理手続
 異議審理庁は、異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)において、原処分の理由を明らかにしなかった。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める
イ 本件差押処分
 原処分庁は、〔1〕請求人は本件不動産の他に換価できる財産を所有していないこと、〔2〕本件不動産には本件優先債権が設定されているところ、本件不動産の一部を差し押さえても本件滞納国税が充当されないと見込まれることから、本件不動産を差し押さえたものである。
 したがって、本件差押処分は国税徴収法第48条第1項に規定する超過差押えに該当しない。
ロ 異議審理手続
 異議調査において、原処分の理由を開示しなければならない旨を定めた法令の規定はなく、また、異議審理庁は異議決定書において、原処分を正当とする理由を明らかにしている。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、〔1〕請求人の本件滞納国税に係る差押処分に当たり、本件滞納国税を相当額上回る価額の本件不動産を差し押さえたことが超過差押えに該当するか否か及び〔2〕異議審理手続の瑕疵を理由に原処分の取消しを求めることができるか否かにあるので、以下審理する。
(1)請求人は、本件差押処分は国税徴収法第48条第1項に規定する超過差押えに該当する旨主張する。
 ところで、国税徴収法第48条第1項によれば国税を徴収するために必要な財産以外の財産は差し押さえることができない旨規定されている。
 この場合の国税を徴収するために必要な財産は、差押えの起因となる国税がその差押えによって満足を受けることができる財産をいい、通常は差押えをする時におけるその財産の処分予定価額と徴収すべき国税の額とを比較して判定するが、その財産上に国税に優先する抵当権等があるときは、その額を財産の処分予定価額から差し引いた価額により判定することとされている。
 そして、この差押財産の処分予定価額が滞納国税の額を超過するかどうかの判定においては、差押超過額が著しく多額とならない限り違法な差押えとはいえないと解され、また、差押財産が、〔1〕不可分物である場合、〔2〕可分物であっても、法律上分離して差し押さえできない場合又は〔3〕分割することにより物の経済的価値を著しく害する場合には、その財産の価額が差押えに係る国税の額を超過する場合であっても、その差押えは違法とならないと解される。
 これを本件についてみると、当審判所の調査によれば、請求人は本件差押処分時において本件不動産の他に換価できる財産を有しておらず、また、本件不動産は3筆の土地と家屋が一体となって請求人の居住の用に供され本件優先債権が設定されているところ、仮に本件不動産の一部を差し押さえるとすると、分割することによって本件不動産の経済的価値が害されることとなり相当でない。
 以上のことからすれば、原処分庁の本件差押処分は、本件不動産の担保価値の維持、有効利用上の見地、優先債権者への配当等を考慮した妥当なものといえるから、国税徴収法第48条第1項に規定する超過差押えに該当するとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(2)請求人は、異議調査において原処分の理由を明らかにしなかった旨主張する。
 しかしながら、異議調査において原処分の理由を開示しなければならない旨を定めた法令の規定はなく、また、審査請求がなされた場合の審理の対象は異議決定を経た後の原処分であるから、異議審理手続の違法を理由として原処分の取消しを求めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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