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(平14.9.17裁決、裁決事例集No.64 311頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、遊技場を営む審査請求人(以下「請求人」という。)がパチンコ遊技場店舗の所有を目的とする事業用借地権設定に伴い土地賃貸人に支払った一時金が、法人税法上の土地(土地の上に存する権利を含む。)に当たるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、確定申告書に後記ハの表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、事業用借地権設定に伴い土地賃貸人に支払った一時金の損金算入処理を除き、原処分庁の修正申告のしょうように従い、平成11年12月16日に後記ハの表の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を提出した。
ハ これに対し、原処分庁は、平成13年5月28日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ニ 請求人は、これらの処分を不服として平成13年7月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成13年10月17日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年11月9日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年12月21日付で、F株式会社(以下「F社」という。)及び合資会社G(以下、「G社」といい、両者を併せて「本件賃貸人ら」という。)との間で事業用土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)を締結し、いずれも公正証書(以下「本件公正証書」という。)を作成した。
ロ 本件公正証書によれば、本件賃貸借契約の要旨は次のとおりである。
(イ)事業用定期借地権設定(第1条)
 請求人は、次表の土地(以下「本件土地」という。)を本件賃貸人らからパチンコ遊技場経営の用に供する建物(以下「本件建物」という。)の所有を目的とする事業用定期借地として賃借する。

(ロ)賃貸借の期間(第2条)
 賃貸借の期間は、平成6年12月21日から20年間とする。
(ハ)目的及び期間満了の措置(第3条)
 本件賃貸借契約は、借地借家法(なお、借地借家法施行以前の借地法を「改正前借地法」という。)第24条《事業用借地権》の事業用借地権設定に関するものであり、更新その他による存続期間の延長は一切認めず、期間満了により本件賃貸借契約が終了した後、請求人は本件土地上の本件建物を収去し、原状に復して返還しなければならない。
(ニ)使用目的(第5条)
 本件建物の使用目的はパチンコ遊技場用店舗とし、いかなる場合も居住の用に供してはならない。
(ホ)一時金(第9条)
 請求人は、本件賃貸借契約の締結と同時に「一時金」としてF社に2,460万円を、G社に540万円(以下、これらを併せて「本件一時金」という。)をそれぞれ支払う。なお、本件一時金は理由のいかんを問わず返還されない。
(ヘ)保証金(第10条)
 請求人は、本件賃貸借契約の締結と同時に「保証金」としてF社に3,280万円を、G社に720万円(以下、これらを併せて「本件保証金」という。)をそれぞれ支払う。なお、本件保証金は本件賃貸借契約が終了し、本件土地の明渡し後に返還される。
(ト)買取り請求の禁止(第20条)
 請求人は、本件賃貸借契約が終了したときに本件建物がある場合においても、名目のいかんを問わず一切買取りを請求することはできない。
ハ 請求人は、本件賃貸借契約に基づき本件一時金3,000万円及び本件保証金4,000万円を契約締結と同時に本件賃貸人らに支払い、創立開業費として資産に計上した後、平成10年3月31日にその全額を創立開業費償却費勘定に計上し本件事業年度の損金の額に算入した。
 なお、請求人は、創立開業費償却費に計上した本件保証金4,000万円については、本件調査の結果による指摘に応じ、その損金の額への算入が誤りだったとして本件修正申告書を提出している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるからその全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件更正処分の手続について
 請求人は、本件調査の結果による修正申告のしょうように応じ、本件一時金に係る事項を除き本件修正申告書を提出した。
 しかし、本件一時金については、法人税等の一般調査としては極めて異例である1年6か月の長期にわたり処理を放置し、国税通則法所定の更正期限寸前の平成13年5月28日になって本件更正処分がなされた。
 このように本件一時金の取扱いについての結論が出されることなく、長期にわたって処理が放置された後になされた本件更正処分は、請求人が修正申告のしょうようという行政指導に従わなかったことに対する懲罰であるといわざるを得ず、本件更正処分は、行政手続法第32条《行政指導の一般原則》第2項の「行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として、不利益な取扱いをしてはならない」という規定に違反する。
(ロ)本件一時金について
 本件一時金は、次の理由により、法人税法上の土地(土地の上に存する権利を含む。)には該当しないから、創立開業費償却費として損金の額に算入した請求人の処理を認めるべきである。
A 現行の法人税法等は、土地の賃借人が賃借権等の設定に際し、土地の使用収益権のほかに借地処分権を取得するために権利金を支払い、その投資により土地賃借権を物権化し、借地権返還の時には借地処分権をキャピタルゲインも含めて立退料という名目で回収するという取引を想定して取扱いを定めたものである。
 一方、借地借家法は土地及び建物の所有者の権利を強化するとともに、事業用借地権等の創設により土地供給の促進を図ろうと70年ぶりに改正されたものであり、この改正により地主と賃借人の権利関係は大きく転換された。
 借地借家法に新たに規定された事業用借地権等は、改正前借地法上の借地権と明らかに内容が異なっており、現行法人税法等にない新たな課税客体であり、換言すれば現行法人税法等は歴史的・時系列的にみても、事業用借地権等を包含していないことは明らかであるから、法人税法施行令第12条《固定資産の範囲》を根拠とした本件更正処分は違法無効である。
B 上記のことは、相続税において借地借家法の改正を受けて平成6年2月15日付課評2−2ほか1課共同「財産評価基本通達の一部改正について」《例規》(以下「資産税の評価通達」という。)の「土地の上に存する権利の評価上の区分」に従来の借地権に加えて「事業用借地権等」を新設し、従来の借地権と区分したことからも明らかである。
 事業用借地権等の取引が未熟な状態で法人税法等の改正ができないのであれば、事業用借地権等の課税のためには、資産税の評価通達と同様に法人税基本通達の改正等何らかの手当が必要である。
(ハ)その他
 日本国憲法第30条《納税の義務》及び同法第84条《課税》にいう租税法律主義は、納税義務者、課税標準等の課税要件はもとより、納付、徴収等の手続についてもできる限り詳細に法律において規定されなければならないこと、また、税務行政庁においては法律に従って厳格に租税の賦課徴収をしなければならないこととする原則である。
 このことは、税務行政庁の恣意的判断によって税法の解釈適用がなされてはならないことを要請するものであるにもかかわらず、本件調査の担当統括国税調査官(以下「調査担当統括官」という。)は請求人の関与税理士(以下「関与税理士」という。)に対して調査の結末についての話合いの中で「20年の繰延資産でどうか」との提案をしているが、上記提案に基づく処理は税法上の規定や法人税基本通達・個別通達のどこを見てもその根拠はなく、まさに、税務行政庁の恣意的判断による行為そのものであって、租税法律主義の原則に反する。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分についてはその全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分についても取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件更正処分の手続について
 本件更正処分に関する手続は、次のとおり適法に行われている。
A 調査担当統括官は、請求人が本件修正申告書を提出した後も引き続き本件一時金の処理について、更正処分を行う方向で検討する旨を請求人の代表取締役H及び関与税理士に説明し、その検討の間も、その旨を関与税理士に説明し了解を得ている。さらに、結論についてもその内容を説明し修正申告のしょうようを行っており、1年6か月間も放置したことはない。
B 本件更正処分は、法人税法等の規定に従って適法になされた処分であり、原処分庁の指導に従わなかったことに対する懲罰的な処分として行ったものではない。
 したがって、本件更正処分が行政手続法第32条第2項に違反し無効である旨の請求人の主張には理由がない。
(ロ)本件一時金について
 本件一時金は、次の理由により法人税法の土地(土地の上に存する権利を含む。)となることから、創立開業費償却費勘定に計上して損金の額に算入することはできない。
A 借地借家法第2条《定義》第1号及び同法第24条の規定から、事業用借地権は、同法に規定する借地権のうち、更新請求や建物買取請求権等を認めない旨の特約が付された借地権であると認められる。
B 借地権は法人税法第2条《定義》第23号(平成13年法律第6号改正前のもの。以下同じ。)及び同法施行令第12条に規定する固定資産のうちの土地(土地の上に存する権利を含む。)に該当する。
 したがって、事業用借地権は法人税法上の土地(土地の上に存する権利を含む。)に該当し、その取得価額は、法人税基本通達7−3−8《借地権の取得価額》に定めるとおり、請求人が本件賃貸借契約と同時に返還されないことを条件に本件賃貸人らに支払った本件一時金3,000万円となる。
(ハ)その他
 調査担当統括官が、「20年の繰延資産でどうか」との提案をした事実はないし、また、原処分は本件一時金を20年の繰延資産として計算をしたものでもないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び同条第2項の各規定に基づき行った本件賦課決定処分も適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、主として本件更正処分の手続の違法性及び本件一時金が法人税法上の土地(土地の上に存する権利を含む。)に当たるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 本件更正処分の手続について
 請求人は、本件調査の結果に従い本件一時金以外の項目について修正申告をしたが、原処分庁の指導に従わなかった本件一時金について、1年6か月の長期にわたり放置された後にされた本件更正処分は、行政指導に従わなかった懲罰であり、行政手続法第32条第2項に違反する処分である旨主張するので、以下検討する。
(イ)原処分関係書類及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
 調査担当統括官の当審判所に対する答述によると、
A 調査担当統括官は、本件一時金は法人税法上の土地(土地の上に存する権利を含む。)に該当し減価償却もできないから、創立開業費償却費として損金の額に算入できない旨を説明し修正申告のしょうようをしたが、請求人の理解が得られなかったため、平成11年12月に本件一時金を除く他の項目についての修正申告があった際、本件一時金の取扱いについて再検討をする旨説明したこと。
B また、本件一時金の取扱いに関する検討をする間、2度にわたり○○国税局と協議中であり取扱いに係る検討が長引いている旨を関与税理士に連絡し、その後平成13年5月になって本件一時金が法人税法上の土地(土地の上に存する権利を含む。)に該当するとの結論が出たことから、その内容を説明した上で、再度修正申告のしょうようをしたこと。
(ロ)上記(イ)の認定事実によると、確かに請求人が主張するとおり、本件更正処分に係る調査の開始から本件一時金の取扱いについての結論が出されるまでの期間が長すぎるとしても、これは上記(イ)のとおり原処分庁が慎重に調査検討を行った結果であるとも認められ、原処分庁が請求人に対し、行政指導に従わなかったことを理由として不利益を加える目的であえて国税通則法所定の更正期限寸前である平成13年5月28日まで待って、本件更正処分を行ったものとは認められない。
(ハ)また、本件更正処分は、後記ロのとおり、本件一時金について、法人税法等の規定に基づき手続上も適正になされたものと認められ、行政指導に従わないことを理由として、請求人に懲罰を加える目的でなされたものとはいえない。
 したがって、本件更正処分が行政手続法第32条第2項の規定に違反してなされた処分であるとは認められず、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件一時金について
 請求人は、現行法人税法等は改正前借地法に基づく借地権を規定しているが事業用借地権を包含していないことから、事業用借地権は法人税法施行令第12条に規定する土地(土地の上に存する権利を含む。)には該当しない旨主張し、一方、原処分庁は、事業用借地権は借地借家法第24条に規定されており、同法第2条で規定された借地権のうち、更新請求や建物買取請求権等を認めない特約の付された借地権である旨主張しており、本件一時金の取扱いについて争いがあるので、以下検討する。
(イ)法人税法第2条第23号及び同法施行令第12条は、固定資産について、「土地(土地の上に存する権利を含む。)、減価償却資産、電話加入権及びこれらに準ずる資産」である旨規定しており、土地に含まれる「土地の上に存する権利」とは、地上権、土地の賃借権及び地役権をいうものと解されている。この地上権及び土地の賃借権を総称して借地権といわれているが、借地権は減価償却資産ではないから、償却できないものとされている。
 そして、土地の上に存する権利である借地権の取得価額については、法人税基本通達7−3−8において、土地を賃借するために土地所有者等に支払った金額であると定めているところ、この定めは当審判所においても相当と認められる。
(ロ)一方、借地借家法上の借地権とは、同法第2条第1号において、「建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう」と定義されており、同法第3条における借地権の存続期間を30年とする借地権(以下「普通借地権」という。)のほか、同法第24条において、事業用借地権が規定されている。
 上記事業用借地権は、専ら事業の用に供する建物(居住の用に供するものを除く。)の所有を目的とし、かつ、存続期間を10年以上20年以下とする借地権をいうものとされ、その設定を目的とする契約は公正証書によってしなければならないものとされているが、普通借地権について適用される、契約の更新に関する規定(借地借家法第3条ないし第8条)、建物買取請求権に関する規定(同法第13条)及び借地契約の更新後の建物の再築の許可に関する規定(同法第18条)などが適用されない旨規定されている。
 そうすると、事業用借地権は、普通借地権に関する規定の適用が一部除外されているものの、あくまでも借地権の一形態として規定されており、借地権であることには変わりがない。
 しかも、上記(イ)のとおり、法人税法は、「土地の上に存する権利」は土地に含まれる旨規定しているのであり、事業用借地権を「土地の上に存する権利」から除外する規定も特に存しないことを考え合わせると、事業用借地権は法人税法上の「土地の上に存する権利」に当然に含まれるものと認めることが相当である。
 この点、請求人は、新たな課税客体である事業用借地権は法人税法上の「土地の上に存する権利」に包含されておらず、本件更正処分は租税法律主義に反する旨主張するが、上記のとおり事業用借地権は借地権である以上、租税法律主義に何ら違反するものではない。
(ハ)そこで、本件一時金について、上記1の(3)の基礎事実を上記(イ)及び(ロ)に照らして判断すると、本件賃貸借契約は、上記1の(3)のロのとおり、事業用借地権を設定した賃貸借契約であるから、法人税法上「土地の上に存する権利」に含まれる借地権として、事業用借地権を設定したものであると認められ、本件土地を賃借するために土地所有者に支払った本件一時金は、当該借地権の取得価額に当たると認められる。
 そうすると、本件一時金を創立開業費償却費勘定に計上して損金の額に算入した請求人の処理を認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ その他
 請求人は、調査担当統括官から租税法律主義に反する提案がなされたことから、本件更正処分は違法となる旨主張するが、本件更正処分は本件一時金を繰延資産と認定して行われたものでなく、また本件更正処分は手続上も法人税法等の規定に従い適正に行われたものと認められ、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり本件更正処分は適法であり、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから同条第1項及び第2項の規定に基づき原処分庁が行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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