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(平15.3.11裁決、裁決事例集No.65 103頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、弁護士の事業(以下「弁護士業」という。)を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の著書の出版に係る著作権使用料(以下「印税」という。)の収入が請求人の事業所得に係る総収入金額に含まれるか否か及び当該著書に係る広告費用が事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年分及び平成10年分(以下、これらを併せて「両年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ その後、請求人は、原処分庁所属の職員の調査(以下「本件調査」という。)に基づき、両年分の所得税について、平成13年2月6日に別表の「修正申告等」欄のとおりとする青色の修正申告書(以下、平成9年分に係るものを「平成9年分修正申告書」、平成10年分に係るものを「平成10年分修正申告書」という。)を提出し、原処分庁は、これに対し、同年3月5日付で同欄のとおり過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 次いで、原処分庁は、本件調査に基づき、平成13年3月9日付で両年分の所得税について、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、前記ハの処分を不服として、平成13年5月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月30日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成13年8月24日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 所得税法第27条《事業所得》第1項は、事業所得とは、農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業その他の事業で政令で定めるものから生ずる所得をいう旨、同条第2項は、事業所得の金額は、その年中の事業所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
ロ 前記イを受けて、所得税法施行令第63条《事業の範囲》は、所得税法第27条第1項に規定する政令で定める事業は、第1号で農業、第2号で林業等、第3号で漁業等、第4号で鉱業、第5号で建設業、第6号で製造業、第7号で卸売業等、第8号で金融業等、第9号で不動産業、第10号で運輸通信業、第11号で医療保健業、著述業その他のサービス業、第12号で前各号に掲げるもののほか、対価を得て継続的に行なう事業とする旨規定している。
ハ 所得税法第35条《雑所得》第1項は、雑所得とは、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しない所得をいう旨、同条第2項第2号は、雑所得の金額は、その年中の雑所得に係る総収入金額から必要経費を控除した金額とする旨規定している。
ニ 所得税法第37条《必要経費》第1項は、その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする旨規定している。
ホ 弁護士法第3条《弁護士の職務》第1項は、弁護士は、当事者その他関係人の依頼又は官公署の委嘱によって、訴訟事件、非訟事件及び審査請求、異議申立て、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件に関する行為その他一般の法律事務を行うことを職務とすると規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、自らが著述した「甲」を平成9年7月30日に、「乙」を平成10年9月5日に株式会社F(以下「F社」という。)から出版(以下、これら出版に係る著書を併せて「本件著書」という。)した。
ロ 請求人は、「甲」の広告を平成9年○月○日のG新聞、同月○日及び平成10年○月○日のH新聞及び平成9年○月○日のE新聞に、「乙」の広告を平成10年○月○日のG新聞及び同月○日のE新聞にそれぞれ掲載(以下、これらを併せて「本件広告」という。)した。
 なお、請求人は、本件広告に係る広告費用をF社に支払った。
ハ 本件著書の出版に係る印税収入は、平成9年分848,144円、平成10年分757,992円(以下、これらを併せて「本件印税収入」という。)であるところ、請求人は、これらの収入を、平成9年分は、確定申告書及び修正申告書においてはいずれも雑所得の金額の計算上総収入金額に算入しており、平成10年分は、確定申告書においては事業所得の金額の計算上総収入金額に算入し、修正申告書においては雑所得の金額の計算上総収入金額に算入している。
 また、本件広告に係る広告費用は、平成9年分3,207,750円、平成10年分3,234,000円(以下、これらを併せて「本件広告費」という。)であるところ、請求人は、これらの費用を両年分の確定申告書及び修正申告書においては、いずれも事業所得の金額の計算上必要経費に算入している。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件印税収入の所得区分
A 請求人は、執筆を業とするものではないが、本件著書は債務処理に強い弁護士としての知名度を高める広告宣伝のために著述したもので、その内容は中小企業の破産や倒産の実態を紹介し、その救済方法等を説いたものであり、弁護士業務に関連して行った執筆行為であるから、本件印税収入は事業所得の付随収入である。
 なお、本件著書を出版した結果、破産手続及び債務整理の仕事が急増して事業所得に係る総収入金額が増加した。
B 請求人は、事業というに至らない程度の印税収入は、単純に雑所得と理解していたが、これは、事業に関連した著書とそうでないものを同一に考えていたからである。
 本件著書の内容は、事業に関連したものであるから、本件印税収入は事業所得に係る総収入金額に含めるべきところ、請求人は、平成9年分確定申告書及び平成9年分修正申告書並びに平成10年分修正申告書においてはいずれも雑所得に係る総収入金額と誤認して申告した。
(ロ)本件広告費
 本件広告は、本件著書の宣伝ではなく、債務処理に強い弁護士としての知名度を高めるために行ったものであるから、本件広告費は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分は、本件更正処分の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件印税収入の所得区分
A 所得税法第27条第1項及び所得税法施行令第63条に規定する事業所得とは、対価を得て継続的に行う事業から生ずる所得としているが、ここにいう事業とは、社会通念に照らし事業と認められるもの、すなわち、個人の危険と計算において独立的に継続して営まれ、かつ事業として社会的客観性を有するものと解されている。
 したがって、請求人の執筆行為が事業所得を生ずべき事業に該当するためには、所得税法施行令第63条第11号又は第12号のいずれかに該当することが必要となるが、同条第11号の著述業に該当しないことについては、前記(1)のイの(イ)のAのとおり、請求人も自認しているところである。
 また、両年分における請求人の著書は、本件著書のみであり、これらの執筆行為は、継続して営まれ、かつ事業として社会的客観性を有するものには当たらないと言うべきであるから、所得税法施行令第63条第12号にも該当せず、事業所得を生ずべき事業に該当しないことが明らかである。
 ところで、請求人は、本件著書の執筆の動機ないし理由を弁護士業の広告宣伝のためとして、本件印税収入は事業所得の付随収入である旨主張するが、本件印税収入は請求人の弁護士業務の遂行に付随して生じたものではなく、飽くまで弁護士業務を離れて行われた執筆行為、すなわち、請求人が弁護士としての業務を通じて得た知識と経験を書き著した本件著書の販売によって得た収入である。
 本件印税収入を事業所得の付随収入とすれば、個人の内心の意思に基づき課税関係が左右されることになり、課税要件事実が客観性及び確実性に欠け、結果として課税の公平性が担保されないこととなることから、請求人の主張は妥当でなく、本件印税収入は、所得税法第35条第2項第2号に規定する雑所得に係る総収入金額に含まれ、事業所得の付随収入ということはできない。
B 請求人は、平成9年分の確定申告書は印税収入を雑所得に係る総収入金額に区分して申告している。また、平成10年分の確定申告書は印税収入を事業所得に係る総収入金額に算入して申告していたが、本件調査の結果、「H10年分修正内容」と題する税理士用箋を添付した上で平成10年分修正申告書を提出しており、当該添付書類には「印税収入を事業所得から雑所得へ訂正757,992」と記載されている。
 そうすると、請求人は、平成10年分は自らの確定的意思に基づく修正申告で所得区分を変更したのであるから、雑所得と誤認していたとの請求人の主張には理由がない。
(ロ)本件広告費
 請求人は、本件広告が本件著書の宣伝ではなく、債務処理に強い弁護士としての知名度を高めるためのものであるから、本件広告費は、事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、事業所得金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、所得税法第37条第1項の規定において、収入に直接対応する費用が必要経費となる旨規定している。
 本件の場合、本件広告をした結果、間接的には請求人の弁護士収入が増加したことは推認されるが、直接的には本件著書が売れ、雑所得の対象となる本件印税収入が発生した。
 したがって、本件広告費は、事業所得に係る総収入金額(弁護士収入)に直接対応する費用とは認められず、雑所得に係る総収入金額(印税収入)に直接対応する費用と認められるので、請求人の主張には理由がなく、本件広告費を事業所得の金額の計算上必要経費から減算し、雑所得の金額の計算上必要経費とした本件更正処分に、何ら違法な点はない。
 なお、雑所得の金額の計算上生じた損失の金額は、所得税法第69条《損益通算》第1項の規定により、他の各種所得の金額から控除できないこととなっている。
ロ 本件賦課決定処分について
 前記イのとおり、本件更正処分はいずれも適法であり、また、本件更正処分により増加した税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件は、本件印税収入が事業所得に係る総収入金額に含まれるか否か及び本件広告費が事業所得の金額の計算上必要経費に算入されるか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料、請求人提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件著書の内容
(イ)「甲」は、請求人が弁護士としてサラ金、カードローン及び住宅ローン等で多重債務に苦しむ人たちに対し、借金地獄から抜け出す方法として任意整理や自己破産等の方法について実例を紹介して説いた著書である。
(ロ)「乙」は、弁護士として数多くの会社倒産、破産整理を経験した請求人が、巨額の債務を背負い倒産の瀬戸際に立たされている中小・零細企業経営者に対し、任意整理や和議等により再起を図る方法について実例を紹介して説いた著書である。
ロ 出版契約の内容
(イ)「甲」については、平成9年7月9日付の出版契約書で印税を本体価格の○パーセント、再版以降は○パーセントとし、同月14日付の委託配本指定書で本体価格を950円、出版部数を12,000部に決定している。また、平成10年6月15日に再版2,000部を決定している。
 なお、印税は、販売部数や著者による広告費の負担の有無に関係なく、出版部数に応じて支払うこととされている。
(ロ)「乙」については、平成10年8月13日付の委託配本指定書で本体価格を1,480円、出版部数を6,000部に決定し、同月17日の出版契約書で印税を本体価格の○パーセントとしている。
 なお、印税は、前記(イ)と同様に、販売部数や著者による広告費の負担の有無に関係なく、出版部数に応じて支払うこととされている。
ハ 本件広告に関する答述
(イ)F社の代表取締役であるJは、当審判所に対し、〔1〕同社が出版した本の広告については、原則として同社負担では行っていないが、再版になるようなものは、同社で広告することがある、〔2〕請求人の広告の目的は、本の販売もさることながら、弁護士としての知名度を高め、弁護士業本来の収入増加に結び付くことからではないかと考える、〔3〕広告する場合の著者の肩書きは、本の演出の一つであるから、当然使用することになる旨答述している。
(ロ)本件著書の出版当時にF社の編集長であったKは、当審判所に対し、〔1〕出版社における本の広告については、大会社を除いて広告を出せるものは少なく、F社も広告を出すゆとりはなかったが、本の販売促進のため、著者に自己負担による広告を勧めることがあり、請求人にも広告を勧めた、〔2〕請求人が勧めに応じたのは、本の販売促進及び弁護士としての知名度を高め、弁護士業本来の収入増加も考えられるためと思われる、〔3〕広告の企画、デザイン等もすべてF社が行ったものであり、著者の肩書きとして弁護士を入れたのは、読者に対するインパクトが強くなるためで、請求人から要請があったわけではない旨答述している。
ニ 平成10年分修正申告書に関する答述
 本件調査の立会いをした税理士事務所の事務員であるL及びMは、当審判所に対し、〔1〕印税収入については、平成10年分確定申告書において事業所得に係る総収入金額に算入していたが、平成10年分修正申告書の提出に当たっては、原処分庁所属の職員から印税収入は雑所得になる旨指摘されたため、所得区分の変更のみであれば総所得金額に変動がないことから、雑所得に係る総収入金額に変更したものである、〔2〕広告費用は、雑所得に係る必要経費になる旨指摘されたが、請求人としては事業所得に係る必要経費と判断していたので、当該指摘に従わなかったものである旨答述している。

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(2)本件更正処分について

イ 本件印税収入の所得区分
(イ)事業所得とは、前記1の(3)のイのとおり、事業から生ずる所得をいう旨規定されており、また、この事業の範囲については所得税法施行令第63条において、各種の事業が列記されている。
 そして、弁護士業は、所得税法施行令第63条第11号に規定するその他のサービス業に該当すると解される。
(ロ)弁護士としての所得の稼得形態は、弁護士法第3条第1項に規定する弁護士の職務(以下「本来の弁護士の職務」という。)を行うことによるものだけに限られているものではないから、弁護士業に係る事業所得の総収入金額には、本来の弁護士の職務を行ったことに伴い支払われる報酬のほか、講演料、出演料、印税、原稿料等の収入であっても、その講演等が弁護士の立場で行われたもの、あるいは、その内容が弁護士としての知識や経験等に基づくものであって、本来の弁護士の職務と直接の結び付きが認められるものは、所得税法上事業所得以外の各種所得に係る収入金額又は総収入金額として特に明示されているものを除き、これに含まれると解するのが相当である。
(ハ)そこで、本件印税収入に係る本件著書の内容と本来の弁護士の職務との結び付きについて検討するに、本件著書の内容は、前記(1)のイのとおり、多重債務者や倒産の危機が迫った会社経営者の救済方法等を数多くの実例を紹介して著述したもので、これは、現に弁護士業を営む請求人の弁護士としての知識と経験に基づくものであり、本来の弁護士の職務との直接の結び付きがあると認められる。
 また、本件印税収入は、所得税法上事業所得以外の各種所得に係る収入金額又は総収入金額として特に明示されているものとも認められない。
 そうすると、本件印税収入は、請求人の事業所得に係る総収入金額に含まれると解するのが相当である。
(ニ)原処分庁は、〔1〕請求人は執筆を業としていないこと、〔2〕請求人の執筆行為は事業所得を生ずべき事業に該当しないこと及び〔3〕本件印税収入が事業所得の付随収入に該当しないことから、本件印税収入は、雑所得に係る総収入金額に含まれる旨主張するが、前記(ハ)のとおり、本件印税収入は請求人の事業所得に係る総収入金額に含まれると解されることから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ホ)原処分庁は、請求人が主張するように弁護士業としての広告宣伝のために本件著書を書いたから、本件印税収入を事業所得の付随収入と考えるべきであるとすれば、個人の内心の意思に基づき課税関係が左右されることになり、課税の公平性が担保されない旨主張するが、本件のような場合は、その著書の内容と本来の弁護士の職務との結び付きを客観的に評価して判断するのが相当であるところ、本件の場合は、前記(ハ)のとおり、本来の弁護士の職務との直接の結び付きがあると認められ、本件印税収入は請求人の事業所得に係る総収入金額に含まれると解されることから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ヘ)原処分庁は、請求人が本件印税収入について、平成9年分は雑所得に係る総収入金額で、平成10年分は事業所得に係る総収入金額で確定申告をしていたが、平成10年分修正申告書は自らの確定的意思により雑所得に係る総収入金額に変更しているのであるから、雑所得に係る総収入金額と誤認していたとの請求人の主張には理由がない旨主張する。
 しかしながら、本件印税収入は、請求人の事業所得に係る総収入金額に含まれると解されるのは前記(ハ)のとおりであり、請求人の申告した所得区分及びそれを請求人が誤認していたかどうかは、本件印税収入の所得区分の判断に影響を与えるものではない。
 なお、平成10年分修正申告書は、前記(1)のニのとおり、本件調査後に原処分庁所属の職員の指摘により提出したものであることが認められる。
 また、請求人が本件審査請求において、本件印税収入が事業所得に係る総収入金額に含まれるとして争っているということは、雑所得に係る総収入金額であるとの見解を撤回し、事業所得に係る総収入金額である旨の意思表示と認められる。
 以上のことから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ロ 本件広告費
 原処分庁は、本件広告の結果、間接的には弁護士業に係る収入が増加したが、直接的には本件著書が売れ雑所得の対象となる本件印税収入が発生したものであるから、本件広告費は、雑所得に直接対応する費用となる旨主張する。
 しかしながら、前記(1)のロの出版契約の内容によれば、〔1〕本件印税収入は、著書の出版部数に応じて支払われることになっているものであり、著書の販売部数に応じて支払われることになっているものではないこと、また、〔2〕本件印税収入は、本件広告の有無にかかわらず支払われることになっているものであることから、請求人にとっては、印税収入の稼得又はその増加を目的とする販売の促進の必要性は必ずしも認められず、本件広告は、これを直接の目的とするものとは認められない。
 かえって、本件広告費は、本件印税収入に比して著しく多額であること及び前記(1)のハの答述によれば、請求人の本件広告の目的は、本件広告あるいは本件著書の販売促進を通じて弁護士としての知名度を高めることにあったと推認され、また、その他の目的があったとする証拠も認められない。
 したがって、本件広告費は、請求人の弁護士業について生じた費用として、所得税法第37条第1項に規定する事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額と認められる。
 なお、仮に、本件広告が本件印税収入の稼得又はその増加を目的とする販売の促進の目的をも併せ有して行われたものであるとしても、前記イの(ハ)のとおり、本件印税収入は請求人の事業所得に係る総収入金額に含まれると解されるから、本件広告費に係る必要経費の判断に影響を与えるものではない。
以上のことから、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ハ 総所得金額
 前記イ及びロのとおり、原処分庁の主張にはいずれも理由がなく、本件印税収入は両年分の事業所得に係る総収入金額に含まれ、本件広告費は、両年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額になることから、両年分の事業所得の金額、雑所得の金額及び総所得金額は、次表のとおりとなる。
 そうすると、両年分の総所得金額は、別表の「修正申告等」欄と同額となるから、本件更正処分は、いずれもその全部を取り消すべきである。

(3)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分の全部の取消しに伴い、その全部を取り消すべきである。

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