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(平15.1.28裁決、裁決事例集No.65 268頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、歯科医業を営む審査請求人(以下「請求人」いう。)が、請求人の配偶者であり青色事業専従者であるA(以下「A」という。)を契約者とする小規模企業共済法(以下「共済法」という。)の共済契約に基づく掛金を支払った場合に、所得税法第75条《小規模企業共済等掛金控除》第1項の規定を適用することができるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成11年分、平成12年分及び平成13年分(以下、これらを併せて「各年分」という。)の所得税について、それぞれ青色の確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)に、別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成14年6月10日付で各年分の所得税について別表の「更正処分等」欄のとおり各更正処分(以下「本件更正処分」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分に不服があるとして、平成14年6月26日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、共済法に基づき、昭和55年3月1日に中小企業総合事業団(平成11年7月1日に中小企業信用保険公庫と合併した旧中小企業事業団をいう。以下同じ。)と共済契約を締結した。
 なお、この契約に基づく各年分の掛金は、掛金月額70,000円、年間合計840,000円(以下「請求人の共済掛金」という。)である。
ロ Aも、共済法に基づき、昭和55年3月1日に中小企業総合事業団と共済契約を締結した。
 なお、この契約に基づく各年分の掛金は、掛金月額70,000円、年間合計840,000円(以下「本件共済掛金」という。)である。
ハ 請求人は、各年分において、請求人の共済掛金と本件共済掛金を合せて、請求人の預金口座から毎月支払っていた。
ニ 請求人は、本件各確定申告書の小規模企業共済等掛金控除欄に、請求人の共済掛金と本件共済掛金を合計した 1,680,000円と記載して申告した。

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2 主張

(1)請求人

 本件更正処分は、次の理由により違法であるから、平成11年分及び平成12年分の全部と平成13年分の一部を取り消すべきである。
 所得税法第75条第1項の規定によれば、「居住者が、各年において、小規模企業共済等掛金を支払った場合には、その支払った金額を、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除する。」となっていることから、請求人が、本件共済掛金を請求人の預金口座からの引落しにより支払っている以上、請求人の所得控除とすべきである。

(2)原処分庁

 本件更正処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
 小規模企業共済制度は、小規模企業の事業主や役員が廃業や退職に備えて一定の掛金を中小企業総合事業団に納付し、共済事由が発生した場合に共済金の支払を受ける制度であり、所得税法第75条第1項の規定は、共済契約者の掛金を同契約者が支払った場合に所得控除の対象とするものであるから、請求人が本件共済掛金を支払っていたとしても請求人の所得控除とはならない。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件は、請求人が本件共済掛金を支払った場合に、所得税法第75条第1項の規定を適用することができるか否かが争点となっているので、以下審理する。
イ 所得税法第75条の規定は、昭和42年に共済法の一部が改正され、小規模企業者の事業の廃止や法人の解散に伴う退職等の場合に限って共済金を支払うこととする制度が創設されたことに伴って施行されたものである。
 共済法第2条《定義》第1項では小規模企業者を、同条第3項で共済契約の当事者となり得る者(以下「共済契約者」という。)をそれぞれ規定しており、そのいずれも個人たる事業者及び会社等の役員とされている。
 なお、共済法第3条《契約の締結》の規定によれば「小規模企業者でなければ共済契約を締結することができない。」とされていることから、Aは小規模企業者ではないため共済契約を締結できないところであるが、当審判所が調査したところによれば、Aが加入した昭和55年当時は、小規模企業者の配偶者である事業専従者も、一定の要件のもとに共済契約を締結できたことが認められる。
ロ また、共済法第17条《掛金の納付》の規定によると、共済契約者は毎月分の掛金を翌月末日までに納付しなければならないとされており、当審判所が中小企業総合事業団を調査したところによっても、本件共済掛金はAが納付したものとなっている。
ハ 以上の共済法の規定からすると、所得税法第75条第1項の規定は、居住者が、各年において、自己が契約した共済法の共済契約に基づく掛金を支払った場合に、その支払った金額について所得控除を認めると解するのが相当である。
ニ そうすると、本件のように請求人の預金口座から本件共済掛金が支払われていたとしても、本件共済掛金を請求人の共済掛金と合せて、請求人の総所得金額から控除することはできない。
 したがって、本件共済掛金について、請求人の小規模企業共済等掛金控除の対象とはできないとした原処分は適法であり、請求人の主張には理由がない。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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