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(平15.4.7裁決、裁決事例集No.65 1095頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が課税処分について訴訟中に、当該課税処分に係る滞納国税について行われた差押処分の適否及び当該差押処分が国税徴収法(以下「徴収法」という。)第48条《超過差押及び無益な差押の禁止》第1項に規定する超過差押に該当するか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人の平成8年分の所得税の確定申告に対して、G税務署長は、請求人がP市Q町○○番○所在の山林3,021平方メートル及び同○○番○所在の山林213平方メートルについて有していた各共有持分3分の1を社会福祉法人H(以下「H」という。)に寄付したこと(以下「本件寄付」という。)に伴う譲渡所得の申告がされていないとし、平成12年1月21日付で更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、これらの処分を併せて「本件課税処分」という。)をした。
ロ 請求人は、本件課税処分を不服として、平成12年2月28日に異議申立てをしたが、同年5月29日付で棄却の異議決定がされたため、同年6月27日に審査請求をしたところ、平成13年6月22日付で棄却の裁決がされた。
 その後、請求人は、平成13年9月25日にM地方裁判所に本件課税処分の取消しを求める訴え(平成○年(○)第○号、以下「本件課税取消訴訟」という。)を提起している。
ハ 請求人は、平成12年5月26日にH及び有限会社Jを被告として本件寄付に係る山林の所有権移転登記の抹消手続を求める訴え(以下「本件所有権移転登記抹消訴訟」という。)をM地方裁判所○○支部に提起したところ、同年8月18日及び同年9月8日に、所有権移転登記を抹消すべき旨の判決があり、同判決は確定している。
ニ G税務署長は、請求人が、本件課税処分に係る別表1に記載した国税(以下「本件滞納国税」という。)を、納期限である平成12年2月29日までに完納しなかったことから、同年3月23日付で請求人に対して、督促状により、その納付を督促した。
ホ 原処分庁は、国税通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項の規定により、平成12年9月21日付でG税務署長から本件滞納国税について徴収の引継ぎを受けた。
ヘ 請求人が、平成13年9月20日現在、本件滞納国税を完納しなかったことから、原処分庁は、同日付で、請求人が所有する自宅の敷地である別表2の不動産(以下「本件差押自宅敷地」という。)について差押処分(原処分)をした。
ト 請求人は、原処分を不服として平成13年11月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成14年3月6日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本が請求人に同月8日に送達された。
チ 請求人は、異議決定を経た原処分に不服があるとして、平成14年4月8日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 徴収法第47条《差押の要件》第1項第1号は、滞納者が督促を受け、その督促に係る国税をその督促状を発した日から起算して10日を経過した日までに完納しないときは、徴収職員は、滞納者の国税につきその財産を差し押さえなければならない旨規定している。
ロ 徴収法第48条第1項は、国税を徴収するために必要な財産以外の財産は、差し押さえることができない旨規定している。
ハ 徴収法第127条《法定地上権等の設定》第1項は、土地及びその上にある建物又は立木(以下、この条において「建物等」という。)が滞納者の所有に属する場合において、その土地又は建物等につき、地上権が設定されたものとみなす旨規定している。
ニ 行政事件訴訟法第25条《執行停止》第1項は、処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない旨規定し、同条第2項は、処分の取消しの訴えの提起があった場合において、処分、処分の執行又は手続の続行により生ずる回復の困難な損害を避けるため緊急の必要があるときは、裁判所は、申立てにより、決定をもって、処分の効力、処分の執行又は手続の続行の全部又は一部の停止をすることができる旨規定している。
ホ 国税徴収法基本通達第47条関係17《財産の選択》(以下「本件基本通達」という。)は、差し押さえる財産の選択は、徴収職員の裁量によるが、次に掲げる事項に十分留意して選択を行うものとするとし、この場合において、差し押さえるべき財産について滞納者の申出があるときは、諸般の事情を十分考慮の上、滞納処分の執行に支障がない限り、その申出に係る財産を差し押さえるものとする旨定めている。
(イ)第三者の権利を害することが少ない財産であること。
(ロ)滞納者の生活の維持又は事業の継続に与える支障が少ない財産であること。
(ハ)換価に便利な財産であること。
(ニ)保管又は引揚げに便利な財産であること。
(ホ)価額の変動が少ない財産であること。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
イ 課税処分の違法性の承継と差押の不必要性について
 本件所有権移転登記抹消訴訟の判決により本件寄付は解除無効となっているから、原処分の基となった本件課税処分は理由がなく違法であり、請求人は本件課税取消訴訟を提起している。したがって、本件課税処分に係る国税について行われた原処分も違法である。
 また、本件課税処分は本件課税取消訴訟において取り消される蓋然性が高いのであるから、そのような国税についてまで差押処分を行う必要はない。
ロ 差押財産の選択誤りについて
 上記1の(3)のホのとおり、本件基本通達には、「差し押さえる財産は、滞納者の生活の維持に与える支障が少ない財産であることを十分留意して選択しなければならない」と定められている。本件差押自宅敷地は、請求人の生活の基盤であり、生活の維持に必須の財産である。一方、請求人は本件差押自宅敷地の他に別表3の番号1及び3の土地を所有している。番号1の土地の地価は坪200,000円は下らないので8,720,000円を下らない。また、番号3の土地の地価は坪約300,000円なので約17,270,000円である。
 したがって、請求人は本件滞納国税に見合う本件差押自宅敷地以外の土地を所有しているのであるから、原処分庁は、本件差押自宅敷地以外の土地を差し押さえるべきであり、本件差押自宅敷地は差し押さえるべきではない。
ハ 超過差押について
 本件差押自宅敷地は国道沿いにあり、その価額は坪300,000円を下らないことから、本件差押自宅敷地の評価額は40,000,000円を超える。
 本件滞納国税の本税及び過少申告加算税の合計額8,051,995円と比べると、原処分は超過差押である。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分の適法性について
(イ)徴収法第47条第1項第1号は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、これを本件についてみると次のとおりである。
A G税務署長は、上記1の(2)のニのとおり、平成12年3月23日付で本件滞納国税について督促状を発した。その後、上記1の(2)のホのとおり、原処分庁は、同年9月21日付でG税務署長から本件滞納国税につき徴収の引継ぎを受けた。
B 請求人は、上記1の(2)のヘのとおり、原処分庁が原処分を行なった平成13年9月20日現在、本件滞納国税を完納していなかった。
(ロ)以上のとおり、原処分は徴収法第47条に規定する差押の要件を満たしており、また、徴収法第54条《差押調書》及び同法第68条《不動産の差押の手続及び効力発生時期》の規定に基づいて適法に行われており、何ら違法又は不当なものではない。
ロ 課税処分の違法性の承継と差押の不必要性について
 課税処分は、国税の納付義務を具体化し、その納付すべき税額を確定させることを目的とする処分であるのに対して、徴収処分は、その具体化した納税義務の強制的な実現を目的とする処分であって、両者はそれぞれ別個の法律効果を有する独立した行政処分であるから、課税処分が取り消されるか、又は、課税処分に違法があり、その違法原因が重大かつ明白で課税処分が無効とならない限り、直ちに徴収処分の効力に影響を及ぼすものではないと解される。
 そして、本件課税処分については取り消された事実はなく、また、本件滞納国税は完納されておらず、本件滞納国税を徴収するため必要であることから、原処分を行ったものである。
ハ 差押財産の選択誤りについて
(イ)本件差押自宅敷地
 仮に、本件差押自宅敷地が公売により売却されたとしても、上記1の(3)のハに記載した徴収法第127条第1項の規定により、建物に地上権が設定されたものとみなされるから、本件差押自宅敷地は本件基本通達に記載された「滞納者の生活の維持又は事業の継続に与える支障が少ない財産」であると解され、本件差押自宅敷地が公売により売却されたとしても、請求人が自宅を失うことはない。
(ロ)別表3記載の土地について
A 原処分庁が、別表3の番号1から4までの土地の処分予定価額を、別表4の近隣売買実例を基に取引事例比較法による簡易評価の手法で計算したところ、別表3の「原処分庁算定の評価額」欄のとおりであり、これらの評価額から公売の特殊性に伴う調整をして処分予定価額を算定すると別表3の「原処分庁算定の処分予定価額」欄のとおりである。
 なお、これらは平成12年の売買実例を基に算定した額であるが、これらの処分予定価額の合計額が本件滞納国税に満たないことから、時点修正は行わなかった。
B 別表3の番号1及び2の土地の処分予定価額は上記Aのとおりであるが、当該土地はK川の河川敷となっている法地で、南東側で赤道(建設基準法上の道路)に等高に接面する部分が一部平坦となっているが、全体的に西向きの雑木・雑草の茂る急傾斜地である。
 また、これらの周辺のK川流域であっても平坦な部分は宅地となっているが、当該土地は法地部分が大部分を占めていることから、洪水、地すべり等の災害発生の危険性が高く、また、擁壁等の基礎工事に多額の費用がかかると推定される。
 そのため、当該土地の最有効使用形態を宅地とすることに合理的理由を認めることはできず、現状有姿の状態が最有効使用形態である。
 したがって、当該土地は積極的に換価すべき財産とは認められず、他に財産がある場合には、差押の対象とすべきではないと判断される。
C 別表3の番号3及び4の土地の処分予定価額は上記Aのとおりであるが、両土地の間には別表3の番号5の土地があり、番号3、4及び5の土地は一体で4棟の建物の敷地となっていることから、番号5の土地も含めて換価対象とすべきである。
 しかしながら、番号5の土地は請求人の持分所有となっているため、一体の土地として差し押さえることができないことから、別表3の番号3及び4の土地は、本件基本通達に記載された「換価に便利な財産」に反する財産に当たると解される。
(ハ)したがって、〔1〕上記(イ)のとおり、本件差押自宅敷地は滞納者の生活の維持又は事業の継続に与える支障が少ない財産であり、〔2〕別表3の番号1から4までの土地の処分予定価額の合計額が本件滞納国税に足りないこと、〔3〕別表3の番号1及び2の土地は換価に不適な財産であり、番号3及び4の土地は換価に便利な財産ではないことから、総合的に判断すると別表3の番号1から4までの土地を差押対象財産として選択せず、本件差押自宅敷地を選択したことは本件基本通達に抵触せず、適法である。
ニ 超過差押について
(イ)原処分庁が不動産鑑定士に原処分時(平成13年9月20日)の本件差押自宅敷地の評価を依頼して作成された鑑定評価書(以下「本件鑑定評価書」という。)の内容及びその評価額を基に算定した処分予定価額は、次のとおりである。
 なお、国税徴収法基本通達第48条関係2《財産の価額の計算》は、超過差押の判定に当たり、財産の価額は差し押さえようとする時の処分予定価額によるものと規定していることから、本件差押自宅敷地の処分予定価額について検討したものである。
A 近隣売買実例の内容
 近隣売買実例は別表5のとおりである。
B 借地権割合等について
 55%とする。
C 評価内容
(A)近隣地域の標準的使用における標準価格の査定
 本件差押自宅敷地を含む近隣地域の状況と同様の地域要因を備え、幅員11メートルの舗装国道に接面する一画地の規模が380平方メートル程度の低層店舗・事務所・住宅併用地の標準価格を、上記Aの近隣売買実例に基づき取引事例比較法を採用して求めた価格を中心に、基準地価格に比準した価格との均衡を考慮して1平方メートル当たり112,000円と査定した。
(B)本件差押自宅敷地の更地価額の査定(不動産鑑定士が実地調査を実施した平成14年10月16日価格時点)
 標準価格の価格形成要因と比較して本件差押自宅敷地は価格修正を必要とする個別要因があるので、標準価格に対して格差率(間口狭小・奥行長大)の積数である80%を乗じて比準価格を査定し、これに地積を乗じて端数を整理の上、更地価格を40,282,000円と査定した。
(C)本件差押自宅敷地の評価額の決定(平成14年10月16日価格時点)
 地上建物の有する法定地上権割合を55%と査定し、更地価格から法定地上権割合を控除し、端数を整理の上、評価額を18,127,000円と決定した。
(D)本件差押自宅敷地の更地価格の査定(平成13年9月20日価格時点)
 時点修正率を−1%(月利)と査定し、平成14年10月16日時点の更地価格に対して時点修正(修正率100/87)を行い、平成13年9月20日時点の更地価格を46,301,000円と査定した。
(E)本件差押自宅敷地の評価額の決定(平成13年9月20日価格時点)
 更地価格から法定地上権を控除し、端数を整理の上、評価額を20,835,000円と決定した。
 なお、評価の前提条件は次のとおりである。
a 対象不動産の種類・類型・・底地(法定地上権の制約のある土地)
b 価格・賃料の種類・・・・・正常価格
c 近隣地域の標準使用・・・・一画地が間口約15メートル、奥行約25メートルで、規模が380平方メートル程度の整形地
d 最有効使用・・・・・・・・低層店舗・事務所住宅併用地
(F)本件差押自宅敷地の処分予定価額
 上記評価額から、公売の特殊性に伴う調整をして、原処分時の本件差押自宅敷地の処分予定価額を16,700,000円と算定した。
(ロ)本件差押自宅敷地が徴収法第48条第1項に規定する「国税を徴収するために必要な財産」に該当する理由について
 別表1のかっこ書のとおり、原処分時の本件滞納国税の金額(延滞税を含む。)は、10,078,095円であるところ、上記(イ)のCの(F)のとおり、原処分時の本件差押自宅敷地の処分予定価額が16,700,000円であることから、本件差押自宅敷地は本件滞納国税を徴収するために必要な財産に該当する。また、原処分時の本件差押自宅敷地の処分予定価額が本件滞納国税の額を超過しているものの、本件差押自宅敷地は一筆の土地であることから、原処分は違法ではない。

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3 判断

(1)課税処分の違法性の承継と差押の不必要性について

イ 請求人は、本件課税処分は違法であり、その取消しを求める訴えを提起しているから、本件課税処分に係る国税について行われた原処分も違法である旨主張するので、以下審理する。
(イ)差押処分は、課税処分が有効であることを前提としてなされるべきであるから、課税処分が当然に無効である場合又は違法を理由として取り消された場合は、これに基づく差押処分の違法を招来するものである。
 しかしながら、課税処分に存する違法が単に取り消し得べき瑕疵に過ぎないときは、その課税処分は取り消されない限り有効であるから、差押処分の基礎となった課税処分の取消しを求めて訴訟中であるとしても、課税処分と差押処分とは別個独立の処分であって、課税処分の違法を理由として差押処分の取消しを求めることはできないと解される。
(ロ)これを本件についてみると、上記1の(2)のロのとおり、当審判所は、本件課税処分に対する審査請求について平成13年6月22日付で棄却の裁決をしており、本件課税処分に重大かつ明白な瑕疵があるとは認められない。また、請求人は本件課税処分の取消しを求めて訴訟中であるが、本件課税処分は取り消されてはいない。
 したがって、この点についての請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、本件課税処分は本件課税取消訴訟において取り消される蓋然性が高いのであるから、そのような国税についてまで差押処分を行う必要はない旨主張する。
 しかしながら、租税法令上、課税取消訴訟において課税処分が取り消される蓋然性が高いことを理由に差押処分ができない、あるいは差押処分を行う必要がない旨を定めた規定はない。行政事件訴訟法第25条第1項及び第2項は、上記1の(3)のニのとおり規定しており、課税処分について訴訟中であっても、その課税処分の効力は妨げられないから、納付すべき税額は確定する。
 したがって、その国税が納期限までに完納されなければ、裁判所から執行の停止命令が出ていない以上、徴収法第47条第1項第1号の規定により徴収職員は差押をしなければならないのであるから、この点についての請求人の主張には理由がない。

(2)差押財産の選択誤りについて

 請求人は、上記1の(3)のホのとおり、本件基本通達には「差し押さえる財産は、滞納者の生活の維持に与える支障が少ない財産であることを十分留意して選択しなければならない」とあるところ、請求人は別表3の番号1及び3の土地を示し、本件差押自宅敷地の他に本件滞納国税に見合う土地を所有しているのであるから、生活の維持に必要な本件差押自宅敷地は差し押さえるべきではない旨主張するので、以下審理する。
イ 差押財産の選択に当っては法令に具体的な規定はなく、徴収法第48条、同第49条《差押財産の選択に当っての第三者の権利の尊重》、同法第75条《一般の差押禁止財産》から同法第78条《条件付差押禁止財産》までの規定に抵触しない限り、専ら徴収職員の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。本件基本通達は徴収職員に対して差押財産の選択に当たっての基準ないし留意事項を示したものに過ぎず、本件基本通達に反することを理由に差押処分の違法を主張することはできない。また、次のロ、ハ及びニのとおり、原処分は本件基本通達にも抵触していない。
ロ 本件差押自宅敷地について
(イ)徴収法は差押禁止財産について徴収法第75条から第78条までに列挙しているが本件差押自宅敷地はこれらの規定には該当せず、また、本件差押自宅敷地の差押を制限するような他の法律の規定もない。
(ロ)また、本件差押自宅敷地が公売により売却されたとしても、上記1の(3)のハに記載した徴収法第127条第1項の規定により建物に地上権が設定されたものとみなされるから、本件差押自宅敷地は本件基本通達に記載された「滞納者の生活の維持又は事業の継続に与える支障が少ない財産」であると解される。
ハ 別表3記載の土地について
 当審判所の調査の結果によれば、請求人が所有する別表3記載の土地については、原処分庁が各土地の状況について上記2の(2)のハの(ロ)のB及びCで主張している事実が認められ、別表3の番号1及び2の土地は換価に不適な財産であり、別表3の番号3及び4の土地は換価に便利な財産ではないことが認められる。
ニ したがって、原処分庁が別表3記載の土地を差押財産として選択せず、本件差押自宅敷地を差し押さえたことは、本件基本通達に抵触せず、その判断に合理的な裁量の範囲を逸脱している点は認められないから、本件差押自宅敷地を選択して差し押さえたことは適法である。
 よって、この点の請求人の主張は採用できない。
ホ なお、本件審査請求の趣旨が、請求人が別表3の番号1及び3の土地への差押換えを求めているものとも考えられなくもないが、徴収法上、滞納者には原処分庁に対して差押換えを求められる旨の規定はないことから、仮に本件審査請求の趣旨がこのようなものであったとしても、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。

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(3)超過差押について

 請求人は、本件差押自宅敷地の評価額は40,000,000円を超えており、本件滞納国税の本税及び過少申告加算税の合計額8,051,995円を超えているから、原処分は超過差押であり違法である旨主張するので、以下審理する。
イ 超過差押の判断をする際の財産の価額について
 徴収法第48条第1項に規定する超過差押の判断をする際に財産の価額は、差し押さえた時の処分予定価額によるべきものと解され、超過差押となるか否かは、差し押さえた時点における財産の処分予定価額と徴収すべき国税の額(延滞税等の額も含む。)とを比較して判定するのが相当である。
 そして、差押財産の換価は原則として徴収法第94条《公売》の規定によって行われるところ、公売は、〔1〕強制売却であるところからいわば「因縁付」の財産の買い取りであるという感情を伴いがちであること、〔2〕買受後の返品、取替ができず買受人に不利な要素があること、〔3〕代金一括納付を原則としていること及び〔4〕任意売買に比べて手続が煩わしいことから、公売価格が一般の任意売買による売却価格を下回ることは通常のことであると認められるから、この公売の特殊性に伴う減額を行った後の処分予定価額と滞納国税とを対比して差押処分が超過差押に該当するか否かを判断するのが相当である。
ロ 本件差押自宅敷地の処分予定価額について
(イ)請求人の主張する本件差押自宅敷地の評価額の適否について
 請求人は、本件差押自宅敷地は国道沿いにあり、その価額は坪300,000円を下らないことから、本件差押自宅敷地の評価額は40,000,000円を超えると主張するのみで何ら証拠を提出しないことから、その評価額は採用できない。
(ロ)そこで、当審判所において、本件評価鑑定書及び当審判所の調査の結果に基づき、本件差押自宅敷地の処分予定価額を算定したところ、次のとおりである。
A 最有効使用形態
 本件差押自宅敷地の最有効使用形態は、現況の底地として評価するのが相当である。
B 近隣売買実例の内容
(A)本件鑑定書が採用した別表5の近隣売買実例の状況は、別表6のとおりである。
(B)当審判所の調査の結果、別表6の番号3及び4の近隣売買実例は本件差押自宅敷地からは遠隔地であり、同一需給圏内の類似地域等に存する売買実例とは認められないので採用しないこととした。
 また、当審判所の調査においても別表5の番号1及び2以外の適正な近隣売買事例はなかった。
C 近隣地域の標準的使用における標準価格
(A)近隣地域の標準的画地を、本件差押自宅敷地を含む近隣地域の状況と同様の地域要因を備え、幅員11メートル舗装国道に接面する一画地の規模が380平方メートル程度の低層店舗・事務所・住宅併用地と想定して評価を行った。
(B)上記Bのとおり、当審判所の調査の結果、適正な近隣売買実例は、別表5の番号1及び2の土地であるため、これを基に本件鑑定評価書の内容を検討したところ、以下のとおりである。
a 当審判所の調査の結果によっても、本件鑑定評価書における近隣売買実例の別表5の番号1及び2の土地について、別表7のとおり、取引事例比較法を採用して求めた1平方メートル当たり116,000円及び113,000円は相当であると認められる。
b 本件鑑定評価書は、別表8に記載した基準地を採用し、この基準地の基準地価格に比準した価格を別表9のとおり、1平方メートル当たり108,000円と計算しているが、当審判所もこれを相当であると認める。
c 上記aの取引事例比較法を採用して求めた価格を中心に、上記bの基準地価格に比準した価格との均衡を考慮した結果、標準価格は、1平方メートル当たり112,000円が相当であり、この標準価格は原処分庁が採用した近隣地域の標準的使用における標準価格と同額である。
D 本件差押自宅敷地の評価額
 本件鑑定評価書が採用した本件差押自宅敷地の個別要因格差率(間口狭小・奥行長大80%)及び時点修正率(−1%(月利))及び借地権割合(55%)は、当審判所の調査の結果によっても相当と判断される。その結果、本件差押自宅敷地の評価額は、上記2の(2)のニの(イ)のCと同様に計算されることになり、原処分時の本件差押自宅敷地の評価額は20,835,000円となる。
E 処分予定価額
 上記イのことから、上記Dで計算した本件差押自宅敷地の評価額20,835,000円から、原処分庁以外の強制執行機関の事例等と比較しても相当と認められる公売の特殊性に伴う20%の減価調整を行い、端数を整理の上、その処分予定価額を16,700,000円と決定する。
ハ ところで、徴収法第48条第1項は、上記1の(3)のロのとおり規定しているところ、国税の徴収のために滞納者の財産を差し押さえる場合、差押処分時に差押財産をめぐる権利関係を把握することが必ずしも容易ではなく、その価値を正確に評価することが困難であること、国税の徴収は、最終的には差押財産の公売等の方法による換価を待って初めて実現するものであること等に照らし、どのような財産をどのような範囲で差し押さえるかは、徴収職員の合理的な裁量にゆだねられているものと解される。
 したがって、差押処分が徴収法第48条第1項が禁止する超過差押となるか否かを判断する場合、一般的には、差押財産の処分予定価額と徴収すべき滞納国税(延滞税等の附帯税も含む。)の額とを比較して判定すべきものであるとしても、差押財産の処分予定価額が滞納国税の額を超過した場合に、直ちに当該差押が超過差押として違法となるものではなく、他に滞納国税を満足できる換価に見合う財産があるにもかかわらず、滞納国税の額に比較して差押財産の処分予定価額が合理的な裁量の範囲を超え著しく高額であると認められるような財産を差し押さえたというような特段の事情がある場合に、初めて当該差押が違法となるものと解される。
 また、これを差押財産の個数に着目していえば、複数の財産を差し押さえた場合において、そのうちの一部の財産の差押によって国税徴収の目的が十分達成できるにもかかわらず、あえて他の財産も差し押さえたときは、超過差押となる余地もあり得るが、差押に係る財産が法律上分割できない場合、あるいは分割することはできるが、分割することにより物の経済的価値を著しく害する場合には、たとえその財産の価額の合計額が滞納国税の額を超過したとしても違法とはならないと解される。
ニ これを本件について見ると、次のとおりである。
 原処分時の本件滞納国税は別表1のかっこ書のとおり10,078,095円(原処分時までの延滞税を含んだ金額)であるところ、上記ロのとおり原処分時の本件差押自宅敷地の処分予定価額は16,700,000円であるから、処分予定価額が上回っている。
 しかしながら、本件差押自宅敷地は一筆の土地で分割できないものであり、本件滞納国税の額に比較して本件差押自宅敷地の処分予定価額が合理的な裁量の範囲を超え著しく高額であるとも認められない。
 したがって、この点についての請求人の主張は採用できない。

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(4)原処分の適法性について

 徴収法第47条第1項第1号は、上記1の(3)のイのとおり規定しているところ、G税務署長は、上記1の(2)のニのとおり、請求人に対して、平成12年3月23日付で本件滞納国税について督促状によりその納付を督促しており、上記1の(2)のヘのとおり、請求人が、平成13年9月20日現在、本件滞納国税を完納していなかったことから、G税務署長から徴収の引継ぎを受けた原処分庁が原処分を行ったものであり、原処分は適法に行われている。
 なお、平成13年9月20日現在、行政事件訴訟法第25条第2項の規定による処分の執行の停止を命ずる裁判所の決定はなかった。

(5)その他

 原処分のその他の部分について請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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