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(平16.3.24裁決、裁決事例集No.67 17頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の所得税の確定申告が過少申告となったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分の所得税の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

(単位:円)
項目/区分確定申告修正申告等
総所得金額2,069,9888,598,988
(内訳)給与所得の金額8,598,9888,598,988
譲渡所得の金額△6,529,0000
納付すべき税額○○○○○○○○
過少申告加算税の額 69,500
(注)△印は、損失金額を示す。

ロ 次いで、請求人は、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)の調査を受け、上表の「修正申告等」欄のとおり記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成15年7月8日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成15年7月29日付で上表の「修正申告等」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分及び本件修正申告書に係る延滞税(以下「本件延滞税」という。)を不服として、平成15年8月8日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月31日付で本件賦課決定処分については棄却の異議決定をし、また、本件延滞税については却下の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件賦課決定処分及び本件延滞税に不服があるとして、平成15年11月26日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定し、同条第2項は第1項に規定する納付すべき税額が期限内申告額に相当する金額と50万円とのいずれか多い金額を超えるときは、その超える部分に係る過少申告加算税の額は、第1項の規定による過少申告加算税の額に、その超える部分に相当する金額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
ロ 通則法第65条第4項は、上記イの納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる税額を控除する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、Aカントリークラブ(以下「本件ゴルフ場」という。)のゴルフ会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)の譲渡損失を所得税法第69条《損益通算》第1項を適用して、本件確定申告書を提出した。
ロ 請求人は、本件調査担当職員から、本件ゴルフ会員権の譲渡は本件ゴルフ場を経営するB株式会社(以下「本件ゴルフ場経営法人」という。)が平成13年4月28日に○○地方裁判所より破産宣告を受けた後に行われたもので所得税法第33条《譲渡所得》第1項に規定する資産の譲渡に当たらない旨の指摘を受けて、本件修正申告書を提出した。

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2 主張

(1)請求人

イ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分は、次の理由により、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当するから、その全部が取り消されるべきである。
(イ)請求人は、破産したゴルフ場の会員権は売買できないことを承知していたが、平成13年11月26日付のゴルフ場からの通知(以下「本件通知」という。)で名義変更ができることを知り、平成13年12月に本件ゴルフ会員権を勤務先の取引先の社長(以下「譲受人」という。)に売却し、その証明をゴルフ場から発行してもらった。
(ロ)請求人は、本件ゴルフ会員権の売買により譲渡損失が生じたので、平成14年3月8日に原処分庁の申告相談担当職員(以下「本件職員」という。)から確定申告書の作成の仕方等の指導を受け、自ら本件確定申告書を作成し提出した。
(ハ)請求人は、本件ゴルフ会員権について正当な売買が行われたと認識していたので、上記(ロ)の申告相談の際に、本件職員に本件ゴルフ場経営法人が破産宣告を受けたことを説明しなかった。また、本件職員からも本件ゴルフ場に関する説明は一切求められなかった。
 なお、請求人は、以前P県に住んでいたころ、ゴルフ会員権の譲渡をしたことについて、所轄の税務署から連絡を受けゴルフ会員権の譲渡損失を申告して還付金を受領したことがあったので、今回も同様に本件ゴルフ場経営法人が破産宣告を受けたことを知っていると思っていた。
(ニ)したがって、申告相談の際に、本件職員から破産したゴルフ場のゴルフ会員権の譲渡損失は他の所得と損益通算ができないという説明があったならば、確定申告はしなかったのであるから、原処分庁は適切な指導をしなかったというべきであり、内容に誤りがある本件確定申告書を原処分庁が受理している以上、責任は原処分庁にある。
 また、本件確定申告書の提出から1年を経過して申告の誤りを指摘され、本件賦課決定処分がされたことについては納得できない。
ロ 本件延滞税について
 本件延滞税は、上記イと同様に取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 本件賦課決定処分は、次の理由により、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当しないから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 過少申告加算税は、正当な理由があると認められるものがある場合を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質であるところ、そもそも申告納税方式を採用する所得税の申告は、納税者が自らの判断と責任において課税標準等及び納付すべき税額等を確定させるものであり、そして、税務署が行う申告指導は、申告納税制度を適正かつ円滑なものとするための補完機能として、税務職員は納税者から申告に係る相談があった事項に関してのみ検討し回答すれば足りるものと解されており、確定申告書の作成及び提出は、最終的には納税者の判断に任されるべきものであるから、本件職員が、本件ゴルフ場経営法人の破産宣告に関することを積極的に質問若しくは指摘したかどうか判断するまでもなく、加えて、確定申告書の記載指導を受ける上で、当該破産宣告について自ら説明していないことからしても、請求人の採った行為は適正な申告という納税義務者としての責任を免れるものではない。
ロ また、税務署がする確定申告書の収受は、申告納税方式に基づいて納税者が提出する確定申告書を収受するという事実行為であり、その提出された確定申告書の記載内容が正しいものであることを認めるものではない。
ハ 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、また、請求人が過少申告となったことについて、他に正当な理由は認められないから、本件修正申告書の提出により納付すべきこととなった税額634,800円に通則法第65条第1項及び第2項の規定により行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件賦課決定処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)異議審理庁の調査担当者に対する請求人の申述によれば、請求人が本件職員に提示した書類は次のとおりである。
A 本件ゴルフ場経営法人が、平成2年3月5日付で、請求人に対し本件ゴルフ会員権の預り保証金及び入会金の合計6,539,000円を受領した旨の領収証。
B 請求人及び譲受人双方が、平成13年12月11日付で本件ゴルフ会員権を請求人から譲受人に10,000円で譲渡することを確認した譲渡証明書。
(ロ)本件通知は、C株式会社(平成13年8月7日に設立された法人であり、以下「C社」という。)が、本件ゴルフ場の敷地及び施設を任意で買い取るための新会社の株主会員を募集するに当たり、新会社への株式払込みについて4,000名以上の賛同を得るために、本件ゴルフ場の会員に差し出した書面である。その書面には、新会社の株式払込みに当たり、旧会員から知人、友人、第三者への譲渡による名義書換えについては手数料を無料とする旨記載されている。
ロ 法令解釈等
 通則法第65条第1項に規定する過少申告加算税は、当初から適正に申告をした者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するため、適正な申告をしなかった納税者に対して課されるものであり、同条第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」を除き、単に過少申告であるという客観的事実のみによって課される性質のものと解される。
 そして、「正当な理由があると認められるものがある場合」とは、例えば、確定申告の申告相談等において、納税者から十分な資料の提供等があったにもかかわらず、税務職員が納税者に対して誤った指導を行い、納税者がその指導に従ったことにより過少申告となった場合で、かつ、納税者がその指導を信じたことについてやむを得ないと認められる事情がある場合のように、過少に税額を申告したことが納税者の責めに帰することができない客観的な障害に基因する場合など、その申告が真にやむを得ない理由によるものであり、納税者に過少申告加算税を課すことが、不当又は酷になる場合を意味するものであって、その過少申告が納税者の不知又は誤解であるとか、納税者の主観的な事情に基づくような場合までを含むものではないとされている。
 また、申告納税制度の下における確定申告は、納税者自身の判断と責任においてなされるべきで、納税者自らが、課税標準及び税額等を法令の規定に従い計算し、適正な申告をすることが求められており、各税務署が納税者等から受ける申告書の作成に関する相談は、申告納税制度を適正かつ円滑なものとするための補完機能として、税務職員は納税者の申し述べた事実や提示のあった資料に基づき関係する税法等の適用や申告書の記入の仕方について説明するものとされている。
ハ 本件においては、請求人は本件ゴルフ場経営法人が破産宣告を受けている事実を本件職員に説明していないこと、請求人が原処分庁に持参した上記イの(イ)の各書類からは本件ゴルフ場経営法人が破産宣告を受けていることを示す記載がないことからすると、仮に、本件職員が、請求人からの確定申告書の記載方法の相談に応じて、本件ゴルフ会員権の譲渡損失を他の所得と損益通算する旨の指導をしたものであったとしても、その指導が誤り若しくは不適切な指導であったとは認められない。
 したがって、請求人が確定申告で過少に税額を申告したことに、真にやむを得ない理由があるとは認められないから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しないというべきである。
 また、確定申告は納税者が所轄税務署長に確定申告書を提出する行為であり、税務署長による確定申告書の受理は、当該申告書の申告内容を是認するものではない。そして、本件確定申告書の誤りの指摘は、通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項に規定する申告期限から3年以内に行われているのであるから、いずれにおいても違法事由は認められない。
 なお、本件ゴルフ場経営法人が平成13年4月28日に破産宣告を受けたことにより、本件ゴルフ会員権の有する預託金返還請求権及び優先的施設利用権は破産債権となり破産管財人の管理下にあることから、本件通知は、本件ゴルフ場経営法人とは別法人であるC社が本件ゴルフ場の敷地及び施設を買い取るための新会社の株式払込みの賛同を求めた書面にすぎない。
ニ 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、また、他に通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合は認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づきなされた本件賦課決定処分は適法である。

(2)本件延滞税について

 請求人は、本件延滞税の取消しを求めているが、延滞税は、通則法第15条第3項第6号に掲げる納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であって、国税に関する法律に基づく処分によって確定するものではない。
 したがって、本件延滞税についての審査請求は、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項に規定する国税に関する法律に基づく処分が存在しないものに対してなされたものであり、本件延滞税に係る審査請求は、不適法な審査請求である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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