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(平16.4.23裁決、裁決事例集No.67 25頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、柔道整復師業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が確定申告において、公共事業施行者の発行した証明書に基づいて、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第33条の4《収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除》第1項の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用したことが、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由」がある場合に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおりとする青色の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)を法定申告期限までに提出した。
ロ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員の調査を受け、平成13年分の所得税について、別表1の「修正申告」欄のとおりとする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成14年11月29日に提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成14年12月24日付で別表1の「賦課決定」欄のとおりの過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成15年2月3日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年4月24日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年5月23日に審査請求をした。

(3)関係法令等

イ 通則法第65条第1項は、期限内申告書が提出された場合において、修正申告書の提出があったときは、当該納税者に対し、その修正申告に基づき納付すべき税額に100分の10の割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課する旨規定しており、また、同条第2項は、同条第1項に規定する納付すべき税額がその国税に係る期限内申告税額に相当する金額と500,000円とのいずれか多い金額を超えるときは、過少申告加算税の額は、同条第1項の規定により計算した金額に、当該超える部分に相当する税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
ロ 通則法第65条第4項は、修正申告に基づき納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちに、その修正申告前の税額の計算の基礎とされなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付すべき税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額として計算した金額を控除して、同条第1項及び同条第2項の規定を適用する旨規定しており、また、同条第5項は、同条第1項の規定は修正申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより当該国税について更正があるべきことを予知してされたものでないときは、適用しない旨規定している。
ハ 措置法第33条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》第1項は、資産の買取りを拒むときは土地収用法等の規定に基づいて収用等がされる場合において、当該資産が買い取られて対価を取得した時は選択により課税の特例を適用できる旨規定し、また、同条第3項は、土地等が同条第1項の規定に該当する場合において、その土地の上にある資産を土地収用法等の規定に基づき取壊し若しくは除去しなければならない場合は、その資産の対価及び補償金を同条第1項に規定する対価とみなす旨規定している。
 そして、措置法第33条第6項は、同条第1項の規定は確定申告書に財務省令で定める書類を添付しない場合には適用しない旨規定している。
ニ 措置法第33条の4第1項は、個人の有する資産で同法第33条第1項に規定するものがその規定に該当することとなった場合において、その資産について同法第33条の規定の適用を受けないときは、この資産の収用等による譲渡に対する同法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項に規定する長期譲渡所得の特別控除額を同法第31条第4項の規定にかかわらず、50,000,000円とする旨規定している。
 そして、措置法第33条の4第4項は、同条第1項の規定は確定申告書に財務省令で定める書類の添付がある場合に限り適用する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件確定申告書には、別表2の「種類」欄の建物移転、建物に伴う工作物移転及び立木移植に係る補償金(以下、これら三つの補償金を併せて、「本件移転補償金」という。)のうち請求人の持分に相当する金額を含めた金額が分離長期譲渡所得の金額の収入金額として記載されるとともに、P県Q土木事務所(以下「Q土木事務所」という。)が発行した別表2の「所在地」、「種類」及び「数量」欄の内容を主な記載事項とする公共事業用資産の買取り等の申出証明書、公共事業用資産の買取り等の証明書及び収用証明書(以下、これら3通の証明書を併せて「本件各証明書」という。)が添付されていること。
ロ P県Q土木事務所長(以下「Q土木事務所長」という。)は、平成14年11月15日付で、請求人に対して、本件各証明書を誤って送付したので撤回する旨通知していること。
ハ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員から本件移転補償金は本件特例の適用の対象にならない旨の指摘を受け、本件修正申告書を提出したこと。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、Q土木事務所が発行した本件各証明書に基づいて、本件特例の適用ができると判断して確定申告を行った。
ロ Q土木事務所長は、その後、残地上の建物に係る補償金については本件特例に該当しない事が判明したにもかかわらず、その旨を何ら請求人に連絡せず、放置していた。
ハ 請求人は、原処分庁所属の調査担当職員から指摘されるまで、本件特例に該当しないことを知らなかった。
ニ Q土木事務所長は、請求人に対して、本件各証明書を撤回し、誤って証明書を発行したことを謝罪した。
ホ 以上のとおり、本件確定申告書で適正な税額の計算がなされていなかったのは、誤って本件各証明書が発行されたことによるのであるから、その責任は、Q土木事務所長にあり、請求人が本件各証明書を信じて確定申告したことは、通則法第65条第4項に規定する正当な理由に該当する。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 請求人が本件各証明書を信頼し、本件移転補償金について、本件特例の適用があると誤解し、本件確定申告書を提出したとしても、本件移転補償金は、その対象である移転建物、工作物及び立木が残地の上にあったものであり、本件特例の適用がないことが客観的に明らかである以上、本件特例の適用は、請求人の税法の不知又は法令解釈の誤解というべきものである。
ロ 本件修正申告書の提出により納付すべき税額の計算の基礎となった事実は、上記イのとおり、請求人の税法の不知又は法令解釈の誤解というべきものであり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められるものがある場合に該当しない。
 また、上記1の(4)のハのことから、本件修正申告書の提出は、通則法第65条第5項に規定する更正があることを予知してされたものでないときにも該当しない。

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3 判断

(1)本件賦課決定処分について

イ 請求人は、本件特例を適用して確定申告を行ったのは、Q土木事務所が誤って本件各証明書を発行したことにあり、このことは通則法第65条第4項に規定する正当な理由に該当し、原処分は取り消されるべきである旨主張する。
 ところで、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合とは、〔1〕税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変されたため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合、〔2〕災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払いを受け又は盗難品の返還を受けた等のため、修正申告をし又は更正処分を受けるに至った場合及び〔3〕その他真にやむを得ない理由があると認められる場合を意味するのであって、納税者の税法の不知、誤解、あるいは判断の誤りに基づく場合はこれに該当しないと解されている。
ロ 収用に伴う移転補償金が本件特例の適用の対象となるのは、上記1の(3)のハ及びニのとおり、措置法第33条第1項又は同条第3項に該当する場合であり、また、本件各証明書は、本件特例の適用を受けようとする場合には確定申告書に添付が必要とされる書類であると認められる。
 そうすると、収用に伴う移転補償が本件特例に該当するかどうかは、公共事業施行者との契約、移転補償の対象となった資産の所在地及び資産の取壊し等の事実によって検討すべきであるところ、請求人は、Q土木事務所が発行した本件各証明書をもって、本件特例に該当するものとして確定申告を行ったが、これは、法の誤解あるいは判断の誤りであると認められること及びそのほか請求人には、上記イの〔1〕ないし〔3〕の場合に該当すると認めるに足りる証拠はないことから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合に該当しないと認めるのが相当である。
 また、本件修正申告書は、上記1の(4)のハのとおり、原処分庁所属の調査担当職員から本件移転補償金は本件特例の適用の対象にならない旨の指摘を受けた後に提出されたものであるから、通則法第65条第5項に規定する「更正があるべきことを予知してされたものでないとき」にも該当しないことは明らかである。
 したがって、請求人の主張には理由がなく、通則法第65条第1項及び同条第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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