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(平16.3.5裁決、裁決事例集No.67 606頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、相続税の課税価格に算入された被相続人がP市に貸し付けていた土地の価額の多寡を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人であるD(以下「請求人D」という。)、E、F、G、H、J及びK(以下、この7名を併せて「請求人ら」という。)は、平成12年11月25日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したL(以下「被相続人」という。)の共同相続人であり、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の申告書に、別表1の「申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成15年2月28日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人らは、請求人Dが本件相続により取得したP市p町○○番のうち宅地990.61平方メートル(以下「本件土地」という。)の価額が過大であるとして、平成15年4月28日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年7月23日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年8月20日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、請求人Dを総代として選任し、その旨を平成15年8月20日に届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件相続開始日における本件土地の状況は、P市が所有する「M館(以下「M館」という。)」の敷地である。
ロ 本件土地については、賃貸人を被相続人、賃借人をP市とし、平成2年3月29日付で土地賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約に係る賃貸借契約書を「本件賃貸借契約書」という。)が締結されており、契約内容の要旨は次のとおりである。
(イ)本件土地の使用目的は、(仮称)P市○○記念館建設用地とし、使用面積は993.36平方メートルである。
(ロ)本件賃貸借契約の期間は、平成2年4月1日から平成32年3月31日までの30年間である。
(ハ)本件賃貸借契約の締結に際し、P市は被相続人に対し権利金等に類する一時金は一切支払わない。
(ニ)被相続人はP市に対し、本件賃貸借契約の期間中であっても、本件土地について請求時の更地時価での買取請求(以下「更地時価買取請求」という。)をすることができる。
(ホ)P市は更地時価買取請求を受けた場合は、異議なく応じ、また、
P市の委任を受けたP市土地開発公社も応じることができる。
(ヘ)賃貸借料は、月額352,642円(平方メートル当たり355円)とし、経済事情の変動、公租公課の増額、近隣の賃料との比較等により不相当となったときは改定することができる。
ハ 本件土地の地積990.61平方メートルは、本件相続開始日の現況における実測面積である。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件土地の価額は、次の理由により、自用地としての価額から60%の借地権相当額を控除して評価すべきであり、その価額は91,599,725円となる。
A P市は、被相続人から本件土地を賃借し、本件土地の上に「M館」という堅固な建物を建築(建築価額15億6,757万円)しているから、借地法上の保護が受けられる借地権者である。借地法上、借地権者には、借地権の消滅に際し、更新請求権の行使及び建物買取請求権が与えられているので、P市が建物買取請求権を行使すると、その売買価格は建物の建築価額からして高額になると思われ、一納税者が負担できる金額ではないので、事実上本件賃貸借契約を解約することはできず、本件土地は地代収受権しかない貸地である。
B 本件賃貸借契約締結の際、権利金等に類する一時金の収受がないが、権利金の支払がない場合でも借地権が設定される場合もあることから、権利金等に類する一時金の収受がないことと借地権の成否は直接関係がない。
 賃貸人は、本件賃貸借契約の期間中であってもP市に対して更地時価買取請求をすることができることになっており、P市はこれに異議なく応じることになっているところ、〔1〕P市は予算の関係で買取請求にいつ応じるか分からないこと、〔2〕本件土地の買主はP市に限られ、更地としての買取価額が低く抑えられる危険もあること、そして、〔3〕更地時価買取請求に係る契約条項は、実質的に本件賃貸借契約の期間を短縮する定めであり借地権者に不利な契約条件なので、借地法第11条に抵触する恐れがあることから、本件土地は、貸宅地の評価をすべきである。
C 本件土地の年地代率を原処分における本件土地の更地価額228,999,313円を基に算定すると、本件相続開始時点における賃貸借料が年額4,231,704円であることから地代率は1.85%になる。本件土地における借地権割合は60%で、相当地代は路線価の年6%相当とされているところ、貸宅地の通常地代率は2.4%(6%×(1−0.6))相当と認められるが、本件土地の地代率はそれ以下である。
 土地の借受けに際して相当の地代を支払う場合には賃借人に借地権の認定課税をしないのは、換言すると、借地権がないから相当の地代(高い地代)を支払い、借地権があれば低い地代を支払うことを意味する。本件土地の地代率は通常地代率以下となっているので、本件土地は借地権の目的となっている土地であるともいえることから、貸宅地の評価をすべきである。
(ロ)仮に上記(イ)の主張が認められない場合には、本件土地は都市公園の用地として供されているわけではないものの、その施設等から判断して、都市公園の用地と実質的には大差がないことから、都市公園の用地として貸し付けられている土地の評価について(平成4年4月22日付課資2−122、課評2−4による国税庁長官通達をいい、以下「都市公園用地通達」という。)に準じ、自用地としての価額から40%相当額を控除した価額によるべきであり、その価額は137,399,587円となる。
(ハ)更に、上記(イ)及び(ロ)の主張が認められない場合には、次の理由により、本件土地の更地価額の算定には財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達をいい、以下「評価基本通達」という。)24−4に定める広大地補正を行うべきである。
 土地の更地価額とは、近隣地域内の標準的な土地が標準的に使用されている価額を中心として形成されると考えられるところ、近隣の標準的な土地が平均地積168平方メートル(公示地の平均地積)の住宅地であるのに対して、本件土地の地積は990.61平方メートルと著しく広大な土地である。
 したがって、本件土地の価額は、広大地補正を行って評価した更地としての価額(201,518,801円)から原処分庁が主張する20%相当額を控除した価額によるべきであり、その価額は161,215,040円となる。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人らは、本件土地の価額は、自用地としての価額から60%の借地権相当額を控除して評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件土地の地代率が通常地代以下であることや、借地法に基づき建物買取請求権が認められているとしても、借地権の設定に当たり、権利金等に類する一時金の授受がないこと、及び本件賃貸借契約の期間中であってもP市に対して更地時価買取請求をすることができることから、本件土地における経済的価値は何ら損なわれておらず、借地権に相当する減価が生じているとは認められないような特殊な貸宅地についてまで、一般的な借地権相当額を控除するのは相当ではない。
 また、請求人らは、本件賃貸借契約書には更地時価買取請求があった場合にはこれに応じるとの契約条項はあるものの、P市は予算の関係ですぐに応じるかどうかも分からず、買主はP市に限られ更地価額が低く抑えられる危険もある旨主張するが、相続税法に規定する時価とは課税時期における各財産の現況に応じた価額であることからすれば、請求人らの主張は、いずれも不確定要素を前提としたものであり、本件土地の価額の判断を左右するものではない。
(ロ)上記のとおり、本件土地の価額の算定に当たって60%の借地権相当額を控除することは認められないが、〔1〕本件土地は、本件相続開始日現在において第三者所有の建物に係る敷地として利用され、本件土地の所有者が自由に使用・収益することができないという利用上の制約があること、〔2〕借地権の取引慣行のない地域でも貸宅地の価額は、借地権割合を20%として計算した価額を控除して評価することとしていること、また、〔3〕法人に土地を賃貸し土地の無償返還に関する届出書を提出している場合の貸宅地の価額は、自用地としての価額の80%で評価することとしていることなどとの権衡を考慮し、本件土地の価額は、自用地としての価額228,999,313円から20%相当額を控除した価額によるべきであり、その価額は183,199,450円となる。
(ハ)なお、請求人らは、本件土地の価額について、60%の借地権相当額を控除すべき旨の主張が認められない場合には、都市公園用地通達に準じ、自用地としての価額から40%相当額を控除した価額によるべきである旨主張する。
 しかしながら、都市公園用地通達は、都市公園の用地の所有者は貸付けの期間の中途において正当な事由がない限り土地の返還を求めることはできないなど相当期間にわたりその利用が制限されることから定められたものであるところ、本件土地の場合、いつでも更地時価買取請求ができることからすれば、同通達を適用することはできない。
(ニ)以上のとおり、本件土地の価額は183,199,450円であり、請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額は別表2の「原処分庁主張額」欄のとおりとなり、これらの金額と同額で行った本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、請求人らの場合、過少申告となったことについて国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められる場合」には該当しないから、同条第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)M館は、P市の所有で、地上2階・地下5階の鉄筋コンクリート造りの建物構造(建築面積250.35平方メートル、延床面積1,533.72平方メートル)であり、総事業費は18億5,200万円である。
(ロ)本件土地には地上権の登記はされておらず、上記(イ)の建物の登記もされていない。
(ハ)当審判所がP市の担当部課において、本件賃貸借契約の内容を調査したところ、次の事実が認められた。
A 更地時価買取請求は、P市が権利金等の一時金を支払っていないことから定められたものであり、更地時価買取請求があった場合には、P市としてはこれに応じる必要があり拒否はできない。
B P市が借地する場合の賃借料については、権利金等の一時金の支払の有無にかかわらず、「P市借地料算定要領」に基づき算定されるところ、当該要領では、公共用地に供するための土地の賃借料の額は、その年度の固定資産税及び都市計画税の合計額(以下「固定資産税等の額」という。)の3倍の額、若しくは前年度の賃借料の0.9倍の額のいずれか高い額と定められている。
C 本件土地の本件相続開始日に係る年間賃借料は7,009,140円(月584,095円)である。
ロ 本件土地の価額について
(イ)借地権とは、建物の所有を目的とする地上権及び賃借権であり、借地権の設定に際し権利金等を収受する慣行のある地域においては、借地権それ自体が独立の取引の対象とされ、借地権価額あるいは借地権割合なるものが形成されているのは、主として借地人に帰属している経済的利益を評価したものと解されている。
(ロ)請求人らは、本件土地の価額は自用地としての価額から60%の借地権相当額を控除して評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件賃貸借契約によると、本件土地は「M館」の用地としてP市に賃貸されたものであるところ、契約締結に際し賃借人であるP市から土地所有者である被相続人に対し権利金等の一時金の授受がないことから、被相続人は本件賃貸借契約の期間中であってもP市に対して更地時価買取請求ができ、P市は当該請求に対し異議なく応じるものとされることは、P市は借地権者としての経済的利益について享受しないものとしたと認められるところであり、一方、土地所有者である被相続人は賃貸した本件土地の底地価額は何ら減損することなく自用地と同額の価額として保証されているものと認められるところである。
 加えて、被相続人は、本件賃貸借契約の期間中、P市借地料算定要領により固定資産税等の額の3倍という地代を受領することが保証されている。
 そうすると、P市及び被相続人は本件賃貸借契約において、本件土地における借地権の経済的価値を認識しない旨を定めたものというべきであるから、本件土地の評価に当たっては、借地権相当額を何ら減額すべき事由はないのであって、60%の借地権相当額を控除すべきとの請求人らの主張には理由がない。
 したがって、本件土地の価額は、自用地としての価額と同額で評価するのが相当であり、その価額は228,999,313円である。
(ハ)なお、請求人らは、借地権相当額を60%とする根拠について、上記2の(1)のイの(イ)のAからCのとおり主張する。
 しかしながら、次のとおり、請求人らの主張にはいずれも理由がない。
A 本件賃貸借契約においては、賃貸借料の定めのほかに更地時価買取請求ができる旨が定められているから、本件土地には地代収受権しかないとの請求人らの主張には理由はない。
B P市が更地時価買取請求にいつ応じるか分からず、買取請求の価格がP市によって低く抑えられる危険性があるとの請求人らの主張は、将来の不確定要素を前提としたものに過ぎず、本件土地の価額の算定には何ら考慮すべき事情ではない。
 また、本件賃貸借契約はP市と被相続人との間の合意により締結されたものであるところ、本件賃貸借契約の締結から現在までの間に、当該契約の内容について疑義等が発生した事実はないのであるから、本件土地の価額の算定に当たっては、本件賃貸借契約が借地法に抵触する恐れがあるか否かを判断するまでもない。
C 本件土地の年間賃貸借料はP市借地料算定要領により定められたものであるところ、P市借地料算定要領によると、権利金等の支払の有無にかかわらず固定資産税等の額を基礎として算定されるものであるから、年間賃貸借料による地代率をもって借地権相当額を判断することは相当でない。
 また、請求人らは本件相続開始日時点における年間賃貸借料を4,231,704円として地代率を算定しているが、正当な年間賃貸借料は7,009,140円であるから、請求人らの主張はその前提において誤りがある。
(ニ)請求人らは、本件土地の価額が自用地としての価額から60%の借地権相当額を控除するべき旨の主張が認められないとしても、都市公園用地通達に準じ、自用地としての価額から40%相当額を控除すべきである旨主張する。
 都市公園用地通達では、都市公園法第2条第1項第1号に規定する公園又は緑地(以下「都市公園」という。)の用地として貸し付けられている土地の価額について、当該土地が都市公園の用地として貸し付けられていないものとして評価基本通達により算出した価額から、40%相当額を控除した金額によって評価する旨が定められている。
 これは、都市公園の用地として貸し付けている土地所有者は、貸付期間において正当な事由がない限り土地の返還を求めることはできないなど、都市公園を構成する土地については、都市公園法の規定により私権が行使できず、また、公園管理者に対する都市公園の保存義務規定も定められているために、都市公園の用地として貸し付けられている土地には相当長期間にわたりその利用が制限されることから、自用地としての価額から40%相当額を控除するものであると解される。
 しかしながら、本件土地は、P市に対し更地時価買取請求ができ、P市はそれに異議なく応じることからすれば、都市公園用地通達に準じて評価することは相当でない。
(ホ)請求人らは、本件土地は近隣の標準的な土地に対し著しく広大な土地であるから、本件土地の更地価額の算定には評価基本通達24−4に定める広大地補正を行うべきである旨主張する。
 広大地補正とは、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地で都市計画法第4条第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められる土地(以下「広大地」という。)の評価に当たり、当該広大地の地積から公共公益的施設用地となる部分の地積を控除した地積が当該広大地に占める割合(いわゆる有効宅地化率)を評価基本通達15《奥行価格補正》に定める補正率に代えて評価計算をするものである。
 したがって、既に開発行為を了している土地は標準的な地積に比して著しく広大であっても評価基本通達24−4に定める広大地に該当しないところ、本件土地は既に「M館」という建物の敷地として利用されていることから、広大地補正をすることはできない。
ハ 以上のことから、本件土地の価額は228,999,313円であり、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表2の「当審判所認定額」欄のとおりとなり、請求人らの納付すべき税額はいずれも本件更正処分の額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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