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(平16.3.23裁決、裁決事例集No.67 633頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人であるJ、K及びL(以下、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、相続及び贈与により取得したM株式会社(以下「本件会社」という。)の株式(以下「本件株式」という。)について、その株式の価額の多寡を主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯等

イ 請求人ら及びその母のN(以下「N」という。)は、平成11年8月7日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した請求人らの父のR(以下「本件被相続人」という。)の共同相続人であり、本件被相続人に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、Q税務署長に対し、相続税の申告書に別表1の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人ら及びNは、P国税局長(以下「原処分庁」という。)所属の調査担当職員の調査に基づき、Q税務署長に対して、平成14年7月24日に、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
 なお、原処分庁所属の調査担当職員は、本件株式以外の取得財産に加算すべき金額及び本件株式の価額を類似業種比準価額により評価した価額による申告漏れと認めた金額について、本件相続税の修正申告書の提出をしょうようしたが、提出された修正申告書には、当初申告に係る取得財産の価額に本件株式以外の取得財産に加算すべき金額のみが加算されていた。
ハ Q税務署長は、平成14年12月2日付で、請求人らに対して、別表1の「賦課決定処分」欄のとおり、過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ニ また、Q税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成14年12月2日付で、請求人らに対して、別表1の「更正処分及び賦課決定処分」欄のとおり、本件相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、これらを併せて「原処分」という。)をした。
ホ 請求人らは、原処分を不服として、平成14年12月18日に、別表1の「異議申立て」欄のとおり、原処分庁に対して異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年3月7日付で、別表1の「異議決定」欄のとおり、棄却の異議決定をした。
ヘ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年3月26日に審査請求をし、同日付で、Jを総代として選任する旨を届け出た。

(3)関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続、遺贈又は贈与に因り取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定している。
ロ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか、ただし、平成12年6月13日付課評2−4ほかによる改正前のものをいい、以下「評価通達」という。)
(イ)評価通達5《評価方法の定めのない財産の評価》は、この通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この通達に定める評価方法に準じて評価する旨定めている。
(ロ)評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》は、この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている。
(ハ)評価通達における株式の評価方法
 株式の評価に関する評価通達及びその改正内容(抜粋)等については、別紙の1ないし4のとおりである。
 なお、その要旨は、次のとおりである。
A 評価通達168
 株式の評価は、その株式の銘柄の異なるごとに行う。
B 評価通達178
 取引相場のない株式は、評価会社の規模が大会社、中会社又は小会社のいずれに該当するかに応じて行う。
 ただし、同族株主以外の株主等が取得した株式の価額は、評価通達188の定めによって評価する。
C 評価通達179
 評価会社の規模のうち大会社における株式の価額は、原則として、類似業種比準価額によって評価する。
 ただし、納税義務者の選択により、1株当たりの純資産価額によって評価することができる。
 また、類似業種比準価額は、評価通達180及び183により計算した金額とする。
D 評価通達180(以下「株価通達」という。)
 類似業種比準価額は、「業種目」、「A株価」、「B配当金額」、「C利益金額」及び「D簿価純資産価額」に比準して計算する。
E 評価通達183
 評価会社における1株当たりの配当金額、利益金額及び純資産価額の計算については、配当金額は、直前期末以前2年間における利益の配当金額の平均した金額を、利益金額は、原則として、直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額等の金額及び損金に算入された繰越欠損金の控除額を加算した金額を、純資産価額は、直前期末における資本金額等の金額を、直前期末における発行済株式数で除して計算した金額とする。
F 評価通達188
 評価通達178のただし書きに定める同族株主以外の株主等が取得した株式について、その株式の価額は、評価会社の規模に関係なく、評価通達188−2に定める配当還元価額により評価する。
G 評価通達188−3
 評価通達188に定める発行済株式総数の算定に当たって、商法第241条第2項に規定する自己の株式(以下「自己株式」という。)及び同条第3項に規定する株式の相互保有等における議決権を有しないこととされる株式(以下「相互保有株式」といい、自己株式を併せて「自己株式等」という。)を有する場合における評価会社の発行済株式数は、原則として、議決権を有しないこととされる相互保有株式を控除した数による。
H 評価通達188−4
 上記Gと同様に、評価通達188に定める発行済株式総数の算定に当たって、商法第242条に規定する議決権のない株式を有する場合における評価会社の発行済株式数は、原則として、議決権のない株式を控除した数による。
ハ 平成12年6月13日付課評2−4ほか「財産評価基本通達の一部改正について(法令解釈通達)」により改正された後の評価通達(以下「12年改正通達」という。)は、別紙の3及び4の「12年改正通達」欄のとおりである。
ニ 平成15年6月25日付課評2−16ほか「財産評価基本通達の一部改正について(通知)」により改正された後の評価通達(以下「15年改正通達」という。)は、別紙の2及び4の「15年改正通達」欄のとおりである。
ホ 相続税等の加算税取扱通達
 平成12年7月3日付課資2−264ほか「相続税、贈与税の過少申告加算税及び無申告加算税の取扱いについて(事務運営指針)」(以下「本件加算税取扱通達」という。)の第1の1は、過少申告の場合における正当な理由があると認められる事実について、税法の解釈に関し申告書提出後新たに法令解釈が明確化されたため、その法令解釈と納税者の解釈とが異なることとなった場合において、その納税者の解釈について相当の理由があると認められる場合は、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があると認められる事実として取り扱う旨定めている。
 また、税法の不知若しくは誤解又は事実誤認に基づくものは、これに当たらない旨定めている。
ヘ 商法(明治32年法律第48号、ただし、昭和56年法律第74号による改正後のものをいい、以下「商法」という。)
(イ)商法第240条《発行済株式総数の算定》は、「総会ノ決議ニ付テハ議決権ナキ株主ノ有スル株式ノ数ハ発行済株式ノ総数ニ之ヲ算入セズ」と規定し、商法第241条の自己株式及び相互保有株式、商法第242条の議決権のない株式などについて、総会の決議要件である発行済株式の総数から除外するものとしている。
(ロ)商法第241条第1項は、「各株主ハ一株ニ付一個ノ議決権ヲ有ス」、第2項は、「会社ハ其ノ有スル自己ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ」、第3項は、「会社、親会社及子会社又ハ子会社ガ他ノ株式会社ノ発行済株式ノ総数ノ四分ノ一ヲ超ユル株式又ハ他ノ有限会社ノ資本ノ四分ノ一ヲ超ユル出資口数ヲ有スル場合ニ於テハ其ノ株式会社又ハ有限会社ハ其ノ有スル会社又ハ親会社ノ株式ニ付テハ議決権ヲ有セズ」と規定し、自己株式及び相互保有株式については、議決権のないものとしている。
(ハ)商法第242条第1項は、「会社ガ数種ノ株式ヲ発行スル場合ニ於テハ定款ヲ以テ利益ノ配当ニ関シ優先的内容ヲ有スル種類ノ株式ニ付株主ニ議決権ナキモノトスルコトヲ得但シ其ノ株主ハ優先的配当ヲ受クル旨ノ議案ガ定時総会ニ提出セラレザルトキハ其ノ総会ヨリ、其ノ議案ガ定時総会ニ於テ否決セラレタルトキハ其ノ総会ノ終結ノ時ヨリ優先的配当ヲ受クル旨ノ決議アル時迄ハ議決権ヲ有ス」、第2項は、「前項但書ノ規定ハ定款ヲ以テ同項ノ株式ニシテ優先的配当ヲ受ケザル旨ノ決議アリタルトキニ其ノ配当ガ累積スルモノニ付其ノ株主ガ其ノ決議アリタル定時総会ノ次ノ定時総会ニ優先的配当ヲ受クル旨ノ議案ガ提出セラレザルトキハ其ノ総会ヨリ、其ノ議案ガ其ノ定時総会ニ於テ否決セラレタルトキハ其ノ総会ノ終結ノ時ヨリ議決権ヲ有スル旨ヲ定ムルコトヲ妨ゲズ」、第3項は、「第一項ノ株式ノ総数ハ発行済株式ノ総数ノ三分ノ一ヲ超ユルコトヲ得ズ」と規定し、数種の株式のうち配当優先株式については、定款をもってその株式に議決権がないものとすることができるとしている。
(ニ)商法第290条《利益の配当》第1項は、「利益ノ配当ハ貸借対照表上ノ純資産額ヨリ左ノ金額(資本ノ額、資本準備金及利益準備金ノ合計額等)ヲ控除シタル額ヲ限度トシテ之ヲ為スコトヲ得」と規定している。
ト 商法附則(明治44年法律第73号、ただし、昭和56年法律第74号による改正後のものをいい、以下「商法附則」という。)
(イ)商法附則第15条《一単位の株式のみなし併合》第1項第1号は、「証券取引所に上場されている株式を発行する株式会社」、第2号は、「前号の株式会社以外の株式会社で定款により株式の一単位を定めるもの」と規定している。
(ロ)商法附則第16条《一単位の株式の数》第1項は、「前条第1項第1号の株式会社にあっては五万円を額面株式一株の金額で除して得た数又は定款で別に定める数を、同項第2号の株式会社にあっては定款で定める数を株式の一単位とする。」と規定している。
(ハ)商法附則第17条《一単位の株式の数の登記》第1項は、「附則第15条第1項第1号の株式会社にあってはこの法律の施行の日又はその株式が証券取引所に上場された日から、同項第2号の株式会社にあってはその定款の定めが効力を生じた日から、本店の所在地においては二週間以内に、一単位の株式の数を登記しなければならない。」と規定している。
(ニ)商法附則第18条《単位未満株式を有する株主の権利等》第1項は、「株主は、附則第16条第1項に規定する一単位に満たない数の株式(以下「単位未満株式」という。)については、特別の定めがある場合を除き、〔1〕利益若しくは利息の配当又は商法第293条の5《中間配当》第1項の金銭の分配を受ける権利(第1号)、〔2〕株式の消却、併合、分割若しくは転換又は株式会社の株式交換、株式移転若しくは合併により金銭又は株式を受ける権利(第2号)、〔3〕新株、転換社債又は新株引受権付社債の引受権(第3号)、〔4〕残余財産の分配を受ける権利(第4号)、〔5〕株券の再発行を請求する権利(第5号)以外の権利を行使することができない。」と規定し、単位未満株式が議決権を持ち得ないこととしている。
(ホ)商法附則第20条《単位未満株式の発行済株式の総数への不算入等》第1項は、「発行済株式の総数の百分の一、百分の三又は十分の一以上に当たる株式を有する株主の権利の行使についての規定の適用及び総会の決議については、単位未満株式の合計数は、発行済株式の総数に算入しない。」と規定し、単位未満株式については、総会の決議要件である発行済株式の総数から除外するものとしている。
 また、第2項は、「商法第348条《株式譲渡制限と定款変更》第1項の規定の適用については、単位未満株式のみを有する株主の数は、総株主の数に算入しない。」と規定していることから、単位未満株式のみを有する株主は、総会に出席したり、討議に加わる権利(総会参与権)なども認められないと解される。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所が調査したところによっても、その事実が認められる。
イ 請求人ら及びNは、本件被相続人から本件株式及びその他の財産を、別表2の「相続」の「取得財産の価額」欄に記載のとおり、相続により取得した。
ロ 請求人らは、平成10年12月11日(以下「本件贈与日」という。)に、本件被相続人から本件株式を、また、請求人ら及びNは、本件相続開始日前の三年以内において、本件被相続人から本件株式以外のその他財産(現金及び土地等)を、別表2の「贈与」の「贈与財産価額」欄に記載のとおり、贈与により取得した。
 また、請求人ら及びNは、本件被相続人から本件相続開始日前の三年以内において贈与を受けた財産について、相続税法第19条《相続開始前三年以内に贈与があった場合の相続税額》の規定に基づき、当該財産を本件相続税の課税価格に加算した。
ハ 本件会社は、昭和23年5月27日に、S株式会社の商号で、医薬品及び医療用機械器具の販売を業務として行うことを主な目的として設立された法人であり、その商号を、昭和31年にT株式会社、平成4年4月1日にU株式会社(以下「U社」という。)、平成10年4月1日には現在のM株式会社に変更した。
 また、J及びKは、本件相続開始日に、本件会社の代表取締役及び取締役に、それぞれ就任した。
ニ 本件会社(旧U社)は、平成10年4月1日に、合併法人をU社、被合併法人をV株式会社、W株式会社及びX株式会社(以下、それぞれ「V社」、「W社」及び「X社」という。)とする合併を行い、平成10年6月30日に、その旨の登記をした。
 なお、V社は、平成9年4月1日に、合併法人をV社、被合併法人をY株式会社(以下「Y社」という。)とする合併をした。
ホ 本件会社の本件相続開始日の直前期末以前3年間の事業年度及び本件相続開始日を含む事業年度は、平成8年4月1日から平成9年3月31日まで、平成9年4月1日から平成10年3月31日まで、平成10年4月1日から平成11年3月31日まで及び平成11年4月1日から平成12年3月31日までの各事業年度(以下、それぞれ「本件直前期の前々期」、「本件直前期の前期」、「本件直前期」及び「本件相続期」という。)である。
ヘ 本件会社(旧T株式会社)は、平成3年10月16日に開催の臨時株主総会において、平成4年4月1日より単位株制度を採用する旨決議し、平成4年4月1日に、一単位の株式の数を1,000株とする旨設定し、同日に登記している。
 また、本件会社の定款(平成13年6月27日変更)には、額面株式1株の金額は50円、一単位の株式の数は1,000株をもって株式の一単位とする旨記載されている。
ト 請求人ら及び原処分庁の双方ともに、本件株式の評価について、評価通達に定めるところを基本としている。
チ 請求人ら及び原処分庁の双方ともに、本件相続開始日及び本件贈与日における、次の点について、争いがない。
(イ)本件会社は、評価通達188の(3)に定める同族株主のいない会社に該当し、(2)の中心的な同族株主のいる会社には該当しない。
(ロ)本件会社の発行済株式数及びその内訳、並びに、Jとその同族関係者の有する本件株式(以下「本件同族株式」という。)の数及びその内訳は、次のとおりである。
A 本件相続開始日における本件会社の発行済株式数は、39,130,566株で、その内訳は、議決権のある株式が38,163,000株、議決権のない株式が967,566株(単位未満株式721,566株、自己株式等246,000株)である。
 また、本件同族株式の数は、5,809,056株で、その内訳は、議決権のある株式が5,796,000株、議決権のない株式が13,056株(単位未満株式)である。
B 本件贈与日における本件会社の発行済株式数は、39,130,566株で、その内訳は、議決権のある株式が38,309,000株、議決権のない株式が821,566株(単位未満株式747,566株、自己株式等74,000株)である。
 また、本件同族株式の数は、5,792,956株で、その内訳は、議決権のある株式が5,779,000株、議決権のない株式が13,956株(単位未満株式)である。
(ハ)本件会社の発行済株式数に占める本件同族株式の数の割合(以下「持株割合」という。)は、次のとおりである。
A 本件相続開始日における持株割合は、別表3のとおり、発行済株式数から自己株式等の数を控除した場合の割合が14.9%(請求人らの主張する持株割合)、また、発行済株式数から自己株式等及び単位未満株式の数を控除した場合の割合が15.1%(原処分庁の主張する持株割合)である。
B また、本件贈与日における持株割合は、別表3のとおり、発行済株式数から自己株式等の数を控除した場合が14.8%(請求人らの主張する持株割合)、また、発行済株式数から自己株式等及び単位未満株式の数を控除した場合が15.0%(原処分庁の主張する持株割合)である。
(ニ)本件贈与日における、本件株式を類似業種比準価額により評価した場合の評価額は、1株当たり340円である。
リ 請求人ら及び原処分庁の双方ともに、本件会社の「本件直前期の前期」及び「本件直前期」における、次の点について、争いがない。
(イ)本件株式は、評価通達168の(3)に定める取引相場のない株式である。
(ロ)本件会社は、評価通達178に定める大会社に該当する。
(ハ)本件会社の評価通達183に定める配当金額(本件直前期を除く。)、利益金額及び純資産価額については、別表4のとおりの金額である。
 ただし、本件直前期の配当金額(332,316千円)の算出について、普通配当金に特別配当金を加算するべきか否かについては、争いがある。
(ニ)株価通達の適用に当たり、本件会社の類似業種比準価額を計算する場合に比準する類似業種の業種目は、「化学製品卸売業」であり、その業種番号は、平成10年分においては「81」、同11年分においては「82」である。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法又は不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分
(イ)本件更正処分の違法性
A 評価通達188の判定において、評価通達188−3及び評価通達188−4(以下「本件各通達」という。)は、発行済株式数から商法第241条に規定する議決権を有しないこととされる株式及び同法第242条に規定する議決権のない株式を控除する旨を特例的に定めているところ、単位未満株式は、本件各通達に定める株式ではないから、当然に、発行済株式数に単位未満株式の数も含まれていると解することができる。
 よって、発行済株式数から単位未満株式の数を控除しないで、持株割合を算定したところ、14.9%(別表3参照)となり、評価通達188(3)に定める「同族株主のいない会社の株式のうち、課税時期において株主の一人及びその同族関係者の有する株式の合計数が、その会社の発行済株式数の15%未満である場合」に該当するから、本件株式の価額を配当還元価額により評価した。
B しかしながら、原処分庁は、本件各通達に、発行済株式数から単位未満株式の数を控除する旨の定めがないにもかかわらず、単位未満株式に議決権がないことを理由に、本件会社の発行済株式数から自己株式等及び単位未満株式の数を控除するとともに、本件同族株式の数から単位未満株式の数を控除して持株割合を算定し、その結果、持株割合が15.1%(別表3参照)であるから、評価通達188の(3)の定めに該当しないと判定し、本件株式の価額を類似業種比準価額により評価して、その評価した本件株式の価額を基に本件更正処分を行っている。
C 以上のとおり、請求人らは、本件株式の価額を評価通達の定めに基づいて評価していることに対して、原処分庁は、本件各通達に単位未満株式についての定めがないにもかかわらず、本件各通達を拡大解釈して持株割合を算定しているので、それに基づいてなされた本件更正処分は、評価通達188及び本件各通達に定めのない、いわゆる課税根拠のない違法な処分である。
(ロ)本件更正処分の不当性
 仮に、本件相続税の本件更正処分が違法でないとしても、商法附則第16条の規定は、昭和56年に創設され、商法上、単位未満株式に議決権がないことは明らかである(同附則第18条)ところ、本件各通達は、商法改正が昭和56年以降数度にわたり行われていること、また、単位未満株式については、昭和56年以降議決権がないこととされているにもかかわらず、商法第241条及び同第242条に規定する株式についてのみ取扱いを定め、単位未満株式の取扱いについては長年にわたり定められていない。
 請求人らは、このような状況において、評価通達の定めに基づいて正当に本件相続税の申告をしたものであるから、評価通達の定めに基づかない本件更正処分は、行政の透明性・均一性の観点から不当である。
 また、単位未満株式(単元未満株式)の取扱いについては、15年改正通達ができるまでは、評価通達に定めがなく、この15年改正通達によって初めて単元未満株式(単位未満株式)の取扱いが定められたのであるから、単位未満株式の取扱いが定められる前の本件相続税には、15年改正通達を適用することはできない。
ロ 本件株式の価額の評価
 また、仮に、本件更正処分が違法又は不当でないとしても、原処分庁は、本件株式の価額を類似業種比準価額により評価しているから、次のとおり、評価通達183に定める「1株当たりの配当金額」及び「1株当たりの利益金額」について、算定誤りが認められる。
(イ)1株当たりの配当金額
 本件相続開始日における1株当たりの配当金額は、次の理由により、評価通達183の(1)の定めに基づき、特別配当金を含めずに普通配当金だけで算定すべきである。
A 特別配当金は、本件会社が合併した際の記念配当であり、合併が毎年行われるものではなく、合併を記念した特別な配当金である。
B 本件会社は、本件直前期に係る株主総会において、特別配当金である旨の説明をしている。
(ロ)1株当たりの利益金額
 本件相続開始日における1株当たりの利益金額は、評価通達183の(2)において、直前期末の評価会社の利益金額又は納税者の選択により評価会社の直前期と直前期の前期の利益金額を平均した金額によることができる旨定めている。
 しかしながら、原処分庁は、修正申告ではないから、納税者がどちらにより算定するか選択していないとの理由で、1株当たりの利益金額を直前期の利益金額により算定しているが、これは、評価通達183の(2)の解釈を誤っているから、「本件直前期」と「本件直前期の前期」の評価会社の利益金額を平均した金額により1株当たりの利益金額を算定すべきである。
ハ 本件賦課決定処分
(イ)上記イのとおり、本件更正処分は違法であるから、これに伴って、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(ロ)また、仮に、本件更正処分が違法でないとしても、次の理由により、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当するから、その全部を取り消すべきである。
A 本件更正処分の原因となった単位未満株式についての取扱いは、本件相続税の法定申告期限である平成12年4月7日の時点で、評価通達に明確化されておらず、単位未満株式(単元未満株式)の取扱いについては、15年改正通達において初めて明確化されたものである。
B また、単位未満株式(単元未満株式)の取扱いは、本件加算税取扱通達でいうところの「税法の解釈に関し申告書提出後新たに法令解釈が明確化された場合」に該当する。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法及び正当であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分
(イ)本件更正処分の適法性
 評価通達188に基づく判定は、持株割合を基として会社を支配できるかどうかにより判定することを基本的な考え方としており、単位未満株式が、議決権のない株式であり、会社支配に関係のない株式であることから、持株割合を判断する上で、単位未満株式は、本件各通達に定める議決権を有しないこととされる株式及び議決権のない株式の取扱いと同様に発行済株式数から控除すべきものである。
 そして、単位未満株式は、議決権がないことから、本件各通達における議決権のない株式と同様に取り扱うことが、真実の判定につながり、課税の公平負担の原則が保持される。
 したがって、本件更正処分は、本件各通達の趣旨を踏まえた処分であり、本件各通達に単位未満株式の取扱いが記載されていないことだけをもって、本件各通達からはずれた処分とはいえず、適法及び正当な処分であるから、請求人らの主張には理由がない。
(ロ)本件更正処分の正当性
 評価通達における株式の評価方法の区分が会社を支配できるかどうかを判定の前提としている以上、評価通達に明記されていないという理由で本件更正処分が不当な課税ということはできず、発行済株式数から単位未満株式の数を控除するという取扱いは、租税負担の公平という観点からしても是認されるので、本件更正処分は正当である。
ロ 本件株式の価額の評価
 本件株式の価額の評価は、次のとおり、適正に算定されたものである。
(イ)1株当たりの配当金額
 1株当たりの配当金は、次の理由により、特別配当金を通常配当金に含めて算定すべきである。
A 「定時株主総会招集ご通知」及び損益計算書には、特別配当金の額の記載があるだけで、特別配当金の内容は明記されていない。
B 特別配当金を1株当たり1円とするに至った経緯について、取締役会の議事録に記載等がなく、特別配当金の内容が確認できない。
C 本件会社は、翌期(本件相続期)も1株当たり8円50銭の通常配当を行っている。
(ロ)1株当たりの利益金額
 1株当たりの利益金額は、評価通達183の(2)に定めるとおり、原則として直前期の期末以前1年間の利益金額とし、納税義務者が直前期の期末以前2年間の利益金額を平均した金額としたときは、その金額によることができるとされているにすぎず、いずれか低い金額によるとは定められていない。
 したがって、1株当たりの利益金額は、直前期の利益金額を基に算定しているから、適正である。
ハ 本件賦課決定処分
 本件更正処分は、上記イ及びロのとおり、適法かつ正当であるから、それに基づく本件賦課決定処分についても、適法かつ正当である。
 なお、「正当な理由」については、次のとおりに解すべきである。
(イ)通則法第65条第4項
A 通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」とは、過少申告が災害その他納税者の責めに帰することができない真にやむを得ない事由をいうものであって、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をした場合など、申告当時に適法と見られたものが、その後の事情の変化により、納税者の故意、過失に基づかないで過少申告になった場合をいうものである。
B また、本件更正処分は、単位未満株式を本件各通達の趣旨を踏まえた上、議決権を有しないこととされる相互保有株式と同様に取り扱っているものであるから、公的見解の変更と解すべき点はなく、税務執行の統一性及び租税負担の公平性を保持している。
C したがって、請求人らの主張する単位未満株式の取扱いが、本件各通達に明記されていなかったという事情は、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由」がある場合には該当しない。
(ロ)本件加算税取扱通達
A 本件加算税取扱通達の第1の1の(1)は、正当な理由として、「税法の解釈に関して申告書提出後に法令解釈が明確化されたため、その法令解釈と納税者の解釈が異なることとなった場合において、その納税者の解釈について相当の理由があると認められること。」と定めている。
B そして、評価通達は、持株割合を基として会社を支配できるかどうかを基本的な考え方としていることについての解釈の変更はなく、また、15年改正通達において、新たに基本的な考え方を明確化したものではないから、本件加算税取扱通達でいう相当な理由がある場合には該当しない。

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3 判断

(1)本件更正処分

 本件の争点は、本件株式の評価方法にあるので、以下審理する。
イ 本件株式の評価
(イ)時価の意義と評価方法
A 相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別に定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、相続による財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
B しかしながら、客観的交換価値というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般的基準として評価通達が定められており、特別な事情がない場合には、同通達に定められた評価方法によって財産を評価することが相当である。
 この考え方は、財産の客観的な交換価値を示す価額を個別に評価する方法を採用した場合には、その評価方法、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることは避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税実務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等からして、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価するほうが、納税者間の公平・便宜という見地から見て合理的であるという理由によるものである。
 そうすると、租税公平主義の観点からは、評価通達に定められた評価方法が合理的である限り、同通達が形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができるものと解されるが、同通達の評価方法を形式的に適用することによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなどの特別の事情がある場合には、他の合理的な方法によることができるものと解すべきである。
C また、一方、相続税の評価の一般的基準である評価通達は、予想される主な財産のほとんどすべてを対象とし、各種財産の時価に関する原則及びその具体的な評価方法を明らかにしているが、相続税の課税対象となる財産は多種多様であるから、評価通達5は、評価通達に評価方法の定めがない場合等には、この評価通達に定める評価方法に準じて評価する旨定め、評価通達6は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する旨定めている。
 この趣旨は、評価通達の定めのない財産については、その性質や態様に即して適正な時価評価を行おうとするものであり、評価通達第2章以下に定める評価方法を画一的に適用した場合には、その性質や態様に即した適正な時価評価を求められず、その評価額が不適切なものとなり、著しく課税の公平を欠く場合が生じることも想定されることから、そのような場合には、個々の財産の性質や態様に応じた適正な時価評価が行えるよう定めているものと解される。
(ロ)評価通達に定める株式の評価方法
A ところで、株式の評価について、評価通達168は、上場株式、気配相場のある株式及び取引相場のない株式等に区分して評価する旨定めている。
B このうち、取引相場のない株式については、その会社規模が、大は上場会社に匹敵するものから、小は個人企業と変わらないものまでさまざまであり、これらの会社の株主をみると、会社の所有者ともいうべき株主から、従業員株主などのような少数株主までさまざまであり、また、証券取引所等による取引価格(市場価格)を有するものではなく、仮に、取引事例がみられる場合でも、それは特定の当事者間あるいは特別の事情で取引されるのが通常であるので、その取引価格を相続税評価額として直ちに株式の評価に採用することも適当ではなく、それぞれの会社の規模等の実態に即して評価することが合理的である。
C そこで、大会社については、上場株式や気配相場等のある株式の発行会社に匹敵するような規模の会社であって、その株式が通常取引されるとすれば、上場株式や気配相場等のある株式の取引価格に準じた価額が付されることが想定されることから、評価通達179は、現実に流通市場において価格形成が行われている株式の価額に比準して、原則として、類似業種比準価額により評価する旨定めており、これを大会社の株式評価における原則的な評価方法として位置付けている
 なお、会社規模に応じたその他の原則的な評価方法としては、純資産価額方式及び類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式がある。
D また、評価通達188は、「同族株主以外の株主等が取得した株式」の範囲及びその評価方法について定めており、少数株主の所有する株式の価額を配当還元方式により評価することとしている。
 この配当還元方式は、取引相場のない株式の評価の原則的評価方法である類似業種比準価額、純資産価額方式及び類似業種比準方式と純資産価額方式の併用方式に対する特例的評価方法として位置付けられているところ、この評価方法は、株主のなかでも事業経営への影響の少ない同族株主の一部及び従業員株主等のような少数株主の所有する株式について、単に配当を期待するにとどまるという実質のほか、評価手続の簡便性をも考慮したものであるから、一定の範囲内の株式について、限定的に適用されるべきものと解される。
E このような評価通達の定めについては、〔1〕各種財産の時価を客観的かつ適正に把握することが容易でないこと、及び〔2〕納税者間で財産の評価が区々になることは、課税の公平の観点から見て好ましいことではないことに照らして合理的なものということができるので、当審判所においても相当であると認める。
ロ 本件更正処分の違法性
 請求人らは、原処分庁が本件各通達を拡大解釈して、発行済株式数から自己株式等及び単位未満株式の数を控除して算定された持株割合に基づいて、類似業種比準価額で評価して行った本件更正処分は、本件各通達に定めのない違法な処分である旨主張する。
 しかしながら、次の理由により、請求人の主張は採用できない。
(イ)株主区分判定上の株式の保有割合
 評価通達では、取引相場のない株式の発行会社が大会社にあっては、上記イの(ロ)のCのとおり、原則として、類似業種比準価額により評価することとされており、単に配当を期待するだけで事業経営への影響の少ない少数株主については、特例的に配当還元価額により評価することされている。
 また、配当還元価額による評価方法を採用すべき株式であるか否かの判定、すなわち株主区分の判定は、株式の保有割合を基として会社を支配できるかどうかを基本的な考え方とし、具体的には評価通達188によることとされている。
 さらに、株式の保有割合については、評価会社の発行済株式数に占める株主の有する株式数又は株主の一人及びその同族関係者の有する株式の合計数の割合により判定することとされているが、この場合の「発行済株式数」は、本件各通達において、「議決権を有しないこととされる株式」及び「議決権のない株式」を会社支配に関係のない株式として発行済株式数等から控除した数とすることとされている。
(ロ)商法の改正と議決権のない株式等の評価通達における取扱い
A ところで、相互保有株式(商法第241条第3項)については、昭和56年の商法改正において、評価会社の意向を受けた議決権の行使がされることによって総会決議がゆがめられるという弊害に着目し、議決権のない株式とされ、この商法改正に併せて、昭和58年4月に、相互保有株式は、その保有期間も長く、課税上も問題となりうることから、評価通達188−3(なお、平成12年の改正により、通達番号が188−4に変更している。)において、評価通達188の株主区分の判定に当たり、会社支配に関係のない株式として、評価会社の発行済株式数から控除する旨を定めたものと解される。
B また、商法第241条第2項(平成13年追加)に規定する自己株式は、例外的な場合を除き自己株式の取得が禁止されており、仮に、自己株式を取得しても遅滞なくあるいは短期間に処分する必要があったので、株式評価において検討を要するケースは少なかったことから、評価通達においては、評価会社が自己株式を有する場合の取扱いを特に定めていなかった。
 しかしながら、平成6年及び同9年の商法改正により、自己株式の取得規制の緩和等により自己株式を保有することとなる場合が増加してきたことから、評価会社の意向を受けた議決権の行使により総会決議がゆがめられる恐れが生じたため、相互保有株式と同様の考え方により、議決権を有しないこととされた。そして、この商法改正を受けて、平成12年の評価通達の改正により、評価通達188−3において、評価会社が自己株式を有する場合の取扱いを明示し、評価会社の発行済株式数は、その自己株式の株式数を控除した数と定められたものと解される。
C さらに、商法第242条(平成13年追加)に規定する議決権のない株式、すなわち配当優先株式は、平成2年の商法改正前までは、資金調達手段として極めて少数の会社で例外的にしか利用されていなかったが、平成2年の商法改正により、当該株式の発行枠が発行済株式数の4分の1から3分の1に拡大され、優先配当金については、定款には上限の記載で足りることとし、具体的には、発行時の市場等の状況等に応じて取締役会の発行決議で弾力的に決められるなど、優先株式の機動的発行に資するとともに、発行後における手続きも簡素化するなどして、平成3年4月から施行されたことから、その後における議決権のない株式の発行増加が見込まれた。
 そのため、平成3年の評価通達の改正により、評価通達188−4(なお、平成12年の改正により、通達番号が188−5に変更している。)において、評価会社が議決権のない株式を有する場合の取扱いが新たに設けられたものと解される。
D なお、昭和56年の商法改正時の附則において、単位株式制度は、暫定的かつ過渡的な制度として株式の額面金額を原則5万円とする旨規定され、この制度が適用されるのは、上場会社及びこの制度を適用した上場会社以外の会社に限られることから、評価通達では、評価会社が単位未満株式を有する場合の取扱いについて特に定めていなかったものと解される。
E これらの株式のうち、上記AないしCの株式については、商法の各規定上、議決権を有しないものあるいは議決権なきものとされていることから、商法第240条においても、共に株主総会の決議要件である発行済株式数に算入しない旨規定されている。
 また、上記Dについては、商法附則第18条第1項の規定により、議決権の行使をすることができないものとされており、かつ、同附則第20条第1項により、単位未満株式の合計数は、総会決議に当たり、発行済株式数の総数に算入しないこととされており、また、株式譲渡制限に係る定款変更決議において、単位未満株式しか有しない株主も、総株主の数に算入しないこととされている。
 このように、上記AないしDの株式については、いずれも会社支配に重大な影響を与える株主総会の決議要件である発行済株式数に算入しないこととされており、いいかえれば、会社支配に重大な影響を与える株式とは、1株1議決権を基本(商法第241条第1項)として、議決権のある株式であると解される。
(ハ)株式の保有割合の判定上、発行済株式数から控除される株式の範囲
A ところで、株式の保有割合の判定上、発行済株式数から控除される株式について、評価通達188−3は、「議決権を有しないこととされる株式」とは、商法第241条第3項に規定する相互保有株式という旨、また、同188−4は、「議決権のない株式」とは、同法第242条第1項に規定する議決権のない株式である旨定めており、具体的には配当優先株式を指すものと解される。
 しかしながら、自己株式は、評価会社が自ら保有するものであるから、評価通達188−3の文理解釈上、自己株式も含むものと解する余地もありうるものと解される。
 また、株主区分の判定については、上記(イ)のとおり、株式の保有割合を基として会社を支配できるかどうかを基本的な考え方としているから、商法第240条が株主総会の決議要件である発行済株式数に議決権のない株式等を算入しない旨規定していることと、符合させたものと解するのが相当である。
 そうすると、評価通達178における原則的な評価方法に対して設けられた同188の特例的評価方法についても、会社支配に関係する株式について比較すべきものであり、また、特例的評価方法である配当還元方式を適用するに当たり、株式の保有割合を判定する場合における発行済株式数についても、商法における規定ぶりと同様に解すべきであるから、評価通達188に定める発行済株式数には、会社支配に影響を及ぼさないところの議決権を有しないこととされる株式及び議決権のない株式は、当然に含まれないものと解すべきである。
B また、上記(ロ)の商法の改正経緯と評価通達の整備状況から、限定的に本件各通達が定められたと解することは相当ではなく、課税実務上、必要な範囲で発行済株式数から控除される株式を明示したものと解すべきである。
C そうすると、株式の保有割合の判定において、発行済株式数に自己株式及び単位未満株式を含めることは、商法がこれらの株式について議決権を有しないこととした趣旨に照らしてみると、株主総会の決議における株主の議決権割合ともそごを来すことにもなり、合理性が見いだされないから、むしろ、本件各通達に定める議決権を有しないこととされる株式及び議決権のない株式と同様に、発行済株式数から控除することが相当であると認められる。
D なお、請求人は、評価通達188の判定において、本件各通達に単位未満株式の定めがない旨主張する。
 しかしながら、会社支配に関係のない自己株式及び単位未満株式を発行済株式数に含めて判定するならば、商法における会社支配に影響を与える株式の範囲とのそごを来たし不適当なものとなる。
 また、会社支配に関係のない株式の自己株式及び単位未満株式を本件各通達の定めに準じて取り扱うことについては、評価通達5において、評価通達に評価方法の定めのない財産の価額は、この評価通達に定める評価方法に準じて評価する旨定めていることからしても、評価通達を拡大解釈したものであるとの主張は相当でない。
 したがって、原処分庁が発行済株式数から自己株式等及び単位未満株式の数を控除して持株割合を判定し、原則的評価方法により評価して行った本件更正処分は、適法である。
 よって、評価通達188の判定において、発行済株式数から単位未満株式の数を控除することは、本件各通達を拡大解釈したものであるとの請求人の主張は採用できない。
ハ 本件更正処分の不当性
 請求人らは、評価通達に単位未満株式の取扱いが、長年定められず、15年改正通達により初めて単位未満株式(単元未満株式)の取扱いが定められたのであるから、評価通達188及び本件各通達の定めに基づかない本件更正処分は、不当である旨主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、次の理由により、採用できない。
(イ)ところで、平成13年及び平成14年の商法改正により、単元株制度の創設及び株式の多様化が認められることになり、株主の有する株式の数と議決権の数が必ずしも一致しなくなったことから、15年改正通達188において、「株式の総数」を「議決権の数」に、「発行済株式の総数」は「議決権総数」とするなどの改正が行われ、更に、同188−3ないし188−5についても同様の趣旨から整備が図られたものと解することができる。
(ロ)そうすると、上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、15年改正通達の改正前における取扱いと改正後の取扱いにそごはなく、単位未満株式(単元未満株式)の取扱いが、15年改正通達により初めて明確化されたとは言えない。
(ハ)また、上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、評価通達188に定める発行済株式数には、会社支配に影響を及ぼさない議決権を有しないこととされる株式及び議決権のない株式は、当然に含まれないと解すべきであり、商法の改正経緯と評価通達の整備状況から、限定的に本件各通達が定められたと解することは相当ではないので、原処分庁は、評価通達を拡大解釈して適用したものとも言えない。
ニ 本件株式の価額の評価の妥当性
(イ)認定事実
A 本件会社は、本件直前期、本件直前期の前期及び本件直前期の前々期の期末における貸借対照表上の利益の範囲内で配当金を支払っている。
B 本件会社の本件直前期に係る「第52期定時株主総会招集ご通知」において、決議事項の第1号議案として、利益処分案に基づき、「当期の利益配当につきましては、1株につき通常配当7円50銭、特別配当1円、合計8円50銭とする。」旨記載されており、また、平成11年6月29日に開催された株主総会においては、原案のとおり、承認可決されている。
C 本件会社の第52期定時株主総会の議事運営要領(平成11年6月29日午前10時開会)の「5議案の審議」には、第1号議案として、利益配当金は1株につき普通配当7円50銭、合併初年度の記念として特別配当1円、合計8円50銭とする旨審議をして、承認可決された旨の記載がある。
D 本件会社の本件直前期の前期及び本件直前期の前々期に係る定時株主総会において、それぞれ、本件直前期の前期が1株につき通常配当7円50銭及び本件直前期の前々期が1株につき通常配当7円50銭、特別配当1円50銭の利益処分案について決議し、承認可決されている。
E 本件会社の本件相続期に係る「第53期定時株主総会招集ご通知」の「1営業の概況」の「(1)営業の経過および成果」には、「営業面では、過去3年連続で実施されてきました薬価基準の引き下げは見送られたものの、競争激化による売上総利益率の大幅な低下に苦戦しましたが、当初予算を上回る売上増により利益額の減少を最小限に食い止めることができた。」旨の記載がある。
F 本件会社が合併する前の本件直前期の前期及び本件直前期の前々期に対応するU社、V社、W社、X社及びY社の財務状況等については、別表4−付1ないし3のとおりである。
(ロ)1株当たりの配当金額
A 原処分庁は、定時株主総会招集ご通知、損益計算書及び取締役会の議事録に特別配当金を1株当たり1円とする内容及び経緯等についての記載がなく、また、本件相続期も通常配当金が1株当たり8円50銭であることから、特別配当金を通常配当金に含めて1株当たりの配当金の算定をしなければならない旨主張する。
B ところで、評価通達183の(1)において、1株当たりの配当金額を直前期末以前2年間の平均配当金額によることとしているのは、特定の事業年度のみの配当金額を採用することによる評価の危険性を排除し、ある程度の期間における配当金額を平均することによって通常的な配当金額を求め、その配当金額を上場株式のそれと比較することによって安定性のある評価を行うためであると解される。
 また、1株当たりの配当金額の算定において、特別配当、記念配当等の名称による配当金額のうち、将来、毎期継続することが予想できない金額を除くこととしているのは、評価通達1《評価の原則》の(2)に定める時価が、客観的要素が考慮され、他方、主観的な要素が排除されることにより、客観的な交換価値を求めているものと解されるところ、配当金額についても、特別配当や記念配当等のように主観的な要素(異常要素)を排除し、通常的な配当金額を求めるものであると解される。
C このように、1株当たりの配当金額については、特別配当及び記念配当等の名称による配当金額のうち、将来、毎期継続することが予想できない金額を除いた直前期及び直前期の前期の配当金額を平均した金額と、同時期における評価会社に類似する上場会社のそれとを比較することにより、株式の評価をすることとされていることから、本件相続税の課税時期に支払が確定していない本件相続期の配当金額1株当たり8円50銭及び本件直前期の配当金額が普通配当7円50銭及び特別配当1円の合計額8円50銭とが同額となることを理由に、本件直前期においても、1株当たりの配当金額を8円50銭とすべきであるとする原処分庁の主張は採用できない。
 なお、本件相続期において普通配当が8円50銭であることについては、上記(イ)のEのとおり、合併の経済的効果により業績の維持が図られたことに基づく配当金額の決定であると認められる。
D そして、本件会社において、上記(イ)のAのとおり、本件会社の貸借対照表上の利益の範囲で配当金(普通配当及び特別配当)が支払われていることから、商法第290条の規定上の問題はなく、本件会社は、直前期の期首の平成10年4月1日に合併し、上記(イ)のB及びCのとおり、合併後の平成11年6月29日の株主総会において第1号議案として、1株当たり通常配当7円50銭及び特別配当1円とする原案のとおり株主の承認を受けていると認められることから、請求人らの主張するとおり、特別配当は合併を記念した特別な配当であると判断するのが相当である。
E また、特別配当を1円とする内容及び経緯が明確でないとすることについては、〔1〕上記(イ)のCのとおり、本件会社の第52期(本件直前期)定時株主総会において、利益配当金は1株につき普通配当7円50銭、合併初年度の記念として特別配当1円とする旨審議し承認可決され、〔2〕上記(イ)のDのとおり、本件会社(旧U社)は、合併前の本件直前期の前期に1株当たり普通配当7円50銭及び本件直前期の前々期に1株当たり普通配当7円50銭、特別配当1円50銭の配当をしており、〔3〕別表4−付1ないし3のとおり、本件会社(旧U社)の本件直前期、本件直前期の前期及び本件直前期の前々期の利益金額の状況からみても、本件直前期において普通配当を7円50銭とすることは不合理ではなく、〔4〕上記Dのとおり、本件会社(旧U社)が本件直前期に合併したことを奇貨として、特別配当を1円と決定したことについても不合理とはいえない。
 したがって、評価通達183の(1)の定めにより、本件相続開始日における1株当たりの配当金の算定は、特別配当金を通常配当金に含めずに、通常配当の1株当たり7円50銭を基として算定することが相当である。
F 以上のとおり、本件直前期の特別配当部分については、将来において毎期継続することが予想できる通常配当であるとは認められず、合併を記念した特別な配当と認めるのが相当であるから、原処分庁の主張は採用できない。
(ハ)1株当たりの利益金額
 請求人らは、本件相続開始日における1株当たりの利益金額について、課税時期の本件直前期の利益金額ではなく、「本件直前期」と「本件直前期の前期」の2年間の利益金額を平均した金額によるべきである旨主張する。
A ところで、評価通達183の(2)において、直前期末以前1年間における法人税の課税所得金額を基として1株当たりの利益金額を算定することとしているのは、評価会社と上場株式の発行会社の利益計算の恣意性を排除し、両者の利益金額について、同一の算定基準によって計算した実質利益の額を基として両者を比較するのが合理的であると解される。
 また、この1株当たりの利益金額については、納税義務者の選択により、特例的に直前期末以前2年間の平均利益金額を基として1株当たりの利益金額の計算ができることとしているが、これは、評価会社における課税時期の直前期の利益金額が、評価会社の個別事情により、その前年の利益金額を大きく上回ることとなる場合には、評価上その利益金額の比準割合の妥当性については問題がないとは言い切れないところがあることから、評価の安全性の考慮を図ることとしているものと解される。
B このように、評価通達183の(2)は、1株当たりの利益金額について、直前期末以前1年間の利益金額と直前期末以前2年間の平均利益金額とのいずれか低い利益金額によるべきである旨を定めているものではなく、本件相続開始日における1株当たりの利益金額の算定は、原則として課税期間の直前期の利益金額を基に算定することから、本件相続開始日の課税年度に対応するのは、本件直前期の利益金額であると判断するのが相当である。
 また、本件会社は、本件直前期の期首の平成10年4月1日に合併しているものの、本件会社の本件直前期、本件直前期の前期及び本件直前期の前々期の事業内容等を比較してみると、前記1の(4)のリの(ハ)及び上記(イ)のFのとおり、売上高、主たる業種目、配当金額、利益金額及び純資産価額からすると、本件直前期の利益金額による比準割合は、類似業種比準価額の算定において妥当性に欠けると言えるほど大幅に変動しているとは認められず、合併以外の個別事情も特に認められない。
C したがって、本件会社の利益金額は、本件直前期の利益金額を基に算定すべきであり、本件相続開始日における1株当たりの利益金額について、原処分庁が本件直前期の利益金額を基に算定した金額は、当審判所が調査した金額とも一致しており、適正であると認められるから、当該金額に誤りがあるとする請求人らの主張は採用できない。
D なお、本件相続開始日における本件株式の1株当たりの評価額については、上記(ロ)のEのとおり、原処分庁の1株当たりの配当金額の算定に誤りが認められるから、当審判所が計算したところ、別表5の「審判所認定額」の「比準価額の修正」欄のとおり、557円となる。
(ニ)本件株式の価額の評価額
 本件株式の価額は、原処分庁が主張するとおり類似業種比準価額により評価すべきところ、当審判所が調査したところによれば、本件更正処分において、取得財産の価額の算定に誤りが認められるから、請求人らが本件被相続人から相続及び贈与(本件相続開始日の3年以内)により取得した財産の価額は、それぞれ別表6の「相続」及び「贈与」の「取得財産の価額」及び「贈与財産価額」欄のとおりとなる。
 そうすると、請求人らの納付税額は、別表7の「審判所認定額」の「納付すべき税額」欄のとおり、Jが284,720,400円、Kが169,827,400円及びLが134,100,800円となり、本件更正処分に係る納付すべき税額(Jが286,267,700円、Kが170,746,100円及びLが134,826,000円)を、それぞれ下回ることから、その一部を取り消すべきである。

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(2)過少申告加算税の本件賦課決定処分

 請求人らは、本件更正処分は違法であり、これに伴い本件賦課決定処分も取り消すべきであり、また、仮に本件更正処分が違法でないとしても、単位未満株式の取扱いは、本件加算税取扱通達でいう「税法の解釈に関し申告書提出後新たに法令解釈が明確化された場合」に該当するから、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当し、取り消すべきである旨主張する。
イ ところで、通則法第65条第4項には、納付すべき税額の計算の基礎となった事実のうちにその更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて正当な理由があると認められるものがある場合には、納付税額からその正当な理由があると認められる事実に基づく税額を控除した金額とする旨規定している。
 また、本件加算税取扱通達第1の1の(1)は、税法の解釈に関し申告書提出後、新たに法令解釈が明確化されたため、その法令解釈と納税者の解釈とが異なることとなった場合において、その納税者の解釈について相当の理由がある場合には、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる事実として取り扱う旨定め、また、その注書において、税法の不知若しくは誤解又は事実誤認に基づくものは、これに当たらない旨定めている。
ロ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)本件相続税の本件更正処分は、上記(1)のロ及びハのとおり、適法かつ正当である。
 また、評価通達188の判定において、発行済株式数のうちに単位未満株式等の議決権を有しないこととされる株式及び議決権のない株式の数が含まれないことについては、上記(1)のロの(ハ)のとおり、15年改正通達は、従来からの取扱いを明確にしたものであり、単位未満株式の取扱いについての評価通達の解釈が、15年改正通達により解釈が新たに定められたとは認められないから、本件加算税取扱通達に定める「相当な理由がある場合」には該当しない。
 さらに、本件相続税の計算の基礎となった事実についても、通則法第65条第4項に規定する「正当な理由がある場合」に該当するとは認められない。
 よって、請求人らの主張は採用できない。
(ロ)したがって、通則法第65条第1項及び第2項の規定に基づきされた本件賦課決定処分は適法であると認められるところ、当審判所が調査したところによれば、請求人らの過少申告加算税の額は、本件更正処分における課税価格の算定に誤りが認められるから、別表7の「審判所認定額」の「過少申告加算税の額」欄のとおりとなる。
(ハ)以上のことから、請求人らの過少申告加算税の額は、別表7の「審判所認定額」の「過少申告加算税の額」欄のとおり、Jが25,960,000円、Kが7,895,000円及びLが4,315,000円となり、本件賦課決定処分の額を、それぞれ下回ることから、その一部を取り消すべきである。

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(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙 関係通達の抜粋及びその内容(要旨)

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