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(平17.6.29裁決、裁決事例集No.69 18頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、歯科材料の卸売業を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)の従業員が行った不正経理行為について、請求人の行為と同一視できるか否かを主な争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 平成11年9月1日から平成12年8月31日まで、同年9月1日から平成13年8月31日まで、同年9月1日から平成14年8月31日まで及び同年9月1日から平成15年8月31日までの各事業年度(以下、順次「平成12年8月期」、「平成13年8月期」、「平成14年8月期」及び「平成15年8月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、審査請求(平成16年11月22日請求)に至る経緯等は別表1のとおりである。
 なお、以下、本件各事業年度の法人税に係る重加算税の各賦課決定処分を「本件法人税各賦課決定処分」という。
ロ 平成11年9月1日から平成12年8月31日まで、同年9月1日から平成13年8月31日まで、同年9月1日から平成14年8月31日まで及び同年9月1日から平成15年8月31日までの各課税期間(以下、順次「平成12年8月課税期間」、「平成13年8月課税期間」、「平成14年8月課税期間」及び「平成15年8月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、審査請求(平成16年11月22日請求)に至る経緯等は別表2のとおりである。
 なお、以下、本件各課税期間の消費税等に係る重加算税の各賦課決定処分を「本件消費税等各賦課決定処分」という。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の経理事務は、請求人の取締役で経理責任者であるAと従業員であったBの2名で行っていた。
ロ Bは、平成9年10月に臨時職員として請求人に入社した後、翌年3月から正社員となり、営業担当者が売掛金の回収の都度作成した入金伝票(以下「売掛入金伝票」という。)などから現金出納帳を記帳、また、営業担当者が作成した売上伝票を月別で集計するなどの経理事務に従事していた。
ハ Bは、〔1〕売上伝票に記載された売上額を月別で集計するに当たり、その合計額を圧縮して月別の売上集計表(以下「本件売上集計表」という。)を作成する、〔2〕請求人の関与税理士に売掛入金伝票を提出する際、売上伝票を集計した正当額と本件売上集計表に記載された圧縮後の額との開差額(圧縮額)に近似又は一致する売掛入金伝票を提出しない(以下、〔1〕及び〔2〕の各行為を併せて「本件売上等圧縮行為」という。)、〔3〕平成15年8月期の期末棚卸金額算出のため各従業員等が記載した棚卸原票の一部を書き換える方法で期末棚卸金額を2,111,881円圧縮(以下、「本件棚卸圧縮行為」といい、「本件売上等圧縮行為」と併せて「本件不正経理行為」という。)している。
ニ 本件各事業年度毎の売上伝票に記載された売上額の合計額(正当額)は、次表の「売上伝票集計額〔1〕」欄のとおりであり、本件売上集計表に基づいて請求人の関与税理士が計算した本件各事業年度毎の売上額の合計額(確定申告書に添付された損益計算書の売上金額)は、同表の「申告売上金額〔2〕」欄のとおりである。

 (単位 円)
事業年度/項目売上伝票集計額申告売上金額売上除外額
 〔1〕〔2〕〔3〕
 (〔1〕-〔2〕)
平成12年8月期188,492,203183,583,5234,908,680
平成13年8月期214,352,593210,393,5203,959,073
平成14年8月期212,088,864203,426,4188,662,446
平成15年8月期229,327,168222,471,1996,855,969

(4)関係法令等

イ 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、過少申告加算税を課する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
ロ 通則法第70条《国税の更正、決定等の期間制限》(平成16年法律第14号による改正前のもの。以下同じ。)第1項は、更正処分は、その更正に係る国税の法定申告期限から3年を経過した日以後においてはすることができない旨規定し、さらに、同条第5項は、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正は、その更正に係る法定申告期限から7年を経過する日まですることができる旨規定している。

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2 争点

(1)争点1

 通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為(本件売上等圧縮行為)に、請求人の故意が必要か否か。

(2)争点2

 従業員が行った隠ぺい又は仮装行為(本件不正経理行為)について、請求人の行為と同一視できるか否か。

3 主張

(1)争点1

原処分庁

 通則法第70条第5項の規定は、行為主体が納税者であるかどうかを問わず、偽りその他不正行為によって全部又は一部の税額を免れた場合に適用があると解すべきである。

請求人

 通則法第70条第5項には、「偽りその他不正行為」という文言が使用され、不正行為とは、故意の行為を意味するものであり、単純な結果責任と解すべきではないところ、本件売上等圧縮行為は、請求人の故意の不正行為でないから、同項の偽りその他不正行為に該当しない。
 したがって、原処分庁が、平成12年8月期の法人税及び平成12年8月課税期間の消費税等の各更正処分をしたことは違法である。

(2)争点2

原処分庁

 本件不正経理行為については、次のとおり、請求人の隠ぺい又は仮装行為に該当する。
イ 本件売上等圧縮行為
 本件売上等圧縮行為は、〔1〕Bが売上げに関する経理事務の担当者であったこと、〔2〕Bが作成した本件売上集計表や同人が整理・管理していた売掛入金伝票の提出を受けて、関与税理士が申告の売上金額を計算していること、〔3〕売上圧縮額は少額でなく、また、B以外の者が、入金伝票と現金を照合し、現金出納帳を検討していれば容易に判明したにもかかわらず、請求人がBに経理帳簿の記帳や現金管理を任せ切りにしていたことからすれば、請求人の隠ぺい又は仮装行為というべきである。
ロ 本件棚卸圧縮行為
 請求人の取締役で経理責任者であるAが、Bに対して棚卸原票の書き換えを指示した旨申述したことなどからすれば、本件棚卸圧縮行為は、Aの指示に基づき行われたものと認められ、請求人の隠ぺい又は仮装行為というべきである。

請求人

 本件不正経理行為については、〔1〕Bが自己の窃盗又は横領行為の発覚を防止するために行った不正行為であること、〔2〕請求人が通常の調査をしても発見できない方法で本件売上等圧縮行為が行われ、また、記帳や現金管理を任せ切りにした事実もないこと、〔3〕AがBに対して本件棚卸圧縮行為を指示した事実はないことからすれば、請求人に結果責任を課すべきではなく、課税主体である請求人の隠ぺい又は仮装行為に該当しない。
 したがって、本件法人税各賦課決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分は違法であるから、これらを取り消すべきである。

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4 判断

(1)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
イ Bは、売掛入金伝票に記載されている売掛金の回収額と営業担当者が提出した現金の実際有高との照合や現金出納帳及び売上げに関する帳簿の記帳並びに売掛入金伝票の整理などの経理事務を一人で行っており、請求人の経理事務の主要な立場であった。
ロ 請求人の関与税理士が、Bから提出された売掛入金伝票や本件売上集計表に基づいて決算及び確定申告に係る売上金額を計算していることから、Bの行った本件売上等圧縮行為は、請求人の確定申告に直接反映していると認められる。
ハ 請求人においては、営業担当者が提出した日々の売掛金回収に係る現金は、Bが売掛入金伝票と照合した上、金庫内に一時保管し、当該保管した現金の全額を概ね週一回銀行預金口座に入金する経理手続が採られていたところ、現金出納帳に記載された売掛金回収額の合計額(前回銀行預金口座入金日後から今回入金日まで)より銀行預金口座入金額の方が少ないという、理由不明の開差(以下「本件入金開差」という。)が本件各事業年度の期間内に約100回弱存在する。
ニ Bを職務上管理する立場にあるAは、Bが作成した現金出納帳などの帳簿書類の点検及び当該帳簿書類と銀行預金口座入金額との照合をしていない。

(2)争点1

 通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為(本件売上等圧縮行為)に、請求人の故意が必要か否か。
イ 通則法第70条の規定の趣旨は、法律関係の早期安定という観点から、本来納付すべき税額の徴収を制限するものであると解されるところ、偽りその他不正の行為によりその全部又は一部の税額を免れた国税についての更正まで、同条第1項に規定する期間内に行わしめるものとすることは、実質的な租税負担の公平の観点から相当でない。
 そこで、通則法第70条第5項は、上記のような国税に係る更正について7年間という長い期間を定めたものと解され、同項による期間の延長は、納税者が本来納付すべきであった正当税額の納付を求めるものであって、納税者に対して特段の負担を新たに発生させるものではない。そうすると、特に行為主体が限定されることなく規定されている同項にいう「偽りその他不正の行為」とは、税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能又は困難にするような何らかの偽計その他の工作を伴う不正な行為を行っていることをいい、偽りその他不正の行為を行ったのが納税者であるか否か、あるいは納税者自身において偽りその他不正の行為の認識があるか否かにかかわらず、客観的に偽りその他不正の行為によって税額を免れた事実が存在する場合には、同項の適用があると解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、上記1の(3)のハのとおり、請求人の重要な経理事務を担う地位にいたBは、真実の売上金額を圧縮したところで本件売上集計表を作成し、本件売上集計表を請求人の確定申告に直結する会計帳簿の作成のため関与税理士に提出しており、同人においても、特段の事情のない限り、本件売上集計表が確定申告の基礎となることは十分認識していたと認められるから、その行為は、税額を免れる意図のもとに、税の賦課徴収を不能又は困難にするような偽計その他の工作を伴う不正な行為にほかならず、通則法第70条第5項に規定する偽りその他不正の行為に該当する。
 そうすると、請求人は、偽りその他不正の行為によって税額を免れたと認めるのが相当であり、平成12年8月期の法人税の更正処分及び平成12年8月課税期間の消費税等の更正処分は、いずれも適法である。

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(3)争点2

 従業員が行った隠ぺい又は仮装行為(本件不正経理行為)について、請求人の行為と同一視できるか否か。
イ 通則法第68条第1項は、納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに重加算税を課する旨規定している。
 そして、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにあるところ、このような制度の趣旨からすれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部に隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまで必要とするものではないと解すべきであるから、隠ぺい又は仮装の行為は、納税義務者たる法人の代表者に限定されるものでなく、従業員を自己の手足として経済活動を行っている納税者においては、隠ぺい又は仮装の行為が代表者の知らない間に従業員によって行われた場合であっても、その従業員の行為を納税者の行為と同一視することが相当である場合には、法人自身が当該行為を行ったものとして重加算税を賦課することができるものと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみると、上記1の(3)及び上記(1)の事実関係からすれば、本件不正経理行為は、次のとおり、請求人の行為と同一視されると認められる。
(イ)本件売上等圧縮行為
 本件売上等圧縮行為については、〔1〕Bは請求人の重要な経理事務を担う地位にいたと認められること、〔2〕Bの作成した本件売上集計表が請求人の関与税理士に提出され、本件売上集計表の金額が請求人の納税申告に直接反映していること、〔3〕本件売上等圧縮行為は、長期に及び、また、現金出納帳に記載された本件入金開差の回数が本件各事業年度の期間内に約100回弱も存在することから、請求人が現金出納帳の記載を踏まえ売掛金回収額と銀行預金口座入金額ないしは売掛入金伝票と銀行預金口座入金額との照合をすれば容易に把握できたと認められるところ、〔4〕請求人は、それらの照合を行っていないことを総合勘案すれば、本件売上等圧縮行為がBの行為であっても、請求人の行為と同一視されると認められる。
 なお、請求人は、本件不正経理行為は〔1〕請求人が通常の調査をしても発見できない方法で行われており、また、Bに記帳や現金管理を任せ切りにしていた事実はない、〔2〕本件売上等圧縮行為はBが横領等の発覚を防止するために行ったものである旨主張する。
 しかしながら、本件不正経理行為は容易に発見でき、請求人が、Bの経理処理について十分に注意を払い管理・監督を行っていたと認めることはできないから、請求人の主張には理由がない。
 また、仮に本件売上等圧縮行為が請求人の主張するようにBが横領等の発覚を防止するために行ったものであったとしても、上記判断に影響するものではないから、同人の横領等の事実を前提とする請求人の主張には理由がない。
(ロ)本件棚卸圧縮行為
 重要な経理事務を担っていたBが行った本件棚卸圧縮行為は、請求人の期末棚卸資産を仮装し、簿外棚卸資産を作出する行為であり、本件棚卸圧縮行為に基づいて虚偽の申告がなされることは、同人においても十分認識していたと認められるから、請求人の行為と同一視されると認めるのが相当である。
 なお、請求人は、AはBに対して棚卸原票を書き換えるよう指示していない旨主張するが、請求人の主張する事実の存否は、上記判断に影響するものでないから、請求人の主張には理由がない。
ハ 以上のことからすれば、Bの本件不正経理行為は、請求人の行為と同一視され、請求人が本件不正経理行為に基づき本件各事業年度及び本件各課税期間の課税標準等を過少に申告したものと認められ、これは、通則法第68条第1項に規定する納税者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装したところにより、納税申告書を提出していたときに該当するから、本件法人税各賦課決定処分及び本件消費税等各賦課決定処分は、いずれも適法である。

(4)原処分のその他の部分については、当審判所の調査によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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