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(平17.3.17裁決、裁決事例集No.69 235頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、原処分庁の担当者(以下「本件相談担当者」という。)の指導に基づいてした相続税の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)に対し、原処分庁がした更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)について、違法又は不当を理由にその全部の取消しが求められた事案で、争点は次の3点である。
争点1 通知書の理由附記が不備であるとして、原処分が違法となるか否か。
争点2 遺産の一部分割確定を事由に、更正の請求が認められるか否か。
争点3 事前の相談結果と異なるとして、原処分が信義誠実の原則に違反するか否か。

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(2)審査請求に至る経緯

 審査請求(平成16年4年7日請求)に至る経緯は、別表1−1及び別表1−2のとおりである。

(3)関係法令

 関係法令は、別紙1のとおりである。

(4)基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 平成9年6月8日に死亡したA(以下「被相続人」という。)に係る相続(以下「本件相続」という。)の法定相続人は、長女請求人、長男B、三男C及び四男D(平成10年○月○日死亡)の4名である。
ロ 本件相続に係る各共同相続人は、いずれも被相続人の遺産の全部が未分割であるとして相続税法第55条の規定に基づき課税価格を計算し、相続税の申告書を法定申告期限までに提出した。
ハ 平成10年○月○日に死亡したDに係る相続(以下「第2次相続」という。)の法定相続人は、請求人、B及びCの3人である。
 第2次相続により、請求人は、本件相続に係るDに課されるべき相続税について、通則法第5条《相続による国税の納付義務の承継》の規定に基づき、民法第900条から第902条までの規定によるその相続分(3分の1)によりあん分して計算した額の納付等の義務を承継した。
ニ 本件相続に係る相続税については、各共同相続人に対し、平成11年7月1日付で更正処分及び平成12年6月30日付でその一部を取り消す異議決定がされたが、平成14年11月7日に同更正処分(異議決定により一部取り消された後のもの、以下「本件更正処分」という。)に係る課税取消請求訴訟が提起されている。
ホ 請求人は、被相続人の財産に係る遺産分割の申立てを、また、請求人、B及びCがそれぞれ寄与分を定める処分の申立てをE家庭裁判所○○支部(以下「E家裁○○支部」という。)にした。
ヘ 上記ホの各事件について、E家裁○○支部は、遺産分割審判及び寄与分を定める処分申立て却下の審判をしたが、請求人、B及びCは、原審判全部の取消しを求めてF高等裁判所に即時抗告をした。
ト F高等裁判所は、当該各事件について、平成15年3月27日に決定(同月31日に確定、以下「本件決定」という。)をした。これにより、それぞれの寄与分の抗告はいずれも棄却され、被相続人に係る財産の一部分割が確定した。
チ 本件決定には、遺産の分割について、要旨次の記載がある。
(イ)主文には、本件遺産分割の対象遺産が「遺産目録」記載の各物件であることには当事者間で争いがなく、その「遺産目録」記載の各物件については、C、B及び請求人が取得すること
(ロ)判断部分である第3の3の(2)のアには、相続開始時において、「相続開始時の遺産の概要」1ないし9の財産(不動産、現金、預金、有価証券、未収給与、未収年金など)があったが、当事者間の協議により、その一部について遺産分割をし、各3分の1の割合で取得した結果、「遺産目録」のとおりとなったものであること
(ハ)主文及び判断部分の第3の6の(2)のイには、遺産取得の代償として、請求人に対し、Bは5,118,592円、Cは4,602,267円を、いずれもこの裁判確定の日から1か月以内に支払うこと
(ニ)判断部分の第3の3の(2)のイには、「相続開始時の遺産の概要」の10、11の財産(郵便貯金及び商工中金の割引債券)については、遺産性に争いがあったことから、当事者は、これを本件遺産分割の対象から除外し、本件審判とは別に解決することとしたものであること

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1)争点1について

イ 本件通知処分に係る通知書(以下「本件通知書」という。)の理由欄には、「相続税法第32条第1号に定めるところの、相続税法第55条の規定により分割されていない財産について民法の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が、当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなった事実が認められない」旨の記載がある。
ロ ところで、更正の請求があった場合には、別紙1の1のとおり、原処分庁はその請求に係る課税標準又は税額等について調査し、その結果、更正をすべき理由がないと判断したときは、請求人にその旨を通知すれば足りるのであって、通知書に理由を附記すべきことは法律上要求されていない。
 したがって、理由附記の不備をもって原処分の違法性を問うことはできないから、請求人の主張は採用できない。
ハ なお、請求人は、行政事務における情報開示が求められる時代であり当然に理由を開示すべき旨主張するが、原処分庁は、法的な義務はないものの行政上の事実行為として、上記イのとおり、本件通知書に理由を附記し、その内容は適切なものであると認められるから、何ら不当な点はない。

(2)争点2について

イ 相続税法第32条第1号の事由は、別紙1の2のとおり、未分割の財産につき同法第55条の規定に基づいて課税価格を計算し税額が確定した後、遺産の分割が行われ、その結果、課税価格に異動が生じ既に確定した相続税額が過大になるという相続税固有の後発的事由について規定したものである。
 また、申告の後に増額更正処分がありそれを不服として係争中の場合でも、行政事件訴訟法第25条《執行停止》第1項には取消しの訴えの提起は処分の効力を妨げないと規定していることから、取消訴訟においていまだ判断がされていない以上、有効な行為としてその効力を否定されないのであるから、ここでの更正の請求の基礎となる申告等により確定した価額は、その更正により確定した財産の価額を基礎とすることになると解するのが相当である。
 そうすると、本件においては、上記1の(4)のニのとおり、本件更正処分の取消訴訟が係属中であるが、本件更正処分の総遺産価額全体の価額に基づいて相続税の課税価格を計算し、更正の請求の適否を判断することになる。
ロ 相続税法第55条は、別紙1の3とおり、未分割遺産については、「相続分の割合」に従って遺産を取得したものとして課税価格を計算するものと規定しており、この「相続分の割合」とは、共同相続人が他の共同相続人に対して、その権利を主張することができる持分的な権利の割合をいうものと解される。
 したがって、本件においては、遺産の一部が分割され残余が未分割であることから、各共同相続人は、他の共同相続人に対し遺産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当分から、既に分割を受けた遺産の価額を控除した価額相当分についてその権利を主張することができることになる。
ハ Dの本件相続に係る相続税の課税価格について
(イ)本件更正の請求の適否を判断する場合には、上記イのとおり、本件更正処分に係る財産等が基礎となるところ、本件における相続財産全体の価額は、別表1−2の「異議決定」の「総遺産価額」欄と「3年以内の贈与加算額合計」欄の価額の合計額1,166,297,348円となる。
(ロ)また、本件決定で分割されていない財産は、上記1の(4)のチの(ニ)のとおり、本件更正処分において新たに相続財産と認定された財産であると認められる。そうすると、未分割財産に係る価額は、本件更正処分の総遺産価額1,146,281,848円(別表1−2の「異議決定」欄の〔9〕の金額)と当初申告額の総遺産価額765,830,259円(別表1−2の「申告」欄の〔9〕の金額)との差額380,451,589円(以下「本件残余の未分割財産の価額」という。)であると認められる。
(ハ)その結果、Dの共同相続人は、上記ロのとおり、本件決定による遺産の一部分割後においても、本件残余の未分割財産の価額に対し、Dの相続分の割合の全部に相当する価額を主張できることから、Dの本件相続に係る財産に対し主張できる権利の価額は、上記(イ)の合計額1,166,297,348円に、Dの本件相続に係る相続分の割合の4分の1を乗じた価額291,574,337円に相当する価額となる。
 そうすると、当該価額は、上記(ロ)の本件残余の未分割財産の価額380,451,589円を下回ることとなり、また、3年以内の贈与加算額も変動がないと認められることから、Dに係る相続税の課税価格及び相続税額は変動せず、本件更正処分と同額となると認められる。
ニ 以上のことから、本件更正の請求は、相続税法第32条第1号の事由には該当しないことから、請求人の主張には理由がない。

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(3)争点3について

イ 本件相談担当者の当審判所に対する答述によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件相談担当者は、平成14年3月ころから本件更正の請求書が提出されるまでの間に、G税務署の事務室内において、請求人及び関与税理士と数回にわたり面談して、相続税の更正の請求の方法について相談を受け一般的な指導をしたこと
(ロ)本件相談担当者は、請求人から本件更正処分については訴訟係属中であるが財産の一部について分割が確定した場合に更正の請求をすべきかどうかの相談に対し、未分割遺産の一部について分割協議が成立するごとに更正の請求が必要であると考えて、〔1〕本件決定の確定した日から4か月以内に更正の請求をすべきであること、及び、〔2〕本件更正処分は係争中であることから、納税者の立場からは、更正の請求の基礎となる総遺産価額は当初申告額とするべきであるが、課税庁としては、更正の請求に対する減額更正の基礎となる総遺産価額は本件更正処分に係る総遺産価額である旨の説明をしたこと
ロ 請求人は、更正の請求額を計算する際の残余の未分割財産の各相続人への配分方法について、積上げ式配分法による計算方法をとるべきである旨の説明を本件相談担当者がしたと主張している。
 しかしながら、本件相談担当者の答述からは、そのこと自体を具体的に確認することはできなかったものの、請求人は、積上げ式配分法と異なった配分方法の説明を受けたのは異議調査担当者が初めてであったと異議審理庁に申述していることからも、本件更正処分の残余の未分割財産を考慮しても還付金が算出されると認識していたものと推認できる。
ハ 未分割遺産がある場合の相続税法第55条に基づく課税価格の計算方法については、上記(2)に述べたとおりであり、請求人の主張する積上げ式配分法は採用することができない。
 上記計算方法を前提とすると、未分割遺産の一部について分割が行われても、常に課税価格に変動が生じるとは限らないのであり、むしろ、多くの場合、未分割遺産の全部について分割が行われ、各相続人の取得分が確定した時点で初めて課税価格に変動を生じることになる。このような場合には、遺産全部についての分割が完了し、課税価格の変動により確定していた納税額が過大となった時点で、相続税法第32条第1号に基づく更正の請求をすれば足りると解される。
 したがって、本件相談担当者の指導内容は、未分割遺産の一部について分割が行われた場合にはその都度更正の請求をすべきであるとした点において、適切でなかったというべきである。
ニ 信義誠実の原則違反について
 課税処分について、法の一般原理である信義誠実の原則の法理の適用が認められる場合とは、少なくとも〔1〕税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示し、〔2〕納税者がその表示を信頼して行動したところ、後に表示に反する課税処分が行われ、〔3〕そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであり、かつ、〔4〕納税者が税務官庁の表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが不可欠であると解される。
 そして、一般に更正の請求の場合は、仮に税務相談において誤った指導があったとしても、更正の請求の規定の適用を受けられる実体的要件を具備していない場合に納税者の被る不利益は、法律の規定によれば還付されるべきでない還付金が還付されないというにすぎず、その指導による期待を裏切られることは否定できないとしても税法上格別の不利益を受けるわけではないというべきである。
 そうすると、本件更正の請求は、上記(2)のとおり、その請求を認めるべき実体的要件を満たしていないものであるから、上記ハのとおり、相談の指導内容からみて適切でなかった点があったとしても、請求人には、原処分によって被る格別の経済的不利益があるとはいえない。
 したがって、原処分は、信義誠実の原則に違反し、無効であるとはいえない。

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(4)原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別紙1 関係法令

1 国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第4項は、税務署長は、更正の請求があった場合には、その請求に係る課税標準等又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する旨規定している。
2 相続税法第32条《更正の請求の特則》本文及び第1号は、同法第55条の規定により分割されていない財産について民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分の割合に従って課税価格が計算されていた場合において、その後当該財産の分割が行われ、共同相続人が当該分割により取得した財産に係る課税価格が当該相続分の割合に従って計算された課税価格と異なることとなったことという事由に該当することにより従前の課税価格又は相続税額が過大となったときは、その事由が生じたことを知った日の翌日から4月以内に限り、その課税価格及び相続税額につき通則法第23条第1項の規定による更正の請求ができる旨規定している。
3 相続税法第55条《未分割遺産に対する課税》は、相続により取得した財産の全部又は一部が分割されていないときは、その分割されていない財産については、各共同相続人が民法(第904条の2(寄与分)を除く。)の規定による相続分の割合に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算するものとする旨規定している。

別紙2 当事者の主張

争点1 通知書の理由附記が不備であるとして、原処分が違法となるか否か。
請求人

1 原処分の通知書の理由附記は、当初未分割で申告した場合の一部分割確定の際の残余の未分割財産の配分方法について金額的に具体的な記載に欠けているから不適法である。
2 現在は行政事務の一般的な事柄に情報開示が求められる時代であり当然に理由が開示されてしかるべきである。

原処分庁

 通則法第23条第4項は、「更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する。」と規定するのみであり、具体的な記載事項は定められていないから、原処分に係る通知書に未分割財産の配分方法についての具体的な記述がされていないことをもって原処分が違法となるものではない。

争点2 遺産の一部分割確定を事由に、更正の請求が認められるか否か。
請求人

1 本件決定により一部分割が確定した財産の各共同相続人の課税価格に算入すべき金額は、別表2のとおり、Bは282,150,012円、Cは271,378,035円、Dは零円、請求人は208,133,961円であり、未分割財産は4,168,250円である。
 そうすると、Dの課税価格の計算は別表2の〔5〕欄記載のとおりとなり、納付すべき相続税額は、別表2の〔8〕欄記載のとおりとなる。
2 本件の一部分割に係る各相続人への配分は、本件決定によるものであり、本件決定では、寄与分は認められておらず、法定相続分を基準として配分され他の配分基準は全く考慮されていないのであって、各相続人の相続分を厳守した決定に他ならない。この点において、各相続人間で行った任意の合意とは全く意味内容を異にするものであって、各相続人は、一部分割後の残余の未分割財産(4,168,250円)については、各相続人は各人の法定相続分どおり均等(各人4分の1)に相当する所有権を有するものであり、残余の財産を法定相続分以外の配分をすることは、相続税法第55条に違反する。
3 また、本件更正処分の課税価格を前提に再計算を行うのであれば、その際の未分割財産の各共同相続人への配分も、各相続人に法定相続分どおり均等(各人4分の1)の配分(以下「積上げ式配分法」という。)をすべきである。
 原処分庁は、本件更正処分を尊重するのであれば、本件更正処分における相続財産を基に、積上げ式配分法で相続税の課税価格の計算を行い、しかる後に還付があるのであれば、本件更正の請求が本件更正処分の内容を反映していないことをもって却下(棄却)することはできない。

原処分庁

1 相続税法第55条にいう「相続分の割合」とは、共同相続人が他の共同相続人に対してその権利を主張することができる持分的な権利の割合をいうと解され、遺産の一部の分割がされ、残余が未分割である場合には、各共同相続人は他の共同相続人に対し遺産全体に対する自己の相続分に応じた価額相当額から既に分割を受けた遺産の価額を控除した価額相当分について未分割財産に対してその権利を主張することができるものと解される。
2 本件更正処分においては、請求人が未分割財産と主張する財産以外に、割引債券364,141,424円及び郵便貯金22,720,224円等があり、これらを含めると本件決定による一部分割後の未分割財産の金額は、391,084,359円となると認められ、この金額を各相続人に配分し各共同相続人の課税及び納付すべき税額を計算することとなる。
 そうすると、Dが他の共同相続人に対してその権利を主張することのできる金額は、遺産と民法第903条に規定する特別受益に当たる相続税法第19条の規定による3年以内の贈与加算額の合計額1,166,297,348円(別表3の「相続人の合計」欄の〔1〕、〔2〕及び〔4〕の合計額)に対するDの相続分の割合に応じた価額相当額291,574,337円(1,166,297,348円×1/4)から、Dに係る相続税法第19条の規定による3年以内の贈与加算額5,879,750円を控除した金額に相当する金額285,694,587円(別表3の「D」欄の〔2〕、以下「本件権利主張可能額」という。)となる。
 したがって、Dは、未分割財産391,084,359円のうち、本件権利主張可能額相当額についてその権利を主張することができると認められ、当該金額がDの相続税の課税価格に算入すべき金額となり、本件更正処分と同額となる。
 そうすると、本件決定により計算したDの課税価格の金額は291,415,000円(別表3の「D」欄の〔5〕の金額)となり本件更正処分におけるそれ(別表1−1の「異議決定」欄の〔4〕の金額)と同額となるから、相続税法第32条第1号に規定する「課税価格と異なること」に該当しない。

争点3 事前の相談結果と異なるとして、原処分が信義誠実の原則に違反するか否か。
請求人

1 本件更正の請求は、提出前に原処分庁に出向き本件決定の写し及び「被相続人Aの相続税に関する「更正の請求」について(平成15年5月23日付)」と題する書面を提出し、本件相談担当者の指導、見解を受けた後に、その見解に沿ってしたものであり、もし提出しなかった場合は、相続税法第32条に規定する更正の請求の期限を徒過することになり、将来全部の分割が終わった場合には一部分割による部分は還付されないことになるとの指導があったために行ったものである。
 当該指導がなければ、本件更正の請求も行わなかったのであり、上記見解と全く異なった処分は納税者の信頼を著しく裏切る行為であり、当然に信義誠実の原則に照らし無効である。
2 本件更正の請求は、一部分割後の未分割財産について、本件更正処分により増加された財産を含めず計算しているが、これは、本件更正処分が係争中であることを考慮し、本件更正処分を認めない趣旨からしたものであり、このことは、本件相談担当者と打ち合わせの上で行ったものであるから、このことをもって本件更正の請求を棄却する理由とすることはできない。
 本件相談担当者の指導によれば、更正の請求では本件更正処分で増額されたものは除外して記載し、課税庁が減額処分をする際には、更正処分を前提に再計算し還付額を算定することとなる旨の説明を受けたもので、本件更正の請求はこの主旨どおりに行ったものである。
3 本件更正の請求に係る更正の請求書において、残余の未分割財産の各相続人への配分について、積上げ式配分法をとるべきであるとしたのは、本件相談担当者の指導したとおりに作成したもので、提出後に他の方法に変更して、請求人に相続税の還付がないとの取扱いをすることは、信義誠実の原則に違反し無効である。

原処分庁

 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義誠実の原則により課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義が貫かれるべき租税法律関係においては、租税法規の適用における納税者の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情が存する場合に、初めて適用の是非を考えるべきものと解される。
 本件においては、上記特別な事情があるとは認められず、本件相談担当者の指導内容を確認するまでもなく、当該原則を適用する余地はない。

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