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(平17.1.7裁決、裁決事例集No.69 402頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、消費税法第37条《中小企業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定により仕入れに係る消費税額を計算する方法(以下「簡易課税制度」という。)を選択していた審査請求人(以下「請求人」という。)が、その後、簡易課税制度を選択した当時の事業を廃止したとして、事業を廃止した日の属する課税期間の末日の翌日(翌課税期間の開始の日)に、簡易課税制度を選択する旨の届出書(以下「簡易課税制度選択届出書」という。)の効力が喪失するとして、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》に規定する仕入れに係る消費税額を計算する方法(以下「本則課税」という。)を適用した更正の請求をしたところ、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をし、これを不服とする異議申立てを棄却された請求人が、上記通知処分の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年7月1日から平成14年6月30日までの課税期間(以下「平成14年6月課税期間」という。)及び平成14年7月1日から平成14年9月30日までの課税期間(以下「平成14年9月課税期間」といい、平成14年6月課税期間と併せて、「本件各課税期間」という。)の消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)について、簡易課税制度を適用して、確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 請求人は、平成15年6月26日に、本件各課税期間の確定申告について、本則課税を適用した別表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の各更正の請求をした。
ハ これに対し、原処分庁は、平成15年9月10日付で、いずれもその更正をすべき理由がない旨の各通知処分(以下「本件各通知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件各通知処分に対し、平成15年10月21日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成16年1月19日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成16年2月12日に審査請求をした。

(3)関係法令等

 本件に関する消費税法及び消費税法施行規則の各規定並びに消費税法基本通達(以下「基本通達」という。)の各定めについては、別紙のとおりである。

(4)基礎事実(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)

イ 請求人は、昭和44年8月26日にA社として設立され、主に非鉄金属ダイガスト製品の製造及び販売を業とした。
ロ 請求人は、平成元年10月3日に簡易課税制度の適用開始課税期間を平成元年7月1日から平成2年6月30日までの課税期間と記載した簡易課税制度選択届出書(以下「本件簡易課税制度選択届出書」という。)を原処分庁へ提出した。
ハ 請求人は、平成8年4月1日に貸金業を営むB社を吸収合併し、平成8年4月19日に、商号をC社に変更し、主な事業を金融業とした。
ニ その後、請求人は、平成13年7月3日に、D社を吸収合併し、主な事業をパチンコ業とした。
ホ 請求人は、平成14年8月30日に原処分庁に対して次の書類を提出した。
(イ)事業廃止年月日を平成5年7月1日、参考事項欄に平成3年7月1日から休業と記載した消費税法第37条第2項に規定する消費税簡易課税制度選択不適用届出書(以下「本件簡易課税制度選択不適用届出書」という。)
(ロ)事業廃止年月日を平成5年7月1日、参考事項欄に平成3年7月1日から休業と記載した消費税法第57条第1項第3号に規定する事業を廃止した旨の届出書(以下「本件事業廃止届出書」という。)
(ハ)適用開始日を平成14年10月1日とする消費税法第19条第1項第4号に規定する消費税課税期間特例選択届出書
ヘ なお、本件簡易課税制度選択不適用届出書及び本件事業廃止届出書は、別紙の2及び3の(2)により、いずれも消費税法第37条第2項に規定する事業を廃止した旨の届出書(以下「事業廃止届出書」という。)に該当する。
ト 上記ホの(ハ)により、平成14年7月1日から平成14年9月30日までの間が1課税期間とみなされ、平成14年10月1日以後の課税期間が3か月に短縮された。

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2 争点

 簡易課税制度選択届出書の効力が喪失するのは、事業廃止届出書の提出があった日の属する課税期間の末日の翌日と解すべきか否か。

3 争点に対する当事者の主張

(1)原処分庁

イ 消費税法第37条第2項及び同条第4項は、簡易課税制度選択届出書を提出した事業者が事業を廃止したときは、事業廃止届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならず、当該届出書の提出があった日の属する課税期間の末日の翌日以後は、簡易課税制度選択届出書は、その効力を失う旨規定しているから、事業廃止届出書の提出があった日の属する課税期間の末日の翌日に、簡易課税制度選択届出書の効力は喪失すると解すべきである。
ロ なお、原処分庁の調査によれば、次の事実が認められ、これらの事実からすると、請求人が、事業の全部を相当期間休止していたとは認められないから、基本通達17−1−2で定める事業を廃止した場合には該当しないので、平成3年7月1日から平成8年4月1日にB社を吸収合併し、事業目的を変更するまでの間、事業の全部を休止していたとの請求人の主張は、これを否認する。
(イ)請求人が提出した平成元年7月1日から平成2年6月30日までの課税期間ないし平成5年7月1日から平成6年6月30日までの課税期間に係る消費税の確定申告書には、いずれも課税標準額が記入されている。
(ロ)請求人が提出した平成6年7月1日から平成7年6月30日までの課税期間に係る消費税の確定申告書には「休業中」と記載されているが、平成3年7月1日から平成4年6月30日までの事業年度ないし平成6年7月1日から平成7年6月30日までの事業年度に係る法人税の確定申告書には、販売費及び一般管理費などの支出が計上されていることから、法人としての活動が認められる。

(2)請求人

イ 基本通達17−1−2で定める「相当期間」とは、基本通達1−4−8及び消費税法等の規定等を勘案すると、2年と解するべきところ、請求人は、平成3年7月1日から平成8年4月1日にB社を吸収合併し、事業目的を変更するまでの間、事業の全部を休止していたので、平成3年7月から2年を経過した平成5年7月1日に、請求人は事業を廃止したことになる。
ロ そして、次の理由から、消費税法第37条第2項に規定する事業廃止届出書の提出の有無にかかわらず、事業を廃止した日の属する課税期間の末日の翌日(翌課税期間の開始の日)に、簡易課税制度選択届出書の効力は喪失すると解すべきであるから、本件簡易課税制度選択届出書の効力は、平成14年6月課税期間の開始の日の前日(平成13年6月30日)以前に喪失している。
(イ)消費税法第57条第1項は、免税事業者の各種届出義務を規定しているが、例えば、免税事業者とされていた者が、その後の課税期間に係る基準期間の課税売上高が3,000万円を超えることが判明し、納税義務が免除されないこととなった場合においても、課税事業者である旨の届出書の提出がない限り、課税しないというものではない。逆に、課税事業者が、その後の課税期間に係る基準期間の課税売上高が3,000万円以下であることが判明し、納税義務が免除されることとなった場合においても、課税事業者でなくなった旨の届出書が提出されない限り、課税するというものでもない。
 このことは、同項第3号で規定する事業の廃止の場合も同様であり、事業を廃止した旨の届出書の提出がなかったとしても、事業の廃止という事実が否定されるものではない。
(ロ)基本通達1−4−8は、過去2年以上にわたり、課税資産の譲渡等などがない事業者が課税資産の譲渡等を開始した課税期間も消費税法施行令第20条第1項に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した課税期間」に該当する旨定め、免税事業者が当該課税期間内に課税事業者を選択する旨の届出書を提出した場合には、当該課税期間から課税事業者となることが認められているが、この場合においても事業を廃止した旨の届出書の提出を要件としていない。
(ハ)消費税法施行令第57条の2《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例の適用を受ける旨の届出等に関する特例》第2項で規定する簡易課税制度選択不適用届出書に係る特例承認において、事業廃止の場合にはゆうじょ規定の適用はないこととされているが、このことは、事業廃止の事実により、翌課税期間から当然に簡易課税制度が不適用とされることを前提としている。

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4 判断

(1)消費税法第37条第2項及び同条第4項によれば、簡易課税制度を選択した事業者が事業を廃止した場合は、事業廃止届出書を提出しなければならず、当該届出書が提出された日の属する課税期間の末日の翌日(翌課税期間の開始の日)以後に簡易課税制度選択届出書の効力が失われると規定されているのであるから、簡易課税制度選択届出書の効力が喪失するのは、事業廃止届出書の提出があった日の属する課税期間の末日の翌日と解するほかないというべきである。

 したがって、消費税法第37条第2項に規定する事業廃止届出書を提出しない限り、事業を廃止した日の属する課税期間の翌課税期間以後も、簡易課税制度を適用しなければならないこととなる。

(2)これを本件についてみると、請求人は、上記1の(4)のロ、ホ及びヘのとおり、平成元年10月3日に本件簡易課税制度選択届出書を提出した事業者であり、本件簡易課税制度選択不適用届出書及び本件事業廃止届出書は、いずれも消費税法第37条第2項に規定する事業廃止届出書と認められるところ、当該届出書はいずれも平成14年8月30日に提出されたものであり、本件各課税期間の開始の日の前日までに提出されていない。

 したがって、本件各課税期間については、本件簡易課税制度選択届出書の効力は存続しているものといわざるを得ない。

(3)この点、請求人は、消費税法第37条第2項に規定する事業廃止届出書の提出の有無にかかわらず、事業を廃止した日の属する課税期間の末日の翌日(翌課税期間の開始の日)に、簡易課税制度選択届出書の効力は喪失すると解すべきであると主張するが、上記(1)のとおり、消費税法第37条第2項及び同条第4項の解釈上、これを採用することはできない。

 なお、請求人が根拠とする消費税法第57条第1項及び基本通達1−4−8の規定は、いわゆる免税事業者に関する規定及び通達であり、また、消費税法施行令第57条の2第2項は、簡易課税制度選択届出書又は簡易課税制度選択不適用届出書を期限内までに提出できなかった場合の特例承認に関する規定であって、いずれも本件における簡易課税選択届出の効力喪失に関するものではない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。

(4)以上のとおり、簡易課税制度選択届出書の効力が喪失するのは、事業廃止届出書の提出があった日の属する課税期間の末日の翌日と解すべきであるから、本件各課税期間については、本件簡易課税制度選択届出書の効力は存続しており、簡易課税制度を適用しなければならない。

 したがって、本件各通知処分は適法である。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別紙

1 消費税法

(1)消費税法第37条第2項は、簡易課税制度選択届出書を提出した事業者が、同条第1項に規定する簡易課税制度の適用を受けることをやめようとするとき又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない旨規定している。
(2)消費税法第37条第4項は、同条第2項の規定による届出書の提出があったときは、その提出があった日の属する課税期間の末日の翌日以後は、簡易課税制度を選択する旨の届出は、その効力を失う旨規定している。
(3)消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第1項第3号は、事業者(消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第1項本文により消費税の納税義務が免除される事業者を除く。)が、事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長に提出しなければならない旨規定している。

2 消費税法施行規則

 消費税法施行規則第17条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例を受ける旨の届出書の記載事項等》第3項は、消費税法第37条第2項に規定する事業を廃止した旨の届出書には、〔1〕届出者の氏名又は名称及び納税地、〔2〕事業を廃止した年月日、〔3〕その他参考となるべき事項を記載しなければならない旨規定している。

3 基本通達

(1)基本通達1−4−8《過去2年以上課税資産の譲渡等がない場合の令第20条第1号の適用》は、消費税法施行令第20条《事業を開始した日の属する課税期間等の範囲》に規定する「課税資産の譲渡等に係る事業を開始した日の属する課税期間」には、その課税期間開始の日の前日までに2年以上にわたって国内において行った課税資産の譲渡等又は課税仕入れ及び保税地域からの課税貨物の引取りがなかった事業者が課税資産の譲渡等に係る事業を再び開始した課税期間も該当するものとして取り扱う旨定めている。
(2)基本通達1−4−15《事業を廃止した場合の届出書の取扱い》(2)は、消費税法第57条第1項第3号に規定する事業を廃止した旨の届出書の提出があったときは、消費税法第9条第5項、同法第19条《課税期間》第3項又は同法第37条第2項に規定する事業を廃止する旨の届出書の提出があったものと取り扱う旨定めている。
(3)基本通達17−1−2《事業を廃止した場合》は、消費税法第57条第1項第3号に規定する「事業を廃止した場合」には、事業の全部を相当期間休止した場合、営業の全部を譲渡した場合又は清算中法人の残余財産が確定した場合が含まれる旨定めている。

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