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(平17.9.13裁決、裁決事例集No.70 73頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、内科医業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)にされた重加算税の賦課決定処分のうち、土地の譲渡損益に係る部分にその要件事実が存するか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり。

(3)関係法令

 国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課する旨規定している。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P市p町○−○所在の宅地○○平方メートル(以下「p町土地」という。)に関しては、請求人を売主、請求人の妻であるFを買主とする、平成13年12月21日付の所有権移転合意証書が作成され、同月26日に、同月21日の売買を原因とする請求人からFへの所有権移転の登記が行われ、その後、平成16年9月8日に錯誤を原因とした所有権抹消の登記が行われている。
ロ Q市q町○−a番所在の宅地○○平方メートル、同b番所在の宅地○○平方メートル、同c番所在の宅地○○平方メートル、同d番所在の宅地○○平方メートル及び同e番所在の宅地○○平方メートル(以下、これらの土地を併せて「q町土地」といい、p町土地と併せて「本件土地」という。)に関しては、請求人を売主、請求人の長女であるGを買主とする、平成13年12月21日付の所有権移転合意証書(以下、上記イの所有権移転合意証書と併せて「本件土地合意証書」という。)が作成され、同月26日に同月21日の売買を原因とする請求人からGへの所有権移転の登記が行われ、その後、平成16年9月8日に錯誤を原因とした所有権抹消の登記が行われている。
ハ 請求人は、原処分庁の調査(以下「本件調査」という。)を受け、分離譲渡所得の金額について、本件土地の譲渡収入金額及び譲渡所得金額をいずれも零円と記載した修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成16年8月31日に原処分庁へ提出した。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件土地の取引について、本件調査及び異議申立てに係る調査(以下「異議調査」という。)によると、次の事実が認められる。
(イ)p町土地
A H信用金庫○○支店(以下「H信金」という。)の請求人名義の当座預金(以下「請求人名義当座預金」という。)から平成14年2月19日にp町土地に係る売買価額と同額である80,000,000円の小切手が振り出され、翌20日、F名義で同額の定期預金が預け入れられていること。
B 平成14年3月12日にH信金において、上記Aの定期預金を担保としてF名義で80,000,000円の借入れが行われ、同日、借入利息等控除後の金額は請求人名義当座預金に振替入金されていること。
C 上記Bの借入金は、平成14年3月29日以降返済され、平成16年3月2日に上記Aの定期預金を解約の上残債が一括返済され、解約された定期預金の残額は請求人名義当座預金に振替入金されていること。
D 本件調査着手後の平成16年8月13日にH信金において、F名義の定期預金5口を担保として新たに同人名義で80,000,000円の借入れが行われ、借入利息等控除後の金額は請求人名義当座預金に振り替えられているが、当該資金移動について、請求人は、異議調査の担当職員に対し、金額80,000,000円、貸主請求人、借主F、返済期限を今後5年とする借用書(以下「本件借用書」という。)に基づく貸付金の返済である旨申述していること。
E 上記Dの借入金は、平成16年9月1日に請求人名義当座預金から出金された金員で返済されていること。
(ロ)q町土地
A 請求人名義当座預金から平成14年1月4日に20,000,000円の小切手が振り出され、同日、F名義で同額の定期預金が預け入れられていること。
B 平成14年2月14日にH信金において、上記Aの定期預金を担保としてG名義で20,000,000円の借入れが行われ、借入利息等控除後の金額は請求人名義当座預金に振替入金されていること。
(ハ)請求人は、平成16年8月10日に本件調査の担当職員に対し、F及びGに対する貸付金について、将来一括返済するよう両人と口約束をしただけである旨申述していること。
(ニ)請求人は、異議調査の担当職員に対し、要旨次のとおり申述していること。
A 上記(イ)及び(ロ)の資金移動に係る各取引は、すべて請求人が行った。
B 上記(イ)のCの借入金の内入の返済は、Fの家賃収入から行った。
C 本件土地の管理、運用及び使用収益の享受の状況は、本件土地の取引の前後において変更がない。
D 本件借用書は、本件調査の担当職員には提示しなかった。
E 上記(ロ)のAの20,000,000円については、借用書の作成がなく、Gと請求人及びFとの間に金銭貸借はない。
ロ 原処分の適法性について
(イ)請求人がF及びGから本件土地の売買代金として受領した金銭は、次のとおり、いずれも請求人がF及びGに用立てた金銭を担保としたF及びG名義の借入金を経由して請求人に還流したものであり、この事実をもってすれば、本件土地の売買に関して代金の授受はなかったものと認められる。
A p町土地
 請求人は、本件借用書をもってFとの間に金銭貸借の事実があった旨を主張するが、本件借用書には利息及び返済方法に関する約定がなく、また、本件借用書作成日から約2年5か月経過した本件調査時において現実に返済も行われていないこと、さらに、上記イの(イ)のCからすると、本件借用書によりFに貸し付けした資金で預け入れされたF名義の定期預金であるにもかかわらず、その定期預金の解約金を請求人名義当座預金に振り替えていることから、本件借用書は請求人の要請に基づいて作成された実体のないものにすぎないと認められる。
 おって、請求人は、本件借用書については、上記イの(ニ)のDのとおり異議調査時に提出しているが、上記イの(ハ)のとおり本件調査時にはその存在を否定しており、また、Gについては、返済資力があるから借用書を作成しなかった旨申述しているが、より資力があるFに本件借用書を作成していることから請求人の申述には矛盾がある。
 また、請求人は、上記イの(ニ)のBによると、Fの家賃収入から上記イの(イ)のCの返済を行った旨申述するが、その資金出所を明らかにしていないことから、請求人の申述は採用できない。
 なお、請求人は、上記イの(イ)のDのとおり、本件借用書に係るFへの貸付金については既に返済されている旨申述するが、この返済及び上記イの(イ)のEの取引は、本件調査着手後に行われた事後的な行為であり、p町土地に係る取引の正否の判断に影響を与えるものではない。
B q町土地
 q町土地の購入代金については、上記イの(ロ)からすると、請求人がその資金を用立てして立替払いしており、Gには何ら負担はなかったものと認められる。
 また、請求人も、異議調査の担当職員に対し、上記イの(ニ)のEのとおり、Gとの金銭貸借に係る借用書の作成はなく、現実に金銭貸借はない旨申述している。
(ロ)請求人は、夫婦、親子間の金銭貸借を行っても、借主が必ず返せることの確証、すなわち返済可能な資金があれば金銭消費貸借として認めるべきである旨主張するが、本件の場合は金銭の貸借の期間、返済方法及び利息等が定められておらず、取引の実態から総合判断して当該金銭貸借は仮装されたものと認められることから、請求人の主張は失当である。
(ハ)本件土地の管理、運用及び使用収益の享受の状況は、上記イの(ニ)のCからすると、本件土地の取引の前後において請求人の管理の下にあることに変わりがないものと認められる。
(ニ)したがって、請求人は、真に本件土地を譲渡していないにもかかわらず本件土地の売買を原因とする所有権移転の登記を行い、その後に本件土地の購入代金に相当する金額を請求人が立て替え、当該資金によりF及びGが購入したという形式を作り出したものであって、あたかも本件土地の譲渡があったかのように仮装したものと認められる。
(ホ)そうすると、請求人は通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたことになるので、原処分は適法である。

(2)請求人

 原処分のうち土地の譲渡損益に係る部分については、次の理由により違法であるから、その取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分並びに本件修正申告書の提出及び内容については争わない。
イ 請求人は、本件調査の担当職員から、有効に成立していた本件土地の譲渡取引について、「形式的には土地売買の形態を採っているが、実質的には金銭の受渡しはないことから、贈与とみなされ多額の贈与税額が発生する。しかし、登記を元に戻せば、贈与税は課税されない。」旨指摘されたことから、贈与の事実がないにもかかわらず贈与税を課税される事態を避けるため、当該指摘に疑問を抱きながらも平成16年8月31日に本件修正申告書を提出するとともに、同年9月8日に本件土地に係る登記を錯誤を理由として請求人名義に復した。
ロ 原処分庁は、上記(1)のロの(イ)のとおり主張するが、〔1〕本件土地の譲渡代金は、F及びG名義でH信金から借入れを行い、それぞれ平成14年3月12日及び同年2月14日に請求人名義当座預金に入金されている、〔2〕当該借入金は、借入者であるF及びGが返済している、〔3〕請求人は、F及びGが本件土地の購入資金をH信金から借り入れるに際し、担保としたF名義の定期預金の原資を短期間、肩代わり、立替払いしたが、夫婦、親子間の金銭の貸し借りであっても、借入金を返済できる収入があれば金銭貸借として認めるべきであるから、本件土地の取引においては金銭の授受が行われているというべきである。
ハ 原処分庁は、本件土地の管理、運用及び使用収益の享受の状況は本件土地取引の前後において変更がないことから本件土地を譲渡していないと主張するが、土地の所有者と管理運用者が別であることに不思議はない。
ニ 以上のとおり、有償により本件土地を譲渡し、その事実に基づき譲渡損益を計上したものであり、本件土地の取引行為には何ら仮装・隠ぺいに該当する事実はないから、原処分のうち土地の譲渡損益に係る部分は違法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、重加算税の賦課決定をすべき要件事実の存否にあるので、審理したところ、以下のとおりである。

(1)認定事実

 原処分関係資料、請求人の提出資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 請求人は、平成17年5月17日に当審判所に対し、要旨次のとおり答述していること。
(イ)本件土地合意証書は、平成13年12月21日、請求人の事業所(以下「J内科」という。)において、請求人が作成した。
(ロ)本件土地の譲渡価額は、請求人が自らの判断で決定し、Fに対しては平成14年2月ころ、Gに対しては同年1月ころに伝えた。
(ハ)H信金との借入手続について、借入申込書への署名、なつ印のみをそれぞれF及びGが行い、交渉等その余の借入手続は請求人が行った。
ロ  請求人は、原処分庁に対し、要旨次の内容が自書なつ印された平成16年9月2日付の申述書(以下「本件申述書」という。)を提出していること。
(イ)F及びGが金融機関から借り入れた金員によって請求人に購入代金を支払ったという形式を採っているが、その借入金は請求人が金融機関に返済している。
(ロ)本件土地の取引は、形式的には売買の形態を採っているが、実質的には金銭の授受がなかったのと同じである。
(ハ)本件土地の取引は、請求人が独りで行ったものであり、F及びGは詳しい事情を知らず、不動産が自分名義になったことを漠然と知っているだけである。
ハ H信金に保存されている平成14年2月14日付G名義及び同年3月12日付F名義の借入申込書の筆跡及び印影を、本件申述書の筆跡及び印影と対照したところ、すべて同一と認められること。
ニ 請求人は、平成17年5月18日に当審判所に対し、本件土地の購入代金に係る借入金の返済に使用している預金通帳及び印章は請求人がJ内科において保管、管理している旨答述していること。
ホ 請求人は、平成17年5月17日及び翌18日に当審判所に対し、本件土地の利用状況については取引後も変わりがない旨答述するところ、当審判所の調査によれば、p町土地はJ内科の敷地に供され、q町土地は月極駐車場として賃貸され取引後もその状況に変わりがなく、また、請求人は取引前後を通じq町土地の賃貸収入を確定申告している事実が認められること。
ヘ 本件土地の取引に係る資金の流れについては、当審判所の調査の結果においても、原処分庁主張の上記2の(1)のイの(イ)及び(ロ)の各事実のとおりと認められること。

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(2)原処分の適法性について

イ 請求人は、本件土地は有償により譲渡し、その事実に基づき譲渡損益を計上したものであり、本件土地の取引行為には何ら仮装・隠ぺいに該当する事実はないことから、原処分のうち、土地の譲渡損益に係る部分は違法である旨主張する。
ロ ところで、加算税制度の趣旨は、納税義務違反に対して一種の行政上の措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持するところにある。
 したがって、通則法第68条第1項に規定する加算税の一種である重加算税は、脱税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科される刑事罰とは異なり、納税義務違反が事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に違反者に対して特に重い経済的負担を課すための行政上の措置であるといえる。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部に隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでを必要とするものではないと解すべきである。
 そして、ここにいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実について、これを隠ぺいし又は脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産又は取引上の名義等に関しあたかもそれが事実であるかのように装う等事実をわい曲することをいうものと解される。
ハ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件修正申告書について、その事実を争わず、法的に無効であるとの主張も行わない旨当審判所に答述する。
(ロ)請求人は、本件申述書は、「調査担当職員からこのように書けと原稿を渡され、内容は請求人の意思に全く反したものであったが、後日反論の機会があるだろうと、不本意ながら、当日その場で原稿どおりに書いたものである。」旨答述することでその任意性を否定する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、〔1〕本件調査の担当職員は、本件申述書の原稿を、申述書の提出を受ける二日前に請求人に渡していること、〔2〕当該原稿と本件申述書とは、その表現が細部において相違すること、が認められ、これらの事実からすれば、本件申述書の記載内容及び提出については、あくまで請求人の自由な意思に委ねられていたものと認められる。
 また、本件申述書に記載されている内容は、上記(1)のイ及びハないしヘの認定事実と矛盾しないことからすれば、本件申述書は真実を申述したものと認めるのが相当である。
(ハ)本件土地の取引については、上記(1)のイないしホからすれば、請求人自らの意思のみに基づき本件土地合意証書を作成し、かつ、本件土地の購入代金に係るH信金との借入れ、返済の事実関係を請求人がすべて現出させ、さらに、本件土地の管理状況等も取引の前後において変化がなく、q町土地の収益を自己の所得として確定申告していることが認められる。
(ニ)また、本件土地に係る売買代金等の決済は、上記(1)のヘからすると、H信金のF及びGそれぞれの名義の借入金により行われているところ、当該借入金は、請求人名義当座預金から振り出された小切手により預け入れた定期預金を担保として借り入れたものであり、さらに、当該借入金は、請求人が、請求人の預金が化体したF名義の定期預金を解約するなどして返済している。
 そうすると、本件土地の売買代金等の決済は、単に請求人が自己の資金をF及びG名義を使用した取引で還流させることにより創出したものであり、本件土地の売買に関して代金の授受はなかったものと認められる。
(ホ)以上を総合判断すれば、本件土地の譲渡の事実はなかったと認めるのが相当である。
ニ したがって、請求人とF及びGとの間において本件土地の譲渡の事実がないにもかかわらず、請求人は、本件土地合意証書を作成し、売買を原因とした所有権移転の登記を行い、請求人が保管するF及びGの印章を使用してH信金との取引をF及びGが行ったかのように偽装するなど、あたかも本件土地を有償により譲渡したかのように事実を仮装し、その仮装した事実に基づき架空の譲渡損益を計上し、納付すべき税額を過少に記載した内容虚偽の確定申告書を提出したものと認められる。
 そうすると、請求人のこれら一連の行為は、通則法第68条第1項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときに該当する。
 よって、請求人の主張には理由がなく、土地の譲渡損益に係る部分についてされた原処分は適法である。

(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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