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(平17.7.4裁決、裁決事例集No.70 122頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)に対してされた更正処分について、違法を理由としてその全部の取消しが求められた事案であり、争点は、土地を取得するために支払った借入金の利子の全額が譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入されるか否かである。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年分の所得税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色申告書以外の申告書(いわゆる白色申告書。以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 なお、請求人は、本件申告書において、分離長期譲渡所得の金額の計算上、P市Q町○−○の土地○○平方メートル(以下「本件土地」という。)の請求人の持分の3分の1に係る購入代金7,000,000円及び住宅ローンの利子4,324,475円を取得費に算入し、仲介手数料24,150円及び収入印紙代3,000円を資産の譲渡に要した費用の額に算入している。
ロ これに対し、原処分庁は、請求人が譲渡所得の金額の計算上、取得費として算入した借入金の利子の金額のうち取得費に算入できるのは、土地の使用開始の日までの期間に対応する部分の金額であるとして、平成16年7月30日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、平成15年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件更正処分等を不服として、平成16年8月3日に別表1の「異議申立て」欄のとおり異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月20日付で、土地の使用開始の日については、請求人の土地の取得目的からすると土地を取得した時点であったと認められ、また、請求人は土地を取得したその日に借入金の融資を受けていることから、取得費に算入できる借入金の利子の金額はないとして棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の本件更正処分等に不服があるとして、平成16年11月12日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次のことについては、請求人と原処分庁の間に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和52年1月24日に本件土地(地目は宅地)を請求人の父であるG(昭和58年○月○日死亡)と共同で取得し、同日売買を原因として、請求人及びGを共有者とする所有権移転登記(請求人の持分は3分の1。以下、請求人の持分部分を「本件譲渡物件」という。)をしている。
ロ 請求人は、昭和52年1月24日にH銀行(以下「本件銀行」という。)から住宅ローン資金として7,000,000円の融資(以下「本件借入金」という。)を受け、また、同日付で本件土地に債権額7,000,000円、債務者を請求人とする抵当権設定登記がされている。
ハ 請求人は、平成2年11月21日に本件借入金を完済し、請求人が本件借入金の融資日から完済日までの間に本件銀行に支払った利子の総額は4,324,475円である。
 なお、本件借入金の利子に係る毎月の支払日は22日である。
ニ 本件土地上にある家屋(以下「本件家屋」という。)には、昭和53年1月21日に昭和52年12月14日付で新築を登記原因、所有者をGとする所有権保存登記がされている。
ホ 本件土地のうちGの持分3分の2については、昭和60年3月27日に昭和58年○月○日付の相続を原因として、請求人の母であるJへ所有権移転登記がされている。
ヘ 請求人は、平成15年1月7日に本件譲渡物件をJに10,000,000円で譲渡(以下、この譲渡を「本件譲渡」という。)している。

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2 主張及び判断

(1)主張

請求人

イ 本件譲渡物件の使用開始の日について
 原処分庁は、本件譲渡物件の取得目的を両親に対する貸付けと断定しているが、本件譲渡物件は、〔1〕両親の居住するための建物の建築用地とすること、〔2〕土地の値上がり益を期待したこと、〔3〕父親からの相続財産の総額の減額などの目的により取得したものである。
 また、土地の使用開始の日の判定については、土地の取得者が居住の用に供した日をその日と判定しなければならないところ、原処分庁は、本件譲渡物件を取得した時点でGに本件譲渡物件を貸し付けるという取得目的が達成され、その時点において本件譲渡物件の使用開始があったと判定しているが、このような取扱いをすると土地の取得日と使用開始の日がすべて同日ということとなり、所得税基本通達38−8の2《使用開始の日の判定》が定めている使用開始の日の判定は不要となり誤りである。
ロ 本件譲渡物件の取得費について
 事業(業務)を営む者は、借入金で土地を取得した場合、借入金の利子の全額が必要経費として認められている。
 本件譲渡物件の取得資金は、全額借入金により賄ったもので、本件借入金は本件譲渡物件を取得するための必要条件であったことから、本件借入金の利子の全額を取得費に算入できないことは不合理である。
 また、本件家屋は請求人が建築をしたものではなく、居住していたものでもないことから、いわゆる住宅ローン控除の対象とされなかったものであり、本件借入金の利子の全額を譲渡所得の金額の計算上、取得費として算入すべきである。

原処分庁

イ 本件譲渡物件の使用開始の日について
 本件更正処分においては、G及びJが本件家屋を居住の用に供した日が本件譲渡物件の使用開始の日であると判定した。
 しかしながら、請求人が本件譲渡物件を取得した目的は、Gに本件譲渡物件を貸し付けることにあり、請求人がGと共同で本件土地を取得した昭和52年1月24日の時点において請求人の取得目的が達成され、また、Gはその時点において本件譲渡物件を含む本件土地すべてを使用し得る状態にあったといえるので、請求人が本件譲渡物件を取得した日に本件土地の使用開始があったとみるのが相当である。
ロ 本件譲渡物件の取得費について
 本件更正処分においては、G及びJが本件家屋を居住の用に供する日までの期間に対応する本件借入金の利子を資産の取得に要した金額に含まれるとして、取得費に算入したが、請求人の土地の取得目的からすると土地を取得した時点で使用の開始があったと認められ、また、請求人は土地を取得した日と同日に借入金の融資を受けていることから、本件借入金の利子のうち本件譲渡物件の取得費に算入できる金額はない。
 また、いわゆる住宅ローン控除は、所得税額の税額控除に係るものであり、譲渡所得の取得費の計算とは何ら関係がないため、請求人の主張には理由がない。

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(2)判断

イ 認定事実
 当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人の答述によれば、本件譲渡物件は、その取得日からGが本件家屋の建築に着手するまでの間は、更地の状態で全く使用されていなかったこと並びにG及びJは新居で正月を迎えるために昭和52年の暮れに本件家屋に入居したことが認められる。
(ロ)戸籍の附票によると、G及びJが本件家屋に住所を定めた年月日は、昭和52年12月10日である。
(ハ)K電力会社は、原処分庁の照会に対し、本件家屋に係る契約者はGで、その開栓年月日は昭和52年12月10日である旨回答している。
ロ 譲渡所得の金額の計算において、控除することができる資産の取得費に関する規定等について
(イ)所得税法第33条《譲渡所得》第3項は、譲渡所得の金額は、その年中に譲渡した資産の総収入金額から譲渡した資産の取得費及び譲渡した資産の譲渡に要した費用の合計額を控除し、その残額から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
(ロ)所得税法第38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項は、譲渡所得の金額の計算上控除する資産の取得費は、別段の定めがあるものを除き、その資産の取得に要した金額並びに設備費及び改良費の額の合計額とする旨規定している。
(ハ)所得税基本通達38−8《取得費等に算入する借入金の利子等》は、固定資産の取得のために借り入れた資金の利子のうち、その資金の借入れの日から当該固定資産の使用開始の日(当該固定資産の取得後、当該固定資産を使用しないで譲渡した場合においては、当該譲渡の日)までの期間に対応する部分の金額は、当該固定資産の取得費又は取得価額に算入する旨定めている。
 所得税基本通達38−8は、一般的には個人がその資産を居住の用に供するに至るまでには、ある程度の期間を要するのが通常であり、その期間中には資産を使用していないにもかかわらず利子の支払を余儀なくされていることを勘案すると、借入金の利子のうち、資産の使用を開始するまでの期間に対応するものは、その資産の取得に係る用途に供する上での必要な準備費用ということができ、譲渡所得の取得費に含めないとすることは租税負担の合理性、衡平性の観点からみても相当ではないことから、借入金の利子のうちその資産の使用開始の日以前の期間に対応するものは、資産の取得に要した金額に算入するとしているが、当審判所においても相当であると解する。
(ニ)また、所得税基本通達38−8の2の(1)は、土地については、その使用の状況に応じ、同基本通達38−8に定める使用開始の日を判定し、イは新たに建物等の敷地の用に供するものは、当該建物等を居住の用等に供した日、ハは土地のうち建物、構築物等の施設を要しないものは、そのものの本来の目的のための使用を開始した日とする旨定めている。
ハ これを本件についてみると次のとおりである。
(イ)本件借入金について
 上記1の(3)のイ及びロによれば、本件借入金は、その全額が本件譲渡物件を取得するために要した取得費に充てられたと認められる。
(ロ)本件譲渡物件の使用開始の日及び取得費に算入すべき本件借入金の利子の金額について
A 譲渡した土地の取得費に算入される借入金の利子は、取得目的に応じた使用又は処分がされた日までの期間に対応する借入金の利子とされているが、土地の取得目的は主観的には一応定まっていても、潜在的な他の目的を排除し難い場合が多く、かつ、当初の取得目的がその後変更されることも少なくないことを考慮すると、土地の地目、形状等に照らし、客観的にみて使用の事実があったと判断されるときに、取得目的に応じた使用があったと認めるのが相当である。
B 原処分庁は、請求人が本件譲渡物件を取得した目的は、Gに本件譲渡物件を貸し付けることにあり、上記1の(3)のイの本件譲渡物件の取得日において請求人の取得目的は達成され、Gはその時点において本件譲渡物件を含む本件土地すべてを使用し得る状態にあったといえるので、同日をもって本件譲渡物件の使用が開始されたとみるのが相当であると主張する。
 しかしながら、Gが本件譲渡物件を取得日から使用していた事実は認められず、むしろ、上記イの(イ)のとおり、請求人は本件譲渡物件の取得日からGが本件家屋の建築に着手するまでは、これを更地の状態にしていて、自身も全く使用していなかったと認められる。そうすると、本件土地すべてを使用し得る状態であったことをもって、客観的にみて取得目的に応じた使用の事実があったと認めることはできない。
C 本件譲渡物件については、請求人とGとの間で書面により賃貸借あるいは使用貸借契約が締結された事実は認められない。もっとも本件譲渡物件は、本件土地の一部を構成するところ、請求人の答述によれば、請求人は、Gと本件土地を共有する目的で取得しており、Gが本件家屋を建築することは暗黙の了解事項であったことが認められ、これらに照らせば、両者の間には、本件譲渡物件をGが使用することについて、黙示の合意が成立していたものと推認される。そして、本件譲渡物件については、上記1の(3)のイ及びニ並びに上記イのとおり、請求人が昭和52年1月24日に取得した後、Gが宅地である本件譲渡物件を含む本件土地に本件家屋を建築し、G及びJが本件家屋に居住している。
D 上記Cによれば、請求人は、親子という生活共同体の構成員として両親が居住するための建物の建築用地として本件譲渡物件を取得したものであり、本件譲渡物件を含む本件土地は一体として本件家屋の敷地の用に供されている。また、本件譲渡物件は、請求人において他の用途への使用や転売等が実質的にも困難な状況であると認められる。
 そうすると、本件では、所得税基本通達38−8の2の(1)のイに定める「建物を居住の用に供した日」をもって使用開始の日と認めるのが相当である。
E 本件家屋への居住の開始日については、上記イの(イ)ないし(ハ)を総合的に勘案した場合、GとJは昭和52年12月10日に居住を開始したと認められる。
F ところで、原処分庁は、本件更正処分において別表2の「本件更正処分額」欄のとおり、請求人が本件銀行に支払った昭和52年1月24日から同年11月22日までの期間に対応する利子504,052円を本件譲渡物件の譲渡に係る分離長期譲渡所得の金額の計算上、取得費に算入している。
 しかしながら、上記のとおり、取得費に算入すべき借入金の利子の金額は、借入日からGとJが本件家屋へ居住を開始した昭和52年12月10日までの期間に相当する金額、すなわち、別表2の「審判所認定額」欄のとおり、同年12月10日までの期間に対応する金額533,243円である。
(ハ)更に請求人は、本件家屋は請求人が建築したものでも、居住していたものでもないことから、いわゆる住宅ローン控除の対象とされなかったものであり、本件借入金の利子の全額を譲渡所得の金額の計算上、取得費として算入すべきである旨主張する。
 しかしながら、住宅取得控除は所得税額の税額控除に係るものであり、譲渡所得における取得費とはその性質を異にしているから、請求人の上記主張は理由がない。

(3)また、過少申告加算税の賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(4)以上のとおり、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得の課税標準及び税額は、原処分に係る金額を下回るので、原処分は、その一部を取り消すべきである。

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