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(平17.12.19裁決、裁決事例集No.70 215頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、C税務署長が、D国税局の職員の調査に基づき、建築業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)に対し、非常勤取締役に対する報酬のうち、不相当に高額な部分については損金の額に算入することができないとして、法人税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分を行ったところ、これを不服とする請求人が、各処分の一部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、次の各事業年度(以下「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限内に申告した。
(イ)平成14年2月○日から平成15年1月31日までの事業年度(以下「平成15年1月期」という。)
(ロ)平成15年2月1日から平成16年1月31日までの事業年度(以下「平成16年1月期」という。)
ロ これに対し、C税務署長は、平成16年11月25日付で、本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正処分」欄記載のとおりの各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)並びに「賦課決定処分」欄記載のとおりの重加算税及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、過少申告加算税の各賦課決定処分を「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は、原処分に不服があるとして、その一部の取消しを求めて平成17年1月11日に審査請求をした。

(3)関係法令

イ 法人税法第34条《過大な役員報酬等の損金不算入》第1項は、内国法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、その内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定している。
ロ 法人税法施行令第69条《過大な役員報酬の額》は、法人税法第34条第1項に規定する政令で定める金額は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ当該各号に定める金額(次の各号のいずれにも該当する場合には、当該各号に定める金額のうちいずれか多い金額)とする旨規定している。
(イ)第1号は、内国法人が各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額が、当該役員の職務の内容、その内国法人の収益及びその使用人に対する給料の支給の状況、その内国法人と同種の事業を営む法人でその事業規模が類似するもの(以下「類似法人」という。)の役員に対する報酬の支給の状況等に照らし、当該役員の職務に対する対価として相当であると認められる金額を超える場合、その超える部分の金額(以下、この規定を「実質基準」という。)
(ロ)第2号は、定款の規定又は株主総会、社員総会若しくはこれらに準ずるものの決議により報酬として支給することができる金額の限度額を定めている内国法人が、各事業年度においてその役員に対して支給した報酬の額の合計額が当該事業年度に係る当該限度額を超える場合、その超える部分の金額(以下、この規定を「形式基準」という。)

(4)基礎事実(当事者間に争いがなく、当審判所の調査によっても認められる事実)

イ 請求人は、建築及び住宅リフォーム等を事業目的として、平成14年2月○日に設立された法人であり、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社である。
ロ Eは、代表取締役の母で、請求人の設立以来、非常勤の取締役に就任している。
ハ 請求人は、Eに対する役員報酬として、平成15年1月期に33,000,000円(月額は3,000,000円で11か月分)、平成16年1月期に36,000,000円を支給(以下、これらを「本件役員報酬額」という。)し、本件各事業年度の損金の額に算入した。

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2 争点

 本件役員報酬額のうち、法人税法第34条第1項に規定する不相当に高額な部分の金額として本件各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されない金額はいくらか

3 争点に対する当事者の主張

(1)原処分庁

イ Eの職務は、主に従業員からの相談を受けることであり、他に取締役として決められた職務はない。
ロ こうしたEの職務に照らすと、Eの職務の対価として相当と認められる役員報酬の額(以下「本件適正報酬額」という。)は、請求人の類似法人として抽出した、平成15年1月期は10社及び平成16年1月期は6社の非常勤取締役の報酬額の平均値によることが相当と認められ、本件適正報酬額は、平成15年1月期は1,295,000円及び平成16年1月期は1,860,000円である。
ハ したがって、本件役員報酬額のうち、上記各金額を超える部分は、法人税法第34条第1項に規定する不相当に高額な部分の金額と認められ、その金額は、平成15年1月期は31,705,000円、平成16年1月期は34,140,000円であり、これらは、損金の額に算入することはできない。

(2)請求人

イ Eは、請求人の設立に際して、資本金額の決定、株主の選定と依頼、取締役及び監査役の選定と依頼、設立における司法書士及び弁護士への依頼並びに従業員の採用等を行いその尽力は大であり、設立後は、代表取締役のよき相談相手として、請求人の経営に参画している。
ロ そして、本件適正報酬額については、請求人の従業員に対する給与支給額を参酌して算定することが最も妥当であるところ、請求人は、従業員のFに対して月額500,000円の給与を支給していることから、月額500,000円が相当であるから、本件適正報酬額は、平成15年1月期は5,500,000円及び平成16年1月期は6,000,000円となる。
ハ したがって、本件役員報酬額のうち、上記各金額を超える部分、すなわち、平成15年1月期は27,500,000円、平成16年1月期は30,000,000円については、法人税法第34条第1項に規定する不相当に高額な部分の金額であると認めるが、原処分庁が損金の額に算入することはできないとした額でこれを上回る金額、すなわち、平成15年1月期の4,205,000円及び平成16年1月期の4,140,000円は、本件各事業年度の損金の額に算入できる。

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4 判断

(1)原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。

イ 取締役の報酬に関する株主総会の決議
 請求人の定款の第4章の第23条において、取締役及び監査役の報酬は、株主総会の決議をもって定める旨定められているが、本件各事業年度の取締役及び監査役の報酬に関する株主総会の決議はされていない。
ロ Eの職務の内容等
(イ)請求人の代表取締役であるGは、原処分に係る調査を担当した職員に対し、要旨次のとおり申述した。
A Eの職務の内容は、従業員からの悩み事を聞いてもらうことにより請求人の仕事が円滑に進むようにしてもらうほか、退職した従業員に対する貸付金の集金に行ってもらったことがある程度であり、特に決まった仕事はない。
B Eの出勤日時の管理及び仕事内容を明らかにする書類の作成はしておらず、請求人の事務室内にEの机はなく、出社時には空いている机を適当に使用させている。
(ロ)請求人は、原処分庁に対し、Eの職務に関する具体的な資料を提出せず、当審判所に対し、Fの職務の内容や勤務の状況等を明らかにしていない。
ハ 原処分庁のした類似法人の選定及び本件適正報酬額の算出状況
(イ)類似法人の選定について
 原処分庁は、請求人の類似法人として、C税務署及びその近隣署管内で住宅リフォームを手掛け、かつ、請求人の本件各事業年度の売上金額を基準として当該売上金額の0.5倍以上2倍以内の売上金額を有し、非常勤取締役が存するいわゆる青色申告法人について、平成15年1月期は10社、平成16年1月期は6社(以下、これらの法人を「本件類似法人」という。)を選定している。
(ロ)本件適正報酬額の算出について
 原処分庁は、本件類似法人の非常勤取締役(平成15年1月期は10社で14人、平成16年1月期は6社で8人)の年間報酬額の平均値をもって、本件適正報酬額としている。

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(2)前記1の(3)のとおり、法人税法第34条第1項は、法人がその役員に対して支給する報酬の額のうち不相当に高額な部分の金額として政令で定める金額は、法人の各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定しており、役員の職務行為に対する適正な対価の定め方については、同法施行令第69条が同法第34条第1項の規定を受けて、形式基準と実質基準を定めているところ、上記(1)のイのとおり、請求人の定款においては、取締役及び監査役の報酬は、株主総会の決議をもって定める旨定められているが、本件各事業年度の取締役及び監査役の報酬に関する株主総会の決議はされていないから、形式基準による限度額はない。

 したがって、本件では、実質基準に基づいて本件適正報酬額を判断することとなるが、実質基準について法人税法施行令第69条第1号は、前記1の(3)のロの(イ)のとおり、〔1〕当該役員の職務の内容、〔2〕その法人の収益及び使用人に対する給料の支給の状況、〔3〕類似法人の役員に対する報酬の支給の状況、〔4〕その他の事情を勘案すべき旨を定めているので、同号掲記の各事情について検討したところ、次のとおりである。
イ Eの職務の内容
 請求人は、前記3の(2)のイのとおり、Eの設立時における尽力は大であり、設立後は、代表取締役のよき相談相手として、経営に参画している旨主張し、その代表取締役であるGは、上記(1)のロの(イ)のAのとおり申述する。
 しかしながら、設立時における役割、貢献度等自体は職務の内容の構成要素でないことは明らかであり、また、尽力が大というのもその判断は極めて主観的で、何をもって大というのか甚だあいまいである上、よき相談相手というのも同様に客観性・具体性に欠けるものであり、上記主張を認めるには、その裏付けとなる確たる証拠資料が必要であるというべきところ、上記(1)のロの(ロ)のとおり、請求人は、何ら具体的な資料を提出しておらず、当審判所の調査によっても明らかではない。
 なお、上記Gの申述内容は、Eの職務は、主に従業員からの相談を受けることであり、他に取締役として決められた職務はないとの原処分庁の主張に反するものではないことからして、原処分庁のなしたEの請求人の取締役としての職務内容の把握は、不当ではない。
ロ 請求人の収益及び使用人に対する給料の支給の状況
 請求人は、前記3の(2)のロのとおり、本件適正報酬額は、請求人の従業員に対する給与支給額を参酌して算定することが最も妥当であるとして、その従業員のFに対して月額500,000円の給与を支給していることから、月額500,000円が相当である旨主張するが、上記(1)のロの(ロ)のとおり、請求人は、当審判所に対し、Fの職務の内容や勤務の状況等を明らかにしていないこと及び請求人の収益の状況如何にかかわらず非常勤取締役であるEの上記イの職務の内容からして、Fに対して月額500,000円の給与が支給されていることをもって、本件適正報酬額が月額500,000円であるとする根拠とはならない。
ハ 類似法人の役員に対する報酬の支給の状況
(イ)類似法人の選定及び本件適正報酬額の算出については、原処分庁が、上記(1)のハの(イ)のとおり、請求人と業種、事業規模などが類似し、請求人の所在する地域の非常勤取締役が存する法人を本件類似法人としており、その選定過程及び選定法人に合理性に欠ける点はなく、また、上記(1)のハの(ロ)のとおり、本件類似法人に存する非常勤取締役に支給された年間報酬額の平均値を本件適正報酬額とした算出方法についても、それぞれの類似法人の特殊性を捨象するという点で合理性があると認められる。
 したがって、原処分庁がした本件類似法人の選定及び本件適正報酬額の算出方法は、妥当なものと認められる。
(ロ)しかしながら、前記1の(4)のハのとおり、請求人の平成15年1月期における本件役員報酬額は、請求人の当該事業年度の月数に相当する11か月分であるところ、原処分庁の算出した平成15年1月期の本件適正報酬額は、12か月分に相当する額で計算されていることから、1か月分相当額が過大となり、相当でない。
ニ 以上の各事情を勘案して、本件各事業年度における本件適正報酬額を計算すると、次表の「本件適正報酬額」欄記載のとおりとなり、本件役員報酬額のうち、法人税法第34条第1項に規定する不相当に高額な部分の金額として本件各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入されない金額は、「差引損金不算入額」欄記載のとおりとなる。

事業年度本件役員報酬額本件適正報酬額差引損金不算入額
平成15年1月期33,000,000円1,187,000円31,813,000円
平成16年1月期36,000,000円1,860,000円34,140,000円

(3)本件各更正処分の適法性

 当審判所において、請求人の本件各事業年度における納付すべき税額を計算すると、平成15年1月期は、別表2の「納付すべき税額」欄の「審判所認定額」欄記載のとおりとなり、平成16年1月期は、別表1の「平成16年1月期」欄の「納付すべき税額」欄の「更正処分」欄記載のとおりとなる。
 そうすると、請求人の平成15年1月期の納付すべき税額は、平成15年1月期の法人税の更正処分の額を上回り、平成16年1月期の納付すべき税額は、平成16年1月期の法人税の更正処分の額と同額となる。
 したがって、本件各更正処分はいずれも適法である。

(4)本件各賦課決定処分の適法性

 上記(3)のとおり、本件各更正処分はいずれも適法であり、また、請求人は、本件各更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件各更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があることを主張、立証せず、当審判所の調査によってもそのような事情が存したとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件各賦課決定処分はいずれも適法である。

(5)その他

 請求人は、原処分のその他の部分について争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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