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(平17.7.7裁決、裁決事例集No.70 272頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は審査請求人らが相続により取得した別表2の物件番号1、2、3、4、5、6、7及び9の貸宅地(以下、それぞれ「物件1」、「物件2」「物件3」、「物件4」、「物件5」、「物件6」、「物件7」及び「物件9」といい、これらをまとめて「本件各貸宅地」という。)及び物件番号8の自用地(以下「物件8」といい、本件各貸宅地とあわせて「本件各物件」という。)の評価額の多寡を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 審査請求人S、同T、同U、同V、同W及び同X(以下「請求人ら」という。)は平成11年5月18日に死亡したY(以下「被相続人」という。)の共同相続人であるが、被相続人からの相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、別表1「当初申告」欄のとおり記載した申告書を法定申告期限内に提出した。
ロ その後、相続財産の一部について分割協議が成立し、本件相続税において取得した財産が変動したことを理由として、Xは別表1「更正の請求又は修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を平成12年8月14日に提出した。
 また、請求人らのうちX以外の審査請求人は、同年8月14日にそれぞれ別表1「更正の請求又は修正申告」欄のとおりとする更正の請求をしたところ、原処分庁は、これらに対し、同年11月16日付で別表1「第一次更正」欄のとおり減額する更正処分をした。
ハ その後、原処分庁は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、本件相続税について、取得した土地の評価額に誤りがあるとして、平成15年3月17日付で請求人らに対し、別表1「第二次更正等」欄のとおりの各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ニ 請求人らは、上記ハの処分を不服として、平成15年5月7日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成15年8月5日付で別表1「異議決定」欄のとおり、その一部を取り消す異議決定をした。(以下、異議決定によりその一部が取り消された後の上記ハの各更正処分及び各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」という。)
ホ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成15年9月4日に審査請求をした。
ヘ 請求人らは、Sを総代として選任し、その旨を平成15年9月11日に届け出た。

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(3)関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、財産の価額について、「この章で特別の定めのあるものを除くほか、相続、遺贈又は贈与により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価による」旨規定している。
ロ 財産評価基本通達(ただし、平成12年6月13日付課評2−4ほか1課共同による改正前のもの。以下「評価通達」という。)は、次のとおり定めている。
(イ)評価通達1《評価の原則》の(2)は、時価の意義について、「財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、この通達の定めによって評価した価額による」と定め、具体的な評価方法については、評価通達第2章以下の定めによることとしている。
(ロ)評価通達24−4《広大地の評価》は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(広大地)の価額について、その広大地が路線価地域に所在する場合は、広大地の地積から公共公益的施設用地となる部分の地積を控除した地積がその広大地の地積に占める割合(小数点以下第2位未満四捨五入)を奥行価格補正率として、評価通達の定めを適用する旨定めている。
 なお、公共公益的施設用地とは、同法第4条第14項に規定する道路、公園等の公共施設の用に供される土地及び都市計画法施行令第27条に掲げる教育施設、医療施設等の公益的施設の用に供される土地等をいうと解されている。
ハ 不動産鑑定評価基準(平成14年7月3日付全部改正前のもの。以下「鑑定評価基準」という。)は要旨次のとおり定めている。
(イ)更地の鑑定評価額は、更地並びに自用の建物及びその敷地の取引事例に基づく比準価格並びに土地残余法に基づく収益価格を関連づけて決定する。また、当該更地の面積が近隣地域の標準的な土地の面積に比べて大きい場合等においては、開発法により求めた価格を比較考量して決定する。(各論第1の一の(一)の1)
(ロ)底地の価格は、借地権の価格との相互関連において賃貸人に帰属する経済的利益を貨幣額で表示したものであり、底地の鑑定評価額は、実際支払賃料に基づく純収益を還元して得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定する。また、この場合においては、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案する。(各論第1の一の(一)の3のロ)
(ハ)還元利回りは、最も一般的と思われる投資の利回りを標準とし、その投資対象との関連において有する当該不動産の個別性、すなわち、投資対象としての危険性、流動性、管理の困難性、資産としての安全性等を総合的に比較考量して求める。(総論第7の一の(四)の2の(2)のロ)

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件各物件の利用状況は、別表2「利用状況」欄のとおり、物件1、物件2、物件3、物件4、物件5、物件6、物件7及び物件9はいずれも貸宅地であり、物件8は自用地である。
ロ 本件各物件の地積は、別表2「地積」欄のとおりである。
ハ 評価通達に基づき○○○が定めた財産評価基準(以下「評価基準」といい、評価通達と併せて「評価通達等」という。)によれば、平成11年分において、本件各物件は、路線価に基づき評価する地域内に所在し、その借地権割合は30%である。また、傾斜度が3度以下の土地の評価に当たり控除すべき造成費相当額は1平方メートル当たり5,000円である。

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2 主張

(1)請求人ら

イ 本件各更正処分について
(イ)本件各物件の時価は、不動産鑑定士Rが行った鑑定評価(以下「請求人ら鑑定」という。)による鑑定評価額である。具体的には、別表2「請求人ら主張額」欄の金額であり、本件各更正処分は請求人ら主張額を超える部分を取り消すべきである。
(ロ)本件各貸宅地については、評価通達に基づき算定した評価額は時価を超えている状態にあり、原処分庁側も鑑定評価による時価の見直しを行い、それに基づいて本件各更正処分を行ったことに争いはない。よって、これらの時価は、評価通達によらず、他の合理的な方式に基づき算定すべきであり、請求人ら鑑定と原処分庁側の行った鑑定評価のいずれが合理的な時価の算定をしているか考察すべきであるところ、原処分庁側の鑑定評価は時価を正確に構築していない。
 物件8については、原処分庁は評価通達により評価しているが、その評価に当たり想定した開発計画には画地割りがなく、また、造成費が工種ごとに算出されておらず適切ではない。
 したがって、評価通達に基づく評価額及び原処分庁側の鑑定評価に基づく評価額よりも、請求人ら鑑定に基づく評価額は、本件各物件の時価に近い。
(ハ)○○用地の価格との比較について
 貸宅地の評価額は、借地人以外の第三者に売買される金額を基に、比準価格と収益価格により決定すべきであるが、現実に貸宅地の取引事例がない事情の下では、収益還元的な方法により算定せざるを得ない。そして、○○○の用に供されている土地(以下「○○用地」という。)はその年間地代収入金額の25倍から27倍の価格で取引されている実情があることから、請求人ら鑑定に基づき評価した金額の検証のため、これを参考としたものである。
 そして、本件各貸宅地の年間地代は、条件の類似する○○用地の年間地代より低額となっていることから、本件各貸宅地の収益価格は当然に○○用地の価格より低額になるべきであり、したがって、○○用地の価格より低額となっている請求人ら鑑定に基づく評価額は妥当なものである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり本件各更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件各賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁

イ 本件各更正処分について
(イ)物件1、物件2、物件4、物件5、物件6及び物件9は、不動産鑑定士L、M及びNが行った鑑定評価(以下「原処分庁鑑定」という。)による鑑定評価額を基に、道路部分の評価額を補正した後の金額を時価とした。具体的には、別表2「原処分庁主張額」欄の金額である。
 なお、当該補正は、評価通達24《私道の用に供されている宅地の評価》において、不特定多数の者の通行の用に供されている私道の価額は評価しないと定められていることから、納税者間において公平な課税を行うとの趣旨のもと、原処分庁鑑定においては10%とされていた道路部分の標準価格に対する価値率を0%に置き換え、更地の復帰価値の算定の基となる更地価格を再計算したものである。
(ロ)物件3及び物件7は、原処分庁鑑定による鑑定評価額を時価とした。具体的には、別表2「原処分庁主張額」欄の金額である。
(ハ)物件8は、評価通達に基づき算定した価額を時価とした。具体的には、別表2「原処分庁主張額」欄の金額である。また、評価通達等の定めに基づき、広大地補正、造成費の控除を行うなど適正に評価している。
(ニ)不動産鑑定士に鑑定を依頼したのは、本件各貸宅地には、複数の地主が所有する土地をデベロッパーが一括で借り上げ、それらを一体として宅地造成し、各地主が所有している土地の形状とは全く無関係に区画された状態で転貸しているなど将来における復帰価値の算定が極めて困難であるという事情が認められたこと、物件8については、請求人ら鑑定の評価手法及び評価額に疑義があったことから、時価の検証を行う必要があると判断されたためである。
 そして、評価通達に基づく評価額と原処分庁鑑定に基づく評価額にバラツキが生じたため、評価の安全性を考慮し、いずれか低い価額を本件各物件の評価額として採用したものである。
 上記(イ)ないし(ニ)のとおり、別表2「原処分庁主張額」欄の金額と同額の評価額でされた本件各更正処分は適法であるので、審査請求は棄却されるべきである。
ロ 本件各賦課決定処分について
 上記イのとおり本件各更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件各賦課決定処分は適法であるので、審査請求は棄却されるべきである。

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3 判断

(1)法令解釈

イ 財産の価額
 相続税第22条は、相続により取得した財産の価額は、「当該財産の取得の時における時価による」と規定しているところ、この場合の時価とは、当該財産を取得した日において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
ロ 評価通達に基づく評価の合理性
 相続税法は、時価の算定方法について何ら規定していないところ、土地等の財産評価については、評価の一般基準が評価通達によって定められ、これに規定された評価方法により、画一的に土地等を評価することとされている。
 課税実務上、土地等の評価についてこのような画一的な評価方法が採用されているのは、土地等の客観的な交換価値は一義的に確定されるものではなく、的確に把握することが必ずしも容易ではないため、これを個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により、評価額に格差が生じることを避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることなどから、あらかじめ定められた評価方法によってこれを画一的に評価することにより、課税の適正や納税者間の公平を図ることが合理的であるという理由によるものと解される。
ハ 評価通達に基づき評価することが著しく不適当と認められる場合
 上記ロのとおり、評価通達に基づく評価方法は、公平な税負担と効率的な租税行政の実現の観点に照らして合理性を有するものと認められるところ、評価通達に基づく評価方法は一律の方法で行うものであるから、評価通達に基づき算定された評価額が、客観的交換価値と一致しない場合がないとはいえない。したがって、評価通達に基づき算定された土地等の評価額が、客観的交換価値を上回るなど、評価通達に基づき評価することが著しく不適当と認められる特別な事情がある場合には、評価通達に基づく評価方法によらず、その他の合理的な評価方法により評価することができると解される。

(2)本件各物件の評価額

 別表2「評価通達に基づく評価額」欄記載の金額は、異議決定に当たり原処分庁が本件各物件の評価額を評価通達に基づき算定したものである。本件各貸宅地の評価額については、同欄記載の金額が請求人ら鑑定に基づく評価額(別表2「請求人ら主張額」欄記載の金額)及び原処分庁鑑定に基づく評価額(別表2「原処分庁鑑定額」欄記載の金額)のいずれをも上回っており、物件8については、別表2「評価通達に基づく評価額」欄記載の金額が請求人ら鑑定に基づく評価額を上回り、原処分庁鑑定に基づく評価額を下回っていることから、請求人ら鑑定、原処分庁鑑定及び評価通達により算定した評価額について検討したところ、次のとおりである。
イ 物件1について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分調査資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 物件1は、4棟の建物の敷地及び道路として利用されている平坦な土地であるが、P市に接する部分はがけ地法面となっている。また、Q市作成の固定資産(評価)証明書(平成11年1月1日現在)によれば、道路部分の地積は65.42平方メートルであると認められる。
B 相続開始時において、被相続人は、物件1(公簿地積588平方メートル)を賃貸し、年間地代186,900円(1,050円/坪×178坪)を受領していた。
C 地主の受け取る年間地代は、約10年前は坪当たり800円であったが、現在は坪当たり1,050円に値上がりしている。
(ロ)請求人ら鑑定について
A 更地価格の決定
 別表3−1の「請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格にそれぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た価格を平均した価格85,600円/平方メートルを、その地域の標準的な画地の価格(以下「標準価格」という。)とし、これに個別格差52%を乗じて得た比準価格44,500円/平方メートルを更地単価として採用し、これに地積588平方メートルを乗じて更地価格を26,166,000円と決定している。
 なお、更地単価の決定に当たっては、土地残余法による収益価格42,200円/平方メートルについては試論的なものであること、地価公示価格に規準した価格(以下「規準価格」という。)51,600円/平方メートルについては、公示価格は地価下落を反映していないきらいが強いとの理由で参考にとどめている。
(A)個別格差について
 請求人ら鑑定は、別表3−1「1 請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」の(注1)のとおり、物件1をその利用状況(建物敷地部分、道路部分及びがけ地部分)に応じて7区分し、その地域の標準的な画地に対する格差(以下「価値率」という。)について、形状が相当なものは100%、形状が不相当なもの(以下「端画地」という。)は30%、無道路地は50%、道路部分は10%、がけ地部分は10%と判定している。この7区分のうち、端画地とされたものは3区分あり、それぞれ価値率を30%と判定しているが、30%とした具体的な根拠は明らかではなく、また、それらはそれぞれ所在する位置、形状等が異なっており、一律に同じ30%になるものとは認められないことから、請求人ら鑑定が判定した価値率に合理性があると認めることはできない。
 同様に、無道路地に係る価値率50%についても、具体的な算定根拠が明らかではなく、合理性があると認めることはできない。
 また、個別格差の算定に当たり、がけ地部分F32.37平方メートル及び端画地G24.52平方メートルは分母に含められているが分子には含められておらず、結果としてその分だけ個別格差が過少に算定されているが、当該部分を分子に含めなかった理由が示されていない。
 したがって、これらの価値率等を基礎として算定された物件1の個別格差52%は、合理性があるものとは認められない。
(B)以上のことから、請求人ら鑑定の更地価格は採用することはできない。
B 底地(貸宅地)価格の決定
 別表3−1「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料193,977円を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値2,431,605円と、更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値8,130,105円との合計額(以下「収益価格に準じた価額」という。)10,561,000円について、市場性の減退を理由として50%減価した後、さらに、○○用地の取引価格との比較においては、未だ市場性の減退があるとして30%減価し、底地価格を3,552,000円(1平方メートル当たり6,040円)と決定している。
(A)還元利回りと割引率
 請求人ら鑑定は、還元利回りと割引率のいずれについても、全国銀行・長期・約定貸出金利を基に算定した6.0475%を採用している。
 ところで、還元利回りとは、不動産から得られる収益を不動産の価額で割った利回りをいい、また、割引率とは、将来発生する金額をその不確実性等を反映させて現在価値に引き直すために使われる利率をいい、資金をいくらで運用することができるかという収益率としての概念と、将来の不確実性を反映させるという概念の両方を含んだものと解されている。
 そうすると、還元利回りと割引率とは異なる性質のものであり、その利率も異なるものと考えられるところ、請求人ら鑑定は特段の理由なく同一の利率を採用していることから、その利率は適切なものと認められない。
(B)更地の復帰価値
 上記Bのとおり、更地の復帰価値は、更地価格を割引率で割り引いて算定しているところ、更地の復帰価値は、上記Aのとおり、当該更地価格には合理性が認められず、また、上記(A)のとおり、当該割引率は適切なものと認められないことから、これを基に算定された更地の復帰価値についても適正な価額とは認められない。
(C)○○用地の価格との比較による減価
a 請求人ら鑑定は、市場性の減退があるとして50%減価した理由として、不動産市況の低迷のなか、地代を得るための投資は考えられないこと及び○○用地の取引価格との比較においては○○用地への投資が合理的と考えられることを挙げ、さらに30%減価した理由として、○○用地との比較において地代の値上げが困難であることなどを挙げている。
 しかしながら、減価割合を50%と判定した具体的な根拠は示されておらず、同様に、さらに市場性の減退があるとして判定した減価割合30%の具体的な根拠も示されていないことから、その割合が相当なものと認めることはできない。
b また、物件2の評価においては、○○用地との比較で市場性の減退を認めつつも、借地料に対する倍率ではおおむね妥当であるとして減価を行っていないことなどからすると、これらの減価割合は、本件各貸宅地の年間地代に○○用地市場において認められる一定の倍率を乗じて算定した価格に近似するよう恣意的に判定したものともみることができ、その割合は合理的なものと認めることはできない。
c 請求人らは、これらの減価を行った理由について、○○用地市場において○○用地の取引価格は年間地代に一定の倍率を乗じた金額を基に形成されるとの見解に立ち、収益価格に準じた価格を市場性の観点から検証したものであると主張する。しかしながら、○○用地はその特殊な利用目的から代替性に乏しく、賃貸人である地主は地代の値上げが比較的容易であるといえる反面、賃借人である○○はその特殊な利用目的のため土地を借り上げることが可能であるという特殊な関係にあるという特色を反映し、その価格は地代徴収権のみに着目して形成される傾向があると認められる。
 そして、特殊な用途に供することを目的とする○○用地は、居住を目的とする一般住宅用地とは不動産の種別が異なるといえるから、○○用地の価格が年間地代に一定の倍率を乗じた金額を基に形成されるとしても、一般住宅用地の底地の価格が、同様に形成されるとまで認めることはできない。
 そして、鑑定評価基準の各論において、底地の鑑定評価額は実際支払賃料に基づく純収益を還元して得た収益価格及び比準価格を関連づけて決定する旨定められていることからすると、一般住宅用地の底地の第三者間の売買における価格は、○○用地とは異なり、地代徴収権のみに着目して決定されるものではないと認められる。
 そうすると、一般住宅用地の底地価格について、○○用地の年間地代とその取引倍率との比較のみによって、減価することは相当なものとはいえない。
C 以上のことから、請求人ら鑑定に基づく評価額は採用することはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 更地価格の決定
 別表3−1の「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正等を行って得た比準価格104,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格43,300円/平方メートル及び規準価格103,000円/平方メートルを比較検討して、標準価格を104,000円/平方メートルと求め、これに個別的格差66.2%を乗じて得た価格68,848円/平方メートルを更地単価として採用し、これに地積588平方メートルを乗じて、更地価格を40,483,000円と決定している。
(A)公示価格との均衡
 原処分庁鑑定では、取引事例から算定した比準価格と公示地(Q−○)の公示価格に規準した規準価格との均衡に留意して、更地価格を検討しているところ、請求人らは、一般に公示価格は市場を反映していない実態があるから、標準価格が適正であるか否かの判断材料になりえない旨主張する。
 公示価格とは、地価公示法第2条《標準地の価格の判定等》の規定に基づき、土地鑑定委員会が毎年一回、都市計画区域内の標準地について、二人以上の不動産鑑定士等の鑑定評価を求め、その結果を審査し、必要な調整を行って判定された正常価格であり、また、不動産鑑定士等が鑑定評価を行う場合においては、規準としなければならないとされている(地価公示法第8条)。
 これらのことから、公示価格には一般に合理性があると認められるところ、原処分庁鑑定が、公示価格との均衡に留意して更地価格を検討したことは相当と認められるので、請求人らの主張を採用することはできない。
(B)個別格差について
 請求人らは、原処分庁鑑定は、一方で推測した過去の造成前の形状を基に、また一方で現在の地勢等の状況を基に個別格差を判定しており、支離滅裂な鑑定であると主張する。しかしながら、原処分庁鑑定の個別格差の内訳として挙げられた項目とその説明の趣旨は、物件1の筆全体を開発素地と捉え、幹線道路である市道との現在の位置関係(無道路地)及び現在の地勢を基に個別格差を判定したものと認められるので、一方で推測した過去の状況を基に、一方で現在の状況を基に判定したものとする請求人らの主張は相当ではない。
B 底地価格の決定
 別表3−1「3 底地価格算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料256,132円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値3,372,000円と、更地価格を割引率6.5%で割り引いて算定した更地の復帰価値10,129,000円との合計額13,501,000円(1平方メートル当たり22,961円)を底地価格と決定している。
(A)支払地代
 原処分庁鑑定は、P市及びQ市の借地料の適正地代水準は更地価格の0.7%程度であるとし、現行地代が半永久的に持続するような特別な理由がない限り、現行地代水準は適正地代水準に是正されていくとの判断に基づき、周辺地域の継続地代との均衡と適正地代水準に是正される期間を考慮して地代を補正(1.2倍)しているところ、請求人らは、実際に支払われている地代を増額する根拠がないと主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、鑑定評価基準の各論では、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案するとされ、また、現に物件1に係る地代は上昇している事実があることからすると、現行の支払地代が半永久的に持続するとはいえず、原処分庁鑑定が鑑定評価基準に従い、将来の賃料の改定の実現性があると判断したことは相当である。
(B)還元利回りと割引率
 上記(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、原処分庁鑑定では、還元利回りは、定期借地契約の新規実質賃料の利回り及び○○用地売買における倍率を参考に3.5%と、割引率は建物の存続期間(22年)等を基に6.5%とそれぞれ決定しており相当である。
C 上記のとおり、原処分庁鑑定については、請求人ら鑑定に比べ合理性が認められる。
(ニ)物件1の評価額
 上記の(イ)ないし(ハ)のとおり、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比して合理性があると認められるところ、原処分庁は、物件1の評価額は、原処分庁鑑定において判定された道路部分の価値率10%を、評価通達の定めを準用して0%に置き換え、原処分庁鑑定に基づく評価額を補正した後の金額であると主張する。
 しかしながら、鑑定評価基準と評価通達は異なるものであり、また、評価通達によらず鑑定評価基準により物件1を評価するものであるから、単に、評価通達における取扱いを根拠として、当該価値率を0%とすることは相当と認められない。むしろ、請求人ら鑑定及び原処分庁鑑定ともに、物件1の道路部分の価値率を10%と判定していることからすると、当該道路部分の価値率は10%とするのが相当である。
 したがって、物件1の評価額は原処分庁鑑定に基づく評価額と同額の13,501,000円であると認められる。
ロ 物件2について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 物件2は、堅固な1棟の建物の敷地として利用されている。相続開始時において、被相続人は、物件2(地積122.95平方メートル)を賃貸し、年間地代36,750円(1,050円/坪×35坪)を受領していた。また、原処分庁鑑定によれば、建物所有者は、賃借に当たり、権利金を支払っていることが認められる。
B 物件2の南側に所在するQ市q町e番地及びf番地のうち自用地部分337.51平方メートル(以下「南側自用地」という。)は、使用貸借により、審査請求人S所有の建物の敷地として利用されている。
 また、物件2と同一の近隣地域内に所在すると認められる。
C 地主の受け取る年間地代は、約10年前は坪当たり800円であったが、現在は坪当たり1,050円に値上がりしている。
(ロ)請求人ら鑑定
A 更地価格の決定
 鑑定評価書には、更地価格7,460,000円(1平方メートル当たり60,675円)と記載があるのみで、更地価格の決定に至る過程等の記載がなく、検証することができない。
B 底地価格の決定
 別表3−2「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料42,359円を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値614,145円と、南側自用地の1平方メートル当たりの更地価格59,200円を基に算定した更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値641,409円との合計額1,255,000円を、市場性の減退を理由として30%減価し、底地価格を819,000円(1平方メートル当たり6,580円)と決定している。
 なお、物件1と同様に、○○用地との比較では未だ市場性の減退を有すると判断しているが、決定した底地価格の借地料に対する倍率はおおむね妥当であるとの理由で、さらに減価を行っていない。
(A)更地価格
 底地価格の決定に用いた更地価格は、別表3−2「3 底地価格算定の概要」の(注1)及び(注2)のとおり、南側自用地の更地価格59,200円/平方メートルに物件2の個別格差を乗じて算定されているものと認められる。
 同一の近隣地域内に所在する2以上の土地の評価をする場合、近隣地域の標準価格にそれぞれの個別格差を乗じ、それぞれの土地の価額を評価する方法は多く用いられているところ、物件2と南側自用地は同一の近隣地域に所在し、その近隣地域の標準価格は88,300円/平方メートルであることから、物件2の更地価格は、当該標準価格に物件2の個別格差を乗じて算定すべきところ、請求人ら鑑定では、南側自用地の更地価格59,200円/平方メートルに物件2の個別格差を乗じて算定しており、適切なものとは認められない。
(B)還元利回りと割引率
 還元利回り及び割引率のいずれについても、全国銀行・長期・約定貸出金利を基に算定した6.0475%を採用している。
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率は性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、請求人ら鑑定は、特段の理由もなく同一の利率を採用しており、その採用した利率は適切なものとは認められない。
(C)更地の復帰価値
 上記Bのとおり、更地の復帰価値は、更地価格を割引率で割り引いて算定しているところ、上記Aのとおり当該更地価格の検証ができないこと及び底地価格の決定に用いた更地価格及び当該割引率は適切なものと認められないことから、これを基に算定された更地の復帰価値についても適正な価額とは認められない。
(D)○○用地の価格との比較による減価
 ○○用地の取引倍率を考慮し30%減価しているが、その割合の具体的な根拠も示されておらず、また、第三者間の取引における底地価格は地代徴収権の価値にのみ着目して決定されるものではないので、算定された価格から30%もの減価を行う理由がない。
C 以上のことから、請求人ら鑑定に基づく評価額は採用することはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 更地価格の決定
 別表3−2「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た比準価格104,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格43,300円/平方メートル及び規準価格103,000円/平方メートルを比較検討して、標準価格を104,000円/平方メートルと求め、これに個別格差85.6%を乗じて得た価格89,024円/平方メートルを更地単価として採用し、更地価格を10,300,000円と決定している。
 また、標準価格は規準価格と均衡を得ており、また、個別的格差の算定においても特に不相当とするところは認められない。
B 底地価格の決定
 別表3−2「3 底地価格算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料102,015円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値2,090,000円と、更地価格を割引率5.5%で割り引いて算定した更地の復帰価値926,000円との合計額3,016,000円(1平方メートル当たり26,067円)を底地価格と決定している。
(A)支払地代
 原処分庁鑑定は、P市及びQ市の借地料の適正地代水準は更地価格の0.7%程度であるとし、現行地代が半永久的に持続するような特別な理由がない限り、現行地代水準は適正地代水準に是正されていくとの判断に基づき、周辺地域の継続地代との均衡と適正地代水準に是正される期間を考慮して地代を補正(1.2倍)しているところ、請求人らは、実際に支払われている地代を増額する根拠がないと主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、鑑定評価基準の各論では、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案するとされており、また、現に物件2に係る地代は上昇している事実があることから、現行の支払地代が半永久的に持続するとはいえず、原処分庁鑑定が鑑定評価基準に従い、将来の賃料の改定の実現性があると判断したことは相当である。
(B)還元利回りと割引率
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、原処分庁鑑定では、還元利回りは、定期借地契約の新規実質賃料の利回り及び○○用地売買における倍率等を参考に3.5%と、割引率は建物の存続期間(45年)等を基に5.5%とそれぞれ決定しており、相当であると認められる。
C 上記のとおり、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比べ合理性が認められる。
(ニ)物件2の評価額
 上記(イ)ないし(ハ)のとおり、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比して合理性があると認められるところ、原処分庁は、物件2の評価額は、原処分庁鑑定において判定された道路部分の価値率10%を、評価通達の定めを準用して0%に置き換え、原処分庁鑑定に基づく評価額を補正した金額であると主張する。
 しかしながら、鑑定評価基準と評価通達は異なるものであり、また、評価通達によらず鑑定評価基準により物件2を評価するものであるから、単に、評価通達における取扱いを根拠として、当該価値率を0%とすることは相当と認められない。むしろ、請求人ら鑑定及び原処分庁鑑定ともに、物件2の道路部分の価値率を10%と判定していることからすると、当該道路部分の価値率は10%であると認められる。よって、道路部分の価値率は、原処分庁が異議決定で採用した0%ではなく、原処分庁鑑定が採用した10%とするのが相当である。
 したがって、物件2の評価額は、別表5のとおり、地積を122.95平方メートルとして原処分庁鑑定に基づく評価額を補正した後の金額3,074,000円であると認められる。
ハ 物件3について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 物件3は、駐車場用地及びがけ地法面として利用されており、昭和48年3月3日付賃貸借契約書(賃借人:○○社)によれば、建物の所有を目的とする賃貸借の対象とされている。
B 相続開始時点において、被相続人は、物件3(公簿地積520平方メートル)を賃貸し、年間地代119,000円(700円/坪×170坪)を受領していた。
(ロ)請求人ら鑑定
A 更地であるとした場合の価格
 別表3−3「1 請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た価格を平均した価格97,600円/平方メートルを標準価格とし、これに個別的格差32%を乗じて得た比準価格31,200円/平方メートルを更地単価と採用し、これに地積520平方メートルを乗じて更地価格を16,224,000円と決定している。
(A)個別格差について
 駐車場部分の価値率を50%、がけ地部分の価値率を10%と判定しているところ、その数値の具体的な算定根拠は明らかではない。
 また、本件各貸宅地に係る請求人ら鑑定をみると、区分した個々の区画固有の状況、位置、形状等に関わらず、その区画が、端画地であれば価値率30%、無道路地であれば価値率50%等と一律に判定しており、個々の区画の状況等を全く考慮せず判定していると認められることから、当該価値率も各区画の状況等を反映したものとは認められない。
 したがって、当該価値率は相当とは認められず、それらを基に算定された個別格差も相当なものとは認められない。
(B)以上のことから、請求人ら鑑定の更地価格は採用することはできない。
B 底地価格の決定
 別表3−3「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料119,000円を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値1,609,284円と、更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値2,956,012円との合計額4,565,000円について、市場性の減退があるとして30%減価した後、さらに○○用地の取引価格との比較において、未だ市場性の減退が見込まれるとして30%減価し、底地価格を2,236,000円(1平方メートル当たり4,300円)と決定している。
(A)還元利回りと割引率
 還元利回り及び割引率のいずれについても、全国銀行・長期・約定貸出金利を基に算定した6.0475%を採用している。
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、請求人ら鑑定は、特段の理由もなく同一の利率を採用していることから、その採用した利率は適切なものとは認められない。
(B)更地の復帰価値の算定
 上記(A)のとおり適切なものと認められない割引率と、上記Aのとおり採用しがたい更地価格を基に算定された更地の復帰価値についても適正な価額とは認められない。
(C)○○用地の価格との比較による減価
 これらの減価割合をそれぞれ30%と判定した具体的な根拠は示されておらず、また、上記イの(ロ)のBの(C)のcのとおり、第三者間の取引における一般住宅用地の底地価格は地代徴収権の価値にのみ着目して決定されるものではないから、これらの減価を行う合理的な理由は認められない。
C 以上のことから、請求人ら鑑定に基づく評価額は採用することはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 更地価格の決定
 別表3−3「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た比準価格104,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格43,300円/平方メートル及び規準価格103,000円/平方メートルを比較検討し、標準価格を104,000円/平方メートルと求め、これに個別格差62.0%を乗じて得た価格64,480円/平方メートルを更地単価として採用し、これに地積520平方メートルを乗じて更地価格を33,530,000円と決定している。
(A)個別格差
 原処分庁鑑定は、平均的な高さが5メートル、土中の基礎が1メートル、延長35メートルのコンクリートよう壁(工事単価1平方メートル当たり62,000円)の設置を想定して算定したよう壁設置費用13,020,000円を基に個別格差を判定している。
 請求人らは、旧建設省等の設計基準では、重力式よう壁は5メートルまでで、5メートルを超えると片持ばり式よう壁となること、よう壁の底版に建物の基礎を設置しないならば根入れは1メートル程度でよいが、建物の基礎を設置する場合は、根入れは2.5メートル〜3.0メートル必要となることから、仮に当該よう壁が重力式よう壁であるとすると、原処分庁鑑定の想定したよう壁設置費用等は大きく変わるから、当該個別格差は具体的根拠を欠くと主張する。
 しかしながら、請求人の主張は、仮に重力式よう壁で建物の基礎を設置するとした場合を仮定した場合のものであり、また、想定した設置工事が異なれば、設置費用等が異なることとなるのは当然であるから、請求人の主張には理由がない。
 また、原処分庁鑑定が用いた工事単価と同程度の工事単価で、他の工法によるよう壁の設置が不可能なものとまではいえないので、原処分庁鑑定が算定したよう壁設置費用の金額は不相当なものとはいえない。
B 底地価格の決定
 別表3−3「3 底地価格算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料226,512円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値2,930,000円と、更地価格を割引率6.5%で割り引いて算定した更地の復帰価値8,389,000円の合計額11,319,000円(1平方メートル当たり21,767円)を底地価格と決定している。
(A)支払賃料
 原処分庁鑑定は、P市及びQ市の借地料の適正地代水準は更地価格の0.7%程度であるとし、現行地代が半永久的に持続するような特別な理由がない限り、現行地代水準は適正地代水準に是正されていくとの判断に基づき、周辺地域の継続地代との均衡と適正地代水準に是正される期間を考慮して地代を補正(1.2倍)しているところ、請求人らは、実際に支払われている地代を増額する根拠がないと主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり、鑑定評価基準の各論では、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案するとされていることから、原処分庁鑑定が鑑定評価基準に従い、将来の賃料の改定の実現性があると判断したことは相当である。
(B)還元利回りと割引率
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、原処分庁鑑定では、還元利回りは、定期借地契約の新規実質賃料の利回り及び○○用地売買における倍率等を参考に3.5%と、割引率は建物の存続期間(22年)等を基に6.5%とそれぞれ決定しており、相当であると認められる。
C 上記のとおり、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比べ合理性が認められる。
(ニ)物件3の評価額
 上記のとおり、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比して、合理性が認められるので、物件3の評価額は、原処分庁鑑定基づく評価額と同額の11,319,000円と認められる。
ニ 物件4及び物件5について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 物件4は、2棟の建物の敷地及び道路として利用されており、Q市作成の固定資産(評価)証明書(平成11年1月1日現在)によれば、道路部分の地積は105.42平方メートルであると認められる。
B 物件5は、1棟の建物の敷地、墓地及び道路として利用されており、Q市作成の固定資産(評価)証明書(平成11年1月1日現在)によれば、道路部分の地積は64.25平方メートルであると認められる。
C 相続開始時点において、被相続人は、物件4(公簿地積269平方メートル)及び物件5(公簿176平方メートル)を賃貸し、年間地代104,544円(800円/坪×130.68坪)を受領していた。また、従前の地代は500円/坪であった。
 なお、物件5の墓地部分(36.38平方メートル)は、地代の算定地積に含まれていないことから、賃貸借の対象とされていないものと認められる。
(ロ)請求人ら鑑定
A 物件4及び物件5の更地価格
 物件4については、別表3−4の「1 請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た価格を平均した価格91,100円/平方メートルを標準価格とし、個別格差19%を乗じて得た比準価格17,300円/平方メートルを更地単価として採用し、これに地積269平方メートルを乗じて、更地価格を4,654,000円と決定している。
 物件5については、別表3−5の「1 請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、物件4と同一の標準価格91,100円/平方メートルに個別格差17%を乗じて得た価格15,500円/平方メートルを更地単価として採用し、これに地積176平方メートルを乗じて、更地価格を2,728,000円と決定している。
(A)個別格差
 物件4を3区分、物件5を3区分し、そのうち端画地部分の価値率を一律30%と判定しているところ、その価値率の具体的な算定根拠は明らかではない。また、上記ハの(ロ)のAの(A)のとおり、請求人ら鑑定において、各区画の価値率は、個々の区画の状況等を全く考慮せず判定していると認められることから、当該価値率は相当なものとは認められない。したがって、それらを基に算定された個別格差も相当なものとは認められない。
(B)以上のことから、請求人ら鑑定の更地価格は採用することはできない。
B 底地価格の決定
 物件4については、別表3−4「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料63,214円(235円/平方メートル)を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値966,314円と、更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値1,860,805円との合計額2,827,000円について、市場性の減退を理由として40%減価し、さらに、○○用地の取引価格との比較においては、未だ市場性の減退があるとして30%減価し、底地価格を1,187,000円(1平方メートル当たり4,410円)と決定している。
 物件5については、別表3−5「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料41,359円/平方メートル(235円/平方メートル)を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値652,135円と、更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値1,278,417円との合計額1,931,000円について、市場性の減退を理由として40%減価し、さらに、○○用地の取引価格との比較においては、未だ市場性の減退があるとして30%減価し、底地価格を811,000円(1平方メートル当たり4,610円)と決定している。
(A)還元利回りと割引率
 還元利回り及び割引率のいずれについても、全国銀行・長期・約定貸出金利を基に算定した6.0475%を採用している。
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、請求人ら鑑定は、特段の理由もなく同一の利率を採用しており、その採用した利率は適切なものとは認められない。
(B)更地価格の復帰価値
 上記(A)のとおり適切なものと認められない割引率と、上記Aのとおり採用しがたい更地価格を基に算定された更地の復帰価値についても適正な価額とは認められない。
(C)○○用地の価格との比較による減価
 これらの減価割合を40%及び30%と判定した具体的な根拠は示されておらず、また、上記イの(ロ)のBの(C)のcのとおり、第三者間の取引における一般住宅用地の底地価格は地代徴収権の価値にのみ着目して決定されるものではないから、これらの減価を行う合理的な理由は認められない。
C 以上のことから、請求人ら鑑定に基づく評価額は採用することはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 物件4及び物件5の更地価格の決定
 物件4については、別表3−4「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た比準価格112,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格51,900円/平方メートル及び規準価格102,000円/平方メートルを比較検討して、標準価格を112,000円/平方メートルと求め、これに個別格差(宅地部分102/100、道路部分10/100)を乗じて得た価格(宅地部分114,240円/平方メートル、道路部分11,200円/平方メートル)を更地単価とし、更地価格を19,900,000円と決定している。
 物件5については、別表3−5「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た比準価格112,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格51,900円/平方メートル及び規準価格102,000円/平方メートルを比較検討して、標準価格を112,000円/平方メートルと求め、これに個別的格差(宅地部分97/100、道路部分10/100、墓地部分10/100)を乗じて得た価格(宅地部分108,640円/平方メートル、道路部分11,200円/平方メートル、墓地部分11,200円/平方メートル)を更地単価とし、更地価格を9,320,000円と決定している。
B 底地価格の決定
 物件4については、別表3−4「3 底地価格算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料75,858円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値1,010,000円と、更地価格を割引率6.0%で割り引いて算定した更地の復帰価値4,920,000円との合計額5,930,000円(1平方メートル当たり22,045円)を底地価格と決定している。
 物件5については、別表3−5「3 底地価格算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料49,632円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値731,000円と、更地価格を割引率6.0%で割り引いて算定した更地の復帰価値1,720,000円の合計額2,450,000円(1平方メートル当たり13,920円)を底地価格と決定している。
(A)支払地代
 原処分庁鑑定は、現行地代は周辺地域の賃貸事例と比較、勘案しても、著しく低廉で、そのまま採用するのは不合理であり、第三者売買ではこれを機に地代の増額請求をするのが一般的であるとして、地代を補正(1.2倍)しているところ、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり鑑定評価基準の各論では、底地の鑑定評価においては、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案することとされ、また、物件4及び物件5に係る地代が坪当たり500円から800円に上昇している事実があることからすれば、原処分庁鑑定が鑑定評価基準に従い、将来の賃料の改定の実現性があると判断し、周辺の賃貸事例を参考に地代を修正したことは相当と認められる。
(B)還元利回りと割引率
 原処分庁鑑定では、還元利回りを3.5%、割引率を6.0%と決定しているが、これらは社団法人日本不動産鑑定協会による地価公示及び県地価調査に係る研究成果で鑑定評価一般に用いられている基本利率5.0%を基に、底地の収益性や更地に復帰することの不確実性等を考慮の上、それぞれ算定されたものであり、相当と認められる。
C 以上のことから、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比べ合理性が認められる。
(ニ)物件4及び物件5の評価額
A 原処分庁が行った補正について
 原処分庁は、原処分庁鑑定において10%とされた物件4及び物件5の道路部分の価値率を、評価通達の定めを準用して0%に置き換え、原処分庁鑑定に基づく評価額を補正した金額が、物件4及び物件5の評価額であると主張する。
 しかしながら、鑑定評価基準と評価通達は異なるものであり、また、評価通達によらず鑑定評価基準により物件4及び物件5を評価するものであるから、単に、評価通達における取扱いを根拠として、当該価値率を0%と補正することは相当と認められない。むしろ、請求人ら鑑定及び原処分庁鑑定ともに、物件4及び物件5の道路部分の価値率を10%と判定していることからすると、当該道路部分の価値率は原処分庁鑑定の判定のとおり10%とするのが相当である。
B 物件5の墓地部分について
 上記(イ)の認定事実のとおり、物件5の墓地部分36.38平方メートルは賃貸借の対象となっていないことから、貸宅地として評価することは適当ではない。
C 1平方メートル当たりの地代について
 上記(イ)の認定事実のとおり、墓地部分の地積36.38平方メートルは、地代の算定根拠の坪数に含まれていないことから、当該地積を除外して1平方メートル当たりの支払地代を算定すると、1平方メートル当たりの地代は255円/平方メートル=104,544円÷(物件4の地積269平方メートル+物件5の地積176平方メートル−墓地部分の地積36.38平方メートル)となる。
D 上記の(イ)ないし(ハ)のとおり、原処分庁鑑定は請求人ら鑑定に比して合理性があると認められ、上記B及びCのとおり、墓地部分は更地とし、1平方メートル当たりの地代は255円として、原処分庁鑑定に基づく評価額を補正すると、物件4及び物件5の評価額は別表5の審判所認定額のとおりとなる。
 したがって、物件4の評価額は6,033,216円、物件5の評価額は2,658,523円と認められる。
ホ 物件6について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 物件6は、4棟の建物の敷地及び道路として利用されており、道路部分の地積は、原処分庁鑑定によれば80.60平方メートルであると認められる。
B 相続開始時点において、被相続人は、物件6(公簿地積1,246平方メートル)を賃貸し、年間地代207,350円(550円/坪×377坪)を受領していた。なお、年間地代は、平成15年9月から600円/坪に値上がりしている。
(ロ)請求人ら鑑定
A 更地価格の決定
 別表3−6「1 請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た価格を平均した価格76,800円/平方メートルを標準価格とし、これに個別的格差65%を乗じて得た比準価格49,900円/平方メートルを更地価格として採用し、これに地積1,246平方メートルを乗じて更地価格を62,175,000円と決定している。
(A)個別格差
 利用状況に応じ9区画に区分し、そのうち端画地部分の価値率を30%と判定しているところ、その価値率の具体的な算定根拠は明らかではない。
 また、上記ハの(ロ)のAの(A)のとおり、請求人ら鑑定において、各区画の価値率は、個々の区画の状況等を全く考慮せず判定していると認められることから、当該価値率は相当なものとは認められない。したがって、それらを基に算定された個別格差も相当なものとは認められない。
(B)以上のことから、請求人ら鑑定の更地価格は採用することはできない。
B 底地価格の決定
 別表3−6「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料213,323円を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値3,112,318円と、更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値13,596,396円との合計額16,710,000円について、市場性の減退を理由として70%減価し、さらに、○○用地の取引価格との比較においては、未だ市場性の減退があるとして30%減価し、底地価格を3,402,000円(1平方メートル当たり2,730円)と決定している。
(A)還元利回りと割引率
 還元利回り及び割引率のいずれについても、全国銀行・長期・約定貸出金利を基に算定した6.0475%を採用している。
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、請求人ら鑑定は、特段の理由もなく同一の利率を採用しており、その採用した利率は適切なものとは認められない。
(B)更地の復帰価値の算定
 上記(A)のとおり適切なものと認められない割引率と、上記Aのとおり採用しがたい更地価格を基に算定された更地の復帰価値についても適正な価額とは認められない。
(C)○○用地の価格との比較による減価
 これらの減価割合を70%及び30%と判定した具体的な根拠は示されておらず、また、上記イの(ロ)のBの(C)のcのとおり、第三者間の取引における一般住宅用地の底地価格は地代徴収権の価値にのみ着目して決定されるものではないから、これらの減価を行う合理的な理由は認められない。
C 以上のことから、請求人ら鑑定に基づく評価額は採用することはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 更地であるとした場合の価格
 別表3−6「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た比準価格101,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格52,100円/平方メートル及び規準価格95,600円/平方メートルを比較検討して、標準価格を101,000円/平方メートルと求め、これに個別的格差(宅地部分79/100、宅地部分68/100、道路部分10/100)を乗じて得た価格に地積を乗じ、更地価格を90,700,000円と算定している。
 また、標準価格は規準価格と均衡を得ており、また、個別的格差の算定においても特に不相当とするところは認められない。
B 底地価格の決定
 別表3−6「3 底地価格算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料248,820円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値2,520,000円と、更地価格を割引率6.0%で割り引いて算定した更地の復帰価値21,100,000円の合計額23,600,000円(1平方メートル当たり18,941円)を底地価格と決定している。
(A)支払地代
 原処分庁鑑定は、現行地代は周辺地域の賃貸事例と比較、勘案しても、著しく低廉で、そのまま採用するのは不合理であり、第三者売買ではこれを機に地代の増額請求をするのが一般的であるとして、地代を補正(1.2倍)しているところ、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり鑑定評価基準の各論では、底地の鑑定評価においては、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案するものとされ、また、物件6に係る地代が坪当たり550円から600円に上昇している事実があることからすれば、原処分庁鑑定が鑑定評価基準に従い、将来の賃料の改定の実現性があると判断し、周辺の賃貸事例を参考に地代を修正したことは相当と認められる。
(B)還元利回りと割引率
 原処分庁鑑定では、還元利回りを3.5%、割引率を6.0%と決定しているが、これらは社団法人日本不動産鑑定協会による地価公示及び県地価調査に係る研究成果で鑑定評価一般に用いられている基本利率5.0%を基に、底地の収益性や更地に復帰することの不確実性等を考慮の上、それぞれ算定されたものであり、相当なものと認められる。
C 以上から、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比べ合理性が認められる。
(ニ)物件6の評価額について
 原処分庁は、原処分庁鑑定において10%とされた物件6の道路部分の価値率を、評価通達の定めを準用して0%に置き換え、原処分庁鑑定に基づく評価額を補正した金額が、物件6の評価額であると主張する。
 しかしながら、鑑定評価基準と評価通達は異なるものであり、また、評価通達によらず鑑定評価基準により物件6を評価するものであるから、単に、評価通達における取扱いを根拠として、当該価値率を0%と補正することは相当と認められない。むしろ、請求人ら鑑定及び原処分庁鑑定ともに、物件6の道路部分の価値率を10%と判定していることからすると、当該道路部分の価値率は原処分庁鑑定の判定のとおり、10%とするのが相当である。
 したがって、物件6の評価額は、原処分庁鑑定に基づく評価額と同額の23,600,000円と認められる。
ヘ 物件7について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、物件7は、第三者が所有する1棟の建物の敷地の用に供された貸宅地(公簿地積63平方メートル)であり、その形状は三角形である。
 なお、地代の額その他について、請求人及び原処分庁に争いはない。
(ロ)請求人ら鑑定
A 更地であるとした場合の価格
 別表3−7「1 請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た価格を平均した価格93,600円/平方メートルを標準価格とし、これに個別格差30%を乗じて得た比準価格28,100円/平方メートルについて、規準価格34,000円/平方メートルとの均衡も確認できるとして、更地単価として採用し、これに地積63平方メートルを乗じて、更地価格を1,770,000円と決定している。
 なお、土地残余法による収益価格29,100円/平方メートルについては試論的なものであるとの理由で参考にとどめている。
B 底地価格の決定
 別表3−7「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料14,805円を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値197,516円と、更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値341,964円との合計額539,000円について、市場性の減退を理由として30%減価し、さらに、○○用地の取引価格との比較においては、未だ市場性の減退があるとして30%減価し、底地価格を264,000円(1平方メートル当たり4,190円)と決定している。
(A)還元利回りと割引率
 還元利回り及び割引率のいずれについても、全国銀行・長期・約定貸出金利を基に算定した6.0475%を採用している。
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、請求人ら鑑定は、特段の理由もなく同一の利率を採用しており、その採用した利率は適切なものとは認められない。
(B)更地の復帰価値の算定
 上記(A)のとおり適切なものと認められない割引率と、上記Aのとおり採用しがたい更地価格を基に算定された更地の復帰価値についても適正な価額とは認められない。
(C)○○用地の価格との比較による減価
 これらの減価割合をそれぞれ30%と判定した具体的な根拠は示されておらず、また、上記イの(ロ)のBの(C)のcのとおり、第三者間の取引における一般住宅用地の底地価格は地代徴収権の価値にのみ着目して決定されるものではないから、これらの減価を行う合理的な理由は認められない。
C 以上のことから、請求人ら鑑定に基づく評価額は採用することはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 更地価格の決定
 別表3−7「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た比準価格107,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格52,000円/平方メートル及び規準価格97,300円/平方メートルを比較検討し、標準価格を107,000円/平方メートルと求め、これに個別格差32%を乗じて得た価格34,240円/平方メートルを更地単価と採用し、これに地積63平方メートルを乗じて更地価格を2,160,000円と決定している。
B 底地価格の決定
 別表3−7「3 底地価格の算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料17,766円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値206,000円と、更地価格を割引率6.0%で割り引いて算定した更地の復帰価値534,000円との合計額740,000円(1平方メートル当たり11,746円)を底地価格と決定している。
(A)支払地代
 原処分庁鑑定は、現行地代は周辺地域の賃貸事例と比較、勘案しても、著しく低廉で、そのまま採用するのは不合理であり、第三者売買ではこれを機に地代の増額請求をするのが一般的であるとして、地代を修正(1.2倍)しているところ、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり鑑定評価基準の各論では、底地の鑑定評価においては、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案するものとされ、同じ住宅地域内に存する物件4及び物件5の地代が値上がりしている事実があることからすれば、原処分庁鑑定が鑑定評価基準に従い、将来の賃料の改定の実現性があると判断し、周辺の賃貸事例を参考に地代を修正したことは相当と認められる。
(B)還元利回りと割引率
 原処分庁鑑定では、還元利回りを3.5%、割引率を6.0%と決定しているが、これらは社団法人日本不動産鑑定協会による地価公示及び県地価調査に係る研究成果で鑑定評価一般に用いられている基本利率5.0%を基に、底地の収益性や更地に復帰することの不確実性等を考慮の上、算定されたものであり、相当なものと認められる。
C 以上から、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比べ合理性が認められる。
(ニ)物件7の評価額について
 上記のとおり、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比して合理性が認められ、また、原処分庁が算定した評価通達に基づく評価額は、原処分庁鑑定に基づく評価額を上回っているので、物件7の評価額は原処分庁鑑定に基づく評価額と同額の740,000円と認められる。
ト 物件8について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 物件8は、道路に等高に接し、その大部分が簡易舗装のされた駐車場用地として利用されている。そして、一部家屋等の敷地となっている部分があるが、請求人ら鑑定によれば、その部分の利用に関して地代の授受はなく、賃貸借契約書も存在しない。
B Q市r町d番地の宅地30.97平方メートル(以下「d番地土地」という。)は、物件8に接しており、駐車場用地の進入口として利用されている。
C 平成11年分評価基準によれば、物件8の正面路線の路線価は93,000円、裏面路線の路線価は86,000円である。
D ○○県の「都市計画法に基づく開発行為に関する指導要綱」(昭和○年○月○日決定)によれば、公園等の設置は、開発区域の面積が0.3ヘクタール以上1.0ヘクタール未満の場合は、開発区域の面積に対する公園の総面積は5%以上必要とされているが、0.3ヘクタール未満の場合について定めはない。
 また、Q市は上記指導要綱に代わる条例又は指導要綱の制定をしていない。
(ロ)請求人ら鑑定
A 鑑定評価の概要
 別表3−8「1 請求人ら鑑定」のとおり、大規模施設用地として、取引事例比較法に基づいた比準価格68,600円/平方メートルと、戸建住宅地の開発分譲を想定した開発法により求めた価格40,000円/平方メートルを比較検討し、合理的な土地利用を想定し通常の造成費用等を採用して求めた開発法により求めた価格はより精度が高いとして、開発法により求めた価格40,000円/平方メートルを採用し、これに地積1115.34平方メートルを乗じて、鑑定評価額を44,614,000円と決定している。
(A)取引事例比較法
 大規模施設用地の取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た価格を平均した価格74,500円/平方メートルを標準価格とし、これに個別的格差92%を乗じて得た価格68,600円/平方メートルを比準価格としている。
 なお、取引事例4事例すべての標準化補正は100/100とされているところ、取引事例自体の地積、間口、奥行の具体的な記載がなく、取引事例と物件8の近隣地域の標準画地との個別的要因の比較検証をすることができず、標準化補正の内容を検証することができない。
(B)開発法
 別表3−8「1 請求人ら鑑定」のとおり、分譲単価を108,700円/平方メートルと算定し、幅員約5メートルの通り抜け道路(346.71平方メートル)が敷設された4区画(分譲区画590.52平方メートル)の戸建住宅用地の開発分譲を想定した開発計画に基づき、予想収入(総分譲価格)を65,170,000円、予想支出を21,451,554円と見込み、開発法による価格を40,000円/平方メートルとしている。
 なお、開発計画に計画されている公園緑地51.84平方メートルについては、開発想定図にその位置が示されていないところ、請求人ら鑑定を行った鑑定士は、想定した開発区域の開発地積であれば、公園緑地の設置は不要であり、開発計画に公園緑地の設置を織り込んだことは誤りであった旨自認している。
 ここで、請求人らが提出した鑑定評価書に添付されていた開発想定図を図上求積したところ、各区画の地積は別表4のとおりであり、分譲区画(有効宅地)以外の区画の地積は鑑定評価書本文の開発計画で想定された地積に近似するにも関わらず、分譲区画(有効宅地)の合計地積(706.63平方メートル)のみ大きく乖離している。
 また、開発想定図では物件8及びd番地土地を一体として、その全体(公簿地積1146.31平方メートル)に各区画割りが想定されているのに対し、開発計画は、物件8の公簿地積1115.34平方メートルのみを対象として計画されており、開発を予定している範囲が一致していない。
 開発法において分譲区画の地積は、予想収入の算定の基礎となる数値であり、造成費用等予想支出の算定に関連するものであることからすると、開発想定図で区割りされた地積と一致しない数値を基礎に計画された開発計画は、相当と認めることはできない。したがって、当該開発計画に基づき算定された開発法による価格についても合理性を認めることはできない。
B 以上から、請求人ら鑑定に合理性を認めることはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 鑑定評価の概要
 別表3−8「2 原処分庁鑑定」のとおり、取引事例比較法に基づく比準価格76,600円/平方メートル、土地残余法に基づく収益価格76,200円/平方メートル及び戸建住宅地の開発分譲を想定した開発法により求めた価格64,200円/平方メートルを相互に関連付け、1平方メートル当たりの鑑定評価額を72,319円/平方メートルと決定している。
(A)取引事例比較法
 取引事例3事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正、地域要因及び個別的要因に基づく補正を行って得た価格を比較検討し、比準価格を76,600円/平方メートルと決定している。
(B)収益還元法
 RC4階建賃貸用建物を建設し、賃貸を想定する土地残余法を適用し、収益価格を76,200円/平方メートルと決定している。
(C)開発法
 分譲単価を120,000円/平方メートルと算定し、幅員4メートルの行き止まり道路(200平方メートル)が敷設された4区画(分譲区画829平方メートル)の戸建住宅用地の開発分譲を想定した開発計画に基づき、予想収入を99,480,000円、予想支出を18,089,000円と見込み、当該金額を価格時点に割り戻し、開発法による価格を64,200円/平方メートルと決定している。
B 上記の各内容には特に問題点は見受けられない。
(ニ)評価通達に基づく評価額
A 原処分庁算定額
 原処分庁は、別表3−8「3 原処分庁算定の評価通達に基づく評価額」のとおり、59,989,677円(1平方メートル当たり53,786円/平方メートル)と評価しているところ、広大地補正率の算定の基とした原処分庁作成の開発計画図には、道路のみが区画され、分譲すべき区画の区割りがされていない。
 評価通達24−4は、具体的に開発行為を行うとした場合において必要とされる公共公益的施設用地部分の負担を、広大地補正率としてしんしゃくしようとするものであるところ、具体的に区画分譲を目的とした開発行為を行う場合、分譲区画の区割りを想定せず道路のみ敷設することはありえないと考えられる。そうすると、原処分庁が作成した区割りのない開発計画図は適切なものとは認められず、当該計画図を基として算定された広大地補正率も適切なものとは認められない。
 また、開発計画図では、物件8及びd番地土地を一体として開発区域としているが、広大地補正率は、d番地土地の地積30.97平方メートルを除いた1115.34平方メートルを基に算定しており、相当なものとは認められない。
 したがって、原処分庁が算定した金額は相当なものと認められない。
B 審判所認定額
 原処分庁鑑定と請求人ら鑑定の開発想定図は、想定された分譲区画、道路等の形状に違いはあるものの、それぞれ一応の合理性があるものと認められるところ、請求人ら鑑定の開発想定図は、行き止まり道路で計画されている原処分庁鑑定の開発想定図に比して、より実現性があると認められ、また、広大地補正率は、公共公益的施設用地(道路部分)となる部分の地積が大きいほど、評価通達上の減額幅が大きくなることから、より公共公益的施設用地の大きい請求人ら鑑定の開発想定図を基に広大地補正率を算定したところ、別表5付表2のとおり、広大地補正率は0.68となる。
 この広大地補正率0.68を採用し、評価通達の定めに従って算定したところ、別表5付表2のとおり、物件8の評価通達に基づく評価額は60,946,638円(1平方メートル当たり54,644円)になると認められる。
(ホ)物件8の評価額について
 評価通達に基づく評価額54,644円/平方メートルは、請求人ら鑑定に基づく評価額40,000円/平方メートルを上回っているところ、上記(ロ)のとおり、請求人ら鑑定、特に開発法による価格には合理性が認められないこと、請求人ら鑑定において試算された価格(比準価格68,600円/平方メートル、開発法による価格40,000円/平方メートル)及び原処分庁鑑定において試算された価格(比準価格76,600円/平方メートル、収益価格76,200円/平方メートル、開発法による価格64,200円/平方メートル)のうち、請求人ら鑑定の開発法による価格のみが離れて低位に算定されていることからすると、請求人ら鑑定に基づく評価額は、物件8の時価を表したものと認めることはできない。
 また、請求人ら鑑定の比準価格及び原処分庁鑑定において試算された3価格は近似し、評価通達に基づく評価額はそれらの価格を下回っていることからすると、評価通達に基づき算定された評価額が時価を上回り、評価通達に基づき算定することが著しく不適当であるとはいえない。
 したがって、物件8の評価額は、上記(ニ)のBのとおり、評価通達に基づき算定した60,946,638円と認められる。
チ 物件9について
(イ)認定事実
 請求人らの提出した資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 10棟の建物の敷地及び道路として利用されている。道路部分の地積は、P市作成の固定資産評価証明書(平成11年1月1日現在)によれば328平方メートルであると認められる。
B 相続開始時点において、被相続人は、物件9(公簿地積1709.46平方メートル)を賃貸し、年間地代413,688円(800円/坪×517.11坪)を受領していた。なお、地代は平成15年12月において、坪当たり850円に値上がりしている。
(ロ)請求人ら鑑定
A 更地価格の決定
 別表3−9「1 請求人ら鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た価格のうち、3事例の価格の中庸値94,300円/平方メートルを標準価格とし、これに個別格差59%を乗じて得た比準価格55,600円を更地単価と採用し、これに地積1709.46平方メートルを乗じて、更地価格を95,046,000円と決定している。
 なお、規準価格70,200円/平方メートルは近時の地価下落を反映していないきらいが強いこと、土地残余法による収益価格53,400円/平方メートルは試論的なものであることを理由に参考にとどめている。
(A)個別格差
 利用状況に基づき13区画に区分した区画のうち、端画地である9区画の価値率を一律30%としているが、その数値の具体的な算定根拠は明らかではない。また、上記ハの(ロ)のAの(A)のとおり、請求人ら鑑定において、各区画の価値率は、個々の区画の状況等を全く考慮せず判定していると認められることから、当該価値率は相当なものとは認められない。したがって、それらを基に算定された個別格差も相当なものとは認められない。
(B)以上のことから、請求人ら鑑定の更地価格は採用することはできない。
B 底地価格の決定
 別表3−9「3 底地価格算定の概要」の「請求人ら主張額」欄のとおり、年間支払賃料422,546円を還元利回り6.0475%で還元して算定した地代徴収権の価値6,022,222円と、更地価格を割引率6.0475%で割り引いて算定した更地の復帰価値21,368,375円との合計額27,389,000円について、市場性の減退を理由として60%減価し、さらに、○○用地の取引価格との比較においては、未だ市場性の減退があるとして30%減価し、底地価格を7,505,000円(1平方メートル当たり4,390円)と決定している。
(A)還元利回りと割引率
 還元利回り及び割引率のいずれについても、全国銀行・長期・約定貸出金利を基に算定した6.0475%を採用している。
 上記イの(ロ)のBの(A)のとおり、還元利回りと割引率とは性質が異なるので、その利率は異なるものと考えられるところ、請求人ら鑑定は、特段の理由もなく同一の利率を採用していることから、その採用した利率は適切なものとは認められない。
(B)更地の復帰価値の算定
 上記(A)のとおり適切なものと認められない割引率と、上記Aのとおり採用しがたい更地価格を基に算定された更地の復帰価値についても適正な価額とは認められない。
(C)○○用地の価格との比較による減価
 これらの減価割合を60%及び30%と判定した具体的な根拠は示されておらず、また、上記イの(ロ)のBの(C)のcのとおり、第三者間の取引における一般住宅用地の底地価格は地代徴収権の価値にのみ着目して決定されるものではないから、これらの減価を行う合理的な理由は認められない。
C 以上のことから、請求人ら鑑定に基づく評価額は採用することはできない。
(ハ)原処分庁鑑定
A 更地価格の決定
 別表3−9「2 原処分庁鑑定における更地価格算定の概要」のとおり、取引事例4事例の取引価格に、それぞれ事情補正、時点修正、標準化補正及び地域格差に基づく補正を行って得た比準価格123,000円/平方メートル、土地残余法により求めた収益価格32,900円/平方メートル及び規準価格133,000円/平方メートルを比較検討して、標準価格を123,000円/平方メートルと求め、これに個別格差を乗じて得た価格に地積1709.46平方メートルを乗じて、更地価格を135,000,000円と決定している。
B 底地価格の決定
 別表3−9「3 底地価格算定の概要」の「原処分庁鑑定」欄のとおり、年間地代を補正して得た年間支払賃料472,486円を基に算定した純賃料を還元利回り3.5%で還元して算定した地代徴収権の価値6,350,000円と、更地価格を割引率6.0%で割り引いて算定した更地の復帰価値23,500,000円の合計額29,900,000円、年間地代413,688円を基に算定した底地価格28,800,000円及び底地割合を20%と判定して算定した価格27,000,000円を比較考量し、底地価格を28,000,000円(1平方メートル当たり16,379円)と決定している。
(A)支払地代
 原処分庁鑑定は、物件9の所在する地域における適正な継続地代と現行の実際支払地代にはかなりの開差があることから、将来の地代増額を考慮して現行の地代を修正しているところ、上記1の(3)のハの(ロ)のとおり鑑定評価基準の各論では、底地の鑑定評価においては、将来における賃料の改定の実現性とその程度等の事項を総合的に勘案するものとされ、また、物件9に係る地代が坪当たり800円から850円に上昇している事実があることからすれば、原処分庁鑑定が鑑定評価基準に従い、将来の賃料の改定の実現性があると判断し、地代を修正したことは相当と認められる。
(B)還元利回りと割引率
 原処分庁鑑定では、還元利回りを3.5%、割引率を6.0%と決定しているが、これらは社団法人日本不動産鑑定協会の研究成果で鑑定評価一般に用いられている基本利率5.0%を中心として、銀行貸出約定金利、長期プライムレート、投資対象としての安定性及び流動性、更地に復帰することの不確実性等を勘案の上、それぞれ算定されたもので、相当なものと認められる。
C 以上のとおり、原処分庁鑑定は、請求人ら鑑定に比べ合理性が認められる。
(ニ)物件9の評価額について
 上記のとおり、原処分庁鑑定は請求人ら鑑定に比して合理性が認められ、評価通達に基づく評価額は原処分庁鑑定を上回ることから、物件9の評価額は、原処分庁鑑定に基づき算定するのが相当と認められるところ、原処分庁は、原処分庁鑑定において10%とされた物件9の道路部分の価値率を、評価通達の定めを準用して0%に置き換え、原処分庁鑑定に基づく評価額を補正した金額が、物件9の評価額であると主張する。
 しかしながら、鑑定評価基準と評価通達は異なるものであり、また、評価通達によらず鑑定評価基準により物件9を評価するものであるから、単に、評価通達における取扱いを根拠として、当該価値率を0%と補正することは相当と認められない。むしろ、請求人ら鑑定及び原処分庁鑑定ともに、物件9の道路部分の価値率を10%と判定していることからすると、当該道路部分の価値率は原処分庁鑑定の判定のとおり、10%とするのが相当である。
 したがって、物件9の評価額は、原処分庁鑑定に基づく評価額と同額の28,000,000円であると認められる。

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(3)本件各更正処分について

 本件各物件の評価額は、別表5「審判所認定額」欄のとおり、物件1、物件2、物件4、物件5、物件6、物件8及び物件9の審判所認定額は本件各更正処分における評価額を上回り、物件3及び物件7の審判所認定額は本件各更正処分における評価額と同額であると認められる。
 これら別表5「審判所認定額」欄のとおり認定した本件各物件の評価額を基に、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を算定したところ、いずれも本件各更正処分の額を上回ることから、本件各更正処分は適法である。

(4)本件各賦課決定処分について

 本件各更正処分は上記(3)のとおり適法であり、また、本件各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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