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(平18.1.10裁決、裁決事例集No.71 394頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が所有していた資産を収用されたことに伴い、原処分庁に対し、代替え承認申請及び代替資産の取得期限延長承認申請を行ったことに対し、原処分庁が租税特別措置法(平成15年法律第8号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第33条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》第1項に規定する収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例は、譲渡損失が発生する場合には適用されないとして行ったこれらの申請を却下した処分について、違法を理由としてその全部の取消しを求めた事案であり、争点は、譲渡損失が発生する場合、措置法第33条第1項が適用できるか否かである。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成14年5月25日にD市P町Q番に所在する家屋番号Qの建物(以下「本件収用建物」という。請求人の持分は8分の5である。)及び同建物の敷地の用に供されている土地のうち247.48平方メートル(以下「本件収用土地」といい、本件収用建物と併せて「本件収用物件」という。)を、都市計画法第59条第1項の規定に基づいてD市土地開発公社に収用された(以下「本件収用」という。)。
ロ 請求人は、平成15年3月11日に原処分庁に対し、平成14年分所得税確定申告書とともに、平成16年3月31日までに本件収用物件の代替資産を取得するとして「買換え承認申請書」に必要書類を添付して提出した。
ハ 請求人は、平成16年5月25日に原処分庁に対し、代替資産を同年3月31日までに取得することができないこととなったとして、「代替資産の取得期限延長承認申請書」を提出した。
ニ 原処分庁は、平成15年3月11日に提出された代替え承認申請及び平成16年5月25日に提出された代替資産の取得期限延長承認申請に対し、平成16年7月7日付で却下処分を行った。
ホ 請求人は、原処分はいずれも違法であるとして、平成16年8月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月10日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、同年12月7日に審査請求をした。

(3)関係法令

 関係法令は、別紙1のとおりである。

(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和62年10月29日にD市P町R番の土地380.03平方メートルを414,485,914円(仲介手数料12,000,000円を含む。)でEから購入し、その後、平成元年2月16日に同土地とF株式会社が所有するD市P町Q番の土地428.30平方メートルとを交換し、請求人ほか2名は、平成2年8月に交換後の土地に本件収用建物を141,851,600円で建築した。
ロ 本件収用において、請求人に係る買収価格は、本件収用土地が102,456,000円、本件収用建物が93,195,000円(建物70,892,000円、取壊し費6,472,500円、工作物4,990,000円、立木367,500円、家賃減収補償3,843,000円及び移転雑費6,630,000円の合計額)である。
ハ 本件収用に関しては、措置法施行規則第14条《収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例》第7項第2号に規定する収用証明書が、請求人に対し発行されている。
ニ 請求人は、平成14年6月25日に本件収用土地の代替土地として、D市所有のD市S町○−○、同○−○及び同○−○の各土地を169,797,000円で取得した。
ホ 請求人は、原処分庁に対し、平成15年3月11日に提出した代替え承認申請及び平成16年5月25日に提出した代替資産の取得期限延長承認申請において、本件収用土地及び本件収用建物を一体のものとして申請を行っている。
ヘ 本件収用土地の譲渡損失の金額は○○○○円、本件収用建物の譲渡益の金額は○○○○円で、これを通算した譲渡損失の金額は○○○○円である。

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2 主張

 当事者の主張は、別紙2のとおりである。

3 判断

(1)争点に係る判断

イ 措置法第33条の規定は、譲渡損失の場合にも適用できるか否か
(イ)措置法第33条の趣旨は、土地収用法等その他の法令の規定に基づき所有資産を強制的に譲渡させられることとなる者について、その収用等によって譲渡した資産のうち再投資によって取得した代替資産の取得価格に相当する部分について、譲渡がなかったものとみなして課税を延期する措置を講ずることにより、課税による現実の収入の減少によってその個人が従前と同様の生活を維持すること又は生活保持のための再投資(代替資産の取得)をすることを阻害する結果となることを防止するとともに、公共事業の円滑な推進を図る点にある。
 このような趣旨にかんがみれば、措置法第33条は、課税により現実の収入の減少が生じる場合、すなわち、譲渡益が発生する場合に適用される規定であると解するのが相当である。
(ロ)これを本件についてみるのに、上記1の(4)のヘの事実によれば、本件収用物件は譲渡損失が生じているから、措置法第33条の適用はない。
(ハ)請求人は、措置法第33条は、譲渡損失の場合であっても適用される旨主張し、その根拠として、〔1〕要綱の趣旨からの帰結、〔2〕取得時期引継ぎの有無や通達選択等の差による課税の不公平、〔3〕措置法第33条の2以下の規定の適用場面との均衡を挙げる。
 しかしながら、請求人の上記主張は、次のとおりいずれも採用できない。
A 要綱の目的は、請求人も主張するとおり、公共用地の取得のために土地収用が行われた場合等に一定の補償を行うことにより、移転先での被収用者の生活等の再建の支援をする点にある。このような、被収用者の生活等の再建という目的は、代替資産取得のための再投資を阻害するような、譲渡益に対する課税を防止することによって達成することができるが、上記(イ)の措置法第33条の趣旨は、このような目的から出たものである。譲渡損失の場合にも措置法第33条の適用を認める見解は、上記目的を超えて、将来の課税上の措置をも予定するものであるが、要綱の趣旨から逸脱するものといわなければならない。
B 上記(イ)の措置法第33条の趣旨からすれば、同条の主たる目的は、収用時点における譲渡益に対する課税を回避する点にあると考えられる上、被収用者としては、取得した代替資産において、一定程度の生活を営むことを予定しているものと考えられるから、取得時期の引継ぎの有無により生じる差異は、法が予定した合理的なものであると解すべきである。また、措置法通達33−11は、建物が収用された場合に措置法第33条第1項の適用の対象となる補償金の範囲を示したものにすぎず、納税者が同通達の適用を選択しないということは、措置法第33条による優遇措置の適用を自ら放棄したにすぎない。そして、利益補償金の有無は、前提となる事実の有無により異なるものである。
 このように、納税者が自ら利益を放棄した場合や前提となる事実が異なる場合に法律の適用関係が異なる結果となることは、法が想定する範囲内であるから、結果自体を取り上げて課税上の不公平であるとはいえない。
C 措置法第33条の4は、同法第33条の規定の適用を受けないときには、5,000万円(当該資産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額が5,000万円に満たない場合には、当該譲渡所得の金額)を控除する旨規定していることからみても、譲渡益を前提とした特例である。また、措置法第33条の2は、交換等により取得した資産を代替資産と同様にみて、交換取得資産のみを取得した場合には交換等により譲渡した資産の譲渡がなかったものとし、交換取得した資産とともに補償金等を取得した場合には、その補償金等の額に見合う部分について譲渡があったものとして譲渡所得の金額を計算することができる旨を定めたもので、措置法第33条と同様、同法第33条の4との選択適用を認めていることからも、譲渡益を前提とした特例であると解される。
 そして、措置法第33条の3は、同条に規定する土地区画整理事業等における換地処分が、換地を従前の土地と法律上同一のものであるとみなすなど、一般の収用等とはその法的性質を異にしているという特殊性を考慮して、一般の収用等とは異なる取扱いを規定したものである。
 このように、同じような収用等に伴う課税の特例の規定であっても、適用の前提となる事実は異なるから、事実関係が異なる場合に、法律の適用関係が異なることは、課税上の不公平に当たらない。
(ニ)次に、請求人は、市販の書物が、税務官庁の職員が、譲渡損が生ずる場合であっても、措置法第33条の規定の適用がある旨を公表しているのに、本件では同条は譲渡益が生じた場合しか適用できず、譲渡損失の場合には適用できないとする誤った解釈を行い、不公平な取扱いをしている旨主張する。そして、当審判所の調査によれば、上記書物には、税務官庁の職員がその氏名及び官職名を付した上で、「譲渡損失が生じるような固定資産の交換又は土地収用法等の規定を背景とした譲渡であったとしても、固定資産の交換の場合の特例の適用要件又は収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例の適用要件を満たしている場合には、これらの特例の適用を受けることができます。」との記述があることが認められる。
 しかしながら、上記記述は、その内容、体裁等からみて、飽くまでも行政サービスの一環として、税務官庁の職員が、その個人的な知識を前提に、読者の質問に対して一応の判断を示した個人的見解にすぎず、税務官庁が法令の解釈を公式に表明した公式見解とはいえないから、このような記載があることをもって、措置法第33条は譲渡損失の場合には適用できないとする解釈が誤りであるとはいえない。
 また、原処分庁が譲渡損失の場合には措置法第33条が適用されないとする解釈を本件にのみ適用していることを認めるに足りる証拠資料もない。
 したがって、請求人の上記主張は採用できない。
ロ 所得税法第33条は、譲渡損益の両方を含む規定か否か
(イ)請求人は、所得税法第33条は、譲渡益が生じる場合のみならず、譲渡損失が生じる場合も含まれるから、これを受けた措置法第33条も両者を含む規定である旨主張する。
 しかしながら、所得税法第33条は、同法第22条《課税標準》第2項の規定を受け、譲渡所得の課税標準を定めることを目的として、課税標準を算出するための計算方法を規定したにすぎないと解される。このことは、所得税法が同法第33条とは別に損益通算に関する同法第69条を規定し、譲渡所得の金額の計算上生じた損失の金額がある場合、すなわち、課税標準とはならないものについての取扱いの規定を定めていることからも裏付けられる。
 そうすると、所得税法第33条に規定する「譲渡所得の金額」は、まさに課税標準を意味するものであり、譲渡所得の計算の結果が譲渡益となった場合のみを指すものと解するのが相当であり、計算過程において譲渡損失が出ることがあり得ることをもって、所得税法第33条の「譲渡所得の金額」は譲渡損失が生じる場合をも含むと解することはできない。
(ロ)また、請求人は、措置法第31条及び同法第32条の「譲渡所得の金額」も、その規定からみて損失の額を含むことが前提とされている旨主張する。
 しかしながら、これらの規定もまた、課税標準に基づく具体的な税額の計算の規定であるから、譲渡益となった場合のみを予定しているものといえる。
(ハ)さらに、請求人は、所得税基本通達33−6の6及び同通達33−6の7が、計算上の譲渡損益にかかわらず適用されることをもって、所得税法第33条は譲渡損の生じた場合にも適用される旨主張する。
 しかしながら、これらの通達は、所得税法第33条の譲渡所得の金額の計算の前提となる「譲渡」の範囲について言及したものにすぎないから、これらの通達が計算上の譲渡損益にかかわらず適用されることと、所得税法第33条の「譲渡所得の金額」に譲渡損が含まれるかどうかとは、飽くまでも別個の問題である。
(ニ)したがって、請求人の上記主張は、いずれも理由がない。
ハ 原処分庁の解釈は、憲法第29条に違反するか否か
 請求人は、原処分庁の解釈は、譲渡損が出るような補償金で公共事業に協力した者に対して税務上の不利益を被らせるもので、課税の公平を保つことができず、憲法第29条に違反するものである旨主張する。
 しかしながら、上述したように、譲渡損失が生じた場合に措置法第33条の規定が適用されないということは、何ら課税の公平を害するものではないから、請求人の主張はそもそも前提を欠くものである。また、請求人の上記主張が租税法規ないし原処分自体が違憲であるとの主張であると解されるとしても、国税不服審判所は、原処分庁が行った処分が違法又は不当であるか否かを判断する行政機関であって、租税法規及び原処分自体の合憲又は違憲を判断する権限を有するものではないから、この点に関しては、当審判所の審理の限りではない。

(2)以上のとおり、本件各処分には、請求人の主張する違法はない。

 また、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別紙1【関係法令】

1 措置法第31条《長期譲渡所得の課税の特例》第1項は、個人の有する土地等又は建物等で、その年の1月1日において所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合の譲渡所得の金額は、所得税法第33条《譲渡所得》第3項に規定する譲渡所得の特別控除額の控除をしないで計算した金額から長期譲渡の特別控除額を控除した金額に対し、所得税を課する旨規定している。
2 措置法第33条第1項は、個人の有する資産(棚卸資産等を除く。)が、土地収用法等の法令の規定に基づいて収用された場合等において、収用又は買取り等(以下「収用等」という。)に伴って取得した補償金、対価又は清算金(以下「補償金等」という。)の全部又は一部の金額をもって、収用等のあった日の属する年の12月31日までにその収用等により譲渡した資産と同種の資産その他のこれに代わるべき資産として政令で定めるもの(以下「代替資産」という。)を取得したときは、納税者の選択により、当該収用等により取得した補償金等の額がその代替資産の取得価額以下の場合には、その資産の譲渡がなかったものとし、当該補償金等の額がその代替資産の取得価額を超える場合は、当該譲渡した資産のうちその超える金額に相当する部分について譲渡があったものとして、同法第31条等の規定を適用することができる旨規定している。
3 措置法第33条第2項は、前項の規定は、個人の有する資産が収用等された場合において、収用等に伴い取得した補償金等の全部又は一部に相当する金額をもって収用等のあった日の属する年の翌年1月1日から収用等のあった日以後2年を経過した日までの期間(当該収用等に係る事業の全部又は一部が完了しないこと、工場等の建設に要する期間が通常2年を超えることその他のやむを得ない事情があるため、当該期間内に代替資産を取得することが困難である場合で政令で定める場合には、当該代替資産については、同年1月1日から政令で定める日までの期間)内に代替資産を取得する見込みであり、かつ、財務省令で定めるところにより納税地の所轄税務署長の承認を受けたときについて準用する旨規定している。
4 措置法第33条第6項は、同条第1項及び第2項の規定は、これらの規定の適用を受けようとする年分の確定申告書に、これらの規定の適用を受けようとする旨を記載し、かつ、これらの規定による譲渡所得の金額の計算に関する明細書及びその他財務省令で定める書類を添付しない場合には適用しない旨、ただし、当該申告書の提出がなかったこと又は当該記載若しくは添付がなかったことにつき税務署長においてやむを得ない事情があると認める場合において、当該記載をした書類並びに当該明細書及び財務省令で定める書類の提出があったときは、この限りでない旨規定している。
5 措置法第33条の2《交換処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》第1項は、個人の有する資産で、土地収用法等の規定による収用があった場合において、当該資産と同種の資産を取得したとき又は土地等につき土地改良法による土地改良事業等が施行された場合において、当該土地等に係る交換により土地等を取得する場合には、納税者の選択により、収用、買取り又は交換により譲渡した資産(取得した資産とともに補償金等を取得した場合には、当該譲渡した資産のうち当該補償金等の額に対応する部分以外のものとして政令で定める部分)の譲渡がなかったものとして、措置法第31条等の規定を適用することができる旨規定している。
6 措置法第33条の3《換地処分等に伴い資産を取得した場合の課税の特例》第1項は、個人が、その有する土地等について、土地区画整理法による土地区画整理事業等が施行され、その土地等に係る換地処分により換地等を取得したときは、換地処分により譲渡した土地等については、譲渡がなかったものとみなす旨規定している。
7 措置法第33条の4《収用交換等の場合の譲渡所得等の特別控除》第1項は、個人の有する資産で同法第33条第1項各号等に規定するものがこれらの規定に該当することとなった場合において、その者がその年中にその該当することとなった資産のいずれについても同法第33条又は同法第33条の2の規定の適用を受けないときは、これらの全部の資産の収用等又は交換処分等による譲渡に対する長期譲渡所得の特別控除額は5,000万円(当該資産の譲渡に係る長期譲渡所得の金額が5,000万円に満たない場合には、当該譲渡所得の金額)とする旨規定している。

別紙2 当事者双方の主張

争点 譲渡損失が発生する場合の措置法第33条第1項の適用の可否

原処分庁

 原処分は以下のとおり適法に行われており、審査請求の棄却を求める。
1 措置法第33条の規定は、次のことから譲渡損失の場合は適用できない。
(1)措置法第33条の規定が設けられたのは、強制的な譲渡又はその強制力を背景とする買取りに伴い生じた収入金額について全額を課税の対象とすることは、その譲渡が個人の自由な意思に必ずしも基づくものではないこと及びその課税によりその個人の従前と同様の生活維持又は生活保持のための再投資を阻害する結果となること等適当でない面があるためであり、収用等による収入金額について課税が生じない譲渡損失の場合には、代替資産を取得するための再投資を阻害することにはならないのであるから、同法第33条の規定の適用がないとしても問題はなく、また、公共用地の取得に伴う損失補償基準要綱(以下「要綱」という。)の目的にも反しない。
(2)さらに、措置法第33条の5《収用交換等に伴い代替資産を取得した場合の更正の請求、修正申告等》では、代替資産を取得しなかった場合等には修正申告の提出又は更正を行うこととされ、規定上、更正の請求又は減額更正が含まれていないところ、仮に譲渡損失についても同法第33条の適用があるとすると、代替資産を取得しなかった場合、修正申告書の提出が義務付けられているにもかかわらず、譲渡益が存在しないため納税者がこれを行うことができず、また、原処分庁も更正を行うこともできないこととなる。したがって、措置法第33条の規定は譲渡損失の場合には適用がないことは明らかである。
(3)譲渡益の有無によって課税関係が影響されるのは当然のことであり、そのことによって取得時期の引継ぎの有無に差が生じたとしても課税の公平とは何ら関係はない。
(4)事実が異なる場合に適用すべき法令が異なるのは当然であり、その結果、課税関係に違いが生じたとしても課税の公平とは何ら関係がない。
2 所得税法第33条によれば、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいい、その所得金額は、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の合計を控除し、その残額の合計額(譲渡益)から譲渡所得の特別控除額(譲渡所得の特別控除額は、50万円であるが譲渡益が50万円に満たない場合には、当該譲渡益が特別控除額となる。)を控除した金額とする旨規定されていることから、同条は、譲渡益が生ずる譲渡のみ規定している。

請求人

 原処分は以下のとおり適用条文の法令解釈を誤った違法なものであり、原処分の全部の取消しを求める。
1 措置法第33条の規定は、次のことから譲渡損失の場合も適用できる。
(1)土地収用による損失補償は、要綱に基づいて行われる。要綱は、公共事業の対象となった土地上の構築物や動産については、これらの移転を前提とした補償を行い、その地上建物を中心に営まれた個人の生活や営業については、移転先での存続を前提とした補償を行い、公共事業によって失われた資産や生活等がその場所だけを変えて、従来の状態のままで再建されることを基本的な目的とする。
 措置法第33条は、要綱の目的を受け、これを実現する手段として、公共事業の対象となった資産に係る取得価額及び取得時期を代替資産に引き継ぎ、将来、その代替資産を譲渡等した場合に、新たな税務上の損失が生じないように措置するものである。
 したがって、措置法第33条は、譲渡益の有無によってその適用が左右されるものではない。
(2)原処分庁の解釈によると、わずかな譲渡損益の差によって〔1〕資産の所有期間により異なる課税標準額、〔2〕資産の所有期間により異なる適用税率及び〔3〕固定資産の交換や事業用資産の買換えの特例など、取得時期の引継ぎの有無という面で大きな差が生じ、課税の公平は保たれない。
 また、営業補償金として交付を受けた金額の一部は、措置法通達33−11《収益補償金名義で交付を受ける補償金を対価補償金として取り扱うことができる場合》により、収用に係る対価補償金とすることができ、これにより譲渡損失を譲渡益に転じさせることも可能であり、この取扱いは納税者の選択にゆだねられているところ、収益補償金の有無や納税者による通達の特例の選択によって、措置法第33条の適用の有無が左右される結果を生じさせる解釈は正当な解釈ではない。
(3)措置法第33条の2以降に規定されている譲渡所得の特例のうち、公共事業の施行に伴い交換処分等によって新たに取得することとなった資産については、何ら申告手続を経ることなく従前の資産に係る取得価額及び取得時期を引き継ぐこととされている。措置法第33条は、これらの規定と同様の趣旨から認められた規定であるから、同条の適用においてのみ、譲渡益の算出を要件とすることは、措置法の他の特例との比較において、著しい課税の不公平・不均衡を生ずることとなる。
(4)原処分庁は、市販の書物が、「譲渡損失が生ずる場合であっても、措置法第33条の規定の適用はある。」旨公表しているにもかかわらず、本件についてのみ、措置法第33条の適用につき、譲渡損失の場合は適用がないとしている可能性がある。
2 所得税法第33条第3項の「譲渡所得の金額」は、次のことから、譲渡益の金額及び譲渡損失の金額の両方を含むものとして定義されている。
(1)所得税法においては、「各種所得の金額」の意義は、同法第23条《利子所得》から同法第35条《雑所得》までの各規定にそれぞれ定義されている。これらの各規定において、利益の金額と損失の金額の両方を包含する語としては「金額」を、利益の金額のみを指す語としては「残額」を、それぞれ明確に区分して使い分けている。
  そして、所得税法第33条第3項も、これと同じ用語法によっている。
(2)所得税法第33条が譲渡益のみを規定していると解すると、所得税法上、譲渡損失が生ずる譲渡所得の金額の計算方法等について規定した条文が存在しなくなる。
(3)所得税法第69条《損益通算》第1項の「譲渡所得の金額」は、その規定から損失の金額を含むことが前提とされている。また、措置法第31条及び同法第32条の「譲渡所得の金額」についても同様である。これらの規定は、いずれも所得税法第33条第3項の定義を受けたものである。したがって、所得税法第33条第3項の「譲渡所得の金額」も、損失の金額を含んでいる。
 また、所得税法第33条の解釈通達である所得税基本通達33−6の6《法律の規定に基づかない区画形質の変更に伴う土地の交換分合》及び同33−6の7《宅地造成契約に基づく土地の交換等》の定めによると、交換分合や交換等によって土地を取得した場合は、何らの申告手続を要せず、従前土地の所得価額及び取得時期は、新たな取得資産に引き継がれる。
 これらの通達の存在は、所得税法第33条の譲渡所得の金額に譲渡益のみならず譲渡損失も含まれるとの解釈の正当性の証左である。
3 原処分庁の解釈は、譲渡損が出るような補償金で公共事業に協力した者に対して、更に生活や事業の再建のための足かせとなるような税務上の不利益を被らせるものであり、課税の公平を保つことができず、憲法第29条に違反するものである。