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(平18.6.23裁決、裁決事例集No.71 429頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が損金の額に算入した支払手数料について、原処分庁が、請求人が負担する合理的な理由がないことから、当該支払手数料は、本来負担すべき者に対する経済的利益の供与に当たり寄附金に該当するとして法人税の各更正処分を、また、課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとして消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の各更正処分等を行ったのに対し、請求人がその認定に違法があるとして各処分の全部の取消しを求めた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年3月1日から平成16年2月29日まで及び平成16年3月1日から平成17年2月28日までの各事業年度(以下、順次「平成16年2月期」及び「平成17年2月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、それぞれ青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 また、請求人は、平成15年3月1日から平成16年2月29日まで及び平成16年3月1日から平成17年2月28日までの各課税期間(以下、順次「平成16年2月課税期間」及び「平成17年2月課税期間」といい、これらを併せて「本件各課税期間」という。)の消費税等について、それぞれ確定申告書に別表2の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ ○○税務署長は、これに対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「原処分調査担当職員」という。)の調査に基づき、平成17年7月29日付で、本件各事業年度の法人税について、別表1の「更正処分」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件法人税各更正処分」という。)をするとともに、同日付で、本件各課税期間の消費税等について、別表2の「更正処分等」欄のとおりとする各更正処分(以下「本件消費税等各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下、本件消費税等各更正処分と併せて「本件消費税等各更正処分等」という。)をした。
ハ 請求人は、本件法人税各更正処分を不服として、平成17年8月31日に審査請求をした。
ニ また、請求人は、本件消費税等各更正処分等を不服として、平成17年9月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月20日付でいずれも棄却する旨の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の本件消費税等各更正処分等に不服があるとして、平成18年1月11日に審査請求をした。
ヘ そこで、上記ハの審査請求に上記ホの審査請求を併合して審理する。

(3)関係法令(要旨)

イ 法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第3項は、内国法人が各事業年度において支出した寄附金の額のうち、その資本等の金額等を基礎として所定の方法により計算した金額を超える部分の金額は、各事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入しない旨規定し、また、同条第7項は、寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与(広告宣伝及び見本品の費用その他これらに類する費用並びに交際費、接待費及び福利厚生費とされるべきものを除く。)をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額によるものとする旨規定している。
ロ 消費税法第2条《定義》第1項第12号は、課税仕入れとは、事業者が、事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けることをいう旨規定している。
ハ 消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》第1項は、事業者が国内において課税仕入れを行った場合には、当該課税仕入れを行った日の属する課税期間の同法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項第2号に掲げる消費税額から、当該課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額を控除する旨規定している。

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(4)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ P県Q市に本部を置く宗教法人F会(以下「F会」という。)は、宗教施設の建設を目的として、G社との間で、平成9年12月1日付で建設候補地をP県内又はR市内とし、当該地域内で土地を選定し取得する業務を同社に委託する旨の契約を締結した。
ロ G社は、H社との間で、F会の宗教施設を建設する土地をR市内において取得することを目的として、平成13年7月19日付で基本協定を、また、平成13年8月31日付で業務委託契約(以下、基本協定と併せて「基本協定等」という。)をそれぞれ締結したが、平成14年8月30日付で基本協定等を終了させる旨の合意をしている。
ハ F会は、平成13年11月に、株式会社○○からP県S市に所在する土地及び建物を取得して宗教施設F会のT研修所とし、G社との間で、同研修所に関する増築と環境改善事業の円滑な推進を目的とする業務委託契約を、平成14年7月9日付で締結した。
ニ 上記ハのG社がF会から受託した業務のうち次の業務は、平成14年7月11日付でG社からJ社に、次いで、同月16日付でJ社からK社に、更に、同日付でK社から請求人に再委託され、それぞれの間で業務委託契約が締結されている。
(イ)T研修所における宗教施設の増築可能性についての調査及び検証
(ロ)当該事業の遂行上必要な近隣住民対策等の業務(以下「本件近隣対策等業務」という。)
ホ G社はH社に対し、平成15年○月○日に、基本協定等に基づく支払債務が存在しないことを確認する旨の訴え(以下「本件本訴」という。)を○○地方裁判所に提起し、一方、H社はG社に対し、平成15年○月○日に、違約金の支払を求める旨の訴え(以下「本件反訴」といい、本件本訴と併せて「本件訴訟」という。)を同裁判所に提起した。
ヘ 請求人は、H社との間で、平成16年6月1日に要旨次の内容の契約を締結した(以下、締結した契約を「本件契約」という。)。
(イ)請求人は、平成16年6月1日、H社に○○○○円を支払い、H社は当該金員を受領した(第1条)。
(ロ)H社及びその関係者は、上記(イ)の金員の受領によりF会及びその関係者に対する一切の訴訟を取り下げ、今後一切の訴訟を行わないものとする(第2条)。
ト 本件訴訟は、平成16年6月○日に両当事者によりいずれも取り下げられた。
チ 請求人は、本件各事業年度においてH社に対して、次表の金額を支払った(以下、次表の区分〔1〕及び〔2〕の支払額を「平成15年6月支払額」、区分〔3〕の支払額を「平成16年6月支払額」という。)。
 なお、請求人は、次表の区分〔4〕の支払額○○○○円についてはH社に対する短期貸付金として経理処理をしている。

区分支払年月日支払金額
〔1〕平成15年6月6日○○○○円
〔2〕平成15年6月27日○○○○円
〔3〕平成16年6月1日○○○○円
〔4〕平成16年9月30日○○○○円

リ 請求人は、上記チの平成15年6月支払額及び平成16年6月支払額(以下、これらを併せて「本件支払額」という。)を、本件各事業年度の法人税の所得金額の計算上、支払手数料として損金の額に算入し、また、本件各課税期間の消費税等の納付すべき税額の計算上、課税仕入れに係る支払対価の額として控除対象仕入税額を計算したところ、原処分庁は、本件支払額について、寄附金に該当するとして本件法人税各更正処分を、また、課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとして本件消費税等各更正処分等をした。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 守秘義務違反について
 原処分庁は、答弁書において、請求人の承知していない事実(G社とH社との間の基本協定等及び本件訴訟に関する事実)を記載している。このことは、原処分を適法とする理由とはならないだけでなく、法人税法第163条に規定する守秘義務に抵触するものである。
ロ 本件法人税各更正処分
(イ)請求人は、K社から受託した本件近隣対策等業務に着手したところ、H社の役員である○○は、平成14年9月ころ、本件近隣対策等業務はH社が請け負っているとして請求人が関与していた近隣住民に接触を始めた。
(ロ)請求人は、上記(イ)の業務妨害について即刻抗議をしたが、H社は、聞き入れることなく、かえってT研修所の建築主であるF会の誹謗、中傷を吹聴するなどその行動をエスカレートさせた。
 このH社の行為は、請求人の本件近隣対策等業務の遂行において多大な支障を来すものであり、この障害を回避するためにH社に対して支払った本件支払額は、本件近隣対策等業務の遂行上必要なものであることは明らかである。
(ハ)なお、請求人は、H社に本件支払額を支出する都度、会計処理のために契約書等を作成しているが、その支出目的はあくまでも上記(イ)及び(ロ)のH社による業務妨害を排除することにあった。
(ニ)原処分庁は、請求人がH社に本件支払額を支出することによって、H社とG社の本件訴訟の取下げがなされたという因果関係を誤認し、それのみを取り上げて本件支払額をG社に対する寄附金と認定したが、請求人は、自己の利益の実現のため、独自の判断で本件支払額を支出したものであり、仮に、本件支払額の支出の効果が第三者の利益となったからといって、寄附金と認定することは失当である。
(ホ)原処分庁は、仮にG社が本件支払額に相当する金額を支出した場合、当該支出金額は損金の額に算入できるか否かの判断を示していないところ、当該支出金額はG社において損金の額に算入できるものと判断すべきであるから、請求人が本件近隣対策等業務に係る収入金額を益金としている以上、本件支払額を支払手数料として損金の額に算入したことに問題はない。
(ヘ)また、請求人の本件近隣対策等業務に係る収入金額は、G社からJ社及びK社を経て受領したものであり、原処分庁が、本件支払額をG社が負担すべきものと認定するのであれば、本件支払額に相当する金額は、当該収入金額から減額されるべきもの、あるいは、売上割戻し等に当たるから、本件各事業年度の益金の額から減算されるべきである。
ハ 本件消費税等各更正処分等
 本件支払額は、上記ロの(イ)ないし(ニ)で述べたとおり、本件近隣対策等業務の遂行上必要な支出であり、課税仕入れに係る支払対価の額に該当する。
 仮に、本件支払額はG社が負担すべき金員であったとしても、G社は請求人の取引関係者であることからすれば、本件支払額は交際費に該当するものというべきであるから課税仕入れに係る支払対価の額に該当する。
 また、本件支払額が課税仕入れに係る支払対価の額に該当しないとしても、上記ロの(ヘ)で述べた理由から、本件支払額に相当する金額は本件各課税期間の課税売上高から減額されるべきである。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由によりいずれも適法であるので、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 守秘義務違反について
 請求人が承知していないとする事実は、いずれも本件支払額の支出の内容を判断するために必要なものであるだけでなく、請求人においても承知していたものである。
ロ 本件法人税各更正処分
(イ)本件支払額のうち平成15年6月支払額は、H社が請求人に対して何らかの業務妨害を行った事実は認められないこと及び請求人の本件近隣対策等業務とは何の関係もない支払であることから、H社の本件近隣対策等業務に係る業務妨害を排除するための請求人が負担すべき支出とは認められない。
 加えて、G社及びH社との間においては、上記1の(4)のホのとおり、基本協定等に関して訴訟に至るほどの紛争が生じていることを考えると、平成15年6月支払額は、G社とH社との間の紛争を回避するために支出された金員であると認めるのが相当であり、このような紛争を回避するための金員は、本来、紛争当事者が負担すべきもので、本件においてはH社が受領しているところ、他方の当事者であるG社が負担すべきものである。
(ロ)本件支払額のうち平成16年6月支払額は、上記1の(4)のヘ及びトのとおり、請求人とH社の間で交わした本件契約における合意事項、すなわちH社及びその関係者がF会及びその関係者に対する一切の訴訟を取り下げ、今後一切の訴訟を行わないことの対価として支出された金員であると認めることが相当であり、当該訴訟が取り下げられることによってその利益を享受するG社が他方の当事者であるH社に支払うべきものであると認められる。
(ハ)したがって、本件支払額は、請求人がG社に対して、G社が負担すべき金員に相当する額を贈与したものと認められることから、請求人からG社に対する寄附金の額に該当する。
(ニ)そして、本件支払額の支出は、請求人の本件近隣対策等業務とは関連を有していないのであるから、本件近隣対策等業務に係る収入金額のうち本件支払額に相当する金額を本件各事業年度の益金の額から減算する理由はない。
ハ 本件消費税等各更正処分等
(イ)本件支払額は、請求人がG社に対して、G社が負担すべき金員に相当する額を贈与したもので、資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けたことの対価として支出したものとは認められないから、消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに係る支出には該当しない。
(ロ)また、課税資産の譲渡等に該当するか否かの判断と課税仕入れに該当するか否かの判断は、個々の取引ごとに行うべきものであるから、一つの取引について、課税仕入れに該当しないことをもって、本件支払額に相当する課税売上高を減額するという計算は認められるものではない。

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3 判断

 本件審査請求は、本件支払額が請求人からG社に対する寄附金に該当するか否かについて争いがあるので、審理したところ、以下のとおりである。

(1)法令解釈

 法人税法第37条第7項は、上記1の(3)のイのとおり、寄附金とは、金銭その他の資産の贈与又は経済的な利益の供与である旨規定しているところ、例えば、法人が他の者の費用を当該他の者に代わって支払った場合には、たとえその費用が当該他の者にとって業務の遂行上必要な費用であったとしても、支払った法人にとって自らの事業の遂行に何ら関係のないものである限りは、その支払により他の者の支払債務を肩代わりしたにすぎないのであり、これを特別な事情もなく当該他の者に対して請求しないというのであれば、当該支払は、当該他の者に対する経済的な利益の供与に当たり、当該支払の金額は寄附金の額であると解される。

(2)認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 平成15年6月6日に、H社は請求人に対して、借入金額を○○○○円、返済期限を同年12月6日とする金銭借用証書を差し入れ、請求人はH社に対して○○○○円を支払っている(上記1の(4)のチの表の区分〔1〕の支出)が、当該支払について、請求人はH社から「F会の物件調査費として」と記載された領収証を受領している。
ロ 平成15年6月27日に、H社は請求人に対して、借入金額を○○○○円、返済期限を同年12月29日とする金銭借用証書を差し入れ、請求人はH社に対して○○○○円を支払っている(上記1の(4)のチの表の区分〔2〕の支出)が、当該支払について、請求人はH社から「F会の施設建設に伴う近隣対策費として」と記載された領収証を受領している。

(3)関係人の申述等

イ 請求人の代表取締役であるLは、原処分調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述している。
(イ)H社は、別件のF会向け土地取得に係る損害に関してG社と争っていたようで、T研修所の近隣住民にF会の悪評を吹き込むなどの行動を取った。このままでは、今まで請求人により積み上げてきた近隣住民の理解が崩壊する恐れがあったため、J社の代表取締役○○及びK社の代表取締役○○と相談した結果、「その時点で3社の中で資金的に余裕のあるM(請求人)から支出しておこう」とのアドバイスに従い、請求人からH社に対し金員を支払うこととなった。
(ロ)請求人がH社に対して金員を支払うことは、本来の業務委託契約にうたう内容とかけ離れたものであり、今後の業務に金銭的支障を来したり、当社の最終的な利益が大きく損なわれたりするようであれば、K社に対し追加請求をすることも考えている。
ロ 請求人の代理人である○○税理士は、当審判所に対して、本件近隣対策等業務に対して妨害が行われたことを証する書類等はない旨を答述している。
 また、Lも、原処分調査担当職員及び異議申立てに係る調査担当職員に対し、請求人には、上記の書類等は一切ない旨を申述している。
ハ H社の代表取締役であるNは、原処分調査担当職員に対して、要旨次のとおり申述している。
(イ)H社は、平成13年6月以降、G社から業務委託を受けて、R市r町に所在する土地(以下「r町の土地」という。)をF会のために取得する活動を行っていたが、平成14年6月に、突然F会から当該業務委託をキャンセルされ、それまでに要した経費について何ら補償がないことにG社に対し異議を唱えた。
(ロ)G社から、平成14年8月に、H社が今後もF会向けの土地を探す仕事をすること及びG社がH社に対し基本調査料名目で○○○○円を支払うことによって、r町の土地に係る基本協定等を終わりにするという条件が提示された。
 H社は、○○○○円を受領しても、それまでに要した諸経費をカバーすることはできなかったが、引き続きF会のために土地を探すことで、r町の土地取得に係る業務委託がキャンセルされたことにより失った利益を取り戻せると判断して、上記の条件で基本協定等の終結に応じた。
(ハ)H社は、r町の土地の取得に係る業務委託がキャンセルされた後もF会向けに数多くの物件を紹介したが、F会は一向に紹介した土地を取得する気配がなく、その物件に係る調査費等の負担で資金繰りがひっ迫していたため、平成15年5月ころ、G社にr町の土地だけでなくその後のF会の土地取得活動のために要した諸費用の精算を求めたところ、H社が請求人に「金銭借用証書」を差し入れることで、請求人からH社に平成15年6月支払額が支払われた。
 なお、請求人とは、上記の金銭借用証書の内容や金額について交渉したことはない。
(ニ)平成17年3月ころ、Lから電話連絡により、「請求人は、H社に支払った平成15年6月支払額については、貸付けの形で支出した時点から事実上返済されないものと認識しているので、支払手数料で費用処理しているところ、国税局の請求人に対する税務調査の際『金銭借用証書によれば、支払手数料ではなく貸付金となる』との指摘を受けたので、金銭借用証書の日付で『F会の物件調査費として』というただし書きを付した領収証を作成してほしい」旨の要請を受けたので、これに応じた。
 なお、請求人から、領収証にただし書きとして記載したようなF会に係る物件調査を依頼されたことはない。
(ホ)H社のr町の土地の取得活動に係る補償問題については、上記1の(4)のホのとおり、G社が本件本訴を提起し、それに対し、H社が本件反訴を提起した。そして、裁判の過程でr町の土地問題に係る双方の訴えについてお互いが取り下げるという、いわば和解の条件が話し合われ、H社が和解金として○○○○円を受け取ることとなった。
(ヘ)請求人が、本件訴訟を取り下げる協議に参加すること及び取下げに係る和解金の支払者になることは、H社から要求したものではない。何度か協議を重ねる中で、請求人は、H社がG社から得る和解金の支払者となるので、その内容を承知しておきたいということで協議に参加するようになった。

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(4)これを本件についてみると、以下のとおりである。

イ 守秘義務違反等について
 請求人は、原処分庁が答弁書に請求人の承知していないG社とH社との間の基本協定等及び本件訴訟に関する事実を記載していることをもって、原処分庁に守秘義務違反があった旨を主張する。
 しかしながら、請求人が承知していない事実であっても原処分を適法とする証拠にはなり得るのであり、また、上記1の(4)のロ及びホないしトによれば、G社とH社との間の基本協定等及び本件訴訟に関する事実は、いずれも請求人が本件支払額を支出するに至った経緯であるので、これらの事実を請求人が承知していなかったとは考え難い。
 なお、答弁書に請求人の承知していない事実を記載したことについて、法人税法第163条の守秘義務違反の罰則規定が適用されるか否かは、原処分が適法であるか否かの判断に影響を与えるものではない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件法人税各更正処分について
(イ)平成15年6月支払額について
A 請求人は、平成15年6月支払額について、上記(2)のイ及びロのとおり、金銭借用証書に基づいてH社に支出しているものの、上記1の(4)のリのとおり、平成16年2月期において、いずれも支払手数料として経理処理している。
 この点について、請求人は、上記2の(1)のロの(ハ)のとおり、金銭借用証書は平成15年6月支払額の会計処理のために作成されたものであることを認めており、加えて、Nは、平成15年6月支払額について、上記(3)のハの(ハ)のとおり、請求人とは金銭借用証書の内容や金額について交渉したことはない旨申述していることからすると、当該金銭借用証書に記載された金銭の消費貸借は、その当事者である請求人及びH社のいずれもが、真に意図するものではないことを認めているということができるから、平成15年6月支払額は金銭の消費貸借契約に基づく支払ではないものと認められる。
B また、上記(3)のL及びNの各申述によれば、平成15年6月支払額が、H社が請求人に対して何らかの役務提供を行ったことへの対価として支出されたものであるとは認められない。
 そして、上記(3)のロのとおり、請求人は、当審判所に対して、請求人が主張するようなH社が請求人に対して業務妨害をしたという事実を証する書類等は提出せず、当審判所の調査によっても当該事実を認定するに足る証拠はない。
 したがって、平成15年6月支払額は、請求人がH社に対し、何らかの役務の提供又は業務妨害の排除のための対価として支払ったものと認めることはできない。
C ところで、上記1の(4)のホのとおり、平成15年8月ころG社及びH社との間においてはF会の宗教施設の建設に関して訴訟に至るほどの紛争が生じているところ、当該紛争は、上記(3)のハの(ハ)のNの申述によれば、平成15年5月ころH社がG社に対し基本協定等に基づく業務のために要した諸費用の精算を求めたことに基因するものというべきである。
 そして、基本協定等は、上記1の(4)のロのとおり、H社がF会の施設を建設する土地をR市内において取得する旨を内容とするものであるところ、基本協定等には無関係の請求人が、H社に対して平成15年6月支払額を支払ったことが認められ、その支払の直後、G社はH社に対し、基本協定等に基づく支払債務が存在しないことを確認する旨の本件本訴を提起している。
 以上のことを併せ考えると、請求人はG社に代わって上記諸費用の精算のために平成15年6月支払額を支払ったものと認められ、そうすると、結果として本件訴訟に至りはしたものの、平成15年6月支払額は、G社とH社とのF会の宗教施設の建設に関する紛争を回避する目的の下に支出された金員であると認めるのが相当である。
(ロ)平成16年6月支払額について
 上記(3)のハの(ホ)及び(ヘ)のNの申述によれば、本件訴訟について双方が訴えを取り下げるための、いわば和解の条件が話し合われ、H社が和解金○○○○円を受け取ることとなったこと、また、請求人は、G社とH社とが和解条件の協議を重ねる中で、G社のH社に対する和解金の支払者となるため、和解の内容を承知しておきたいということでその協議に参加するようになったことが認められる。
 そして、請求人は、H社との間で、上記1の(4)のチのとおり、請求人がH社に対し○○○○円を支払うことにより、H社及びその関係者はF会及びその関係者に対する一切の訴訟を取り下げ、今後一切の訴訟を行わない旨の本件契約を締結しているところ、平成16年6月支払額は、当該契約書に定められた○○○○円と同額であり、かつ、上記1の(4)のトのとおり、その支出された平成16年6月1日の翌日に、当該契約における合意事項どおりに本件訴訟が実際に取り下げられていることからすれば、H社及びその関係者がF会及びその関係者に対する一切の訴訟を取り下げ、今後一切の訴訟を行わないことの対価として支出されたものと認めるのが相当である。
(ハ)本件支払額の性格
A 以上のとおり、平成15年6月支払額は、G社とH社とのF会の宗教施設の建設に関する紛争を回避するために支出された金員であると認められ、また、平成16年6月支払額は、H社及びその関係者がF会及びその関係者に対する一切の訴訟を取り下げ、今後一切の訴訟を行わないことへの対価として支出された金員であると認められる。
B ところで、紛争を回避するために支払う金員は、当該紛争を回避することにより利益を享受する紛争の当事者が、また、訴訟を取り下げることを条件として支払う金員は、当該訴訟が取り下げられることによってその利益を享受する訴訟の当事者が、それぞれ負担するのが一般的であると認められる。
C これを本件についてみると、本件の紛争を回避し、また、本件訴訟が取り下げられることによって利益を享受するのはいずれもG社であると認められるところ、紛争及び本件訴訟には無関係の請求人が、本件支払額を負担しており、かつ、その負担をすることについて特別の事情は認められない。
D そうすると、本件支払額については、G社が負担すべきものをその負担すべき理由のない請求人が支出したものということができ、かつ、当審判所の調査したところ、請求人とG社との間で精算された事実も認められないことからすれば、請求人は、本件支払額を支出することによって、G社に対して、G社が負担すべき本件支払額に相当する金額の経済的利益の供与をしたものと認められる。
E したがって、本件支払額は、請求人からG社に対する法人税法第37条第7項に規定する寄附金の額に該当する。
(ニ)請求人の主張について
A 請求人は、自己の利益の実現のため、独自の判断で本件支払額を支出したのであるから本件支払額を寄附金と認定したことは失当である旨主張する。
 しかしながら、本件支払額は、請求人が負担すべき支出ではなく、請求人からG社に対する寄附金の額に該当すると認められることについては、上記(ハ)で述べたとおりであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、G社が本件支払額に相当する金額を支出した場合には同社の損金の額と認められることを理由に、本件支払額を損金の額に算入すべき旨主張するが、本件において本件支払額を支出したのが請求人であることは明らかであり、請求人の支出した本件支払額が寄附金の額と認められることは、上記(ハ)で述べたとおりであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
C また、請求人は、本件支払額をG社が負担すべきものと認定されるのであれば、本件近隣対策等業務に係る収入金額から、本件支払額に相当する金額が、減額されるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(4)のニの請求人とK社との間の業務委託契約及び上記(3)のイのLの申述の内容からみて、本件近隣対策等業務に係る収入金額のうちに、本件支払額に充当すべき金額が含まれていたというような特別な事情は認められず、また、そのほかに上記収入金額を減額すべき理由はないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 本件消費税等各更正処分について
(イ)本件支払額の支出は、上記(4)のロで述べたとおり、請求人からG社に対する経済的利益の供与がなされたものと認められるところ、当該支出は、資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供を受けたことの対価として支出されたものとは認められないことから、消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れには該当しない。
 よって、本件支払額に係る消費税額については、消費税法第30条第1項の適用はなく、本件各課税期間の課税標準額に対する消費税額から課税仕入れに係る消費税額として控除をすることはできない。
(ロ)請求人は、本件支払額は交際費等に該当するともいえるから、その支出は課税仕入れに該当する旨主張するが、本件支払額が寄附金の額であることは上記ロで述べたとおりであり、本件支払額の支出が課税仕入れに該当しないことは上記(イ)で述べたとおりである。
 また、請求人は、仮に、本件支払額の支出が課税仕入れに該当しない場合には、本件各課税期間の消費税の課税売上高から本件支払額に相当する金額を減額すべきである旨主張するが、上記ロの(ニ)のCで述べたように、本件支払額に相当する金額を本件近隣対策等業務に係る収入金額から減額すべき理由はないのであり、そのほかに請求人の課税売上高を減額すべき理由も認められない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張にはいずれも理由がない。

(5)以上のとおり、本件の争点について原処分に違法はない。

 また、消費税等の過少申告加算税の各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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