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(平18.9.8、裁決事例集No.72 325頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、リース業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、E社(以下「譲渡人」という。)から、F社(以下「対象会社」という。)の発行済株式(以下「本件株式」という。)を購入するに当たり、本件株式の売買契約(以下「本件契約」といい、その契約書を「本件契約書」という。)に基づき、請求人が譲渡人から受領した金員(以下「本件金員」という。)について、原処分庁が雑益であるとして法人税の更正処分等をしたのに対し、請求人が、本件金員は本件株式の購入の代価の返還に当たるとして、同処分等の一部の取消しを求めた事案である。

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(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成13年4月1日から平成14年3月31日まで、平成14年4月1日から平成15年3月31日まで及び平成15年4月1日から平成16年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成14年3月期」、「平成15年3月期」、「平成16年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、別表1の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書をいずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ 請求人は、平成14年3月期の法人税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を平成15年3月24日に提出した。
ハ ○○税務署長は、原処分庁所属の調査担当職員の調査に基づき、平成17年6月29日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ニ 請求人は、これらの処分を不服として、その一部の取消しを求めて平成17年7月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年10月27日付で棄却の異議決定をした。
ホ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成17年11月22日に審査請求をした。

(3) 関係法令等の要旨

イ 法人税法(平成18年法律第10号による改正前のもの。以下同じ。)第2条《定義》第21号は、有価証券について、証券取引法第2条に規定する有価証券その他これに準ずるもので政令に定めるものをいう旨規定している。
ロ 法人税法施行令第119条《有価証券の取得価額》第1項の各号では、有価証券の取得価額について次のとおり規定している(第1号から第8号まで、第6号以下は省略)。
(イ) 購入した有価証券・・・その購入の代価(第1号)
(ロ) 金銭の払込みにより取得した有価証券・・・その払い込んだ金額(第2号)
(ハ) 有利な発行価額で新株その他これに準ずるものが発行された場合における当該発行に係る払込みにより取得した有価証券・・・その有価証券の当該払込みに係る期日における価額(第3号)
(ニ) 株式交換又は株式移転により受け入れた有価証券・・・その有価証券の受入価額(第4号)
(ホ) 合併により交付を受けた当該合併法人の株式・・・当該被合併法人の株式の当該合併の直前の帳簿価額に相当する金額(第5号)
ハ 法人税法第22条《各事業年度の所得の金額の計算》第1項は、内国法人の各事業年度の所得金額は、当該事業年度の益金の額から損金の額を控除した金額とする旨規定し、第2項以降で、益金の額に算入すべき金額及び損金の額に算入すべき金額等を要旨次のとおり規定している。
(イ) 益金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のものに係る当該事業年度の収益の額とする(第2項)。
(ロ) 損金の額に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、当該事業年度の収益に係る売上原価、完成工事原価その他これらに準ずる原価の額、売上原価等のほか、当該事業年度の販売費、一般管理費その他の費用の額、及び当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものとする(第3項)。
(ハ) 当該事業年度の益金の額及び損金の額は、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算されるものとする(第4項)。
(ニ) 資本等取引とは、法人の資本等の金額の増加又は減少を生ずる取引及び法人が行う利益又は剰余金の分配をいう(第5項)。
ニ 企業結合に係る会計基準(平成15年10月31日付企業会計審議会発表)の条件付取得対価の会計処理のうち、将来の業績に依存する条件付取得対価の項は、条件付取得対価が企業結合契約合意後の将来の業績に依存する場合には、条件付取得対価の交付又は引渡しが確実となり、その時価が合理的に決定可能となった時点で、支払対価を取得価額として追加的に認識するとともに、のれん又は負ののれんを追加的に認識する旨定めている。

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(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人および原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる
イ 平成12年8月28日に請求人と譲渡人の間で対象会社の発行済株式総数の80%に相当する○○株を売買する本件契約が締結され、請求人は譲渡人に対して売買代金○○○○円を支払い、本件株式を取得した。
ロ 本件契約書第2条(本件株式の売買代金額)は、本件株式の売買代金の総額は、同第4条に定める表明及び保証が真実であること並びに同第5条に定める予想利益に関する確認を前提として○○○○円とする旨定めている。
ハ 本件契約書第4条(譲渡人の表明及び保証)は、譲渡人は請求人に対して本件契約締結日現在のみならず、売買実行日においても、要旨次に掲げる項目が真実であることを表明し保証している。
(イ) 本件契約書第4条第1項1契約締結権限等について
A 譲渡人は、本件契約及び本件契約締結と同時に請求人と譲渡人の間で締結される覚書(以下「本件覚書」という。)を締結する権限を有している。
B 譲渡人は、本件株式の適法な所有者である。
(ロ) 本件契約書第4条第1項2対象会社に関する表明及び保証について
A 対象会社は、法令に準拠し適法に設立され有効に存続している。
B 対象会社は、債務超過又は支払不能に陥っておらず、破産、民事再生、会社更生法等の申立てをし、又は受けていない。
C 平成12年3月末日(以下「基準日」という。)現在の対象会社の財務諸表は、公正な会計慣行に従って基準日現在の対象会社の財務状況及び事業の結果を適正に表示している。
D 基準日現在、対象会社の有する債権(本件覚書第12条第3項に定める○○債権、○○債権、○○債権及び○○債権等のうち、除外債権一覧表に記載された債権を除いた債権。以下「既存債権」という。)は、基準日以降通常の業務過程で約定どおり回収される。
ニ 本件契約書第5条(予想利益に関する確認)は、請求人と譲渡人は、相互に、譲渡人が請求人に提示した平成12年4月1日から平成19年3月31日までの期間中の対象会社の予想利益と本件株式の売買代金との関係につき、要旨次の事項を確認する旨定めている。
(イ) 譲渡人は、請求人に対し、譲渡人が請求人に提示した対象会社の上記期間中の予想利益の見積りが、実現可能性を含め適正になされたものであることを保証した。
(ロ) 本件株式の売買代金は、(イ)の保証を前提として算定されている。
(ハ) 上記期間中に対象会社が現実に獲得した利益が、上記(イ)の見積りを下回るときは、本件覚書の約定に従い本件株式の売買代金を減額し、譲渡人は、請求人に対し、当該金額に相当する金員を返還する。
ホ 本件契約書第6条(請求人の表明及び保証)は、請求人は譲渡人に対し、本件契約を締結する権限を有し、本件契約の締結に必要なすべての法令、請求人の取締役会決議その他の内部規程で要求される手続を完了しており、又は本件株式の売買実行日までに完了することを表明し、保証する旨定めている。
ヘ 本件契約書第14条(本件株式の売買代金の減額及び損害賠償)は、第1項において本件株式の売買代金の減額について、第2項において損害賠償について、それぞれ要旨次のとおり定めている。
(イ) 第1項について
A 本件契約書第4条第1項2の表明及び保証項目のいずれかが真実に反する結果、対象会社の資産の減少若しくは負債の増加又はその他の不利益の発生により請求人が損害を被ったときは、発生額に課税効果を勘案して計算した金額に、本件株式が対象会社の発行済株式総数に占める割合である0.8を乗じた価額をもって請求人に生じた損害と推定し、本条第1項に基づく株式代金の減額は、請求人に生じた損害(原因が複数の項目に渡るときは、その合算額)が○○○○円を超えたときに行われ、当該超過額をもって本件株式の売買代金の減額価額とし、当該金額を譲渡人は請求人に返還する。(第1項本文、12
B 本件契約書第5条に基づき本件株式の売買代金の減額が必要となったときの処理については、本件覚書に定める。(第1項本文なお書き)
C 既存債権の表明及び保証が真実に反した場合の本件株式の売買代金の減額に関しては、本条第1項の規定によらず、本件覚書の定めに従う。(第1項5
(ロ) 第2項について
A 本件契約書第4条第1項1の表明及び保証項目のいずれかが真実に反し、又は譲渡人が本件契約上の義務に違反したことにより請求人が被った損害を譲渡人に請求できる。
B 本件契約書第6条の表明及び保証が真実に反し、又は請求人が本件契約上の義務に違反したことにより譲渡人が被った損害を請求人に請求できる。
ト 請求人は、上記への事実が生じたことによって、譲渡人から本件金員を次のとおり受領している。
(イ) 上記ヘの(イ)のB及びCの定めに基づくもの(平成15年10月20日に○○○○円)
(ロ) 上記ヘの(イ)のCの定めに基づくもの(平成13年7月31日に○○○○円、平成14年10月10日に○○○○円)
チ 請求人は、本件金員について、別表2のとおり、それぞれ受領した日における事業年度において子会社株式勘定(本件株式の帳簿価額)を減額する会計処理を行っている。

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2 主張

(1) 原処分庁

 請求人が本件株式の取得価額の減額として会計処理をした本件金員は、次の理由により雑益に当たるので、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件金員の性格について
(イ) 一般に、株式の売買の当事者間で売買が成立したということは、その売買価額が確定したということであり、その後に企業価値が変動し、当該株式の価額が増減したとしても、当該確定した売買の価額は変更されるものではない。
 したがって、本件株式の売買価額は、請求人と譲渡人が合意した対象会社の企業価値総額○○○○円の80%である○○○○円をもって確定したものと認められる。
(ロ) 本件契約書第5条の定めによる金員の返還は、契約時において不確実であった見込利益について現実に利益が確定した段階で精算することとしたものにすぎず、提示した予想利益に満たない利益しか上げられなかったことに対する一種の補てんであると認められる。
(ハ) 本件契約書第14条の定めによる金員の返還も、対象会社の予想利益の達成及び既存債権の回収という前提条件が満たされなかったことにより対象会社の資産が減少等し、請求人が損害を被ったときには、本件株式の売買代金を減額することが定められており、これも、契約時には不確実であった事象に対して事後的に一定の事実が生じた場合には、請求人が被る損失に対して補てんをすることを定めたものであり、本件金員は、取得した本件株式の価値の低下に対する損害を補てんするためのものと認められる。
(ニ) したがって、本件金員は、本件契約書を締結した時点では、その発生が不確実であった事象に基因して本件株式の価値が減少したことにより生じる損失に対する一種の補てんであり、受領した事業年度の益金の額に算入されるべきものである。
ロ 本件金員に係る会計処理の妥当性について
 企業結合に係る会計基準については、基本的に合併などの組織再編成のような場面における会計基準を定めたものであり、このうち条件付取得対価の会計処理に係る定めは、株式を対価として交付し、資産等を取得するような場面について定められているものであり、本件のような現金で株式を購入した場合についてまで、企業結合に係る会計基準による会計処理を当てはめることは、適当とは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(2) 請求人

 本件金員は、次の理由のとおり雑益には当たらないので、原処分のうち、当該部分の取消しを求める。
 なお、原処分のその他の部分は争わない。
イ 本件金員の性格について
 本件契約書第2条に定める○○○○円という金額は、1本件覚書第3条に定める予想利益が達成されること、2本件覚書第12条第3項に定める既存債権のすべてが約定どおり弁済されることという2つの条件が満たされた場合の本件株式の売買代金であり、本件株式の売買実行時に売買価額は確定していない。これら2つの条件の一方又は双方が満たされなかった場合には、本件覚書第4条又は同第12条の定めに基づき調整された後の金額が本件株式の売買代金となる。
 したがって、調整後の本件株式の売買代金の額を法人税法施行令第119条第1項に規定する本件株式の購入の代価として取り扱うことが適当であり、本件株式の売買代金確定までのプロセスにおいて生じた返金額は、法人税法上本件株式の取得価額の減額として取り扱うことが相当である。
 また、本件各事業年度における本件金員は、本件株式の売買価額を修正し確定させるためのプロセスにおいて生じたものであり、原処分庁が主張する「損失の補てん」又は「一種の補てん」とは全く性質の異なるものである。
ロ 本件金員に係る会計処理の妥当性について
 本件金員について、子会社株式の取得価額の減額とする会計処理は、一般に公正妥当な会計基準に照らし、適切な会計処理であり、法人税法第22条第3項及び第4項の観点からも、本件金員は益金を構成せず、本件株式の取得価額の減額とすることが相当である。
 現金による株式の取得による子会社化については、企業結合会計基準の適用から除外されているものとも考えられる。しかし、すべての経済事実を網羅するように会計基準をあらかじめ定めておくことは事実上不可能であることから、明示されていない場合には、真実性の大原則、取引の経済的実質を忠実に再現するという大原則に従い、会計理論等を参考に、会計処理方法を類推する必要があるとされている。
 本件契約書及び本件覚書に定められている本件株式の売買代金の返還条項は、「追加で交付する」か「返金する」かの違いはあるが、「企業結合契約において定められる、企業結合締結後の将来の特定の事象又は取引の結果に依存して追加的に返還される取得対価」であり、条件付取得対価とその性質は同一のものであることから、企業結合に係る会計基準を類推して考えた場合、本件金員については企業会計上収益とならず本件株式の取得価額の減額とすべきことは明らかである。
 また、原処分庁の主張どおりとすれば、条件付取得対価は法人税法上損金となるべきものであり、このような取扱いとなるのであれば、企業会計との整合性が図れないため、法令上の手当てがなされるべきである。
 しかし、現時点でかかる法令改正は行われていないことから、条件付取得対価は法人税法上損金ではないということであり、条件付取得対価と全く同一の性質である本件金員は、益金を構成せず、本件株式の取得価額の減額とすることが相当である。

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3 判断

 本件は、1本件金員は、請求人に生じた損失を譲渡人が補てんしたものであるか否か、2本件金員に係る請求人の会計処理が妥当であるか否かの2点について争いがあるので、審理したところ、次のとおりである。

(1) 認定事実

 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件金員の支払の趣旨及び算定方法は、請求人と譲渡人の合意に基づき適正に締結された本件契約書及び本件覚書において定めており、本件株式の売買代金である○○○○円は、請求人と譲渡人の間で対象会社の企業価値を○○○○円と算定したことに基づいている。請求人は、本件株式の売買代金の算定については、対象会社の株式を評価するに当たって時価純資産方式により評価して、その評価額を○○○○円と算定し、この金額を基礎として、既存債権のすべてについて譲渡人が保証することにより、対象会社が当該債権について計上していた貸倒引当金を取り崩すことになる当該債権の価値○○○○円を加算し、さらに譲渡人が7年間利益保証する○○○○円をのれんとして加算し算定している。
ロ 本件覚書第1条(本件覚書の目的)第1項は、本件覚書は、本件契約書第5条及び同第4条第1項2の既存債権の回収に関する表明・保証違反につき、既存債権の未回収の場合の株式売買代金減額の基準及びその返還方法を定めており、また、本件覚書第1条第2項では、本件覚書と本件契約書の定めが矛盾・抵触するときは、本件覚書の定めを優先して適用する旨定めている。
 さらに、本件覚書の作成の経緯、内容を記載した「『株式売買契約書に係る覚書』の解説」と題する書面(以下「本件覚書の解説」という。)において、株式の評価を行う際には既存債権のデフォルト見込額及び将来の収益力が大きな要因となるものであり、双方ともに評価時点において完全に見積もることは不可能であることから、売り手はデフォルト見込額を少なく、将来の収益力を大きく主張し、買い手はその反対を主張するものであり本件においても同様であったため、両者協議のうえ、これらの不確定要因を排除し、また、計算の便宜を図るために、一定の前提を置くことにより本件株式の売買価額をいったん決定し、その前提が将来の一定の事象により実現しなかった場合には、本件株式の売買価額の減額修正を行うことで対処する旨の合意がなされたことが本件覚書作成の背景であると記載されている。
 また、一定の前提とは、既存債権は延滞がなくかつ約定どおり回収されること、及び本件覚書第5条記載の予想利益については、最低限本件覚書第3条に記載の利益が計上できることである。
ハ 本件覚書第3条(予想利益と本件株式の売買代金との関係)は、譲渡人と請求人は、相互に、本件株式の売買代金は、平成12年4月1日から平成19年3月31日までの7年間を次の3つの計算期間に分けてそれぞれの計算期間に対応するそれぞれの予想利益が次に掲げる金額となることを前提として合意されたものであることを確認する旨定め、各期間の予想利益の合計額は○○○○円となる。

平成12年4月1日から平成15年3月31日までの計算期間
○○○○円
平成15年4月1日から平成18年3月31日までの計算期間
○○○○円
平成18年4月1日から平成19年3月31日までの計算期間
○○○○円

ニ 本件覚書第4条(予想利益の未達成による本件株式の売買代金の返還)第1項及び第2項では、予想利益の未達成による本件株式の売買代金の返還について、本件覚書第3条に定める各計算期間のそれぞれにつき、現実に計算された利益に予想利益が達しないときは、○○○○円(○○○○円×0.8)を限度として、当該未達額に、本件株式が対象会社の発行済株式総数に占める割合である0.8を乗じた金額を、それぞれの計算期間の末日から6ヶ月以内に譲渡人が受領した本件株式の売買代金の中から返還する旨定めている。
 また、第3項では、請求人が対象会社の事業内容を著しく変更し、現実に算定された利益が予想利益に達しない理由がその事業内容の変更に基づくものであることが明らかである場合には、これを適用しないが、ただし、対象会社又は請求人があらかじめ譲渡人の承認を得た場合はこの限りでない旨定めている。
ホ 本件覚書第12条(既存債権の未回収による本件株式の売買代金の返還)第1項は、請求人と譲渡人は、相互に、本件株式の売買代金は、既存債権のすべてが、その約定どおりに弁済されることを前提として合意されたものであることを確認すること、さらに、第2項、第4項及び第5項は、既存債権が約定どおりの弁済が受けられないときは、譲渡人は、請求人に、受領した本件株式の売買代金の中から対象会社の各事業年度ごとに、既存債権の延滞による経過利息の合計額、既存債権の貸倒額、回収された回収額及び回収された遅延損害金の額を勘案する算定方法に従って計算された金額を返還する旨を定めている。

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(2) 本件金員の性格について

イ 本件契約書及び本件覚書について
(イ) 株式の価額は、本件のように請求人と譲渡人の相対取引による売買の場合、当事者間で適正と考える価額で取引が成立するものである。また、株式の価額を将来発生するかもしれない不確定な事象により変更するという条件を付すことは、この条件が違法行為等に当たらない限り、当事者間で自由に決定されるものである。
 本件契約については、上記(1)のロのとおり、本件覚書の解説によると、本件株式の評価を行う際において、将来の収益力及び既存債権のデフォルト見込額等の将来の不確定要素を、評価時点では完全に見積もることができず、また、売買当事者間では合意できるものではなかったため、時価純資産額を基礎として譲渡人が予想利益が適正であることを保証することを条件に本件株式の売買代金が決定され、本件契約が締結されたものであると認められる。
(ロ) 本件株式の売買代金については、上記1の(4)のロのとおり、本件契約書第2条において、売買代金の総額を○○○○円とするに当たり、対象会社の予想利益及び本件契約書第4条の表明及び保証が真実であることが前提と定められているので、それぞれについて以下検討する。
A 本件契約書第5条の予想利益については、上記1の(4)のニのとおり、本件契約書第5条において、予想利益の見積りは、実現可能性を含めて適正になされたものであることを前提にして本件株式の売買代金が算定されており、予想利益が実現されることを保証したものではないこと、上記(1)のハのとおり、本件覚書第3条においても、各計算期間における予想利益を前提として本件株式の売買代金が算定されていることが請求人と譲渡人との間で合意されている。また、予想利益が現実に達成されなかった場合についての本件株式の売買代金の返還の方法は、上記(1)のニのとおり、本件覚書第4条において定めている。
 よって、予想利益の未達成による本件金員については、平成12年4月1日から平成15年3月31日までの計算期間における実際に算定された利益が予想利益に到達しなかったので、請求人と譲渡人の間で合意された本件株式の売買代金を減額する条件を満たし、譲渡人から請求人へ本件金員が支払われたものであるため、本件株式の売買代金の返還と認められる。
B 既存債権が約定どおり弁済されなかった場合の本件金員については、上記1の(4)のへの(イ)のAのとおり、本件契約書第14条第1項において、本件契約書第4条第1項2の表明及び保証項目のいずれかが真実に反する結果、請求人が損害を被ったときは、発生額に課税効果を勘案して計算した金額に、本件株式が対象会社の発行済株式総数に占める割合である0.8を乗じた価額をもって請求人に生じた損害と推定している。しかし、上記1の(4)のへの(イ)のCのとおり、本件契約書第14条第1項5において、本件契約書第4条第1項2の既存債権については、本件契約書第14条第1項の適用を外されている。また、上記(1)のロのとおり、本件覚書第1条第1項は、本件株式の売買代金の減額の対象となるのは、本件契約書第4条第1項2の既存債権と限定し、本件覚書第1条第2項において本件契約書と本件覚書の内容が矛盾する場合は本件覚書を優先すると定め、上記(1)のホのとおり本件覚書第12条は、請求人と譲渡人との間で、本件株式の売買代金については、既存債権が約定どおりに弁済されることを前提として合意されたと定めている。
 よって、既存債権が約定どおり弁済されなかった場合の本件金員についても、本件株式の売買代金の返還と認められる。
(ハ) 小括
 以上のことから、本件金員の支払は、本件株式の売買代金を
○○○○円とするに当たり前提とした、対象会社の予想利益が実現しなかったこと及び既存債権が約定どおり弁済されなかったことにより、当事者が上記(1)のイのとおり、本件株式の売買価額算定の基礎とした対象会社の企業価値を○○○○円と算定したことが過大であったことが判明したことから、請求人と譲渡人の間で合意していたところに基づき、その本件株式の売買価額を是正したものと認められる。
ロ 原処分庁の主張について
(イ) 原処分庁は、株式の売買当事者間で売買が成立したということは、対象会社の企業価値総額の○○○○円の80%相当額である○○○○円で売買価額が確定したものであり、その後に対象会社の企業価値が変動することによって、当該株式の価額が増減したとしても、当該確定した株式の売買価額は変更されるものではない旨主張する。
 しかしながら、本件契約は、上記イの(ロ)のとおり本件株式の売買価額について、対象会社の今後の予想利益が達成されること、既存債権が約定どおりに弁済されることという、二つの前提条件が付された株式の売買契約であり、二つの前提条件の一方又は双方が満たされなかった場合には、本件株式の売買代金を減額し、売買価額の変更を行うことになる。これは、既存債権のデフォルト見込額、将来の収益予想の評価において、本件株式の売買時点において当事者間で合意できなかったため、二つの前提条件をおいて本件株式の売買価額をいったん決定し、二つの前提条件の達成いかんで売買価額が変動することも含めて売買当事者間で合意したものであると認められるため、原処分庁の主張は採用できない。
(ロ) 原処分庁は、本件契約書第5条にいう予想利益が実現しなかったことにより請求人が受領した本件金員については、提示した予想利益に満たない利益しか上げられなかったことに対する一種の補てんであり、また、本件契約書第14条にいう、既存債権を約定どおりに弁済を受けられなかった場合については、本件契約時には不確実であった事象に対して事後的に一定の事実が生じた場合に、請求人が被る損失に対する補てんを定めたものであり、請求人が受領した金員は、取得した本件株式の価値の低下に対する損害を補てんするものである旨主張する。
 しかしながら、上記(イ)のとおり、本件株式の売買契約は、売買金額に条件が付いた契約と認められ、本件契約時においては、将来の利益という不確定な要素を売買当事者間において合意できなかったため、将来の利益が現実に確定した時に本件株式の売買代金の調整を行う趣旨であるため、原処分庁が主張する「損失の補てん」又は「一種の補てん」とは認められない。
 また、本件金員の支払については、上記(1)のロのとおり、本件契約に優先する本件覚書の定めに基づくものであるが、本件覚書は、本件株式の売買代金の減額の基準及び返還方法を定めたものであり、また、本件契約書第5条の予想利益については、上記イの(ロ)のAのとおり実現可能性を含めて適正に見積もられたものではあるが、実現することを保証するとは定めていないことから、損失の補てんを定めたものとは認められない。さらに、本件株式の売買代金の減額及び損害賠償を定めた本件契約書第14条が、本件覚書の対象である予想利益の未達成又は既存債権が約定どおりに弁済されないことに係る本件株式の売買代金の減額について、同条を適用しないと定めている。
 したがって、本件覚書の定めに基づく本件金員の支払を損失の補てんであるとする原処分庁の主張は採用できない。
ハ 以上のことから、本件金員は、請求人の主張のとおり、本件契約書及び本件覚書の定めに基づき、本件株式の売買代金の返還であると認めることが相当である。

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(3) 本件金員に係る会計処理の妥当性について

 上記1の(3)のロの(イ)のとおり、法人税法施行令第119条第1項は、購入した有価証券の取得価額は購入の代価となる旨規定しているところ、本件株式は、請求人が譲渡人から購入した有価証券であり、また、上記(2)のとおり、本件金員の性格は、本件株式の売買代金の返還、すなわち、本件株式の購入代価を減額したものと認められ、本件金員に相当する金額は、本件株式の取得価額(帳簿価額)から減額する処理が相当である。
 したがって、請求人は、上記1の(4)のチのとおり、本件金員に相当する金額を受領した日の属する事業年度において、有価証券の帳簿価額から減額する処理を行っていることから、本件金員に係る請求人の会計処理が、企業結合に係る会計基準の条件付取得対価の会計処理に基づいたものであるか否かを論ずるまでもなく、請求人の会計処理は妥当と認められる。

(4) 本件各更正処分について

 上記(2)及び(3)のとおり、本件金員については、本件各事業年度の益金とならないので、平成14年3月期及び平成15年3月期の納付すべき税額は、別表3の「審判所認定額」欄のとおりとなり、各更正処分の額を下回るから、その一部を取り消すべきである。
 また、平成16年3月期の法人税の更正処分については、本件金員を益金から控除して再計算したところ、別表3の「審判所認定額」欄のとおり所得金額が○○○○円、納付すべき税額が○○○○円となり、別表1の「確定申告」欄を下回ることから、その全部を取り消すべきである。

(5) 本件各賦課決定処分について

 上記(4)のとおり、平成14年3月期及び平成15年3月期の法人税の各更正処分は、別表3の「審判所認定額」欄のとおりその一部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の各賦課決定処分の基礎となる税額は、それぞれ、○○○○円、○○○○円となる。
 さらに、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、過少申告加算税の額はそれぞれ、○○○○円、○○○○円となり、平成14年3月期及び平成15年3月期の各賦課決定処分の金額に満たないから、その一部を取り消すべきである。
 また、平成16年3月期の法人税の更正処分はその全部を取り消すべきであるから、過少申告加算税の賦課決定処分は、その全部を取り消すべきである。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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