ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.72 >> (平18.12.8、裁決事例集No.72−565頁)

(平18.12.8、裁決事例集No.72−565頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人H、J、K、L、M、N及びS(以下「請求人ら」という。)が、相続により取得した土地の評価に当たり、原処分庁が財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。ただし、平成16年6月4日付課評2−7ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)24−4《広大地の評価》(以下「本件通達」という。)の適用ができないとしてした相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分に対し、不当を理由に全部又は一部の取消しを求めた事案であり、争点は次の2点である。
争点1 P市a町○−○の土地のうち、地積8.08平方メートルの進入路部分を除いた地積800.85平方メートルの土地(以下「甲土地」という。)及び地積852.80平方メートルの土地(以下「乙土地」といい、「甲土地」と併せて「本件各土地」という。)が本件通達に定める広大地に該当するか否か。
争点2 本件更正処分には、本件通達に定める広大地に該当しない理由を明確に示すことなく行われた不当があるか否か。

(2) 審査請求に至る経緯等

 請求人らの審査請求(平成17年12月20日請求)に至る経緯及び内容は、別表1のとおりである。なお、請求人らは、平成17年12月20日に当審判所に対し、Hを総代とする旨の選任届出書を提出した。

(3) 関係法令等

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、この章で特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定している。
ロ 評価通達1《評価の原則》(2)時価の意義は、財産の価額は、時価によるものとし、時価とは、課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいい、その価額は、同通達の定めによって評価した価額による旨定めている。
ハ 評価通達11《評価の方式》は、宅地の評価は、原則として、1市街地的形態を形成する地域にある宅地は路線価方式、21以外の宅地は倍率方式によって行う旨定めている。
ニ 評価通達13《路線価方式》は、路線価方式とは、その宅地の面する路線に付された路線価を基とし、評価通達15《奥行価格補正》から評価通達20−5《容積率の異なる2以上の地域にわたる宅地の評価》までの定めにより計算した金額によって評価する方式をいう旨定めている。
ホ 評価通達15は、一方のみが路線に接する宅地の価額は、路線価にその宅地の奥行距離に応じて奥行価格補正率を乗じて求めた価額にその宅地の地積を乗じて計算した価額によって評価する旨定めている。
ヘ 評価通達24−4は、その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地で都市計画法第4条《定義》第12項に規定する開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの(評価通達22−2《大規模工場用地》に定める大規模工場用地に該当するものを除く。以下「広大地」という。)の価額は、その広大地が路線価(評価通達14《路線価》に定める路線価をいう。)地域に所在する場合、当該広大地の地積から公共公益的施設用地となる部分の地積(その広大地について経済的に最も合理的であると認められる開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地となる部分の地積をいう。)を控除した地積を当該広大地の地積で除した数値(広大地補正率)を評価通達15に定める補正率(奥行価格補正率)として、評価通達15から評価通達20−5までの定めによって計算した金額によって評価する旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
イ 請求人らが、評価額の変更を求める土地は、相続財産のうち本件各土地のみである。
ロ 本件各土地は不整形地であり、甲土地の幅員は、間口3.15メートル、奥行70メートルであり、乙土地の幅員は、間口3.15メートル、奥行65.5メートルである。
ハ 相続開始日(平成14年9月○日)現在において、本件各土地のうち乙土地は、T社に貸し付けられており、甲土地は、一部を被相続人の温室の敷地とするほか、U社に駐車場として貸し付けられている。
ニ T社は、甲土地上に軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺2階建倉庫を所有している。
ホ 本件各土地の東方向約400メートルのところに所在する、平成14年地価公示地に選定されたP市b町○−○の土地(P市7−○。以下「本件公示地」という。)の地積は、1,652平方メートルである。
ヘ 本件各土地及び本件公示地は、都市計画法第8条《地域地区》第1項第1号に規定する「準工業地域」(以下「準工業地域」という。)に指定されている地域内に所在している。
ト 本件各土地から南東方向約50メートルのところにP市c町が存在するが、同町は、都市計画法第8条第1項第1号に規定する「第一種住居地域」(以下「第一種住居地域」という。)に指定されている地域内に所在している。
チ 本件各土地は、評価通達に定める路線価方式により評価する地域に所在し、評価通達14−2《地区》に定める地区は、中小工場地区である。

トップに戻る

2 主張

(1) 争点1 本件占用権は、相続財産に該当するか否か。

 原処分庁及び請求人らの主張は、別紙のとおりである。

3 判断

(1) 争点1 本件各土地が本件通達に定める広大地に該当するか否か。

イ 法令解釈等
(イ) 相続税法第22条は、相続財産の価額は、相続税法に特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価によるべき旨を規定しているが、ここでいう時価とは、相続開始時における当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。
 しかしながら、客観的な交換価値は、必ずしも一義的に確定されるものではないから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって相続財産を評価することとされている。これは、相続財産の客観的な交換価値を個別に評価する方法を採ると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることが避け難く、また、回帰的かつ大量に発生する課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること等から、あらかじめ定められた評価方式によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
 そうすると、相続財産の評価は、評価通達に定められた評価方式によらないことが正当として是認されるような特別な事情がある場合を除き、課税の公平の観点から、原則として、評価通達の評価方式に基づいて行うことが相当と解される。
(ロ) 本件通達について
A 評価通達は、評価通達11から評価通達26−2《区分地上権等の目的となっている貸家建付地の評価》において宅地の評価方式を定め、評価通達11において、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、原則として、路線価方式により評価した価額をもってその評価額とすべき旨の一般的な評価方法を定めるとともに、他方、不整形地であること、無道路地であること、間口が狭小な宅地であることなど評価の対象となる宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情に応じ、路線価方式により評価した価額を減額補正する旨の評価方法を定めている。このような定めは、あくまでも評価の対象となる宅地の現況を踏まえ、当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情がある場合には、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行う旨の定めであると解される。
B ところで、本件通達を定めた趣旨は、評価の対象となる宅地(以下「評価宅地」という。)の面積が、1当該宅地の価額の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つ当該宅地の属する地域の標準的な宅地の面積に比して著しく広大で、2評価時点において、当該宅地を当該地域において経済的に最も合理的な特定の用途に供するためには、公共公益的施設用地の負担が必要な都市計画法に規定する開発行為を行わなければならない土地である場合にあっては、当該開発行為により土地の区画形質の変更をした際に道路、公園等の公共公益的施設用地としてかなりの潰れ地が生じ、評価通達15による減額の補正では十分とはいえない場合があることから、このような土地の評価に当たっては、潰れ地が生じることを当該宅地の価額に影響を及ぼすべき客観的な個別事情として、価値が減少していると認められる範囲で減額の補正を行うこととしたものである。
C このような本件通達を定めた趣旨等にかんがみれば、本件通達でいう評価宅地の属する「その地域」とは、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、4道路、5鉄道及び公園など、土地の使用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況を総合勘案し、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心としたひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人らの提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ) 道路・水路
A 本件各土地の約150メートル西側を県道j号線及び○○自動車道(その高架上)が通っており、○○自動車道○○インターチェンジの出入り口が北西方向約400メートルのところにある。
B 本件各土地の約50メートル東側を幅員約10メートルのP市道(以下「市道」という。)k線が南北に通り、南方向で県道m号線と交わって県道j号線に連絡している。
C 本件各土地の約350メートル北側を幅員約12メートルの市道n線が東西に通り、西方向で県道j号線に連絡している。
D 本件各土地の約80メートル西側を幅員約8メートルの市道p線が南北に通り、南方向で県道m号線と連絡している。
E 本件各土地の約120メートル南側を幅員8.5ないし9.5メートルの県道m号線がほぼ東西に通り、西方向で県道j号線に連絡している。
F 本件各土地の南側に接して、東西に流れる名称の付いていない水路が存在し、途中からP市第○水道となり、南北に流れるq川に合流している。
(ロ) 行政区域
A 本件各土地の所在するP市a町は、北側を市道n線、東側を市道k線、外側となる一部を除き南西側をほぼ県道j号線に囲まれた地域である。
B P市a町の北側の市道n線を境界線として、行政区がP市d町及び同市e町となる。
C P市a町の東側の市道k線を境界線として、行政区がP市b町、同市c町及び同市f町となる。
D P市a町の南西側の県道j号線等を境界線として、行政区がQ市及びR市となる。
(ハ) 都市計画法の規定による用途地域
A 本件各土地は、準工業地域に含まれており、第一種住居地域との区分は、q川、P市第○水道及び市道k線が境界線である。
B 準工業地域は、行政区域のP市a町、同市b町、同市d町、同市e町及び同市g町の一部であり、第一種住居地域は、同市c町、同市h町及び同市f町である。
(ニ) 本件各土地周辺の宅地の利用状況
A P市a町のうち、市道k線、市道p線、市道n線及び県道m号線に囲まれた地域は、一部住宅敷地として利用されている土地があるものの、大部分が倉庫敷地、事務所敷地及び駐車場として利用されている。
B P市a町のうち、市道p線、県道j号線及び市道n線に囲まれた地域は、一部市道n線の南側に住宅敷地として利用されている土地があるものの、大部分が倉庫敷地及び事務所敷地として利用されている。
C P市a町のうち、県道m号線、市道k線及び県道j号線に囲まれた地域は、倉庫敷地、事業所敷地及び住宅敷地が混在している。
D P市b町のうち、市道k線沿いは、倉庫敷地を中心とした物流施設の敷地として利用されているが、同市道より東に向けては、倉庫敷地、事業所敷地及び住宅敷地が混在している。
E P市c町及び同市f町は、一部市道k線沿いに倉庫敷地として利用されている土地があるものの、大部分が一戸建住宅敷地として利用されている。
F P市d町は、市道n線、市道p線、県道j号線及び国道r号線に囲まれた地域であり、大手家電会社等の工場敷地として利用されている。
G P市e町は、市道n線、市道p線、市道k線及び国道r号線に囲まれた地域であり、工場敷地及び住宅敷地が混在している。
(ホ) 本件各土地周辺における宅地(現況。いずれもP市a町所在)の利用状況及び利用状況ごとの地積は、別表2のとおりである。
ハ 判断
(イ) 相続財産の価額は、特別の事情がある場合を除き、評価通達の評価方式に基づき評価することが相当と解されるところ、請求人ら及び原処分庁は、本件通達が適用されるか否かを除き、本件各土地の価額を評価通達の定めに従い評価することについて争いはないから、本件通達を適用せず、評価通達に基づき本件各土地の価額を算出すると、別表3のとおり、甲土地は72,076,500円、乙土地は72,914,400円であると認められる。
(ロ) 上記ロの(イ)ないし(ニ)の道路、行政区域、都市計画法の規定による用途地域及び本件各土地周辺の宅地の利用状況を踏まえ総合勘案すれば、本件各土地が属する「その地域」とは、市道n線、市道k線、市道p線及び県道m号線に囲まれた地域(以下「本件地域」という。)をいうものと認めるのが相当である。そして、上記ロの(ニ)のA及び同(ホ)によれば、本件地域における宅地の利用状況は、一部は住宅用地として使用されているものの、大部分は、倉庫敷地、事務所敷地及び駐車場に利用されており、それらの地積の平均は、約1,970平方メートル程度であると認められるから、本件における「その地域における標準的な宅地の地積」は、約1,970平方メートル程度であると認めるのが相当である。
 そうすると、本件各土地(甲土地の地積800.85平方メートル、乙土地の地積852.80平方メートル)は、本件地域の標準的な宅地の地積に比して著しく広大な宅地であるとはいえず、本件通達を適用することはできないから、本件通達を適用せず、本件各土地の価額を甲土地72,076,500円、乙土地72,914,400円とした本件更正処分は適法である。
(ハ) 原処分庁は、本件通達でいう「その地域における標準的な宅地」の「その地域」とは、都市計画法第8条第1項第1号に規定する用途地域をいうところ、本件各土地は、準工業地域として区分された地域に所在するから、同地域内にある地価公示の標準地(公示地)をもって、広大地の判定をすべき旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ロ)のCで示したとおり、本件通達でいう標準的な地積を導くための評価宅地の属する「その地域」とは、当該宅地の価額の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つ地域、すなわち、利用状況、環境等がおおむね同一と認められる、ある特定の用途に供されることを中心とした、ひとまとまりの地域を指すものと解するのが相当であり、都市計画法第8条第1項第1号に規定する用途地域のみに基づくのではなく、1河川や山などの自然的状況、2行政区域、3都市計画法による土地利用の規制など公法上の規制等、4道路、5鉄道及び公園など、土地の使用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況を総合勘案し、判断されるべきものである。
 したがって、原処分庁の上記主張は採用できない。
(ニ) 請求人らは、本件更正処分の基礎とされた路線価は、準工業地域のみならず第一種住居地域であっても評価通達14−2に定める中小工場地区に区分され、準工業地域の路線価と第一種住居地域の路線価が同一で格差がないから、本件通達でいう「その地域」が準工業地域であるとするのは不合理であり、原処分庁がいう広大地判定の基となる標準的な宅地の地積を準工業地域の地積とする必然性はなく、むしろ、本件各土地から50メートルも離れていないところに住宅が建ち並んでいる第一種住居地域が迫っていることから、本件通達を適用するための標準的な宅地の地積は、第一種住居地域の平均的な広さ200平方メートルを標準的な宅地の地積とするべきである旨主張する。そして、本件各土地から南東方向約50メートルのところに所在するP市c町が第一種住居地域に指定されていることは、上記1の(4)のトのとおりである。
 しかしながら、上記イの(ロ)のCで示したとおり、本件通達でいう標準的な地積を導くための評価宅地の属する「その地域」とは、当該宅地の価額の形成に関して直接に影響を与えるような特性を持つ地域を指すものと解するのが相当であり、評価宅地からの距離に基づくのではなく、河川や山などの自然的状況等土地の使用状況の連続性及び地域の一体性を分断する場合がある客観的な状況を総合勘案し、判断するものである。
 そうすると、本件通達でいう標準的な地積を導くための評価宅地の属する「その地域」とは、都市計画法第8条第1項第1号に規定する用途地域のみをもって判断するものではなく、また、本件通達でいう標準的な地積も、本件各土地から50メートル程度の距離にある第一種住居地域の平均的な広さである200平方メートルとすべきではないから、請求人らの上記主張は採用できない。
(ホ) 請求人らは、本件各土地を住宅用地として開発する場合には、開発行為により道路用地としての負担が当然に発生するから、本件各土地は、広大地として評価減すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件通達は、1「その地域における標準的な宅地の地積に比して著しく地積が広大な宅地」で、2「開発行為を行うとした場合に公共公益的施設用地の負担が必要と認められるもの」を、その適用要件として定めているところ、上記イの(ロ)のBで示した本件通達を定めた趣旨にかんがみれば、本件通達が適用されるか否かは、評価宅地が住宅用地として開発できる土地であるか否かにより判断されるものではなく、評価時点において、評価宅地が、当該宅地の属する地域において経済的に最も合理的な特定の用途に供するためには、公共公益的施設用地の負担が必要な都市計画法に規定する開発行為を行わなければならない土地であるか否かで判断されるべきものである。そして、上記ハの(ロ)で示したとおり、本件各土地の属する本件地域における宅地は、評価時点において、主として倉庫、事務所等の敷地として利用され、その利用区分ごとの地積の平均は約1,970平方メートル程度であるところ、上記1の(4)のハ及びニのとおり、本件各土地は、評価時点において、倉庫及び駐車場等として利用されていることが認められる。そうすると、本件各土地は、評価時点の利用状況である倉庫及び駐車場等として利用することが、本件地域において経済的に最も合理的な用途と認めるのが相当であるから、公共公益的施設用地の負担が必要な都市計画法に規定する開発行為を行わなければならない土地と認めるのは相当ではないというべきである。
 したがって、請求人らの上記主張は採用できない。
(ヘ) 請求人らは、不動産鑑定士による鑑定評価書によれば、本件各土地の評価額は、路線価方式による原処分の本件各土地の評価額を下回るから、本件各土地は、本件通達を適用して評価額を減額すべきである旨主張し、これを裏付ける証拠として、不動産鑑定士○○○○作成の不動産鑑定評価書を当審判所に提出している。
 しかしながら、本件通達の適用要件は、前述のとおりであるところ、本件各土地に係る原処分の評価額を下回る不動産鑑定評価が存在するか否かは、本件通達の適否を判断する要件ではない。そして、本件通達が本件各土地に対して適用されないことは前述のとおりである。
 したがって、請求人らの上記主張は採用できない。

トップに戻る

(2) 争点2 本件更正処分は、本件通達に定める広大地に該当しない理由を明確に示すことなく行われた不当があるか否か。

イ 認定事実
 原処分関係資料によれば、次の事実が認められる。
(イ) 原処分の調査を担当した職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、平成17年4月27日にV税務署で請求人らの代理人であるW税理士と面談し、本件各土地に本件通達を適用することには、疑義がある旨伝えた。
(ロ) 本件調査担当職員は、平成17年5月16日にV税務署でW税理士と面談し、本件各土地は準工業地域であり、周辺の利用状況から本件通達は適用できない旨の説明を行った。これに対し、同日、W税理士から本件通達が適用できないのは納得できないとの申出があった。
(ハ) 本件調査担当職員は、平成17年5月23日にV税務署でW税理士と面談し、現在の調査結果に基づき、本件各土地は、周りが物流、倉庫及び工場ばかりであり、著しく広大という条件には該当しないため、本件通達を適用することができない旨の説明を行い、修正申告をしょうようした。
(ニ) W税理士は、上記(ハ)を受けて平成17年5月23日に本件調査担当職員に対し、本件通達の適用ができない理由を説明してほしい旨を再度電話で伝えたところ、同職員は、今まで説明してきたとおりであり、それ以上の説明はできない旨回答した。
(ホ) W税理士は、平成17年5月24日に本件調査担当職員に対し、本件通達が適用できないとの見解を書面で出してほしい旨電話で伝えたところ、同職員は同日中に、文書による回答はできない旨回答した。
(ヘ) 本件調査担当職員は、上記(ホ)を受けて平成17年5月24日にV税務署を訪れたW税理士と面談し、再度、本件通達が適用できない旨の説明を行った。これに対し、W税理士から、再度、検討してほしいとの申出があったので、同職員は、土地評価について新たな事実が出てくれば、それを検討して評価を見直す旨伝えた。
(ト) 本件調査担当職員は、平成17年5月30日にW税理士に対し、V税務署への来署を依頼する旨の連絡を電話で伝えた。
(チ) 本件調査担当職員は、平成17年6月2日にV税務署でW税理士と面談し、同税理士に対し、全物件につき評価の見直しを行ったが、本件通達の適用の可否についての判断は変わらない旨伝え、同月6日期限で修正申告をしょうようした。
(リ) 請求人らのうちMは、平成17年6月15日にV税務署に来署し、本件調査担当職員から、本件各土地の評価を含む修正申告のしょうよう内容についての説明を受けた。
(ヌ) W税理士は、平成17年6月15日にV税務署を訪れ、Mに対してどのような説明をしたのか質問した。これに対し、本件調査担当職員は、広大地等についての説明を求められたので、W税理士に対する説明と同様の説明を行った旨を伝えた。
ロ 判断
 請求人らは、原処分庁が更正時点において、本件各土地が本件通達にいう広大地に該当しない理由を明確に示していないから、本件通達を適用できない理由を明確に説明せずにされた本件更正処分は不当であり、取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、相続税の更正処分に当たり、納税者に処分理由を説明した上で更正をすべきことを定めた法律上の規定がないことからすれば、税務調査の過程において、法令等の適否に関する納税者やその代理人からの質問等に対し、どの程度の内容を教示するかなどは、基本的には当該調査を担当した税務職員の裁量にゆだねられていると解される。そして、上記イによれば、本件調査担当職員は、調査過程において、W税理士から本件通達にいう広大地に該当しない理由を問われ、本件各土地は、周りが物流、倉庫及び工場ばかりであり、著しく広大という条件には該当しない旨の一応の回答を示したことが認められる。そして、本件調査担当職員の当該回答は、本件通達の適否を誤った回答ではないことからすれば、本件調査担当職員が、調査過程において、その裁量の範囲を逸脱した不適切な対応をしたとは認められない。また、当審判所の調査によっても、原処分の調査過程における請求人らからの質問に対する本件調査担当職員の対応が、不適切であることを裏付けるに足りる具体的な事実は認められない。
 したがって、本件更正処分に不当はなく、請求人らの主張は採用できない。

(3) ところで、本件更正処分が不利益処分に当たるか否かは、本件更正処分により納付すべき税額が増加したか否かにより判断すべきところ、別表1のとおり、Hに係る本件更正処分は、同人の納付すべき税額を増加させる処分でないことは明らかである。したがって、Hに係る本件更正処分については、同人の権利又は利益を侵害するものとはいえないから、その取消しを求める利益はなく、同人の審査請求は、請求の利益を欠く不適法なものとして、却下すべきである。

 また、J、K、L、M、N及びSに係る本件更正処分に対する審査請求は理由がないので、いずれも棄却すべきである。

(4) その他

 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る