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(平19.2.19、裁決事例集No.73 1頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が新築してその一部を居住の用に供している建物に関し、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第41条《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》第1項に規定する所得税額の特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)の適用を求めて行った所得税の更正の請求について、原処分庁が、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行ったのに対し、請求人が、違法を理由として、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯等及び基礎事実

イ 請求人は、平成17年分の所得税について、別表の「確定申告」欄のとおり記載した青色の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を法定申告期限までに原処分庁へ提出したが、同申告書には住宅借入金等特別控除の適用を受ける金額についてその控除に関する記載がなく、当該金額の計算に関する明細書、登記事項証明書その他の書類も添付されていない。
ロ 請求人は、平成18年5月26日に平成17年分の所得税について、要旨別紙1の物件目録記載の家屋(以下「本件建物」という。)の請求人の居住用部分について、住宅借入金等特別控除の適用があるとして、別表の「更正の請求」欄のとおり記載した所得税の更正の請求書(以下、同更正の請求書による更正の請求を「本件更正の請求」という。)に、平成17年分住宅借入金等特別控除額の計算明細書、住民票の写し、建物の登記事項証明書及び「残高証明書」と題する書面等(以下、これらを併せて「本件計算明細書等」という。)を添付して原処分庁へ提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成18年6月28日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 なお、原処分庁は、本件通知処分において、請求人に対し、同処分に不服があるときは異議申立て又は審査請求をすることができる旨の教示をした。
ニ 請求人は、上記ハの教示に従い、本件通知処分を不服として平成18年7月31日に審査請求をし、当該審査請求は、国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第2号の規定により、適法な審査請求とされた。

(3) 争点

 争点1 本件通知処分に係る通知書に理由の附記がないことは、違法か否か。
 争点2 本件更正の請求は、通則法第23条《更正の請求》第1項第1号による更正の請求ができる場合に該当するか否か。

(4) 関係法令

 関係法令は、別紙2のとおりである。

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2 主張

(1) 争点1 本件通知処分に係る通知書に理由の附記がないことは、違法か否か。

請求人 原処分庁
 青色申告者からの更正の請求が認められない場合には、通則法第23条第4項及び所得税法第155条第2項の規定の精神を酌んで、本件通知処分に係る通知書に理由を附記すべきであるところ、当該理由が附記されていないから違法である。  本件通知処分に係る通知書に、その理由を附記しなければならないことを定めた法令の規定はなく、原処分に違法はない。

(2) 争点2 本件更正の請求は、通則法第23条第1項第1号による更正の請求ができる場合に該当するか否か。

請求人 原処分庁
 請求人は、本件申告書に措置法第41条第1項の適用を受ける旨の記載をせず、本件計算明細書等を添付しなかったが、本件更正の請求は、次のとおり、住宅借入金等特別控除の適用要件を実質的に満たしているから、通則法第23条第1項第1号にいう課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったことに該当する。
イ 請求人は、本件建物の4階部分の一部である118.85平方メートルを居住の用に供しており、居住用部分が50平方メートル以上であるから、実質的に措置法施行令第26条第1項第2号に規定する家屋の要件を満たしている。
ロ 請求人は、本件建物に平成17年2月から居住している。
ハ 残高証明書の融資種別がレントハウスになっているが、当該借入金には、請求人の居住用部分に係る借入金が含まれており、居住用部分に係る借入金の区分計算は可能である。
イ 本件申告書に措置法第41条第1項の適用を受ける旨の記載及び同項の規定の適用を受けるための書類の添付がないことは、通則法第23条第1項第1号にいう課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったことには該当しない。また、請求人に、措置法第41条第11項に規定するやむを得ない事情があるとは認められない。
 したがって、本件更正の請求については、更正をすべき理由がない。
ロ なお、本件更正の請求については、次のとおり、措置法第41条第1項の適用要件を満たしていないから、請求人は、住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできない。
 措置法第41条第1項に規定する住宅の用に供する新築の家屋で政令で定めるものは、措置法施行令第26条第1項に規定され、更に同項のかっこ書きにおいて、その家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されるものに限ると規定されている。
 また、措置法第41条第1項の規定が適用できる家屋の床面積基準に関して、「租税特別措置法に係る所得税の取扱いについて」の41−12《店舗併用住宅等の場合の床面積基準の判定》の(1)では、その家屋の一部がその者の居住の用以外の用に供されている場合には、当該居住の用以外の用に供される部分の床面積を含めたその家屋全体の床面積により判定する旨定められている。
 本件建物の場合、総床面積は655.69平方メートルであり、請求人の居住の用に供している床面積は118.85平方メートルであるから、居住の用に供されている部分の割合は18.1%となり、家屋の床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されておらず、本件建物は措置法第41条第1項に規定する家屋には該当しない。

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3 判断

(1) 争点1 本件通知処分に係る通知書に理由の附記がないことは、違法か否か。

イ 通則法第23条第4項は、別紙2の2のとおり、税務署長は、更正の請求があった場合には、その請求に係る課税標準又は税額等について調査し、更正をし、又は更正をすべき理由がない旨をその請求をした者に通知する旨規定している。これによれば、税務署長は、調査の結果、更正をすべき理由がないと判断したときは、請求者にその旨を通知すれば足り、更正をすべき理由がない旨の通知書に理由附記をすべきことを定めた法令の規定もない。したがって、本件通知処分に係る通知書に理由の附記がないことについて違法はない。
ロ 請求人は、青色申告者からの更正の請求が認められない場合には、通則法第23条第4項及び所得税法第155条第2項の規定の精神を酌み、理由を附記すべきである旨主張する。
 しかしながら、本件通知処分は、通則法第23条第4項の規定に基づく更正をすべき理由がない旨の通知処分であるところ、この処分は、所得税法第155条第2項が前提とする同条第1項の更正処分とは法的に全く異なり、所得税法第155条第2項に規定する理由附記が法令上要求されていないことは、上記のとおりである。また、実質的にみても、所得税法第155条第2項が青色申告書に係る更正処分に理由附記を要求している趣旨は、納税者が提出した申告書の誤りを税務署長が指摘するときに理由附記を義務付けることにより、その慎重な処分を期するとともに、不服申立てに際しての判断材料を与えようとする点にあると解されるところ、通則法第23条第4項に基づく更正をすべき理由がない旨の通知処分については、納税者の更正の請求に対する応答としてなされるものであるから、上記の趣旨が当てはまるものではないと解される。
 したがって、請求人の上記主張は、法の要請を超える独自の見解であり、採用できない。

(2) 争点2 本件更正の請求は、通則法第23条第1項第1号の規定による更正の請求ができる場合に該当するか否か。

イ 通則法第23条第1項は、同項第1号から第3号までの場合には、納税申告書に係る国税の法定申告期限から1年以内に限り、更正の請求をすることができる旨規定しているが、その趣旨は、自らの申告により確定させた税額が過大であることを法定申告期限後に気付いた納税者に対し、これを是正する機会を与え、その権利救済に資するところにあると解される。申告納税方式における納税義務者は、申告行為によって具体的な租税債務を負担することになるが、納税者が申告をした後、その申告内容に変更を加える必要の生ずる場合があることは否定できず、このような場合には、その修正を認めるべきである。もっとも、あらゆる場合にこれを自由に認めることは、前述した申告の性格に照らして適当といえないのみならず、納税義務の具体的内容を不安定にさせ、行政を混乱に陥れる弊害もある。そこで、通則法第23条第1項は、これに一定の制限を加え、一定の期間内に限り特定の手続によってのみ是正することができるものとしたと解される。
 このような見地からすると、一定事項の申告等を条件に所得金額、税額の減免をすべきものとされているものについてその申告等をしなかった者が、後日その特例の適用を求めるために更正の請求をすることは、許されないと解するのが相当である。それは、上記一定事項の申告等を付さないでした納税の申告といえども、法律の規定に従っていなかったり、計算に誤りがあったりしたわけではなく、実体的に不当であるとはいえないからである。
ロ これを本件についてみるに、住宅借入金等特別控除は、別紙2の5及び6のとおり、申告等を条件に適用され、所得税額が減免される規定であるところ、請求人は、平成17年分の所得税の確定申告を行うに当たり、同控除の適用を申告しておらず、本件更正の請求は、申告後に同控除の実体的要件を満たしているとして、その適用を求めようとしているものであるから、通則法第23条第1項による更正の請求ができる場合に該当せず、その理由がないというべきである。
ハ 請求人は、本件建物の4階部分の一部である118.85平方メートルを居住の用に供しており、居住用部分が50平方メートル以上であるから、実質的に措置法施行令第26条第1項第2号に規定する家屋の要件を満たしており、本件更正の請求を認めるべきである旨主張する。しかしながら、請求人の上記主張は、次のとおり採用できない。
(イ) 措置法施行令第26条第1項は、措置法第41条第1項に規定する住宅借入金等特別控除を適用することができる新築の住宅について、別紙2の7のとおり規定しているところ、同項第2号に規定する「区分所有」の概念は、租税に関する法規において他の法規と異なる意義を持つ旨の明文の規定がない以上、区分所有法に規定している区分所有の概念と同一の意義を有する概念として使用されているとみるのが相当である。区分所有法第1条は、建物の区分所有について別紙2の8のとおり規定しているところ、この規定からすれば、一棟の建物につき区分所有が成立するためには、建物の各部分が独立の構造を有し、構造上区分された各部分が独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他建物としての用に供することができるだけでは足りず、その各部分が所有権の客体として、取引上、別個のものとされることが必要である。そして、そのための前提としては、所有者において各部分を各別の建物とする意思のあることが必須の要件であるところ、これらが別個のものとして取引の対象となり得るためには、その意思が客観的に外部から認識できるものでなければならない。そうすると、一棟の建物が同一人の所有に属するときは、上記意思を客観的に認識し得るものとして区分建物の表示登記又はその保存登記がされていることを要し、その登記がされていない以上、同一人の所有に属する一棟の建物は、一個の建物であると解するのが相当である。
(ロ) これを本件についてみるのに、本件建物は、別紙1のとおり、請求人の居住用部分を区分せず、一棟の共同住宅として表示され、請求人を所有者とする所有権保存登記がされているのであるから、請求人の居住用部分につき区分所有法第1条に規定する区分所有が成立しているとは認められない。
 そうすると、本件において、措置法第41条第1項に規定する住宅借入金等特別控除の対象となる家屋に該当するか否かは、措置法施行令第26条第1項第2号ではなく、同項第1号の規定により、本件建物の床面積が50平方メートル以上でかつ床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されているか否かにより判断されることとなる。別紙1のとおり、本件建物の床面積は655.69平方メートルであるが、このうち請求人が居住用であると主張する部分の床面積は118.85平方メートルであるから、仮に本件建物が請求人の主張するとおり使用されているとしても、床面積の2分の1以上に相当する部分が専ら居住の用に供されているとはいえない。
 したがって、本件は、措置法施行令第26条1項に規定する要件を満たしているとは認められない。
(ハ) そうすると、住宅借入金等特別控除の適用要件に関する請求人のその他の主張について判断するまでもなく、本件は、同控除の適用要件を満たしていないというべきである。

(3) 原処分のその他の部分については、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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