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(平19.2.27、裁決事例集No.73 353頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、金融機関から融資を受ける際に信用保証協会へ支払った信用保証料の全額をその支払った日の属する事業年度において損金の額に算入して法人税の申告をしたところ、原処分庁が、その支出した信用保証料のうち当該事業年度末において未経過の保証期間に係るものは損金の額に算入できないとして行った原処分に対し、請求人がその全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人は、平成18年4月28日に審査請求をしたが、それに至る経緯は別表1記載のとおりである。
 なお、平成15年4月1日から平成16年3月31日まで及び平成16年4月1日から平成17年3月31日までの各事業年度を、順次「平成16年3月期」及び「平成17年3月期」といい、平成16年3月期及び平成17年3月期を併せて「本件各事業年度」という。

(3) 関係法令等(要旨)

 別紙のとおり。

(4) 当事者間に争いがなく、証拠により容易に認定できる事実等(以下「争いのない事実等」という。)

イ 請求人は、不動産の売買及び仲介業を営む法人である。
ロ 請求人は、C銀行○○支店(以下「本件銀行」という。)から、平成16年3月19日に30,000,000円、平成16年7月16日に80,000,000円それぞれ融資を受けた。
ハ 請求人は、上記ロの各融資を受けるに際し、D信用保証協会(以下「本件信用保証協会」という。)との間で、別表2記載のとおり、各信用保証委託契約を締結し(以下、この契約に基づく保証を「本件各信用保証」という。)、本件信用保証協会所定の保証料率・方法により算定された額の各信用保証料を本件信用保証協会に支払った(以下、この請求人が支払った各信用保証料を「本件各信用保証料」という。)。
ニ 請求人は、本件各信用保証料を、それぞれその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入した。

(5) 争点

 本件各信用保証料に係る争点は、同保証料のうち本件各事業年度末において未経過の保証期間に係るものは、損金の額に算入できないか否かであるが、本件各信用保証料が一定の契約に従い継続的に役務の提供を受けるため支出した費用に当たるか否かが具体的な争点となる。

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2 主張

(1) 原処分庁

 本件各信用保証料は、保証期間中継続して信用保証という役務の提供を受けるために支払った費用であり、融資が実行された時点で役務の提供が終了したと解することはできない。
 そうすると、本件各信用保証料は、一定の契約に従い継続的に役務の提供を受けるため支出した費用と認められ、本件各信用保証料のうち本件各事業年度末において未経過の保証期間に係るものは、本件各事業年度末においていまだ役務の提供を受けていない。
 したがって、本件各信用保証料の全額を、それぞれその支払った日の属する事業年度において損金の額に算入することはできない。

(2) 請求人

 本件各信用保証料は、請求人が融資を受けるために支払った費用であり、本件信用保証協会が請求人への融資実行時に本件銀行へ保証の承諾をしたことによりその役務の提供は終了している。
 そうすると、本件各信用保証料は、保証の承諾に対する対価であり、一定の契約に従い継続して役務の提供を受けるため支出した費用ではない。
 したがって、本件各信用保証料の全額を、それぞれその支払った日の属する事業年度において一時に損金の額に算入すべきである。

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3 判断

(1) 争点について

イ 法人の各事業年度の所得の金額の計算上、当該事業年度の損金の額に算入すべき金額は、「当該事業年度の」収益に係る原価の額及び費用の額並びに損失の額に限られる(法人税法第22条第3項)が、「当該事業年度の」ものか否かは、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算される(同条第4項)。
 ところで、同基準の一つと認められる企業会計原則は、一定の契約に従い継続して役務の提供を受ける場合、いまだ提供されていない役務に対して支払われた対価(前払費用)について、時間の経過と共に次期以降の費用になるものであるから、当期の損益計算から除去しなければならないとしている。
 また、重要性の乏しいものについては、このような本来の厳密な会計処理によらず、支払時の費用として処理することも認められるとしている(重要性の原則)。これを受けて、法人税基本通達2−2−14は、法人が支払った前払費用の額のうち、その支払日から1年以内に提供を受ける役務に係るもので、法人がその支払額に相当する金額を継続してその支払日の属する事業年度の損金の額に算入しているもの(短期の前払費用)については、その支払をした事業年度の損金の額に算入できると定めており、その取扱いについては当審判所としても相当と解する。
ロ これを本件についてみるに、上記1(4)争いのない事実等に加え、請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の各事実が認められる。
(イ) 本件各信用保証は、本件信用保証協会があらかじめ本件銀行との間で締結した約定書に基づくものであり、同約定書によると、同協会は、請求人が本件銀行から融資を受ける際に、融資に係る借入金債務を保証し、借入金債務の不履行の場合に、請求人に代わって、本件銀行に代位弁済すると定められている。
 また、本件各信用保証は、本件信用保証協会から本件銀行へ信用保証書を交付することにより成立している。
(ロ) 本件各信用保証料の額は、別表2記載のとおり、次の算式で算定されている。
 本件各信用保証料の額=保証金額×保証期間(日数)×保証料率×分割返済回数別係数×1/365
(注)1 保証料率は、対象となる保証制度の種類によって定められている。
2 分割返済回数別係数は、分割返済条件の信用保証の場合に年々残高が減少するとの考慮から、本件信用保証協会が委託者の負担軽減のために設けている係数である。
(ハ) 本件信用保証協会は、債務が最終返済日前に完済等された場合の本件各信用保証料の返済について、大要、次のとおり取り扱うこととしている。
A 返済の対象期間は、保証期間を貸付日から1年ごとに区分し、完済日の翌日以降の未経過の期間とする。
B 返済額は、完済日の属する1年についてはその年中の未経過の期間に対応する信用保証料の90%を、完済日の属する1年を超える期間についてはその未経過の期間に対応する金額とする。
ハ 以上の各事実によれば、本件各信用保証は、請求人が本件銀行から融資を受けるに際し、本件信用保証協会に信用保証を委託し、同協会が本件銀行に信用保証書を交付することにより成立したものであり、上記ロ(イ)のとおり、保証債務の履行は保証期間が満了するまでの間は有効に成立している。そして、本件各信用保証料の額は、上記ロ(ロ)のとおり、それぞれ、保証金額、保証期間(日数)、保証料率及び分割返済回数別係数を基に算定されている。
 これらの事実を総合考慮すれば、本件各信用保証料が、本件各信用保証の保証期間の始期から満了時までの費用であることは明らかであるから、本件各信用保証料は、一定の契約に従い継続して役務の提供を受けるため支出した費用に当たるというべきである。
ニ これに対し、請求人は、本件各信用保証料は、保証の承諾に対する対価であり、一定の契約に従い継続して役務の提供を受けるため支出した費用に当たらない旨主張する。
 しかしながら、本件各信用保証は、上記ハのとおり、本件信用保証協会が請求人への融資実行時に本件銀行に対しての保証承諾をすることのみではその役務の提供は終了しておらず、同協会が信用保証書を本件銀行へ交付し、請求人に対して本件銀行から融資が実行された後も、その融資が継続している全期間にわたり信用保証を行うという役務を提供しているのであるから、本件各信用保証料は、一定の契約に従い継続して役務の提供を受けるため支出した費用に当たり、請求人の主張は採用できない。

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(2) 結論

イ 本件各事業年度の各更正処分について
(イ) 上記(1)のとおり、本件各信用保証料は一定の契約に従い継続して役務の提供を受けるため支出した費用に当たるところ、本件各信用保証料には、本件各事業年度末において未経過の保証期間に係るものがあるので、本件各信用保証料の額のうち未経過期間に対応する額は、前払費用として経理処理することが相当である。
 そして、上記前払費用として経理処理すべき額は、その支払日から1年以内に提供を受ける役務に係るものではないことから短期の前払費用には当たらず、本件各事業年度の損金の額に算入できない。
 なお、原処分庁は、前期に繰上完済した場合に返済を受ける信用保証料の額と当期に繰上完済した場合に返済を受ける信用保証料の額との差額を当期に損金の額に算入すべき費用の額として算定しているが、その算定方法は合理的であると認められる。
 そうすると、本件各事業年度の所得金額及び納付すべき税額は、いずれも原処分の額と同額となる。
(ロ) 本件各事業年度の各更正処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
(ハ) したがって、本件各事業年度の各更正処分にはこれを取り消すべき理由はない。
ロ 本件各事業年度の過少申告加算税の各賦課決定処分(いずれも平成18年9月27日付でされた変更決定処分後のもの。以下同じ。)について
 上記イのとおり、本件各事業年度の各更正処分にはこれを取り消すべき理由はなく、過少申告加算税の各賦課決定処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 したがって、本件各事業年度の過少申告加算税の各賦課決定処分にはこれを取り消すべき理由はない。

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