別紙

当事者の主張

(1) 措置法第66条の6の規定の適用の該当性
原処分庁 請求人
イ 請求人は、措置法第66条の6の規定が適用されない理由として、同条の立法趣旨や法人税法第11条《実質所得者課税の原則》の趣旨等を主張する。
 しかしながら、措置法第66条の6の規定は、同条に掲げる課税要件を満たせば適用されるものであり、請求人は、次のとおり当該課税要件を満たしているから、同条の規定を適用し、本件更正処分を行ったことに違法はない。
(イ) 措置法第66条の6第1項に掲げる外国関係会社を定義する同条第2項において、内国法人が有する外国法人の発行済株式の数又は出資金額をその判定基準としている。
 この判定に当たっては、措置法第66条の6が規定された趣旨からかんがみると、形式上、名目上ではなく、子会社の収益や資産を実質的に支配し得る地位という観点から行わなければならず、同条第2項でいう発行済株式又は出資金額とは、当該外国関係会社を支配し得る単位化された物的持分としての法的地位を指すものと解することができる。
 そうすると、請求人は、F社等の設立、管理、支配、運営をすべて行っていることから、F社等を支配し得る単位化された物的持分としての法的地位を100%有すると認めるのが相当であり、F社等は、外国関係会社に該当する。
(ロ) F社等の本店所在地であるE国は、法人の各事業年度の所得に対して課される租税の額が100分の25以下であり、F社等は特定外国子会社等に該当する。
(ハ) F社等の本店所在地であるE国には、その事業を行うに必要と認められる事務所、店舗、工場その他固定施設を有せず、措置法第66条の6第3項の適用除外要件には該当しない。
 次のことから、請求人には、措置法第66条の6の規定は適用されないのであるから、原処分庁が同条の規定を適用して行った本件更正処分は違法である。
イ 「立法趣旨」からの不適用
 措置法第66条の6の規定は、内国法人が軽課税国に外国法人を設立し、外国法人に利益を留保することにより租税回避が行われるようになったことから、タックスヘイブン対策税制として、税負担の不当な軽減を規制するために創設された規定であるところ、F社等の設立目的は、外国船籍を取得して賃金が安い外国船員を雇用するなど、海上貨物運送業の国際競争力を確保するためのものであり、海外への利益の移転及び留保は存在しないし、租税負担の不当な軽減を図っていないことから、措置法第66条の6の規定は適用されない。
ロ 「その未処分所得の金額から留保したもの」からの不適用
 F社等においては、人、物、金がなく、また、株主総会等の開催や固有の意思決定がなされたことはなく、船舶等の資産の取得、金融機関からの資金調達及びこれらの管理・運営等はすべて請求人の意思で行われていることから、F社等は実体を有さず、単なる名義人にすぎず、請求人は、一貫して合算経理し、かつ、申告していることから措置法第66条の6にいう「その未処分所得の金額から留保したもの」はなく、措置法第66条の6の規定は適用されない。
ハ 法人税法第11条の趣旨からの不適用
 措置法第66条の6の規定は、内国法人に帰属すべき所得が不当に海外子会社に移転されている場合に、海外子会社の所得を内国親会社の収益とみなして課税することを規定するのみであって、損益を内国親会社に帰属させる合意をして業務が行われる場合に、内国親会社の所得の計算において、損益の合算経理を禁じたものではない。
 法人税法第11条は、収益の法的帰属者が単なる名義人であって、その者以外の法人がその収益を享受する場合には、その収益はこれを享受する法人に帰属するものとする旨規定しており、請求人は、F社等が単なる名義人であって、F社等に係る所得の実質所得者であることを自認して申告しているのであるから、原処分庁がこれを否定する理由はない。
ロ 法人税法第11条及び措置法第66条の6の規定は、それぞれ独立した規定として存在することが意図されていると認められ、両者の規定の適用が競合する場合には、まず、法人税法の特別法である措置法の規定を適用することになる。 ニ 法人税法第11条と措置法第66条の6との競合
 法人税法第11条及び措置法第66条の6の規定は、それぞれ独立した規定として存在し、適用場面が競合することはあり得ず、法人税法第11条の規定は収益等の帰属の判断基準を定めた規定であるのに対し、措置法第66条の6の規定は外国法人に収益等が帰属することを前提に適用される規定である。
 したがって、措置法第66条の6の規定が法人税法第11条の特別法として優先的に適用される関係にはない。
ホ 「私的自治優先の法理」からの不適用
 F社等の船舶等の資産並びに船舶運航の収益及び費用は請求人に帰属する旨両者で合意があり、これら私的自治の範囲で行われた私法取引を明文の規定なしで原処分庁がこれを否認することはできないことから、措置法第66条の6の規定は適用されない。
ハ 法人税法第5条《内国法人の課税所得の範囲》は、内国法人に対しては、各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を課する旨規定しているところ、措置法第66条の6第1項は、内国法人に係る特定外国子会社等の課税対象留保金額に相当する金額をその内国法人の各事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する旨規定しており、法人税法第5条に規定する内国法人の所得金額は、課税対象留保金額に相当する金額を益金の額に算入して計算されるものであるから、措置法第66条の6の規定を適用することは、法人税法第5条に反することはない。 ヘ 措置法第66条の6の規定の適用と法人税法第5条の関係
 法人税法第5条は、内国法人に対しては、各事業年度の所得について各事業年度の所得に対する法人税を課する旨規定しているところ、請求人は、F社等の外国法人が単なる名義借りにすぎず実体がない会社であることから、その所得は自己に帰属するとして、合算経理して申告してきたにもかかわらず、損失は当該外国法人固有のものとし、利益のみを内国法人の所得として加算することは、本来、請求人に生じていない所得に対して課税することになり、日本国憲法第84条及び法人税法第5条(所得課税の原則)に反することとなる。
 したがって、措置法第66条の6の規定は適用されない。
(2) 行政先例法及び信義誠実の原則の適用の該当性
原処分庁 請求人
イ 日本国憲法第84条は、「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、法律又は法律の定める条件によることを必要とする」と規定され、租税の賦課、徴収は必ず法律によらなければならないこととされている。
 よって、仮に、過去の調査で指摘がないとか、多くの海運業者が外国船籍に係る収益及び費用を合算して申告しているとしても、それを行政先例法であるとすることは認められず、法律として適用されることはない。
イ 原処分庁により、その取扱いが一般的、反復・継続的に適用され、それが法であるとの確信が納税者の間で定着している場合、慣習法としての行政先例法が成立し、行政庁もそれに拘束される。
 請求人は、昭和58年にE国法人を設立させて以後合算経理を行っており、過去の税務調査においても原処分庁から措置法第66条の6の規定の適用について指導や行政処分を受けたことはなく、また、海運業者の多くは、外国船籍に係る収益及び費用を合算して経理し、申告しており、長年に渡り、かつ、全国的にその申告が認められてきた。
 そうすると、請求人に対しては、措置法第66条の6の規定を適用しない旨の行政先例法が成立していたのであり、これに違反する取扱いは違法である。
 また、請求人には原処分庁に対して長年の取扱いに対する信頼が生じており、その信頼に反する課税処分は、請求人の予測可能性と合理的判断を損なうものであり、その取扱いを変更する場合には、法律改正等所要の措置が必要であり、かかる手続を経ずになされた本件更正処分は違法である。
ロ 租税法律関係において、信義誠実の原則の適用があるのは、納税者の平等、公平という要請を犠牲にしても、その課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別な事情が存する場合に限られると解されており、その判断については、少なくとも、税務官庁が納税者に対して信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその表示に基づいて行動したところ、後にその表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けたかどうか、また、納税者が税務官庁のその表示を信頼し、その信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事情がないかどうかの考慮が必要である。
 請求人の主張する「過去の税務調査で請求人の申告が是認されてきた」からといって、それをもって、合算経理による申告が法令に照らして適法であるとの原処分庁の公的見解を表示したことにはならないため、信義誠実の原則の適用はなく、請求人の主張には理由がない。
ロ 長年にわたって外国船籍に係る収益及び費用を内国法人の収益及び費用として申告し、数度の税務調査でもこれが是認されていたことは、原処分庁が実質課税の原則に基づく申告として是認する意向を表明していたことを意味する。
 また、課税庁は、請求人に対してのみならず、長年に渡って、外国船籍に係る収益及び費用を合算して申告することこそ租税不回避行為として広く容認してきた。
 したがって、原処分庁がこれを翻して合算経理を否定するのは信義誠実の原則に反し、違法である。
(3) 減価償却費の計算
原処分庁 請求人
 請求人が平成18年8月11日に原処分庁に提出した「固定資産台帳、減価償却費明細書」(以下「減価償却費明細書等」という。)に記載されている個々の減価償却資産に係る減価償却費の金額は、確定した決算において個々の減価償却資産の償却費として損金経理した金額とは認められず、当該提出書類に基づき減価償却費の計算をすることはできない。
 なお、原処分においては、請求人の損金の額から減算するF社等の減価償却費の金額を請求人が平成18年3月23日に提出した減価償却費明細書等に基づき計算し、○○○○円としたが、当該減価償却費の金額は、本件事業年度の法人税の確定申告書に添付された減価償却費明細書等に基づき計算すべきであるから891,496,450円となる。
 請求人は、平成18年8月11日に原処分庁に対し本件事業年度に係る減価償却費明細書等を提出した。
 しかしながら、原処分庁は、本件更正処分を行うに際し当該提出資料に基づかずに減価償却費の金額を計算しており、本件更正処分は違法である。

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