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(平20.8.21、裁決事例集No.76 110頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、匿名組合の出資者としての地位を譲り受けた審査請求人(以下「請求人」という。)が、匿名組合の営業者が行う航空機リース事業に係る損失のうち請求人の出資割合相当額を不動産所得の損失として所得税の確定申告をしたところ、原処分庁が、不動産所得の損失はないなどとする所得税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が航空機リース事業に係る損失は不動産所得の損失に当たるとして上記各処分の一部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成15年分、平成16年分及び平成17年分(以下、これらを併せて「本件各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄の各欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、平成19年2月22日付で、別表1の「更正処分等」欄のとおり、本件各年分の所得税の各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、平成19年4月19日、上記ロの各処分を不服として審査請求をした。
ニ 原処分庁は、平成20年5月30日付で別表1の「減額更正処分等」欄のとおり、平成15年分の所得税の減額更正処分(以下、減額更正処分後の平成15年分の更正処分と平成16年分及び平成17年分の各更正処分とを併せて「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の変更決定処分(以下、変更決定処分後の平成15年分の賦課決定処分と平成16年分及び平成17年分の各賦課決定処分とを併せて「本件各賦課決定処分」という。)をした。

(3) 関係法令等

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

イ F社は、P国に所在するG社と、平成12年11月30日、F社を出資者、G社を営業者とする匿名組合契約(以下、「本件匿名組合契約」といい、作成された契約書を「本件匿名組合契約書」、契約に基づく匿名組合を「本件匿名組合」という。)を締結した。
ロ 本件匿名組合契約書によれば、G社は、H航空からJ社製○○型航空機1機(以下「本件航空機」という。)を購入し、H航空に対し本件航空機をリースする事業(以下「本件航空機リース事業」という。)を行うこととされている。
ハ 請求人、G社及びF社の三者は、平成13年3月1日、F社から、F社の有する本件匿名組合契約上のすべての権利義務その他本件匿名組合契約上の地位のうち、F社の本件航空機リース事業に関するすべての出資金に対して○○○○分の○○○○の出資割合に相当する分(以下、当該出資割合を「本件請求人出資割合」といい、同割合に相当する本件匿名組合契約上の地位を「本件請求人出資持分」という。)を、請求人が譲り受ける契約(以下、「本件匿名組合契約地位譲渡契約」といい、作成された契約書を「本件匿名組合契約地位譲渡契約書」という。)を締結した。
ニ 請求人は、本件匿名組合契約地位譲渡契約に基づき、平成13年7月13日、本件請求人出資持分の譲受けの対価として○○○○ドル及び当該対価に係る平成12年11月30日から平成13年7月12日までの金利相当額として○○○○ドルをF社に対して振込み送金し、支払を完了したことによって、本件匿名組合契約地位譲渡契約書第2条第1項の規定により、本件請求人出資持分を取得し、平成12年11月30日にさかのぼって、本件匿名組合の匿名組合員となった。
ホ 請求人は、本件航空機リース事業の計算期間(10月1日から9月30日まで)の損益について、毎年、G社から「匿名組合事業 会計報告書」と題する書面(以下「本件各期間の会計報告書」という。)により報告を受け、本件各年分については、次表のとおり、かかる損益のうち本件請求人出資割合に相当する損益を不動産所得の総収入金額及び必要経費とする本件各年分の所得税の確定申告書を提出している。

(単位:円)
年分
区分
平成15年分 平成16年分 平成17年分
不動産所得の総収入金額 ○○○○ ○○○○ ○○○○
不動産所得の必要経費 ○○○○ ○○○○ ○○○○
不動産所得の損失額 ○○○○ ○○○○ ○○○○

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2 争点

(1) 本件匿名組合契約に基づく本件航空機リース事業の損益は、請求人に直接帰属し、不動産所得(損失)となるか否か(争点1)。

(2) 本件各更正処分は、信義則及び課税の公平の原則に違反するか否か(争点2)。

3 主張及び判断

(1) 争点1 本件匿名組合契約に基づく本件航空機リース事業の損益は、請求人に直接帰属し、不動産所得(損失)となるか否か。

イ 主張

原処分庁 請求人
(イ) 本件匿名組合契約に基づく本件航空機リース事業の損益は、以下のとおり、請求人に直接帰属せず、請求人の不動産所得の収入金額もなく、必要経費もない。 (イ) 本件匿名組合契約に基づく本件航空機リース事業の損益は、以下のとおり、請求人に直接帰属し、請求人の不動産所得となる。
A 本件匿名組合契約により営業者であるG社が行う本件航空機リース事業の資産及び負債はすべてG社に帰属することから、本件航空機リース事業の用に供されている本件航空機はG社が単独で所有し、出資者である請求人は、G社の行為について第三者に対して権利義務を有さず、本件航空機の共有持分も有さない。
B また、G社が自己の責任と計算において本件航空機リース事業を遂行しているものであり、請求人が本件航空機リース事業について業務を執行している事実は認められない。
C したがって、本件航空機リース事業の損益は、請求人に直接帰属せず、G社に帰属することとなり、請求人においては、G社から分配されるべき利益が各年分の収入金額となる。
D また、本件航空機リース事業に係る損失が請求人に分担される場合であっても、これは、組合契約の各計算期間における財産の減少であり、その分だけ出資が減少するにとどまり、現実の負担によって補てんしてはいない。
E 匿名組合契約においては、過去の営業年度の損失を後の営業年度の利益により補てんした後、なお余りがある場合でなければ、匿名組合員は営業者に対して利益の分配を請求することができないところ、本件航空機リース事業を開始した平成12年11月30日から平成17年9月30日までの各計算期間においていずれも損失が発生しており、G社から請求人に分配されるべき利益はないことから、収入すべき金額もなく、実際に負担した損失の額もないことから、必要経費もない。
A 匿名組合は次のとおり共同的に企業を営むことを目的とするので、一つの企業形態というべきであり、匿名組合の共同企業性あるいは団体性からみれば匿名組合員に営業者の損益がその出資割合に応じて帰属することは旧商法の匿名組合の規定から明らかである。
(A) 匿名組合は、旧商法第535条の規定から、匿名組合員と営業者が同条の契約により組合を結成できることを意味し、契約によって創設された団体であると解される。
(B) 匿名組合員に営業に対する監視権が認められることからも、営業者と匿名組合員との関係ではその営業が双方当事者の共同事業であることの発現と考えられている。
B 匿名組合員の出資の法的性質については信託的移転であることから、匿名組合員の出資は営業者にとっては預り金であり、所得を構成しない。
C 匿名組合員にとってもその出資は資産であって、出資のときには所得にかかわりを生じないが、匿名組合契約に基づき営まれる組合事業に係る損益については所得税法第12条の「実質所得者課税の原則」及び同法第13条の「信託財産に係る収入及び支出の帰属」の規定により匿名組合員に帰属することとなり、営業者の事業が不動産所得に該当するならば、匿名組合員における所得も不動産所得となる。
(ロ) 請求人には、本件匿名組合からいまだ分配されるべき利益の額がなく、実際に負担した損失の額もないことから、請求人に帰属する所得税法第36条第1項に規定する収入すべき金額及び同法第37条第1項に規定する必要経費に該当するものはなく、請求人のいう平成17年12月改正前通達の判断を行うまでもなく、請求人の不動産所得は○○○○円である。 (ロ) 原処分庁は、請求人に帰属する本件匿名組合の事業に係る損益について、所得税法第36条第1項に規定する収入すべき金額及び同法第37条第1項に規定する必要経費に該当するものはないことになるとしているが、このような取扱いをする所得税法上の明文の規定はない。
(ハ) 本件匿名組合のG社の事業が航空機リース事業であり所得税法第26条の不動産所得(損失)に該当するから、平成17年12月改正前通達の定めにより、請求人の所得もG社と同じ不動産所得(損失)である。
(ハ) 本件各更正処分は、請求人の主張するような平成17年12月改正後通達を適用して行ったものではない。 (ニ) 本件各更正処分は、平成17年12月改正後通達を適用したものであると思われるが、税務通達には匿名組合契約に基づく組合事業に係る損益を雑所得として課税する創造的な効力はなく、本件匿名組合契約に基づくG社から受ける利益の分配(損失の分担)が雑所得になるとする法的根拠にはならない。

ロ 判断
(イ) 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A 本件匿名組合契約
 本件匿名組合契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(A) G社は、1H航空との間の平成12年11月29日付Aircraft Sale Agreementに基づき、H航空から本件航空機を購入し、2これをH航空との間の平成12年11月29日付Aircraft Operating Lease Agreement(以下「本件航空機リース契約」という。)に基づき、本件航空機リース事業を行うことを予定している(前文1)。
 また、G社は、本件航空機に関してK社との間で平成12年11月29日付でSupport Agreementを締結している。
(B) 上記に関連し、G社は、本件航空機の購入その他本件航空機リース事業遂行に必要な資金を、1L社との間の平成12年11月29日付Loan Agreement(以下「本件ローン契約」という。)に基づく借入金、2本契約に基づくF社からの出資金及び3F社以外の複数の投資家と個別的に締結される匿名組合契約に基づくF社以外の複数の投資家からの出資金によって調達すること、並びに本件航空機リース事業から生ずる損益をF社及びF社以外の複数の投資家に分配することを予定している(前文2)。
(C) 出資及び分配の合意(第1条)
 F社は、第2条ないし第4条の規定に基づき、本件航空機リース事業に出資することに合意し、G社は、第5条の規定に基づき、本件航空機リース事業から生ずる損益をF社に分配することに合意し、さらにF社は、かかる分配を受けることに合意する。
(D) 出資金の払込(第2条)
 F社は、本件航空機リース事業遂行のために、G社に対し○○○○ドル(以下「本件出資金」という。)を当初出資金として支払う(第1項)。
(E) 出資金の返還及び追加出資(第4条)
a 第2条及び本条第2項によって払い込まれた本件出資金は、第13条第2項に定める場合を除き、本件航空機リース事業が継続する限り返還されないものとする(第1項)。
b 第5条第1項に基づきF社に分配された損失累計額が出資金額を超過する場合、F社は当該超過額を負担する。ただし、F社によって負担されるべき超過額は、F社が書面により別途合意する場合を除いて○○○○ドルを限度とする。G社は、第5条第1項に基づき分配された損失累計額が出資金額を超過するか否かを問わず、G社が必要と認める場合、その必要に応じてF社に対して、○○○○ドルを限度として、追加出資を求めることができ、F社はこれに基づき速やかに追加出資を行うものとする(第2項)。
(F) 損益の分配(第5条)
a 本件航空機リース事業の結果として各計算期間中、G社に生じた利益又は損失は、本契約の定めに従いF社に対して出資金総額○○○○ドルに対して本件出資金(○○○○ドル)が有する割合(以下「出資割合」という。)に応じて分配されるものとする(第1項)。
b 本件航空機リース事業の損益は、日本国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して計算されるものとし、主としてG社に生じた以下のものから構成される(第2項)。
(a) 収益
1発生した本件航空機の賃貸料
2本件航空機の売却益(ただし、売却のための費用を控除する。)
3本件航空機の損害保険金その他の賠償金
4本件航空機リース契約(その後にリース契約が締結された場合は、かかるリース契約も含む。)の解約、期間満了時の支払金
5上記(A)のSupport Agreementに基づき受領する支払金
(b) 費用
1本件ローン契約上の発生利息その他の費用
2本件航空機の減価償却費
3本件航空機リース契約の管理委託費用
4本件航空機の購入、返還受領、回収、取戻及び売却等に関する費用(手数料を含む。)
5本件航空機の検査費用
6本件航空機リース事業又は本件航空機に関してG社に課される公租公課(ただし、G社に課される法人税等を除く。)
7本件航空機リース事業に関してG社に生ずるその他の費用(公認会計士費用、弁護士費用、事務委託費用及び各種手数料を含む。)
c 本件航空機リース事業に関して金銭の余剰がG社に生じた場合であっても、G社は、本件航空機リース事業が終了し第12条に基づいて清算を行うまで、これをG社に留保するものとする(第3項)。
(G) 匿名組合契約、営業者及び出資者の権限及び義務(第6条)
a 本契約は旧商法第535条における匿名組合契約であり、本契約におけるG社とF社との関係は、旧商法第3編第4章に定められた営業者と匿名組合員との関係である。ただし、本契約に明示の規定ある事項については、当該規定に従うものとする(第1項)。
b 本件出資金、本件航空機リース事業に関しG社が取得した資産及び権利はすべてG社に帰属するものとし、本契約に定める場合を除きF社はこれらに対し何の権利も有しない。したがって、F社は、直接又は間接を問わず本件航空機に対する物権的権利の主張や賃借人及び残価保証人に対する直接の法的請求その他の主張はしないものとする(第2項)。
c 本件航空機リース事業は、G社が自らの単独の裁量に基づいて開始、継続、終了、その他遂行するものであり、F社は、本件航空機リース事業のかかる遂行、運営に対していかなる形においても関与したり影響力を与えたりすることができないものとする(第3項)。
d G社は、自らが適当と判断する条件で本件航空機の取得、賃貸、管理、これに伴う資金の調達をし、本件航空機リース事業を開始及び終了させ、その他本件航空機リース事業の目的を達成するために必要又は有益と思われるすべての契約を締結し、また行為を行うことができる(第4項)。
(H) 会計(第10条)
a 本件航空機リース事業の計算期間は、毎年10月1日に開始し翌年9月30日に終了する各期間12か月の年1期とする。ただし、第1回会計報告は本件航空機リース事業開始の日から2001年(平成13年)9月30日までの計算期間に対して行うものとし、最終事業年度の会計報告は第12条の定めにより本件航空機リース事業が終了した日以降、最も早く到来する9月30日(本件航空機リース事業の終了した日を含む。)までの計算期間に対して行うものとする(第1項)。
b G社は、毎計算期間終了後60日以内に日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に準拠して、本件航空機リース事業の当該計算期間に関する会計報告(貸借対照表及び損益計算書を含む。)を作成し、これをF社に送付するものとする(第3項)。
(I) 本件航空機リース事業終了による契約の終了、清算(第12条)
a 本契約は、本件航空機リース事業の終了によって終了する(第1項)。
b 本件航空機リース事業は、本契約日(平成12年11月30日)に始まり以下の場合に終了する(第2項)。
(a) 本件航空機リース契約に規定される本件航空機のリース開始日から、基本リース期間が満了し、更に6か月が経過した場合
(b) 本件航空機の全損、滅失又は売却等によって本件航空機リース事業の継続が不可能となり、G社が本件航空機リース事業の終了をF社に通知した場合
(c) その他本件航空機リース事業を継続することが著しく困難な事態が生じ、G社がF社及びF社以外の複数の投資家に本件航空機リース事業の終了を通知した場合
c 第2項によって本契約が終了した場合は、G社は本件航空機リース事業の清算を行うものとする。その場合G社は本件航空機リース事業に属する財産を処分し、本件航空機リース事業に属する債務を弁済し、残余財産のうちF社の出資割合に応じた金額をF社に分配するものとする。ただし、当該残余財産分配額が本件出資金に不足する場合でも、F社は不足分の返還を求めることはできない(第3項)。
B 本件匿名組合契約地位譲渡契約
 本件匿名組合契約地位譲渡契約書には、要旨次のとおり記載されている。
(A) 契約上の地位の譲渡(第2条)
a F社は、請求人に対してF社が本件匿名組合契約により取得し、本契約日(平成13年3月1日)現在有する本件匿名組合契約上のすべての権利義務その他の本件匿名組合契約上の地位につき、F社が本件匿名組合契約に基づく出資完了時に有していた出資割合(○○○○分の○○○○)の○○○○分の○○○○に相当する分を譲渡する。譲渡の効力は、請求人が第4条に従って譲渡対価の全額の支払いを完了することを条件として、その時点で、平成12年11月30日(以下「実行日」という。)にさかのぼって生ずるものとする(第1項)。
b G社は、本条第1項記載の譲渡を承諾するものとする(第2項)。
c 本条による譲渡が本件匿名組合契約の計算期間の途中で行われた場合は、当該計算期間についての損益の分配は請求人に対してなされるものとする(第3項)。
(B) 匿名組合契約の適用(第3条)
a 第2条の譲渡によって、本件匿名組合契約の各条項は、第2条第2項及び第3条を除き実行日以降請求人についても「出資者」として有効に適用されるものとする。ただし、請求人については、本件匿名組合契約中「本件出資金」とあるところは、請求人の出資金○○○○ドル(請求人が追加出資を行った場合は、かかる追加出資金額を追加した金額)と読み替えるものとする(第1項)。
b 本件匿名組合契約第5条第1項中「出資者に対して、出資割合に応じて分配されるものとする。」とあるところは、「新出資者に対して、新出資者出資割合に応じて分配される。」と、本件匿名組合契約第4条第2項中「出資者によって負担されるべき超過額は、出資者が別途合意する場合を除いて○○○○ドルを限度とする。」とあるところは、「新出資者によって負担されるべき超過額は、新出資者が別途合意する場合を除いて○○○○ドルを限度とする。」と、また、同項中、「その必要に応じて、出資者に対して○○○○ドルを限度として」とあるところは、「その必要に応じて、新出資者に対して○○○○ドルを限度として」と、また、本件匿名組合契約第12条第3項中「残余財産のうち出資者の出資割合に応じた金額を出資者に分配するものとする。」とあるところは、「残余財産のうち新出資者出資割合に応じた金額を新出資者に分配するものとする。」と読み替えるものとし、また、その他、本件匿名組合契約中「出資割合」とあるところは、「新出資者出資割合」と読み替えるものとする(第2項)。
c 本契約と他のG社、F社及び他の出資者との間の契約上の地位譲渡契約は、各々完全独立の契約であり、他の契約上の地位譲渡契約の有効性及びG社と他の出資者との間の当該匿名組合契約又は本件航空機リース事業に関する関係は、本契約の有効性及びG社と請求人の関係に影響を及ぼさない(第4項)。
(C) 譲渡対価の支払(第4条)
 請求人は、第2条第1項記載の譲渡の対価を、以下のとおり、M銀行○○支店にあるF社名義の当座預金口座(口座番号:○○○○)にドル貨によって振り込むことによって支払うものとする(第1項)。

支払期日 平成13年7月12日
支払額  ○○○○ドル及び実行日から上記支払期日までの期間につき所定の金利による金利相当額である○○○○ドルの合計額

C G社から上記Aの(H)のb及びBの(B)のaに基づき請求人へ送付された本件各期間の会計報告書には、「匿名組合事業計算書類」として本件航空機リース事業に係る貸借対照表及び損益計算書が記載されるとともに、「匿名組合事業計算書類明細(ご参考)」として、上記損益計算書に記載された各金額に本件請求人出資割合を乗じて算出された金額が記載されており、その内容は要旨別表2のとおりである。
(ロ) 法令解釈
A 所得税法第26条第1項に規定する不動産所得は、いわゆる資産所得であり、不動産所得と事業所得の区別については、その所得の内容を吟味し、その所得がほとんど又は専ら不動産等を利用に供することにより生ずるものである場合には不動産所得であり、不動産の利用のほかに役務の提供が加わり、これらが一体となった給付の対価という性格をもつ場合には事業所得(又は場合により雑所得)であると解される。そうすると、個人が得た所得が不動産所得に該当するには、その個人がほとんど又は専ら不動産等を利用に供したことにより生じた所得であることが必要であると解される。
B 旧商法第535条では、匿名組合契約は、当事者の一方(匿名組合員)が相手方(営業者)の営業のために出資をし、相手方がその営業から生ずる利益を分配することを約することによりその効力が生ずる旨規定しており、匿名組合事業の利益又は損失とは、営業年度の開始時と終了時との財産額を比較した当該年度の営業による増額又は減額を意味し、利益の分配は、現実にされることを要するものと解される。
C 旧商法第536条第1項では、匿名組合員の出資は、営業者の財産に帰属する旨規定しており、匿名組合の出資財産は、営業者の財産に帰属し、営業者及び匿名組合員の共有財産となったり、営業者及び匿名組合員とは独立した法主体に帰属したりするものではないことから、匿名組合員は、任意組合の組合員の持分や合資会社の社員の持分のような意味での持分を有しないと解される。
D 旧商法第538条では、出資が損失の分担により減少しているときには、匿名組合員は、その補てんをした後でないと、利益の配当を請求することができない旨規定しており、匿名組合員が損失の分担をすることは、匿名組合の要素ではなく、損失の分担をするか否か、分担の割合を幾らにするかなどは、匿名組合契約において自由に定めることができ、損失の分担は、計算上のものであり、匿名組合員の出資が計算上その負担する損失の額だけ減少することを意味し、現実に財産を拠出して損失を補てんすることではないと解される。
(ハ) 判断
 前記1の(4)の基礎事実及び上記(イ)の認定事実を上記(ロ)の法令解釈に照らしてみると、次のとおりである。
A 旧商法上の匿名組合契約及び本件匿名組合契約について
 旧商法上の匿名組合契約は、1匿名組合員と営業者との両当事者間の契約であること、2匿名組合員は、営業者の営業のために出資をすること及び3営業者が営業から生ずる利益を匿名組合員に分配することを約することが匿名組合契約の効力を生じさせる要件となっているところ、請求人は、本件匿名組合契約地位譲渡契約により、F社より本件請求人出資持分を譲り受けるとともに、本件匿名組合契約に基づく匿名組合員となったもので、本件匿名組合契約は、上記(イ)のAの(G)のaのとおり、本件匿名組合契約書において旧商法上の匿名組合契約である旨規定するとともに、1前記1の(4)のイ及びハのとおり、本件匿名組合契約は、請求人を匿名組合の組合員としG社を匿名組合の営業者とする二当事者間の契約であること、2前記1の(4)のニのとおり、請求人は、G社の本件航空機リース事業のために○○○○ドルを出資していること及び3上記(イ)のAの(B)、(F)のa、(I)のc及びBの(B)のとおり、当該契約は、G社が本件航空機リース事業から生ずる損益を請求人に分配することを約した契約であることから、旧商法第535条に規定する匿名組合契約に該当するといえる。
B 本件匿名組合に係る損益の帰属及び所得区分等について
(A) 本件匿名組合契約及び本件匿名組合契約地位譲渡契約によりG社から請求人に配分される損益の内容を吟味すると、次のとおりである。
a 請求人は、営業者の事業遂行のために営業者であるG社に出資をし、上記(イ)のAの(C)のとおり、営業者であるG社が、H航空から本件航空機を購入してH航空に賃貸することによって生じる営業者の損益を、本件匿名組合の匿名組合員として配分を受けるものである。
b また、本件航空機は、上記(イ)のAの(G)のbのとおり、本件出資金、本件航空機リース事業に関しG社が取得した資産及び権利がすべてG社に帰属するものとし、本件匿名組合契約に定める場合を除き請求人はこれらに対し何の権利も有しないとされていることから、G社に所有権があり、請求人には帰属しない。
c その上、本件匿名組合契約の内部関係は、上記(イ)のAの(G)のc及びdのとおり、G社が業務を執行する権限を有しており、請求人は本件航空機リース事業の業務を執行する権限を有していない。
d 一方、本件匿名組合契約の外部関係は、旧商法第536条第2項及び上記(イ)のAの(G)のa及びbのことからすれば、第三者に対する権利・義務はG社に帰属し、請求人と第三者との間に法律関係はなく、請求人は第三者に対して個人的な賠償責任を負わない。
(B) これらのことからすれば、本件において、請求人が、自ら又はG社と共同して、主体的に本件航空機をH航空に賃貸していたとか、それによる収益の稼得や費用の負担を行っていたということはできず、本件匿名組合契約に基づいて営まれる本件航空機リース事業に係る収入及び費用は、請求人には直接帰属せずG社に帰属しているのであって、請求人は、本件航空機リース事業に対する単なる出資者という立場で、本件匿名組合契約に基づいてG社から損益の配分を受けるということになる。
(C) そうすると、G社から請求人に配分される損益は、G社への出資に対するものであって、請求人が不動産等を利用に供したことにより生じる所得であるとはいえないから、不動産所得には該当しないというべきである。
(D) また、請求人の本件匿名組合契約及び本件匿名組合契約地位譲渡契約に基づく出資行為は、継続かつ反復した行為とはいえず役務の提供を内容とするものではないから、事業所得とも認められない。
(E) したがって、G社から請求人に配分される損益は、G社への出資に対するもので、利子所得、配当所得、不動産所得、事業所得、給与所得、退職所得、山林所得、譲渡所得及び一時所得のいずれにも該当しないことから所得税法第35条第1項の規定により雑所得に該当する。
(F) また、前記1の(4)のホ及び上記(イ)のCのとおり、請求人が本件各年分の確定申告において本件航空機リース事業に係る不動産所得の損失としている金額は、別表2のとおり、G社から送付された本件各期間の会計報告書の記載に基づくものであって、本件航空機リース事業に係る損失について、本件匿名組合契約に基づき、請求人が分担するものとして本件請求人出資割合に応じて配分されたもの(以下「請求人に配分された損失」という。)であるところ、ここでいう損失とは、本件航空機リース事業の計算期間における本件匿名組合契約の財産の減少額のことであり、損失の分担があることによって、請求人のG社に対する出資額が計算上その分担する損失の額だけ減少することを意味しているにすぎず、現実の支払によってこれを補てんするものではない。
 すなわち、請求人に配分された損失は、現実の負担ではなく計算上のものであり、課税上は、本件各年分においていまだ確定しているとはいえないから、所得税法第35条第2項、同法第36条第1項及び同法第37条第1項の規定により請求人の本件各年分の雑所得とすべき金額はない。
C 請求人の主張
(A) 請求人は、匿名組合は契約によって創設された団体であり、また匿名組合員に監視権が認められていることからも、営業者と匿名組合員との関係では、共同的に企業を営むことを目的とするもので一つの企業形態というべきであり、共同企業性あるいは団体性から、営業者の損益がその出資割合に応じて匿名組合員に帰属する旨主張し、本件航空機リース事業に係る収入及び経費の総額に、本件請求人出資割合を乗じて算出した各金額を、請求人の本件各年分の不動産所得の総収入金額及び必要経費に算入している。
 しかしながら、旧商法第542条により準用される同法第153条及び同法第156条によれば、匿名組合員の監視権は、営業年度の終わりにおいて、貸借対照表の閲覧を求め、かつ営業者の業務や財産状況を検査できる権利でしかなく、匿名組合員は、会社の業務を執行し又は会社を代表することができないのであり、請求人には、上記Bの(A)のとおり、本件航空機の所有権もなければ業務執行権もなく、また、第三者への権利義務もなく、請求人は、本件航空機リース事業をG社と共同して営んでいるとは認められず、匿名組合契約に基づく事業は、営業者自らの事業となり、その事業の損益は営業者の損益と認識されるのであるから、本件匿名組合契約において、請求人に監視権があることだけをもって、G社の損益が本件請求人出資割合に応じて請求人に帰属すると認めることはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(B) 請求人は、匿名組合契約による匿名組合員の営業者に対する出資は、匿名組合員にとって資産であり、匿名組合契約に基づく組合事業に係る損益は、所得税法第12条の「実質所得者課税の原則」並びに同法第13条の「信託財産に係る収入及び支出の帰属」の規定により匿名組合員に帰属する旨主張する。
 しかしながら、所得税法第12条は、法律上の帰属者が単なる名義人である場合の規定であり、本件においては、出資金及び本件航空機リース事業に関してG社が取得した資産は、形式的にも実質的にもG社に帰属するものであって、その損益もG社に帰属するものであるから、所得税法第12条が適用されるものではない。
 また、請求人は、本件匿名組合契約及び本件匿名組合契約地位譲渡契約に基づいて本件航空機リース事業のために出資したのであって、当該出資金を信託財産としてG社へ信託する旨の信託契約を締結した事実も認められない以上、本件において所得税法第13条は適用されない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
(C) 請求人は、本件各更正処分は、平成17年12月改正後通達を適用したものであると思われるが、税務通達には匿名組合契約に基づく組合事業に係る損益を雑所得として課税する創造的な効力はなく、平成17年12月改正前通達の定めにより、G社から請求人に配分される損益は、G社の営業の内容に従い請求人の不動産所得(損失)である旨主張する。
 しかしながら、一般に、匿名組合契約は、商法が予定する典型的なもののみならず、多種多様な契約が存在することから、匿名組合員を営業者の共同事業者ととらえたり、又は単なる出資者若しくは投資家とみることが相当な場合もある。そこで、平成17年12月改正前通達は、匿名組合を区分して考え、匿名組合員が当該匿名組合の営業者から受ける利益の所得区分について、一律に取り扱わないことを定めていたものであって、平成17年12月改正前通達が「当該営業者の営業の内容に従い」所得区分を定めるとしていたために不明確となっていた所得区分を課税実務に基づいて整理し、明確にしたものが平成17年12月改正後通達であると認められる。
 そうすると、上記Bのとおり、匿名組合員が営業者の事業を共同して営む立場にない単なる出資者である場合に、当該匿名組合員が営業者から受ける利益の分配は、当該出資行為が組合員の事業と認めることができる場合を除き、出資に対する対価として雑所得に該当するのが相当であり、平成17年12月改正後通達は正当な解釈を示しているのであって、上記判断に基づく課税処理を行うことが、平成17年12月改正後通達によって新たに行われることになったとか、平成17年12月改正後通達に創造的効力を認めるということにはならない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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(2) 争点2 本件各更正処分は、信義則及び課税の公平の原則に違反するか否か。

イ 主張

請求人 原処分庁
(イ) 本件各更正処分は、昭和26年から公表されていた平成17年12月改正前通達に反する課税処分であり、長年の納税者の信頼を裏切ることになり信義則に違反する。
(ロ) 課税実務においては、長年、平成17年12月改正前通達に基づいて本件のような航空機リース事業については、その分配を受けた利益の額又は分担した損失の額は、当該匿名組合員の不動産所得に係る損益の額として取り扱われてきたものであり、日本中でN国税局だけが異なる判断を行っていることは課税の公平に反するものである。
(ハ) 請求人と同様な匿名組合契約を結んでいる別の個人は、不動産所得の損失の損益通算が認められ、請求人だけが認められなかったものであり、本件各更正処分は、平成17年12月改正前通達に反し遡及して課税されたものであるから、課税の上で、同様の状況にあるものは同様に、異なる状況にあるものは、状況に応じて異なって取り扱われるべきことを要求する平等取扱原則又は不平等取扱禁止原則(憲法第14条第1項)にも反することになる。
 本件各更正処分は、請求人には、本件匿名組合からいまだ分配されるべき利益の額がなく、また、実際に負担した損失の額もないことから、本件匿名組合に関して、請求人に帰属する収入すべき金額及び必要経費に該当するものはないとしたものであり、請求人のいう平成17年12月改正前通達の取扱いによる判断をするまでもなく、請求人の不動産所得は○○○○円となるとしたものであるから、信義則や、課税の公平(平等取扱原則又は不平等取扱禁止原則)に反していない。

ロ 判断
(イ) 法令等解釈
 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義則の法理の適用により、課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義則の適用については慎重でなければならず、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなおその課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて信義則の法理の適用の是非を考えるべきものであると解される。そして、上記の特別の事情の存在が認められるためには、少なくとも、1税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したこと、2納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したこと、3その後にその表示に反する課税処分が行われたこと、4そのために納税者が経済的不利益を受けることになったこと、5納税者が税務官庁のその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないことが必要であると解される。
(ロ) 判断
A 請求人は、本件各更正処分は、課税実務において、長年、平成17年12月改正前通達に基づいて、本件のような航空機リース事業については、その分配を受けた利益の額又は分担した損失の額は当該匿名組合員の不動産所得に係る損益の額として取り扱われてきたものであり、信義則に反する旨主張する。
 しかしながら、税務官庁が所得税の課税実務において、匿名組合に生じた損失が匿名組合の個人の組合員に帰属するとの公式見解を述べたとする事実や、本件のように単なる出資者としての立場にある匿名組合員の受ける利益の分配を、営業者の所得区分と同一の所得区分として画一的に課税処理を行うことが確立されているとする事実は認められず、本件各更正処分を違法なものとして取り消さなければならないとする租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなおその課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護すべき特別の事情が存するとは認められない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。
B 請求人は、N国税局だけが平成17年12月改正前通達に反し遡及して課税した本件各更正処分は、課税の公平の原則に反するとともに、請求人と同様な匿名組合契約を結んでいる別の個人は不動産所得の損失の損益通算が認められており、課税処理の上で、同様の状況にあるものは同様に、異なる状況にあるものは、状況に応じて異なって取り扱われるべきであるとする平等取扱原則又は不平等取扱禁止原則に反する旨主張する。
 しかしながら、仮に、請求人と同様な匿名組合契約を結んでいる別の個人は不動産所得の損失の損益通算が認められているとしても、上記(1)のロのとおり、本件各更正処分は適法であり、請求人に税法上格別不利益な結果を招来するものとはいえないから、そのことをもって課税の公平の原則(平等取扱原則又は不平等取扱禁止原則)に反するものということはできない。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

(3) 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件各更正処分は適法である。
 また、本件各賦課決定処分を含め、原処分のその他の部分については、当審判所の調査によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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