(平22.6.28、裁決事例集No.79)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が国外関連者に対し○○の製造・販売権を許諾し、その対価としてロイヤルティを収受する取引について、原処分庁が租税特別措置法第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項の規定を適用して法人税の更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を行ったのに対し、請求人が当該取引の価格は独立企業間価格であるから原処分は違法であるなどとして、その全部の取消しを求めた事案である。

(2) 審査請求に至る経緯

 請求人の平成13年4月1日から平成14年3月31日まで、平成14年4月1日から平成15年3月31日まで、平成15年4月1日から平成16年3月31日まで、平成16年4月1日から平成17年3月31日まで、平成17年4月1日から平成18年3月31日まで及び平成18年4月1日から平成19年3月31日までの各事業年度(以下、順次「平成14年3月期」、「平成15年3月期」、「平成16年3月期」、「平成17年3月期」、「平成18年3月期」及び「平成19年3月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税に関する審査請求(平成20年8月26日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。
 なお、別表1の平成20年6月30日付でされた本件各事業年度の法人税の各更正処分及び同日付でされた平成14年3月期から平成18年3月期までの過少申告加算税の各賦課決定処分を、それぞれ「本件各更正処分」及び「本件各賦課決定処分」といい、これらを併せて「本件各更正処分等」という。

(3) 関係法令等

イ 租税特別措置法(平成18年法律第10号による改正前のものをいい、以下「措置法」という。)第66条の4第1項は、法人が昭和61年4月1日以後に開始する各事業年度において、当該法人に係る国外関連者(外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式又は出資の総数又は総額の100分の50以上の数又は金額の株式又は出資を直接又は間接に保有する関係その他政令で定める特殊の関係にあるもの。)との間で資産の販売、資産の購入、役務の提供その他の取引(以下「国外関連取引」という。)を行った場合に、当該取引につき、当該法人が当該国外関連者から支払を受ける対価の額が独立企業間価格に満たないとき、又は当該法人が当該国外関連者に支払う対価の額が独立企業間価格を超えるときは、当該法人の当該事業年度の所得に係る法人税法その他法人税に関する法令の規定の適用については、当該国外関連取引は、独立企業間価格で行われたものとみなす旨規定している。
 また、同条第2項は、独立企業間価格とは、国外関連取引が次に掲げる取引のいずれに該当するかに応じて次に定める方法により算定した金額をいう旨規定している。
(イ) 棚卸資産の販売又は購入(同項第1号)
 次に掲げる方法(Dに掲げる方法は、AからCまでに掲げる方法を用いることができない場合に限り、用いることができる。)
A 独立価格比準法(同項第1号イ)
 特殊の関係にない売手と買手が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。
 なお、当該同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他に差異のある状況の下で売買した取引がある場合において、その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは、その調整を行った後の対価に相当する金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法も含まれる。
B 再販売価格基準法(同項第1号ロ)
 国外関連取引に係る棚卸資産の買手が特殊の関係にない者に対して当該棚卸資産を販売した再販売価格から通常の利潤の額(当該再販売価格に通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を控除して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。
C 原価基準法(同項第1号ハ)
 国外関連取引に係る棚卸資産の売手の購入、製造その他の行為による取得の原価の額に通常の利潤の額(当該原価の額に通常の利益率を乗じて計算した金額をいう。)を加算して計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法をいう。
D AからCまでに掲げる方法(以下「基本三法」という。)に準ずる方法その他政令で定める方法(同項第1号ニ)
(ロ) 棚卸資産の販売又は購入以外の取引(同項第2号)
 次に掲げる方法(Bに掲げる方法は、Aに掲げる方法を用いることがでない場合に限り、用いることができる。)
A 上記(イ)の基本三法と同等の方法(同項第2号イ)
B 上記(イ)のDに掲げる方法と同等の方法(同項第2号ロ)
ロ 租税特別措置法施行令(平成18年政令第135号による改正前のものをいい、以下「措置法施行令」という。)第39条の12《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項第1号は、措置法第66条の4第1項に規定する特殊の関係は、二の法人のいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の総数又は出資金額の100分の50以上の株式の数又は出資の金額を直接又は間接に保有する関係である旨規定している。
ハ 措置法施行令第39条の12第8項は、措置法第66条の4第2項第1号ニのその他政令で定める方法を規定しているが、同項第1号は、国外関連取引に係る棚卸資産の法人又は当該法人に係る国外関連者による購入、製造、販売、その他の行為に係る所得が、当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする方法(以下「利益分割法」という。)とする旨規定している。
ニ 租税特別措置法関係通達(平成14年3月期から平成16年3月期までについては、平成16年課法2−14による改正前のものを適用、以下「措置法通達」という。)66の4(2)−1《比較対象取引の意義》は、措置法66条の4第1項に規定する独立企業間価格の算定の基礎となる比較対象取引は、例えば、棚卸資産の販売又は購入の場合にあっては、国外関連取引を行った法人が非関連者(措置法第66条の4第6項に規定する非関連者をいう。以下同じ。)との間で行う取引又は非関連者が他の非関連者との間で行う取引のうち、次に掲げる算定の方法の区分に応じ、それぞれ次に掲げる取引となることに留意する旨定めている。
(イ) 独立価格比準法
 国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と同様の状況の下で売買した取引(当該取引と国外関連取引とにおいて取引段階、取引数量その他に差異のある状況の下で売買した場合には、その差異により生じる対価の額の差を調整することができるものに限る。)
(ロ) 再販売価格基準法
 国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を、非関連者から購入した者が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した取引(当該取引と国外関連取引とにおいて売手の果たす機能その他に差異がある場合には、その差異により生じる割合の差につき必要な調整を加えることができるものに限る。)
(ハ) 原価基準法
 国外関連取引に係る棚卸資産と同種又は類似の棚卸資産を、購入(非関連者からの購入に限る。)、製造その他の行為により取得した者が当該同種又は類似の棚卸資産を非関連者に対して販売した取引(当該取引と国外関連取引とにおいて売手の果たす機能その他に差異がある場合には、その差異により生じる割合の差につき必要な調整を加えることができるものに限る。)
ホ 措置法通達66の4(2)−2《同種又は類似の棚卸資産の意義》は、「同種の棚卸資産」又は「同種又は類似の棚卸資産」とは、国外関連取引に係る棚卸資産と性状、構造、機能等の面において、同種又は類似である棚卸資産をいう旨定めている。
 ただし、これらの一部について差異がある場合であっても、その差異が独立価格比準法の場合の対価の額又は再販売価格基準法及び原価基準法における通常の利益率の算定に影響を与えないと認められるときは、同種又は類似の棚卸資産として取り扱うことができる旨定めている。
ヘ 措置法通達66の4(2)−3《比較対象取引の選定に当たって検討すべき諸要素》は、比較対象取引に該当するか否かについては、例えば、次に掲げる諸要素の類似性に基づき判断することに留意する旨定めている。
(イ) 棚卸資産の種類、役務の内容等
(ロ) 取引段階
(ハ) 取引数量
(ニ) 契約条件
(ホ) 取引時期
(ヘ) 売手又は買手の果たす機能
(ト) 売手又は買手の負担するリスク
(チ) 売手又は買手の使用する無形資産
(リ) 売手又は買手の事業戦略
(ヌ) 売手又は買手の市場参入時期
(ル) 政府の規制
(ヲ) 市場の状況
ト 措置法通達66の4(4)−1《利益分割法の意義》は、措置法施行令第39条の12第8項第1号に掲げる利益分割法は、原則として、国外関連取引に係る棚卸資産の販売等により法人及び措置法66条の4第1項に規定する国外関連者に生じた営業利益の合計額(以下「分割対象利益」という。)を措置法施行令第39条の12第8項第1号に規定する要因により分割する方法をいうことに留意する旨定めている。
 また、措置法通達66の4(4)−2《分割要因》は、利益分割法の適用に当たり、分割対象利益の配分に用いる要因は、国外関連取引の内容に応じ法人又は国外関連者が支出した人件費等の費用の額、投下資本の額等これらの者が当該分割対象利益の発生に寄与した程度を推測するにふさわしいものを用いることに留意し、当該要因が複数ある場合には、それぞれの要因が分割対象利益の発生に寄与した程度に応じて合理的に計算するものとする旨定めている。
チ 措置法通達66の4(4)−5《残余利益分割法》は、利益分割法の適用に当たり、法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合には、分割対象利益のうち重要な無形資産を有しない非関連者間取引において通常得られる利益に相当する金額(以下「基本的利益」という。)を当該法人及び国外関連者それぞれに配分し、当該配分した金額の残額(以下「残余利益」という。)を当該法人又は国外関連者が有する当該重要な無形資産の価値に応じて、合理的に配分する方法(以下「残余利益分割法」という。)により独立企業間価格を算定することができる旨定めている。なお、この場合、当該重要な無形資産の価値による配分を当該重要な無形資産の開発のために支出した費用等の額により行っている場合には、合理的な配分としてこれを認める旨定めている。
リ 措置法通達66の4(6)−1《同等の方法の意義》は、措置法第66条の4第2項第2号イ及びロに規定する「同等の方法」とは、有形資産の貸借取引、金銭の貸借取引、役務提供取引、無形資産の使用許諾又は譲渡の取引等、棚卸資産の売買以外の取引において、それぞれの取引の類型に応じて同項第1号に掲げる方法に準じて独立企業間価格を算定する方法をいう旨定めている。
ヌ 措置法通達66の4(6)−6《無形資産の使用許諾等の取扱い》は、無形資産の使用許諾又は譲渡の取引について、独立価格比準法と同等の方法を適用する場合には、比較対象取引に係る無形資産が国外関連取引に係る無形資産と同種であり、かつ、比較対象取引に係る使用許諾又は譲渡の時期、使用許諾の期間等の使用許諾又は譲渡の条件が国外関連取引と同様であることを要することに留意する旨定めている。
ル 平成13年6月1日付国税庁事務運営指針「移転価格事務運営要領の制定について」の2−12《無形資産の形成、維持又は発展への貢献》は、無形資産の使用許諾取引等について調査を行う場合には、無形資産の法的な所有関係のみならず、無形資産を形成、維持又は発展(以下「形成等」という。)させるための活動において法人又は国外関連者の行った貢献の程度も勘案する必要があることに留意することとし、無形資産の形成等への貢献の程度を判断するに当たっては、当該無形資産の形成等のための意思決定、役務の提供、費用の負担及びリスクの管理において法人又は国外関連者が果たした機能等を総合的に勘案する旨定めている。

(4) 基礎事実

 以下の事実は、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和15年○月に設立された法人で、1○○及び○○(製品W、製品Y)、2製品J用○○及び○○(製品W、製品X、製品Y、)、3○○及び製品J○○等の製造・販売業を営んでいる。
ロ G社は、P国を本店所在地とする法人であり、請求人が発行済株式の総数の70%を保有することから、措置法施行令第39条の12第1項第1号の規定により、請求人の国外関連者に該当する。
 なお、G社の残りの発行済株式の総数の30%を保有するH社(請求人にとっては非関連者である。)は、P国に本店所在地を有する法人であり、請求人から製造委託を受け製品Wの製造を行っている。
ハ 請求人は、国外関連者であるG社との間で、次のとおり、製品W等の○○をP国において製造及び販売する権利を付与する契約をそれぞれ締結し、ロイヤルティ収入を得ている(以下、当該ロイヤルティ収入を得る取引を「本件国外関連取引」という。)。各契約の内容は、それぞれ要旨次のとおりである。
(イ) 平成10年4月16日付の製品Wの独占的販売に関する契約
A 請求人は、G社に対し、製品WをP国において独占的に販売できる権利を与える。
B G社は、原則として、H社から製品Wを直接購入する。
C G社は、本契約の有効期間中、請求人に対し販売権の対価として製品Wの販売価格の○%(○○を含む。)を支払う。
D 本契約は、締結の日から効力を生じ、請求人又はG社のいずれか一方が解約を申し出ない限り存続する。
 なお、請求人とG社は、平成11年11月1日付で上記契約を変更する覚書を締結し、平成12年1月1日以降、上記Cの製品Wに係るロイヤルティ料率を製品W1及び製品W2については○%、製品W3については○%に変更した。
(ロ) 平成10年10月8日付の製品X及び製品Yの独占的製造及び販売に関する技術ライセンス契約
A 請求人は、G社に対し、特許及び技術情報(機密とされる重要なノウハウを含む。)に基づき、当該契約期間中、製品X及び製品YをP国内で製造、使用及び販売するための独占的ライセンスを付与する。
B 請求人は、G社との間で別途合意する条件に基づき、技術者の派遣を含む特許及び技術情報の効率的使用のための技術援助を行うことができる。
C G社は、本契約に基づき、請求人に対しP国で製造及び販売された製品Y(P国特許に基づくもの)につき売上高の○%、その他の製品(その他の製品Y及び製品X1)につき売上高の○%の割合で計算したロイヤルティを請求人に支払う。
D 本契約は、当事者間で別途合意されない限り、締結日から株主である請求人とH社との間のG社の出資及び経営に関する契約の有効期間中、効力を有する。
ニ 請求人は、Q国を本店所在地とする非関連者であるM社及びN社との間で、平成15年8月1日付で製品W等の○○をQ国において製造及び販売する権利を付与する実施許諾契約を締結し、ロイヤルティ収入を得ている。契約の内容は、要旨次のとおりである。
(イ) 請求人は、M社に対し、特許及び技術情報(ノウハウ等を含む。)に基づき、製品W、製品X及び製品YをQ国内において非独占的に製造、販売できる権利を許諾する。
(ロ) 請求人は、N社に対し、M社により製造された製品W、製品X及び製品YをQ国内において非独占的に販売できる権利を許諾する。
(ハ) M社及びN社は、本契約に基づき請求人から許諾された本技術の実施権の対価として、純売上金額に次の割合を乗じて計算した対価を請求人に支払う。
A 製品W1及び製品Y1(Q国特許に基づくもの)
(A) 実施報告期間の販売量○○トン/月以下の部分 ○%
(B) 実施報告期間の販売量○○トン/月超の部分  ○%
B 製品W2  ○%
C 製品X2  ○%
(ニ) 本契約の有効期間は、本契約締結日から10年間とする。
ホ 本件各更正処分の内容
 原処分庁が、措置法第66条の4第1項を適用して行った本件各更正処分の内容は、要旨次のとおりである。
(イ) 独立企業間価格の算定方法
 原処分庁は、本件国外関連取引について、残余利益分割法を適用して独立企業間価格を算定した。
 なお、残余利益分割法の適用に当たり、請求人の本件各事業年度に対応するG社の事業年度は平成13年1月1日から平成13年12月31日まで、平成14年1月1日から平成14年12月31日まで、平成15年1月1日から平成15年12月31日まで、平成16年1月1日から平成16年12月31日まで、平成17年1月1日から平成17年12月31日まで及び平成18年1月1日から平成18年12月31日までの各事業年度(以下、順次「G社平成13年12月期」、「G社平成14年12月期」、「G社平成15年12月期」、「G社平成16年12月期」、「G社平成17年12月期」及び「G社平成18年12月期」という。)である。
(ロ) 残余利益分割法による独立企業間価格の算定
A 分割対象利益の額
 本件国外関連取引から生じた、1請求人のロイヤルティ収益(ロイヤルティ収入の額からこれに係る費用の額を控除した金額)と2G社の営業利益の合計額(本件国外関連取引に係る請求人とG社のそれぞれの損益を切り出した上で合計したもの)を分割対象利益の額とした。
B 基本的利益の額
 請求人及びG社が重要な無形資産を有しない非関連者間取引において通常得られる利益の額を基本的利益の額とした。
C 残余利益の配分計算
(A) 残余利益の額
 分割対象利益の額から請求人及びG社の基本的利益の額を控除した金額を残余利益の額とした。
(B) 重要な無形資産の価値を表す分割指標
a  請求人の分割指標
 原処分庁は、請求人が有する重要な無形資産を、1G社に大口顧客網を承継後のその維持、拡大に貢献した品質管理ノウハウ及び2評価相談・カスタマイズ製品開発等の技術ノウハウとした。そして、請求人の分割指標(残余利益分割法において重要な無形資産の価値を示す指標。以下「分割指標」という。)は、1については、請求人の○○室、○○部、○○部、○○部等の各部署の本件国外関連取引に係る人件費及びP国出張旅費の合計額から基本的利益に対応する部分の額を控除した金額とし、2については、研究開発費を構成する○○材料開発一部、同二部及び同三部(以下、これらを併せて「○○材料開発部」という。)の人件費、減価償却費及び消耗品費(以下、これらを併せて「人件費等」という。)のうちP国の○○事業に係る費用の合計額とした。
(a) 上記1の分割指標の算出方法
 請求人の上記各部署の本件国外関連取引に係る人件費及びP国出張旅費の合計額×(1−分割対象利益の額に占める基本的利益の額の割合)
(b) 上記2の分割指標の算出方法
 請求人の○○材料開発部の人件費等の合計額×請求人の連結○○売上に占めるG社の○○売上の割合
b  G社の分割指標
 原処分庁は、G社が有する重要な無形資産を、大口顧客網の維持拡大に貢献した、1G社が独自に醸成した生産管理ノウハウ、2販売促進企画ノウハウ及び3販売価格低減実現のための製造設備設計・改良ノウハウとした。そして、G社の分割指標は、G社の営業及び製造部門を統括する責任者といえる立場にある者の年間人件費から基本的活動に対応する人件費相当額としてP国における○○原材料製造業の平均人件費の額(請求人から提出されたP国政府の統計データによるもの)を控除した金額(以下、この方法により算出した額を「超過人件費」という。)とした。
(C) 残余利益の額の配分
 請求人及びG社の分割指標に基づき、残余利益の額を請求人及びG社に配分した。
D 独立企業間価格
 請求人に帰属する基本的利益の額、残余利益の額、基本的利益に係る総費用の額及びロイヤルティ収入に係る総費用の額の合計額を本件国外関連取引に係る独立企業間価格とした。
(ハ) 国外移転所得金額の算定
 原処分庁は、本件国外関連取引に係るロイヤルティ収入の額と独立企業間価格との差額(以下「国外移転所得金額」という。)を請求人の所得金額に加算した。

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2 争点

 本件の争点は、以下の3点である。
(1) 争点1 独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法を適用したことの適否
(2) 争点2 残余利益分割法の適用において請求人の分割指標に○○材料開発部の人件費等を含めたことの適否
(3) 争点3 残余利益分割法の適用においてG社の分割指標とした人件費(対象者の範囲)の適否

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3 主張

(1) 争点1(独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法を適用したことの適否)について

イ 原処分庁
 次のとおり、本件国外関連取引に対して基本三法と同等の方法を用いることはできないから、原処分庁が上記1の(3)の関係法令等に基づき、残余利益分割法を用いて独立企業間価格を算定し、本件各更正処分等を行ったことは適法である。
(イ) 独立価格比準法と同等の方法の適用について
 上記1の(4)のニの請求人とM社及びN社との取引(以下「本件比較対象取引」という。)は、別表2のとおり、本件国外関連取引と使用許諾に係る1開始時期、2期間、3使用許諾条件、4技術者派遣の有無及び5販売地域について、客観的に明らかな差異があり、その程度も無視できるものではなく、しかも、これらの差異は相互に影響を及ぼし合うもので調整することはできないから、これを比較対象取引として独立価格比準法と同等の方法を適用することはできない。
 請求人は、原処分庁は上記差異が独立企業間価格に影響を及ぼす客観的な根拠を示していないと主張するが、使用許諾に係る開始時期、期間、市場における独占性、技術者派遣の有無、市場の違いといった差異については、一般的に、1後発的に市場へ参入する企業の利益率が低くなるものであること、2期間の長短は許諾する側の収益の機会確保に影響するものであること、3市場において独占性があれば使用を許諾された側で高い収益を確保できるために高い料率となると考えられること、4技術者派遣という役務提供の有無は料率に影響すること及び5市場によって需要の違いがあることなどから、これらの差異が独立企業間価格に影響を及ぼすことは客観的に明らかである。
(ロ) 残余利益分割法の適用について
 原処分庁は、本件国外関連取引について、本件比較対象取引による独立価格比準法と同等の方法の適用も含め、基本三法と同等の方法の適用可能性を十分に検討するとともに請求人に対しその説明を行い、また質問や意見を作成するための十分な時間及び機会を与えた上で残余利益分割法を適用したものである。
ロ 請求人
 本件国外関連取引については、次のとおり、独立企業間価格の算定方法として独立価格比準法と同等の方法によって検証を行うことにより国外移転所得金額が生じないことを確認できるにもかかわらず、原処分庁が十分な検証及び説明を行わないまま残余利益分割法を用いて独立企業間価格を算定し、本件各更正処分等を行ったことは違法である。
(イ) 独立価格比準法と同等の方法の適用について
 本件比較対象取引は、別表2の1欄から3欄までのとおり、本件国外関連取引と使用許諾に係る製品種別及び技術が同種であり、また、別表2の4欄から8欄までのとおり、契約書上、1開始時期、2期間、3使用許諾条件、4技術者派遣の有無及び5販売地域に差異はあるものの、実質的に同様の状況にあるか、当該差異がロイヤルティ率に影響を及ぼすと結論付ける合理的な理由はないから、これを比較対象取引として独立価格比準法と同等の方法を適用することができる。
 また、原処分庁は、本件国外関連取引と本件比較対象取引との使用許諾条件等について、客観的に明らかな差異があり、その程度も無視できるものではないと認められると述べるのみで、当該差異が独立企業間価格に影響を及ぼす客観的な根拠を示していない。
(ロ) 残余利益分割法の適用について
 原処分庁は、本件国外関連取引について、本件比較対象取引による独立価格比準法と同等の方法の適用可能性についての十分な検討及び説明を行わないまま残余利益分割法を適用した。

(2) 争点2(残余利益分割法の適用において請求人の分割指標に○○材料開発部の人件費等を含めたことの適否)について

イ 原処分庁
 ○○材料開発部の担当者は、○○の研究開発に従事しているほか、G社やP国の顧客を訪問し、G社が取り扱っている○○の評価、問題の把握・対応などの技術営業活動を行っており、これにより顧客販売網の維持・発展を通じ、利益の獲得に貢献している。この技術営業活動は、日々継続的に行われている研究開発活動の成果を活用しながら、顧客からの性能評価等に対応し、製品の改良等を行うものであり、毎期発生している○○材料開発部の人件費等の額によりその期における利益の額を計算することは合理的である。
 したがって、無形資産の価値の形成等に貢献している○○材料開発部の人件費等を請求人の分割指標に含めることは合理的である。
ロ 請求人
 次のとおり、請求人の○○材料開発部は無形資産の価値の形成等に貢献しておらず、○○材料開発部の人件費等を請求人の分割指標に含めるべきではない。
(イ) ○○材料開発部は、本件各事業年度においてG社がP国で取り扱っている○○の開発を行っていない。
(ロ) 原処分庁は、○○材料開発部の担当者がG社のためにP国の顧客に対し技術営業活動を行っていると主張するが、ごくまれにG社の営業活動に必要な場合に製品データを提供することはあるものの、G社が販売する○○のために行っている活動はほとんどない。

(3) 争点3(残余利益分割法の適用においてG社の分割指標とした人件費(対象者の範囲)の適否)について

イ 原処分庁
 G社が有する重要な無形資産の分割指標として、G社のP国人の営業及び製造部門を統括する責任者といえる立場にある者として別表3のとおり7名を選定し、これらの者に係る超過人件費を使用した。
 G社のP国人の営業及び製造部門を統括する責任者が無形資産の価値の形成等に貢献していると考え、これらの超過人件費を分割指標とすることは合理的である。
ロ 請求人
 次のとおり、G社の分割指標に誤りがあり、残余利益の配分が正しく計算されていない。
(イ) G社の分割指標となる超過人件費の範囲について、原処分庁は、G社のP国人の営業及び製造部門を統括する責任者といえる立場にある者7名を選定して分割指標を計算しているが、次の6名もその職務内容等からして重要な無形資産の価値の形成等に貢献しているため、これらの者の超過人件費も分割指標に加えるべきである。

営業二課 g
営業二課 h
P国事務所 i
V工場・総務課 j
V工場・総務課 k
V工場・総務課 m

(ロ) また、別表3にあるnに関しては、P国事務所副課長として勤務した期間(平成18年2月以降)の超過人件費のみを重要な無形資産の価値の指標としているが、P国事務所の業務主任のころから営業部門の主力メンバーとして無形資産の価値の形成等に貢献していることから、当該期間(平成16年3月以降)に係る超過人件費も分割指標に含めるべきである。

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4 判断

(1) 争点1(独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法を適用したことの適否)について

 原処分庁が、本件国外関連取引に対し、独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法を適用したことの適否について争いがあるので判断する。
イ 法令解釈
(イ) 独立価格比準法と同等の方法の適用
 措置法第66条の4第2項第1号は、棚卸資産の販売又は購入取引について独立価格比準法を適用する場合の独立企業間価格は、非関連者が、国外関連取引に係る棚卸資産と同種の棚卸資産を当該国外関連取引と取引段階、取引数量その他が同様の状況の下で売買した取引の対価の額(取引条件等に差異のある場合において、その差異により生じる対価の額の差を調整できるときは、その調整を行った後の対価の額を含む。)に相当する金額としている。
 これを無形資産の使用許諾取引に係る国外関連取引に適用される独立価格比準法と同等の方法に引き直すと、非関連者間において、比較対象取引に係る無形資産が国外関連取引に係る無形資産と同種のもの(相当程度の類似性があるもの)で、かつ、比較対象取引に係る使用許諾の時期、使用許諾の期間等の使用許諾の条件が検証対象となる国外関連取引と同様であることを要するもの(比較対象取引に係る使用許諾の時期、使用許諾の期間等の使用許諾の条件が、検証対象となる国外関連取引と差異がある場合には、その差異により生じる対価の額の差を調整できる場合を含む。)と解される。
(ロ) 残余利益分割法の適用
 措置法第66条の4第2項第2号は、棚卸資産の販売又は購入以外の取引の場合の独立企業間価格の算定方法につき、同号ロに規定する基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法は、同号イに規定する基本三法と同等の方法を用いることができない場合に限り、用いることができる旨規定している。
 したがって、独立企業間価格の算定に当たっては、まず、基本三法と同等の方法の適用を検討する必要があり、基本三法に準ずる方法その他政令で定める方法と同等の方法の一つの方法である残余利益分割法は、基本三法と同等の方法を用いることができない場合に限り、適用できることとなる。
(ハ) 残余利益分割法による独立企業間価格の算定
 措置法施行令第39条の12第8項第1号は、利益分割法について、国外関連取引に係る棚卸資産の法人又は当該法人に係る国外関連者による購入、製造、販売、その他の行為に係る所得が、当該棚卸資産に係るこれらの行為のためにこれらの者が支出した費用の額、使用した固定資産の価額その他これらの者が当該所得の発生に寄与した程度を推測するに足りる要因に応じて当該法人及び当該国外関連者に帰属するものとして計算した金額をもって当該国外関連取引の対価の額とする旨規定している。
 そして、措置法通達66の4(4)−5は、利益分割法の適用に当たり、法人又は国外関連者が重要な無形資産を有する場合には、分割対象利益のうち基本的利益を当該法人及び国外関連者それぞれに配分し、当該配分した金額の残額である残余利益を当該法人又は国外関連者が有する当該重要な無形資産の価値に応じて合理的に配分する方法、すなわち残余利益分割法により独立企業間価格を算定することができるとしており、この取扱いは当審判所においても相当と認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 本件国外関連取引及び本件比較対象取引の概要
 請求人とG社との間の契約及び覚書(上記1の(4)のハの(イ))、請求人とG社との間の技術ライセンス契約(上記1の(4)のハの(ロ))並びに請求人とQ国のM社及びN社との間の実施許諾契約(上記1の(4)のニ)によれば、本件国外関連取引及び本件比較対象取引の概要は別表2のとおりであり、1使用許諾開始時期、2使用許諾期間、3独占的許諾か非独占的許諾かの使用許諾条件、4使用許諾に伴う技術者派遣の有無及び5使用許諾された販売地域において、契約上も実態上も使用許諾条件の違いが認められる。
 なお、本件国外関連取引と本件比較対象取引において、使用許諾に係る製品種別及び技術という無形資産が同種であることについて両当事者間に争いはない。
(ロ) 独立価格比準法と同等の方法についての検討
A 内部比較対象取引の検討
 平成20年2月19日に原処分庁が請求人に交付した「移転価格討議資料の別紙6:貴社と他社との無形資産使用に係る契約一覧」と題する書面によれば、原処分庁は、請求人が非関連者と行っている無形資産の使用に係る19件の契約(本件比較対象取引を含む。)について、それぞれの1契約相手方、2契約日、3契約名、4契約内容、5類似性(無形資産、時期、市場、排他性、期間に細分)等の内容を分析し、独立価格比準法と同等の方法の適用の可否を検討したが、そのいずれについても類似性がないと判断したことが認められる。
B 外部比較対象取引の検討
(A) 平成21年3月5日付で原処分庁から当審判所に提出された「日本の外部コンパラ選定過程説明」と題する書面によれば、原処分庁が次のように外部比較対象取引の選定作業を行った事実が認められる。
a  T社発行の「○○○○」に登載されている301社を外部比較対象取引の母集団として選定した。
b  上記aの301社から、取扱製品として製品Z1、製品Z2、同関連製品の記載がある法人17社を抽出した。
c  上記bの17社から、請求人及び売上規模の小さい1社(合計2社)を除外し、対象を15社(うち1社は事業内容から対象を当該法人の子会社に変更)とした。
d  上記cの15社に、請求人から聴取した3社を追加し、対象を18社とした。
e  この18社について、2社に対しては臨場し、残りの16社に対しては文書照会を行い、取引内容を把握した(文書照会のうち1社は協力が得られず、回答なし。)。
(B) 平成21年3月5日付で原処分庁から当審判所に提出された「外部コンパラの検討」と題する書面によれば、原処分庁は、上記(A)のeの回答があった17社について、それぞれの1○○又は製品J製造用関連材料の取扱いの有無、2製品Z1又は○○の取扱いの有無、3無形資産に係る使用許諾契約の有無、4受払区分、5関連者又は非関連者の区分、6相手国、7相手会社名、8許諾地域、9許諾内容、10料率、11当初契約年月及び12契約期間の内容を分析し、独立価格比準法と同等の方法の適用の可否を検討したが、いずれも、供与する無形資産の内容が本件国外関連取引と相違していること又は独占的許諾ではないことなどから、類似性がないと判断したことが認められる。
C 差異の調整についての検討
 平成20年2月19日に原処分庁が請求人に交付した「移転価格討議資料」と題する書面によれば、原処分庁は、次のとおり、上記Aの本件比較対象取引を含む無形資産取引について、許諾条件の差異等の要素を数値化することが困難であることなどから、差異を調整することはできず、比較可能性がないと判断したものと認められる。
(A) 独占的なライセンス契約の方が、非独占的なライセンス契約よりも料率が高く設定され、両者の間に収益の差が生じる蓋然性を否定できず、当該差異については合理的に調整することが困難であること。
(B) 市場が異なれば、競争状況、業界の市場規模、政府規制、取引の需給関係等の条件が異なり、これらの諸条件が市場収益率に影響を及ぼすことから、ライセンス契約に係る許諾地域は同一であることが望ましいが、同一でない場合の差異については、合理的な方法により調整できないこと。
(C) いずれの契約においても、無形資産の同種性、許諾条件の要素であると認められる1供与している無形資産、2契約時期、3市場、4排他性、5契約期間においてすべてに一致する取引はなく、これらの差異については、合理的な方法により調整できないこと。
(ハ) 再販売価格基準法と同等の方法及び原価基準法と同等の方法についての検討
 平成20年2月19日に原処分庁が請求人に交付した「移転価格討議資料の別紙5:(貴社主張)基本三法をなぜ用いないのか(法令適用関係について)」と題する書面によれば、原処分庁は、再販売価格基準法と同等の方法及び原価基準法と同等の方法の適用の可否についても検討したが、本件国外関連取引においては、比較可能な非関連者間取引がなく、これらの方法を適用することができないと判断したことが認められる。
(ニ) 原処分庁による基本三法と同等の方法の適用可能性についての検討
 上記(ロ)及び(ハ)のとおり、原処分庁は、内部比較対象取引及び外部比較対象取引について検討した上で、各取引について類似性が認められないと判断し、また取引条件等の差異についても無視できず、調整することはできないことなどから、基本三法と同等の方法は採用できないと判断した事実が認められる。
(ホ) 原処分庁による基本三法と同等の方法の適用可能性についての説明
 原処分庁及び請求人から当審判所に提出された次の書面によれば、平成19年9月18日から平成20年3月14日までの間、合計5回にわたり、原処分庁が請求人に対して、本件比較対象取引による独立価格比準法と同等の方法を含む基本三法と同等の方法の適用可能性に関して説明した事実が認められる。
A 原処分庁作成資料
(A) 「応接録(○○)」と題する書面
(B) 平成20年1月18日付の「移転価格調査討議資料:移転価格上の問題点について(暫定意見)」と題する書面
(C) 平成20年2月19日付の「移転価格討議資料」と題する書面
(D) 平成20年3月14日付の「移転価格討議資料:貴社の主張と当方の見解」と題する書面
B 請求人作成資料
(A) 「Meeting Memo」と題する書面
(B) 平成20年3月4日付の「平成20年1月18日受領の移転価格上の問題点について(暫定意見)における貴局の主張に対する意見書」と題する書面
 また、上記Aの(C)の書面に関しては、平成20年2月19日に、原処分庁が請求人に当該書面を交付した上で、独立価格比準法と同等の方法について、1P国の非関連者を対象とした内部比較対象取引を見出すことはできなかったこと、2請求人とG社との契約内容と請求人と非関連者との契約内容を比較した上で比較可能性がないこと、3外部比較対象取引の把握に努めたが把握できなかったこと、並びに4再販売価格基準法と同等の方法及び原価基準法と同等の方法はいずれも採用できないと結論付けたことを説明した事実が認められる。
(ヘ) 請求人及びG社が有する重要な無形資産
 原処分庁は、残余利益分割法を適用して独立企業間価格を算定するに当たり、請求人が有する重要な無形資産を、1G社に大口顧客網を承継後のその維持、拡大に貢献した品質管理ノウハウ及び2評価相談・カスタマイズ製品開発等の技術ノウハウとし、他方、G社が有する重要な無形資産を、大口顧客網の維持拡大に貢献した、1G社が独自に醸成した生産管理ノウハウ、2販売促進企画ノウハウ及び3販売価格低減実現のための製造設備設計・改良ノウハウとしているが、当審判所の調査によっても、請求人が○○の品質管理、開発等を通じ、また、G社が○○の製造及び販売を通じ、それぞれ無形資産の形成等に貢献していると認められることから、双方に重要な無形資産が存在すると認められる。
ハ 独立企業間価格の算定方法として残余利益分割法を適用したことの適否に関する判断
(イ) 独立価格比準法と同等の方法の適用
A 独立価格比準法と同等の方法の適用の適否
 請求人は、本件比較対象取引は、本件国外関連取引と使用許諾に係る製品種別及び技術が同種であり、また、使用許諾に係る条件に差異はあるものの、実質的に同様の状況にあるか、当該差異がロイヤルティ率に影響を及ぼすと結論付ける合理的な理由はないことから、これを比較対象取引として独立価格比準法と同等の方法を適用することができる旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)のとおり、無形資産の使用許諾取引について独立価格比準法と同等の方法を適用する場合、比較対象取引の選定に当たっては、使用許諾に係る無形資産が同種であり、かつ使用許諾の時期、使用許諾の期間等の使用許諾に係る条件が同様であることが要件であるところ、本件国外関連取引と本件比較対象取引については、上記ロの(イ)のとおり、使用許諾に係る無形資産は同種であるが、使用許諾に係る条件については、1使用許諾開始時期、2使用許諾期間、3独占的許諾か非独占的許諾かの使用許諾条件、4使用許諾に伴う技術者派遣の有無及び5使用許諾された販売地域という使用許諾に係る条件が契約上も実態上も明らかに異なっているものと認められる。
 そして、本件においては、1技術者派遣という役務(技術援助)の提供の有無、2独占的な使用許諾か非独占的な使用許諾かの相違、3使用許諾する期間に制限を設けるかどうかなど、使用許諾に係る条件の差異が明らかに認められ、これらの差異は独立企業間価格(ロイヤルティ率)に影響を及ぼすものであり、その差異による具体的な影響額を調整することもできないものと認められる。
 そうすると、本件比較対象取引を使用して独立価格比準法と同等の方法を適用することはできないというべきである。
B 請求人の主張について
 請求人は、原処分庁が本件国外関連取引と本件比較対象取引との使用許諾条件等について、客観的に明らかな差異があり、その程度も無視できるものではないと認められると述べるのみで、当該差異が独立企業間価格に影響を及ぼす客観的な根拠を示していないと主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、当審判所の判断によっても、使用許諾に係る条件の差異が明らかであり、その差異による影響額を調整することができないものと認められるところ、請求人が主張する本件比較対象取引は内部比較対象取引であり、請求人が使用許諾に係る条件の差異が独立企業間価格(ロイヤルティ率)に何ら影響を及ぼすものではないことを主張するのであれば、本件比較対象取引について最も詳細に把握している請求人自らが客観的な根拠によりその旨を説明すべきであるが、請求人が当審判所に対し提出した資料等には客観的なデータはなく、十分な説明とは認められない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ) 残余利益分割法の適用
A 残余利益分割法の適用の適否
 上記ロの(ロ)から(ニ)までのとおり、原処分庁は、内部比較対象取引及び外部比較対象取引の検討など独立価格比準法と同等の方法を含め基本三法と同等の方法の適用可能性について十分検討を行ったが、適切な比較対象取引を把握することができなかったと認められることから、本件国外関連取引に対して基本三法と同等の方法を適用することはできないというべきである。
 そして、本件においては、上記ロの(ヘ)のとおり、請求人及びG社の双方に重要な無形資産が存在すると認められることから、このような場合に原処分庁が独立企業間価格算定方法として残余利益分割法を適用して独立企業間価格を算定し、本件各更正処分等を行ったことには合理性が認められる。
B 請求人の主張について
 請求人は、原処分庁が本件国外関連取引について本件比較対象取引による独立価格比準法と同等の方法の適用可能性等についての十分な検討及び説明を行わないまま残余利益分割法を適用して本件各更正処分等を行ったことは、違法である旨主張する。
 しかしながら、原処分庁は、上記ロの(ロ)から(ニ)までのとおり、基本三法と同等の方法の適用可能性について十分な検討を行うとともに、上記ロの(ホ)のとおり、請求人に対し本件比較対象取引による独立価格比準法と同等の方法を含め基本三法と同等の方法を適用することができないことについて各種資料を提示し説明等を行っていると認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(2) 争点2(残余利益分割法の適用において請求人の分割指標に○○材料開発部の人件費等を含めたことの適否)について

 残余利益分割法の適用において「G社に大口顧客網を承継後のその維持、拡大に貢献した品質管理ノウハウ」が請求人が有する重要な無形資産であること並びに請求人の○○室、○○部、○○室及び○○部の人件費及びP国出張旅費の一部を分割指標とすることについては、当事者間に争いはなく、当審判所においても相当と認められる。
 しかしながら、「評価相談・カスタマイズ製品開発等の技術ノウハウ」を請求人が有する重要な無形資産として、○○材料開発部の人件費等のうちP国の○○事業に係る費用を請求人の分割指標とするか否かについて争いがあるので、この点について判断する。
イ 法令解釈
 措置法通達66の4(4)−5は、残余利益分割法の適用に当たり、重要な無形資産の価値による配分を当該重要な無形資産の開発のために支出した費用等の額により行っている場合には、合理的な配分としてこれを認める旨定めているところ、同通達の取扱いは、当審判所においても相当と認められる。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) ○○(製品J)の製造工程並びに製品Z1及び○○の関係
 請求人のホームページの「○○○○」及び平成21年12月21日に請求人から当審判所に提出された「○○(製品J)の製造プロセスと○○製品」と題する書面によれば、○○(製品J)の製造過程並びに製品W及び製品Xの使用工程は、次表のとおりであり、○○(製品J)の製造過程において、製品Z1及び○○は必要不可欠であり、かつ、密接な関係にあることが認められる。

  ○○(製品J)の製造工程 使用する材料
1 ○○上に製品Z1を○○ 製品Z1、製品Y
2 製品Z1を○○
3 ○○○○ 製品W
4 製品Z1のない部分を○○
5 7の工程のために製品Z1を○○ 製品Y
6 7の工程のために○○を○○
7 ○○を形成
8 アルミニウムや銅を使用して○○を形成
9 1から8までの工程を繰り返し、○○を形成

 なお、製品Xは、主として製品Jの製造に使用され、○○の製造にはほとんど使用されない。
(ロ) ○○材料開発部の業務内容
 平成21年12月21日に請求人から当審判所に提出された「年度別開発テーマ設定」と題する書面によれば、次の事実が認められる。
A ○○材料開発部は、年度によって組織及び開発テーマに若干変更があるものの、開発テーマは、1○○○○の開発、2○○周辺材料(○○)の開発、3○○用○○○○の開発、4○○材料の開発、5○○○用材料の開発、6パッケージ材料の開発及び7印刷材料の開発となっており、これらの研究開発が○○材料開発部の主な業務となっている。
B ○○材料開発部の業務には、研究開発業務以外に、下記(ハ)に記載したような○○製造用原材料や製造工程のトラブルや問題点について、その評価を行うとともにその対策方法や改善方法を研究し、顧客やユーザー(以下「顧客等」という。)に対して説明する業務も含まれている。
(ハ) ○○材料開発部に所属する者のP国における活動状況
 原処分庁から当審判所に提出された○○材料開発部に所属する者がP国に出張した際の「出張報告書」(平成20年2月21日、同月25日及び同月26日に請求人が原処分庁に提出したもの)によれば、次の事実が認められる。
A 平成17年2月15日から平成19年3月22日までの約2年間に同部に所属する者がP国に出張した実績は、別表4のとおりである。
B ○○材料開発部に所属する者は、P国の顧客等を227回、延べ362人が訪問している。
C 主な訪問目的別に訪問回数をみると、1請求人の製品の紹介や開発状況の説明などが76回(33.5%)、2○○(製品J)製造用原材料や製造工程のトラブルや問題点の対策・改善などが67回(29.5%)、3○○(製品J)製造用原材料の評価や製造工程の評価などが52回(22.9%)、4その他の打合せや講習会などが32回(14.1%)となっている。
D G社の営業担当者等が請求人の○○材料開発部に所属する者に同行して顧客等を訪問した回数は198回(87.2%)であり、延べ378人が同行して顧客等を訪問していた。このことから、請求人とG社は、共同して請求人及びG社の製品の紹介等を行うとともに、請求人及びG社の製品等のトラブル等に対しては、共同してその評価や対策・改善を行っていたことが認められる。
E 出張報告書によれば、227回の訪問回数のうち出張報告書に○○(製品W、製品X、製品Y)について記載があるものが61件(26.9%)存在する。
ハ 残余利益分割法の適用において請求人の分割指標に○○材料開発部の人件費等を含めたことの適否に関する判断
(イ) ○○材料開発部の人件費等を分割指標とすることの合理性
 上記ロの(イ)から(ハ)までの事実を整理すると、1○○(製品J)の製造過程において、製品Z1及び○○は密接な関係にあるといえること、2○○材料開発部の業務には、○○周辺材料(○○)の研究開発業務のみならず、顧客等の○○(製品J)製造用原材料や製造工程のトラブル等の評価、対策・改善が含まれること、3請求人とG社は、共同して請求人及びG社の製品の紹介等を行うとともに、請求人及びG社の製品等のトラブル等に対しては、共同してその評価や対策・改善を行っていたと認められること、4○○材料開発部はP国の顧客等に対して○○に関する説明、評価、対策等についても言及しており、○○に関する技術営業活動を行っていたと認められることから、○○材料開発部が請求人の重要な無形資産の形成等に貢献しているものと認められる。
 そうすると、原処分庁が、請求人の○○材料開発部の人件費等の一部を残余利益を配分する分割指標として用いたことには合理性が認められる。
(ロ) 請求人の主張について
 請求人は、○○材料開発部は、本件各事業年度においてG社がP国で取り扱っている○○の開発を行っておらず、また、G社が販売する○○のために○○材料開発部が行っている技術営業活動はほとんどないから、○○材料開発部の人件費等を請求人が有する重要な無形資産の価値の指標に含めるべきではない旨主張する。
 しかしながら、○○材料開発部は、上記ロの(ロ)及び(ハ)のとおり、○○の研究開発業務とP国における技術営業活動を行っており、請求人の重要な無形資産の形成等に貢献しているものと認められるから、請求人の主張は採用できない。

(3) 争点3(残余利益分割法の適用においてG社の分割指標とした人件費(対象者の範囲)の適否)について

 G社が有する重要な無形資産が、大口顧客網の維持拡大に貢献した、1G社が独自に醸成した生産管理ノウハウ、2販売促進企画ノウハウ及び3販売価格低減実現のための製造設備設計・改良ノウハウであること並びにG社の分割指標を重要な無形資産の形成等に貢献したと認められる者の超過人件費の合計額とすることについては、当事者間に争いはなく、当審判所においても相当と認められる。
 しかしながら、請求人は、原処分庁が重要な無形資産の形成等に貢献していると認定した者以外に、営業二課、P国事務所及びV工場総務課の7名も重要な無形資産の形成等に貢献しているとして、これらの者の超過人件費もG社の分割指標に加えるべきと主張していることから、G社の分割指標の対象とすべき者について判断する。
イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) G社の各部署の業務内容等及び無形資産の形成等への貢献
 平成21年4月10日付で請求人から当審判所に提出された「組織図6年分」、同年8月3日付で請求人から当審判所に提出された「G社の各部署の担当者の業務内容資料」と題する書面及び「P国国内における請求人、G社、H社の取引概要図」と題する書面、同年11月16日及び12月9日付で請求人から当審判所に提出された「回答書の3 G社(国外関連者)側の分割ファクター」並びに平成22年1月18日付で請求人から当審判所に提出された「回答書の4 p氏のP国事務所副所長の兼務割合」によれば、G社の各部署の業務内容及び従業員の配置状況は別表5のとおりであると認められる。
A G社の平成18年12月末現在の組織は、「○○」、「管理部」、「営業部」、「装置部」及び「V工場」から構成されており、管理部には「総務課」及び「会計課」を置き、営業部には「営業一課」、「営業二課」、「P国事務所」及び「業務課」を置き、装置部には「技術支援課」を置き、そして、V工場には「総務課」及び「製造課」を置いている。
 また、G社の従業員数は、平成13年12月末現在で21名、平成18年12月末現在で52名である。
B G社の組織のうち次表の「部署名」欄に掲げる「○○」、「営業部」及び「V工場」については、それぞれ次表の「業務内容」欄に掲げる業務を行っており、○○の営業業務及び製造業務に直接携わるこれらの部署がG社の重要な無形資産の形成等に貢献していると認められる。そして、V工場総務課は、品質管理、物流及び生産管理業務を行っており、これらの業務を通じて品質の維持・向上、物流コストの低減等に寄与していることから、重要な無形資産である「G社が独自に醸成した生産管理ノウハウ」の形成等に貢献していると認められる。
 なお、管理部(総務、会計)、営業部の業務課(営業関係の帳票取扱い)及び装置部(請求人が販売した機械装置のメンテナンス等)は、いわゆる総務、補助的業務等を行っており、これらの部署が重要な無形資産の形成等に貢献していないことについては、当事者間に争いはなく、当審判所においても相当と認められる。

部署名 業務内容
○○ 全体の統括、○○の補佐及び経営企画
営業部 営業一課、営業二課、P国事務所等の取りまとめ
  営業一課 ○○材料としての製品Z1の営業受託業務及び○○の販売業務
営業二課 製品J材料としての製品Z1及び○○の販売業務
P国事務所 P国南部の客先に関する管理業務
V工場 V工場の総務課及び製造課の取りまとめ
  総務課 総務、ISO(品質管理)、物流及び生産管理業務
製造課 製造業務

C G社の組織等の変遷について、次の事実が認められる。
(A) ○○にP国人が就任したのは、G社平成16年12月期からである。
(B) 営業部に課長職を置いたのは、G社平成13年12月期及びG社平成14年12月期のみである。
(C) P国事務所が開設されたのは、G社平成15年12月期である。
D pは、G社平成16年12月期及びG社平成17年12月期の本務は営業二課課長であり、P国事務所の副所長は兼務であった。一方、nは、G社平成16年12月期及びG社平成17年12月期の所属は営業二課となっているが、平成16年3月からの実際の勤務地はP国事務所であり、同所の営業担当の実質的な責任者として○○の営業活動にも従事していた。
 したがって、nは、平成16年3月からP国事務所の実質的な責任者であったと認められる。
E V工場総務課については、副課長であったkが同課に勤務したのはG社平成16年12月期のみ、副課長であったjも同課に勤務したのはG社平成17年12月期及びG社平成18年12月期のみである。これに対して、mは、唯一本件各事業年度にわたり、G社平成13年12月期からG社平成17年12月期までは主任、G社平成18年12月期は副課長としてV工場総務課に勤務しており、G社平成13年12月期からG社平成15年12月期までの間はV工場総務課には役職者(主任以上)としてはmしか勤務していなかった。
 したがって、G社平成13年12月期からG社平成15年12月期までのV工場総務課の実質的な責任者はmしか存在せず、また、k及びjの勤務がいずれも短期間であったことを考慮すると、G社平成16年12月期からG社平成18年12月期までの同課の実質的な責任者もmであったと認められる。
(ロ) 原処分庁がG社の分割指標の対象として選定した者及び分割指標の考え方
 原処分庁がG社の分割指標の対象として選定した者の役職及び氏名は、別表3のとおりであり、原処分庁は、G社の分割指標の対象としてP国人の営業及び製造部門を統括する責任者といえる立場にある者(役職にかかわらず実際に業務の責任者として担当している者を含む。)を選定した。この点について、平成21年11月30日付で原処分庁から当審判所に提出された「回答書」によれば、原処分庁は、特定の部署の責任者といえる者が重要な無形資産の形成等に貢献し、その指揮命令を受けるような者については重要な無形資産の形成等に貢献していないとの考え方に基づき分割指標の対象とすべき者を決定した事実が認められる。
 なお、分割指標については、無形資産の形成等に貢献している部分の人件費をとらえる必要があることから、対象として選定した者の超過人件費の合計額を分割指標としている。
(ハ) 請求人が追加すべきと主張する従業員の職務内容、経歴及び分割指標の対象とすべき理由
 平成21年5月27日付で請求人から当審判所に提出された「G社分割ファクターと主張する従業員の職務内容等」と題する書面及び同年12月9日付で請求人から当審判所に提出された「G社現地採用人材一覧表」と題する書面によれば、請求人が追加すべきと主張する従業員の職務内容、経歴及び分割指標の対象とすべき理由は、別表6のとおりである。
ロ 残余利益分割法の適用においてG社の分割指標とした人件費(対象者の範囲)の適否に関する判断
(イ) G社の有する重要な無形資産の分割指標についての考え方
A G社が有する重要な無形資産の形成等に貢献しているG社の部署は、その業務内容を検討すると上記イの(イ)のBの表に掲げる「○○」、「営業部」及び「V工場」の各部署であると認められる。
 V工場総務課については、原処分庁は重要な無形資産の形成等に貢献していないと判断したが、上記イの(イ)のBのとおり、品質管理、物流及び生産管理業務を通じ品質の維持・向上、物流コストの低減等に寄与していることから、重要な無形資産である「G社が独自に醸成した生産管理ノウハウ」の形成等に貢献していると認められる。
B G社のこれらの部署の分割指標の対象とすべき者は、本件国外関連取引に関係する業務(○○の製造業務及び販売業務)に従事し、かつ重要な無形資産の形成等に貢献している者となる。この点について、原処分庁は、特定の部署の責任者といえる者が重要な無形資産の形成等に貢献し、その指揮命令を受けるような者については重要な無形資産の形成等に貢献していないものとして対象とすべき者を決定しているが、そもそもG社自体の規模がそれほど大きくなく、課単位の人員はかなり少人数であること、ノウハウは企業活動における経験等を通じて形成されるものであることを考慮すると、原処分庁が採用した選定基準には合理性があると認められる。
C したがって、重要な無形資産の形成等に貢献したものとして、上記イの(イ)のBの表に掲げる各部署について、上記Bに記載した「特定の部署の責任者といえる者」を分割指標の対象として選定すべきであると認められる。
D なお、分割指標を、対象として選定した者の超過人件費とすることについては、当事者間に争いはなく、当審判所においても、無形資産の形成等に貢献しない基本的活動に対応する部分の人件費を排除し、無形資産の形成等に貢献している部分の人件費のみを分割指標とするという観点から、合理性はあると認められる。
(ロ) 審判所の認定する分割指標の対象とすべき者
 上記(イ)のAからCまでの考え方に基づくと、原処分庁が分割指標の対象とした者に加え、次のとおり、P国事務所のG社平成16年12月期及びG社平成17年12月期並びにV工場総務課のG社平成13年12月期からG社平成18年12月期までについて責任者といえる者を選定すべきこととなる。
A P国事務所については、上記イの(イ)のDのとおり、営業二課の業務主任であるnが平成16年3月からP国事務所に勤務し、同所の営業担当の実質的な責任者として○○の営業活動にも従事していたものと認められること。
B V工場総務課については、上記イの(イ)のEのとおり、請求人が追加すべきと主張する3名のうち、mが唯一本件各事業年度にわたって勤務しており、責任者の立場にあったと認められること。
  したがって、G社の分割指標の対象とすべき者は、別表7のとおりとなる。
(ハ) 原処分庁の主張について
 原処分庁は、重要な無形資産の形成等に貢献した者については、既にすべて対象としており、請求人が対象として追加することを主張する者については、分割指標の対象とすべきではない旨主張する。
 しかしながら、上記(ロ)のとおり、P国事務所のG社平成16年12月期及びG社平成17年12月期については、本来対象とすべきP国事務所の実質的な責任者であるnを対象としていなかったものであり、また、V工場総務課のG社平成13年12月期からG社平成18年12月期までについても、品質管理、物流及び生産管理業務を通じ品質の維持・向上、物流コストの低減等に寄与しているV工場総務課の実質的な責任者であるmを対象としていなかったものであるから、これらの者を分割指標の対象とすべきである。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
(ニ) 請求人の主張について
 請求人は、営業二課のg、n、h、P国事務所のi、V工場総務課のj、k及びmの7名についても、G社の分割指標の対象とすべき旨主張する。
 n及びmについては、上記(ロ)のとおり分割指標の対象に追加すべきであるが、それ以外の5名は次の理由により、分割指標の対象に追加することは認められない。
A 本件各事業年度において、営業二課所属の人員は最大で6人、P国事務所所属及びV工場総務課所属の人員は最大で3人であり、いずれの部署も組織自体それほど大きくなく、既に責任者といえる立場にある者1名を分割指標の対象としていること。
B 請求人が分割指標の対象とすべきと主張している者については、請求人から分割指標の対象とすべき理由について、具体的かつ説得力のある説明がなく、各部署に2名以上の者を分割指標の対象とすることに理由がないこと。

(4) 本件各更正処分について

イ 平成14年3月期から平成18年3月期までに係る更正処分
 本件各更正処分のうち平成14年3月期から平成18年3月期まで(以下「本件各対象事業年度」という。)に係る更正処分については、次のとおりである。
(イ) 本件各対象事業年度の国外移転所得金額等
 上記(3)のロに記載した当審判所の判断に基づき、原処分庁が計算したG社の分割指標の額、独立企業間価格及び国外移転所得金額を再計算すると次のとおりである。
A 本件各対象事業年度のG社の分割指標の額
 本件各対象事業年度のG社の分割指標の額を再計算すると、それぞれ別表8のとおりとなる。
B 本件各対象事業年度の独立企業間価格及び国外移転所得金額
 上記Aに基づき、本件各対象事業年度の国外関連取引に係る独立企業間価格及び国外移転所得金額の正当額を計算すると、それぞれ別表9の「独立企業間価格」31欄及び「国外移転所得金額」32欄のとおりとなる。
(ロ) 本件各対象事業年度の所得金額及び法人税額
 上記(イ)に基づき、本件各対象事業年度の課税所得の金額及び法人税額を計算すると次のとおりである。
A 本件各対象事業年度の課税所得の金額
 本件各対象事業年度の課税所得の金額を計算すると、それぞれ別表10の「課税所得金額8」欄の「審判所認定額」欄のとおりとなる。
B 本件各対象事業年度の法人税額
 本件各対象事業年度の国外移転所得金額の変更に伴い外国税額控除の金額を再計算すると、別表10の「控除外国税額12」欄のとおり、平成16年3月期及び平成17年3月期についてそれぞれ○○○○円及び○○○○円の外国税額の控除過大額が算出される。そして、本件各対象事業年度の法人税額を再計算すると、別表10の「差引合計法人税額13」欄のとおりとなる。
 そうすると、本件各対象事業年度に係る法人税の金額は本件各更正処分に係る法人税の金額を下回るから、本件各対象事業年度の各更正処分は、いずれもその一部を取り消すのが相当である。
ロ 平成19年3月期に係る更正処分
 請求人は、本件各更正処分のうち平成19年3月期の法人税の更正処分についても全部の取消しを求めているが、当該更正処分は当該事業年度の法人税額を減額させるものである。
 したがって、当該更正処分は請求人の権利又は利益を侵害するものとはいえず、その取消しを求める利益はないことから、当該更正処分に対する審査請求は請求の利益を欠くものとして却下する。

(5) 本件各賦課決定処分について

 本件各対象事業年度の各更正処分は、上記(4)のイの(ロ)のとおり、その一部を取り消すべきである。
 そして、過少申告加算税の基礎となった事実については、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない場合の正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、過少申告加算税の額は、いずれも本件各賦課決定処分の金額を下回るから、本件各賦課決定処分は、いずれもその一部を取り消すのが相当である。

(6) その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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