(平22.7.1裁決)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1) 事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成13年分ないし平成18年分の所得税の確定申告において、平成12年中に自己の居住の用に供する住宅に入居してその取得に要した借入金を有するから、租税特別措置法(以下「措置法」という。)に規定する所得税額の特別控除の適用を受けるとして、さらに、平成19年分の所得税の確定申告において、自己の居住の用に供していた住宅を譲渡して譲渡損失が生じたから、措置法に基づき、これを総所得金額から控除するという損益通算の特例の適用を受けるとして、それぞれ申告したところ、原処分庁が、請求人には当該住宅に居住した実態がないにもかかわらず当該住宅の所在地へ住民票上の住所を異動し、当該住民票を添付して確定申告書を提出したものであり、いずれの場合も措置法の適用を受けるものでないとして、かつ、原処分のうち、平成13年分、平成14年分及び平成16年分の所得税の各更正処分は、その各法定申告期限から更正の期限である3年を経過した日以後に行われたところ、これらの更正処分に係る国税は偽りその他不正の行為により税額を免れたものであって更正期限の伸長される場合にあたるとして、原処分を含む各更正処分を行うとともに、平成13年分、平成14年分、平成16年分、平成17年分及び平成19年分の所得税の確定申告において、措置法の各規定の適用に係る事実について仮装の行為があったとして、重加算税の各賦課決定処分を行ったことに対し、請求人が違法を理由に原処分の全部の取消しを求めた事案であり、争点は以下の3点である。

争点1 平成13年分、平成14年分及び平成16年分(以下「本件先行年分」という。)に係る所得税の確定申告において、偽りその他不正の行為があったか否か。

争点2 本件先行年分及び平成17年分の所得税の確定申告において、措置法第41条(平成13年3月法律第7号による改正前のものをいう。以下同じ。)《住宅借入金等を有する場合の所得税額の特別控除》における特別控除(以下「住宅借入金等特別控除」という。)に係る事実に関して仮装の行為があったか否か。

争点3 平成19年分の所得税の確定申告において、措置法第41条の5の2《特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除》第1項に規定する特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除(以下「居住用財産の損益通算等」という。)の適用に係る事実に関して、仮装の行為があったか否か。

(2) 審査請求に至る経緯

 審査請求(平成21年7月13日請求)に至る経緯は、別表1のとおりである。

(3) 関係法令

 別紙のとおりである。

(4) 基礎事実

 次の事実については、請求人と原処分庁との間に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、昭和60年9月2日に、E市e町○−○所在のマンション(以下、「本件マンション」といい、本件マンションの所在地を「本件マンション住所地」という。)を購入し、以後、平成21年3月14日に第三者にこれを売却するまで、本件マンションを生活の本拠としていた。
ロ 請求人の弟のF及び同人の妻のGは、平成7年5月に、両名の共有(各共有者の持分は、2分の1ずつである。)でH市h町○−○所在の土地付一戸建住宅(以下、「本件住宅」といい、本件住宅の所在地を「本件住宅所在地」という。なお、本件住宅の建物は、木造瓦葺2階建、延床面積126.47平方メートルである。)を取得し、以後、同人ら及びその家族が居住の用に供している。
ハ 請求人は、平成12年12月9日、F及びGより本件住宅を36,500,000円で買い受け、同月18日売買を原因として請求人を所有者とする共有者全員持分移転の登記申請手続を行い、同日付で同登記が経由された。
ニ 請求人とFは、平成12年12月9日付で、賃貸人を請求人とし賃借人をFとする本件住宅に係る不動産賃貸借契約を締結し、本件住宅は、上記ハの売買後も現在まで引き続いてF及びその家族が居住の用に供している。
 当該賃貸借契約の内容は、要旨以下のとおりである。
(イ) 賃料は月額○○○○円とし、月末に本件マンションに持参して支払う。
(ロ) 当該賃貸借契約に係る契約期間は、平成12年12月9日から平成32年12月9日までである。
ホ 請求人は、上記ハの売買契約に際して、平成12年12月11日に、債権者をL銀行、債務者を請求人とする金銭消費貸借契約に基づき、32,800,000円を借り入れていたところ、その借り換えのため、平成14年1月7日付で、M銀行に本件住宅に係る住宅借入金の申込みを行い、同年3月15日付で債権者をM銀行、債務者を請求人とする金銭消費貸借契約に基づき32,400,000円を借り入れ、L銀行からの借入金の返済に充てた。併せて、請求人は、同日付で、M銀行との金銭消費貸借契約について、委託者を請求人とし受託者をN社とする保証委託契約を締結した。そして、本件住宅について、平成14年3月15日付で、抵当権者をN社、債務者を請求人、被担保債権及び債権額を上記保証委託契約による求償債権32,400,000円とする抵当権設定登記が経由された。
ヘ N社は、上記ホの保証委託契約に基づき、M銀行と保証契約を締結していたところ、M銀行より請求人のM銀行に対する債務額26,827,926円について保証債務履行の請求を受け、平成19年2月26日付で履行した。
ト N社は、P地方裁判所に対して本件住宅について担保不動産競売の申立てを行い、平成19年9月○日付で担保不動産競売開始決定がされた。
チ 請求人は、平成19年12月22日付で、Gへ本件住宅を○○○○円で売却した。
リ 請求人は、上記ハの売買により平成12年中に本件住宅を取得し、新たに居住の用に供したとして、平成13年2月20日付で、平成12年分の所得税について住宅借入金等特別控除の適用を受ける旨の確定申告書をP税務署長に提出し、以後、平成14年分ないし平成17年分の所得税の確定申告書をP税務署長に、平成18年分の所得税の確定申告書を原処分庁にそれぞれ法定申告期限内に提出して住宅借入金等特別控除の適用を受けた。
 なお、平成13年分の所得税については、請求人の当時の勤務先において、住宅借入金等特別控除を含めて年末調整されたが、請求人は、法定申告期限が経過した後の平成15年3月14日付で、P税務署長に対して、住宅借入金等特別控除の適用を受ける旨記載した確定申告書を提出した。
ヌ 請求人は、平成19年分の所得税について、上記チの本件住宅の売却譲渡の際に特定居住用財産の譲渡損失が生じたとして、当該譲渡損失と他の所得金額とを損益通算して課税標準等及び税額等を算出し、原処分庁に法定申告期限内である平成20年3月2日付で確定申告書を提出した。
ル 請求人は、平成12年12月23日から平成19年12月22日までの間に、別表2のとおり、請求人自身の住民票上の住所を本件マンション住所地と本件住宅所在地の間で繰り返し異動させた。この結果、住民票の記載上、平成12年ないし平成18年の各年の12月31日時点での請求人の住所地は、本件住宅所在地となった。
 なお、請求人は、請求人の配偶者であるQ、子であるR及びSの住民票上の住所についても、別表2のとおり、本件マンション住所地と本件住宅所在地の間を異動させた。

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2 主張

(1) 争点1 本件先行年分に係る所得税の確定申告において、偽りその他不正の行為があったか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、本件住宅を取得した平成12年12月9日から本件住宅を売却した平成19年12月22日までの間、本件住宅を請求人の弟であるFに賃貸しており、自己の居住の用に供していなかったものと認められるから、本件先行年分の所得税において住宅借入金等特別控除の規定を適用することはできなかった。
 そして、請求人は、本件住宅に居住しておらず、自己の居住の用に供していないことが明らかであるにもかかわらず、本件住宅所在地に住民票上の住所を異動させ、これを自己の住所地として、住宅借入金等特別控除の適用を受けていたことは、本件先行年分の確定申告において、偽りその他不正の行為があったものと認められる。
 なお、請求人は、本件住宅を取得すると即座にこれをFに対して賃貸しており、当初から本件住宅を自己の居住の用に供しないことは明白であった。
 請求人が、本件住宅に居住した事実がないにもかかわらず住民票上の住所を異動させ、居住しているかのようにしたことは認めるが、以下の事情によれば、偽りその他不正の行為に該当するような悪質なものではない。
まる1 請求人は、平成12年12月に住民票上の住所を異動したときには実際に住むつもりであった。
まる2 請求人は、平成12年分の所得税の確定申告時からの相当期間において、実際に居住していなければ住宅借入金等特別控除の適用がないことを知らなかった。
まる3 請求人は、平成12年分の所得税の確定申告時の税務相談の際に、住宅借入金等特別控除を適用することができると言われたので申告をしたものである。

(2) 争点2 本件先行年分及び平成17年分の所得税の確定申告において、住宅借入金等特別控除に係る事実に関して仮装の行為があったか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、本件先行年分及び平成17年分の所得税について、本件住宅をFに賃貸し、居住の用に供していないにもかかわらず、本件住宅所在地に住民票上の住所を異動させ、これを自己の住所地として住宅借入金等特別控除の適用を受けていたことは、当該税額等の計算の基礎となる事実について仮装の行為があったものと認められる。  請求人は、本件先行年分及び平成17年分の所得税の確定申告において、本件住宅に居住した事実がないにもかかわらず住民票上の住所を異動させたが、これは上記(1)の争点1のまる1ないしまる3の事情によれば、重加算税を課されるような悪質な行為ではなく、仮装の行為ではない。

(3) 争点3 平成19年分の所得税の確定申告において、居住用財産の損益通算等の適用に係る事実に関して、仮装の行為があったか否か。

原処分庁 請求人
 請求人は、本件住宅を自己の居住の用に供していないことを十分に認識していたにもかかわらず、居住用財産の損益通算等の適用を受けるために、平成19年分の所得税の確定申告において、原処分庁に対し、「譲渡所得の内訳書」(以下「本件内訳書」という。)に本件住宅の利用状況として自己の居住用である旨記載して提出し、また、本件住宅所在地に居住していたことを証する書類としてその旨の記載がある住民票除票の写しを提出した。
 したがって、請求人の行為は、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を仮装したものと認められる。
 請求人が、本件住宅に居住した事実がないにもかかわらず住民票上の住所を異動させ、居住しているかのようにしたことは認めるが、以下の事情によれば、この行為は重加算税を課されるような悪質な行為ではない。
まる1 本件住宅を売却し、確定申告の相談に行った際に、売却して譲渡損が出たのであれば確定申告すれば3年間他の所得と合算できるといわれた。
まる2 請求人としては、平成19年分の確定申告の際、住宅借入金等特別控除と、居住用財産の損益通算等とは別の制度であり、自分で住んでいなければ住宅借入金等特別控除の適用を受けられないとしても、居住用財産の損益通算等の適用は受けられると思っていた。

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3 判断

(1) 争点1 本件先行年分に係る所得税の確定申告において、偽りその他不正の行為があったか否か。
争点2 本件先行年分及び平成17年分の所得税の確定申告において、住宅借入金等特別控除に係る事実に関して仮装の行為があったか否か。

イ 法令解釈
(イ) 措置法第41条第1項に規定する住宅借入金等特別控除の適用を受けるための要件として、同条第8項は、住宅借入金等特別控除について確定申告書に記載があり、かつ、省令で定めるところにより控除額の計算に関する明細書等の書類の添付がある場合に限る旨規定している。
 これを受けて、措置法施行規則第18条の21第12項は、住宅借入金等特別控除を初めて適用する際の要件の一つとして、住民票の写しを提出する旨定めているが、これは、住民基本台帳法の諸規定によって、その正確な記載が制度的に担保されていることが当然の前提とされている住民票の記載内容も含めた諸事情により、住宅借入金等特別控除の各種要件の一つである「自己の居住の用に供する」事実の存否を証明させる必要があるためであると解される。
(ロ) 措置法第41条第1項は、当該居住年以後6年間(当該居住年が平成11年又は平成12年である場合には、15年間)の各年について、引き続き年末まで居住の用に供していることを要件として、住宅借入金等特別控除の適用を認めているが、措置法第41条の2第1項は、住宅借入金等特別控除の規定の適用を受けた居住者がその居住の用に供する年の翌年以後について、その源泉徴収義務者である雇用者に対して住宅借入金等特別控除を受ける旨の申告書を提出すれば、年末調整の段階で住宅借入金等特別控除の規定の適用を受けることができる旨規定しており、措置法施行規則第18条の23第2項は、当該申告書に添付する必要のある書類として、「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」(以下「控除証明書」という。)を定めている。そして、措置法第41条の2第5項は、税務署長に対し、住宅借入金等特別控除の適用を受けた納税者より交付の申請があった場合に控除証明書を発行しなければならない旨規定している。
 なお、住宅借入金等特別控除の規定の適用を受けた居住者がその居住の用に供する年の翌年以後について、確定申告によって住宅借入金等特別控除の規定の適用を受ける際の添付を要する資料として住民票は含まれていない。
(ハ) 通則法第70条第5項は、「偽りその他不正の行為」によりその全部若しくは一部の税額を免れ、若しくはその全部若しくは一部の税額の還付を受けた所得税についての更正決定等は、その更正又は決定に係る所得税の法定申告期限から7年を経過する日まで、することができる旨規定している。
 ここでいう「偽りその他不正の行為」とは、単なる不申告ないし過少申告では足らず、ほ脱の意図をもって、その手段として税の賦課徴収を不能若しくは著しく困難ならしめるような何らかの偽計その他の工作を行うことをいうものと解するのが相当である。
 そして、上記(イ)のとおり、住宅借入金等特別控除を初めて受ける際には、住宅借入金等特別控除の各種要件の一つである「自己の居住の用に供する」事実の有無の判断のため住民票の提出が求められていること、上記(ロ)のとおり、翌年以後の住宅借入金等特別控除の適用要件に住民票の添付は法定されていないものの、これらの年分においても「自己の居住の用に供する」事実が適用要件とされている以上、その事実の有無に関する判断をする際に、正確な記載が制度的に担保されていることが当然の前提とされている住民票により住所の異動等についての調査をした上、これを判断することの必要性が何ら減少することがないと解されることなどによれば、虚偽の届出をして住民票に誤った記載をさせたり、これを前提に確定申告書に虚偽の住所地を記載するなどして居住の事実について虚偽の外形を作出し、住宅借入金等特別控除の適用により所得税額の軽減又は源泉所得税額の還付を受けることは、単純な過少申告行為の範ちゅうを超えて積極的な所得秘匿工作を行って税額を免れたものといわざるを得ず、偽りその他不正の行為に該当すると解される。
(ニ) 通則法第68条第1項及び第2項が定める重加算税の制度は、納税者が過少申告又は無申告について隠ぺい、仮装という不正手段を用いた場合に、単なる過少申告又は無申告よりも重い行政上の制裁を科することによって、悪質な納税義務違反の発生を防止し、もって納税申告制度による適正な徴税の実現を確保しようとするものである。
 したがって、重加算税を賦課するためには、納税者のした過少申告行為又は納税者の無申告等そのものが隠ぺい、仮装に当たるというだけでは足りず、過少申告行為又は無申告等そのものとは別に、隠ぺい、仮装と評価すべき行為が存在し、これに合わせた過少申告がされたこと又は無申告等を要するものであると解される。
(ホ) そして、上記(イ)の住宅借入金等特別控除の適用における住民票の位置づけ等も考慮すると、本来生活の本拠が正確に記載されるべき住民票について、虚偽の届出をして誤った記載をさせる行為は、住宅借入金等特別控除の適用による所得税額の計算において、重加算税を課する要件である国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装行為(通則法第68条第1項及び第2項)に該当し、初めて住宅借入金等特別控除の適用を受ける際のみならず、翌年以降についてもこれに基づき納税申告書を提出すれば、通則法第68条第1項及び第2項が定める重加算税賦課の要件に当たると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 請求人の申告関係
A 請求人がP税務署長に対して提出した本件先行年分の所得税の確定申告書には、いずれも、「住所」欄には本件住宅所在地が、「電話番号」欄には本件住宅に設置されたFが使用している電話番号(以下「本件電話番号」という。)が、さらに、「住宅借入金(取得)等特別控除」欄には○○○○円の住宅借入金等特別控除額がある旨記載されている。
B 請求人の平成17年分の所得税の確定申告書の「住所」欄には本件住宅所在地が、「住宅借入金等特別控除」欄には○○○○円の住宅借入金等特別控除額がある旨が記載されている。
C 請求人の平成13年分の所得税の確定申告書には、上記1の(4)のリのとおり、請求人の当時の勤務先が発行した平成13年分給与所得の源泉徴収票(以下「本件源泉徴収票」という。)が添付されており、住宅借入金等特別控除額を含めて年末調整されている。
 また、請求人の平成14年分及び平成16年分の所得税の確定申告書の添付書類の中には、上記Aの記載内容と整合する控除証明書、上記1の(4)のホの住宅借入金に基因するM銀行発行の「住宅取得資金に係る借入金の年末残高証明書」(以下「年末残高証明書」という。)ないし請求人が平成12年12月2日に本件住宅に居住した旨記載された住宅借入金等特別控除額の計算明細書(以下「本件明細書」という。)がある。
D 請求人の平成17年分の所得税の確定申告書には、年末残高証明書等が添付されていた。
(ロ) 住民票上の住所の異動ないし申告書の記載内容について
 請求人の当審判所に対する答述等から、以下の事実が認められる。
A 請求人は、L銀行からの本件住宅に係る借入金について、請求人が本件住宅に居住しないと融資をしてもらえず、本件住宅に係る借入金の融資実行後速やかに住民票上の住所を本件住宅所在地へ異動させてL銀行に提出するよう求められていたため、平成12年12月23日付で請求人及びその家族全員の住民票上の住所を本件住宅所在地へ異動させた。
 また、請求人は、本件住宅所在地からすぐに住民票上の住所を異動させてしまうと、L銀行から住宅借入金の契約を解除等されてしまうと考え、請求人の住民票上の住所を本件マンション住所地へ戻さなかった。
B 請求人は、住宅借入金等特別控除の適用を受けるため、平成12年以降請求人の住民票について、必ず12月31日、1月1日時点での住所地が本件住宅所在地となるように異動させた。例えば、請求人は、平成13年12月11日付で請求人及びQの住民票上の住所を本件住宅所在地から本件マンション住所地に異動させたが、同月23日付で再び本件住宅所在地に異動させた。当該異動の理由は、住宅借入金等特別控除の適用要件を満たすためであり、さらに、確定申告書の「1月1日の住所」欄に本件住宅所在地を記載するためであった。
 なお、例えば、平成14年9月5日付で請求人及びQの住民票上の住所を本件住宅所在地から本件マンション住所地に異動させ、その後すぐに本件住宅所在地に再度異動させる等の行為をしているが、これは請求人の再就職のために住民票を提出する必要であった等の理由によるものである。
 また、請求人の家族の住民票については、子のR及びSの住所を同人らの海外留学のためのパスポート取得の必要性から平成13年5月15日付で本件マンション住所地に異動させたが、その後同人らの住民票上の住所を本件住宅所在地に異動させることはなかった。その後、当初は請求人の住民票上の異動と一致させていた妻のQについても、平成14年12月16日以降は本件マンション住所地が住民票上の住所となっている。
C 請求人は、課税庁に対して請求人が本件住宅所在地に居住していると見えるようにするため、平成13年分以降の所得税の確定申告書の「電話番号」欄に本件電話番号を記載した。
ハ 判断
(イ) 本件先行年分に係る所得税の確定申告において、偽りその他不正の行為があったか否か(争点1)及び本件先行年分及び平成17年分の所得税の確定申告において、住宅借入金等特別控除に係る事実に関して仮装の行為があったか否か(争点2)。
A 上記1の(4)のイないしニ及びチのとおり、請求人は本件住宅を取得した平成12年12月以降、本件住宅を売却した平成19年12月までの間、本件マンションを居住の用に供していたこと及び本件住宅はその間F及びその家族が居住の用に供していることが認められるのであるから、請求人は、平成12年12月以降平成19年12月までの間、本件住宅を「自己の居住の用」に供していたとは認められず、平成12年分以降平成18年分までの所得税において住宅借入金等特別控除の適用を受けることはできなかったものと認められる。
B しかしながら、請求人は、本件住宅に居住の事実がないにもかかわらず、上記1の(4)のリ並びに上記ロの(イ)のA及びCのとおり、平成12年分の所得税について、住宅借入金等特別控除の適用を受ける旨の確定申告書をP税務署長に提出していること、平成13年分の所得税について、請求人の当時の勤務先において住宅借入金等特別控除を含めた年末調整がされていること及び上記イの(ロ)のとおり、住宅借入金等特別控除を含めた年末調整はすでに住宅借入金等特別控除の適用を受けた場合にのみ認められるものであることからすると、平成12年分の所得税の確定申告において、住宅借入金等特別控除の適用を受けたものと認められる。そして、上記ロの(ロ)のA及びBのとおり、請求人が、実際に居住していなかったにもかかわらず、平成12年分の所得税の確定申告受付期間に先立つ平成12年12月23日付で請求人及びその家族の住民票上の住所を本件住宅所在地に異動させる等の届出をして、これらの住民票に居住していない本件住宅所在地が住所である旨の記載をさせたこと、及び、上記イの(イ)のとおり、住宅借入金等特別控除の適用を受ける際には、住民票の添付が要件とされていることによれば、請求人は、客観的には虚偽の内容が記載された請求人の住民票を基に平成12年分の所得税の確定申告において住宅借入金等特別控除を受けたものと認められる。
C そして、請求人の本件先行年分及び平成17年分の確定申告時においても、上記Aのとおり、請求人は、本件住宅を「自己の居住の用」に供していないことから住宅借入金等特別控除の適用を受けることができないにもかかわらず、上記1の(4)のリ及びル並びに上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、住宅借入金等特別控除の適用を意図して、課税庁に対し請求人が本件住宅所在地に居住しているように装うため、上記Bの行為に加えて、請求人の住民票上の住所の記載を本件住宅所在地とするべく住民票上の異動を繰り返し、本件先行年分の所得税の確定申告書には本件住宅所在地、本件電話番号及び住宅借入金等特別控除額欄の金額を、平成17年分の所得税の確定申告書には本件住宅所在地及び住宅借入金等特別控除額欄の金額をそれぞれ記載し、平成13年分については住宅借入金等特別控除額を年末調整の計算に反映させた本件源泉徴収票等を、その他の年分についてもこれと整合する各種書類を添付して、これらをP税務署長に提出して住宅借入金等特別控除の適用を受けたのであり、当該請求人の行為は、住宅借入金等特別控除の要件の一つである「自己の居住の用に供した」事実について虚偽の外形を作出したものと認められるとともに、税額等の基礎となるべき事実を仮装した行為に当たる。
 以上の事実を上記イの(ハ)及び(ホ)に照らすと、請求人は、本件先行年分の確定申告に当たり、居住していない本件住宅につき住宅借入金等特別控除の適用がないことを知っていながら、住宅借入金等特別控除の適用を意図して本件住宅所在地に居住しているように虚偽の外形を作出する等の偽りその他不正の行為をしたものと認められるとともに、本件先行年分及び平成17年分の確定申告において、税額等の基礎となるべき事実を仮装し、その仮装したところに基づいて確定申告をしたものと認めることができる。
(ロ) 請求人の主張について
 請求人は、まる1平成12年12月の住民票異動時には本件住宅に住むつもりであったこと、まる2少なくとも平成12年分の所得税の確定申告時には住宅借入金等特別控除の適用がないことを知らなかったこと及びまる3当該確定申告時の税務相談において住宅借入金等特別控除の適用ができる旨を告げられたためこれに沿った申告をしたとの事情から、請求人の住民票上の住所を異動させた行為等は偽りその他不正の行為にも「事実の仮装」にも該当しない旨主張し、これに沿う答述をする。
 しかしながら、上記まる1の主張である平成12年12月の住民票上の異動時に請求人が本件住宅に居住する意思を有していたこと、又は、上記まる2の主張である平成12年分の所得税の確定申告時において、請求人が住宅借入金等特別控除の適用がないことを知らなかったことをもってしても、上記(イ)のCのとおり、請求人は、本件先行年分の各確定申告時には居住していない本件住宅につき住宅借入金等特別控除の適用がないことを知っていながら、住宅借入金等特別控除の適用を意図して、課税庁に対し請求人が本件住宅所在地に居住しているように装うために更なる住民票上の住所の異動等を行っているのであるから、請求人の本件先行年分における偽りその他不正の行為の存在を左右するものではない。そして、請求人自身も当審判所に対し、当該相談時においては家を買い、住宅ローンがあるとしか言っていない旨を答述するなどしていることからすると、本件の全証拠をもっても、上記まる3の主張である相談担当者が請求人に対して居住の事実がなくとも住宅借入金等特別控除の適用がある旨の指導等を行ったとの事実を認めるに足りない。
 以上のことから、請求人の上記主張は採用することができない。

(2) 争点3 平成19年分の所得税の確定申告において、居住用財産の損益通算等の適用に係る事実に関して、仮装の行為があったか否か。

イ 法令解釈
 措置法第41条の5の2第1項は、個人が平成16年分以後の各年分の譲渡所得の金額の計算上生じた特定居住用財産の譲渡損失の金額がある場合には、その譲渡損失の金額については、その年の総所得金額から控除するという損益通算の特例を認める旨規定しており、同法第2項は、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の規定の適用を受けようとする年分の確定申告書に当該規定の適用を受けようとする旨の記載があり、かつ、省令で定めるところにより住民票、計算明細書等の書類の添付がある場合に限り、適用される旨規定している。
 これに、上記(1)のイの住民票の位置づけ及び重加算税の趣旨等を考え合わせると、本来生活の本拠が正確に記載されるべき住民票について、虚偽の届出をして誤った記載をさせる行為は、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の規定の適用による所得税額の計算において、重加算税を課する要件である国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の仮装行為に該当すると解するのが相当である。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ) 確定申告書の記載内容について
 請求人の平成19年分の所得税の確定申告書には、その第3表の「特例適用条文」欄に措置法41条の5の2第1項による控除である旨が、また、「分離課税の短期・長期譲渡所得に関する事項」の「所得の生ずる場所」には本件住宅所在地が、「差引金額(収入金額−必要経費)」欄には、損失額を意味する「△○○○○」が記載されている。
(ロ) 添付資料の記載内容について
 請求人の平成19年分の所得税の確定申告書に添付された本件内訳書には、譲渡した本件住宅の利用状況について申告する「利用状況」欄に「自己の居住用」「貸付用」等の選択肢が不動文字で記載されているところ、「自己の居住用」欄にチェックがなされている。
 また、同じく添付された発行日を平成20年3月1日とする本件住宅所在地に係る住民票除票の写し(以下「本件住民票除票」という。)には、請求人が平成14年12月20日を転入日として本件住宅所在地に転入し、平成18年9月5日を転出日として本件マンション住所地へ転出した旨の記載がある。
 さらに、同時に提出された「特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例(措置法41条の5の2)チェックシート」と表題のある文書(以下「本件チェックシート」という。)は、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例に係る適用要件の存否により同特例の適用の適否が確認できるよう、質問事項に対して「はい」及び「いいえ」の矢印に進むことにより判定することができるものであるところ、「4 あなたは、売却したマイホームにお住まいでしたか?」との質問に対し、「はい」に丸印がつけられている。
(ハ) 請求人の当審判所に対する答述から認められる事実
 平成19年分の確定申告書に添付して提出した書類は、申告会場の相談担当者に教えてもらいながらすべて請求人自身が記載したものである。なお、本件内訳書の記載内容に関しては、相談担当者に対して、住宅借入金が払えなくなったため家を売ったとしか説明しておらず、「自分が住んでいなかった」とか、「賃貸に出している」などの説明はしなかった。
ハ 判断
(イ) 上記1の(4)のイないしニ及びチのとおり、請求人が平成12年12月以降、平成19年12月までの間、本件住宅を「自己の居住の用」に供していないことによれば、請求人の平成19年分の所得税の確定申告において、居住用財産の損益通算等を適用して課税標準等及び税額等を算定することはできなかったものと認められる。
(ロ) そして、上記1の(4)のリ及びル、上記(1)のロの(ロ)のA及びB並びに上記ロの(イ)及び(ロ)の事実によれば、請求人は、遅くとも平成13年12月以降、本件住宅所在地が真正の住所地ではないことを十分に理解していたにもかかわらず、居住用財産の損益通算等の適用を受けるために本件住宅所在地に住民票上の住所を異動させ、居住用財産の損益通算等の適用を前提とする平成19年分の所得税の課税標準等及び税額等を算定して同年分の所得税の確定申告書に記載し、請求人が居住していない本件住宅所在地の記載がある本件住民票除票等の書類を添付して原処分庁に提出していたものと認められる。
 これらの請求人の行為を、上記イの解釈に照らすと、請求人は、平成19年分の所得税の申告において、その課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実、すなわち、居住用財産の損益通算等の適用要件の一つである本件住宅を「自己の居住の用」に供した事実を仮装したものと解するのが相当である。
(ハ) 請求人の主張について
 請求人は、まる1平成19年分の所得税の確定申告の相談に行った際、本件住宅を売却して譲渡損が出たのであれば確定申告をすれば3年間他の所得と合算できると言われたこと及びまる2平成19年分の確定申告の際に、自分で住んでいなければ住宅借入金等特別控除の適用を受けられないとしても、居住用財産の損益通算等の適用は受けられると思っていたことから、住民票上の住所を異動させた行為は重加算税を賦課されるような悪質な行為ではない旨を主張しており、これは上記イ記載の仮装行為に当たらない旨の主張と解される。
 しかしながら、上記ロの(ハ)のとおり、請求人は、平成19年分の所得税の確定申告相談に赴いた際に、自ら、本件内訳書等の当該年分の所得税の確定申告書添付の書類を作成しているところ、請求人は自ら、「自己の居住用」欄にチェックを行い、さらに、特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例に係る適用要件の存否について、「4 あなたは、売却したマイホームにお住まいでしたか?」との質問に対し、「はい」に丸印をつける等の記載がされた本件チェックシートと共に、居住用財産の損益通算等の適用を前提として課税標準及び税額が計算された平成19年分の所得税の確定申告書を提出したものと認められるところ、請求人がこれらの行為を行う際には、居住用財産の損益通算等の適用を受けるためにはその譲渡した財産が自己の居住用の財産でなければならないことを当然に認識したものと解されることから、上記まる2の主張はこの点で理由がない。
 そして、請求人は上記まる1の主張に沿う答述をするが、上記ロの(ロ)の平成19年分の所得税の確定申告書の添付書類の内容及び同(ハ)の請求人が相談の際に相談員に述べた内容を考慮すると、当該答述を含めた本件の全証拠をもってしても、相談会場の担当者が請求人に対し、本件住宅に居住していなくても特定居住用財産の譲渡損失の損益通算の特例の適用がある旨の説明を行った事実を認めるに足りず、これを前提とする請求人の上記まる1の主張は採用することができない。

(3) まとめ

 以上によれば、原処分庁が通則法第70条第5項の規定に基づき、各所得税の法定申告期限(最も早い平成13年分について平成14年3月15日)から3年を経過したのち7年を経過するまでの間に行った請求人の本件先行年分に係る更正処分並びに通則法第68条第1項の規定に基づき行った請求人の本件先行年分、平成17年分及び平成19年分の所得税に係る重加算税の賦課決定処分はいずれも適法である。
 なお、平成13年分の所得税について、上記1の(4)のリのとおり、請求人は、平成15年3月14日にP税務署長に対して期限後申告書を提出し、原処分庁は、その後に更正処分を行っており、請求人は、事実を仮装し、仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出していないものと認められるところ、本来であれば、通則法第68条第2項の規定の適用により、請求人には無申告加算税に代え、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に100分の40の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を課するのが相当である。他方、原処分における平成13年分の所得税の重加算税の賦課決定処分においては、通則法第68条第1項の規定を適用して加算税の額の計算の基礎となるべき税額に100分の35の割合を乗じて計算した金額に相当する重加算税を賦課しているが、これにより請求人は何ら不利益を受けるものではないから、原処分における平成13年分の所得税の重加算税の賦課決定処分において、通則法第68条第1項を適用したことに同処分を取り消すべき違法はない。

(4) 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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